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零姫さまの使い魔 第八話


「あっしは手の目だ
 先見や千里眼で酒の席を取り持つ芸人だ

 アルビオンでの一件も無事に解決し 先日 久々に本業の方を再開した
 と言っても 学院の休暇を利用して 実家に遊びに来ないかと言う
 シエスタの誘いに乗っただけだったんだが……

 何と言うか 場代がわりと言うには 本当にとんでもねェ土産を渡されちまった
 随分と景気のいい話だがね こいつは あっしの懐にゃ大きすぎらぁ」





「そう…… ウェールズ殿下は」

ルイズからの報告を聞き終えると、アンリエッタはしばしの間
深い諦念と共に、窓の外を見降ろしていた。

「……申し訳ございません 姫様 私の力が至らぬばかりに」
「それは違います」

ルイズの謝罪に対し、意外にも力強くアンリエッタは応じると
膝を屈し俯くルイズの両肩を、愛おしそうに掻き抱いた。

「ひ 姫様?」

「よくぞ 無事で戻ってきてくれました
 ごめんなさい 私の愚かな望みのせいで あなたを苦しめてしまったのね」

「そんな事は……」

「約束します」

顔を上げたルイズの視線の先で、悲しみを閉じ込めたアンリエッタの瞳が交錯する。

「私 アンリエッタ・ド・トリステインは ルイズ・フランソワーズの友誼を忘れません
 いずれ あなたとあなたの友人に対し 然るべき形で報いると」

ルイズは、己の憂慮を恥じていた。
ウェールズの最期を知り、落胆するであろう主を、どう激励すればいいのか悩んでいた自分を。
現実の彼女は、ルイズの中の悲しみを悟り、却って気遣うだけの余裕を見せたのだから。

「なんと勿体無きこと 私にはその言葉だけで十分ですわ 姫様」

「ときに 今日はあなたの友人はどうなさったの?
 彼女の働きにも 十分なお礼をせねばなりませぬのに」

「……手の目でしたら 学院の日程に合わせ休暇を与えました
 一週間ほど前から タルブの方に静養に行っておりますわ」

実際には、そう仕向けたのはルイズである。
手の目が貴族の陶酔を白眼視するきらいがあるのは、アルビオンでの一件で理解していた。
ワルドの同行が王女の手配だった事も考えれば、少なからず毒を吐きたがるのは明白である。
できればルイズは、王女と手の目を再び会わせたくなかったのだ。
シエスタの提案はルイズにとって渡りに船であった。

「授業開始までには戻れと伝えています
 そろそろ学院に帰ってきている頃合いかもしれませんわ」

そう言うと、ルイズは何とは無しに学院の方を見つめた。


――同時刻

学院の中庭では、先の話題の主である手の目と、宿直役のコルベールが、
庭の中央に置かれた珍妙な機体を見つめていた。

「……すると手の目君 この鉄の塊は君たちの世界の乗り物で
 シエスタの祖父 ササキタケオ氏は この舟に乗って異世界から来たと言うのかね?」

「恐らくはね
 タルブの連中は【竜の羽衣】なんぞと呼んでいたが
 こいつはそんな洒落た代物じゃねェ
 これはプロペラ戦闘機 あっし達の世界の空飛ぶ兵器さ」

ふむ、と返事もそこそこに、コルベールは10メイルを超す深緑の機体の周辺をぐるぐると回り
プロペラを覗き込んで見たり、コックピットを確かめてみたりと、思索に没頭する。

「……にわかには信じがたい話ではあるが
 確かにこの機体は ただのオブジェクトでは無さそうですね
 これ程精密な治金技術で造られた代物が 六十年前のタルブに存在したとは」

「そいつはあっしも同意だ こいつは六十年前どころか
 あっし達の時代の飛行機と比べても なんら遜色ないように思える
 佐々木氏があっしの世界から来た事は 間違いないとは思うが
 それにしちゃあ シエスタの話には 妙な食い違いが見られたしね……」

実際のところ、500km/hを越す最高速度に加え、長大な航続距離、
20mm機銃二挺による高火力を併せ持った眼前の名機は、
手の目のいた時代の航空技術すらも、少しばかり上回っていたのだが
素人の彼女には、さすがにそこまで推察する事は出来なかった。

「それで…… この機体を 飛ばすことは出来るのかね?」

心中に湧き上がる興奮を抑えながら、コルベールが緊張気味に問う。

「さてね
 尤も こいつは魔法で固定化される前に
 本職である佐々木氏自らの手で 万全な点検が施されているはずさ
 燃料さえどっかから調達できれば まあ 飛ぶんじゃないかね?」

「燃料か…… フム それはこちらで研究してみよう
 ん? ところで手の目君 きみはこれを操縦出来るのかい?」

「む……」

手の目が思わず返答に詰まる。
彼女の計画の、最大のネックがそこであった。

「この羽衣を、天皇陛下に返して欲しいと言う、祖父の遺言を継いで下さい!」と、
シエスタから必死の泣き落しを食らい、しぶしぶながら承諾した手の目ではあったが、
所詮、住み込みの身に過ぎない彼女が、この機体を維持していくなどと言うのは無理のある話だった。

(実際、学院まで機体を運ぶための運送費すら、彼女は持ち合わせていなかった為
 千里眼でミミズの巣を探す事を条件に、ヴェルダンデから工面して貰っていた。)

そこで、科学技術に興味を持つコルベールに対し、
何とかうまい事を言って、機体を引き取って貰おうというのが、手の目の本心であった。
だが、ここで肝心の乗り手のいない事がバレてしまっては、その計画も水の泡である。

「まあ……」

微妙に視線を外しながら、手の目が呟く。

「見様見真似で 何とかなるんじゃあないかな……?」


かくして、機体は無事にコルベールの預かるところとなった。

もっとも、それで手の目に安息の日々が戻って来た訳ではない。
タルブに帰省中のシエスタが、祖父の遺品の中から膨大な資料を探し出し、わざわざ学院に送りつけて来た為である。

故・佐々木武雄氏が手ずから書いたと思しきその資料は
機体のメンテナンス方法から、実際の操縦法に至るまで、多岐に及んだ。
言語が通じない事が分かっていながら、敢えて全ての資料が日本語で書かれていたのは、
自分たちの世界の戦闘機が、ハルケギニアの人間に悪用されないようにと言う、氏の配慮であろう。

何にせよ、泣きたいのは手の目である。
なにせ時は夏休み、研究の時間は幾らでもある。
手の目は朝から晩まで仕様書の朗読をさせられた上、
部屋に戻る時には分厚い操作マニュアルを持たされる、地獄のような日々が続いていた。




「最近 随分と楽しそうじゃない 手の目」

「……そんな風に見えるかい?」

その日、同じ部屋に住みながら、入れ違いの日々を過ごしていた主従が、久方ぶりの会話に及んでいた。

「別に誤魔化すことは無いわよ あの機械が飛びさえすれば 元の世界に帰れるんでしょ?」

最初、なんて酷い皮肉を言う女だ、と顔をしかめた手の目も
そこで、ルイズの様子がいつもと違う事に気付いた。

「何か誤解があるようだが あっしは別に ここを出るために あれをいじっている訳じゃないよ」

「でも いずれ故郷に戻る時には あれを使うつもりなんじゃないの」

「一度はね
 なにせ 顔も知らないとは言え 同郷の人間があっしに託した遺言があらぁ
 何とか叶えてやりてぇと思うのが 浮世の義理ってもんだ
 だが あっし自身には取り立てて あちらに帰るべき理由が無いね」

「……元の世界に 戻りたくはないの?」

「あちらの世界は たまたま生れ落ちた場所ってェだけの事さ
 流れ流れて旅ガラス と言えば聞こえはいいが
 所詮は根無しの浮き草稼業 戻った所で あちらにゃ帰るべき家が無ェ」

――ごめん、と思わず声に仕掛け、ルイズが咄嗟に口をつぐむ。
ワルドの言葉ではないが、頼るべきものの無い日々を、己が才覚によって切り開いてきた彼女に対し
下手な同情は侮蔑に他ならない、と感じたからだった。

「――だからまあ そう勘繰りなさる必要は無いよ
 まだ当分は こちらで世話になるつもりささ」

「当分って?」

「お嬢の前に運命の男が現れて あっしが邪魔者になるまでさ」

唐突な手の目の言葉に、ルイズはきょとんと目を丸くしたが、
手の目が意地の悪い笑みを浮かべたのを見て、頬を思い切り紅潮させた。

「な! ととと突然なにを言い出すのよ
 最近アンタ ちょっとキュルケに似てきたわよ!」

「何だと! そいつはちょっと聞き捨てなら……」

と、手の目が反論しかけたが、部屋の扉をたたく音に気付き、口が止まる。
ルイズが促すと、扉の隙間から、ギーシュが顔を覗かせた。

「やあ 何やら話し声がすると思えば
 二人とも 休暇中だというのに学院に残っていたのか」

「それはお互い様でしょ 何の用よ?」

「うん 先ほど先生達から連絡があってね
 学院に残っている者は 生徒職員を問わず 至急食堂に集まるようにという事だ
 まったく 何だって言うんだろうね。」


学院長、オールド・オスマンからの説明は、きわめて簡潔なものであった。

アルビオンの艦隊の突然の宣戦布告と、トリステイン王女アンリエッタの出陣、
タルブ方面での戦闘の開始。

情報が錯綜しているため、詳しい状況が分かるまで、授業開始は延期。
学院に残っている者は、当面は自室待機、以上。

「姫さまが……」

学院に残っていた者達が、深刻に囁き合いながら食堂に後にしていく中、
ルイズはしばし、蒼白な面持ちで立ち尽くしていたが、何事か思い直したように、キッと後ろを振り返り、

背後にいた手の目に足をかけられ、思い切り派手に転倒した。

「な! 何すんのよッ!」

「お嬢 どこに行こうってんで?」

「知れた事よ
 トリステイン貴族の義務を果たしに行くわ」

「戦端は既に開かれているんだろ?
 今から馬をとばしても間に合わないだろうに……」

ルイズはぶんぶんと首を振り、強い意志を宿した瞳を手の目に向けた。

「間に合うかどうかは やってみなくちゃ分からないわ
 そりゃあ 今の私が行ったところで 足手纏いかも知れないけれども
 姫様が最前線で踏み止まっている時に ただ 事態を静観しているなんて 私には出来ないわ!」

「…………」

「あんたはどうなの? 手の目
 流れ者のあんたにとっては 所詮 対岸の火事に過ぎないとでも言うの?
 あんたの友人のシエスタは まだタルブに残っているんでしょ」

「……あっしはハナから お嬢を止めるつもりは無いよ
 こんな事になっちまったんじゃ あんた 言ったって聞かないだろ

 あっしが言いたい事はそうじゃねえ
 徒手空拳で戦場に向かうよりも もっと良い手があるだろうって事さ」

「……もっと いい手?」


「ダメだ! そんな無茶な行動 教師として断じて許可できない!」

手の目の要求に対し、コルベールが悲鳴をあげる。
眼前にある飛行機が戦闘の為に作られた物である事は、重々承知していたが
彼が熱心に機体の研究を進めてきたのは、少女達を戦場に送り届けるためではない。
しかもこの機体は、幾度かプロペラの試運転を行ったのみで、未だ飛行試験を行っていないのだ。

「だが こいつが使えなければ お嬢は自分の足で学院を出て行くだけだ
 戦場に赴くのは貴族の義務 それを止める権利は 一介の教師には無いんだろう?
 そしてその場合 お嬢は結構な確立で死ぬ」

「…………」

「こういう言い方は卑怯だがね このタイミングで機体の整備を進めていた事に
 あっしには何か 運命めいたものすら感じるのさ
 もしも かの佐々木氏が生きていたなら
 家族を守る為 彼はもう一度 これに乗っただろうと思うしね」

しばし、深刻な面持ちで思案していたコルベールであったが
やがて、深い諦念とともに、言葉を紡いだ。

「……分かった だが決して無理はせず 無事に戻ってくるように」
「約束した」

「ちょ ちょっと待ちなさいよ!」

当然のようにコックピットに乗り込もうとする手の目の背に、ルイズが今更な疑問を投げかける。

「手の目 アンタ 操縦できるの?」

「……【見様見真似】で やってみるさ」


操縦席に潜り込むと、手の目はまず、いつもの山高帽を外し、ルイズの頭部へと捻じ込んだ。

「きゃっ! なによ」
「お守り代わりさ」

短く言うと、簪を引き抜いて髪を下ろし、
操縦桿にかぶせてあった、年季の入った飛行帽を被り直した。

「さて…… 一丁頼みますぜ 佐々木少尉殿」

やや緊張した面持ちで、ゴーグルを下ろし、ゆっくりと操縦桿を握り締める。
やがて、手の目の視界が徐々にブレ始め、魔法学院の中庭の風景の上に、もう一つの輪郭線が覆い被さってくる。

雲一つ無い青空に、じりじりと焦げ付くような灼熱の太陽。
眼下に一直線に伸びる、アスファルトの滑走路、鼻に付くコールタールの臭い。
そして、形容しがたい、戦場特有の緊張感。

『佐々木ィ! 行けるか?』
『ハッ!』

外から聞こえてきた、上官と思しき男のダミ声に、【彼】が短く応える。
緊張と情熱が入り混じった若者の声。
握り締めた操縦桿と、愛用のゴーグルを通して、いつしか手の目は【彼】見たの風景を追っていた。

慌しく動き出した過去の光景に合わせ、現実世界の手の目が、コルベールへと合図を送る。
エンジンが始動し、プロペラの回転が安定してからは、何の問題も無くなった。
【彼】の流れるような一連の操作を、手の目の五体が正確にトレースしていく。

路面の違いにより、過去の記憶ほど優雅にとはいかなかったが
それでも二人を乗せた飛行機は、衝撃を堪えながら、上空へと鮮やかに舞い上がった。


「本当に飛んだのね…… こんな鉄の塊が」

「ああ だがそれだけじゃ無いぜ
 こいつは人を乗せて戦う事を前提に作られた機械だ
 こと空中戦にかけては そうそう遅れをとる事は無い筈さ」

ルイズに簡潔に説明しつつも、手の目の視線は正面に向けられていた。
一度離陸さえしてしまえば、後はタルブまで真っ直ぐ飛べば良いだけなのだが、
彼女一人では、眼前にある計器の意味すら分からないのだ。
過去の佐々木氏の一挙手一投足から、目を離すわけにはいかなかった。

――やがて、二人の眼下に、焼け野原と化したタルブの大地が広がってきた。

「……あれが名高いアルビオン艦隊 そして竜騎士団ね」

機影に気づいた竜騎士の何名かが、ゆっくりと近づいてくる。
視界には、他に交戦の様子は見られない。
既にして、制空権はアルビオン側に掌握されているようだった。

「さて…… 先ずは小手調べと行くかい」

手の目はゆっくりと両目を閉じると、瞼に移る【彼】の記憶を、テレビのチャンネルのように切り替る。
【彼】の記憶の中の敵機の姿を、現実の竜騎士へと重ねると、その後の動きを【彼】へと任せ……。

「……ッ!」
「どうしたの! 手の――」

ルイズの呼び掛けに応じる事なく、手の目は突如として機体を急加速させ、フルスロットルで竜騎士の眼前へと迫った。

「「「うわあああああアアァアアァーッ!」」」

名馬が突然暴れ牛に変身したかのような暴走に、機体の内外で絶叫がシンクロする。
反射的に炎を噴出そうとする火竜の大口が、眼前に恐るべき勢いで迫る。

「チクショォー!」

手の目が稲妻のごとき早業で、銃弾を竜の口中へと叩き込む。
同時に機体を垂直に立て、暴れる火竜の脇スレスレを、高速で通過していく。
直後、火竜の油袋が引火、爆散。
背後からの爆風を追い風に、機体が後続の二体の間を高速で突き抜ける。

「て 手の目ッ! ムチャすんじゃ……」
「クソッタレェ! やりやがったッ!」

ルイズの抗議を遮り、手の目が怒声を上げる。

「な なにッ! どこかやられたの?」
「佐々木の野郎ッ!」
「サ……ササキ?」

戦闘開始直後の突然の暴走に加え、全く要領を得ない発言。
ルイズは真剣に、彼女が狂ったのではないかと思った。
勿論、手の目は狂ってなどいない。
ある戦闘狂が見せた神業を、正確にトレースしただけである。

『イィィヤッハアァ――ッ!』

異常にテンションの高い男の歓声が響き渡る。
機内にではなく、手の目の脳内に。

『グワハハ 来やがれェ 毛唐どもッ!
 ゼロ戦と大和魂の恐ろしさ たっぷりと味わわせてやるゼッアァーッ!』

「うわあああっ 何なんだこの男!」

だが、手の目に泣き言を口にしている余裕は無い。
くどいようだが、彼女は計器一つすら、まともに見ることが出来ないド素人なのだ。
今の彼女に出来ることは、涙目になりつつも歯を食いしばり
その天才的狂人の神業を、必死でトレースする事だけだった。

急加速、急上昇、キリモミ旋回、トンボ返り、急降下、零距離射撃――。

カタログ上のスペックどころか、この宇宙の物理法則にすらにも逆らいつつある零戦に動きに
アルビオン自慢の竜騎士隊は、成す術も無く次々と撃墜され、大混乱へと陥いった。
タルブの空に、異邦人・佐々木武雄が残した【竜の羽衣】の動きについて行ける者など、誰一人居なかった。

――勿論、最もついて行けていなかったのは、羽衣に乗り合わせた二人の少女である。

「て て 手の目…… こいつが凄いのは分かったから
 だから…… だから 機体を止めてェーッ!」

「五月蝿ェ! そんな事ァ 佐々木の旦那に言ってくれッ!」


「佐々木って誰よオォ―――ッ!」


ルイズの絶叫が響く中、タルブの地で、一つの伝説が始まりつつあった……。


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