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狼と虚無のメイジ-07b


狼と虚無のメイジ 第七幕 後編 

「待ちなさいな」

蟲惑的な声色でギーシュの行く手を阻んだのは、褐色の肌の魅力も艶やかなキュルケだった。

再びのどよめき。

群がる男を虜にし、微熱の浮名を馳せているゲルマニアからの留学生。
彼女が一体ギーシュに何用だと言うのか。

「や、やあキュルケ君。相変わらず美し」
バシィ!
「ぶがっ!?」

言葉も言い終わらぬ内に、有無を言わせぬキュルケの平手打ちが炸裂した。

「まさかとは思ったけど、まだ続いてたのね……」
「へ?」
「忘れたって言うの!?」

即座に反対側の頬にも平手打ち。ビシとばかりに一度目よりも大きな音が轟く。

「二つ前のスヴェルの月の夜……あの屈辱を私は決して忘れない……!」

瞳に燃える炎を揺らめかせ、ギーシュを真っ直ぐに睨む。

「次の犠牲者は四人の内の誰にするつもりだったのかしら……?ねえ……ギーシュ・ド・グラモン!」

鬱積した怒りを吐き出すかの様に、鋭く、激しく糾弾する。
目じりには、気丈な彼女が見せるはずの無い、小さな雫。

「おい、あのキュルケが……」
「あんまり男関係は頓着しないはずなのに……」
「犠牲って?」

ざわざわざわ。
ホロの告白まではまだ落ち着きのあった、聴衆の空気が一遍する。

留学生とはいえキュルケは貴族。
トリステインにおいては何かと揚げ足をとられるゲルマニア出身とは言え、その影響力は小さなものではない。
真相は語らずとも、その空気だけでどの様なことがあったか容易に想像がつく。

「でもギーシュはドット……」
「わからんぞ、卑怯な手を使えば……」
「え!?弱みを握って無理矢理!?」

聴衆の会話はヒートアップするばかり。
本来なら数週はかけて尾鰭のつく噂が、真相を語らぬが故に、雪ダルマ式に過激なものへと変わっていった。

「え?ちょ……ええ!?」

両の頬が腫れ上がる醜態も、今のギーシュにとっては何ら気になるものではない。
それよりも目の前に展開される愛と憎しみの劇場の方が、遥かに始末に負えない問題だ。

「ま、待ってくれ、その日は確かモンモ」
「黙りなさい!」

キュルケの一喝に、ギーシュは素直に口を閉じてしまう。
普段の妖艶さとはまた違う、誇り高き雌豹の一声。抗えるはずも無い。

「……私は良いのよ。まだ割り切れるわ……でも!」

そうして振り返ったキュルケの視線の先にいたのは、タバサだった。

「……」
「タバサ……本当に良いの?」
「……ん」

いつも通りの無表情で、こくりと頷く。
だが、どこか弱弱しい。
張り詰めた何かが解かれた、年齢相応の少女に見えた。

「……あなたのことは、許せないし、忘れられない」

言葉少ないながらも明らかな拒絶。だからこそ周りの皆に訴えかける。

「けれど」

そう言った後、タバサは両の手を、そっと優しく自らの腹部に添えた。

「この子の為にも……私は貴方と決別する」


しぃぃ……ん。


タバサの言葉に、食堂内は一瞬静まり返り。

『えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇ!?』

堰を切った様な聴衆の驚愕の声。

「よりにもよってそんな年端も行かない……」
「幾ら何でも犯罪だぞギーシュ!」
「スキャンダルだわ!前代未聞だわ!」
「おーかーさーれーるー!」

食堂内に波紋の様に広がる混乱。
実際に明確に恋愛感情を伴う言葉を示しているのはシエスタだけなのであるが、もはや聴衆の中では一連のストーリーが出来上がっている。

ただの痴話喧嘩から平民の許されざる告白へ
そして一転、ギーシュという性犯罪者の追及の場へ。

一切事実は無いと言うのに、着々と真実が積みあがっていく。

「そんな、嘘でしょうギーシュ様!」
「お慕いしておったのに……まさかわっちらもそんな目で……?」

困惑を演出するホロとシエスタのアドリブ。どこで打ち合わせしていたと言いたくなる程に呼吸がぴったりだ。
信頼し、恋慕していた男性が実は強姦魔だったと言う悲劇。
如何に平民と言えども、これなら後から周囲に詮索されることも無い。
むしろ一時は悲劇のヒロインとして丁重に扱われようと言うものだ。

「い、いや違う!そもそも僕は童」
「ギーシュ!」

ギーシュの戯言を遮るその声に、ホロの瞳がギラリと細まる。
袋小路に追い詰められたギーシュを確実に追い込む最後の仕掛けの発動である。

声のする方向に立つ人物。
トリを勤めるのは、勿論我らがヴァリエール嬢に相違ない。

何時の間にそこにいたのか、ギーシュの真横に佇んでいた。
その声が聞こえるまで、そこにいたことが気づかない程に静かだ。

「嘘……だったのね……」
「ル、ルイズ、ナンノコト」

ぽつりと。

「魔法……使えなくても……君は……君だって……」

淡々と、ただ淡々と言葉を紡ぐ。

「信じて……たのに……嬉しかったのに……信じてたのに……」

その言葉は少しずつ大きくなり、ルイズの纏う何かが臨界点に達する。
そして、くわと見開いた瞳には、殺意にも似た怒り。

「信じてたのにッッッッッ!」
「ぎげっ!」

パシィと甲高い音を出して振り下ろされたのは、ルイズ御用達の対馬鞭。
見かけはもの凄く痛そうで実際痛い。

「外道っ!悪魔!人でなし!」

いつしか涙を流して鞭を振るうルイズ。
かつては愛した男性に鞭を振るわねばならぬ、憎悪に塗れた自分に対する悔恨の涙……周囲にはきっと、そんな風に見えたに違いない。
良く注視すればちょっとだけ悦が入っている様に見えるのがまだまだ課題だが、事ここに来てそこを判断できる聴衆もいない。

「おいおい……ゼロのルイズまで……」
「公爵家だぞ!?もう痴話喧嘩って段階じゃ……」
「それにキュルケとタバサは留学生だしな。となれば国際問題……」
「最悪グラモン家は……」
「ああ、終わりだな」
「でもそうなるとあの二人も可愛そうよね……」
「決死の思いで告白した相手があんな外道だなんて……」

ギーシュ=外道のストーリーは覆せぬ段階に達していた。
もはや多少の違和感など、濁流に飲まれる小さな羽虫に等しい。

一頻り鞭打ちを堪能した後、ルイズはキュルケとタバサに目配せする。
それを見たキュルケが、再びギーシュの前へ。

「そうよこの外道!」
「けぶっ」

早歩きの勢いで、見事な右ストレートがギーシュの鳩尾にヒットする。
腹を抱えてうずくまりかけるギーシュに、接近するのは青い影。

「さようなら……ギーシュ……」
「がぶぁっ!」

無表情にタバサがギーシュの懐に入ると、体全体を使ったアッパーカットを叩き込む。
実に無駄なく鮮やかな、明らかに訓練された動作だった。
ギーシュは少し浮いた後、受身も取れず盛大に後ろに倒れる。

「……な……何かの間違いだ……」

ギーシュにとっては悪夢であろう。
当人はほとんど身に覚えの無いところで、あっと言う間に自分の地位が、犯罪者にまで暴落してしまったのだから。

(とりあえずこれで終わりよね?ホロ)
(くふ、わっちらの役目はの)
(私達の?)

鞭を振り終え、奇妙な爽快感を感じていたルイズ。
小声でホロと話していると、あることに気づいた。

今まで自分を取り巻いていた視線が感じられない。そのベクトルはと言えば……。

「あ……つつ……?な、なんだい君達?」

ヨロリと起き上がったギーシュを取り巻く無数の目、目、目、目。
圧倒的な蔑みの視線が、ギーシュを痛い程に突き刺していた。

「この……女の敵!」
「のぶっ」

どこかから投げられた生卵が、べちゃりとギーシュの顔面に命中した。

「や、ややめたまえ!」
「黙りなさいこの犯罪者!」
「くべっ!」
「同じ息を吸ってると思うだけで吐き気がするわ!」
「ごげっ」
「このケダモノ!」
「女の敵!」
「ぼ、僕は無じ」
「死ね!」

群がってきた女性陣の怒声に、ギーシュの声は哀れにも掻き消される。
その中心から「のべっ」とか「ぐぎゃ」とか、豚の様な悲鳴が断続的に聞こえてくる。
それを遠巻きに見る男性陣は少し怯えており、止めようとする者はいない。いる訳が無い。

「えっと……ホロさん」
「んう?」
「ありがとうございます。お蔭様で下げずとも良い頭を下げずに済みました」

そんな惨状を横目に、清清しい笑顔でシエスタがホロ礼を言った。

「くふ、その様子じゃと、何もせずとも良かったようじゃがの」
「やっぱり演技だったの?やるじゃないの貴方。よく咄嗟にあそこまで出来たものだわ」

ルイズが手放しでシエスタを褒める。貴族相手にああも物怖じせず演技する等、中々出来るものではない。

「ふふ、それなりに小ずるくなければ平民はやってられませんから……あ、もしこしてこの事バラされたりなさいます?無礼打ちとかになってしまうんでしょうか?」
「そんな気は無いけど……」
「その必要があっても安易にやるのは止めておくのがよかろ。こやつ、羊の皮を被っておるが、中身はどうして……」
「いえいえ……しがないただの平民女中ですよ?」

まだ出会って間もないルイズだったが、ホロとのやりとりの賜物か。

今までならただ優しげに見えたであろうシエスタの笑顔の裏に、底知れない何かを感じてしまう。
少なくとも、敵に回したらオーク鬼やドラゴン並か、実際にはそれ以上に厄介ではないかと。

「話は終わったかしら?」

機会を伺っていたのか、キュルケが口を開いた。

「楽しませて貰ったわ。実を言うと私もあいつどうにかならないかと思ってたのよねー」
「……気分転換」

傍らのタバサがぼそりと呟く。多分、本人としては楽しんだのだろう。

「まあ、それはそれとして、さっき言い逃したことを言わせてもらおうかしら」

かつかつと歩み寄ったキュルケが杖を向ける。
その先にいたのは……ホロ。

「ホロ……あなたに決闘を申し込むわ!」
「はぁぁぁぁっ!?」

呆れた様な、驚いた様な。なんとも微妙な声を上げたのは、主人のルイズ。

「キュルケ……大丈夫?微熱が行き過ぎて高熱にでも至った?」
「ああ、もう、それよそれ!」
「どう、どう」

キーッとばかりに古典的なヒステリーを起こすキュルケ。そしてそれをを再び諌めるタバサ。どちらが子供か。
ともかく落ち着いたところで、咳払いを一つ。説明に戻る。

「言っておくけど、言葉遣いがなってないとか、そんな理由でふっかけてる訳じゃないわよ。何処かの左巻きじゃあるまいし」

悲鳴はまだまだ聞こえてくる。それは力強い、確かな生きている証だ。まだまだ余裕があるとも言える。

「ホロを召還して一昼夜でどうしちゃったのよ!分刻みで話術のレベルが上がってるじゃないの!それこそどういう魔法だって言うの!?」
「はあ」
「ルイズってのはね、もっとツンツンしてなきゃ駄目なのよ!孤独で……コンプレックスの塊で……泣き虫で……何と言うか、余裕があっちゃ駄目なのよ!」
「……悪意の感じない侮辱と言うのは始めてだわ」

目の前にいるキュルケが、何だか遠い国の人の様に感じるルイズ。実際別の国の人間だが。

「くふ、なんじゃ。からかい相手が成長して面白くないということかや?」
「んなっ!?」
「ふむ、良い良い。良かろう。その決闘、受けよう」
「ちょ、ホロ!?」

余りにもあっさりと了承するホロに、ルイズは驚いて声を荒げた。

「あのね、決闘ってのがどんなものか解ってるの?」
「命を掛けた殺し合いであろ?」
「そうよ、本気で殺し合いになったりしたら……」

そうそう、こういうのがルイズなのよこういうのが。重要な部分で優しさを見せる健気な娘。無礼な使い魔すら自分の事の様に気遣える優しい子なのだ。
が、そんな思索にふけっているキュルケが次に聞いたのは、予想もしていなかった言葉。

「キュルケなんか一呑みじゃない!」
「そう、ひとの……は?」
「キュルケも考え直して!正直貴方美味しそうだし、ペロリよ!」
「ペロリ?」

勿論キュルケはホロの正体を知らない。かなり世間慣れしている、認知されていない亜人程度の認識である。
よって、これは回りくどい挑発であると捉えた。

「ふん。その手にはのらないわよ!心配しないでも魔法を使う様な物じゃない、フェアな勝負と行きましょう。方法はあなたに任せるわ」
「はて、わっちに有利な勝負にしたらどうするのかのう?」
「如何に卑怯な勝負でも、真正面から受けて立って上げようじゃないの。ちなみに私が勝ったら暫くルイズとの会話を禁止させて貰うわ」

二者の間に火花が……特に散ることは無かった。
キュルケの挑戦的な視線は相手を捕らえることなく、肝心のホロは未だ続く騒動の方を向いていた。

「ふむ、よかろう。勝負の方法については心当たりがある。じゃが差し当たって……」

ホロが指を差すと、ギーシュに群がっていた女性陣がザアッと二つに割れた。

「それ『最も無残な最期』の登場じゃ」

不敵に笑うホロの視線の先。
ギーシュに向かって、静かに歩み寄る一つの影。


そもそも何故あれだけ群がっていた女性達が引いたのか?
それは、にわかに沸いた聴衆の怒りなどではない。


「……ギィィィシュゥゥゥゥゥゥゥ……」

当事者ししか知らぬ『本物』の、殺意と嫉妬を感じたからではなかったか。


「うぐぐぐ……?」

どっこい生きていたギーシュが、その地獄の底から響き渡るかの様な怨嗟の声を認める。

「……ギィィィシュゥゥゥゥゥゥゥ……」
「……ひいいいいっ!?」

認めたその顔は、ギーシュがよく知っている者であった。
そしてもしかすると、移り気な彼をして、やはりこの女性しかいないと思っていた者であった。

しかし。だがしかし。

ギーシュが認めたその顔は、彼が知っている顔とは余りにも……絶望的なまでにかけ離れていて。



『ギィィィィィィィィィッッッシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!!!!!』
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



この者 ちから強くして嫉妬ふかく

勢い ハルキゲニアを滅ぼすがごとし

意中の男張り倒し 浮気と見れば爪裂く

モンモランシーといふもの 名よりも見るはおそろし

憤怒の形相たるや正に悪鬼。
しかし流れる涙の悲壮感はそれを遥かに凌ぎ。

遠巻きに見ていたルイズをして、思わず「ひ」と声を漏らす代物である。

やにわに掴んだワインの瓶は両の手に。

「モモモモモモモンモン!話せば……話せぶべばっ」

躊躇無く、二本の鉄槌を振り下ろす。
砕け飛び散るガラス片。そして辺りに拡散する芳醇なワインの香り。

「ぐがっ!げぶっ!ごぶっ!のげっ!」

それ一発。やれ一発。もう一発。
砕けて凶器と化したワイン瓶を、欠片の加減も無く振り下ろす。

馬乗りになりながらも、モンモランシーは一切無言なのが一層不気味だ。

「ごぎゅえっ!ヒィぶぇっ!」

ワインで目立たなかったが、明らかにワインと異なる赤がギーシュのシャツを染め始めている。
ぼちぼちギーシュの反応が痙攣を帯びたものになってきた時、モンモランシーは立ち上がった。
まだ理性が残っていたのか。

「も……モンモォぐっ」

そうではない。そうである筈が無い。

怒髪が有頂天まで貫くモンモランシーの怒りが、そう容易く収まる筈がないのだ。
ギーシュの髪を引っ張ると、半ば無理矢理立たせる形で引き摺り始める。口からは「あぶぶー」「もべべ」など意味不明な音が漏れていた。

あちらこちらにぶつかることすら頓着せず、向かってきたのはホロとルイズのいる一団である。

「そこの二人……」

抑揚の無い声でモンモランシーが指定したのは、ホロとシエスタの二人。
余りの怒気にキュルケとルイズはたじろぎ、タバサでさえ冷や汗を足らしているのに、実に平然とモンモランシーに対峙している。
どうやら怒りの矛先でないとはいえ、どうやったらここまでケロリとしていられるものか。

「この男にどれ程失望していることでしょう……ええ、わかっているわ。きっと悔しくて悔しくてたまらないでしょう」

二人とも内心は毛程もそんなことは思っていないが、勿論そんなことはおくびにも出さない。
ただ黙って静かに頷いた。

「そう……うん、そうよね。だから、私が許すわ」

モンモランシーが怒気を孕んだ表情を緩め、静かに笑う。

「こいつ、ブチのめしていいわよ」

それは正に極上の笑顔。
ルイズは理解する。笑顔とは本来攻撃的な物。そして怒りが頂点を極めた時に出る物もまた笑顔なのだと。

「そ……そんな……」
「こ、困りんす……」

この後に及んでまだ突然のことにうろたえる平民のふりをしているのが始末に終えない。
内心どう攻撃するかの算段で一杯の筈である。
何せ大手を奮って貴族を殴れる太鼓判が、向こうからやってきたのだ。

「大丈夫よ……そこの三人も……良いわよね?」

笑顔の矛先をルイズ、キュルケ、タバサに向ける。三人とも顔に縦線を走らせてこくこくと頷いた。
借りてきた猫の様だ。

「で、ではわっちが……」

声はやや怯えつつも、内心にたにた笑いながらホロがとった行動は。

「あぎぎぎぎぎぎぃぃぃぃぃぃぃ!」

すでに意識が朦朧としかけたギーシュが悲鳴を上げる。
攻撃されていたのは足の小指の付近。

硬い靴でぐりぐりぐりぐりこね回されている。
足にしろ手にしろ、指責めと言うのは道具無しの拷問手段としてはポピュラーな代物だ。
神経の集中しているところを、両足とも丹念にやられてはたまったものではない。

その上傍から見れば直接的ではないので、あまり攻撃的な印象も与えない。どこまで計算しているのか。

「えっと、それでは……」

ホロが終わったのを見計らい、シエスタもおずおずと進み出る。
考えて見れば罠に加担した五人の中では、一番恨みのある人物である。

ギーシュは視線で訴える。
もう止めて、僕のライフこそゼロだ。社会的信用も含めて。
そんなチワワの様な目で涙すら流して懇願する。

それを見たシエスタは、聴衆から見えない角度で、ギーシュにだけ見える角度で。

「あらあら……ふふふ……」

モンモランシーのものに勝るとも劣らぬ、極上の笑みを浮かべたものだ。

驚愕に瞳が見開かれるギーシュを前に、シエスタはやや腰を低くして。

『ぅぽぉォぐっ』

その健康的な足で、ギーシュの股間。即ち男の甲斐性、存在理由、レーゾンデートルを。

「……ごめんあそばせ」

一切の躊躇も無く蹴り上げた。

もはや呻きの一つも上げることなく、ぶくぶくと泡を吹きながら、ギーシュは地面に倒れ付す。

ギーシュ・ド・グラモン。彼の男が、尊厳が、身も心も完膚なきまでに粉砕された瞬間であった。


「……さあ……ギーシュ……二人で……話し合いましょうか……?」

しかし、ここまでやってもまだ終わってなどいなかった。
意識をついに手放したギーシュの足をむずと掴み、モンモランシーは何処ともなく引き摺っていく。
嗚呼、始祖ブリミルよ。貴方は一体どこまでこの男に試練を与えると言うのか。

そしてその様を見たホロが、ある場所を差してこう言った。

「くふ、ルイズ。わっちの考えは外れておらんかった様じゃ」
「え?」

ホロの指のさす方向。

「あ~」

一同、納得。


引き摺られ、消え行くギーシュの頭頂には、それはそれは見事な左巻きが、誇らしげに渦を巻いていた。


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