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狼と虚無のメイジ-06


狼と虚無のメイジ 第六幕

「うふふふふふふふふ……ツェルプストーの顔ったら無かったわ!」

喜色満面。派手なリアクションも交えて悦に浸るルイズの後にホロが続く。

「そんなに……はむ……嬉しい……もぐもぐ……ものかのう……朝から……何度目じゃ……むぐ」
「あたりまえよ!何しろあいつは我がヴァリエール家200年来の仇敵だもの!言うなれば仇を獲ったと言うところね!」
「随分と可愛らしい仇討ちじゃの……はむっ」

そこまで言ってようやくルイズは、ホロの言葉に一々挟まる咀嚼音に気がついた。

「……さっきから何食べてるのよ」
「うん?ああ、マルトー、と言ったかや?料理長だそうじゃが気の利く雄じゃ。賄いを豪勢に分けてもらったんじゃ……むぐむぐ」

片手で持てる程度のバスケット。
こんがりと狐色に焼けたパンの大きさはルイズの拳程だろうか。
上に十字の切れ目が入っており、そこに味付けをしたブ厚い肉が詰め込まれている。
その上に被さる上品な乳白色の色合いは、とろけたチーズに違いない。

「水牛のチーズだったかの……コクも味も逸品じゃ。あむっ」

かぶりつくと同時に肉汁と油が滴った。それが絶妙にパンと絡み、極上の香りを立ち上らせる。

「ホロ……あんた、朝の食事はきちんと与えたでしょ!?きっちりとテーブルで!」

キュルケをあしらって上機嫌なルイズだったが、それはそれ、これはこれと食堂ではホロに床で食事を与えるつもりだった。
しかしその状況を見たホロは、さも勿体無いと言う風にルイズに言ったのである。

『あるじ様も逐一冗談が好きなご様子。獣の姿の使い魔ならば、床で食べるは確かに当然。しかしてわっちにはこの二本の腕に、道具を使える五本の指がありんす。人の姿の使い魔ならば、それすらも生かすのがあるじ様。お戯れは困りんす』

要するに「テーブルで礼法に沿って食べる」と言う芸当は他の使い魔には出来ない。ならばそこを強調しないでどうするんじゃ、と言う誘導である。

頭をめぐらせてからルイズは「むむ……」と唸った。
そして五秒と経たない内に「ま、まあ、ノせられてあげるわ!ノせられたんじゃなくて、ノって上げたんだからね!」と折れた。見事に誘導されて。

笑いを噛み殺す方が苦労すると言うのもまた妙な話ではあるが……。

「ちょっと、聞いてる!?」
「解っておらぬのう。これは代価じゃ……ごくん」
「代価?」

朝食の時を思い出し、くつくつ笑うホロの時間を現在に引き戻したルイズ。
若干ご機嫌メーターが下降気味だ。

「うむ、朝食を一口食べて解った。実に腕の良い人間じゃとの。故に厨房に出向き、礼を言ったまでのこと。するとまあ、にこやかに笑ってこれをくれた言う訳じゃ。はむはむ」

満面の笑みを浮かべて実に美味そうに食べている。実際美味いのだろう。
何しろ朝食を食べたばかりのルイズをして、生唾をごくりと飲み込む程だ。

「やらぬぞ?」
「い、いらないわよ!」
「はて?唾を飲み込む音がしたのじゃが……わっちの見当違いかの?」
「!?」

真っ赤になるルイズを尻目に、耳をぴこぴこ動かしてほくそ笑むホロ。
どう見たって遊ばれている。
しかしここであたふたと誤魔化したら負けだ。ホロは気づいている。
誤魔化すにしても、それを踏まえた上で切り返さなければならない。

「……優秀な耳を持っていて何よりね。きっとどこかの狼が獲物を見つけたんだわ」
「いやいや、おそらく狼は既に満腹。それを必死に飼いならそうとする娘なら心当たりがあるんじゃが」
「~~~ッ!」
「あくまでもどこかの狼と娘の話、でありんす」

ホロの笑顔の底の知れなさに、ルイズはがくりと肩を落とした。

「くふ、今の返しは中々良い。あるじ様とは早く会話の妙を楽しめる様になりたいものじゃ」
「言ってなさい。笑ってられるのも今の内よ……って!それより授業が始まっちゃうじゃない!さっさと食べてついて来て!」
「む、まだ一つ残っておるんじゃが……」
「いいから早く詰め込んじゃいなさい!」
「こ、これ!自分で食べ……もがっ」

バスケットから最後の一つを取り出すと、ルイズは無理やりホロの口に詰め込んだ。

「む~っ」
「こっちよ!」

胸を叩きながら苦しそうな顔をしている狼少女、そしてその主人が廊下を駆ける様はかなり目立つものだったらしく、数日メイド達の話題に上ることとなった。


◆       ◆       ◆       ◆       ◆


教師と思われるふくよかな女性の入室と共に始まった授業は、前年度の基本のおさらいから始まった。

「火」「水」「風」「土」からなる四代系統の魔法の特徴と形質、そして扱う分野などを軽く流す程度であったが、実際に使えるかは兎も角として、ホロにも十分に理解できる内容と言えた。
土の系統贔屓が気になるとろではあったが、個人個人が有する系統を鑑みればそれも仕方のないことなのだろう。

尻尾をぱたぱたさせて授業を聞いていたホロだったが、そこに流れを変える一言が発せられた。

「それでは……そうですね。ミス・ヴァリエール、ここにある石くれを何らかの金属に変えて貰いましょう」

教師……シュヴルーズと言ったか……が、「錬金」と言われる魔法の実地を行い、それをルイズにやらせると言うのである。
シュヴルーズの言葉に対して、青い髪の少女を除いた生徒全員が様々な反応を見せる。

ある者は空を仰ぎ、ある者はこの世の終わりの如き表情を見せる。

「先生!それは余りにも危険です!」

キュルケが猛反対してくる。はて、今朝のあれがそんなに腹が立ったのかのうと首を捻るホロだったが、どうも違う様だ。
タバサはと言えば冷静沈着に机の下へと隠れている。

「私、やります!」

肩をいからせながら教壇に向かうルイズ。
ここに来てホロの狼としての本能が警鐘を鳴らした。耳と尻尾の毛がぶわっと逆立つ。

慌てて机の下に潜ったのと、爆音が当たりに響いたのはほぼ同時だった。


◆       ◆       ◆       ◆       ◆


「ふむ、見事な有様じゃの」

けほっと咳をして、ホロは煤けた机の上に腰を降ろした。

「上手くいくと思ったのに……」

教室は正に惨々たる有様だった。
質実ながらも意趣を凝らした、教育の現場に相応しい調度の数々。それが一様に煤け、ヒビ割れ、大破している。
技術の粋を集められた透明度の高いガラスは粉々に砕け、危険なトラップと化していた。

そしてそれを引き起こした桃色の髪の乙女と言えば、見た方が落ち込みそうな程に陰々滅々とした空気を醸し出していた。
よく見れば、同じ場所を気づきもせずに掃き続けており、一層絶望感を引き立てているのが解る。

「サモンは上手くいったのに……うう」

錬金の為に杖を振り下ろした瞬間に、教室を吹っ飛ばす程の爆発が巻き起こったのはつい先刻だ。
そして惨状が落ち着いた後に、口々の他の生徒から「ゼロのルイズ」の連呼。
ここに来てようやく、ホロはルイズが学園において置かれている状況を把握した。

『魔法成功率ゼロ。故にゼロのルイズ』

言われ方は色々あるのだろうが、要するに落ちこぼれの烙印を押されていると言ったところか。

「しかしまあ、“ゼロ”のルイズか……ふむ」

ホロの言う“ゼロ”の言葉にルイズは身を固くした。
また馬鹿にされる、蔑まれる。
口を結び、じっと耐えるしかルイズには術は無かった。

「何とも見当違いの字よのう」
「……ええ、そうよ、笑いなさい……はえ?」
「見当違いと言ったんじゃ。耳に綿でも詰まったかの?」

予想外の言葉に目を丸くするルイズ。
また自分をからかっているではないか、そう思ったルイズはホロの顔を見る。
しかしそこにあったのは、からかい半分ではない、とても真摯な瞳。

「先にも言った。「見事な有様」とな。人の身でここまで大きな力を出せるなど、わっちのいた場所では考えられぬ。場所さえ見極めれば、城を崩すこととて出来るであろうよ。この様な力を『ゼロ』と言い切るなど正気を疑おうと言うものじゃ」

破壊された教室を見渡し、まるで自分のことの様に誇らしげに語るホロ。

「賢狼の誇りにかけて言う。ルイズ、ぬしは落ちこぼれでもないしゼロでもない。皆とは違う何かを持っておるだけじゃ」

そう断言したホロの言葉はあまりにも強く。
そして静かに、ルイズの胸に吸い込まれた。

「うっ……ぐ……」

泣いてはいけない。主人が使い魔の前で泣くなどあってはならない。
しかも二度目だ。

「本当に……ぬしは人の身でありながら誇りが高いの。じゃがな」

その胸中さえも解っているのか、ホロはぐいとルイズを抱き寄せた。

「人は心も体ももろい。溜め込む内に内から膿む。」

まるで慈母の言葉の如く、確かにルイズの胸に染みる言葉。

「貸してやるから存分に泣くが良い」

抱かれたルイズは、何かの糸が切れたのか、ホロの胸の中で泣き始める。
その声はとても小さかったが、長く、途絶える事無く。

日の位置の変化が解る程に、長く続いた。


◆       ◆       ◆       ◆       ◆


「気は済んだかの?」

嗚咽が止まり、ホロが問いかける。
ルイズはこくりと頷き、そっとホロから離れた。

「やれやれ、シエスタに何と言って詫びようかのう」
「……誰?」
「この服の持ち主の女中じゃ。ほれ見てみよ」

ホロの着ていた服の胸元は、乱れて濡れてぐちゃぐちゃになっていた。

「絞れそうじゃの。幾らなんでも溜め込みすぎではないかや?」
「うぐっ」

泣きはらした顔とは別の赤みがルイズの顔に射す。
何かと言えば、「恥」であると断言出来るだろう。

「な、ななななな、泣いて良いって言ったのはあなたじゃないの!」
「いや、これ程までとは思わぬでのう……くふ、すまぬすまぬ」

さっきまでの優しさとは打って変わり、小悪魔の様ににやにやと笑う。

「くぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ」

怒ろうとしても、先刻のことを考えると怒るに気にもなれない。
むしろ恥ずかしさの方が強く、そういった感情がない混ぜになった状況に、精神がパンクしかけて妙な奇声を発してしまう。

まさかこの辺も考えての行動だったのだろうか。
だとすればこの賢狼の手綱を握れる日など来るのだろうかとルイズは激しく思い悩む。

「誓って言うが、わっちの評価は本心じゃからな」

更に追い討ちをかけてくるホロ。
褒め殺しとは若干違うが、侮蔑の言葉と違って耐性が少ない為、ルイズは二の句が告げなくなってしまう。

「くふ、まあ、この辺りで手打ちでよかろ。片付けも随分遅れてしまったしのう」

見渡せばガレキは未だに残っている。魔法が使えない以上は手作業しかないが、実に骨の折れる作業だ。
それに関しては気が滅入ったルイズだが、漫然と体積した胸の支えは取れていた。心が軽くなったとでも言おうか。

(ホロのおかげ……よね、やっぱり)

今ならゼロと呼ばれても、関係ないと笑い飛ばせそうな気がする。
確かに系統は解らないが、使い魔も呼べたし、爆発と言う現象は起きている。
魔法に関して、少し視野を広げて調べてみようとルイズは決意を新たにした。

同時に、ふとあることを思い出す。

「ホロ、ちょっと」
「ん?」

ルイズの懐から小さな袋が取り出された。
純白の下地に、シンプルながらも美しい狼の刺繍が、高級な黄系統の糸で施されている。
口は巾着状になっており、縛り紐の延長がそのまま首にかけられる様になっていた。

「言ってたでしょ?あんたの小麦を入れる袋。丁度良いのかあって助かったわ」
「これは……」

袋をまじまじと見るホロの目に、幾許かの郷愁の色が浮かぶ。
そこに施された狼が、まるで雪景色に佇んでいるかの様な錯覚をおこしたせいか。

「麦は入るだけ入れたけど全部は無理だし、残りは脱穀して保管するつもり……どうかしたの?」
「……いや、良い目利きじゃと思うての……ふむ。じゃ、つけてくりゃれ」
「は!?なんで私が」

そんなメイドみたいなことを……と言おうとした瞬間、ホロが下から覗き込む様に目を潤ませた。

「だめ……かや?」
「ぬぐっ」

罠だ。十中八九これは罠なのだ。
まだ出会って一日程でそれと理解させる程にホロは老獪だ。

しかし、それを差し引いて尚、深層心理にまで訴えかけてくるこの上目遣い。
これを前にしては男女の壁、いや種族の壁すら砂上の楼閣に等しい。
キュルケの常套手段なのだろうが、果たして彼女に同性すら落としかねないこの神々しくも官能的な雰囲気が出せるものだろうか。

「わ、私は公爵家のルイズ・フラ」
「わっちは……ルイズにつけて貰いたい……」
「し、しししししし、仕方ないわね!そこまで言うならつつつつつつけて上げるわよ!」

今までになくどもりながらも、言葉とは裏腹のうやうやしい手つきでその袋をホロの首に掛けるルイズ。

「ん、良い塩梅であるの」

つけて貰って開口一番、満面したり顔のホロ。
ルイズはと言えば悔しそうに頭を抱えている。

舌戦に持ち込んだところでまだまだ勝てる訳もないのだが、それ以前のところで弄られるのもまた、プライドの高いルイズにとっては許せないものなのだろう。

「くふ、改めて宜しくの。あるじ様?」

苦悶しているルイズに対して、ホロ悠然と笑顔を浮かべる。
その言葉に対し、ルイズはすこし唇を尖らせる。

しかし、大きな溜息をつくと、苦笑混じりの笑顔でしっかりと返した。

「ええ。こちらこそ宜しくね、ホロ」

もしかするとその時二者の間に結ばれたのは、主従の契りではなく。


言葉にすればとても陳腐な、しかし確かに存在する、友情と呼ばれるものだったのかもしれない。


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