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Fatal fuly―Mark of the zero―-04


 薄暗い、カビた匂いの充満する図書館の一角。
 淡いランタンの光を頼りに、一人読書に勤しむ男性の姿があった。
 痩せた長躯に金の長髪。貴公子然としており、衣装も白で統一している。白のズボンに、インナーは黒のタートルネック。その上に袖無しのロングコートを来て、一番上に長袖のジャケットを着ている。
 そして、前髪に隠されながらも、光を放ち自己主張しているのは使い魔のルーンだ。
 傍から見れば間違いなく貴族として映る事だろう。しかし、人の上に立つという意味では確かに貴族と言えたが、彼はそんな綺麗な人間ではない。

 ――カイン・R・ハインライン。

 セカンドサウスという街を独立させ、知と暴力によって餓狼達の住処にしようと企む男である。
 世の怠惰を憂う彼は、常に足掻き続ける者こそを認める。
 必要なのは、真なる餓え。
 ただひもじいだけではいけない。そこから這い上がり、戦い、掴み取る。
 果てしない理想を追う彼が、今いるのは……、

「精が出るな。カイン」
「ワルドか、良く来たな。さぁ、前に掛けてくれ」
「そうさせてもらおう」

 音も無く肩で風を切り裂いて現れたのは、また金の長髪と髭が鮮やかな、若い男だった。
 騎士然とした服と、腰に下げられた剣にも似た杖が、まぎれもなくハルケギニアでの貴族を証明している。
 そう、カイン・R・ハインラインも、やはりハルケギニアへと呼び出されていたのだ。
 そして、その中でも絶対的な勢力を誇るブリミルの教えを説く、中心の国。
 皇国とも聖国とも称されるロマリアが今のカインの住処だ。

「どうやら引き抜きには成功したのかな?」
「さて、その話をしに来たんだが……」

 卓を挟んでカインの前に座ったワルドは、ふと口元をゆがめて笑みの形を作った。

「ミョズニトニルンであるお前からの情報だ。裏は取れぬが、信用は出来る」
「聖地の向こう側にある物、君が一番興味のあるものだな。最も、それは私もだが」
「そして、俺のいた所より、待遇も良さそうだ」
「当然だ。私は有能な人間への支援ならば惜しまぬよ」
「だが一つ気に入らない事がある」
「何かな?」


 そこで一旦会話の流れが途絶えた。
 針で刺される様な空気。それが二人の間に流れる。
 穏やかな表情を見せている二人だが、内心を他者に測らせる人間ではお互いにない。
 ただし、カインの特技の一つとして、相手の目を見るだけで感情を読み取るというものがある。
 ――成る程、まぁ、考えるまでもなかったのだが。プライマリースクールの教科書より簡単な問題だった。お互い様に落ち着く。
 カインは手にしていた書物をぱたんと閉じ、薄手の手袋に収められた掌を突き出した。

「上からの視線。ましてや魔法も使えぬ者に、顎で使われるのは敵わないと言った所かな?」
「そういう事だ。上下関係という奴ははっきりしておいた方が、人間は上手く付き合えるだろう」
「ふむ、同意見だ。君とは気が合うかも知れないな」
「ただし、馴れ合い等必要としていないのだろう? ああ、やはり俺たちは気が合うな」
「まったくだ」

 視線が交錯する。
 静かな図書館には、既にその平穏は保たれてはいなかった。

「表に出よう。貴重な書物を台無しにしてしまうわけにはいかないのでね」

 そう言うカインの手の中には、既に蒼炎が握りこまれてあり。
 ワルドの口中では、魔法の詠唱が行われていた。

     ※

 大聖堂から程無い場所にある、ぽっかりと開いた草原地帯に二人の姿はあった。
 近くを流れる川のせせらぎは聞こえない。何故なら、

「シュワルツフレイム!」
「ウィンドブレイク!」

 炎が風を焼き、風が炎を吹き上げる。
 初手から、二人の戦いは炎にも似た熱を呼んであり、しかし、風の静けさを覚えさせている。
 互いに打ち消された気による炎と、魔法の風。
 メイジと戦うのは初めてなカインと、気を扱う者と戦うのが初めてなワルド。
 立場は互角だ。
 しかし、やはり杖を用いずに魔法染みた事を行使するのを目の当たりにするワルドには、少なからずの驚きがある。
 持っている知識の差はあるのだ。そういう意味で有利なのはカインか。

(伝説の使い魔、何をしても不思議ではないと思っていたが、な……)

 ラインの魔法に匹敵する物を、一声で生み出したカインに、ワルドは溜めていた詠唱を更に蓄えた。
 油断できる相手でないのは重々承知の上だ。それが実際に身体で理解し、ワルドは本領を見せ始める。

「エア・ハンマー!」

 見えない風を、流れだけを読んでカインが回避する。
 詰まった距離は二メイル。飛び道具など無くして届く距離にいた。
 カインの拳が放たれた。

「ハッ」
「くぅっ!」

 蒼炎に包まれた拳を、ワルドの杖が辛く受け止めた。
 衝撃は予想していた物より遥かに上。亜人の類を越えているとすら思う。咄嗟に放ったレビテーションが役に立った。
 痺れを覚えた腕を振りながら、ワルドは言った。

「成る程、簡単じゃあないようだ」
「さて、次の手は?」

 掌から炎を巻き上げながら、カインが言う。
 嘲るでもなく、誇るでもなく。カインの姿は威風堂々としていた。
 ふん、と、ワルドは鼻を鳴らす。

(こうでなくてはな)

 再び風が奔る。
 しかし、それはワルドの魔法が生み出したそれではなく、彼自身の身体だ。
 フライの魔法によって作られた加速を用い、急接近したワルドにカインは目を見張った。
 そして、唱えていた魔法が解き放たれる。

「エア・ニードル!」

 突き出された杖が、文字通り空気で編まれた棘を纏ってカインを刺した。


「ほう」

 しかし、裂いたのは薄皮一枚。
 ほつれた服から覗いた肌に、血の筋を垂らしてカインは感嘆の溜息を漏らした。
 全身にめぐらせていた気は、刃物すら通させぬ物だった筈だ。
 それを簡単に通過した刃の威力を察するに、魔法という物の見方は強まる。

「やるではないか」
「ふん」
「楽しくなってきたな」
「ああ」
「しかし、言葉を尽くすよりも、やはり我々はこうしているのが心地いい」
「どうかな。お前と一緒にされても困るが……」
「口元をなぞってみろ」
「なぞるまでもない」
「「楽しいな」」

 互いに浮かんだ笑みを堪える事無く、再び影がぶつかり合う。
 蒼炎を纏うカインの拳打、蹴足はそれだけで必殺。
 そして、何もかもを貫く風の刃を携えたワルドのそれも、また必殺。

「シュワルツパンツァー!」
「ウィンドブレイク!」

 また二つの技がぶつかり合う。しかし、身体に炎を纏って突進するシュワルツパンツァーと、飛び道具であるウィンドブレイクでは相性が悪い。
 カウンターを喰らったカインの身体が浮き上がり、無防備に晒された。

「カッタートルネード!」

 万物を切り裂く竜巻が、ワルドの杖から引き出される。
 恐ろしい勢いでもって近づいて来る死の気配を、無防備ながらカインはふてぶてしく笑った。

「見せてやろう。天の息吹を」

 地に落ちる刹那、カインは呟く。

「ヒムリッシュ」

 掲げられた手は天に、

「アーテム」

 地に落とされ、竜巻と匹敵する気の塊が、降りて来た。

    ※

「これ以上は、殺し合いになるな」

 その一声を発したのは、ワルドだった。
 そして、それに頷くカインにワルドは続ける。
 カッタートルネードを相殺したヒムリッシュアーテム。そこから、二人は動くことはなかった。

「対等な関係が望ましいようだ」
「そうかもしれんな」

 答えたカインは、ふっと笑って見せた。

「得た情報を伝えておく」
「有能だな、やはり」
「あまり褒めるな。アルビオンとトリステイン、そこに新たな虚無の使い魔が確認された」
「放っていた影は?」
「何者かに殺害されている。だから、俺がわざわざ伝える破目になったのだ」
「……」

 そこでカインの表情に陰が落ちた。
 自分の手足とした者の死には慣れてはいたが、その事実を知るとやはり浮かぶ情はある。

「らしくなさそうな顔だ。意外とお前は優しかったりするのか?」
「やめてくれ。私の苦手な物を教えよう。それは情だ」

 情を否定する訳ではないが、裏腹な発言だ。

「それがお前の身を滅ぼさないことを祈ってやろう」
「ありがたい事だ」
「では、俺はトリステインに向かう。――――丁度、フィアンセの呼び出した使い魔が、虚無の使い魔という奴らしい」
「ほう?」

 ワルドの一声に、カインの表情が大きく動いた。
 呼び出された面子に当たりは付くが、それが自分の思う人間かどうか……

「ロック、ロック・ハワードという名前だ」
「あはは」

 カインは笑った。
 予想通りだ。
 ギースの遺書に間違いはなかった。

「では、よろしく伝えておいてくれたまえ。叔父より、とな」
「人の繋がりとは奇妙なものだな」
「まったくだ」


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