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毒の爪の使い魔-18


夏期休暇の最中のトリステイン魔法学院。
生徒の殆どは帰省しているが、帰省するでもなく、学院に居残っている生徒も居た。

そんな”居残り組み”の中にはルイズもいた。
彼女はアンリエッタの密命を終え、学院に帰還してから手持ち無沙汰であり、
夏期休暇の間、部屋で勉強…もしくは、外で魔法の練習をしていた。

彼女は今日も魔法の練習に励んだ。
静かにルーンを唱え、杖を振る。巻き起こる爆発。
これで何度目だろうか?――ふと、そう思ったが…正直数えるのもバカらしい。
先程から――いや、毎日毎日…繰り返し、繰り返し、火、水、土、風、
四つの系統のありとあらゆる呪文を唱えたが、結果はいつも同じ…”爆発”するだけ。
「はぁ…」
深いため息を吐く。
どれだけ勉強しても、どれほど練習をしても、爆発しか起こせない。
やはり、自分は――

そこでルイズは激しく首を振った。――認めてはいけない!
自分はラ・ヴァリエール家の…トリステイン貴族の名門の家系の三女。
それが”ゼロ”などと認めてなる物か!
ルイズは両手で頬をパンパンと叩いて自分に活を入れなおすと、杖を構えて精神を集中する。
「まったく……あのバカ猫。ご主人様ほったらかしにして、何処ほっつき歩いているのかしら?」
この場に居ない…使い魔の亜人を思い出し、文句が口から出てくる。
ジャンガは姫様からの任務が終わって、学院に戻ってきてから姿が見えない。
…自分が何とか一つでも魔法を使えるようになろうと、こうして頑張っているのに。
「大体……あいつはご主人様に対する礼儀と言うか…忠誠心と言うか…そう言うのが足りてないのよ。
…頑張ったご褒美はちゃんと与えているのに、まったく」
ルイズの脳裏には、あの夜の祝賀際での彼とのダンスの光景や、
『魅惑の妖精』亭での『魅惑の妖精のビスチェ』を纏って彼に見せた光景が浮かんだ。

…しかし、それは同時に彼のムカツク言動も思い返す事となった。
ダンスは急用だとかで途中で投げ出した上に、ご主人を玩具か何かのように扱い…、
『魅惑の妖精のビスチェ』を纏って見せても、まるで興味が無いとばかりに無視する始末。

思い返せば返すほど……ムカツク事ばかり頭に浮かんでくる。
最近は丸くなってきたように感じていたが…、やっぱりムカツク。あれは最悪の使い魔だ。
ご主人の与えるご褒美も、当然の物の如く例の一つもしない。
何より今も、ご主人をほったらかしにしているではないか。

「ホンッッッッットーーーに!イライラするーーーーー!!!」

激怒し、叫び声をあげながら杖を振り下ろすルイズ。



――瞬間、驚くべき大爆発が巻き起こった。



ルイズは目の前の光景に唖然となっていた。
それまでの爆発とは到底比較にならない――城の一つや二つ吹き飛ばせそうな――大爆発が起こったのだ、無理も無い。
煙が晴れた後には、爆発の大きさに比例するように超巨大なクレーターが出来ていた。…とんでもない威力だ。
ふと、ルイズは思った…、”この爆発は本当に失敗なのか”と…。
考えてみれば今まで散々に失敗と言われてきたが、失敗して爆発が起きるなど、どんな本にも載っていないし、
他の生徒が失敗した時も何も起こらないだけであり、自分のように爆発した事はただの一度も無いのだ。
そこでルイズはフーケが学院を襲撃した時の事を思い返す。
宝物庫は厳重に『固定化』の魔法がかけられていて、その上で魔法の障壁に守られている。
普通ならば絶対に傷一つつかない、それほどの代物だ。
そんな宝物庫にあの時罅を入れたのはフーケのゴーレムではなく、自分の爆発だった。
そう、自分の”失敗”が宝物庫の魔法の障壁と『固定化』の魔法とを簡単に破ったのだ。
ただの失敗魔法にそこまでの力が宿るなど考えられない。

「…考えられるのは”爆発自体が成功”って事よね?」
考えられる…と言うよりは、それしか思いつかなかったと言った方が正しい。
”失敗”で無いのならば”成功”…単純明快である。
しかし、これほどの爆発を巻き起こす呪文など自分は知らない。
敢えて例えるのならば…『火』だろうか?
いやいや、幾ら『火』でもこれだけの威力はそうそう生み出せない。他の三つの系統は問題外だ。
…とすれば、考えられるのは――
ふと、失われた五番目の系統が頭に浮かんだが、それは出来過ぎと言う物。
「まさかね…」
首を振って馬鹿げた考えを否定すると、続きは部屋で考えようと、今日の練習を終えて学院へと戻った。



「ルイズの奴…相変わらず爆発ばかりのようだが、中々どうして…随分とがんばるじゃないか?」
何故このような所に居るのか……離れた所からルイズの後姿を見つめながら、ギーシュは呟く。
「…これは、僕も負けてはいられないな」



…余談だが、最後に起こした大爆発に学院消滅の危機を感じた教師一同に厳重な注意を受けたのは言うまでも無い。



――その夜…
夜空に掛かる二つの月をバックに、魔法学院を目指して飛ぶ影が一つ……否、二つ。
一つは体長が約六メイルほどの風竜。その背にはタバサとジャンガ、そしてジョーカーの姿が在った。
もう一つは人型。羽が生え、羊か牛のような角の生えたその姿は、さながら悪魔のようである。
やがて、風竜=シルフィードと人型=ガーゴイルは魔法学院の上空に到着した。

ジョーカーは静まり返った学院を見下ろすと、後ろの二人を振り返る。
「では、今から行って来ますので…」
ジャンガはつまらなさそうに鼻を鳴らす。
「何が招待だ…。要はあの嬢ちゃんを掻っ攫うのを手伝えって事じゃねェか。…テメェだけで事足りるんじゃねェか?」
「それはそれ、万が一にも起こらない事が、万が一にも起こり得る場合もありますし……念には念を入れてと言う事で」
「大体よ…、テメェの言うような回りくどい事なんかしないでよ…、
ここの全員で押しかけて、力ずくで連れ去る方が楽じゃねェのか?」
「ふぅ~む…まァ、そうかもしれないんですがね…。やっぱり、ここはなるべく穏便に済ませたいのですよ…ハイ」
ジャンガを宥めながらジョーカーはタバサに向き直る。
彼女は何の感情も表さない表情で魔法学院を見下ろしている。
「まァ、そう言う訳ですので…アナタも頼みますよ、シャルロットさん?
何しろ、この任務が成功した暁には報酬として――貴方の母親の心を治す薬が手に入るのですからネェ~」
ジョーカーの言葉にタバサは無言で唇を噛み締める。
そんな彼女を様子にジョーカーは、さも可笑しいと言う表情を浮かべる。
(一応、連れて来ましたが……正直、今回の任務には必要は無いんですよネェ、お二人とも。
まァ、いらぬ誤解から同士討ちも面白く無いですし、こうして手元に置いておいた方が安心ですからネ。
何より、最近お疲れ気味なジャンガちゃんのリハビリのためにも、こういうのに参加させるのはいいですし)
そして、ジョーカーは以前の決闘騒ぎを思い返す。
(加えて言えば、ジャンガちゃんとシャルロットさん…組み合わせておくと面白そうなんですよネ、のほほ♪)
そんな事を考えながら、ジョーカーはシルフィードの背から魔法学院へと飛び降りた。


飛び降りたジョーカーが魔法学院へと降下していくのを見届け、ジャンガは目の前の少女に視線を移す。
この任務を受けてから、タバサは一言も喋っていなかった。
今し方、ジョーカーの言葉に唇を噛み締めていたが、直ぐに元の無表情に戻っている。
…いや、”元の”と言うのは正しくは無いだろう。
元の『シャルロット』は快活で明るかったのだから。
今のこの表情は『タバサ』の物…人形の物。自らを偽る為に付けている仮面なのだ。
「人形…『タバサ』でいる事を続けていて良かったなァ~。これで、お前の親は元通りになる事は間違い無しだ。
いや~めでたい事だな…キキキ」
タバサは答えない。
ジャンガは話を続ける。
「お前の母ちゃんも喜んでくれるさ…、『私の為にありがとうシャルロット』って言ってよ。
抱きしめてくれるだろうな~、そりゃ愛してやまない娘だからな~。
――そう…例えテメェが望んでもいない復讐を考えていたり、知り合いを”ダシ”にして薬を得たとしてもな…」


その痛烈な皮肉に、タバサはジャンガを振り返り睨み付ける。
「……」
「何睨んでるんだよ?…別に間違った事は言って無ェだろうが」
ジャンガは睨み付ける訳でもなく、タバサを静かに見つめた。
暫く二人は互いの顔を見詰め合っていたが、やがて根負けしたのか…タバサは前へと視線を戻した。
その様子にジャンガは忌々しそうに鼻を鳴らす。
(やっぱ…世の中下らない事ばかりだな。…いや、これが普通か。
強い奴が弱い奴を食い物にして、弱い奴は強い奴に媚び諂う。
こいつは弱い奴の側だった…ただそれだけだな)
ジャンガは自分を打ち倒した少年を思い返す。
(あいつが…あいつだけが、特別だったってだけか)
そして、ニヤリと笑う。
(キキキ…、やっぱ…闇で生きてきた奴が日向に戻ろうなんて、甘い考えって事だ。
日陰者は日陰者らしくなきゃな…、俺もよ)
”何を悩んでいるの?”
ジャンガの思考は頭に直接響き渡るかのような声で中断させられる。
目だけを横に向け、ぶっきらぼうに答える。
「別に……テメェには関係無ェだろうが」
”随分な言われようね…、同じ虚無の使い魔…仲良くしようじゃないの、ガンダールヴ”
「ケッ、…るせェ」
ジャンガは横目で声の主を見る。声はガーゴイルから発せられていた。
…しかし、このガーゴイル自体が意思を持って話しているのではない。
話をしているのはガーゴイルを操る、ジョーカーと共にタバサに任務を言い渡した者だ。
(ミョズニトニルン…神の頭脳ねェ。何考えてやがるのか、さっぱりだゼ)
ジャンガはガーゴイルを横目で睨む。
(フンッ、まァ……必要以上に関わりあいになるのはごめんだな)
そうしてジャンガは魔法学院へと視線を戻した。

(さてと……ああは言ったが、ジョーカーの野郎…手際良くやれるかネ?)


シルフィードから飛び降りたジョーカーは、魔法学院の広場に降り立つ。
「さてと…ちゃっちゃと済ませるとしましょうか?」
呟きながら、指をパチンと鳴らす。
ジョーカーの周囲の地面に水色の円盤のような、光り輝くゲートのような物が数多く現れる。
そのゲートからまん丸な形をした、珍妙な姿の幻獣らしき物が迫り上げられるようにして姿を現す。
胴体と頭の区別が無い一頭身の黄色い身体。サングラスのような目にニヤニヤ笑ってるかのような口。
頭頂部のヤギか羊を思わせる緑色の大きな角。
両手はジョーカーのような手袋状で、右手には黄色いオーブが嵌った小振りの杖を握っている。
背中には逆三角のマークがあり、小さい先端が矢印のようになった尻尾が申し訳程度に付いていた。
「物事の邪魔になりそうな方達には、グッスリと熟睡してもらいましょうかネ…」
そう呟くとジョーカーは、パン、パンと手を叩く。
「…と言う訳で、マギちゃん達。頑張ってきて下さ~い♪」
ジョーカーの声に幻獣らしき物は一斉に行動を起こし、学院内に散っていった。

『マギ』――それがこの珍妙な姿の物の種族名。
幻獣のようだが、その実オバケの類。魔力が強く、戦闘では味方をサポートする役目を担っている。
使う術で名前と姿が微妙に異なるのも特徴の一つ。
ジョーカーが召喚したのは、その種族の中でも一際強い魔力を持つ『マジックマギ』。
その中では一番下のレベルの物だが、だからと言ってその秘めたる魔力は尋常ではない。
得意とする術は相手の魔力を奪ったり、集中力を乱す物。
無論、この世界のメイジの精神力を吸い取る事も簡単だ。
マギは99人分の魔力を吸い取る事で大魔法使いになれるという伝説を持っており、
マジックマギはその点に関してはとても恵まれた存在とも言える。

…そして、このマジックマギはその魔力の高さゆえ、ジョーカーに色々と弄られていたりする。

今、まだ夜も然程更けていない為、廊下で立ち話に興じている二人の女生徒を一匹が見つけた。
二人は今朝方、少し早めに帰省から戻ってきた者だ。
そんな二人は近づいて来たマジックマギに気が付いた。
「これ、誰の使い魔?」「さぁ…知らない」
見知らぬ幻獣に二人は首を傾げる。
そんな二人に向かって、無言でマジックマギは手にした杖を振る。
杖から青白い雲が発生し、女生徒二人の頭を包み込む。
何が起こったか解らないまま、二人の意識はまどろみに沈んだ。

『スリープ・クラウド』……この世界のメイジが使う眠りの魔法。
元来魔力が高い上、魔力を吸収する事に長けたこの種族が、
ジョーカーの手で簡単な魔法を習得するのは、然程難しい事ではなかった。

学院中に散ったマジックマギは、起きている者を見つけては『スリープ・クラウド』を使った。
『ロック』が掛かっている部屋にも『アンロック』を使って侵入し、眠っている者にも魔法を掛ける。
それは生徒だけではない。給仕の平民や教師達も標的とし、次々に深い眠りへと誘う。
マジックマギは着実に与えられた任務を遂行していった。


その頃、モンモランシーは自室でギーシュを待っていた。
「そろそろだと思うのだけれど…、ふぁぁ~…」
大分眠気が出てきた…、小さく欠伸をし、目を擦る。――さすがにこれ以上は待てそうも無い。
もう少しだけ待って、それで来ないのならば、今夜はもう寝てしまおう。
――そう考えていた時、彼女の耳に扉の開く音がした。
「ギーシュ、遅かったじゃ――」
そこにギーシュの姿は無い。視線を下に向けると、そこには一匹の丸い幻獣がいた。
見た事もない姿のその幻獣にモンモランシーは眉を潜める。
「何?」
呟くモンモランシーの本へゆっくりと近づき、幻獣は手にした杖を振り上げた。
その時、一枚の花弁が幻獣の背後に落ち、一体の女騎士の姿のゴーレムに変わる。
振り向く事すら出来ず、幻獣はゴーレムに片手で持ち上げられ、殴り飛ばされる。
吹き飛び、床に転がった幻獣は一発で昏倒したらしく、倒れたまま動かなくなった。
床に転がる幻獣を見ていたモンモランシーに誰かが抱きついてきた。
誰かを確認するまでも無い。今のゴーレムで十分に解っているのだから。

「ああ、モンモランシー、僕の愛しいモンモランシー!無事で良かった、本当に良かった!」
「約束に遅れておいて、随分な台詞ね?」
抱きつくギーシュを軽く睨みながら、モンモランシーは突き放すような言葉を口にする。
もっとも内心では、変な幻獣が何かを自分にしようとしたところを救ってくれた事に素直に感謝していた。
ギーシュが離れると、モンモランシーは床に倒れる幻獣を見る。
「ねぇ…あの幻獣は何?見た事もない姿をしているんだけれど」
「う~ん…それは僕も聞きたいよ。姿形が変わっているのは兎も角、魔法すらも使ってしまうのだからね」
「ちょっと待って…。この幻獣、魔法が使えるの?」
「ああ、ここまで来る道すがら…何人か眠っている生徒や平民、教師を見てね」
ギーシュは説明した。
眠りこける彼らにどうしたのかと思い、辺りの様子を窺っていると、
今床に倒れている幻獣と同じ姿の別の幻獣が、掃除をしていた給仕に魔法を掛けて眠らせているのを見かけたのだそうだ。
その時幻獣が掛けていた魔法は間違い無く『スリープ・クラウド』であったと言う。
更に幻獣は『ロック』の掛かった部屋にも問題なく入っていたらしく、
その事から察するに『アンロック』すらも使えるらしいとの事だ。
魔法の使える未知の幻獣……一体何なのだろうか?
そして、学院中の人間を眠らせて何をしようとしているのだろうか?
考えていると、扉の外に気配がした。
慌てて二人は扉の陰に隠れ、外の様子を窺う。
見れば、外には今のと同じ姿形の幻獣が複数居た。
扉の陰のギーシュとモンモランシーには気が付かないのか、そのまま部屋の前を素通りしていく。
ふと、モンモランシーが何かを思い出す。
「ねぇ、確かこの先で今残っているのって…」
「…ルイズだけだ」


ルイズは夢を見ていた。暗い暗い夢を見ていた。
何処を向いても、何処までも続く漆黒の闇。
上を向いても月は愚か…星の一つも見えない。
こんな明かり一つ無い、真の闇と言う物をルイズは未だ嘗て経験した事が無かった。
ルイズは思った…、もしかして自分はこの暗闇の中で一人ぼっちなのではと。
不安に駆られ、ルイズは走った。何処までも続く暗闇の中……光を、出口を求めて走った。

どれだけの距離を走ったのだろうか……何時の間にか暗闇は消えていた。
ルイズは明るくなった事に安堵の息を吐く。しかし、辺りを見回して直ぐに表情が強張った。
(ここ……何処?)
そこは彼女の知らない場所だった。辺り一面が硬い岩で覆われており、至る所に大小様々なクレータがある。
そして、地面の所々からは火山で見かけるような溶岩が溢れている。
こんな地形は本でもお目にかかっていない。まったくの未知なる場所だ。
と、興味深く辺りを見回している彼女の目に驚くべき物が飛び込んだ。
そこには自分の使い魔のジャンガと見慣れない亜人の少年が対峙している。

「正念場だな、ジャンガ!」
「カッコつけるんじゃねェよ、ガキが!」

互いに殺気をむき出しにし、睨み合う。
そして、何かを話し出した。しかし、何故だかその内容が上手く聞き取れない。
まるでその部分だけ『サイレント』をかけたかのような…そんな感じがした。
「そうかい……」
――急に声が聞こえた。

「それじゃあ、遠慮はいらねぇな。…最初から遠慮なんて、してねぇけどよ!!」
「キキキ…、くたばりなァーーーッッッ!!!」

亜人の少年とジャンガの叫びが交差し、戦いが始まった。
ジャンガの爪が空を切り、少年が両手に持った銃と思しき物が火を噴く。
それは、あのジャンガとタバサの決闘を思い起こさせる物があった。
しかし、結果はあの決闘とは違っていた。

――敗れたのはジャンガだった。


「あ、ぐあ…、なんだと???」
「終わりだな、ジャンガ」
亜人の少年が手にした金色の十字のマークの彫られた、紅い銃を突き付ける。
(あれって?)
その銃にルイズは見覚えがあった。…それは、あのフーケとの戦いでジャンガが使った物と同じなのだ。
(あの銃って…この子の?)
そんな事を考えていると、ジャンガはあの決闘の時と寸分違わない、命乞いを始めている。
情けない、惨めな命乞いだ。
知らない名前が出てきたが、誰の事か解らない以上、考えても仕方ない。
いつの間にか、亜人の少年の後ろには二人の亜人が居た。
青い帽子の少年と、身体の大きな優しそうな雰囲気の男性だ。

BANG!!

突然の銃声に、ルイズは慌てて顔を向ける。
少年が持った銃から硝煙が立ち昇り、ジャンガの背後の地面に一つの弾痕ができていた。
「消えろ。二度と面ぁ見せんな」
「ヒ…あ、ああ」
少年の言葉にジャンガは慌てて立ち上がり、逃げていく。
それを見届けると、少年は後ろの青い帽子の少年と大人の人を振り返る。
その顔は何かをやり遂げた…迷いを振り切ったような…、とても清々しい物だった。
その時、少年の胸に着けた丸い”何か”が輝きを放ち、色が変わったように見えた。



――そこからの事をルイズは断片的にしか記憶できてない。

少年の身に着けた何かの色が変わった直後、逃げたはずのジャンガが少年に切りかかった。

それを青い帽子の少年が庇い、代わりに胸を切り裂かれる。

彼が倒れるや、先程の少年が叫びながら銃を撃つ。

銃弾に右胸を打ち抜かれ、ジャンガは背後の巨大な裂け目へと落ちた。



落ちるジャンガを見て、慌てて駆け寄るルイズ。

――その耳に叫び声に近い、狂ったような笑い声が響き渡った。



――キーッ!キキキキキキキキーーーッッッ!!!――



ジャンガの狂喜の声が頭の中に響き渡った瞬間、ルイズは夢から覚めた。
ベッドから身体を起こすと、額に手を当て、大きく息を吐いた。
「…何よ、今の夢…?」
見慣れない場所でのジャンガと知らない亜人の少年の決闘。
メイジ同士が今現在行うそれとは違う、純粋な命のやりとり……殺し合い。
単なる夢と片付けてしまうには今のは余りにも生々しい…。
特に…右胸を撃ち抜かれ、地面の裂け目に飲まれた時のジャンガの狂ったような笑い声は――
(…右胸を?)

ルイズの脳裏に彼を召喚した日の事が思い浮かぶ。


――地面に倒れるジャンガ

――右胸の部分に穴が開き、そこを中心に水のような物で湿っているコート

――その背中から広がる真っ赤な液体


「それに…」
召喚から三日後の朝の彼との会話を思い返す。


――月って…あんた”あの”月から来たって言うんじゃないでしょうね?――

――…ああ、そうだゼ?俺は月で死にかけてたのをお前に呼ばれたんだよ――


召喚された時の右胸の傷…。
あの時は嘘と一蹴した月から呼ばれたと言う話…。
「今の夢と重なりすぎてるわね…、夢自体リアルすぎるし」
ともすれば、今の夢は実際にあった事であり…、彼が月から呼ばれたと言うのは本当の事だと言う事になる。
しかし、月に行く方法とは一体どのような物なのだろうか?
彼は確か「ボルクの月ロケット」なる物で行ったと言っていたが…。
「ボルクなんて場所知らないし……月ロケットなんて物、聞いた事も見た事もないわね」

そこでルイズはふと…別の気になる事を思い出した。

(そう言えば…あの銃のマーク)

夢の中で亜人の少年が使っていた紅い銃に彫られた金色の十字のマーク。
ジャンガが頭に被っている帽子にも、あの銃に彫られている物と寸分違わぬ形のマークが彫られている。
思い返せば、夢の中の戦いで亜人の少年が主に使っていた、二丁の別の銃にもあのマークは彫られていた。

そこでルイズの頭にまた一つ疑問が浮かぶ。
――何故、敵対している……命のやり取りをしている者同士が、同じマークを付けているのだろうか?

あの二人の話の雰囲気から――いや、それ以前に相手を本気で殺そうとしていたのだから、仲が良いはずがない。
ならば、同じマークを付けているのは何故なのだろう?
…考えられるとすれば、あのマークが何かの意思表示だったり、ただの流行だったり、
あるいは、自分達貴族が身に付けるマントのように何かの身分を示す物なのかもしれない。
そう言えば以前、ジャンガは自分を前に居た所では”賞金稼ぎ”をしていたと言っていた。
…あのマークは、彼が居た所で賞金稼ぎを意味するマークなのだろうか?


そして、更に一つ…気になる事があった。

――落下する直前に見えたジャンガの最後の表情…、それが何かやり切れないような悲しげな物だった事だ…


「解らないわね…」
「あんまり悩むのは、お肌に毒ですよ~?」
突然聞こえてきた声にルイズは、ハッとなり、慌てて部屋を見回す。
すると、部屋の暗闇から、滲み出る様にして、声の主が現れた。
丸い、カラフルな身体…もしくは頭をした幻獣と思しき物だった。
見た目のイメージは道化師を思い浮かばせる。
「だ、誰!?」
ルイズは慌ててベッドから降りるや、杖を手に取り、現れた幻獣に向ける。
杖を向けられても道化師は笑みを崩さない……いや、元々こういう顔なのだろう。
「あ、申し送れました。ワタクシ…ジョーカーと申します」
挨拶をしながら、ジョーカーはルイズの方へと歩いていく。
ルイズは油断無く、杖を突きつける。いざとなれば、いつでも例の爆発を叩きつけるつもりだ。
と、ジョーカーはルイズの目の前に立つと、紳士のように恭しく礼をした。
その彼の行動にルイズも毒気を抜かれた。
「いやはや、夜分遅くに失礼しますネ。…ですが、とても重要な用件があるのですよ」
「用件?」
ルイズが聞き返すと、ジョーカーは姿勢を正す。
「アナタをお迎えに来たのですよ」
「迎え?…話が見えないんだけれど?」
「いや~魔法が使えないがゆえに、周囲の者にバカにされ続ける…。
そんなアナタの不幸な境遇をいたく愁いた方がおられましてネ…、アナタに救いの手を差し伸べようと、その方は考えた訳です。
そこで、ワタクシを使者としてつかわしたと言う事ですよ」
「何よそれ?そんな根拠も何も無い話を信じろって言うの?」
もっともらしい意見を言うルイズにジョーカーは変わらぬ口調で話を続ける。
「まァ…こんな突拍子も無い話、いきなり信じるのは難しいでしょうネ~?
ですが…考えてください。――この学院でアナタを理解し、助けてくれる人がどれだけいますか?」
ルイズはその言葉に目を見開いた。

そんなルイズの様子にジョーカーは畳み掛けるように話す。
「……いないでしょうネ~。何しろ生徒は殆どがアナタの事を”ゼロ”と呼んで蔑み、嘲笑う。
教師の方々もアナタの”失敗”に呆れ果て…殆ど放置状態。
給仕をしている平民の方々ですら、陰でアナタの悪口を言っている始末ですしネ~」
「……」
「ですが…、ワタクシを使者としてアナタの本につかわした方は違います…。アナタの事を理解してくれています。
ワタクシもそうです。魔法が使えない事の劣等感、周りの中傷に対する憤り、その他諸々全部、ぜ~んぶ。
アナタを理解し、助ける事が出来るのはワタクシ達だけなのですよ」
ジョーカーは歩み寄り、ルイズの手を取る。
「まァ…細かい話は、しかる場所へお連れした後でゆっくりといたしますので。
とりあえず…ワタクシと共に来て下さいませんかネ?」
「お断りするわ」
ルイズはジョーカーの手を跳ね除けた。

「なんですと~!?」
「もっともらしい理由やら何やら挙げて、上手く丸め込もうとしてるんでしょうけどね。
悪いけど、私…最近少しは前向きに物事見れるようになってるの。――どっかのバカ猫のお陰でね」
ルイズの言葉にジョーカーの片目が、ピクリと動く。
「だから、あからさまに怪しい貴方のお誘いは、お断りさせてもらうわ。そういう事だから、さようなら。
じゃ、私もう寝るから、早く出てってちょうだい」
そう言って、窓を指差す。
「…そうですか」
ジョーカーは静かに呟く。
「なら……致し方ありませんネ」
パチンと指を鳴らす。
その瞬間、ルイズに何かが覆い被さった。


「な、何!?」
突然の事に慌てるルイズ。
覆い被さってきたのはどうやらオリのようだ、それも形を見る限り鳥カゴのようだ。
「ちょっ、ちょっと!?これ一体何の真似よ!?」
「いや~ワタクシも、こう言う手段はなるべく取りたくはなかったんですよネ。
ですが…穏便な形で連れて行けないのであれば、こうするしかないでしょう~?」
と、鳥カゴが宙に浮かぶ。見れば、鳥カゴのてっぺんには鳥の頭のような物が付いており、
カゴの左右には翼が付いている。
「このカゴ…幻獣?」
「その通~り!ワタクシが使役する幻獣の一匹、『ケイジィ』ちゃんですよ。
本来は自分の餌を手に入れる際にそのカゴを使うのですが、運搬に便利ですのでネ。
こういった事に利用している訳ですよ。のほほほほ」
ルイズはカゴを掴み、力の限り引っ張った。しかし、カゴはよほど頑丈に出来ているらしく、ビクともしない。
その様子にジョーカーは笑う。
「無駄ですよ~?幾ら力を込めても。特殊な鉱物を含む餌を食べていますので、頑丈なんですよ。
あ、魔法で壊そうなんて考えてはいけませんよ?…解ってると思いますが、自分もただでは済みませんからネ」
ジョーカーの言葉にルイズは悔しそうに歯噛みする。
「誰か!誰か!!」
「叫んでも無駄です。既にこの学院に居る方々は、マギちゃん達の魔法でグッスリとお眠りに――」

「――そうとも言えないんじゃないかな?」
「!?」

唐突に聞こえた声に、ジョーカーは慌てて振り返る。
ルイズの部屋の扉が開き、二つの人影が入ってきた。
「それにしても、なるほどね…。学院中の人間を眠らせて回っていたのは、そういう理由だったか」
「手の込んだ誘拐の仕方ね…」
「ギーシュ!、それにモンモランシー!?」
以外な人物の登場に、ルイズは目を丸くして声を上げる。
ジョーカーは二人を見つめながら、ポツリと呟いた。
「…まだ、眠っていない方がいましたか」
「計算違いだったかい?」
挑発するようなギーシュの台詞にジョーカーは、さも可笑しいといった感じの表情になる。
「いえいえ…、全く予想していない事ではありませんでしたよ。
ただ……これでこの娘を連れて、ハイさようなら、では行かなくなりましたネェ~…」
「どういう意味かしら?」
モンモランシーの言葉にジョーカーは口元に手を当てて笑う。
「此方の事を知られていると、後々動き辛くなるのでして…。
甚だ遺憾ではありますが……アナタ方の命、頂戴といきましょう」
その言葉にジョーカー以外の三人に緊張が走る。
「…僕達を殺すと言う事かい?」
「のほほ、あんまりワタクシの趣味ではないのですがネ…、致し方ない事です。
それに申し上げたはずです…、”甚だ遺憾である”と…」
そう言うジョーカーをモンモランシーは気丈に睨み返す。
「何よ、要は誘拐現場を目撃されたから、目撃者の私とギーシュを消す…ってそれだけの事でしょう!?
大体、誘拐するんだったら、もっと強引にやればいいでしょ!?
あーだ、こーだ御託並べて、誘うなんて効率が悪すぎじゃないの!
全部、貴方の計画性の無さが原因じゃない。逆ギレもいい加減にしておきなさいよ!?」
矢継ぎ早に捲し立てるモンモランシーをジョーカーは涼しげな表情で見つめる。
「ふむ……まァ、仰られたい事は解るんですがネ。ですが、此方にも色々と事情がある訳でして…。
それと誘拐と言う事ですが……”この娘を利用する”と言う点では、目的の推察としては、正解ですかネ?
まァ…惜しいとだけ言っておきましょう。ですが、これ以上はお話できませんので、あしからず」



「そう言わずに教えてくれないか。冥土の土産として聞きたいのだがね?」



唐突に聞こえたその声にギーシュとモンモランシーは顔を見合わせる。
ジョーカーはさも楽しそうに、顔の笑みを濃くする。
「う~ん……確かに、アナタ方にはここで人生という舞台からご退場願う訳ですし…。
冥土の土産と言うのは、い~い響きですネ~」
「ミス・ヴァリエールを連れて行くのは、彼女が失われたペンタゴンの一角に関わるからだろう?」
「その通~~り!彼女の使い魔たるジャンガちゃんは、正しく伝説の神の左手ガンダールヴ!
故にそれを召喚した彼女は目覚めていないだけで……」
そこでジョーカーは、ハッとなる。
「…って、ちょっとちょっと待ったーーー!!!?…何故、その事を?
と言うよりも……誰ですか?出てきなさーい!?」
ジョーカーの叫びに答えるかのように、開け放たれた扉の陰からまた別の人影が現れる。
その人物の姿を認め、ジョーカー以外の三人は驚き、声を上げる。
『ミスタ・コルベール!?』
はたして、現れたのは教師の一人であるミスタ・コルベール、その人であった。
現れたコルベールを睨みながら、ジョーカーは怒りに顔を歪ませている。…口元は相変わらずだったが。
「むむむ……まだ、眠っていない方がいたとは。マギちゃんはどうしたんですか?」
「奇妙な形の幻獣かい?私の所へもやって来たよ……無論、私の炎でかるくいなしたさ。
…かわいそうではあったがね」
そしてコルベールはジョーカーを真っ直ぐに見据える。
「ガンダールヴやペンタゴンの一角の事…、君の言葉で確証を得る事が出来た。
そして、君を使わした者の目的も大体把握できた。感謝するよ」
コルベールは微笑んだ。

対してジョーカー大激怒。
「ムッキィィィーーー!!誘導尋問とは!?なんたる卑怯な!!なんたる破廉恥な!!
デジャブな感じです…前にもこんな事があったような……って!?以前にもありましたよ、こんな事!!?
天空寺院であの真ん丸なお人に、同じように誘導尋問をされて……ムッ、ムッキィィィーーー!!!
二度も…二度も、同じようなお人に、同じような誘導尋問に掛けられるとは……ああ、なんたる屈辱!
ワタクシのピュアでキュートなハートはズタズタですよーーー!!!」
大仰な仕草で天を仰ぐ様に天井を見上げ、悲痛な叫び声を上げるジョーカーに一同呆然。
そして、片方の目を吊り上げるような形にし、如何にも”怒ってますよ~”的な表情を浮かべ、ジョーカーは睨みつける。
「…ワタクシを怒らせ、屈辱を味合わせた事をタップリと後悔させて上げましょう!
まさか、本当に出番があるとは思いませんでしたが……お呼びするとしましょうか!!」
誰を?と一同が疑問に思う中、ジョーカーはあらん限りの大声で叫んだ。

「ジャ~~~ンガちゃ~~~ん!!、シャ~~~ルロットさ~~~ん!!、出番で~~~すよぉぉぉ~~~!!!?」

――その瞬間、窓が割れ、部屋の中へと飛び込む一つの影。


「ったく…案の定しくじったかよ」
毒づきながら顔を上げるその影は、紛れも無くジャンガだった。
ルイズは驚き、ジャンガに向かって叫ぶ。
「ちょっ、ジャンガ!?あんた、一体何やってるのよ!?」
「おーおー、カゴの中で喚いてる分には、可愛げもあるじゃねェか…ルイズ嬢ちゃんよ」
喚くルイズを小馬鹿にした笑いを浮かべて見据える。
そんなジャンガの態度にルイズの怒りのボルテージが更に上がる。
「ふざけないで!私の質問に答えなさ――って…タバサ!?」
壊された窓から、タバサが入ってきた事に驚くルイズ。
二つ名の『雪風』の通り、タバサの動きは降りそそぐ雪のようで、着地の際も実に静かだ。
無論、驚いたのはルイズだけでなく、モンモランシーとギーシュも同様だった。
「タバサ、何で貴方がここに!?」
「仕事」
「仕事とは…どう言う意味だい?」
「そのまま」
それで十分だろう、とでも言わんばかりにタバサは冷たく言い放つ。
ギーシュもモンモランシーもそのタバサの様子に唖然とする。
普段から物静かで、人と関わり合おうとしない彼女であったが、ここまでの冷たい反応は初めてである。
そのやり取りにジャンガは笑い声を漏らす。
「キキキ、無駄無駄…今のこいつに何言ったところで聞きゃしねェよ。
こいつは北花壇騎士<シュヴァリエ・ド・ノーズパルテル>のシュヴァリエ……任務は何より優先だからなァ」
「北花壇騎士?」
聞きなれない単語にルイズやギーシュ、モンモランシーは首を傾げる。
悩んでいる三人にジョーカーが付け加える。
「要するに、命令で汚れ仕事を引き受ける傭兵のような物ですよ。のほほ」
「た、タバサ……シュヴァリエって本当なの?」
「そうよ。前のフーケ討伐の時に、オールド・オスマンが説明をしたんだもの」
モンモランシーの問いにルイズが答える。タバサは無言のままだ。


パン、パン、パン

と、ジョーカーが手を叩き、皆の視線が集中する。
「と、言う訳で簡単に説明も終わった事ですし……そろそろお命頂戴と参りましょうかネ?」
「キキキ…、そうだな」
「……」
ジョーカーの言葉にジャンガは笑い、タバサは無言で杖を構える。
ギーシュとモンモランシー、コルベールも杖を構える。
「では、ワタクシは誘導尋問を仕掛けてくれたツルツルの方を――」
「待てよ」
ジョーカーの言葉を遮り、ジャンガが言った。
ジョーカーは怪訝そうな表情でジャンガを振り向く。
「何でしょうか、ジャンガちゃん?」
「あのオッサンは俺にやらせろ」
「何でですか?別に恨みも何も無いんじゃないんですか?
どちらかと言えば、ワタクシこそ恨みが有るんですがネ~…。
それに、ジャンガちゃん……弱い相手を甚振るのが好きじゃないですか。
何ゆえ…あのお二人ではなく、強そうなあのお方を?」
ジョーカーの言葉に暫し沈黙するジャンガ。
「別に……ただの気分だ」
「気分…ですか?」
「大体よ、あのガキ二人は前に散々甚振ってやってるから、飽きてるんだよ。
どうせまともにやりあったって、簡単にけりが着いちまうのは目に見えてるんだ。
そんな”ザコ”よりは…多少は歯応えのありそうな奴の方が”殺りがい”が在るってもんだろうが…キキキ」
その答えに納得したのか、ジョーカーも楽しげな表情を浮かべる。
「解りました…他ならぬジャンガちゃんの頼みですしネ。なら、あのツルツルのお方はお任せします」
「キキキ……任せなァ~」
笑って答えるジャンガに頷き、ジョーカーはタバサに目をやる。
「では、シャルロットさん……ワタクシとアナタは、あのお二人を相手と言う事で…宜しいですネ?」
タバサは答えない…、ただ黙って杖を構える。
「OKのようですネ~…のほほほほほ♪…では、それぞれの舞台へ、GO!」

ジョーカーがパチンと指を鳴らす。

瞬間、その場に居た全員が、目眩にも似た感覚を覚える。

床が、壁が、天井が、部屋のありとあらゆる物が、ぐにゃりと歪む。

まるで絵の具を垂らした水面のような、そんな感じに景色が歪む。

歪んだ景色は、ぐにゃり、ぐにゃりと捏ねられる粘土のように形を崩しては整えるのを繰り返す。


――そして、歪んだ景色が正常に戻った時、そこは既に部屋ではなく、屋外だった。


「ここって…?」
「学院の前の草原だね」
辺りを見回すモンモランシーに、同じく見回していたギーシュが答える。
先程までルイズの部屋にいたのに…。
笑い声が聞こえた。二人が前を見ると、そこにはジョーカーとタバサが居た。
自分達を強制的に移動させたのが目の前のピエロである事を、二人は瞬時に理解したと同時に旋律を覚える。
自分が移動するのならともかく、他人をも強制的に移動させるなど尋常ではない。
ふと見上げれば、翼と角が生えた人型とルイズを捕まえた鳥カゴの様な幻獣が浮いている。
「のほほほほ、ご安心を。あのガーゴイルはお目付け役でしてネ……シャルロットさんを監視しているだけですよ」
空に浮かんだ人型=ガーゴイルの事を説明する。
そして、説明が終わるや、ジョーカーは片方の目の形を変え、さも可笑しいと言った表情になる。
「それにしても…ワタクシの相手がジャンガちゃんに歯牙にもかけられなかったお二人とは…。
いやいや、なんだか簡単に事は進みそうですネ…。ま、軽~~く、捻り潰してあげるとしましょうか?
誘導尋問に掛けるなどと言うハレンチ極まりない行為の罰は受けてもらわねばなりませんからネ」
「どう考えても、あんたが勝手に喋っただけじゃないの?」
モンモランシーのツッコミに、ギーシュも、ルイズも、タバサすら頷いた。
――当然、ジョーカー憤慨。
「シャ~ラップ!お黙りなさ~~~い!!!」
再び”怒ってますよ~”的な顔になり、ジョーカーは怒鳴る。
「こーなれば、ワタクシのプライドが許しません!あのツルツルさんの分も含めて、
アナタ方お二人を…ギッタギタのボッコボコにしてさしあげましょう!!!」

言い終わると同時に、ジョーカーの身体が闇のベールに覆われ、膨張する。
突然の事に、ガーゴイルを通して状況を見ているミョズニトニルン以外の全員が目を見開く。
膨張が止まり、ジョーカーを覆う闇のベールが消える。
そこには、六メイルほどの大きさまでに巨大化したジョーカーが立っていた。
「な、何なのよ!?」
「きょ、巨大化なんてありなのか!?」
「その通~~り!ワタクシに不可能な事なんて、ほ~んのチョビットしかないんですよ…のほほほ」
笑いながら、ジョーカーはタバサの身体を手で掴み、自分の頭(?)の上、耳と耳の間の所に乗せる。
「では、シャルロットさん…援護よろしくお願いしますネ?」
無言でタバサは頷く。
位置的に見えないはずだが、ジョーカーはそれが解った様子。
満足げに笑い、戦闘開始の言葉を口にした。

「さぁ、ショータイムと参りましょうか!」


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