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ゼロと波動 第10話



学院の入り口ではロングビルとシエスタが馬車の御者台に座って待機していた。
街を歩けば誰もが振り向くであろう理知的でグラマラスなメガネの美女と、
隣の美女に負けない豊かな胸の健康的な少女が並んで座っているのだから、ちょっとした絵画に見えないこともない。

そして幌付きの荷台にはルイズ、キュルケ、タバサが乗っており、ルイズとキュルケがぎゃあぎゃあと何かを言い合っている。
その中でタバサは我関せずといった風に革張りの装丁が施された分厚い本を読んでいた。
こちらも御者台の二人に負けない美少女ぞろい。

大人の女から年頃の娘、あと何年かで年頃になりそうな娘。
巨乳、平原。
美女に美少女。
正によりどりみどり。

金持ちの貴族でもこれだけ集めるのは至難の業だろう。
間違いなく極上のハーレムだった。
ここにいるのがギーシュならブリミルに感謝しただろうし、マリコルヌなら死んでしまっていたかもしれない。
幸せ死にというやつだ。

だが、そんな普通の男なら歓喜する極上ハーレムもリュウにとっては自分が保護者にでもなったような気分でしかない。


「あ!リュウさん!こっちですよー!」
リュウに気づいたシエスタが大きく手を振る。
「ダーリン!」
キュルケも気づき、荷台から身を乗り出して負けじと手を振る。

「ちょっと!人の使い魔に向かって何がダーリンよ!?」
ルイズが噛み付く。
「使い魔ったって、リュウは人間なんだから別に恋愛感情抱いてもいいじゃない。なんならあなたもフレイムをダーリンって呼んでもいいわよ?」
「冗談じゃないわ!そもそもトカゲじゃない!」
「んまっ!?トカゲとは失礼ね!サラマンダーよ!?火竜山脈産のサラマンダーなのよ!?ブランドものよ!!?」
自分の使い魔をトカゲ呼ばわりされてヒートアップするキュルケ。

「・・・うるさい」
タバサが本から目を離さないまま、隣に立てかけていた自分の背丈より長い杖を手に取ると短く「サイレント」の呪文を詠唱する。
途端に荷台からは一切の音が消え、静寂が訪れた。
キュルケとルイズは相変わらず何か言い合っているが、口をパクパクさせるだけで声が出ていない。
声が出ないから、二人は取っ組み合いを始めた。

「・・・ちょっと狭いかもしれんが、俺もこっちに座らせてくれ」
リュウは荷台の惨状を見て大きく息をつくと、荷台に乗るのを諦めて御者台に座ることにした。

「わあ!リュウさんだー!リュウさんだー!!」
シエスタが隣に座ったリュウの腕にしがみつく。
自分の腕に頬と胸を擦り付けてくるシエスタに戸惑うリュウ。
リュウは女性の扱いがとても下手だった。






走り出した馬車は至って平穏に山道を進んでいた。
次々と木々が後ろに流れていくのを見ているとちょっとした遠出のようで、とても今から盗賊を退治しにいくようには思えない。

そんな平穏極まりない山の中を小一時間ほどシエスタの他愛無い話など聞きながら進んでいたが、話が一区切りついた辺りでリュウが口を開いた。
「ところで・・・フーケは捕まるとどの程度の罪になるんだ?」
この世界での罪に対する罰とはどの程度のものか知らないリュウが尋ねる。

「もしフーケが平民なら良くて打ち首、悪ければ拷問の末に晒し首でしょうね。貴族ならどういう裁定が下されるかは私には判りかねます」
ロングビルが素っ気無く答える。

「フーケは魔法が使えるんだろう?貴族なんじゃないのか?」
解せないといった感じで聞くリュウ。

「貴族は必ずメイジですが、メイジが必ずしも貴族とは限りませんよ。貴族の名を剥奪されたメイジもいますから」
ロングビルの整った顔に陰が落ちる。彼女は溜息をつくと最後に一言付け加えた。
「私みたいに・・・」

いつの間にかキュルケが荷台から顔を出してリュウとロングビルの会話を聞いていた。
毎晩遅くまで勉強と魔法の練習をしているルイズはキュルケとの肉弾戦に飽きると、馬車の揺れの心地よさに勝てず眠りこけてしまっていた。
一方、夜更かしは美容の大敵と睡眠時間バッチリのキュルケは遊び相手を失ってしまい、暇を持て余していたのだった。

「あら?ミス・ロングビルって貴族じゃなかったの?なんで名を剥奪されたのか聞いてもいいかしら?」
興味津々な顔でロングビルが口を開くのを待つ。

「ごめんなさいね、あまり話したい過去じゃないの」
ロングビルが怒るでもなく、寂しげに答える。

「そりゃそっか、ごめんなさい」
キュルケはばつの悪そうな顔で素直に謝ると、荷台の中に戻っていった。
が、すぐにもう一度現れるとシエスタを引っ張っる。
「っていうか、あなた何でダーリンにくっついてるのよ!こっち来なさい!」

もちろんキュルケの力程度では微動だにしないシエスタではあったが、
貴族の命令とあれば逆らうわけにもいかず「ふぇ~~」などと情けない声をあげながらキュルケと共に荷台に消えていった。




荷台はロングビルとリュウだけになった。
しばらく沈黙が続いたが、やがてリュウは荷台の連中が誰もこちらに来ないのを確認してから口を開いた。
「盗んだ物を返してもらえないだろうか」
前をしっかりと見据えたまま告げるリュウ。

ロングビルがぎょっとした顔でリュウの方を向く。

――バレているのか?――

もし自分の正体がバレているのなら、この男が相手では万に一つも勝ち目は無い。
何しろ形容し難いほどの殺気をバラ撒き、30メイルのゴーレムを瞬く間に消し去った男だ。
トライアングル・クラスのメイジである自分にはどう転んでも勝てまい。
いや、それどころか、スクウェア・クラスでも勝てるとは思えない。
それでも必死で戦う術を模索する。
負けるワケにはいかないのだ。

――勝てないまでも、せめて逃げることさえできれば――

が、やはりいくら頭の中でシミュレーションしてみても自分が勝つことはおろか、逃げきれる予測にさえ辿り着かない。
襲い来る絶望感に鼻の奥がジンジンと痛み、体中の毛穴が開く。

口の中はカラカラに渇ききってしまっているが、最大限に平静を装ってなんとか言葉を搾り出す。
「どういう意味でしょう?」

「そのままの意味だ。俺にはあんたが殺されなければならないほどの悪人には見えない」
真っ直ぐ前を見るリュウの顔には表情がなく、何を考えているかを窺い知ることが出来ない。

「ミスタ・リュウ。貴方は私を誰かと勘違いしていませんか?」
脈拍が上がり、背中にはいやな汗がじっとりと浮かぶが表面上にはいっさい出さず、あくまで白を切り通そうとするロングビル。

リュウはロングビルの方に顔を向けると、真剣な顔で告げた。
「俺は”土くれのフーケ”に死んで欲しくないんだ」




ロングビルの目つきが急に鋭くなり、口調も変わる。
「・・・いつ判ったんだい?」

理知的だった美女の顔は消えてなくなり、野生の荒々しさが宿った猫科の動物のような美しさを醸しだす。
誤魔化しきれないと悟り、ロングビルでいることをやめたのだ。
それと同時に自分の命運はこの男の掌の上にあることを覚悟する。

今、リュウの隣にいるのはまさに”土くれのフーケ”だった。

「一番最初にあんたに出会ったとき、少なくともあんたは秘書ではないと思っていた」
「そんな最初から?まったく参ったね・・・”土くれのフーケ”様がなんてざまだい・・・」
ロングビル、いや、フーケがため息をつきながら天を仰ぐ。

「で、あたしがフーケだと判ったのは?」
「学院長室にあんたが入って来たとき、あんたはルイズを見て驚いていた。そして、すぐに安堵したような顔をした」
「・・・で?」
「あんたは大木が直撃してルイズは死んだと思い込んでいたんだ。ところがそのルイズが学院長室にいた。
死んだと思っていた人間が目の前にいるんだ、驚くだろうさ。そして安堵した。少なくとも、殺してしまったと悔いていたんだろう」

フーケはしばらく黙ってリュウの顔を見つめたあと、諦めたように口を開いた。
「あんた、いったい何者なんだい?デタラメに強いだけじゃなくて周りも良く見えてるし頭も回る。なんであたしはこんなのを敵に回しちゃったんだろうねぇ」
言って、大きな溜息をつく。

「盗んだものを返してくれないか?」
リュウがもう一度言う。

「いいよ。元々返すつもりになってたしね」
あっさり了承するフーケ。

「あんたの言うとおり、あたしはあの貴族の娘が死んだと思ってたからね。物を盗るのに誰かを死なせてたんじゃあ、あたしの中じゃ仕事は失敗なのさ。
仕事が失敗してるのに獲物は手元にあるなんて納得いかないだろ?
ただ、返そうにも学院が本気になって警備に力を入れたんじゃあ、流石のあたしでもメンドウだからね。
適当な廃屋にでも置いといて、そこに案内しようと思ってたんだよ。
そしたらどうだい、あの娘が生きてるじゃないか。
それで返すか返さないかで迷ってるうちにあんたに正体を見抜かれちまった。ホント、あたしも焼きが回ったねぇ」

「悪いことは出来ないもんさ」
リュウが笑った。
フーケも笑った。
それは裏の世界に生きている人間とは思えないほど、明るく輝くような笑顔だった。




「あんた、いいヤツだね」
フーケは笑うのをやめると、真面目な顔になる。

「でもね、『破壊の珠』は返すけど、あたしは”土くれのフーケ”を辞めるワケにはいかない。何しろ金が要るからね。
平民がまともに稼いでも手に入る金なんてたかが知れてるしさ。それじゃ足りないんだ。
 ・・・たとえ捕まって晒し首になるとしても、あたしには金が要るんだよ」

リュウを見つめ、寂しそうに呟く。
「あんたは悪人に見えないと言ってくれたけど、あたしは悪人なんだよ・・・」

フーケは自分がなぜこんな話をリュウにしているのか解らなかった。
『もう盗みはしない』と言ってその場をごまかし、後で隙を見て消え去るのが一番の手だと頭では理解しているはずなのに、自分はリュウに洗いざらい喋ってしまっている。

「なんでだろうね、あんたといると調子が狂うよ・・・で、どうする?あたしはフーケを辞めないと宣言しちまったよ?あたしを捕まえるかい?」
この男は正義感が強い。さっきはもしかしたら見逃してくれるかも知れないと思ったが、盗みを辞めないと断言した以上は自分を捕まえるだろう。
先ほどもシミュレーションした通り、この男から逃げ出せる可能性は殆どないと考えていい。
”ごめんね、ティファ。もうお金を渡してやれそうにないよ・・・”
フーケは覚悟を決めると、再び逃走するための作戦を幾重にも考え始めた。

「いや、好きにすればいいさ」
だが、リュウから返ってきた言葉は意外なものだった。だから、聞き返してしまった。
「え?」
「好きにすればいいさ。俺はフーケの正体が誰なのか知らない。どうやら少し居眠りしてしまったようだ」
「・・・なんで・・・見逃してくれるんだい?」
「言っただろう?俺にはあんたが悪人には見えない。それだけだ」
リュウは真っ直ぐに前を見つめ、力強く言った。

リュウは見た。
『金が要る』と言ったときのフーケの顔を。
それは自身の欲の為ではなく、必要に迫られた悲壮感漂うものだった。
おそらく誰かのために多額の金が必要なのだろう。

自分から大貴族であるルイズやキュルケに頼めばそれなりの額は工面してもらえるかもしれない。
だが、もしそうしてフーケの為に金を用意しても、きっとフーケはその金を受け取らない。
自分がフーケのためにしてやれることは、何も無かった。
目の前にいる人間すら助けることのできない自分。
多少は人より力が強いかも知れないが、それが一体なんだと言うのか。
己の無力さに歯噛みするリュウ。

それに街で聞いた話ではフーケは金持ちの貴族からしか盗まないらしいし、彼女の行動から人の命を奪うこともしないことを知った。
決して褒められたことではないが、誰かの為に何かを成そうとするフーケの行為を止めることなど、無力な自分にできるはずがなかった。

「そんな顔するんじゃないよ。あたしは盗賊なんだよ?」
リュウの思いつめた顔を見て、フーケはリュウが何を思っているのかを悟った。

「さっきも言ったけど、あんたってば本当にいいヤツだね。あんたに気にかけてもらえるなんて、あの貴族の娘が羨ましいよ」
フーケは更に言葉を続けようとしたが思い直して口を閉じ、しばらく無言でリュウの顔を見つめる。

「・・・このまま道なりに進みな。1時間もすれば小屋のある広場に出るからね。その小屋の中に、箱に入れて置いてあるよ」
フーケはメガネを外し、髪を束ねていた結紐を解く。長く美しい緑の髪が風に煽られ大きく広がる。

「ロングビルはこれで終わりだよ。『破壊の珠』が手に入らなかったから、もう学院にいる意味ないしね」
「そうか。何か伝えておきたいことはあるか?」
リュウが尋ねる。




「そうだね・・・オスマンのジジイに礼でも言っといてくれると嬉いね。
あんたの秘書をやってたことに文句はなかった、給料の額だって満足してるって。”土くれのフーケ”様が感謝してたってね。
実際、あのジジイは平民のあたしにも十分良くしてくれたよ。セクハラだけはどうにも我慢ならなかったけどね」

フーケが少しだけ寂しそうに、しかし笑顔で言う。
「物盗りが何言ってやがるって話だけどね」
そう付け加えてけらけらと笑うフーケ。
陽光に照らされるフーケの笑顔はとても眩しく、美しかった。

「元気でな」
リュウが短く言う。
「あんたもね」
フーケは馬車の手綱をリュウに手渡すと、ぐっと顔を近づけた。

「このフーケ様が敵わないって思った相手なんだ、よく顔を見せとくれ」
しばらくリュウの顔を見つめたあと、突然自分の唇をリュウの唇に合わせる。
「な!?何をする!!?」
滑稽なほど慌てふためくリュウ。とにかく、色恋沙汰とは縁遠い男だった。

「見逃してくれた礼だよ。悪くはないだろ?これでも自分の見てくれには自信があるんだ。
ホントは一晩ぐらい相手してやっても良かったんだけどね、それをしちまうと、あたしがあんたに惚れちまいそうだからさ。残念だけどやめとくよ」
フーケはじっとリュウを見つめると、とびきりの笑顔で片目をつぶる。
「じゃあね」
それだけ言うと御者台から飛び降り、フーケはそのまま森の中に消えていった。


――惚れちまいそうだから・・・か。もう、どっぷり手遅れだよ。
ホント、”土くれのフーケ”がなんてざまだい・・・――
馬車を見送りながらフーケが自嘲気味に呟いた。





「さて・・・なんて言い訳するかな・・・」
リュウは一人になってしまった御者台の上でルイズ達にどう説明しようかと悩むのだった。







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