あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ナイトメイジ-24


なにも起こらなかった。
アンリエッタ姫にかけられた魔法は心を操る魔法。
解いても何かが目に見えるはずがない。
でも、いつも起こる爆発も起こらない
だからそれでいいはず。
──それなら、きっと……
──成功しているはず
ルイズはアンリエッタ姫の頬の上に手をかざした。
アンリエッタ姫の呼吸は穏やかに続いている。
この手で触れればきっと目覚める。
──起きたら姫様はどうするだろう
喜んでくれるだろうか。
それとも、怒る?
もしかして虚無の魔法が解けていなかったら、操られた心のままに私を殺そうとするかも知れない。
──きっと、大丈夫。
期待と少しの不安を胸にルイズはかざした手で頬にそっと触れた。
触れた手の中でアンリエッタの頬が動く。
次に瞼が細かく揺れ、薄くそれから大きく開かれた。
「え……?」
そこから流れるのは涙。
一筋、二筋。
涙の筋は重なり、また一筋となりアンリエッタの瞳より次から次に。
「姫様、どうなされたのです?」
「ルイズ?魔法……なぜ私にかけられた魔法が解けているの?なぜ?」
「え?あ……それは」
赤く染まるアンリエッタ姫の瞳に見据えられたルイズはぽつりと答えた。
「私の魔法で姫様にかけられた魔法を解きました」
アンリエッタ姫の震える両手が顔を覆い隠す。
手のひらの間から涙と嗚咽が漏れていた。
──なぜ、悲しむの?
ルイズにはわからなかった。
喜ぶのならわかる。
心を苛む魔法が取り除かれたのだから。
怒るのもわかる。
その魔法を書けた本人──クロムウェル──に怒りを感じないはずがない。
──なぜ?
なぜアンリエッタ姫がこんなに悲しんでいるのかルイズにはわからない。
「なぜ……魔法を解いたのですか。ルイズ」
「え?」
ルイズの問いに答えるのはアンリエッタ姫しかいなかった。
だだしそれは、ルイズの望むものではない。
「私はあのままがよかったのに」
「ひ、姫様?」
「魔法で操られていたままでよかったのに。そうすれば、ウェールズ様とずっと一緒に……。それなのに!ルイズ、あなたは……」
流れる涙と同時に言葉も流れでる。
どちらも止めどなくただ流れ出る。
「姫様、何を?」
「ああ、そうだわ。ルイズ。いいことを思いついたわ」
アンリエッタは突然立ち上がり、見えるはずのない空を仰ぎ見ながら笑うように言葉を続ける。
でもそれは本当に笑っているのだろうか。
「戻ってもう一度、魔法をかけてもらうのよ。そうよ、それがいいわ。それが一番いいのわ」
「姫様!」
ルイズのあらん限りの声が洞窟に響いた。
そんなに大きな声を出さなくてもアンリエッタ姫には届く。
目の前にいるのだから。
でもルイズにはそうは思えなかった。
地平線よりさらに遠くに届くような声を出さなければ届かないように思えてならなかった。
「お願いです!そんなこと言わないでください」
アンリエッタの手をぎゅっと握りしめる。
そうしないともう会えなくなりそうだったから。
「姫様、本当にそう思っているのですか?ウェールズ王子が本当にここにいて欲しいと思っていると思っているのですか?
ウェールズ王子は操られているんです。あの時の姫様と同じように。
そんなウェールズ王子と共にあることが本当に姫様の望むことなのですか?そんなの間違ってます、嘘です、偽りです。
本当のウェールズ王子だってそんなことは望みません。絶対に。
ですから姫様……そんな嘘に身を任せるのはやめてください!」
息の続く限り一気呵成に言葉を出し続けたルイズはこれ以上はもう言えない。
息が切れてしまってぜいぜいと肩で息をする。
「ルイズ……」
アンリエッタが手に力がこもり、ルイズの手をしっかりと握り返す。
ルイズにはその手の感触がアンリエッタの心がここに戻ってきた証のように感じられた。
「嘘ではないよ。アンリエッタ」
だが、その心はアルビオンの風に吹かれた羽のように飛んでしまった。
それはどこに飛ぶのだろう。
もはや手の届かない遠くにか。
それとも


アンリエッタたちがたどった道の奥にわだかまる闇の中から現れた姿があった。
ぼんやりとした苔の光に照らし出されるのは見間違えようない。
「ウェールズ様」
柔らかな笑みをたたえ、アンリエッタのために片手を差し伸べるその姿はかつて生きていた時のまま。
「アンリエッタ、君を愛している。この思いは本当だ。嘘なんかじゃない。だから、わたしと共に行こう」
その手を取ることは夢を掴むのと同じ。
心地よい言葉に導かれ、アンリエッタの震える片手もまたウェールズに伸ばされる。
2人の手が触れるまであと少し。
「嘘よ!」
ルイズの声が心臓に突き刺さりそうになる。
そのためか、アンリエッタの手は指一本分を残して動きを止めた。
「ミス・ヴァリエールか。私の言葉のどこに嘘があるのだ」
「身も心も操られている死体の言葉に真実なんてあるはずがないわ」
「操られてなどいないよ。私は正気だ。そして、アンリエッタを想う気持ちも本物だ」
「だったら!」
ルイズは杖を突き出し、ウェールズを睨みつける。
杖にわずかな光が灯ったような気がした。
「この魔法であなたの嘘を暴いてやるわ!」
「それはさせられないな」
ルイズの呪文が洞窟の中に反響する中、ウェールズもまた杖を抜き、呪文を唱える。
わずかな詠唱が終わるとウェールズの杖には光が灯り、刃を成す。
「虚無の魔法が解かれてはアンリエッタと供にいることができないからね」
刃をまとう杖を振り上げられる。
その落ちる先にはルイズがいた。


アンリエッタの眼前には争い逢う2人がいた。
1人はウェールズ・テューダー。最愛の人。
もう1人はルイズ・フランソワーズ。一番の親友。
その2人が互いに杖を交えようとしている。
2人とも大切な人。
比べようもないくらいに大切な人。
ウェールズを止めるか、ルイズを止めるか。
選べるはずもない。
迷うアンリエッタの耳にウェールズの作ったブレイドが風を切る音が届いた。
ルイズの流れるような詠唱も聞いた。
そしてアンリエッタは2人の間に身を投げ出した。
振り下ろされたブレイドが服を破き、肉を切り裂く。
噴き出す血が白い肌とくすんだ服を鮮やかに染め上げた。
「なにっ!」
アンリエッタは痛みに震える手で、肩で止まったブレイドを灯すウェールズの杖を掴んだ。
「アンリエッタ、離すんだ、離してくれ」
「いいえ、離しません。あなたにルイズを殺させはしません」
その細腕でウェールズの杖を止めることなどできるようはずもない。
だが彼女の手の中で杖はぴたりと動きを止めていた。
「ルイズ!あなたの魔法を!」
杖はまっすぐウェールズへ。
それに託される呪文の最後の一節もウェールズへ向けられた。
「ディスペル・マジック」
声は呪文となり、呪文は魔法へ。
それはウェールズ中を水のように流れる魔法を吹き散らした。


魔法の力で命をとどめていた死体は魔法を失えばどうなるのか。
無論それは命を再び失い、本来の姿であるただの死体に戻る。
アンリエッタの膝の上に頭をのせ、洞窟の床に横たわるウェールズのように。
「ねえ、ルイズ。ウェールズ様はね。最期に私を守ってくださったわ」
眠るように目を閉じている、しかし少しずつ温かみを失いつつあるウェールズの顔をアンリエッタは何度も何度もなでていた。
「私達を捕まえるのなら、声なんかかけなければよかった」
今日は何度泣いたことだろう。
何度も泣いたはずなのに、涙は涸れることなくウェールズの顔にぽつりぽつり雨のように落ちる。
「私の手でウェールズ様の杖を止める事なんてできないわ。それなのにウェールズ様は私の手の中に杖をとどめて、ずっと待ってくれたわ」
落ちた涙を指先で拭き取る。
拭き取るとまた涙が落ちる。
それもまたぬぐい取った。
「あの時ウェールズ様はきっとご自分を操っている魔法に打ち勝っていたのよ。だから、ああして私たちを助けてくださったんだわ。なのに私はルイズが魔法を解いてくれたのに、負けてしまっていた」
今度は自分の目をぬぐう。
朝露のような水滴が指をつたい、手の中に消えた。
「私はもう負けません。人を操る虚無の魔法にも、それを使うクロムウェルにも」
顔を上げるアンリエッタの目には悲しみとは別の感情が宿る。
流れる涙は既に無くなっていた。



新着情報

取得中です。