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お前の使い魔 15話


 あの日から数日経ち、わたしはとてつもない問題にぶち当たっていた。
 その問題は非常にわたしの神経を圧迫し、体調にも悪影響を及ぼす。
 身体の自由が奪われ、今日もわたしは重い身体を引きずるように教室へと向かうのだった……。

「お……重い……」
「やっぱりお前は運動不足です。サビ剣の一本や二本持ったぐらいで筋肉痛になるなんて、どれだけひ弱なんですか。」
「あんたみたいな筋肉バカじゃないのよわたしは!! あーもう! これあんたが持ちなさいよ!! 雑用は使い魔の仕事でしょうが!!」
「嫌です。そんなばっちい剣なんて持ちたくないです。」
「わたしだって嫌よこんな汚い剣! みんなにだって笑われるし、筋肉痛にはなるしでいいこと無しよ!!」
「私のせいじゃありません!」
「むきーーーー!!!!」
「あのー……流石にちょっと傷ついちゃうぞ俺。」

 そう。問題とは、デルフを常に持つことによるわたしの疲労と周囲の目だ。
 なんせこいつはデカい・重い・汚いの三拍子が揃った剣なのだ。
 メイジが、しかも女生徒が持つような代物じゃない。
 当然、わたしだってその類にもれない。

「これ、いつまで持ってりゃいいのかしら。はぁ……憂鬱だわ。」

 数日間、わたしは時間の許す限り図書館にこもって必死に文献をあさり、どこかにヒントが無いかと躍起になって探した。
 ミスタ・コルベールや、学院長も色んな方面で調べてくれているらしい。
 ついでに、タバサも毎日図書館で見たし(これは本人の趣味かもしれないが)、どうやらキュルケもゲルマニアの方面で色々探してくれているようだ。
 しかし手がかりはゼロ。
 唯一の幸いといえば、デルフを手にしてから変な夢は見なくなったし、変な声も聞こえないというものぐらいだ。
 その点だけは評価してやってもいいかしら。

「とは言ってもねえ……」
「結構似合ってるからいいじゃないですか。」
「良くない!」
「そうだ、いっそのこと、術師を辞めて剣士になっちゃうってのはどうですか?」
「なる訳あるかあああああっ!!!!」

 そんなこんなで騒ぎつつ教室へと入り、授業を受ける。
 今日の授業はミスタ・ギトーが講師らしく、延々と風の系統の魔法の素晴らしさとやらを語っている。
 そして、授業が進むにつれ、最強の系統は何かなんて話題になり、キュルケが火の系統だと答え、それを鼻で笑ったミスタ・ギトーがキュルケを挑発した。
 挑発されたキュルケが、ミスタ・ギトーへとファイアー・ボールを打ち込む。
 ここまではよかったのだ。いや、よくは無いが、まだ笑い話で済んでいた。
 問題は、ミスタ・ギトーはこれを風の壁で打ち消し、勢いの止まらない烈風はキュルケへと牙を剥いたこと。

 反射的に身体が動いた。


「ルイズ……あんた……」
「怪我は無い?」
「あ……うん、大丈夫よ。あんたこそ大丈夫?」
「あー、大丈夫みたい。」
「いい動きするじゃねえか娘っ子。おでれーたぜ。」

 気がつくとわたしはキュルケの前に立ち、デルフを構えていた。
 ミスタ・ギトーの打ち出した烈風は、デルフへと吸い込まれるかのように消えてなくなり、教室の中は静かなものだった。

「み、ミス・ヴァリエール、どういうつもりだね?」
「どうもこうもありませんミスタ・ギトー。一歩間違えば危険なことになりそうでしたので、自分のできることをやりました。」

 ざわざわと教室にいた生徒達が騒ぎ出し、魔法が消失するという不可思議なものを見せられた為か、奇異の目でわたしを見る。
 風の系統の使い手である、ミスタ・ギトーの魔法をあっさりかき消したのだから、まあ仕方が無いか。というか、自分でもびっくりしてるし。

「お前、今の動きはどこで覚えたんですか?」

 いつの間にかわたしの近くに来ていたダネットが、心なしか青ざめた顔でわたしに尋ねた。

「どこでって……夢中だったから覚えてないわよそんなもの。」
「……そうですか。」

 わたしの返事を聞き妙な表情を浮かべるダネット。
 冷静になって考えてみると、わたしとキュルケの席はそれなりに離れている。
 しかし、わたしはその距離を一気に移動し、キュルケの前で剣を構えるなんて芸当をやってのけた。
 はて? どうやってあの距離を移動したんだわたし?

「あの動きは……」

 ダネットがさっきのわたしの動きについて何かを話そうとした時、どたどたと誰かが廊下を走る音が聞こえ、勢いよく教室のドアが開いた。

「あやややや、ミスタ・ギトー! 失礼し」
「お前! ハゲのオッサンがハゲじゃなくなってます!!」

 うん。間違ってないわよダネット。確かにミスタ・コルベールの頭には、金髪巻き毛の髪があった。でもね、そういうことは出来るだけ小さな声で言いなさい?
 ほら、教室に入ってきたミスタ・コルベールが固まっちゃったじゃない。

「あれも術ですか? 髪が生えるなんて凄い術があるんですねえ。」
「おでれーた。6000年の間にそんな魔法できたのか。」

 はっはっは。黙りなさいこのダメ使い魔にボロ剣。

「でもあんまり似合ってません。術をやり直した方がいいと思います。」

 似合ってないとダネットが言った瞬間、ビクンとミスタ・コルベールの肩が揺れ、頭に付けていた金髪巻き毛のカツラがずれ落ちた。

「か、髪が落ちました!! あれはどんな術ですか!?」
「失敗魔法。」
「おでれーた。」

 驚いて叫ぶダネットの言葉に、絶妙なタイミングでかぶせられたタバサとデルフの一言により、教室内で激しい笑いが起きる。
 うーむ……子供って残酷だ。
 その後、怒りを通り越して半泣きになったミスタ・コルベールから、驚きの内容が告げられる。
 今日、先の陛下の忘れ形見でもある、アンリエッタ姫殿下が学院にこられるというのだ。
 なので、今日の授業は中止となり、生徒と教師の手で歓迎式典の準備を行い、出来次第、正装して正門に並ぶとのことだ。


「王様が来るんですか?」
「姫殿下よ。」
「お姫様ですか?」
「そ。というか、あんたって貴族は知らないのにお姫様とかはわかるのね。」
「馬鹿にしないでください! 私だってお姫様ぐらいはわかります。綺麗な格好をして、美味しいものを食べれるんです。」
「あー……そういう認識なのね。なんか安心したわ。」

 相変わらずなダネットとそんなやり取りをしつつ、準備を行う。
 わたしは、準備を行いながら、過去の姫殿下とのほほえましいやり取りを思い出していた。
 きっと、あの頃よりお美しくなられているはずだ。
 幼少の頃のことなど、姫殿下はお忘れになってらっしゃるだろう。
 そんな事を考えていた。

 式典の準備も終わり、生徒達が学院の正門に並ぶ。
 一応、ダネットも以前に買った服へと着替えさせ、列に並ばせている。
 デルフは、貴族の娘であるわたしが持ったまま姫殿下を迎える訳にもいかなかったので、ダネットに持ってもらうことにした。

「お姫様はどこですか? まだですか? いつくるんですか?」
「落ち着きなさい。もうすぐ来られるわよ。それよりも、飛び出したりしちゃダメだからね。姫殿下のとこに行って『ご飯ください』とか言っちゃ駄目よ。」
「い、言いませんよ?」

 冗談で言ったのだが、こいつ言うつもりだったな。
 前代未聞の事件を未然に防いだことに、わたしはほっと胸を撫で下ろす。
 そうこうしてる内に、姫殿下を乗せた馬車がやってきた。

「ほー……あれがお姫様ですか。綺麗ですね。」
「ほー。こりゃ確かに綺麗だ。」
「あれがトリステインの王女? ふん、あたしの方が美人じゃない。」
「乳でかの場合、美人というか、えっちいです。」
「俺は嫌いじゃねえがな。」
「デルフはわかってるわね。ダネット、女っていうのは色気と美しさがあってこそよ? まだまだ子供ねあんた。」
「私はもう大人です! 乳でかなんかよりよっぽど……よっぽど……うう……乳でかはすぐいじめるから嫌いです!」
「まあ気を落とすな嬢ちゃん。胸の大きさだけで価値が全部決まるわけじゃねえし。」
「ほっといてください!!」

 横で騒ぐキュルケとダネットとデルフのやり取りを聞きつつ、わたしの目は姫殿下ではなく、グリフォンにまたがった貴族を追っていた。
 まさか、こんな所でお会いすることになるなんて。

「お前、どうしました? お腹の調子でも悪いんですか?」
「悪いもんでも食ったか娘っ子?」
「あら、いい男がいるじゃない。ダネット、あんたも見てみなさいよ。」
「私はあんなヒゲ興味ないです。」
「あんないい男に興味がないなんて、もしかしてダネットって彼氏いたりするの?」
「い、いません! 私とあいつはそんなんじゃないです!!」
「あいつ? あいつって誰よ? 言ってみなさいよこのぉ。」
「嬢ちゃんは色気より食い気って感じがするがねえ。」

 二人と一本のやり取りが耳に入るが、入った傍から抜けていく。

「もしかしてあのいい男ってルイズの知り合い?」
「へ? そうなんですかお前?」

 思い出されるのは過去のやり取り。わたしの婚約者であるグリフォンにまたがった彼……ワルドとの思い出。
 きっと……彼も忘れてしまっているだろう。姫殿下と同じように、ゼロでしかないわたしとの事など。


 部屋に戻っても、わたしは上の空だった。
 ダネットやキュルケからなにやら言われていた気もするが、一つも思い出せない。
 彼、ワルドを見てから、わたしの思考は霧がかかったようにぼやけている。
 しかし、一つだけ気にかかることがあった。
 それは、彼を見た瞬間に高鳴った胸の鼓動とは別に、何かがわたしの中に走ったのだ。
 直感ではなく、とてつもなく黒い何か。危機感を越える何か。
 何故、彼を見た瞬間に思ってしまったのだろう? 『あいつは危険だ』と。

「誰ですかお前は!」

 ダネットの怒声に、わたしは我に帰る。
 我に帰った時に、薄暗くなった部屋に驚いた。いつのまにやら夜になっていたようだ。

「ど、どうしたのダネット?」

 部屋の入り口を見ると、そこには目深にフードをかぶった女性がいた。
 女性は、眉を吊り上げているダネットをよそに杖を振り、同時に光の粉が部屋に舞う。

「……ディティクトマジック?」
「お前! 危ない!!」
「は?」

 言うが早いか、こちらに突撃するダネット。
 わたしはかわしきれず、ダアネットとひと塊になって部屋の端まで転がる。

「い、いきなり何すんのよあんたは!」
「話は後です。そこの変な格好をしたお前!! 急に変な術を使って、私たちに何をするつもりですか!!」

 ディティクトマジックを使った女性は、あまりの出来事に驚いているようで、フードの端からぽかんと開けた口が見える。
 どうやらダネットはディティクトマジックの光が、何か危険なものかと勘違いしたようで、呆気に取られた女性へと敵意をむき出しにしていた。

「何も言わないのなら聞き出すまでです。覚悟しなさい! 首根っこへし折ってやります!!」

 びしりと短剣を女性へ突き出し、戦いの構えを取るダネット。
 フードの女性は相変わらず、状況の変化について来れず、あたふたしている。

「え? え?」
「隙ありです!! やああああっ!!!!」
「待たんかこのボケ使い魔あああああっ!!!!」
「いったぁ!! な、何をするんですかお前!! はっ!? もしやこの」
「いい加減その思考はやめなさい! どうしてあんたはいっつもこうなのよ!! このダメ使い魔! ダメット!!」

 暴走してフードの女性へ飛びかかったダネットを後ろからはたき落としたわたしは、びしびしと杖を振り下ろし、ダネットを躾ける。
 来客を無視して騒ぐわたし達を見かねたのか、デルフが女性に話しかけた。


「騒がしくてすまんな姉ちゃん。」
「今の声は……?」
「こっちこっち。」
「これは……インテリジェンスソードですか。珍しいものを持っていますねルイズ・フランソワーズ。」

 デルフと女性のやり取りの中で、突然わたしの名前を呼ばれ驚く。
 今の声、どこかで聞いたことがあるような……。

「もしかして……」
「お久しぶりね。」

 女性が被っていたフードを取ると、そこには美しい顔があった。

「ひ、姫殿下!? し、失礼しました!!」
「こいつ誰ですか?」

 失礼千万なことを言うダネットにげんこつを叩き込む。

「あいたあっ! 何するんですか!」
「このお方はアンリエッタ姫殿下よ! 今日、学院でお出迎えしたでしょうが!」
「こいつがあのお姫様ですか?」
「あんたはもう黙りなさい!!」

 姫殿下は、ダネットの様子や言葉に少々驚いているようだが、お怒りにはなられていないようだった。
 良かった……打ち首とか言われなくて。

 その後、わたしと姫殿下は懐かしの再会を喜び合い、しばし思い出話に花を咲かせた。
 忘れているかもしれないと思っていた思い出も、姫殿下は全て覚えておいでだった。
 むしろ、わたしの方が忘れかけていたようなものでも、姫殿下にとっては大事な思い出だったらしく、逆に驚かされたほどだ。
 そして思い出話も終わり、一段楽したところで、姫殿下は憂いの表情を浮かべた。

「あの頃は、毎日が楽しかったわ。なんにも悩みなんかなくって」

 気になり、わたしが訪ねると、悲しみをたたえた笑顔で、結婚なさるという事を教えてくれた。
 場が一気に沈んだものになる。……ダメ使い魔とボロ剣を除いて。


「なんでお姫様は落ち込んでるんですか? 結婚するならおめでたいじゃないですか。」
「そこはほれ、色々あんだよきっと。」
「色々……はっ!! 食べすぎでしょうか?」
「どこをどうやったらそんな結論に至ったか教えてくれ。」
「えっとですね……ごにょごにょ」
「なるほどね。確かにそんな理由だったら暗くもなるわ。お嬢ちゃん結構頭いいんだな。」
「それほどでもあります。えっへん。」

 わたしは無言で乗馬用の鞭を取り出し、アホな一人と一本に振り下ろす。

「痛いじゃないですか!!」
「俺は痛くないんだけど、やめてもらえると嬉しい。」
「やかましい! どうしてあんた達は揃いも揃ってそんななのよ!!」

 こんなわたし達を見て、きっと姫殿下は呆れてるんだろうなと思ったら、なんと笑っていた。

「申し訳ありません姫殿下。こいつらには後ほど、きつく言って聞かせますので、なにとぞご容赦を。」
「いいのですよルイズ。あなたはとても楽しそう……羨ましいわ。」

 羨ましい? 他人にはそう見えるものなんだろうか? むしろ苦労ばかりでいい事なんかあんまりない気もする。
 何はともあれ、謝罪しておかなきゃ。

「いえ、使い魔の無礼は主の無礼です。失礼しました。」
「使い魔? こちらの亜人の女性とインテリジェンスソードが?」
「私はセプー族です!」
「俺は使い魔じゃない。」

 疑問を投げかけた姫殿下に、眉を吊り上げ反論するダネットと、のん気な声で返すデルフ。
 失礼ここに極まれり。終わった。わたしの人生は終わった。

「もももも申し訳ありません姫殿下! あんたら今すぐ謝りなさい!!」
「い、いえ、いいのですよルイズ。それにしてもセプー族というのは初めて聞きました。珍しい種族ですね。えっと、お名前は?」

 良かった。首が繋がった。



「ダネットです。お前の名前はなんですか?」

 終わった。完全に終わった。さようならわたしの首。

「アンリエッタと申します。よろしくねダネット。」

 首が繋がった……良かった……。いや待て、この展開からいくと、次は……。

「アン……アン……アンアンですね。よろしくですアンアン。」

 よりにもよって、なんで姫殿下だけそんな愉快な呼び方すんのあんた!? なんなの!? なんかの意思なの!?
 ああ……もう無理だ……首じゃ済まない。これはもう城下引き回しの上、さらし首にされても文句は言えない。
 思えば辛いばかりの16年だったわ……ああ、なんと悲しき薄幸の美少女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……。

「アンアン……かわいらしい呼び名ですね。ええ、よろしくお願いしますわ。」

 せめて死ぬ前に、クックベリーパイをお腹が破れるほど食べた……ええ!? よろしくしちゃうの!? いいの!?

「よ、よろしいのですか姫殿下!?」
「あだ名というものですよね? こんな風に呼ばれたのは初めてですから、少し嬉しいぐらいよルイズ。あなたも呼んでくれないかしら?」
「めめめめ滅相もございません!!」
「あら残念……」

 姫殿下は、本当に残念そうな表情を浮かべるが、呼べるわけないでしょうに。常識的に考えて。
 その後、意気投合したのか、ダネットと姫殿下はお喋りを始めた。
 姫殿下はダネットの故郷の話を聞き、驚いたり笑ったり。ダネットはお姫様の生活というものを聞いて、時には羨ましそうに、時には窮屈そうだと言ったり。
 最初はヒヤヒヤしながら横目で見ていたわたしも、いつの間にかお喋りに加わり、女三人の楽しい時間は過ぎていった。ついでに、デルフは会話に参加できず、途中でいじけたりしてた。
 だが、この楽しい時間は、ダネットの放った一言で凍りついた。

「それで、アンアンは何で結婚が嫌なんですか? やっぱり食べすぎですか?」

 どうして覚えとかなきゃいけないことを忘れて、覚えなくていい事を覚えてるんだこいつは。
 ちょっとぐらいは察しなさい! と言いたいが、実を言うとわたしも気になってたりする。
 姫殿下を見ると、少しためらいはしているようだが、話していただけそうだ。
 しばらくして、姫殿下はダネットに向かってゆっくりと口を開いた。

「ダネットは……愛していない人に嫁げと言われたら……どうしますか?」


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