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ソーサリー・ゼロ第三部-22

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四四七

 体力点二を失う。
 公爵夫人は君が術を使うのを見とがめ、小さく杖を振る。
 たちまち、吹き荒れる暴風が客間全体を包み込む!
 公爵夫人は≪風≫系統の魔法の達人だったのだ。
 長々とした詠唱も派手な身振りもなかったにもかかわらず、術の威力はすさまじく、テーブルや長椅子が木の葉のように宙を舞い、
窓にはまったガラスが風圧で一枚残らず粉々に砕け散る。
 執事の死を報せに駆け込んできた奉公人の男は悲鳴を上げ、両手で頭を覆いながら、その場にしゃがみ込んでしまう。
 しかし、この≪風≫の魔法は君には何の影響も与えない。
 間一髪のところで術が効き目を顕し、君を守ってくれているのだ。
 公爵夫人の眼が見開かれ、
「ばかな!?」と驚きの叫びがほとばしる。
 彼女がたじろいだ隙に、素早く次の行動を決めねばならない。
 公爵夫人に飛びかかって押さえ込むか(二二へ)、それとも、この部屋から一目散に逃げ出すか(二九〇へ)?

二九〇

 公爵夫人は相手の反撃に備えて身構えるが、君にその意図はない。
 塔に閉じ込められるのはごめんだが、ルイズの家族を傷つけるわけにもいかない。
 君は身を翻して、戸口のほうへ走る。
「止まりなさい!」
 公爵夫人は鋭く叫び、ふたたび杖を振る。
 眼に見えぬ砲弾と化した空気の塊が、君の背中に投げかけられる。
 だが、まだ術の効き目は残っており、彼女の魔法は君に傷ひとつ負わせることなく消失する。
 部屋を逃げ出した君は、長く伸びる廊下をめくらめっぽうに走り回る。
 驚きと非難の表情でこちらを見る『メイド』や従僕たちのそばを駆け抜け、いくつもの角をでたらめに曲がる。

 目の前に、上下に伸びた螺旋階段が見えたところで足を止め、息を整える。
 追っ手の足音や声は聞こえない。
 しかし、君を捕らえよとの命令が奉公人たちのあいだに行き渡り、屋敷全体に捜索の手が廻るのも時間の問題だろう。
 小さく悪態をつき、これからどう動くべきかを考える。
 馬を一頭失敬して屋敷から逃げ出すか、逆に屋敷の中に潜み隠れるか――どちらの行動も、あまり望みが持てるものではない!
 君は、階段を下りて厩舎を探すか(二五四へ)、階段を上って隠れ場所を求めるか(三二七へ)?
 廊下を引き返して、公爵夫人に降参することもできる(一一四へ)。

三二七

 君はあたりに人影のないことを確かめながら、慎重に階段を上る。
 上りきった先には、本丸の奥まで伸びる広い廊下があり、左右の壁にはいくつもの扉がある。
 耳をすますとどこかから話し声が聞こえる――二・三人の若い女のものだ――が、声の主が廊下に出てきそうな気配はない。
 君は、隠れるのに都合のよい場所に通じる扉はどれだろうかと思案しながら、そろそろと忍び足で進む。
 つきがあれば、何年も使われていない、打ち棄てられた倉庫のような部屋を見つけだせるかもしれない。

 君は、凝った彫刻のほどこされた両開きの大きな扉(隠れ場所としては問題外だ)の前を、静かに通り過ぎようとする。
 ところが、だしぬけに扉が開く!
 心臓が止まりかけるほどの驚きを味わった君は、扉の陰から現れた者の姿を見て、もう一度驚くことになる。
 きらきらと輝く薄赤く長い髪、鳶色に光る瞳、愛らしく整った容貌。
 そこに居るのは、君の『ご主人様』であるルイズだ――ただし、十年ちかくは歳をとった姿だが。
 ルイズによく似たその女はにっこり微笑んで会釈すると、君をまじまじと見つめてくる。
 本来なら回れ右をして逃げ去るべき状況だが、驚きに捕らわれた君は、呪縛にかかったように動けずにいる。
「もしかして、あなたがルイズの使い魔さん?」
 女の言葉に、君は思わずうなずく。
「まあ!」
 女の表情がぱっと輝く。
 歓喜と好奇心の入り混じった、邪気のない笑顔を見せる。
「ルイズからの手紙は読みましたわ。わたしのために、異国のよく効くお薬を持ってきてくださったのね!」
 その外見と口ぶりからしてどうやらこの女が、ルイズのふたりの姉のうち歳下で病弱なほうらしい。
「案内もなしに、よくわたしの部屋がわかりましたね。さあ、どうぞこちらへ」
 そう言って、君を部屋の中へとうながす。
 言われる通りにするものかどうか、君としてはいささか迷う。
 なにかにつれてつんけんとした態度をとるルイズと違って、この女はとても温厚そうだが、今の君は執事を殺した疑いをかけられて
逃亡中の身だ。
 女がどれほどのお人よしだろうと、そのことを知ったうえで君をかくまってくれるとは考えにくい。
 しかし、お前の治療に来たのではないと言って立ち去るのも、不自然きわまる行動だろう。
 躊躇する君の耳に、何人かの者たちが立てる足音と
「まだ見つからないのか?」
「西側は調べ終えた! 次はこっちだ!」と呼び交わす声が飛び込んでくる。
 君が思っていた以上に早く、捜索の手が廻ってきているのだ!
 君は覚悟を決めると部屋に踏み込み、後ろ手に扉を閉め鍵を掛ける。二八三へ。


二八三

 君が立っているのは大きな部屋だ。
 本来は、高級そうな家具や置物で優雅にしつらえられていたのだろうが、今はいささか雑然としている。
 部屋のいたるところに鉢植えが置かれ、天井からはいくつもの鳥籠が吊るされているのだ。
 さらに、さまざまな獣――犬、猫、蛇、はては小熊や、甲羅が一抱えほどもある亀まで!――が部屋じゅうに居て、勝手気ままに
うろつき回っている。
 ≪旧世界≫の、森とそこに棲むものを愛する魔法使いの住処でも、これほど多くの獣や鳥を一度に見るようなことはないだろう。
 獣たちはよく慣らされているらしく、君のような見知らぬ者が突然現れたというのに、威嚇の唸り声ひとつ聞こえない。
 仔犬が一頭駆け寄ってきて、泥だらけの靴の匂いを嗅ぐだけだ。
 しかし、君が部屋の様子に驚いたのは一瞬のことだ。
 扉越しに聞こえる、追っ手の足音と声がじょじょに近づいてきており、そちらに注意を惹きつけられたからだ。
 あと数分で、この部屋の扉も開かれることだろう。
 女のほうに向き直ると、相手は戸惑った様子を見せる。
 妹の≪使い魔≫と名乗る男が、なにかに追われているそぶりを見せ、泥棒のごとく扉の外の音に耳をそばだてているのだ!
「あの……どうかなさったの?」
 女の表情が、気遣わしげなものになる。
 奇妙なことに、ルイズによく似たその顔を前にすると、その場しのぎのでまかせが何も思い浮かばなくなってしまう。
 しかし、黙っているわけにもいかない。
 正直に事情を語ろうと口を開いたその瞬間、扉が叩かれる。
「カトレアお嬢さま、大変です! ミスタ・ジェロームが殺されました!」
 部屋の外からの叫び声に、カトレアと呼ばれた女は両手で口を覆い
「ええっ!?」と驚きの声を漏らす。
「下手人は、ルイズお嬢さまの使い魔を名乗る異国の男ですが、おそらく偽者なのでしょう。奴はまだ屋敷の中に居るはずです!」
 カトレアは鳶色の瞳で、君の眼をじっと見つめる――まるで、君の魂そのものの善悪を見極めるかのように。

 彼女が何かを口にする前に、動かなければならない。
 君は、
 こちらから扉を開けて、外に居る相手に叩きつけるか?・七八へ
 部屋を横切って、窓の外へと逃げ出すか?・三〇〇へ
 カトレアの首に手をかけ、騒ぐと命はない、と小声で脅すか?・三〇へ
 カトレアが君をかくまってくれると信じて、動かずにいるか?・九八へ


九八

 その場を動かずに自分を見つめ返してくる君を見て、カトレアは微笑む。
「大丈夫、わたしにまかせて」
 小声でそう言うと、閉ざされたままの扉のほうに向き直り口を開く。
「ご苦労さま、下がってよろしいですよ」
「そういうわけには参りません、お嬢さま」
 扉の外に居る者の声が告げる。
「貴賎を問わず女子供は全て玄関ホールへ集まるようにとの、奥さまの仰せにございます。人殺しが屋敷の中をうろついているのに、
お部屋におひとりでおられては危のうございます。ホールまでわたくしどもがお供いたしますので、お早く!」
「それが、今朝は体の調子が悪くて……。こうして、ベッドから起き上がっているだけでも辛いのよ」
 カトレアはわざとらしく咳き込み、君のほうを向いていたずらっぽい笑みを浮かべる。
「ホールまで歩くなんて、とても無理。わたしは部屋に残ると、母さまに伝えてちょうだい」
「し、しかし……」
 扉の向こうの声が、困惑したものになる。
「大丈夫。この子たちもいるし、ひとりじゃないわ」
 足下に寄ってきた小熊の頭を撫でる。
「それに、その『偽使い魔』がこの部屋に逃げ込んでくる心配なんてないでしょう? 扉も鍵も、蹴破るには頑丈すぎるわ」
「それはそうですが、奥様が……」
 カトレアはその言葉を途中でさえぎり、わずかに語気を強めて言う。
「いいから、静かになさい。わたしはもう少し眠っていたいのです」と。二一一へ。

二一一

 君は扉に耳を押し当て、外の足音が遠ざかってゆき、完全に聞こえなくなったのを確かめる。
 連中は行ったようだと告げると、カトレアはいささか自慢げに
「どうでした? なかなかの演技だったでしょう。わたし、役者に向いているのかも」と言う。
 君は調子を合わせ、その器量と演技力があれば、どこの芝居小屋だって大入り満員にできるだろう、と答える。
「まあ、お世辞がお上手ですわね」
 カトレアが笑顔を見せると、君もつられて笑う。
 不思議なことに、彼女と一緒に居ると気持ちが安らぐ。
 先刻まで苛立ち、怒り、緊張していたのが嘘のようだ。
 ルイズの将来を思わせるその容姿は見ているだけで安堵し、怒りや疑いとは無縁で、すべてを包み込んで癒してしまうような
その雰囲気――母親である公爵夫人とは正反対だ――に触れると、自然と笑みが浮かぶのだ。

「そういえば、まだお名前をうかがっていませんでしたわね。わたしはカトレア。
カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ です。あなたは?」
 君が名乗ると、彼女は
「まあ、素敵なお名前ですわね」と言う。
 君は緩みがちな表情を引き締め、カトレアに尋ねる。
 執事殺しの疑いをかけられている見ず知らずの男を、なぜかくまってくれたのだ、と。
 君はまだ、弁解ひとつしていないのだ。
 彼女は君を正面から見据える。
「見ればわかりますわ。あなたは優しくて、勇敢で、なにより正義感が強い。闘いが好きなわけじゃないけど、大切なものを守るためなら
それを厭いはしない、強い人。
ジェロームを傷つけるような、悪い人には見えませんもの」
 君はぎくりとする。
 彼女は、君が祖国を救う旅の途中で召喚されたことを知っているのだろうか?
 ルイズからの手紙にそのようなことが書いてあったのかと尋ねると、カトレアは笑って
「いいえ。手紙では、あなたのことにはあまり触れようとしていませんでしたわ」と言う。
 その言葉を聞いて眉根を寄せながらも、君は考える。
 彼女はおっとりとした箱入り娘ようで、意外に勘が鋭い――千里眼のような力の持ち主なのだろうか、と。
「とにかく、あなたは濡れ衣を着せられたのでしょう?」
 君はうなずき、屋敷の門をくぐってからなにが起きたかを語る。
 カトレアはジェローム――彼女や姉が生まれる前からラ・ヴァリエール家に仕えている忠僕だった――の死がいまだ信じられぬ様子だが、
それ以上に、君が公爵夫人から無事逃げおおせたことに驚く。
「あの母さまを出し抜くなんて……いったいどうやったのです?」
 君は運がよかったのだ、と答える――自分が魔法使いだということは、伏せておくほうが賢明だろう。
 納得ゆかぬ様子のカトレアは新たな問いを口にするが、それは突然の吠え声によってかき消される。
 見れば、仔犬が扉に向かって激しく吠えたけっているのだ。
 騒ぎ出したのは犬だけではない――鳥はいっせいにはばたいて鳴き交わし、猫は毛を逆立てて唸り、蛇はシューッと息を吐き、
小熊はカトレアを守ろうとするかのように、彼女と扉の間にのっそりと進み出る。
「あらまあ、どうしたの、みんな? 外に何かいるのかしら?」
 そう言って獣たちを落ち着かせようとしていたカトレアだが、扉のほうを見て息を呑む。
 扉と床の間のわずかな隙間から、毒々しい色の気体が噴きあがっているのだ!
 気体は逆巻きながらじょじょに、翼ある蛇の形になっていく。
「な、なに? これはなんなの?」
 カトレアはうろたえながらも杖を手にするが、それ以上は動けずにいる。
 ハルケギニアの常識を超えた怪物が、姿を現したのだ。
 形の完成した蛇は天井近くを旋回するが、怪物が近くを通っただけで、鳥籠の中の小鳥たちは次々と動かなくなる。
 蛇の体を構成する、命取りの毒煙を吸い込んだのだ!
 息が詰まるような臭気が鼻を襲う。
 カトレアは激しく咳き込み、その拍子に杖を落としてしまう。
「我らの大敵め!」
 怪物――風大蛇が不気味な声を出す。
「この城の奴らがきさまの始末をつけるかと思ったが、犬一匹捕らえられぬ間抜けぞろいだとは! もうこれ以上は待てぬ!
我が力でじきじきに片付けてくれるわ!」

 君はどうする?
 大蛇に話しかけて時間を稼ぐか(二七六へ)、なにか使えるものはないかと背嚢をさぐるか(六へ)、それとも、怪物の弱点を
思い出そうと試みるか(四三へ)?
 望むなら、術を使ってもよい。

 SEV・四八六へ
 ZAP・三四八へ
 HOT・四〇六へ
 GOP・三七一へ
 HOW・四一八へ

四三

 君は風大蛇をどうやって倒したのかを思い出そうとするが、奇妙なことに、そのときの記憶がはっきりとしない。
 渡し舟……ひからびた抜け殻……疾風笛(はやてぶえ)……イルクララ湖……蛇の指環……血の蝋燭……テク・クラミン……風大蛇と関係が
あるかどうかもわからない、いくつかの断片的な事柄が頭に浮かぶばかりだ。
 混乱した記憶に戸惑う君に、風大蛇は容赦なく襲いかかる。
 怪物に巻きつかれるのはなんとか避けるが、逆巻く毒煙をわずかに吸い込んだため、君は咳き込み喘ぐ。
 体力点二を失う。
 次に取るべき行動をすばやく決めよ。
 もう一度、風大蛇の弱点がなんだったかを思い出そうと試みるか(一一五へ)?
 なぜ自分を狙うのだと、大蛇に尋ねるか(二七六へ)?
 背嚢から、この怪物相手に役に立ちそうなものを探してみるか(六へ)?
 それとも、術を試すか?

 SEV・四八六へ
 ZAP・三四八へ
 HOT・四〇六へ
 GOP・三七一へ
 HOW・四一八へ

二七六

 君は、頭上を旋回する風大蛇に呼びかける。
 なぜ今頃になって自分を狙うのだ、こんな事をしている場合ではないだろう、と。
 ハルケギニア諸国の連合軍は、≪レコン・キスタ≫討伐の軍をアルビオンに進めようとしており、七大蛇――いまや二大蛇だが!――の
『ご主人様』であるクロムウェルの命運は尽きようとしている。
 王族や重臣の暗殺を企むならともかく、この世界では≪使い魔≫の身分しか持たぬ自分を狙うなど、戦力の無駄遣いもはなはだしい、
と言ってやる。
 君の言葉を聞いた怪物は、ぞっとするような笑い声を上げる。
「愚かなアナランドびとには、ご主人様がたの深謀遠慮は理解できまい!」
 風大蛇は君をあざ笑う。
「貴きかたがたは、きさまをとても危険な存在と見なしておられる! ご主人様がたは、百万の軍勢でも千フィートの城壁でも防げぬ、
まったく新しい武器を準備しておいでだ。カーカバードとハルケギニア、二つの世界の魔法を融合して作り出された、想像もつかぬほどの
恐るべきものよ。この世界の怠惰で愚鈍な魔法使いどもには、これを止めることなどできはせぬだろう。すべての者が、ご主人様がたの前に
ひれ伏すのだ!」
 そこまで言うと、毒煙の中に赤く輝く眼で君を睨む。
「しかし、きさまはカーカバードの魔法を見知っておる。ほとんどありえぬこととはいえ、我らの武器を打ち破る魔法を編み出すやもしれぬ!
ご主人様がたはどちらも用心深くあらせられる。計画の邪魔となりうる輩を、生かしてはおかぬのだ!」
「新しい武器……二つの世界……魔法を編み出す……?」
 君の背後に立つカトレアが、青ざめた顔で呆然と呟く。
「それじゃあ、あなたは別の世界のメイジなの?」と君に訊いてくる。
 それに答えたのは君ではなく、宙に浮かぶ怪物だ。
「さよう、そやつはカーカバードで我らを邪魔した怨敵、忌むべきアナランドの魔法使いよ。だが、それを知ったところで意味はない。
きさまらはふたりとも、あと数秒しか生きられぬ身ゆえ!」
 そう叫ぶと、大蛇はふたたび君たちのほうへと舞い降りてくる。一五八へ。

一五八

 君はカトレアに伏せろと叫び、彼女を抱きかかえて床に転がる。
 風大蛇は間一髪のところで君たちの頭上を通り過ぎていく。
「死からはのがれられぬぞ、人間ども!」
 大蛇がシューッと息を吐く。
「女よ、恐れることはない。きさまの命なき体を無駄にはせぬ。わしが存分に利用させてもらうぞ――あの執事のようにな!」
 その言葉を聞いたカトレアは、あっと声を上げる。
「まさか、あなたがジェロームを殺して……死体を操ったというの!?」
 カトレアの驚きをよそに、君はイルクララ湖でのできごとを思い起こす。

 君が触れたとたん、渡し守の体は空気の抜けた風船のようにしなびてぐったりとなり、そこから有毒の気体が噴きあがった。
 風大蛇は人間の体にもぐり込み、意のままに動かすことができるのだ!

「アナランドびとに執事殺しの罪を着せるはたやすいこと。しかし、きさまが犬めをかばい立てしてくれたおかげで、我が策略はぶち壊しだ!
償いはしてもらうぞ、女!」
 怪物は憎しみに満ちた声で叫ぶ。
「きさまの体を奪いしのち、家族も下僕どもも、まとめて後を追わせてくれようぞ。あの世で寂しくならぬようにな!」と。
 床から半身を起こしたカトレアは、咳き込みながらも気丈に怪物を睨み、
「そんなこと……させない……」と言う。
 風大蛇がもう一度攻撃をかけようと動いた瞬間、閉ざされた部屋の扉の向こうから静かな、しかしとほうもない怒りを秘めた声が響く。
「カトレア、伏せていなさい」と。
 君とカトレアがふたたび床に伏せると同時に分厚い扉が吹き飛び、部屋の反対側にある窓を突き破る。
 戸口をくぐって部屋に姿を現したのは、ルイズとカトレアの母、ラ・ヴァリエール公爵夫人だ。
 よそおいも表情も客間で会ったときと変わらぬが、その周囲をただよう雰囲気は一変している。
 そばに居るだけでも押し潰されそうなほどのすさまじい威圧感が漂い、その瞳には冷たい眼光のかわりに、怒りの炎が燃え上がっている。
 今の彼女を前にすれば、人喰いの黒竜や≪奈落≫の奥底の魔王でさえたじろぐに違いない!
 公爵夫人は床に伏せたままの君とカトレアを一瞥し、
「大丈夫ですか?」と声をかける。
 あいかわらずの冷たく厳しい声のようでいて、どこか気遣わしげな気持ちが伝わってくる。
「は、はい、母さま……」
 カトレアはそう答えた直後、激しく咳き込む――今まででいちばんひどい、命を絞りつくすような咳だ。
 驚いた君はカトレアのそばに駆け寄るが、公爵夫人に
「お待ちなさい。まずはあの幻獣を討たなくては」と制止される。
 突然の闖入者と、その者が放つただならぬ雰囲気に驚いた様子の風大蛇だったが、気をとりなおしたように動きだす。
「邪魔をするな、女!」
 この世のものとは思えぬ叫びをほとばしらせると、公爵夫人に向かって急降下してくる。
 公爵夫人に闘いをまかせ、カトレアを守るべく動くか(一八六へ)、公爵夫人に指示を出す――従ってくれるとは限らぬが――か(二六三へ)、
それとも術を使うか?

 DUM・三六七へ
 KIN・三五一へ
 HOT・四九一へ
 HUB・四四三へ
 SIX・四七一へ

二六三

 君は公爵夫人に向かって叫ぶ。
 その怪物は毒の気体でできているため、普通の方法では傷つかぬ、と。
 公爵夫人は君のほうを見て、小さくうなずく。
「あなたを信じましょう――今の言葉も、今朝のお話も! 今回の騒ぎは、すべてこの幻獣の仕業だったのですね」
 そう言うと、突進してくる風大蛇に杖を突きつける。
「≪風≫はすべてを吹き飛ばす……それが風そのものであろうとも!」
 凛とした声と同時に杖の先から凄まじい突風が巻き起こり、空中の大蛇を包み込む。
 怪物は必死に抜け出そうとするが、それもほんの数秒のことだ。
 煙でできた体はちぎれ、吹き飛び、跡形もなくなってしまう。
 風大蛇は二度目の死――願わくばこれが最後であらんことを!――を迎えたのだ。

 君はほっと安堵の溜息をつき、カトレアに声をかけようと振り返る。
 だが彼女の姿を見るや、さっと血の気が引く。
 カトレアは床に倒れ臥しており、身動きひとつせぬのだ!
 彼女は風大蛇の体を構成する毒の煙を、わずかに吸い込んでしまったのだ。
 健康な者なら咳き込み喘ぐだけで済むが、生まれつき病弱だったというカトレアにとっては、命に関わるほどの量だったのだろう。
 君は慌てて彼女を抱き起こし、呼吸と脈を確かめる――どちらも、今にも止まってしまいそうなほどに弱々しいものだ!
 公爵夫人が血相を変えて駆け寄ってくる。
「カトレア!」と悲痛な声で呼びかけるが、
公爵家の次女は意識を失っており、なんの反応も示さない。
 公爵夫人は、先刻までの冷静沈着なふるまいが嘘のように取り乱し、
「カトレア、眼を、眼を開けなさい! 死んではなりません! ああ、カトレア!」と、
絶望混じりの声を上げる。
 公爵夫人の豹変ぶりに驚いた君だが、考えてみればそれほど意外な光景ではない。
 厳しく冷たい心の持ち主に見えても、つまるところ彼女はひとりの母親なのだ。
 他の母親たちと同じように我が子を深く愛しており、その命が失われようとしているところに直面すれば、冷静でいられるはずもない。
 実のところ、君自身も冷静とはほど遠い状態だ。
 なんとしてもカトレアを救おうと、必死で背嚢を掻き回す――剣やマントと一緒に預けなかったのは正解だった!
 タルブの村で手に入れたブリム苺の汁が入った瓶を見つけると、中の液体にDOCの術をかける(体力点一を失う)。
 公爵夫人は薬の放つひどい匂いに眉根を寄せ、
「それがルイズの手紙にあった、万病に効くという薬ですか?」と、
疑わしげな様子で尋ねてくる。
 君はうなずき、この薬は毒や傷を瞬時に癒し、弱った体に活力を与えることができる、と真剣な調子で語る。
 公爵夫人は君の言葉を信じる。 
「わかりました、お願いします。どうか……カトレアを助けてください」と言って、
君の邪魔にならぬよう一歩しりぞく。
 君は冷え切ったカトレアの唇を開けて、薬を少しずつ流し込む――タバサの母親のときと同じように、心の中でリブラに祈りながら。
 カトレアに瓶の中身をすべて服ませ、自らの術の効き目を見守る。五四へ。




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