あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ラスボスだった使い魔-10


 ―――知らない場所の夢を見ている。
 いつもの……普通の夢と違うのは、これが『夢だ』とハッキリ自覚が出来る点だった。

「私は地球で起きる怪奇現象を調査しています。
 最近頻発する怪奇現象は、地球の環境汚染が原因だと思っています。大気を浄化し、環境を再生すれば……怪獣の出現も減るはずです」

 妙な丸い兜を被り、黄色い服を着込んだ人々に、自己紹介をする男。
 ……その顔にはまったく見覚えがないのに、その声は自分がよく知っている人間の声だった。

「そうか……また新たな『光の巨人』が現れたか。
 私は運が良い……彼らの種族を2人も確認出来るとはな……」

 夢を見ている自分の知識にない文字で書かれた、様々な観測結果。
 それを見ながら、男は自分が『彼ら』に対して強く興味を惹かれるのを感じていた。

「馬鹿な……私の大気浄化弾が……電磁霧を発生させるとは……。……この星の大気は一体どうなっているんだ!?」

 周囲の反対も、事前の実験も無視して強引に行った浄化。

「私は……間違っていない。私はこの星のために……あれを使ったんだ……美しい自然を守るために……」
「……だからと言って、何をしてもいいってわけではないんです」
「……私は間違っていない……間違っていない……ただ、レーダーが使えなくなっただけではないか……」
「そのせいで人が大勢死んでもいいって言うんですか!?」

 それが引き金となり、守るはずだったものを危機に晒してしまった。
 だが……。

「お前も私を責めに来たのか? 私に罪はない。あるとすれば、地球の大気をあそこまで汚染した人間の方だ。
 ……もうこの星の自然は崩壊寸前なのだ。一刻も早く汚染された大気を浄化しなければならなかったのだ!」

 男は、本当に自分は間違ってはいないと思っている。
 そもそも守るはずのものを汚していたのは、そこの住人たちではないか、と。

「私は地球に残る。まだ大気の浄化を諦めたわけではない。それにこの星には他にも面白い研究対象があるからね……」

 扉越しの会話を終え、男は誰もいない壁に向かって自分の本心を吐露し始めた。

「……ギャバン、浄化するのは地球の大気だけではないのだよ。浄化の対象には地球人も含まれているのだ……。
 地球人の凶暴性、ウルトラマン、そしてデビルガンダム……私の汚名を返上するには最高の素材だ……。
 クククク……全宇宙に私の才能を示してやる……」

 そうだ、あの地を汚した人間こそが、本当の浄化の対象……。

 ―――男の気持ちは、少なからず分かる。
 自分の住んでいる世界にも、どうにもならないほど愚かな人間は幾らかは存在している。
 だが、だからと言ってそこに住む人間全員を粛清する、というのは……。

「私より、ウルトラマンにでも頼んだ方が良いのではないか? 彼は地球の救世主だ。きっとこの事態を何とかしてくれるだろう」

 人間よりも遥かな高みに存在する、超常の存在。
 この段階で、男は自分が『彼ら』に強烈に憧れていることを実感していた。

「私を責めるのはいいが、地球の大気をここまで汚染した責任はどう取るのかね、地球人の諸君!?」

 このような愚かな人間などよりも、ずっと素晴らしい者たち……。

「ハハハ! それはいい! ウルトラマンに支配されれば、地球の環境は破壊されずに済む!
 自分の星すら満足に守れない、他力本願で自分勝手な地球人にはふさわしい支配者だ!」

 『彼ら』であれば、『彼ら』の力を使えば、『彼ら』の力を使うことが出来れば……。

「……怪獣ならば同胞でも殺す。やはり地球人は凶暴な種族だ。この美しい地球には相応しくない生物だ……」

 この愚かで凶暴な者たちを一掃し、自分が求める世界を……。

「……ETFの総攻撃が始まったか……。……私は……このまま……TDF基地の独房で朽ち果てるのか……?
 ……屈辱にまみれたまま……こんな所で終わるのか……」

 この地で見つけた崇高な存在にも届かず、自分が本来果たすべきだった目的も果たせず、何よりも本当の『汚染の原因』も一掃出来ずに、終わってしまうのか。

「あ、ああ……わ、私の手が……足が……!
 か、顔が……顔が……!
 ……私の顔が……あああ……!!」

 激痛が男の全身を襲う。
 命の灯は、消える寸前だ。
 だが、救いは意外な所から差し伸べられる。

「……誰だ、お前は……? ……確か……ETFの、ザラブ……星人……?」

 本来ならば自分たちとは敵対している存在。
 それが、男を助けた。
 ―――そして、男は、


「―――――っ、ぅ……?」
 目が覚める。
 よく見慣れた、魔法学院の中にある自分の部屋だ。
 時計を見ると、午前6時。使い魔は……どうやら洗濯に行っているらしく、部屋にはいない。
「……なに、今の夢?」
 まったく知らない場所を舞台にして、まったく知らない人間を主役にした演劇を見せられているような感覚だった。
 ―――あんなグロテスクな終わり方をするなど、三流以下もいいところだが。
 しかし、あの『声』は……。
「でも、顔が全然違ってたわよね……」
 おまけに、まとっている雰囲気がかなり違う。
 あの『主役』には全然余裕がないというか、えらく感情的なのである。
「う~~ん…………ま、いっか」
 あれこれ考えても始まるまい。 
 そんなことより、今は二度寝を楽しむべきだろう。
「うぅ~……ん、二度寝ってなんでこんなに気持ちいいのかしらぁ~……」
 ……ルイズは、自分が見た夢の意味も、価値も、夢の主役であった男の苦悩も、知らない。


 ドガァアアアアーーーーーーーーーーンンン!!!!
 中庭に、また爆発音が盛大に響く。
 ……そう、『また』である。
 何度やっても、爆発、爆発、爆発。
 どうしてこう、自分の魔法は爆発しか引き起こさないのだろうか。
「……………」
 今頃、表の方では使い魔品評会の真っ最中だ。
 優勝候補は、立派な風竜を召喚したタバサあたりだろうか。
 まあ、出場していない自分にとってはどうでもいい。
「……………」
 教師に『辞退したいのですが』と言ったら、当然ながら『駄目です』と言われたが、エレオノールがわざわざ文書で辞退させてくれるように頼んだらしい。
 ……実際には、ほとんど命令に近かったようだが。
 家名とかをチラつかせたのだろうな、などと大まかな予想は立てられるが、実際のところはどうだか分からない。
 アンリエッタ姫殿下にお目通り出来ないのは残念だが、自分の無能ぶりを大々的にアピールすることにもなりかねない。
 と言うか、そうなる可能性がかなり高い。
「……………」
 それはさておき、爆発である。
 自分から少し離れたところで黙々と本を読んでいる使い魔に聞けば、この爆発についての意見くらいは色々と聞けるかもしれないが、なんだかそれは―――何かに、負ける気がする。
「………うーん」
 だが、ただ魔法の失敗を繰り返して爆発を連発させるだけでは、あまりにも意味がない。
 なので、ここは使い魔にならって『考察』などをしてみようと思い立った。
 ……参考と言うか、盗めるところは、盗むべきなのである。
「さて、と……」
 何度か失敗の爆発を繰り返して、判明したことが1つだけある。
 それは、意識を集中すれば集中するほど、爆発の規模や威力が増していくということだ。
 よくよく考えてみると、今まで『爆発の理由』を考えたことはあったが、『爆発そのものの分析』はしたことがなかったと気付く。
 もう一度、『ファイヤーボール』を使ってみる。……結果はやはり、爆発。
 しかし。
「……焦げた跡がないわ」
 爆発跡を観察してみると、中心からかなりの勢いで『拡散』したことが分かるのだが、その中心に焦げ跡がない。
 つまり、衝撃があっても熱がない……ようだ。もしかしたら、焦げ跡も含めてどこかへ飛んでしまっているのかもしれないが。
 だが、焦げ跡が少しも残らない爆発など、少なくとも自分は聞いたことがない。
 それ以前に、自分のコレは本当に『爆発』なのだろうか?
 そもそも『爆発』とは何だろうか?
 対象が弾け飛んで、衝撃があって、煙がたくさん出て―――

 うむむむ~、と自問自答しながら唸っていると、
「あー、これはまた派手にやったわねぇ」
 と、聞き覚えがあって聞きたくない声が聞こえてきた。
「……何の用よ、ツェルプストー―――と、タバサ」
 ジトっと赤い髪の仇敵に視線を向けると、彼女の友人である青い髪の少女も目に入ったので、慌てて名前を付け足すルイズ。
「なーんか、こっちの方からドッカンドッカン爆発音が聞こえるもんだから、ちょっと見物にね」
「品評会はどうしたのよ?」
「もうあたしたちの番は終わったわよ。あとは残りの連中と審査だけ。ま、ただ待ってるのも暇だし」
 言い終わると、キュルケは視線をルイズから中庭へと移した。そして改めて惨状を確認してから、告げる。
「……これだけやっちゃうと、お説教じゃ済まないわよ?」
「いいのよ、どうせ土系統の魔法でも使えばチョチョイのチョイなんだから」
「適当って言うか、大雑把な考え方ねぇ」
「……そのセリフ、アンタにだけは言われたくないわ」
 ルイズとキュルケの間に、剣呑な空気が漂う。
 一方のタバサは、そんな二人のやりとりに頓着もせず、立ちながら本を読んでいた。
「そう言えばルイズ、あなた品評会に出なかったわよね?」
 う、とルイズが言葉に詰まる。
「なんでも、家の方から直々に辞退させるように頼んだらしいじゃない? あんな平民をお姫様の前に出すのが恥ずかしくて家に頼んだのか、それとも家から全力で止められたのか……」
 ニヤつきながら言葉をつむぐキュルケだったが、『家から全力で止められた』のあたりでルイズの身体がピクンと動いたことを見て、
「え? 何? もしかして本当に家から止められたの?
 あっはっは! さ、さすがはトリステインでも屈指の名門のヴァリエール家、プライドの高さもトリステイン屈指ってわけ!?」
 腹を抱えて笑い始めた。
「まったく、そんなだから先祖代々、恋人をウチに寝取られるのよ」
 そのキュルケの言葉に、再びルイズはピクンと反応する。
「……ちょっと待ちなさい、ご先祖様は関係ないでしょ!?」
「はあ? 何言ってるのよ、プライドばっかりムダに高くって、ちょっとつついたら必要以上に熱くなって、短気なところなんて、まさにヴァリエールの血筋そのものじゃないの」
 『あ、嫉妬深いって特徴もあったわね』などと呟くキュルケに向かって、ルイズは震える声で、しかし冷ややかに提案する。
「ツ、ツェルプストー、いい加減にわたしたちの代で、この因縁も終わりにしない?」
「へぇ、決着をつけようってこと?」
「そうよ」
 ギチギチと目に見えない圧力で空間が張り詰めていく。
「ああそれと、一つだけ言っておきたいことがあるんだけど」
「何?」
「あたし、先祖のこととか全然関係なく、個人的にあんたのことが大っ嫌いなのよ」
「奇遇ね、わたしもよ」
「気が合うわね」
 うふふと笑いあう二人。
 そして次の瞬間、二人は同時に宣言した。
「「決闘よ!!」」

 爆風が舞う。
 炎が踊る。
 ドッカンドッカン、ボワボワボワという感じで、衝撃と熱が中庭に充満していた。
(……何をやっているのだ、あの二人は?)
 そんなルイズとキュルケが巻き起こす戦闘の音に、ユーゼスは本から視線を上げて様子を確認する。
(…………まあ、死ぬことはないか)
 あのツェルプストーという女も、そのあたりの加減は分かっているだろうし、ルイズの爆発が直撃するほど鈍いとも思えない。
 見ようによっては、ただ『からかって遊んでいるだけ』にも見える。
(そんなことより、今はこの本に集中しなくてはな)
 爆音と燃焼音をBGMに、本を読み進めようとするユーゼス。
 さてどこまで読んでいたか、と再び視線を本に落とそうとすると、視界の隅に小さな人影が見えた。
「?」
「………」
 青い髪の少女、タバサである。
 タバサはユーゼスの隣に座ると、持参していた本を黙って読み始めた。
(……存在感の薄い人間だな。……む、この髪の色は……)
 髪の色を見て、この少女がアインストと戦っていたことを思い出す。
 しかし、だからと言って自分に関係があるかと言うと、そうでもない。
 つまり、ユーゼスとしてはこのタバサという少女は、どうでもいい存在であった。
 ……なお、それはタバサの側からしても同様である。
「………」
「………」
 御主人様と友人の決闘にほとんど気を向けず、無言で本を読み続けるユーゼスとタバサ。
 と、不意にタバサからユーゼスに声をかけられた。
「……その本」
 声に反応してタバサの方を見ると、ジッと自分の読んでいる本に注目している。
「これがどうした?」
「どんなことが書いてあるの?」
「魔法に関しての本だ。アカデミーにツテがあったのでな。……そちらは?」
 ついでとばかりに、ユーゼスもタバサが読んでいる本に関して質問した。
「哲学書」
「そうか」
 それきり、読書に戻る二人。

「………」
「………」
「こっの、大体アンタねぇ、引っ切り無しに男を部屋に連れ込んでんじゃないわよ、この淫乱女!!」
「ハッ! 女の情熱を理解が出来ないなんてかわいそうね、この処女!!」
「んなっ……、わたしはどこかの誰かみたいに、自分を安売りしたりはしないのよ!!」
「あらあら、誰からも相手にされない女は言うことが違うわねぇ~?」
 どうでもいいが、戦闘音やルイズとキュルケの口喧嘩がうるさい。無視しようと思えば、無視が出来るレベルだったが。
 しかし、いい加減に集中の邪魔になり始めた時、小さな呟きと共に、スッとタバサが杖を振る。
 すると、世界から音が消えた。
(……風属性の『サイレント』か)
 本から得た知識によって、すでに大体の魔法は頭の中に入っている。
 しかし音を―――空気の振動だけを抑制する魔法とは、なかなか興味深い。
 普通に考えれば『空気を固定』しているわけだから、呼吸や行動そのものが不可能になりそうだが、可聴域の振動のみを抑制しているのだろうか?
(後々、この『サイレント』について深く考察してみるか……)
 それにしても便利な魔法だ、などと感想を抱きながら、ユーゼスは読書に集中する。

 無音の世界でしばらく読書を行っていると、地面が揺れる感覚がした。
 おそらく、決闘が白熱しているのだろう。

 更に読書を行っていると、小さな土のカケラが飛んできた。
 おそらく、決闘がかなり白熱しているのだろう。

 より理解を深めるため、もう一度最初から読書を行っていると、いきなり誰かに本を取り上げられた。
 ついで、頭に衝撃。
 ……前を見ると、怒った形相のルイズが杖を片手に、何かをわめき散らしている。
 しかしタバサの『サイレント』が効いているため、その声は全く伝わらない。
 横を見てみると、タバサもまたキュルケに本を取り上げられて何か言われているようだったが、自分と同じく声が伝わっていない。
 しかし、二人とも土やホコリで随分と汚れている。
 どうやら、決闘はかなり盛り上がったようだ。
「………」
「………」
 顔を見合わせるユーゼスとタバサ。
 仕方ない、とでも言いたげにタバサは杖を振り、『サイレント』が解除される。
「……いきなり何をする?」
「アンタ、何やってんのよ!? 御主人様が危機に陥ってたってのに、全然知らんぷりでタバサと一緒に本なんか読んで!!」
「危機? ……決闘で負ける寸前にでも追い詰められたのか?」
「違うわよ!!」
 『使い魔失格』、『そもそも敬意が足りない』、『役立たず』などの言葉が飛ぶが、何が起こったのか今ひとつ要領を得ない。
 仕方がないので、御主人様を無視してキュルケに尋ねることにした。
「何があった?」
 ユーゼスの問いに、キュルケは切迫した様子で、
「30メイルくらいのゴーレムが出たのよ、ゴーレムが!」
 そう答えたのだった。

 いくら中庭と品評会の会場とが離れているとは言え、30メイルものゴーレムが学院内を闊歩するという事態に気付かないわけもなく、アンリエッタ王女つきの王宮のメイジや兵士も交えて実況検分が行われた。
 とは言え、ハルケギニアの技術力で科学捜査などを用いた証拠の押収などは不可能であり、判明したのは実行犯が『土くれ』のフーケと名乗る盗賊であることのみ。
 なお、品評会の優勝者は大方の予想通りタバサであったが、それどころではなくなってしまったため、『いるような、いないような』という曖昧な結果となった。
 また、実況見分を野次馬に紛れながら眺めている最中、ルイズがアンリエッタ王女と会話を交わす一幕が見られたが、ユーゼスにとってはどうでもいいことだったので、その会話の内容は分からない。

 そして、王宮の面々が引き上げた夕刻過ぎ。
 ユーゼスも含めて、事件現場にいたルイズ、キュルケ、タバサが改めて学院長室に集められた。
 他にも、学院中の主要な教師たちが集合している。
「―――で、犯行の現場を見ていたのが君たちかね」
 オスマンが3人の少女を見回した後、じっとユーゼスを見つめる。
(この目……気に入らんな)
 観察や値踏みをするような視線ならばともかく、『奥にある何か』を見透かそうとする視線だった。
 まるで『お前の正体に心当たりがあるぞ、真の力を早く見せろ』とでも言われているようである。
 『自分以外のユーゼス・ゴッツォ』でもあるまいし、そのように存在するのかしないのか不確定な事象を引き出そうとするのは、『このユーゼス・ゴッツォ』とはスタンスが異なる。
 とは言え、睨み返しても得る物は何もないので、我関せずとばかりにその視線を受け流すユーゼスだった。
「では、詳しく説明したまえ」
 つ、とユーゼスから視線を外すと、オスマンは状況の説明を求める。
 それにルイズが応え、その時の状況を語り始めた。
「……えーと、わたしとそこのミス・ツェルプストーが中庭で『談笑』している時に、いきなりゴーレムが現れて、宝物庫の壁を壊したんです」
「『談笑』?」
 ユーゼスが疑問をそのまま口に出したら、キュルケにコッソリと、しかし力強くヒジで小突かれた。
 ……そう言えば貴族同士の決闘は禁止されていたのだったな、などと思い出す。
「それで、肩に乗ってた黒いローブのメイジが、宝物庫の中から何かを盗み出して―――」
 ゴーレムは城壁を越え、土になって崩れた。後には土しか残っていなかった。黒いローブのメイジの姿は消えていた。
「ふむ……」
 つまり、追おうにも手掛かりがない。
「……おや、そう言えばミス・ロングビルはどうしたね?」
「それがその……、事件が発生した直後から、姿が見えませんで」
「この非常時に、どこに行ったのじゃ?」
「……どこなんでしょう?」
「…………まさかとは思うが、ミス・ロングビルが『土くれ』のフーケじゃった、などという線はなかろうな。少々、姿をくらませるタイミングが良すぎんか?」
「それは……さすがに穿ちすぎではありませんか?」

 ミス・ロングビルに対する疑念がにわかに持ち上がり始めると、まさにタイミングを見計らったかのように、学院長の秘書であるミス・ロングビルが現れた。
 年齢は20代中盤ころ、緑色の長い髪に理知的な顔立ちをした、眼鏡の美人である。
「……申し訳ありませんが、人がいないからと言って濡れ衣を着せないでいただけないでしょうか」
「おお、すまんすまん。いや、年を取ると妙に疑い深くなってしまっての」
 オスマンはこほん、と咳をすると、あらためてミス・ロングビルに退席の理由を尋ねる。
「して、どこに行っていたのかね?」
「一刻を争う事態のようですので、『土くれ』のフーケの足取りを追って調査しておりましたの」
「調査?」
「そうですわ。魔法学院の宝物庫の物となれば、トリステインの国宝も同然。何もしないわけには行かないでしょう?」
 軽くではあるがジロリとオスマンを睨むミス・ロングビル。……言外に『よくも容疑者にしやがったな』というメッセージが込められていた。
「い、いや、それは悪かったと言っておるだろう。……では、その結果は?」
「はい。フーケの居所が分かりました」
 ざわ、と学院長室にどよめきが広がる。
「……誰に聞いたんじゃね? ミス・ロングビル」
「近所の農民に聞き込んだところ、近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの男を見たそうです。おそらく、その男がフーケに間違いないかと」
「そして廃屋がフーケの隠れ家、か……。服装もミス・ヴァリエールの証言と一致するの」
 ふむ、とオスマンは長いアゴ髭を撫でながら思案する。
「そこは近いのかね?」
「はい。徒歩で半日。馬で4時間といったところでしょうか」
 それを聞いたコルベールが即座に『すぐに王宮に報告を!』と叫ぶが、『そんなことをしている間に逃げられるわ!!』というオスマンの一喝で黙ってしまう。
「第一、盗まれたのは魔法学院の宝じゃ! ならば当然、この問題は我ら魔法学院で解決する!!」
 高らかに宣言するオスマン。
「……では、捜索隊を編成する。我こそはと思う者は、杖を掲げよ」
 そうして学院長が直々に呼びかけるが、誰も杖を掲げない。ただ困惑して教師同士で顔を見合わせるだけである。
 その体たらくに辟易したオスマンが『どうした、名を上げようとする貴族はおらんのか!?』などと発破をかけるが、それでもやはり誰も杖を掲げない。
 オスマンが盛大に溜息を吐きかけた、その時。
「ミス・ヴァリエール!?」
 ルイズが杖を顔の前に掲げた。
「何をしているのです!? あなたは生徒ではありませんか! ここは教師に任せて……!」
「誰も掲げないじゃないですか」
(……名を上げたいのか)
 そんな主人の様子を一歩引いた立場で見ながら、ユーゼスはそんな感想を抱く。
 すると、今度はキュルケがその杖を掲げた。
「ミス・ツェルプストー! 君は生徒じゃないか!?」
「フン、ヴァリエールには負けられませんわ」
 それを見て、その横に立つタバサも杖を掲げる。
「……タバサ、あなたは別にいいのよ? 関係ないんだから」
「心配」
「タバサ……」
「ありがとう……」
 じーん、と感動した様子のキュルケとルイズ。
 その一幕を見たオスマンは微笑みながら、
「……では、捜索隊は彼女たちに頼むとしようか」
 捜索隊のメンバーを決定する。

 当然ながら、教師たちから反対意見が多数出たが、オスマンから『では、君が行くかね?』と話を振られてしまっては閉口するしかない。
 そしてタバサはシュヴァリエ。キュルケは優秀な家系で本人も優秀。ルイズも優秀な家系で本人は…………これもまた優秀な家系のグラモン家の子息と、互角に渡り合った使い魔を召喚した、ということで半ば強引に納得させたのであった。
 そして、オスマンが3人に警告を送る。
「しかし気をつけるんじゃぞ。今まで『土くれ』のフーケは、その通り名から土系統のメイジとばかり思われていたが、どうやら火系統もかなりこなせるようじゃからな」
「えっ?」
 その警告に戸惑ったのは、なぜかミス・ロングビルである。
「何せ、中庭の至るところに強力な炎を放射したと思われる焦げ後や、爆発跡の確認が出来たからの。これは土系統だけで可能な芸当ではない」
「そ、そうですわね! そう言えば、フーケは火系統の魔法もバリバリ使ってるようでしたわ!」
「よ、よくわからない爆発の魔法も、ドカドカ繰り出してるように見えましたし!」
 引きつった表情でフーケの能力を説明するキュルケとルイズ。
 ユーゼスはこっそりと、
「いいのか?」
 とタバサに尋ねてみる。
「別に困らない」
「……それもそうだな」
 素っ気なく返されたが、確かにその通りなので、ここはフーケに罪を被ってもらうことにした。
「……そ、それでは、明日の朝一番に、その廃屋に向けて出発するということで」
 若干表情をヒクつかせたミス・ロングビルが音頭をとり、この場は解散となったのだった。

「……ユーゼス・ゴッツォ君」
「何だ、ミスタ・グラモン」
「君たちが、あの噂に名高い『土くれ』のフーケと戦うかもしれない、ということは君から聞いた」
「そうだな」
「僕は、その捜索隊には全く関わっていないし、志願した覚えはこれっぽっちもない」
「その通りだ」
「……それで、なぜ僕がフーケ対策の作戦会議とやらに参加しなくてはならないのかね!?」
「あ、あの、私は辞退したはずなのですが……」
 悲痛な様子で叫ぶギーシュと、非常に困った様子のミセス・シュヴルーズ。
 フーケ捜索隊の3人とユーゼス、ミス・ロングビル、そしてギーシュとミセス・シュヴルーズは、小さめの教室に集合していた。
 長くなりそうなので、お茶まで用意されている。
「フーケというメイジを相手にするに当たって、同じ土系統のメイジの立場から意見をもらいたい」
「ミセス・シュヴルーズはともかく、なぜこの僕が!?」
「お前もゴーレムを使うだろう?」
「ドットとトライアングル……いや、もしかしたらスクウェアかもしれないメイジを同列に見ないでくれたまえ!」
 ―――何はともあれ、作戦会議である。

「……って言うか、作戦会議なんて必要なの?」
 面倒そうにキュルケが質問する。
「では聞くが、実際にフーケのゴーレムを間近で見て、あのゴーレムに勝てると思ったのか、ミス・ツェルプストー?」
 私は実際には見ていないからよく分からないが、と心の中で付け足す。
 う、と小さく唸って、キュルケは黙り込んだ。
「……フーケがいない時を見計らって、盗まれた宝を奪い返す、という案はどうでしょう?」
「都合よくいなければ、な。いた場合の話をしている」
 ミス・ロングビルの意見を一蹴するユーゼス。
「……ちょっと待ちなさい。作戦会議をするのは良しとして、なんでアンタが司会進行役をやってるのよ!?」
「消去法だ」
 ルイズの疑問に、これもまたユーゼスがアッサリと答えた。
 キュルケは『司会なんてガラじゃないし、面倒だし』とパス、タバサは明らかに向いておらず、ルイズとギーシュもそのような能力には疑問があり、シュヴルーズはそもそもフーケ捜索に乗り気ではないため『やっぱりやめましょう』という方向に話が進みかねない。
 強いて言うならミス・ロングビルが適役だったが、『私は秘書ですから、あまり先頭に立つようなことは……』と辞退されてしまったのである。
 それでも彼女を推す声はあったが、『議論をまとめるよりは、議論の一員として皆さんのお役に立ちたいのです』、『議論をまとめるのに手一杯で、私から意見が出せないかもしれませんし……』などと言われてしまったので、司会はユーゼスとなっている。
「それにフーケを打倒する策があるのでしたら、是非お聞かせ願いたいですしね」
 と付け加えるミス・ロングビルであった。

「差し当たって、あの土で出来た30メイルのゴーレムへの対抗策だが」
 要するに、フーケ対策とはゴーレム対策である。
 これさえ何とかなれば、フーケは攻略したも同然だ。
「キュルケとタバサで同時に攻撃すればどうだい? 二人ともトライアングルなんだから、もしフーケがスクウェアだとしても土で出来たゴーレム1体は倒せそうに思うが」
 ギーシュの提案に、キュルケは首を横に振った。
「……悔しいけどダメね。中庭に現れた時もそう思って全力で炎をぶつけたんだけど、ほとんど効いてないみたいだったし」
「じゃあ、フーケ本人を倒すのは?」
「遠く離れてたら、手の出しようがない」
「ゴーレムが出たら逃げる、というのはどうでしょう?」
「……それで宝が取り戻せなかったら、意味がないのでは……」
 出す案がことごとく却下されていくので、早くも議論メンバー内に微妙な空気が流れ始める。
 そこでユーゼスが、ミス・ロングビルに質問する。
「ミス・ロングビル。フーケが潜んでいる廃屋の近くには、ゴーレムの材料となる土は大量にあるのか?」
「え? ああ、はい。森の中ですから、それはもう沢山」
「石や岩などは?」
「あまり見かけなかったように思いますが……」
 ユーゼスはそれを聞くと、ミセス・シュヴルーズへと向き直る。
「ミセス・シュヴルーズ。30サントほどの大きさの『土人形』を『錬金』で作ってもらいたい」
「はあ」
 シュヴルーズが杖を一振りすると、ユーゼスが立つ教壇の前に、注文通りの30サント程度の土人形が現れた。
「………」
 紅茶のポットを手に取り、それを土人形まで運ぶユーゼス。
 そして、中に入っていたお湯をトポトポと土人形にかけ始めた。
「……何やってんの、アンタ?」
「少し見ていろ、御主人様」
 そのままお湯をかけていると、土人形は泥になってベシャ、と潰れてしまう。
「「「「「「…………あ」」」」」」
「これで良いのではないか?」
 特に感情も込めず、ユーゼスは言った。

「も、盲点だったな……」
「まさかこんな攻略法があるとは……」
 感心するギーシュとシュヴルーズだったが、それにタバサが異を唱える。
「……相手は30メイル。空気中の水分を集めるだけでは、それだけの水を用意できない」
「水をタルにでも入れて運べば良いだろう。それに、何も全身に浴びせる必要はない。足にでも集中させれば、そこから崩れて転ぶ」
「やられた箇所を再生する可能性がある」
「立ち上がる隙にでも、逃げれば良い。……30メイルの巨体だ、立ち上がるのも一苦労だと予測するが」
「都合よく土でゴーレムを作るとも限らない」
「通り名が『土くれ』だから、その可能性は高いと思うが……。……ふむ、ミス・ロングビル、もう一度確認するが、その廃屋の近くには石や岩など、他にゴーレムの素材になりそうな物はなかったのだな?」
「え、ええ、確か……なかった、はず、だと思います」
「……ミス・ロングビル、体調が悪いんですか? 汗がダラダラ流れてますけど」
「だ、大丈夫です」
 ルイズが心配して声をかけるが、ミス・ロングビルは自分の健在ぶりを主張した。
「……そうだ! 僕のワルキューレのように、『錬金』でゴーレムを作った場合はどうするんだ!? それこそ岩とか、粘土とか、鉄とか!」
 ギーシュがハッと気付いて声を荒げた。
 ユーゼスはアゴに手を当てて考えると、シュヴルーズに質問する。
「ミセス・シュヴルーズ。仮に『錬金』で材質を全て構築した場合、30メイル程度のゴーレムを作ることは可能なのか?」
 シュヴルーズはその問いに関してしばし沈黙して思考を巡らせると、ゆっくりとした口調で答えた。
「……それはスクウェアクラスでも難しいですわね。ただの土から粘土へ、となると精神力の消費も少なくて済みますが、岩や鉄など『土』から遠くなればなるほど、ゴーレムの規模も小さくなるはずです」
「具体的な大きさは」
「あくまで予想ではありますけれど……30メイルを基準として、粘土程度なら25メイル前後、岩なら20メイル前後、鉄なら10メイル前後でしょうか。
 もっとも、これは素材を全て『錬金』で作り上げた場合の話ですが」
 うーん、と考え込む一同。
「……素材が粘土だったら、柔らかいし、あたしたちでも何とかなるんじゃないかしら?
 それこそ、さっきその平民が言ってたみたいに足か何かに攻撃を集中させて逃げれば良いんだし」
「問題は、岩や鉄の場合」
 一同は再び黙り込む。
 ……本当に体調が悪いのかミス・ロングビルの様子が少しおかしいが、構わずに(何より本人がこの場に残ることを強く希望したので)作戦会議は続いていく。

 と、ユーゼスが、今度はギーシュに頼み込んだ。
「ミスタ・グラモン、ゴーレムを一体出してもらいたい」
「ん? ああ、さっきのミセス・シュヴルーズの土人形のように、小さなモデルにするのか」
 鉄と青銅では少々異なるが……などと呟きつつも、ギーシュは頼まれるがままに青銅のゴーレム、ワルキューレを出現させた。
 そしてユーゼスは教室に持ち込んでいた剣(ルイズと共に買った『普通の剣』である)をシュッと抜き放ち、それを思い切り、背後からワルキューレの膝の部分に叩き付ける。
 金属同士がぶつかる甲高い音が教室中に響き、一同は耳をふさいだ。
「っ、もう少しこの音をなんとか……、あ、ギーシュのゴーレムが倒れてるわ」
 キンキン響く耳でどうにかルイズの言葉を判別すると、一同は一斉にワルキューレを見る。
 そこには、確かにルイズが言った通りに、右膝をポキリと切断(と言うほど鋭利でもないが)されて倒れ伏すワルキューレがあった。
「人型である以上、基本的に関節部は強度が弱くならざるを得ないからな。そこを突けば良いだろう」
「……う~む、しかしそれは僕のワルキューレにも言えるのか……。ユーゼス、これは関節の装甲を厚くしてみれば解決出来るのかい?」
「そんなことをすれば、確実に動きが鈍くなるな。関節の駆動範囲も狭くなる」
 ダメかー、と悩み始めるギーシュ。
 ユーゼスが元いた世界のモビルファイターなどは、この『関節部の脆弱化』に対して『人間の関節構造に限りなく近付ける』ことで対策を行ったようだが、それをハルケギニアのゴーレムに求めても仕方がない。
「しかし、ことフーケのゴーレムに限って言えば、かなり有効な手段でしょうね。素材が鉄では、再生を行うにも多大な精神力を必要とするでしょうし」
「……土と岩と鉄とか、色んな素材を混ぜた場合はどうなるんですか?」
「そのようにバラバラな素材では、ゴーレムはなめらかに動きません。それぞれ手触りと固さがバラバラでしょう? 何と言うか―――『土のすべり』と『岩のすべり』と『鉄のすべり』がゴチャゴチャになっていますから」
「うむ、僕のワルキューレが青銅だけで出来ているようにね」
 キュルケの質問にシュヴルーズが答え、ギーシュが捕捉する。
「じゃあ、明日は取りあえず、馬車に水をタルで積めるだけ積みましょう。フーケが土でゴーレムを作ってきたら、その水を足にかけて、土じゃなかったら氷魔法の素材にでもすればいいわ。
 ミス・ロングビル、手配を…………なんで涙目なんですか?」
「……な、何でも、ないです……」
 『休んだ方がいいですよ』、『何でしたら、大まかな道を教えてくれるだけでも……』などと優しく声をかけられるが、ミス・ロングビルはどうしても同行するようだった。
 何でも、『ここで同行しなかったら、それこそ自分がフーケだって言ってるようなものじゃないですか』だそうだ。
 もっとも、戦闘はキュルケとタバサ、そして自分も参加すると声高に主張するルイズに任せて、彼女はユーゼスと共に彼女たちを見守ることになっているのだが。


「有意義な時間でした、……えーと……ユーゼスさん、でしたかしら?」
 どことなく満足そうな顔でにっこりと微笑みながら、シュヴルーズはユーゼスに語りかける。
「平民でも、あなたのように思慮が深い人がおられるのですね。
 では、明日のフーケ捜索はくれぐれもお気をつけて」
 本当に感心した様子で退席するシュヴルーズ。次いで、ギーシュがユーゼスに話しかけてくる。
「何だったら、僕もフーケ捜索に参加しようか?」
「……お前のワルキューレでは、踏み潰されて終わりだと思うが……。牽制か囮で良いならば、参加しても構わんぞ」
「むう、それは活躍とは言えないな……。仕方ない、今回は君たちに華を譲るとしよう」
 ギーシュは、バラの造花を一振りして去っていく。
 一方、ミス・ロングビルは頭を抱えて何かをブツブツと呟きながら自室へと戻っていった。
 耳を済ませてみると、『どうすれば』とか『考え付いたところであの平民がまた』とか聞こえてきたが、ノイローゼか何かだろうか。
 ……個人の事情を詮索する趣味はないので、放っておくこととする。
 そしてルイズとキュルケ、タバサも席を立った。
「……屈服のさせがいがあるわ」
「何言ってるのよ、アンタ?」
 ユーゼスに睨みを利かせるルイズと、そんなルイズを疑問に思うキュルケ。
 相変わらず無言のタバサも引き連れて、4人で女子寮へと戻っていく。
 そこで、ふとユーゼスは肝心な要素を忘れていたことに気付いた。
「……そう言えば、聞いていなかったのだが」
「何よ?」
「盗まれた宝とは、何だ? どのような形状をしているのかが分からなければ、確認のしようがない」
 そう言えば言ってなかったっけ、とルイズもまた今更ながら気付く。
「確か、昔の英雄が使ってた武器だったと思うわ」
「宝物庫を見学した時に見たけど、あたしにはただのロープにしか見えなかったわねぇ」
「ロープが武器?」
 魔法がかかったロープを巻きつけて、動きを束縛でもするのだろうか。
「でもアレ、ロープじゃなくて鞭じゃなかったかしら?」
「そうだったわね。ほとんど鞭には見えなかったけど。名前は、えっと……ザ、じゃなくて、ズ……ゼ?」
 キュルケが名前を思い出すのに苦労していると、タバサがポツリと正解を告げる。
 ―――その名を聞いて、ユーゼスの表情が明らかに一変した。
「ズバットの鞭」


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