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虚無の闇-11


ガリアの首都から500リーグもの距離があるサビエラ村だが、村としての規模は大きいほうに入る。
山間にあり商人なども頻繁には訪れない寒村だが、山を行く猟師や行商人などにとっては重要だ。住人の数が二桁という村も多数ある中、300を超す人口は町といってもよかった。
遅きことナメクジの如く働かざる事無能王のごとし、と囁かれるお役所仕事が、たった二ヶ月の間に二人ものメイジを送った事からも重要性が解る。
既に9人もの被害者を出しているだけあって、村人の顔は誰も彼も不安と恐怖で埋められてた。貴族である騎士に面と向かって口に出す者は居なかったが、家や木の陰に皆で集まっては、思い思いの感想を飛ばす。

「今度派遣されてきた騎士様は大丈夫かしら」
「よくわからんが、従者っぽい姉ちゃんは見るからに能天気っぽいな……」
「なんと、三人とも女の子とは……。全員合わせても、この前の騎士様のほうが、なんぼか強そうじゃなあ」
「でも貴族様が二人なら、何とかなるんじゃないかしら?」
「わからねえなあ。前の騎士様は、3日しかもたんかった……」

村人たちは騎士たちの実力を半人前と評価し、だからこそ二人でやってきたのだと判断した。
貴族の系統魔法が幾ら強いとは言え、吸血鬼は先住魔法を使えるのだから五分五分。長い寿命を持つ彼らのキャリアも考えれば、メイジのほうが不利なぐらいである。
まだ他人をいたわる余裕があった者は若い二人の死を想像して悼み、恐怖に駆り立てられた者は、自らの手で吸血鬼を倒すのだといきり立つ。
一行が段々畑を抜け、最上段にある長老の家へと入るのを見届けた後で、農夫たちは鼻息荒くクワやカマを手に村の広場へと集まった。

「俺たちの手で、吸血鬼を見つけるんだ!」
「俺は、あの、よそ者の婆さんが怪しいと思う」
「……あの占い師だとかいう、小さな婆さんか」
「そうだ! あのババアは確かに締め切った家から出てこねえし、怪しいぜ!」
「ってぇと、アレキサンドルとかいう木偶の坊が、グールって事か……」

村で切れ者と評判である薬草師レオンが犯人だと言い立てるのは、三ヶ月ほど前にこの村にやってきた占い師の老婆だった。
占い師という仕事はあるらしいのに、肌が悪いといって部屋から出てこない。この事実だけでも村人の不安を掻き立てるのには十分すぎたし、その息子の首には傷があった。
もはや吸血鬼はあの婆さんに違いない、という所で彼らの意見は一致している。怒りと疑いで顔を黒くゆがめた男たちは、すぐにでもその婆さんの家へと奇襲をかけそうなほどだ。
このままでは村の存続の危機になる。疑わしきは罰せよ、それで吸血鬼を狩れるのなら安いものだと。

「おい、レオン! 騎士様がお呼びだ! 話を聞きたいってさ!」

だから彼らは、ついに吸血鬼をこの手で血祭りに上げる時がきたのだと思った。




「その、マゼンタ婆さんが吸血鬼じゃ……では、ないのかと、皆は疑っとります」

大きなテーブルの下座に着き、薬草師のレオンはおっかなびっくり意見を話した。相手は幾ら子供とは言え、騎士であり貴族でありメイジでもある。
下手な事を言えば吸血鬼に何かされる前に命が危ないと、緊張で声がどもり、額には冷や汗が浮いている。
村長も村人が爆発する寸前であった事を知り、動揺を隠せないで居た。下手をすれば人間同士で殺し合いが始まるところだったのだ。
一度勃発してしまえばもう止まらない。被害者が出続ける限り負のスパイラルが村を襲い、あっというまに廃村へと追い込まれてしまうだろう。村を割っての戦争すら起こりかねない。
若い子供を持つ夫婦などは、既に何組も村を捨てて逃げ出している。このままでは争いが起きなくとも遠からず村は滅び、打ち捨てられた廃村へと姿を変えるはずだ。吸血鬼が居る村に移住する物好きなど居ないのだから。

二人の騎士と従者、正確には一人の騎士と使い魔、そしてその友人は、どちらも無表情で村人の報告を聞いていた。

「おかしいわね……。もし貴方が吸血鬼だったら、そんな危険な村に、いつまでも居続ける?」

「そうね! 不自然なのね!」

「それに吸血鬼の老人って事は、少なくとも数百年は生きてる訳よね? そんなすぐに疑われるような事、するかしら」

レオンは言葉に詰まり、苦々しげに顔をゆがめた。吸血鬼が長い寿命を持つというのは知られていたが、恐怖に駆られてそこまでは考えていなかったようだ。
別に証拠などがある訳でもなく、なんとなく怪しかったから。そして疑うことで恐怖を紛らわせる対象がほしかったから、槍玉に挙げる対象として占い師の老婆が選ばれたにすぎない。

「そりゃあ、たしかに……。でも、逃げられねえのかもしれません。
顔を覚えてるヤツも何人か居ますし、逃げたら吸血鬼だって白状してるようなもんです」

これも確かにその通りだった。吸血鬼の疑いをかけられた人間に行く場所など無く、ここを追い出されたが最後、彼らは噂が消えるまで流浪し続けるしかない。
吸血鬼とはいえ食事をしなければ飢える。森の中に潜んだとしてもその期間が長ければ長いほど、人前に出られるような格好ではなくなってしまう。
日の下に出られないボロボロの洋服を纏った乞食のような者を、快く迎え入れる村などハルキゲニアのどこにもない。当然ながら疑いの目をかけられ、まともに行動できないだろう。

「まあ、とりあえずは……。そのお婆さんの所へ行ってみましょうか。他に手がかりも無いし」

「……わかった」

「了解なのね! きゅいきゅい」

最も年長に見える青い髪の従者は鳴き声としか思えないような口癖を連発し、仕えるべき貴族様へ勢いよく抱きつく。髪の色が同じなため、傍目からは姉妹のように見えた。
レオンと長老は半人前だと思っていた騎士様が意外な洞察力を持っていたと安心するべきか、変な従者を連れている事をいぶかしむべきか悩んだ。




長老とレオンに案内され、タバサ一行は問題の老婆が済むという家までやってきた。
平民が住む中でもみすぼらしい部類に入り、壁のあちこちに素人らしき継ぎ接ぎが残っている。どこから聞きつけたのか、家の周囲には何人もの村人が集まっている。
彼らから家を守ろうと、厳つい体格をしたアレキサンドルがドアの前に仁王立ちしていた。投げつけられる罵倒が気に障ったのか、その顔は怒りで真っ赤だ。

「うるせえぞ! 違うって言ってるだろうが! 黙りやがれ!
あぁ……騎士様! 誓って言いますが、おっかあは吸血鬼なんかじゃありません!」

「嘘をつくな! 俺は知ってるんだ! お前の首には、吸血鬼に噛まれた跡があるだろうが!」

「だから、山ビルに噛まれたって言ってるだろう! それに傷があるのは、俺だけじゃねえ!」

憎悪に包まれて一触即発の空気になった村の一角を眺め、ルイズは実に楽しげな笑みを浮かべてニヤニヤと笑った。横に居るタバサに突付かれて、慌てて表情を戻す。
長老の力強い一喝に諭され、村人たちは一時的に静かになったが、また何かの切欠があればすぐに炎上するのは眼に見えていた。このままでは村の未来は暗いだろう。
タバサが村人に対し落ち着いて行動してくれと注意を促し、簡易的にだが吸血鬼であるか否かを調べる呪文を知っていると嘯く。もちろん真っ赤な嘘だが、それだけでも村人たちは安心し、どうにか落ち着きを取り戻した。
散っていく彼らの背中を注意深く見守った後で、アレキサンドルは残ったタバサたちを家へと招きいれる。

「……それじゃあ、どうぞ中へ……。おっかあは、あそこのベッドで寝ております」

中は外見どおり狭くて薄暗く、部屋数も一つしかなかった。土間の奥には無数の傷がある家具がいくつか並んでおり、壁際のベッドには問題の老人が寝かされている。
あちこち穴の開いた赤い寝巻きからは、水分を失った枯れ木のように細い腕が伸びていた。布団のほうも擦り切れたカーペットのように薄っぺらで、貴族の使う物とは天と地ほども差がある。
彼女が吸血鬼であり、哀愁を誘おうとしているのなら、中々上手い演技といえた。とてもアレクサンドルの血を吸えるとは思えないほどやせ細っていて、格闘する事は愚か、転んだだけで骨を折ってしまいそうだ。

「……おっかあ、騎士様が来た。吸血鬼かどうか、見分けてくれるそうだ……。これで、疑われずにすむぞ」

大男は怒鳴っていた姿からは想像も出来ないほど優しい手つきで母を抱き起こし、がい骨のように皺枯れた顔を見守る。
マゼンタ婆さんと呼ばれた彼女は体を震わせながら礼をすると、息子の太い腕に縋りついた。その顔にははっきりと恐怖の色が浮かんでいる。
流石にこの光景にレオンも毒気を抜かれたようで、何度か舌打ちをしては居心地悪そうに部屋を見回していた。
タバサが老婆へゆっくりと歩み寄り、杖を掲げながら出鱈目な呪文を唱える。空気が張り詰め、息をすることさえ躊躇われるような静寂が部屋を包んだ。
もちろんそんな呪文には吸血鬼どころか人とオーク鬼を見分ける効果さえなく、タバサは無言なままに答えを先送りにして頭を働かせる。

「それだけじゃ、ちょっと心もとないわね」

突如として杖を掲げたルイズに、アレキサンドルは老婆を抱えるようにしてガードした。レオンと長老は後ずさりし、シルフィードは叫ぶ。

「ダメなの! いきなり、そんな……」

「……勘違いしないでよ。別に、危険な行為はしないわ」

村に来る前など、面倒だから全部叩き潰してしまえば良いなどと吐いたルイズらしからぬ発言だった。
飛び掛ろうとしていたシルフィードは渋々ながら身を引き、ルイズがぶつぶつと呪文を唱えるのを黙って見守る。
現れたのは無数の氷の塊で、思わずタバサも杖を握る腕に力を込めた。しかし形状から意図を察したようで、使い魔と同じく沈黙を通す。

「ドアから光を入れるから、ちょっとどいてくれない?」

5つほどの薄っぺらい塊が中に浮いていた。一方は水面のように平らになっており、室内の光をあちこちに反射している。
慌ててドアを開けにいったレオンの後に続くように氷の群れは動き、薄暗い室内を裂いて一筋の光がリレーのごとく繋がった。老婆の右腕が照らし出されたが、肌が焼けるような変化は全く見られない。
黄昏時でさえ吸血鬼が出歩くには危険な時間帯なのだから、この老婆が人間の皮でも被っていない限り、吸血鬼であるはずが無かった。

「これで解っただろ?! おっかあは病気、それだけなんだ! 決して、吸血鬼なんてもんじゃねえ!」

唖然としているレオンへと満足げに言い放つアレキサンドルに追い出されるようにして、一行は部屋の外へと出た。




それからは村を回って誤解を解きながらの聞き込みを続けたが、効果は芳しくなかった。村の皆はマゼンタ婆さんこそ吸血鬼だと信じて疑わず、それ以外の可能性など考えなかったようだ。
村長の家で遅めの昼食を食べ、これからのことを話し合う。両親をメイジに殺されたという少女の話を聞いたりしたが、言葉遊びが気晴らしになった程度で、参考にはならなかった。
食事を終えてすぐ聞き込みを再開したが、どこの家を回っても怪しいというのはマゼンタ婆さん。それ以外は誰かと聞けば、息子のアレクサンドル。これでは話にならない。

「あ~! もう! やっぱり、村ごとどうにかするのが一番じゃないの?!」

焦れて愚痴を言うルイズとは対照的に、タバサは相変わらずの無表情を貫いている。シルフィードは満腹らしく、そういった意味では文句が無いようだ。
ニガヨモギというとんでもなく苦いサラダに辟易したルイズたちとは違い、タバサは皿に山ができるほどの量を喜んで食べていた。蓼食う虫も好き好きである。

「敵は狡猾。焦ってはいけない」

「はぁ……。わかってるわよ。もし見つけたら、酷い目にあわせてやるんだから」

吸血鬼が森に居た場合のために村の外周を回っているのだが、今のところ何の手がかりも無かった。薪を作るために森へ出入りしている人間も居るには居るようだが、最低限にしているために森のことは分からないという。
半日村を歩き回った結果、手がかりは全くのゼロ。村に来た当初は空高くにあった太陽も傾き、地平線へと飲み込まれようとしている。
昼間は人間の時間だが、夜の闇は吸血鬼の時間だ。幾らタバサとて背後から奇襲されれば万全とは言えず、そろそろ戻ったほうが賢明だった。

「ったく! 吸血鬼の分際で、私を煩わせるなんて……」

愚痴を言いながら地面を蹴飛ばす。異世界の魔法とて決して万能ではなかった。
拠点になっている屋敷へすごすごと引き返し、期待の眼差しを送ってくる村長に、嫌々ながらも手がかりさえ見つからなかったことを報告する。
それでも村長は努めて明るく労いの言葉をかけてくれた。ルイズは別に申し訳ないなどとは思わなかったが、うざったい小言が来ないのは喜ぶべきことだった。

「そうですか……。まあ、仕方がありません。騎士様がいれば、村人も安心できます。ゆっくり休んでください」

深々と礼をする長老が出て行った後で、ルイズたちは思い思いに体を休める。賓客用なのかそれなりに豪華な部屋で、少なくともあの老婆の家よりはよほどまともだ。
ルイズは部屋に不満がないわけでは無かったが、ああだこうだと騒いでも無駄だと知っていたので何も言わなかった。軽く肩をすくめると、適当なベッドに腰を下ろす。
タバサもそれに倣って適当に座り、従者役のシルフィードが持たされていた鞄から書物を取り出して読み始める。タイトルを覗き込んだルイズはあの吸血鬼の本だと知って興味を無くした。

「疲れたのね~。やっと休めるの! きゅいきゅい」

あまり疲れを見せない二人とは違って、慣れない体で歩き回ったシルフィードはくたくたなようだ。彼女からすれば邪魔でしかない上着を颯爽と脱ぎ捨てたあげく、ベッドでゴロゴロと転がり回って豊満な胸の肉を豪快に波打たせる。
虚胸と貧胸の二人が合体しても届かないほどの豊かさに、ルイズは目を背けて唇を噛み締めた。自分の胸を軽く見降ろし、あからさまな舌打ちをする。全く気付かないシルフィードは仰向けになって伸び伸びとしていた。
タバサも何か思うところがあったようで、どうしようもなく胸を揺らしながらはしゃぎ回るシルフィードに杖を振り下ろす。

「きゅいっ……! い、痛いのね!」

「人間は服を着る」

涙目になりながらうーうーと唸るシルフィードを睨みつけ、タバサは普段より更に冷たい声で言った。木製とはいえメイジの杖ともなれば、魔法によって下手な金属よりも強靭になっていたりする。
竜の状態でも悲鳴を上げるのだから、人間形態で殴られればもっと痛い。本気で殴られれば痛いでは済まない事にだってなるだろう。
シルフィードは芋虫のようにひたすら身悶えを繰り返した後で、相変わらず無表情な主人に恨みがましい視線を送った。目じりに涙を溜めた上目遣いで、見方によっては十分に官能的な光景だ。
タバサが年毎の少年だったならば篭絡されたかもしれない。ただ残念な事にタバサは女性で、同性にどうこうするような趣味は無かった。無表情を貫き通すタバサに根負けしたのか、頭を抑えながらも渋々と服を拾おうと立ち上がる。
だが上着に手をかけたところで、突然に"してやったり"という表情を浮かべた。

「シルフィードはこれから寝るのね! 寝る時は裸だったりする人も居るのね! だから、服はいらないのね! るーるる」

タバサは眉をひそめた。貴族などはネグリジェなどを夜着とするのが一般的だが、裸で眠る事が特別悪くて不自然という訳ではない。
例えばキュルケなど夜の事情を行うものならば、疲れ果ててそのまま寝てしまうといった事態だって起こりえる。他人が居るなら何かしら着るべきだが、著しく問題にするほどでもない。
与えられたベッドも平民のものにしては上等な部類で、あの老婆の家の物と比べればよほど上質だ。春先の冷気なら十分に凌げるだけの毛布もあるから、そういう意味でも服を着ろと強制は難しかった。
ついに主人を言いくるめる事に成功した事が余程嬉しかったのか、シルフィードは能天気な歌を歌いながら下に手をかけ、指先にぶら下げながら振り回した。
豊満な胸をこれでもかと張るシルフィードと、諦めたのか杖を置いて書物を読み始めるタバサ。二つのメロンを憎らしげに見るルイズ。吸血鬼討伐任務中とは思えないほどシュールな光景だ。

「お姉ちゃ……。な、なに、やってるの?」

素っ裸で仁王立ちしているシルフィードをみて、先の昼食ではあれほど怯えていた少女も呆然としていた。
誰も杖を持っていなかったのが大きいかもしれないが、それにしても豊満なボディを持つシルフィードの全裸は衝撃的だったらしい。
女の子としてもその辺が気になるようで、たわわに実った二つの果実をチラチラと見ている。

「きゅい? なんなのね?」

「え、あ、その……。晩御飯……」

「ご飯! お肉! お魚! お肉! るーるる」

そのまま走り出したシルフィードの後頭部へ向かって、タバサは持っていた分厚い本をぶん投げた。


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