あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ラスボスだった使い魔-07


「ぐっ、あ、がぁぁぁああ……!!」
 決闘直後の気絶より目覚めたユーゼス・ゴッツォは、苦痛に責め苛まれていた。
 ……それは、彼のような人間が戦いに身を投じることによって生じる、宿命のようなモノ。
 回避しようと思って回避が出来るモノではなく、また、これを経験しない人間はほぼいない、と断言が出来るだろう。
「っ、迂闊だった……!」
 この可能性を考慮していなかったとは、自分らしくないミスである。
 恨めしいのは、自分はこの苦痛を味わっていても、同じく対戦者であるギーシュ・ド・グラモンはまず間違いなく苦痛など味わっていない、という点だ。
「ぬぅぅううう……!」
 何十年か振りに味わう痛み。
 身体中が、軋みを上げる。
 その痛みとは、すなわち―――
 ガチャッ
「筋肉痛は治ったの、ユーゼス?」
「……一時間やそこらで治るわけがないだろう、御主人様」
 ―――運動不足から来る、筋肉痛である。
「ったく、アンタどんだけ体力ないのよ。魔法を使う貴族だってね、イザという時のために最低限は身体を鍛えてるわよ?」
「……私は魔法が使えない平民だ」
「なら、なおさら鍛えてるべきでしょ」
「鍛える必要がなかったからな」
 今までのユーゼスの人生は、ひたすら研究に打ち込むものだったため、肉体を行使する必要が皆無だったのである。
「……筋肉痛を治す秘薬を手に入れる、という話はどうなった?」
「よくよく考えたら、筋肉痛って自然に治るんだから必要ないんじゃないかしら」
「……………」
 確かにその通りなのだが、何となく納得のいかないユーゼスだった。

 翌日の早朝。
 痛む身体に鞭を打って、とにかく本日の仕事の手始めである洗濯に取りかかる。
 ギギギギギ、と錆びたブリキの人形のような動きで洗い場に到着。
 グググググ、とスローな動きで洗濯を開始。
 洗濯の内容そのものよりも自分の身体の動かし方で四苦八苦していると、
「……おはようございます、使い魔さん」
「ああ」
 昨日の黒髪のメイドが、やはり大量の洗濯物を抱えてやって来た。
 メイドは洗濯物を置くと、少し落ち込んだように目を伏せる。
「あの……すいませんでした」
「何の話だ」
「昨日のミスタ・グラモンとのことです。あの時、逃げ出してしまって」
 ユーゼスは、ああ、と呟くと、メイドの方を見ずに口から言葉だけを放つ。
「あれが『普通の反応』なのだろう? 謝ることでもあるまい」
「……ほんとに、貴族は怖いんです。私みたいな、魔法を使えないただの平民にとっては……」
 そして昨日と同じように、黒髪メイドは自分の横で洗濯を始める。
 ……昨日との違いと言えば、少し沈んだ様子であるということくらいだろうか。
「でも、使い魔さんを見てて思いました。平民でも、貴族に立ち向かっていけるんだって。
 ……マルトーさんも―――あ、厨房のコック長の方なんですけど―――、『ひ弱そうな感じだが、なかなか骨のある兄ちゃんだ』なんて言ってましたし」
 あはは、と笑うメイド。その笑い声にも、やはりどこか力が無かった。
(………?)
 違和感は感じる―――が、このメイドの個人的事情がどうだろうと、ハッキリ言って自分には関係がない。
 何か困ったことでもあるのか、と少々気にはなるし、洗濯を教えてもらった恩もあるが、だからと言って深入りする筋合いはない。
 と言うより、このメイドとの関係は、深入りするほど長くも濃密でも強くもないのである。

 若干の違和感を残しつつも洗濯を終え、ルイズを起こして身支度を整え、朝食の席(と言っても床だが)に着く。
 と、そこでまた違和感を発見した。
「……御主人様、私の食事に野菜と肉が付いているが」
「え? ……あら、ホントだわ。手違いかしら?」
 最初は僅かでも待遇が改善されたのか、とも思ったが、この主人に限ってそれはないらしい。
 はてな、と主人と使い魔が揃って首をかしげ、ふと周りを見回してみると、
 またギーシュ・ド・グラモンと目が合った。
「……………」
「―――――」
 パチ、と軽く片目をつぶるギーシュ。
 ―――どうやら、察するに『平民とは言え、仮にも自分と引き分けた男がうんぬん』という所だろうか。
(……妙な所で律儀と言うか、プライドの張り所を間違えているような気もするが)
「―――どうやら、奇特な貴族が差し入れてくれたらしい」
「? ふーん、ホントに奇特なヤツがいるのね」
「全くだ」
 まあ、せっかくなので、ありがたく頂いておくが。

 そして、時間は更に少々流れ、ギーシュとの決闘より4日目。
 筋肉痛もようやく完治した朝。
 洗い場に到着すると、いつもの黒髪のメイドではなく、金髪のローラというメイドがいた。
 そして、黒髪のメイド―――ユーゼスは彼女が『シエスタ』という名前であることを今、知った―――が、魔法学院からモット伯という貴族の屋敷へ奉公先を変えた(実際は強引な引き抜きに近いそうだが)、という話を聞いたのだった。
(そういうこともあるか)
 人身売買まがいの人材の引き抜きなど、別に珍しくもない。
 世界が違えば、多少の習慣や常識の違いなどはあって当たり前だ。
 何より、周囲の人間が渋々ながらも納得しているということは、一応の正当性はある、ということである。
 異邦人で平民の自分が口を出す問題でも、口を出してどうにかなる問題でもないのだ。
 『銀の方舟』とやらの情報は少し惜しいが、別になければ困るという程でもない。
(そんなことより、目の前の洗濯だな)
 そうして、主人から渡された洗濯物を洗い始める。
 ユーゼス・ゴッツォ。この男は、かつて―――

「て、てめえ! 何様のつもりだ!! 人間を何だと思っていやがる!!」
「単なる道具……という答えでは不服か?」

 ―――このように言い切った男でもあった。
 人間、多少環境が変わった程度では、根本は変わらないのである。

 その日の昼前。
 ルイズが授業を受けている横で、ユーゼスはカリカリとペンを羊皮紙に走らせていた。
「……何やってるの、アンタ?」
「レポートの作成だ」
「れぽーと?」
 主からの問いに素っ気なく答えると、黒板に書かれた文字へと目を移し、それを更に別の羊皮紙に書き記す。
「『れぽーと』って、何よ?」
「報告書、研究成果の簡易的なまとめ、小論文―――呼び方は様々だがな。自分なりの『魔法』の考察、というところだ」
 ルイズは、ふーん、と興味なさげに頷くと、次の瞬間には何かに気付いて顔をしかめる。
「……アンタ、まさかそれをアカデミーに持っていくつもりじゃないでしょうね?」
 この使い魔を召喚したその日の晩、ルイズは『アカデミーに連絡を取ってみる』と約束していた。
 ……実際、長姉への手紙という形でアカデミーへ連絡を取り、今はその返事を待っているのだが。
「それこそまさかだ。……平民の素人のレポートだぞ? メイジの専門家に見せられるようなレベルには、とても達していない。
 あくまで『現時点でのまとめと考察』だからな、もっと知識や実地、研究、推敲が必要だ。
 ……どちらかと言うと、『字の練習』の方がウェイトが多いと言える」
「それもそっか」
 当たり前よね、と再び興味なさげに頷き、ルイズもまた授業へと意識を移した。
 教師の声と、黒板に書くチョークの音、生徒がペンを走らせる音、そしてわずかな雑談の声が、魔法学院の教室に響く。
「……………」
 ふと、ユーゼスが顔を上げた。
 そのまま何事か考える素振りを見せると、
「……御主人様、外出する許可をもらいたい」
 無表情に、ルイズへ外出を申請する。
「? どこ行くのよ?」
「少し『そこまで』だ」
 そう言って、窓の外を指差すユーゼス。
 ルイズはそれを見て『森の中に何かあるのかしら?』と呟いた後、
「ま、いいけど。……昼食までには戻って来るのよ、いいわね?」
 決して快く、とは言えないが承諾した。
「感謝する」
 短く礼を告げ、ユーゼスは速やかに教室から出る。
 そして周囲に誰もいない場所まで移動すると、脳内のクロスゲート・パラダイム・システムを起動させ、自身の周囲に虹色がかった立方体のエネルギーフィールドを展開させた。
「……………」
 時空間移動の、転移先を設定する。
 目的地は、先程ルイズに申告した『そこ』―――魔法学院の周囲にある森を越えた先だった。


 場所は変わって、魔法学院より少々……と言うには遠すぎるほど離れた地点の上空。
 北花壇騎士七号こと『雪風』のタバサは、ガリア王女の裸踊りという珍妙な見世物を後にして、取りあえずの住居である魔法学院に戻るところであった。
「あー、それにしてもケッサクだったのね、あの王女の踊り! お姉さまも『趣味が悪い』なんて言わずに、後々からかうために見ておけばよかったのに! きゅい!」
 青い鱗の竜は、その背に主人であるタバサを乗せながらウキウキと話す。
 この竜はその名をシルフィードと言い、ルイズにとってのユーゼスと同じく、タバサの使い魔である。
 ただし、いくら使い魔だからと言っても、契約して間もなく易々と人語は操れない。
 風の古代竜、『風韻竜』と呼ばれる伝説の幻獣であるシルフィードだからこそ可能なことだった。
 なお、『伝説の幻獣』であることが発覚すると、かなりややこしい事態になることが予想されるので、シルフィードは自分以外の人間がいるときは一切喋らせず、『ただの風竜』で通している。
 このあたり、クロスゲート・パラダイム・システムを隠しているユーゼスと共通点があるかもしれない。
「それにしても、最近になってお城に現れた、あのお爺さん! ……えーと、名前はなんだっけ? ぶ、ブルブル卿?」
「ブレイン卿」
「そうそう、それそれ! いっつも黒いローブばっかり着て、なんだか怪しいことこの上ないのね! あの王女やお姉さまを見て、『よいよい、その調子でな』とか言うし!」
「どうでもいい」
 そう、タバサにとって、『自分の目的』を果たすためならば、周囲の人間など直接的に関与しない限りはどうでもいいのである。
「……あのね、お姉さま?」
 使い魔の呼びかけに、主人は答えない。
「召喚されて契約したときから思ってたけど、お姉さまは愛想がなさすぎなのね! もっと、こう、シルフィと少しは会話を楽しむのね! ペラペラ喋りまくるお姉さまもそれはそれで違和感あるけど、だからと言って今のままでもダメだと思うのね!
 ……そうだ、自分一人でダメなら、気のきいた会話が出来るようなお友達をお作りになるがいいのね! きゅい!」
「友達ならいる」
「あのキュルキュルとかいう享楽主義者のあばずれの不真面目者は、シルフィ、好きじゃありません。
 じゃあ、友達がダメとなると……恋人! そう、恋人を作るべきよ! そうすればお姉さまももっと愛想がよくなって、わたしも楽しい! 一石二鳥なのね!」
「……………」
 一人で勝手に盛り上がるシルフィードだったが、タバサはローテンションであった。
「好きな男の子、いないの?」
「いない」
「だったら作るの。
 ……ええと、お姉さまの恋人となると……魔法学院の魔法使いたちは、みんな気取ってるからシルフィ好きじゃないし……う~ん……」
 シルフィードは空を飛びながら、うんうん唸る。
「ああ! あの人なんかどう? あのギーシュさまと引き分けた、平民の男の人! お姉さまが初めてお付き合いするにはぴったりじゃない? はじめは人間の使い魔なんてみっともないって思ったけど、なんか物静かで、理屈っぽくて、それでいて変にガンコなところなんて、お姉さまに似てるような気がするし!
 ちょっと年が離れすぎてる気もするけど、恋愛入門者のお姉さまは年上にリードしてもらえばいいのね!」
 まくし立てる使い魔の言葉を聞き流しながら、タバサは本に目を移す。

「じゃあ今度、デートに誘いなさい。いや、お姉さまが誘ったのでは、はしたないから―――

 ―――――!!!??」
 ビクン、と突然シルフィードの身体が硬直する。
「!?」
 空中でいきなり停止したため、ガクンとシルフィードの巨体が揺れ、自然とタバサの小さな身体も大きく揺れる。
 タバサは慌てて本から目を離し、自分の使い魔に呼びかけた。
「どうしたの?」
「あ、ああ……」
「しっかりして」
「で、出て来るのね……!」
「……?」
 怯えた様子のシルフィードをなだめながら、何があったのかを尋ねるタバサ。
 そして次の瞬間、
 ヴンッ!!
 赤い光と共に、『それ』が出現した。

 ―――『それ』は、一言で言い表すと、『骨』。
 黄色い角と爪を持った、巨大な―――20メイル弱ほどの、骨の怪物であった。
「い、いやなのね……!」
 その姿を見たシルフィードが、よりいっそう怯えの色を濃くする。
「アレを知っているの?」
「お、お姉さま……あれは……いけない……。う、うまく、説明は出来ないけど……あれは……出て来ちゃいけないものなのね……!」
「……しっかりして!」
 シルフィードを叱咤しながら、タバサはとにかく落ち着けるように彼女を着地させる。
 おっかなびっくりシルフィードは地面に降り、タバサはその頭を撫でながら『骨』の様子を見る。
『……グォオオオオオオ……!』
 『骨』が低い唸り声を上げると、腹部にある赤い光球が輝き、その輝きが左腕の爪に移る。
 次の瞬間、左腕の爪は『骨』自身の体長並に巨大化し、
 ドシャァアアアアアアアアアンンン!!!
 近くにあった屋敷が、薙ぎ払われた。
 そこから多くの衛兵や使用人たちが吹き飛ばされるのを見て、タバサは即座に決断する。
「……………」
「お、お姉さま、どこ行くのね! きゅい!」
「……アレを止める」
「ダ、ダメなのね! シルフィの感覚が言ってるの、アレは関わらない方がいいって! それにお姉さまなら、アレが簡単に勝てる相手かどうかくらいは分かるはずでしょ!? シルフィと一緒に逃げるのね、お姉さま!!」
「見過ごせない。……待ってて」
 使い魔が発する最大限の警告を押し留めて、一歩を踏み出すタバサ。
 ……シルフィードは、恐怖に震えながらその背中を見送ることしか出来なかった。

 タバサは『フライ』の低空飛行を使い、高速で『骨』に接近する。
 無論、一直線に向かうような愚は犯さない。
 左右はもちろん、時には後ろに下がり、直線と曲線を織り交ぜながら、接近と同時に撹乱を仕掛けているのである。
『……グォオオオオオオ……!』
 巨大な爪が振るわれる。
「………」
 それなりの余裕を持って回避したつもりのタバサだったが、しかし、
 ドガァアアアアアアンンン!!!
「…………っ!」
 『骨』の爪が地面に激突した衝撃、その余波だけでタバサの小さな身体がぐらついた。
 タバサは若干慌てて体勢を立て直し、更に接近―――懐に飛び込む。
「………」
 その無機質な赤い眼球に違和感を覚える。
 こんな幻獣は見たことも聞いたこともない。ゴーレムにしては材質が未知の物質すぎるし、かと言ってガーゴイルにしては生物的すぎる。
 ……その正体はハッキリ言って気になるが、今はそんなことを考えている場合ではない。
 懐の死角に入り、呼吸を落ち着けて詠唱を開始する。
「ラグーズ・ウォータル―――」
 ……しかし、この『呪文の詠唱』には、全ての系統魔法に共通した欠点がある。
 一つは、使い手であるメイジが変わろうと、その詠唱の内容は寸分違わぬ物になってしまうこと。
 つまり『詠唱の内容』さえ把握してしまえば、どのような魔法が繰り出されるのか簡単に判明してしまうのだ。
 とは言え、それは魔法を使う側のメイジも百も承知であり、特に実戦派のメイジは詠唱を最小限の声量で行ったり、唇などの動きから悟られないように極力口を動かさないようにする訓練を行うことに余念がない。
 加えて、もう一つ。魔法の詠唱の長さは、威力に比例している。
 『詠唱の内容は寸分違わぬ物』である以上、これはいくら訓練してもどうしようもないことである。
 ……対応策としては、可能な限り早口で詠唱するしかないが、それにも限界はある。
 すなわち、メイジが魔法を発動する際には、最低でも一瞬程度の隙が生じてしまうことになるのだ。
『……グォオオオオオオ……!』
 低い唸り声と共に、『骨』の腹部の光球が鈍く輝き、その光は今度は左腕ではなく、両肩の角のような器官に移動した。
 そしてその角は、爪と同じように巨大化し、『骨』の足下にいるタバサを、
「イス・イーサ―――、っ!!」
 ドガッッ!!
 刺し貫かれる、と詠唱中のタバサが思った次の瞬間、『骨』の巨体が大きくブレる。
 その結果、自分に向かって伸びていた角はその狙いを大きく外し、地面を穿つに留まった。
 一体何が、と思って『骨』の本体を見ると、
「きゅ、きゅい……。コイツは嫌だけど……、恐いのは嫌だけど……、でも、お姉さまが傷付いたりするのはもっと嫌なのね……!」
 シルフィードが『骨』の背中に体当たりをしていた。
(……ありがとう)
 詠唱を中断するわけにはいかないので、心の中で礼を言う。
 学院に帰ったら、あの子の好きなお肉を多めにあげよう―――そう思いつつ、しかし使い魔の行為に報いるためにも、今は敵への攻撃に集中する。
「―――ウィンデ!」
 ヒュゴッ!!

 タバサの得意とするトライアングルスペル、『ウィンディ・アイシクル』。
 『風』2つと『水』1つの要素により、空気中の水蒸気を凝縮させて水のカタマリを形成、集めた水を数十個もの氷の矢に凍結、そしてそれを発射する―――というプロセスの魔法である。
 その威力はかなりのものではあるが、あの爪の威力からこの『骨』の体表の硬度を推察すると、この巨体を『傷付ける』のがせいぜい……倒すことは出来ないだろう。
 ならば、狙うのはあの『あからさまな部分』しかない。
 ドガガガガガガガガガガガッッ!!!
 これ見よがしに露出している、腹部の赤い光球。それにいくつもの氷の矢が突き刺さった。
 ……この『骨』が攻撃する際には、必ずこの光球が輝いている。
 ならば、そこを攻撃すればあるいは―――と、なかば博打のような試みだったのだが。
『グ、ォオォオ、グォォォオォォ…………!』
 『骨』の動きが止まり、身体がパラパラと灰に変わっていく。
 どうやら自分の博打は成功したようだ、とタバサはホッと息をついた。
「お姉さま!」
 自分の元へと降りてくるシルフィード。
 タバサはほんの少しだけ、目の前にいる使い魔のシルフィードか、唯一の友人と言えるキュルケくらいにしか判別できないほど微かに微笑むと、その頭を優しく撫でてやる。
「きゅいきゅい。……それにしても、コレ、何だったのかしら」
 少しずつ灰となっていく『骨』を眺めつつ、更に念のために距離を取りながら、シルフィードは疑問の声を上げる。
「分からないの?」
「シルフィに分かるのは、これが『いけないモノ』だってことだけなのね。何て言うか、こう―――お姉さまたちみたいな『普通』なのとも、シルフィたちみたいな『古代種』とも違う、全然別なモノって感じなのね」
「……………」
 シルフィードがそこまで言うのだから、よほど異質な存在なのだろう。
 『ディテクト・マジック』でも試しにかけてみようか、とも思うが、下手に手を出せばヤブを突いてヘビを出す結果にもなりかねない。
 ここはひとまず、この『骨』が完全に灰になるのを見届けて、その後で残った灰を持ち帰るなり何なりすればいいか。
 と、タバサが結論づけた、その時。
 ヴゥゥウウウウウンン!!!
「!?」「きゅい!!?」
 突如、『骨』の背後の空間に、赤い穴が開いた。
「……!?」
 次から次に起こる事態に、さすがのタバサも訳が分からなくなってくる。
 それでも彼女の冷静な部分は、発生した『赤い穴』は『サモン・サーヴァント』を使用した際に発生するゲートに似ている―――と、分析を続けていた。
 そして『赤い穴』は急速な勢いで拡大していき―――
「きゅいぃ!!」
「っ、逃げて!」
 ヴゥォオオオオンン!!!
 ―――タバサとシルフィードに離脱する暇さえ与えず、彼女たちごと『骨』を飲み込んだ後、その口を閉じたのだった。


 その一部始終を、離れた地点からつぶさに観察していた人間がいた。
「……………」
 虹色のエネルギーフィールドによって空中に浮遊する、ユーゼス・ゴッツォである。
 通常のゲートとは若干異なる転移反応を検知したので、ここまで見に来たのだが……。
「アレは……並行世界を覗いていた時に見た覚えがあるな……」
 確かアインストクノッヘン、とかいう名前だったはずだ。
「……それが何故ここに存在している? この世界に『監視者』がいるのか?」
 あるいは、群れからはぐれた個体が、何かのはずみで転移してきたか。
 いずれにせよ、少々厄介な事態になりつつある。
「……まさか、アレに対処するために私が呼び寄せられたのではあるまいな」
 アインストが出現したから自分が呼び寄せられたのか、それとも自分が出現したからアインストが呼び寄せられたのか。
 ……タマゴが先か鳥が先か、というループに陥りそうである。
「そう言えば、アインストと戦っていたあの少女……」
 名前は知らないが、見覚えのあるような気がする顔だった。
 魔法学院のマントを羽織っていたし、おそらくは学院の生徒なのだろう。
「……戦闘能力は高いようだし、崩壊寸前のアインストになど遅れは取らないだろうが……」
 しかし、彼女とその使い魔である青い竜が飲み込まれた空間が、マクー空間や幻夢界、不思議時空のようなものだとするなら……。
「……見過ごすのも後味が悪いか」
 仕方がない、と呟いて、ユーゼスは脳内にナノチップとして埋め込んであるクロスゲート・パラダイム・システムを最大限に起動させる。
 ナノチップサイズでは、その機能にかなりの制限がある。
 故に、『それ以上の機能』を発揮するためには『召喚』を行う必要があった。
 カァァァァアアアアアアアアア……!!
 ユーゼスの背後に、巨大な物体が出現した。
 金属で形成された、人型の赤い上半身。
 巨大な人間の頭部を思わせる、球形に近い下半身。
 ―――デビルガンダムと呼ばれるその物体に、ユーゼスは己の肉体を同化させる。
 瞬時にデビルガンダムは黒い液状に変化し、新たな別のカタチを形成し始めた。
 そして青い光の結晶―――カラータイマーが虚空より現れ、人型に近いカタチの『それ』の胸部のあたりに収まる。
 バチバチバチバチ……!!
 銀色の身体に黒いラインが入った巨人が、誕生する。
 バサッ!!
 巨人が胸にあるカラータイマーを光らせると、その背中に悪魔を連想させる黒い翼が出現した。
『………ふむ、問題はないようだな』
 光の巨人、ウルトラマンの力を満たした『容器』であるデビルガンダムに、自分自身がパイロット―――生体ユニットとなることで得られる力。
 これぞクロスゲート・パラダイム・システムと、光の巨人の力を融合させた新たなる神の姿。
 自己再生・自己進化・自己修復の機能を備え、時の流れや因果律をも操る。
 神をも超えた存在―――超神形態ゼストである。
 ……もっとも、実際にはこの力を以ってしても、ガイアセイバーズに破れてしまったのだが。
『さて……』
 ヴゥォオン!!
 空間に穴が開く。
 ユーゼスが持つナノチップサイズのクロスゲート・パラダイム・システムでは、単体で時空間を超えることは出来ない。
 よって、空間を超えるためにはより大規模で強力なクロスゲート・パラダイム・システムを内蔵しているデビルガンダムを使う必要があるのだ。
 ゼストは先程発生した赤いゲートの痕跡を発見し、その後を追っていく。


「……!?」
 赤い空がある場所。そうとしか表現の仕様がなかった。
 タバサとシルフィードが『赤い穴』に飲み込まれ、思わず目をつぶって、次に目を開けたら、ここにいた。
 地面はある。
 だが、周囲には何もない。
 木も、草も、雲も、壊された屋敷の残骸も。
 あるのは赤い空と、荒涼とした地面だけだ。
「きゅ、きゅい……! し、静かなのね……」
「静か?」
「せ、精霊の声が、なんにも聞こえてこないのね。静かすぎて気持ち悪いのね……。安らぎを感じるくらいに静かだけど、それが逆に不気味と言うか……」
 どうやら、本格的に『自分のいた場所』とは違う場所のようだ。
 どうやって脱出すればいいのか、と考えようとするタバサだったが、そこで重大なことに気がついた。
 あの『赤い穴』に飲み込まれたのは、自分と、シルフィードと、そして灰として崩れかけた『骨』。
 自分とシルフィードは、ここにいる。
 ならば、『骨』は―――?
「きゅい!」
 タバサが周囲を見回すよりも速く、彼女のマントがシルフィードが咥えられ、持ち上げられる。
 ……驚きはするが、それで使い魔を咎めたりはしない。
 なぜなら、咥えられながら大急ぎでこの場から離れていく視点から、急速な勢いでその身体と赤い光球を再生させていく『骨』が見えたからである。
「………!!」
 出現した時に見た赤い光と、ここに広がる赤い空から考えるに、どうやらここは『骨』のテリトリーらしい。
(勝てるの……?)
 戦いになれば、この『骨』はおそらく本領を発揮するだろう。つまり先程よりも強力になっている。
 しかも、首尾よく倒せたとして、『この場所』から『元の場所』に戻る方法も、その手掛かりすら分からない。
(こんな所で……!)
 ギリ、と奥歯を噛むタバサ。
 生きる目的も果たせず、こんな……どことも知れぬわけの分からない場所で、自分は終わるのか。
 自分自身に課せられた運命を本格的に呪い始めたタバサだったが、その思いは十秒もしない内に掻き消える。
 驚くことばかりだった、この一連の事件。
 その最大の驚愕が、目の前に現れたのだから。

 カッッ!!
 赤い空間に、超神ゼストが現れる。
 ゆっくりと周りを見ると、すぐ近くには再生を終えたばかりのアインストクノッヘン。少し離れた地点には、青い髪の少女とその使い魔である青い竜。
『………』
 ゼストはクノッヘンの方に向き直ると、無造作に歩みを進めていく。
『……グォオオオオオオ……!』
 唸りを上げるアインストクノッヘン。
 タバサに対して何度かそうしたように、左腕の爪を巨大化させて自身の『敵』へと振るう。
 それに対してゼストは、右腕を使ってその爪を弾き、
 ドガァァアアアンッ!!
『!』
『!?』
 勢いあまって、弾くどころか左腕を丸ごと吹き飛ばしてしまった。
 しかしクノッヘンはまるで痛覚など持ち合わせていないかのように、今度は肩にある角を伸ばしてくる。
 ヒュッ!
 ―――その攻撃を回避しながら、ゼストは……ユーゼスは自身の力について考えていた。
(……強力すぎる……!)
 先程の爪を弾いた一連の動作は、本当に『弾くだけ』のつもりだった。
 今の回避にしても、これほどスムーズに回避できるのはおかしい。
 考えられる線としては―――
(……ルーンか。おそらくデビルガンダムを『兵器』として認識しているな)
 元々デビルガンダムは正式名称をアルティメットガンダムと言い、ライゾウ・カッシュ博士が望んだ『地球環境を再生する機能』と、自分が望んだ『時空間を移動する機能』をあわせ持つ機体だった。
 決して最初から『兵器』として開発したわけではないのだが、やはりその性質上『兵器』というカテゴリーに分類されるようだ。
 そして、ルーンの効果による身体機能の上昇。
 『デビルガンダムの生体ユニットは強靭な肉体を持つ者でなければならない』という東方不敗マスターアジアの理論は、あながち的外れでもない。
 自分の肉体をパーツとするのだから、強靭であればあるほど良いに決まっている。
 その上で更に女性であれば、三大機能である自己再生・自己進化・自己修復もより強力になるのだが―――まあ、それはこの際どうでもいい。
 とにかく結論としては、今の超神ゼストはガイアセイバーズとの戦闘時より強力になっている、ということである。
(……手早く終わらせるか)
 バリィ……ッ!!
 右手にエネルギーを集中させ、腰のあたりに構える。
 見ると、クノッヘンは吹き飛ばされた左腕を、その断面から徐々に再生させているところだった。
(……まるでDG細胞だな)
 そのような感想を抱くが、アインストの肉体構成などに興味はあまりない。
 今、自分の目の前にいるのは、ただの目障りな『敵』である。
 シュドッ!! ドガァァアアアアアアアアンン!!!
 逡巡などは全くなく、ゼストは右手の光球を『敵』にぶつけてその身体を爆散させたのだった。


 おかしい。
 自分は確か、昨日づけで魔法学院のメイドを辞めて、今日からモット伯の屋敷で働く(どのような『扱い』を受けるのかは、大体察していた)はずだったのに。
 気が重いけど給金は今までの3倍だし、故郷のタルブの村では弟や妹たちが、お腹を空かせたヒナ鳥のごとく自分の仕送りを待っている。
 8人兄弟の長女ともなると、こういう時に責任が圧しかかってくるのである。
 だと言うのに。
「……………」
 シエスタは混乱していた。
 さあとうとうモット伯のお屋敷が見えてきた、という時に、いきなり骨のバケモノが現れてそのお屋敷を木っ端微塵に壊してしまった。
 遠くからだったのでよく分からないが、誰かメイジが現れて骨のバケモノと戦い、バケモノの動きを止めた。
 そうかと思ったら、いきなり空に赤い穴が開いて、メイジとその援護していた青い竜、そして骨のバケモノを消してしまった。
 そのまましばらく呆然としていると、また空に穴が開いて、中から銀色の巨人と、さっき消えてしまったメイジと青い竜が現れた(角度の問題から、シエスタは超神ゼストがハルケギニアにおいて最初に出現するシーンを目撃していない)。
(……わけが分からないわ……。けど……)
 あの銀色の巨人。
 メイジと竜が着地するのを見ると、全身を発光させて消えてしまったが、あの存在にシエスタは心当たりがあった。
 自分が生まれる前に死んでしまった曽祖父から伝え聞いたとされる、おとぎ話。
 人々が持てる力の全てを出し尽くし、それでもどうにもならない程の強力な敵が現れたときにやって来る、光の巨人。
「……ウルトラ……マン……?」
 シエスタは襟元に留めてある流星のマークを軽く握りながら、銀色の巨人へと思いを馳せる。


「……ふむ、やはり巨大なものでは小回りが利きませんね……」
 ロマリア教皇ヴィットーリオは、召喚した自身の使い魔―――ヴァールシャイン・リヒカイトを通じて、青い髪のメイジと、ヴァールシャインより生み出した『骨のような幻獣』の戦いを見ていた。
 使い魔とメイジの感覚は、繋がっている。
 よって、その繋がりをコントロールすれば、ヴァールシャインを中継点として『骨のような幻獣』の視点を見ることも可能なのである。
「それにあまり大きすぎるものですと、ヴァールシャインも消耗するようですし……」
 召喚された際にボロボロだったヴァールシャインは、いまだ完治していない。
 それどころか新たな個体を生み出すと、より損傷が酷くなっていく。
 『ヴァールシャインの空間』の展開も、あまり良い影響は与えないようだ。
「焦りは禁物、ということですか。しかしあまり悠長にやっていてもいけません。……そうですね、ここは巨大なものではなく、小さな―――人間ほどのサイズの個体を、複数生み出してみましょうか」
 それに、出現させた地点もまずかった。
 ロマリアとしては大して重要でもないゲルマニアや、国王が今のジョゼフⅠ世に変わってから妙にキナ臭くなったガリアあたりならともかく、トリステインというのは良くない。
 あの国は後々、役に立ってもらわなければならないのだから。
「出現地点にある程度のコントロールは利きそうですが……ふむ……」
 ならば、次はどこに出現させるべきか。
 出現させても大して問題はなく、むしろ出現させた方が良く、出現させた個体の能力も測れる地点。
「……アルビオンあたりにでも出してみますか」
 ちょうど内乱の真っ最中であるし、戦いには事欠くまい。
 『レコン・キスタ』という集団も、エルフを倒して聖地を取り返そうという理念自体には理解も共感もするが、そのやり方に問題がありすぎる。
 エルフを倒すためには『虚無』が必要不可欠であるのに、『虚無』の担い手である可能性を持つ、王家の血を引く者を殺してどうしようというのか―――まあ、これは知りようのない情報ではあるが。
 それを差し引いても、今までのアルビオン王国、ひいてはハルケギニアの歴史や伝統を真っ向から否定するような連中である。
 百害と一利が同時に存在するような集団だが、百害を除くことと一利を得ることを天秤にかけるとするなら、前者を取るのは当然だ。
「今更、『彼ら』を投入したところで、大勢に変化があるとは思えませんが……」
 何しろ、敵は5万の兵。
 ちょっとやそっと数を減らしたところで、どうにもなるまい。
 何とかしてやりたいとも思うが、あまり数を出しすぎるとヴァールシャインが本当に『崩壊』してしまいかねない。
「まあ、しばらくは『実験』に徹するとしましょう」
 そうして、ヴィットーリオはヴァールシャインからどのような個体が生成可能なのか情報を引き出すため、彼が安置されている部屋へと向かう。
「……修正する……世界を……静寂……の……」
 自分の思考に、僅かずつではあるが雑音のようなものが混ざりつつある、とは気付かないままで。


「……『始まりの地』に、未だ人間が存在していなかった時、『思念体』が命の種子を飛ばした」
「………」
「その種子は銀河を超え、次元の壁を超え―――多くの世界へと散っていった」
「………」
「数多くの世界に存在する『人間』の姿形が同一なのは、その大元が同一だからじゃろうな」
「……ということは、このハルケギニアにもその『種子』とやらが飛んできたのか?」
「可能性はある。
 ……そして、その種子から生まれた生命体たちを監視することを目的とするのが、奴らじゃ」
「ほう……」
 テーブルを挟み、椅子に座りながら会話するガリア王ジョゼフと黒いローブに身を包んだ―――ダークブレインの仮の姿である―――老人。
 老人は今、ブレイン卿と名乗ってグラン・トロワに住み着いていた。
「あの『監視者』たちは、育った生命体が宇宙に『不適切』であると判断した場合、その生命体を排除するように仕組まれておる」
「では、ハルケギニアの人間たちは『不適切』だと? ……まあ、言われてみれば思い当たる節がないでもないがな」
 ジョゼフがハルケギニアの貴族たちの振る舞いを思い返していると、ブレイン卿から訂正が加えられた。
「いや、アレはどちらかと言うと、その『監視者』のはぐれ者―――というところじゃな」
「はぐれ者?」
「そう。大方、何かの手違いかトラブルで、次元の狭間にでも押しやられた個体が、偶然この世界に転移してきたとワシは予測するが」
 髭を撫でつつ、自分の考えを述べるブレイン卿。
「アレもワシらと同じく、古(イニシエ)の……」
 小さく漏らした声だったが、それをジョゼフは聞き逃さない。
「…ほう、ほうほう。聞いたぞ、今のセリフ。―――ふむ、薄々ではあるが、お前の正体が読めてきた」
「……なかなか耳ざとい男じゃな、お前は」
 ブレイン卿はそんなジョゼフに感心するが、当のジョゼフはそんなことには構わずにブレイン卿の―――ダークブレインの能力について話してきた。
「しかし、それにしても凄いな、お前の『暗邪眼』とやらは! ガリアからトリステインまでの距離をものともせず、その目に遠く離れた景色を映すのだから!」
「……単純な距離程度なら、大して問題でもないわい。しかも同じ大陸の中じゃしな」
「ははは、そうか、大したことがないか!
 ……いや、お前にとっては大したことはなくても、俺にとっては『大したこと』でな。お前の視界に俺の視覚を繋げてもらうことで、俺もまた世界を看破できる。これは感動ものだぞ!
 ……いや、お前を召喚してから、俺は感動し通しだがな!」
 興奮するジョゼフを冷静に見ながら、ブレイン卿は淡々と返答していく。
「―――ワシが本当に『世界を看破』すれば、お前の脳なんぞ一瞬でパンクするわい」
 そんなブレイン卿の言葉にも、ジョゼフは『そうか、そうか』と愉快げに応えるだけである。
(……この男……)
 なかなか尺度が測りにくい、と『ブレイン卿』ではなく『ダークブレイン』として考察する。
「それはそうと、お前の『敵』とやらに受けた傷はどの程度まで回復したのだ?」
「……そうそう簡単に治るものではなくての。今のところ、回復度合は―――3割、と言ったところか」
 それを聞いたジョゼフは、うーむ、と唸る。
「3割か……。……ふむ、まあ、そう焦ることでもないな。何事も、一気にやってしまっては面白味に欠けてしまうからな」
 まるで玩具や歌劇を楽しみに待つ子供のようである。
「おお、そうだ、あの赤い世界に現れた銀色の巨人! あれも気になるな! 教えてくれ、ダークブレイン!」
「……アレについては、ワシも推測が多くなってしまうんじゃが」
 どうも自分が戦ってきた『光の巨人』とは、タイプが違うようである。それに妙な能力も付随している。
 しかし、当面の『協力者』に問われたからには答えなければならないので、ブレイン卿はとりあえず自分の知っている『光の巨人』についての情報をジョゼフに話すのだった。


 アインストと戦闘を行った、翌日の朝。
 今日も早朝から洗濯を行うため、ユーゼスは洗い場にやって来た。
 水が冷たいな、などと思いつつ、ジャブジャブと主人の下着を洗っていると、
「おはようございます、使い魔さん」
 もう聞こえないはずの声が、横から響いてくる。
 見ると、そこには黒髪のメイド―――シエスタが、相変わらず大量の洗濯物を抱えて立っていた。
「……勤め先が変わった、と聞いたが」
「あ、はい、そうなんですけど、そのお屋敷がバラバラに壊されちゃったんで……」
 仕方がないので学院に戻ったら、
『じゃあ今まで通りにここで働きなさい。……それと、君が見たという“骨のバケモノ”については、なるべく他言しないように。無用な混乱を招きかねんからな』
 と、学院長であるオールド・オスマンに言われてしまったのである。
「別のお勤め先も見当たらないので、お言葉に甘えることにしました」
「そうか」
 意外とアバウトな組織だな、とユーゼスは思った。……が、たかがメイド一人が辞めようが雇われようが、自分には大して関係もない。
 無言で洗濯を続けるユーゼスの横で、シエスタもまた黙々と洗濯をこなしていく。
 魔法学院の、新たな一日の始まりである。


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