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ゼロのあやかし ~使い魔の名は愁厳~-01


ゼロのあやかし ~使い魔の名は愁厳~


これより語るは、
此処ではない空の下の
今ではない星の上の
そんな世界での出来事のひとつ。

一人の少女とその仲間達が、
空より来る災厄と繰り広げた
熾烈な戦いの記録。

その物語の始まりは、ひとつの流れ星であった。
そしてその物語の終わりは、ひとつの誓いであった。

 ルイズにはそれが夢であると分かった。
何故か?
 それは答えるべくもない事だが、日常であれば人の首というものはそう易々とは飛ばない筈だからだ。
そしてルイズには、戦場に出る予定も処刑場に足を向ける趣味も無いからだ。
おまけに辺りは天も地も無く光り輝き影すら見えぬ、全く知らない場所だ。
人の首が飛んで来た方を見やる。
 先ほどから凄い音がしているが、それが肉を切り裂き骨を絶つ音である事を、まだルイズは知らないのだ。
それにしても心臓を何度も突き刺され、腕を切り落とされあまつさえ胴を真っ二つに断たれても、瞬く刹那には元の姿に戻っているのはいったいどういう事か。
それは疑うまでも無く人の姿をしていたが、その非常識ぶりは人ではない様に見受けられる。
 何度切り裂かれようと、何度突き刺されようと、何度断ち切られようと立ちはだかり、それがさも確定事項であるかの様に立ち向かう。
愚直の極みとも言えるその姿は、何故か酷く心を揺さぶった。

 ルイズの方向からは背中しか見えなかったが、それが男である事は髪型や服装から見て取れた。
同様にこちらを向いて、彼にそれ程の損傷を与えているのは長い黒髪の少女だ。
年の頃は自分より5~6才は上なのだろうか?
 身長もそこそこ高く肉付きも良さそうなので、少なくとも同世代には見えないしそうではないと願っている。
特に女性の胸部装甲については意図的にスルーした。
 どちらも白い学生服と思わしき物を身に纏い、手には同じ形の片刃の反りのある大きめな剣を持っている。
が、男の方は両手持ちなのに対し少女は片手で振り回しては、容易く彼の体を薙ぎ払っている。
先ほど首が飛んで来た時にチラリと見えたが、この二人の顔のつくりはよく似ていて兄妹にすら見えた。

 なのに決定的なまでに異なって見えるのは、その必死さと心から滲み出て来る魂の色――とでも言うのか、それが違い過ぎるからだろう。
それはルイズにも一目で分かった。
 目の前の少女が――彼の敵が『奪う側』である事を、傷付けて楽しむ事を、嬲り殺しに快楽を追い求める事が出来る事を、ルイズは見抜いた。
彼については顔を見なくても、それこそ一目合わせなくてもその背中が全てを語っていた。

彼は、私を護っている。

 何度となく挑んではその身を切りつけられ、そのたびに膝をつくがまた再び立ち上がる。
そして、両手で正面に構えた剣でまた少女に切り掛かるのだ。

ルイズは悲しくなった。
――まだ、また護られているのか?
自分はそこまで弱いのかと塞ぎ込みたくなる。
 魔法が使えない事不便さにはもう慣れたというのに、その事実をそれでも認めたくないと努力してきた。
父様も母様もエレオノール姉さまもカトレア姉さまも、執事やメイド達ですら必死になって応援してくれた。
なのに自分には魔法が使えない。
 次第に応援される事が当たり前になっていき、その応援すら飽き始められていき。
期待に応えられない事が悔しくて、諦めが混じり始めた事が悲しくて胸が潰れそうになる。
だから、トリステイン魔法学園に入学するのは環境をガラリと変える事によって心機一転させるのもあったが、
 結局の所、ルイズはその重い期待から逃げたのだ。
無論それだけではないし物は言い様という事でもあるのだが、心の底にこびりついた様な鬱屈した思いだけは騙し切れなかった。

 ルイズは頭が良かった。
良かったが故に、自分が如何に世間知らずで我が侭で人に頼っているかが分かってしまった。
学園の誰も彼もが自分を指して『ゼロのルイズ』と呼んでいる事も知っているし、それでも見守っていてくれる人が居る事にも気付いている。
 自分が落ち込んでいれば、何やかやとちょっかいを出して発破かけてくれる者が居る事を知っていたし、
誰よりも公平である事で、ほんの少しだけ贔屓になっている事を知りつつも、変わることなく接してくれる者を知っているし、
口にも態度にも出さないがほんの些細な所作に滲み出てしまう気遣いを、必死に隠しながらもそばに居てくれる者も知っている。
 つまり、ルイズは家でも学園でも支えられ、助けられ、見守られながらも、その想いに応える事が出来ないでいる事に気付いてしまっているのだ。

 その上、ルイズは志高く恥を知る者だった。
立派で厳格な父様や母様、厳しく気高くあろうとするエレオノール姉さまに慈愛に満ちたカトレア姉さまの様な、貴族でありたいと願った。
 それは、確かに魔法なしでも人格者として並ぶ事は出来るだろう。
だがこの世では貴族とは魔法が使える者を指し、治めるべき領土と領民を持つ事こそが貴族の証であるとされる。
 三女であるルイズにも下級貴族が羨むくらいには領土を与えられるだろう、メイジであれば。
魔法が使えなくてもカトレア姉さまが取り成してもらい家に居る事は出来るだろう、扱いは知らないが。
が、それに甘んじる事は出来ないだろうし、そんな事になれば失意のままに命を絶つ事すら考えてしまうだろう、と自己分析している。

 それが、夢の中でまで見知らぬ誰かに護られているとなれば、酷く落ち込むのも致し方ないというもの。
そして明日こそが、今日までの努力が意味を成さなかった結果、等と呼ばれかねない『使い魔召喚の儀』である。
 そんな日を前にして、自分はベッドに入る前に何と祈った?

明日なんて来ません様に……

 どんなに失敗しようと繰り返し繰り返し挑戦してきたのに、明日の使い魔召喚はただの一度きり。
失敗すれば留年だ。
 使い魔すらまともに召喚出来ないならば、それはメイジではない。
留年とはいえど、実質メイジとしての資質など無いに等しい。
 つまり、家族も家の者達も学園にいる数少ない理解者達も、それこそ路傍の石に願いを託した事になる。
ルイズは自分の身に降り掛かった不幸よりも、皆の想いに応えられない事を酷く悲しんだ。
 だから、またしても護られているだけのこの夢にルイズは悲しくなってしまうのだ。


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「刑二郎にはよろしく伝えておいてくれ」
 そう告げる彼の肉体は、余すとこ無く傷付けられボロボロだった。
その姿が薄らいでいき、ともすれば消えてしまいそうな中で二人でひとつであった彼の大事な妹は血を吐く様に問いかけた。
「お兄ちゃん、最後に一つだけ教えて!」
 普段は兄様と呼ぶ妹から、お兄ちゃんなどと呼ばれるのは久方ぶり――そう、呼べなくしてしまった彼としてはとても懐かしそうに思いながら、彼女の問いを待った。

「お兄ちゃんは幸せだった?今も、幸せ?」

 そうだ、妹は人に気を使いすぎて兄である彼にも心配を掛けさせた。
それ故に彼女を慕う者も居たし、ソレを妬む者も居た。
けれどこの問い掛けだけは、最期の問い掛けだけは彼と彼女自身の為だけのものだ。
 それ故に彼は微笑みながら答えを出した。

「ああ、幸せだったとも。今も―――――幸せだ」

 微笑みと共に放った言葉は――嘘。
なのにそれは悲しいくらいに真実で、切なくなるくらいに事実だった。
最高の幸せをつかむことで、周りが不幸になるのなら、第二の幸福を掴んだ方が良かっただけ。
 彼自身は生きていきたかったし、生徒会の仲間ともこれからの人生を歩んでいきたかった。
その為に妹を犠牲にする、そうすれば叶うのにそれでは幸せにはなれない。
彼にとっての幸せは妹が、刀子が双七君と幸せになってくれる事でもあるのだ。

 二人の姿が完全に見えなくなる前に俺は歩き出した。
この先に何があるのかは知らないが、閻魔の前にでもしょっ引かれるのだろうか?
特に、三途の川が見えて来るのでもなく、ただ真っ直ぐに歩いていく。
 すると、誰かに見られている気がしたのでふと横を見た。
ふわりふわりと誰かの魂が漂っていた。まるで道案内をするかのように、俺に纏わりついている。
覚えはないが、懐かしい。懐かしいが、覚えがない。だが、ついてこいと言うのであれば。



――ついていこうじゃないか。



 暫く歩いたが、魂はこちらの体を気遣う様に辺りを飛び回りながらついてくる。
それが面映くもあったが、何故そこまで気遣うのかは本当に心当たりが無かった。
時々俺の前に立っては向かう方向を直している様だった。
 ふと前を見ると前を見ると魂が目の前で止まっていた。
何事かと足を止めると、先ほどから導いてきた魂は突如として銀色の円盤――というよりはむしろ鏡になった。
驚いて立ち止まるが、辺りを見回してみても最早何も周りには無く、銀色の鏡が目の前にあった。


「ここに触れろというのか?」
 どうせ返事が無いものだと知りつつも、愁厳はそう質問した。
無論、答えが返ってくる訳ではなかったが、そうだとばかりにその鏡が淡い光を放ったように見えた。
 光が収まると、鏡の中に青々とした草原が広がっていて、マントを羽織った少年少女たちが居るのが見えた。
天国……にしては随分変わっているし、どう見ても日本には見えない景色にどうしたものかと思案していると、手前に女の子座りしている少女に目がいった。
 呆然とした表情のままこちらを見ているが、微妙に視線が合わない。恐らくこちらは見えていないのだろう。
特に指示も無いが、ここに向かえばいいのだろうか?

 次の人生とやらはこの様にやって来るものなのか、と何とはなしに違和感を感じながらも一歩を踏み出そうとすると、足元に何か居た。
「プギィ!」
……子豚だ、それは丸々太った小さな子豚だった。
 いつの間に足元にいたのか分からないが、この空間ではそういう事もあるのではないか?
 そう考えていたので、子豚の出現にはあまり疑問を抱かなかったが、何故こちらを見上げて唸っているのかは気になった。
「プギィ!プギィプギィィィ!!」
「……あー、何かいいたいのは分かるんだが、君の言葉はちょっと、その……分からん」
そういうとさらにヒートアップしたのか、子豚はさらに唸りだした。
 どうしたものかと首をかしげていると、何処からとも無くカラスが飛んできた。
そして、足元の子豚を両足の爪でガッチリと掴むとそのままどこかへ飛び去っていった。
「プ、プギィィィィィィィィィィ!!」
「なんなんだ、いったい?」
カラスはいつの間にか見えなくなっていた。
 子豚は何かを口にしていた様だが何と言っていたのか分からなかった、分かる筈も無かった。
全く訳が分からなかったが、分かる必要は無いと言われた気がしたので其のままにした。

 暫くそのままカラスの飛び去っていった方向を眺めていたが、そのままでは何も始まらないと思い至って鏡に向き直った。
 すると、鏡の中の情景は少し分かっていた。
先ほど手前に座っていた少女が、こちらに背を向けて忙しなく怒鳴り散らしていた。といっても声が聞こえないので、時々横を向いた時の口の動きで分かっただけだが。
 そして、周りに居た少年少女たちが少女を見て笑って――哂っていた。

 愁厳自身、いじめというものを経験したことは無かった。
勿論、一乃谷の血に因って引き起こされた問題点は時としてからかいの対象にはなったが、常日頃から鍛錬を重ね真面目で面倒見のいい性格から、敵を作ることは少なかった。
 ……中には近づき過ぎた異性に酷く嫌われる事はあったし、容姿の事で妬まれる事も無かった訳ではないが、品行方正かつ実直に暮らしてきた為に表立って敵になる者は無かった。
 どちらかといえば、いじめている者を成敗しいじめられている者を助ける事が多かった。
だから少女はいじめられているものだと思ったのだ。
「俺をここまで連れて来たのは、彼女なのか?」
 その呟きに答えるかの様に、少女は背を向けたまま肩を落とした。

 愁厳は何時の世であろうと、何処であろうとその様な行為はあるものだと嘆息したが、助けを求めている少女を放ってはおけなかった。
 何より、本来ならば天国でも地獄でも辿り着き、何らかのけじめをつけてから転生するなりするのだろうが、誰だか分からぬ魂に導かれて此処まで来たのだ。
 ならばこの状況を打破するのが自分の役目、そう思っていた。


が、少女がこちらに向き直って手のひらを差し伸べた時、その光景の持つ意味が一変した。
 確かに眦(まなじり)には涙を湛え、口元も歪んでいて今にも泣き出しそうではあったが、瞳は死んでいなかった。
それを見た愁厳は自分を恥じた。
少女はただ単に助けを求めていた訳ではなかった。
 共に目の前の壁を打ち砕く為の仲間が、眼前に広がる絶望を討ち払う為の味方が欲しかったのだ。

愁厳は何時かの時の様に、背中合わせに刑二郎が居ない事を悲しんだ。
そして先ほどの様に、隣に双七が居ない事を悲しんだ。
だが、目の前には少女が居た。
それで愁厳には決心がついた。
「分かった、今行く」

そうして、愁厳は目の前の鏡に飛び込んだのだった。


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