あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第2話


 すこしひんやりとした早朝の空気と、カーテン越しに指す夜明けの光で目が覚めた。
 体を起こし、そこがルイズの部屋であることを思い出して、ようやく頭が覚醒したようだ。
 昨日俺がルイズによってハルケギニア召喚されたこと、ルイズから聞いた話を回想する。
 ……ついでに、洗濯をしろと放り投げられた下着のことも思い出した。
 ため息を一つ。
 主人と使い魔という関係ではあるにしろ、慎みはなくしてもらいたくないものだ。
 だが、そんなグチをこぼしていても始まらない。
 外の様子からまだ起床には早い時間であるだろうと当たりをつけ、先に洗濯を済ませてしまうことにした。
 したのだが、ここで問題が浮上。
「洗濯場はどこだ?」
 昨日召喚されたばかりな上に、かなりの広さを持つこのトリステイン魔法学院。当然各々の施設の場所など分かろうはずもない。
 さて、どうしたものかと思いはしたが、迷っていても仕方がない。
 とりあえず洗濯物をまとめ、ついでに洗顔用だろう桶を持ってルイズの部屋を出た。

 寮塔を出ると、すぐに答えが見つかった。
 早朝ながら、既にメイドたちを含む下働きの者たちが仕事を始めていた。
 分からなければ、訊けばいい。
 ということで手近なメイドに声をかけたら、何の偶然か昨日のシエスタだった。
「あ、おはようございますフィアースさん。随分とお早いですね」
「あぁ、おはようシエスタ。すまないが洗濯場を教えてもらえないだろうか?」
「洗濯場ですか?すぐそこですから案内しますよ。こちらへどうぞ」
 やはり顔が知られている相手は話が早くて助かる。
 俺はシエスタに案内されて、洗濯場へと向かった。
「でも洗濯場にご用事って、ミス・ヴァリエールの洗濯物か何かですか?」
「あぁ、そうだが」
 話ながら移動すると、確かにすぐ洗濯場へと到着した。
「それでしたら、私が代わりにお洗濯しましょうか?」
「む、それは」
 俺の受けた仕事だし、彼女にも仕事があるだろうと思ったのだが。
「いや、もしよければ頼めるか?旅に適した服なら勝手も分かるが、貴族の高級な衣服を同じように洗濯したら痛みそうだ。
 それに、女性ものの下着を男の俺が洗濯するのはルイズにとってもよくないだろう」
「はい」
 笑顔で洗濯物を受け取るシエスタ。
「それではお洗濯しておきますから、またお昼下がりくらいの時間にでも受け取りに来てください」
「あぁ、ありがとう。また今度、痛まない洗濯の仕方を教えて欲しい」
 今日はいいが、今後どんなことがあるか分からない。もし遠出することになったら、俺が洗濯をしなければならない場面もあるかもしれない。
「わかりました。いつでも声をかけてくださいね」
 そう答えるシエスタに礼を告げて、ついでに桶に水を汲んでルイズの部屋へと戻る。

 さて、時間も過ぎたし周囲の部屋からも人が動く気配がすることも合わせると、そろそろ起床時間で間違いないだろう。
 ベッドを窺うと、ルイズは丸まったまま毛布に包まって熟睡中だった。
「ルイズ」
 声をかける、が反応なし。
「ルイズ、朝だ」
 もう一度声をかける。多少身じろぎはするが、またすぐに寝息に取って代わられる。
 ため息を一つ。多少の強硬手段も已む無しと判断し、毛布を剥いでしまうことにした。
 バサッと一息に毛布を剥ぐと、流石に目を覚ましたか。
「な、なによ!なにごと!」
「朝だ、ルイズ」
「はえ?そ、そう……って誰よあんた!」
 まだ寝ぼけていたらしい。
「フィアースだ。水を汲んできたから、顔を洗って目を覚ますといい」
「あぁ、そうか。昨日召喚したんだっけ……」
 もそもそと起き出すと、ふぁ、とあくびを一つ。
「服」
 椅子に掛かっていた制服を渡す。
 すると続けて、
「下着」
 と言うので、流石にひとこと言っておくことにした。
「ルイズ、身支度の手伝いならいいが女性の慎みを忘れたような行為はしない方がいい。部屋を出ているから、服を着たら呼んでくれ」
 ぽかんとするルイズを残して、部屋のドアを後ろ手に閉める。
 その向こうから「使い魔の癖に!」とか「貴族は下僕がいるときは自分で服を着たりしない」だとか「バカ!」などと叫ぶ声が聞こえたが、そのうち静かになった。
 程なくして身支度を終えたかルイズが呼ぶ声がしたので部屋に戻ると、昨日と同じ制服姿に着替えたルイズが不機嫌そのものの顔でこちらをにらんでいた。
「あんたねぇ」
「話は聞こえていたが、男の俺が手伝うべきことではあるまい。貴族と言うのであるなら、慎みを忘れないことだ」
「あ、あんたに貴族を説かれるまでもないわ!」
 まだ納得してないようで、ブツブツと文句が聞こえてくる。


   ◇◆◇


 全くこの使い魔は、なんで朝一番からこんなに反抗的なのよ!
 使い魔が主人の身の回りのことの手伝いをするなんて当然じゃないの!
 昨日はとんでもない話を聞かされてちょっと甘くなっちゃっかな~なんて思ったから、今日から使い魔としての躾をって思ってたのに、いきなり大失敗だわ……はぁ。
「時間はいいのか?ルイズ」
 あぁはいはい時間ね。
 確かにもう朝食の時間も近いし、そろそろ部屋を出た方がいいかもしれない。
 懐から取り出した何かを見ながら言うフィアースに、返事をして部屋を出る。
「わかったわかった、行くわよ」
 なんというか、ホントにマイペースねコイツ。
 フィアースがドアを開けて待っている。
 なによ、気が利くところもあるんじゃない。
 などと思いながら部屋から出ると、すぐ目の前のドアが開いた。
 あの部屋は。
「あら、おはようルイズ」
 燃えるような赤い髪、わたしより頭一つ分高い身長、彫りの深い顔に、ブラウスの上2つのボタンを外してその塊を強調しているかのような服装。
 やっぱりキュルケだ。
「おはよう、キュルケ」
 あぁ、嫌な相手に遭遇したというのが声にも表情にもでちゃったわ。
「あらぁ、朝からご機嫌斜めなのねぇ。ところで、あなたの使い魔ってそれ?」
 バカにしてるのが丸見えなのよ。
「そうよ」
「あっははは、ほんとに人間なのね!すごいじゃない!くくっ、さすがはゼロのルイズね」
 あぁもう、本ッ当に気に障る笑い方!
「どうせ使い魔にするのなら、こういう方がいいわよね。ねぇフレイムー」
 キュルケが呼びかけると、のっそりと大きなサラマンダーが現れた。
「これは大きい火トカゲだな」
 今まで静かだったフィアースの声がする。
「ふふ~ん。見てこの尻尾。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、きっと火竜山脈のサラマンダーよ?ブランドものよー?」
「そ、そう。そりゃよかったわね」
 くそぅ、自慢したいだけなんでしょどうせ!
「素敵でしょ。あたしの属性にぴったり」
「あんた『火』属性だもんね」
「えぇ。微熱のキュルケですもの。ささやかに燃える情熱は微熱」
 そういってその塊を突き出す。
 負けてなるものですか!とこちらも胸を張り返したが、キュルケは全然見てなかった。
「あなた、お名前は?」
「フィアース。フィアース・アウィルだ」
「ふぅん、なかなか気の利いたお名前ね。それじゃ、お先に失礼」
 そう残すと、わたしたちを置いて去っていった。そのあとをフレイムと呼ばれたサラマンダーが、その大きな体躯に似合わずちょこちょことあとを追っていったのが、意外に可愛らしかった。
「……あああもう、なんなのよあの女!自分が火竜山脈のサラマンダーを召喚したからって自慢して人を馬鹿にして!」
「ルイズ。少し落ち着いたらどうだ」
「あんたは知らないでしょうけど、メイジの実力を測るには使い魔を見ろって言われてるくらいなのよ!何であのバカ女はサラマンダーで、わたしはあんたなのよ!」
 八つ当たりと分かってはいても、この悔しさの方が耐えられなかった。
 フィアースは目を閉じて黙っている。
「あぁもう!行くわよ!」


   ◇◆◇


 到着したアルヴィーズの食堂には、昨夜ちらっと見た夕食よりもさらに豪勢な食事が並んでいた。
 どうやら、ここでは夕食は軽めのようだ。とはいえ、俺からしてみればそれでも十分に豪勢なものではあったのだが。
 ふとルイズを見ると、手を額に当てている。
「また忘れてた。仕方ない、あんたは昨日みたいに食事を貰ってきなさい」
 なるほど、俺の食事の件だったか。
 まぁ俺としても、貴族たちに混じっての食事よりもマルトーやシエスタたちとの方が気軽でいい。
「ルイズ。もしこちらでの手配が手間なら、俺は毎回厨房での食事でも構わないが?」
 そう言うと、ふむ、と少し考える仕草を見せた後に
「ならそうしなさい。それじゃ、終わったらまたここで待ち合わせね」
 とお許しが出たので、昨日シエスタに案内してもらったように厨房へと向かった。

 マルトーに軽めの朝食を貰い、今度はルイズを待たせないように早めに食堂の入り口へと向かい主を待つ。
 程なくして食事を終えた少年少女が出てきた。ルイズもその中にいて、今日は待たせることなく合流できた。
 ふむ、大体3~40分と言ったところか。覚えておこう。
「それで、今日はどうするんだ?」
「もちろん授業よ。今日は使い魔の顔見せも兼ねてるから、あんたもついてきなさい」
「わかった」
 そういえば、召喚された際にコルベールが召喚された使い魔によって進路を決定するといった内容のことを言っていたな。
 その意味でも使い魔のお披露目と言うのは必要な事項なのだろう。
 だが、属性か。
 先ほどのキュルケのような使い魔なら分かりやすいが、では俺を召喚したルイズはどんな属性に分類されるのだろうか。
 そんなことを考えながら、ルイズについて教室に入る。
 石造りの講堂は、流石に歴史を感じさせた。
 俺とルイズが教室に入ると、先に来ていた生徒たちがこちらを見ると同時にクスクスと笑い声が聞こえてきた。
 中には男子生徒に取り囲まれて、朝のキュルケもいた。
 ただ、その隣には青髪の小柄な少女が静かに本を読んでいる。周りの男子たちに比べるとそこに少し違和感があったが、まぁ仲のいい友人なのだろう。
 ルイズは教室中から聞こえてくる笑い声を、さも気にしていないという風に振る舞いながら最後列の席に着いた。
「ここはメイジの席だから、あんたは後ろで待ってなさい」
 ふむ。確かに他の生徒の使い魔たちは床や空中、教室に入れないものは外にいるなど、席には座っていない。
 俺はルイズの後ろに控えるようにして立つことにした。
 そうしていると、講義の教師だろう中年の女性が入ってきた。紫色のローブと帽子がいかにもスペルキャスター……こちらの言葉ではメイジといった様子だ。
「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」
 その言葉に、ルイズが少し俯く。
「おや、変わった使い魔を召喚したのですね。ミス・ヴァリエール」
 とぼけた様子で先生がそう言うと、教室中がどっと笑いに包まれる。
「ゼロのルイズ!召喚できなかったからって、その辺の平民を連れてくるなよ!」
 その言葉に流石にこらえきれなくなったか、ルイズが立ち上がり反論する。
「違うわ!わたしはきちんと召喚したもの!こいつが来ちゃっただけよ!」
「嘘つくなよ!『サモン・サーヴァント』ができなかったんだろう?」
 その言葉に、またも教室中がゲラゲラと笑い声に包まれた。
「ミセス・シュヴルーズ!侮辱されました!かぜっぴきのマリコルヌがわたしを侮辱したわ!」
 怒りの勢いのままに、ルイズは机をこぶしで叩いた。
「かぜっぴきだと?僕は風上のマリコルヌだ!風邪なんか引いてないぞ!」
「うるさいわね!風邪でも引いてるみたいな声のくせに!」
 そんな子どもの喧嘩のようなことを見ながらミセス・シュヴルーズが一つため息をついてから杖を振ると、立ち上がって睨み合っていたルイズとマリコルヌは糸が切れたように席に落ちた。
「二人ともみっともない口論はお止めなさい。お友達をゼロだのかぜっぴきだの呼ぶものではありません。分かりましたか?」
 その言葉に、ルイズはうなだれて小さくなっている。が、一方のマリコルヌはまだまだ言い足りなかったらしい。
「ミセス・シュヴルーズ。僕のかぜっぴきはただの中傷ですが、ルイズのゼロは事実です」
 その言葉に、あちこちから再びくすくす笑いが漏れてくる。
 それを見たシュヴルーズは杖を一振りし、笑っていた生徒たちの口に、どこから現れたものか赤土の粘土を貼り付けて黙らせた。
「あなたたちは、その格好で授業を受けなさい。授業を始めます」
 静かになった教室に、シュヴルーズの声が響く。
「私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。『土』の系統の魔法を、これから一年、皆さんに講義します。魔法の四大系統はご存知ですね?ミスタ・グラモン」
「はい、ミセス・シュヴルーズ。『火』『水』『土』『風』の四つです」
「よろしい」
 指名された金髪の少年は気取った口調で答え、正答だったのだろう、シュヴルーズは頷いた。
「この四つに、今は失われた『虚無』の系統を合わせた五つの系統があることは、皆さんも知っての通りです。その中でも万物の組成を司る『土』の系統は、皆さんの生活に密接に関係した、もっとも重要なポジションの系統であると言えます。金属を作り出すことも加工することや、石材を切り出したり建物を建てること、また農作物の収穫などにも関わってきますからね」
 聞くとはなしに聞いていた俺は、シュヴルーズの説明によって、この世界の技術がほぼ魔法によって成り立っていることを知った。なるほど、これでは貴族と平民の間に明確な線引きがあるのも頷ける。
「今から皆さんには『土』系統の魔法の基本である、『錬金』の魔法を覚えてもらいます。中には一年生のうちにできるようになった人もいるでしょうけが、基本は大事です。もう一度おさらいすることに致します」
 そう言うと、机の上に取り出した小石に向かって杖を振る。
 そして短く魔法を唱えると、小石が光りだした。
 その光がおさまると、ただの小石だったそれが光沢を放つ金属へと変化していた。
「ごご、ゴールドですか?ミセス・シュヴルーズ!」
 キュルケが身を乗り出した。
「いいえ、これはただの真鍮です。ゴールドは『スクウェア』クラスの土メイジでも月にほんの少ししか生成できません。それに、私は」
 そこで一つ咳払いをし、言葉を続ける。
「ただの、『トライアングル』ですから……」
 ふむ、言葉から察するに、『スクウェア』や『トライアングル』と言った言葉は、メイジのランクのようだな。
 四角に三角と言うことは、それ以下はラインだったりドットだったりするのだろうか。
 それに、何を以ってランク分けがされているのか今ひとつ分からない。あとでルイズに訊いて見よう。
「さて、それでは誰かにやってもらいましょう。そうですね」
 そう言うと教室を一通り見回したシュヴルーズは、ルイズの方を向いた。
「ミス・ヴァリエール。あなたにやってもらいましょう」
 その言葉に、教室中がざわつく。
 何だ?
 見れば、ルイズも少し戸惑っているようだ。
 そうしていると、キュルケが口を挟んだ。
「先生、やめといた方がいいと思いますけど……」
「どうしてですか?」
「危険です」
 ルイズが錬金をすると危険?どういうことだ?
「どういうことですか?」
 シュヴルーズも首を傾げているが、生徒たちは全員キュルケと同意見のようだ。
「先生は、ルイズを教えるのは初めてですよね?」
「えぇ、そうですが。でも、彼女が大変な努力家であるとのことですし、座学の成績も優秀だと聞いています。さぁ、ミス・ヴァリエール」
「ルイズ、お願い止めて」
 蒼白な顔で告げたキュルケのその言葉が、逆にルイズに火をつけたらしい。
「やります」
 そう言うと、ルイズは立ち上がって教壇へと歩いて行った。
「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」
 そう説明を受けながらルイズが意識を集中し始めると、生徒たちは机の下へと隠れだした。
「あなたも隠れた方がいいわよ」
 キュルケが俺に声をかけてきた。
「どういうことだ?」
「危ないのよ、ルイズの魔法は」
 言いたいことだけ言うと、彼女も机の下へと隠れる。
 先ほど、シュヴルーズが見せた錬金とルイズが行う錬金は違うものなのか?
 そんな疑問に俺が首を傾げながら教壇の方を見ていると、ルイズが声とともに杖を振り下ろすのが見えた。

 一瞬の静寂の後に、小石は教壇の机ごと爆発した。

「なッ!」
 爆風が迫る。その瞬間、俺は反射的にレジストブロックで爆風を受け流した。
 危なかった。
 その爆発が魔法だったことと、昨日からスペルキャスターになりっぱなしだったことが幸いして、俺はダメージを受けずに済んだが……教室は惨憺たる有様だった。
 爆風であちらこちらが吹き飛び、その中心地にいたルイズとシュヴルーズはもちろん吹き飛ばされて倒れていた。
 爆音に驚いた使い魔たちが、火を吹き出したり窓ガラスを割って逃げ出したり他の使い魔を飲み込んだりと、阿鼻叫喚だ。
 シュヴルーズは倒れてはいるが時おり痙攣しており、とりあえず命に別状はなさそうだ。
 そんな中むくりと起き上がったルイズは、取り出したハンカチで煤けた顔を拭きながら淡々と言った。
「ちょっと、失敗みたいね」
 すぐさま批難囂々になる。
「何がちょっと失敗だ!ゼロのルイズ!」
「いつも成功率ゼロじゃないか!」
「だから危ないって言ったのに!」
 その言葉に、遅まきながら俺はゼロの由来を知ったのだった。


   ◇◆◇


 あの後わたしは、意識を取り戻したシュヴルーズ先生に教室の片付けを命じられた。魔法の使用は厳禁というおまけ付きで。
 まぁ、もともとわたしが魔法を使うとさっきみたいに爆発しちゃうから、使う気はなかったのだけれど。
 もちろん、わたしの使い魔のフィアースにも手伝わせている。
 錬金を失敗させて爆発させてしまった直後の批難は、わたしにも聞こえていた。
 わたしのゼロの由来、フィアースにもバレちゃったわね……
 いつまでも隠し通せるとは思っていなかったけど、やっぱりショックだ。
 ふと見ると、いつの間にか手が止まっていたわたしをフィアースが見ていた。
「なによ……どうせあんたも馬鹿にしてるんでしょ。メイジなのに魔法が使えない、ゼロのルイズだって」
 悔しくて顔を上げられない。
 何もこんな突然に、こんな形でばれなくたっていいじゃない。
 涙もにじんできた。
「俺がここに来る前にいたエレシウス王国では、代々の姫巫女が守護獣の力を振るったと言う話はしたな?」
 フィアースが唐突に何か話し出した。
「えぇ、聞いたわよ」
「俺はその姫巫女である王女とも旅をしていた」
「は?」
 なにかとんでもないことを聞いた気がする。
「だがその王女は、守護獣との契約を果たすことができなかった」
「それって、どういうこと?」
「元老院……敵対していた組織に言わせるなら、王たる資格を持たない王女ということになる」
 その言葉に、フィアースが何を言おうとしているのか、少し気づいた。
「それで?」
「だがその王女は周囲の期待に答えるために、常に王族であろうとしていた。伝統から外れた自分だったからこそかも知れないが、伝統のみにとらわれず、常に国民の平和を考えていた。彼女自身の性格もあり、民からの人気も高かった。」
 無言で先を促す。
「大切なのは、どうあるかと言うことだ。お前が周囲になんと言われる存在であっても、俺の召喚に成功し、俺との使い魔の契約に成功したことは事実だ。そして、俺の命を救ってくれたことも事実だ。俺はそれを知っている」
「……それで慰めてるつもり?余計な気を回してないで、片付けの続きをするわよ」
 照れ隠しが入っていたのは自分でも分かった。
 慰めてくれたフィアースに、思わずキツいことを言ってしまって、少し自己嫌悪。
「それに」
 まだ何かあるの?
「先ほどの爆発は、魔法ではないのか?そうでなければ、レジストブロックが効いたことに説明が付かないのだが」
「レジストブロック?」
「昨日見せたスペルキャスターの能力の一つで、魔法を捌いて無効化できる技術だ。周りの生徒たちは机の下に隠れていたが、俺は知らなかったから立ったままだった。爆発の衝撃をレジストブロックで捌くことができたからこそ、無傷でいるのだが」
 そう言って、立っていた場所を指差す。
 確かに彼が立っていた場所は、他と違って傷どころか爆風による汚れすらなかった。
 ……何その便利な技。
 そんなの持ってたらメイジは歯が立たないじゃない!
「もちろん、成功させるのはなかなか難しい。経験で語るなら、6回やって1回成功するくらいの確率でしかないからな」
「ふぅん、運がよかったのね」
「話がずれたが、あの爆発も魔法の一つではないか、というのが俺の意見なのだが」
「でも、そんな魔法聞いたこと無いわ。勘違いでしょ。さぁ片付けるわよ。早くしないとお昼になっちゃう」
 四系統にあんな爆発の魔法があるなんて聞いた事もないしね。


   ◇◆◇


 結局、教室を片付け終えたのは昼食時間の直前だった。
 なんとか一通り綺麗になった教室を出て、食事へ向かう。
 先ほどの件はうやむやになってしまった。
 前例のないものでもあるようだし、そもそも俺自身も魔法にはどちらかというと疎い方だ。
 こんなとき、ラブライナなら巧く考察をしたのだろうが。
「……と」
 ルイズが小さく何かを呟いたのが、かろうじて聞こえた。
「すまない、何か言ったか?」
「な、なんでもないわ」
 そう言うと、ずんずんと歩き出した。
 ルイズの後ろを歩いていたために彼女の顔も見えなかったので、どう判断していいか迷う。
 しかし迷っていても始まらない。
 一つため息をつくと、早足になったルイズについて行った。

「それじゃ、またあとでね」
「あぁ」
 そう言って食堂の入り口でルイズと別れ、厨房へと向かった。
「あ、フィアースさん。お昼ご飯ですね、ちょっと待っててください」
「あぁ、すまない」
 厨房に入るとすぐに、シエスタが声をかけてきた。
 椅子に座って待っていると、程なくしてシエスタはパンとシチューを持って現れた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。いただきます」
 シチューを掬って口に運ぶ。昼食も絶品だ。
 パンをちぎって食べる。こちらも焼きたての香ばしさが何とも言えない。
「そんなに急がなくても大丈夫ですよ?」
 む、そんなに速く食べているつもりは無かったのだが。
「お昼のあとはデザートも出ますから、貴族の方もゆっくり召し上がられるんですよ。
 それにミス・ヴァリエールも含めた二年生の方々は、今日の午後は休講です。召喚なされた使い魔とのコミニュケーションの時間だそうですよ」
 なるほど。それなら確かに急ぐ必要もあるまい。
 いや、それならば。
「それなら、デザートの配膳を手伝わせてもらえないか?」
「え?そんな」
 遠慮気味の返答を返してくるシエスタ。
 だが、もらってばかりというのも性に合わない。
「いつも食事を頂いているからな。それくらいは手伝わせて欲しい」
「分かりました。それでしたら、この後よろしくお願いしますね」
 そうと決まれば、手早く食事を済ませてしまおう。


   ◇◆◇


 食後のデザートは中庭のテラスで頂くのが、この学院でのいつもの風景。
 わたしも例に漏れずテーブルの一つに陣取って、なぜか同席しているキュルケともう一人の青髪の小柄な女の子―――タバサと言うらしい―――の言葉を聞き流しながら、デザートを配って回るメイドたちを見るとも無しに見ていた。
 とは言っても話しているのはキュルケだけだったが。
 そうしていると。
「どうぞ」
 無愛想な声が聞こえたと思って振り返ると、そこにいたのはフィアースだった。
「あんた、何してんのよ?」
「食事を頂いてばかりでは悪いと思ってな。配膳の手伝いを申し出た」
「ふぅん。まぁ、恥をかかない程度に頑張ってちょうだい」
「あぁ」
 やり取りの間も、キュルケやタバサにもデザートを配っている。
 何気に彼の動きは綺麗だ。体を鍛えているせいだろうか。
「それでは、失礼致します」
 そう言うとフィアースは他のテーブルに歩いていった。
「ねぇ、あんたの使い魔、身だしなみ整えればいい線行ってると思うんだけど」
 また始まったわこの女は。
「人の使い魔にちょっかい出さないでよ」
「あらぁ?恋愛は個人の自由よぉ?」
 こうなるとキュルケは人の話を聞かない。
 頭痛の種が増えてしまったことに、頭を抱えたくなった。

 しばらくキュルケと言い合いをしていたのだけれど、ふと気が付くとテラスの一角が騒がしい。
 遠巻きに目をやると、その騒音の中心にはギーシュと必死で頭を下げるシエスタ、それにフィアースがいた。
「あいつ、何やってんのよ!」
 思わず口に出し、その人だかりへと向かう。
「……で待っている!決闘だ!」
 そう残してギーシュはずかずかと歩いていった。
 それを見て、シエスタはおびえた様子で走り去ってしまった。
「あんた何やってんのよ!なんで決闘なんて言葉が出るようなことになってるの?」
 そうわたしが訊いても、フィアースは目を閉じて答えない。
「ちょっと、何とか言いなさいよ!」
 詰問にも無言。
「あぁもう!一体何があったっていうのよ?」
 その言葉に、やっとフィアースは口を開いて状況の説明をした。
 シエスタがギーシュのポケットから落ちた小瓶を拾ったこと、それによりギーシュの二股がばれてしまったこと、その責任をシエスタに押し付けて罰そうとしたこと。
 何それ。完全にギーシュの自業自得じゃない。
「シエスタには世話になっているし、何より譲れないものもある」
 でも、平民はメイジには勝てない。それはフィアースが多少変な力を持っていたとしても覆るような、甘い差ではない。
「あんたが何にこだわってるか知らないけど、謝っちゃいなさい。ちょっとくらい力のある平民なんかに勝てるほどメイジは甘くないの」
「悪いが、譲るわけには行かない。誰かヴェストリの広場の場所を教えてくれ」
「こっちだ。平民」
 案内する生徒と一緒に、フィアースは歩き去ってしまった。
「ああもう!ほんとに!使い魔のくせに言うことを聞かないんだから!」
 わたしはフィアースのあとを追った。




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