あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

力を求める使い魔 Re-03


さて、ルイズが魔法を練習しては彼に叩きのめされる生活をしている間。
彼がいったいどんな生活をしていたのだろうか。もちろん、ルイズから食事を恵んでもらったわけでもない。
かといって知り合いもおらず何か伝手の一つも持ってない。となると、取る行動は一つ。
厨房の品を勝手にいただくことだ。当然、窃盗とも言うべき行動だが、元々そんな倫理観はいまさら持ち合わせていない。
文字と食事を取るために、彼は厨房に毎日通っていた。
最初の数日は、忍び込んでこっそり食べ物を失敬していたわけだが……
初めてやって来た異郷の地でそのような行為が 何度もうまくいくはずもない。
数回目であえなく厨房の連中にばったり出くわす羽目になる。しかし、学院に突き出されることはなかった。
いや、そもそもただの平民であるコックやメイドでは彼をつき出すこと自体、不可能なのは当然なのだが……
向こうはそう言うそぶりもなかった。 どうやら彼は妙なところで有名だったようで、コックの一人がこんなことを言い出した。
「なああんた、あのうわさの召喚の魔法で呼び出された平民か?」
とりあえず召喚で呼び出されたことは確かなので「まぁそうだ」と同意しておいた。
魔法が使えるのだから、この世界では貴族かもしれないが、とてもそんなガラじゃあない。
それに、貴族などという腐った連中と思われたくもなかった。くだらない見栄や体裁ほど、彼からすればくだらないものはない。
彼の答えを聞き、厨房の連中は何を勘違いしたのか顔を見合わせ、頷き合う。
太った、周りより仕立てのよい服を着た男が、そばのメイドに手を振って何か合図をした。
少しして、運ばれてきたのは暖かいスープ。 太った男は、うんうんと頷きながら
「あんた、苦労してるんだろう。なにせ貴族の癇癪玉は猫より小さいからな。なに、困ったときはお互い様だ」
かくして、彼は食事にありつけるようになった。 簡単なまかない飯だとコックやメイドは言っていたが、これがうまい。
よく分からないゲテモノの肉や、真空パックの常温保存食とは天と地の差だ。
東京での自分の食生活の悪さを今更ながらに感じながら、スープをすする。
子供の時に母親も死に、父親が飲んだくれていた彼からすれば、他人の手料理などほぼ初めて口にしたといってもいい。
そんな家庭環境もあって彼は極端な力の信奉者な上人付き合いの仕方はほとんど分からないが、決して常識知らずではない。
表に出すのは癪だが、確かにありがたく思った。
「……うまい」
「おかわりもありますから、ゆっくり食べてくださいね」
スープを持ってきたメイドが、がっつき気味にスープをすする彼を見て苦笑した。
「お腹がすいてるんですね。ご飯、もらえなかったんですか?」
「貰うも何も……俺はあんなガキの使い魔になんて誰がなるか。そんなもの願いさげだ」
「願い下げ……って貴族に逆らったんですか!?」
目を丸くして、メイドが言った。その声を聞き、周りのコックたちもこっちを見ている。
やはり、この世界にとって貴族は――魔法を使えるものは絶対の存在らしい。
「当たり前だ。俺は俺の好きなようにやる。自分より弱い奴の言うことなんぞ誰が聞くか」
おかわりで皿を差し出す。彼の言葉を聞き周りがざわめく。
うまい飯を食って知らず知らずのうちに上機嫌になっていたのか、彼は口数が増えていた。
「第一、魔法が使えるからって人よりえらいと思ってる腐った奴らなんて気にくわねぇ。
力のある奴が好きにする道具として魔法があるんだろうが。結局家柄が何だのと……くだらねぇ」
「魔法が……こわくないんですか?」
おそるおそるといった感じでメイドがたずねる。
「当たり前だ、あんな魔法も満足に使えないガキ、恐ろしくもなんともない」
―……少なくとも今は、と内心付け加える。ああいう目をした人間がどうなるかは自分がよく知っているからだ。
自分の思い違いでないなら、自分が悪魔と合体したように、何かのきっかけで化ける日が来るかもしれない。
ごっそさん、と手を合わせ、イスの背もたれに体を預ける。 食器を提げに来たコックが、背中をバンと強く叩いた。
―「そりゃ豪気なことだ!」 「あんた凄いな!」 「気に入った!また来いよ!」
めいめいが好き勝手彼を小突いたり、話しかけたりしてきた。 彼が貴族を嫌うように、平民たちも貴族を嫌っているのだろう。
コックやメイドたちは、平気でそれを否定した彼を気に入ったようだ。
食事以外でも、厨房に言っては暇そうにしている連中から文字を習った。 何しろ、文字が分からないことには、本も読めない。
幸い図書館で、人の良さそうなメイジのガキに脅しつけて、1冊初級の魔法の本を手に入れることはできた。
あとは、厨房に入り浸ってひたすらそれの読解と理解に専念した。
平民が魔法を使うなんて無理だと言われたが、彼は無視していた。最初からあきらめ受け入れるのは愚か者……と彼は思う。
ふと、頭の片隅に運命を受け入れて生きることを選んだ白い友人のことを思い出す。
自分は今こうしてなぜか生きているが、奴は今どうしているのだろう。やはり、あいつに負けたのだろうか。
顔を小さく振る。自分は、負けたのだ。あのカテドラルでの神魔の全面戦争がどうなろうと関係ない。
「あ、そこ間違ってます。その文字は、こう書くんですよ」
「……ここか?」
どうやら、余計なことを考えすぎていたらしい。書き取った文字がおかしくなっている。
黒髪のメイドが、間違いを指摘した。 彼女は文字が読み書きできるメイドの一人らしい。
ここで文字を彼に教えているコックやメイドの一人だ。
「……難しい」
「最初は、なんでもそうですよ。ゆっくりいきましょう」
くすくすと笑うメイド。
彼は顔をしかめたまま、本の文を睨みつけた。
読めなくて眉を寄せているのではない。読めることに違和感を覚えてそうしてしまう。
なぜか、ある程度学ぶたびに、一気に言葉が、頭の中で翻訳され、理解できるのだ。簡単な読み書きは数日で可能になったが
……その事実に頭をひねる。自分は、お世辞にも、秀才とはいえない。なのに、この習得の早さは何だ……?
ふと浮かんだ疑問を頭の片隅に追いやり、本のページをめくる。
「それにしても、勉強熱心ですね」
「……強くなるために必要だからな」
相変わらずぶっきらぼうな態度で答える。
一歩間違えば、横柄とも高圧的とも言える態度だが、これが彼の他者への基本的な態度だ。
だが、決して傲慢でもなければ悪意を持っているわけではない。
主従関係や力の優劣が絡まない限り、横のつながりに関してはわずらわしいと思いながらもきちんとこなす。
恩を受ければ、借りを作るのを嫌う性格もあり、「受けっぱなしは性に合わない」と、裏方の手伝いを申し出ている。
本人が聞いたら激怒するだろうが……臆病な心だって奥底にはある。
何も普通の人間と変わりないのだ。いや……本質的には人よりも弱いかもしれない。
芯は悪い奴じゃないが、風変わりなひねくれ者。
彼の本質とは当たらずとも遠からずなこの評価が、厨房の人々からの評価だった。
……力に対する渇望が底なしのことを知らなければそういう評価に落ち着くのは無理もない。
「そろそろ、食事の仕度もあるのでここまでにしましょうか」
メイドが立ち上がる。続いて、彼も無言で立ち上がる。今日の手伝いは、デザートを運ぶことだった。
ここで、ちょっとした揉め事が起こる。
――食堂から聞こえてくる声。
「君の軽率な行いで香水の壜なんかを拾い上げたおかげで二人のレディの名誉に傷がついた。どうしてくれるんだね?」
「……知るか」
ギーシュという金髪の派手な生徒が落とした壜が、彼の足に当たったのだ。
それを気まぐれで蹴ってよこしたところ、どうやら二股をかけていたらしく、その壜が原因でそれが発覚。
ものの見事にその恋人両方に振られたのだ。
「自分に酔ってるガキが偉そうに。二股かけていたのはお前だろう」
ギーシュの友人たちがどっと笑った。
「その通りだギーシュ!お前が悪い!」
まったくその通り。当たり前すぎる正論を言い返せず、顔を赤くしたギーシュが、デザート配りを再開した彼に言った。
「そういえば君はあの『ゼロのルイズ』が呼び出した平民だったね。
 平民に貴族の機転を期待したボクが間違っていた。今回は許してあげよう」
ギーシュからすれば、プライドを維持するための精一杯の台詞だった。
しかし、それを受けて彼は一言。
「……馬鹿は死ななきゃなおらねぇってのはマジだな」
この一言が火種だったいざこざに火をつけた。
ギーシュが決闘を持ち出し、もちろん彼もそれに乗る。周囲のコックやメイドの引きとめも完全に無視。
売られた喧嘩を断る理由はまるでない。あれよあれよと話はトントン拍子で進み、二人はヴェストリの広場で立っていた。
周りは、暇な生徒であふれかえっている。
「逃げずに来たことはほめてあげようじゃないか」
そう言ってギーシュがバラの花を振る。
たちまち、散った花びらの一枚が舞ったかと思うと、 甲冑を着た女戦士の人形へと変化した。
「紹介しよう。これはボクのゴーレム、『ワルキューレ』だ。 ボクはメイジ―――― 」
蕩々と語るギーシュが最後まで言葉をしゃべり切る前に、火炎弾がワルキューレを叩く。
金属に火炎弾が高速でぶつかり、爆ぜる音が周囲に響き渡る。
「―――ドーン、って?」
直撃し関節が歪んだのか、ガクガクとしているデク人形を、彼は蹴り倒した。
「終わりか?」
突き出した手で肩を触り、首を回してコキコキと鳴らす。
ギーシュの顔から血の気が一気に引く。周りの生徒たちは息を呑んだ。……ただ一人の生徒を除いて。
慌ててもう一度バラの花を振ると、今度は6体のワルキューレが顕れた。今度は全部槍のような武器を持っている。
そのうち2体はギーシュの側に、残り4体が彼を取り囲むように陣を組む。 数か多いと判断した彼は、両手を真横に水平にしてあげる。
「マハラギ!!」
―両手から渦を巻くように炎があふれ、彼の周囲を囲んでいたワルキューレを飲み込んだ。
しかし、その炎をものともせずワルキューレたちは彼へと突っ込んでくる。
「ちィッ!」
一番早く近寄ってきたワルキューレの槍をかわし、懐に飛び込む。そのまま顔面に拳を打ち込んだ。
が、ワルキューレはびくともしない。逆に、こちらの拳がズキズキと痛む。
4体のワルキューレが、まとめて槍をもぐら叩きのように振り下ろす。慌てて転がるように横っ飛び。
どうにかワルキューレたちと距離をとる。
どうやら、マハラギでは威力が足らないらしい。アギは、マハラギと違い炎を一つにまとめて相手に直接ぶち当てる。
つまり、収束した炎に加えて、ぶつかり炸裂する勢いも付加されているのだ。
そのアギでもほぼ倒せるとは言え、全身をゆがめる程度だった。単純な火力総量は同じでも、マハラギでは威力が違う。
加えて、今の自分は人間。『魔人』だったころとは魔力の量も質も劣る以上、力押しは難しい。
力も随分と落ちている。さきほどの拳も、本来なら余裕で粉砕できるはずだった。昔の感覚で拳を振ればあの様だ。
なにか角材などでも持ってくるんだった、と後悔したがもう遅い。
ガシャガシャと間接から音を立て、槍をまっすぐと構える。どうやらそのまま突撃する腹積もりらしい。
「しかたねぇ……」
強く両方の拳を握り、先程よりも多く魔力を練りこむ。
人間となった自分がどれだけ魔法を使えるか分からない以上、無駄打ちや乱発は避けたいところが、そうも言っていられない。
最大火力で、一気に燃やし尽くす!
息を一つ深く吸い込み、魔脈を整える。 全身に練りこんだ魔力を一気に高める。
「吹っ飛べ―――!」
両手から、アギの3倍はある炎球が飛び、前にいたワルキューレを直撃。
瞬時のうちにワルキューレは完全に溶解、いや気化し、膨大な火力が、衝突後空へ伸びる柱となった。
巻き込まれて、当たらなかった周囲の3体も、表面から溶けた青銅が滴り落ちている。
明らかに、動きが鈍るワルキューレたち。単体への最大火炎魔法であるアギラオ。その熱量は凄まじいの一言だった。
「ッよしッ!」
優雅とも言えた装飾もはがれ、見るからに動きの鈍ったワルキューレに、アギを撃とうとし―――――
ガツン、と衝撃が後頭部を襲う。受身も取れず、地面に彼は叩きつけられた。
(こっちの火力を見て、全部攻撃にまわしやがった……!?)
そういったつもりだったが呂律が回らず、うまく言葉にならなかった。それに、口からはさんざん慣れ親しんだ鉄の味。
倒れた彼を見下ろしているのは、汚れ一つないワルキューレ。先ほどまでギーシュをガードしていたそれだ。
ワルキューレの足が、思い切り彼を蹴り飛ばした。槍を使わないのは余裕か畜生、と内心毒づく。
今度は受け身を取り、その勢いで起き上がろうとするが、足に力が入らず、そのままくずおれた。
(く……ッ! 人間の体はこんなに脆かったのか!?)
魔力、耐力、腕力、そのすべてのあまりのなさに愕然とする。何もかもが、つい数日前と違う。
『魔人』でさえあればこんなもの、マハラギでも一掃できるはずだ。
これほどまで人間だった俺は弱かったのかと奥歯を噛み締めた。
せめても蹴り飛ばしたワルキューレに反撃でアギを一発当てる。上半身が炎に包まれ、膝をついて崩れるワルキューレ。
膝を突いている彼を、先ほどの溶けたワルキューレの一体が顎をつかんで持ち上げた。
残った二体が持ち上げられた彼の両脇腹へ同時に槍を突きさす。
「ぐ……あッ……ああああああ……がぁあああああ!!」
渾身の力で精神力を振り絞る。ゾンビ軍隊に銃で撃たれた時を思い出す。
あの時と違い、仲間はいない。倒れたら終わりだ。決して、意識を手放さない。手放すわけにはいかない。
「調子に……乗るなッ!!」
周囲に再度放たれる炎の渦。あまりにも炎がぶつかるワルキューレたちが近かったため、彼ごと巻き込み燃え上がる。
先ほどのアギラオの溶解のおかげで、マハラギでも喉を握っていたワルキューレの腕が溶ける。
むせるのを堪え、地に落ちると同時にもう一度マハラギ。
側にいた溶け残りの3体では、流石に2発連続のマハラギには耐えられず、崩れていく。
フラフラと立ち上がる彼の前の数メイル前に、最後に残った1体のワルキューレ。 最悪なことに傷一つないワルキューレだ。
「驚いたよ!魔法を使えるなんて」
驚いた、という割には声が明るい。ギーシュは勝ちを確信した声で言う。
「でももうここまでだ。確かになかなかやるようだけど、僕のワルキューレの敵じゃなかった!」
既に過去形かよ、と思ったがそんなことをしゃべるのも億劫だ。
脇腹の傷からは、血が流れ続けている。手加減を知らないのか、相当に深い。
炎で無理に吹っ飛ばしたせいか、槍がだいぶ腹の中をかき回してくれたようだ。
「まだ、だ……俺は負けてねぇ」
血が足りない。かすむ目を開き、震える手を上げ、アギを撃つ。
距離を掴み損ねたのか、意外とワルキューレが身軽だったのか、アギはワルキューレのすぐ横で爆ぜる。
そこが、限界だった。 勝手に意識に反して体が倒れる。わき腹から大量の血が流れている。出血多量が原因だった。
ギーシュの目障りな笑い声が耳を叩く。
「負けて……ねぇって言ってるだろ!」
両腕で上半身を支え、顔をギーシュに向ける。そのとき、生徒の輪の中からよく通る声がした。
「ギーシュ!」
―輪の中からでてくる影。それは―――ルイズだった。
「ああルイズ、ちょっと君の使い魔を借りているよ」
「そんなことどうでもいいわ!今すぐこの茶番をやめなさい!」
彼とギーシュの間にルイズは立つ。
「決闘は禁止されるはずでしょ!」
「それは貴族同士であって、貴族と平民の間じゃ適応されないね」
「それでもよ! ここまでする必要が本当にあったの!」
ギーシュに怒りをあらわにするルイズの姿。

――ぐちゃぐちゃうっせぇなぁ

遠くなる意識の中、ぼんやり2人のやり取りを見ていた。声は確かに届いているがほとんど聞いていなかった。
そういや、この状況、つい最近あった気がする。しばらく考えて―――思い当たった。

――そういやあのガキの時の裏返しだな。あれだけ言った俺が、これじゃあな……

そう、この世界に来て初日。立場の逆転はあるがルイズと戦ったときと同じ。
『使い魔にしたいなら、俺に勝ってみろ。 ……力のない奴を相手にしてくれる奴なんて誰もいないぞ』
『……力もないのに、足掻くんじゃない。そんなんで、誰かに認められると思ってるのか?』
『力がなければ、誰も認めてくれない。誰もなれない。悔しいなら強くなるんだな』
でかい口叩いたのに、この始末か。僅かに覚醒する意識。そうだ、勝たなければいけない。
力がなければ、何もできない。怯えて他人の言葉に流され受け入れて生きることになる。
力が欲しい。力が欲しい。力が欲しい。誰にも負けず屈さず怯えることのない力。それを、求め続ける。それが自分だ。
ふと、自分を庇っているルイズを彼は見た。自分と、同じ目をしていた少女を。

――そうだな…… あれだけ言った俺が、これじゃあな……だから、立たないとな……きつくても……



――――この生き方が正しいと証明するために。自分の生き方が正しかったと証明するために。



「おい……そこをどけ……ルイ……ズ……」 -
会話に気をさいていたギーシュとルイズが同時に振り向いた。
そこにいるのは、満身創痍でもしっかりと大地を踏みしめ、立ち上がる彼の姿。
「え……今、あたしの名前……?」
一歩一歩、倒れそうでも大地を踏みしめ、彼が歩く。
「あんた、何で立ち上がるの!?もう十分じゃない、あんたは強かったわ、もうそれで十分じゃない!」
彼が腕を上げようとすると、ルイズはその腕をつかんだ。涙もろいのか、その目には涙が溜まっていた。
「もうやめて!もし、魔法を撃ったらもうギーシュは容赦しない!本当に死ぬわよ!?」
「俺は、負けられないんだよ……!」
腕を振り払い、アギを撃つ。しかし、震える腕で放たれたアギは、またもワルキューレの横を抜けていった。
―ワルキューレが動き出す。右ストレートが彼の顔へ。
「……いてぇ」
倒れるのを必死でこらえる。
「痛いに決まってるじゃない、なんてそこまでするの!?」
さらにワルキューレは彼を殴り続ける。でも、絶対に彼は倒れない。
「それでいいのか……?」
わき腹が叩かれる。血が吹き出た。
「え……っ?」
「弱いままで、負けるだけで、誰にも認められないで、怯えるだけで……いいのか?」
ルイズが、息をのむ。肩が殴られる。骨が砕ける嫌な音がした。頭がまた朦朧とし始めた。
霧がかかったようにはっきりしない。だが、それでもやらなければならないことが彼にはある。
「俺は、力がなかった。誰にも見てもらえなかった。怯えるだけだった。何もなかった。だから、力が欲しかった。
どれだけ弱くても、他人から馬鹿にされても……絶対にあきらめねぇ。俺は、力が欲しい。誰にも負けねぇ力が。
………そのために、全て捨ててでも、力を手に入れてきた」
もう自分も誰に対して言っているか、何を言っているかのかすら曖昧だった。しかし言わなければならないと思った。
自分のため、自分自身のためにも必ずやって見せなければならない。
今度はローキック。下半身にくる。
「だから、負けられねぇ……負けたら、俺の生き方が嘘になる」
倒れ際に、ワルキューレの頭をつかむ。そのまま、ゼロ距離でアギを撃った。 代償に、手が爛れ、爪がはがれる。
だが、首を失ったワルキューレもまたゆっくりと倒れていく。

「回復魔法に金を取るのか?」
「そうですよ」
「どのくらいかかるんだ?」
「まあ、平民の出せる金額ではありません」
どうやら、精神的なものだけでなく、金銭的な意味でも本当に大きい借りを作ってしまったらしい。
ますますため息が出る話だ。この世界では、科学のかわり魔法が随分と発展している。
おかげで何かとつけて魔法を使っていたのを見て、魔法に関して全てこちらの世界のほうが優れていると思い込んでいた。
まさか、生命線とも言える回復魔法に関しては東京より劣っているとは、誰が想像できるだろう。
思いがけないところで不自由な魔法世界の一面を知ることになった彼は、頭を押さえた。
「俺はどのくらい寝ていたんだ?」
「三日三晩寝てましたよ。その間、ミス・ヴァリエールがずっと看病していました」
足元にころがる小娘に視線を向ける。よく見ると、目の下には大きな隈ができていた。
「………そうか」
人に看病されたのなんて、一体どれくらい前のことだろうか。まるで思い出せない。
母親からも、こんなことをされた記憶がなかった。自分にここまで親身なってくれた人間などこれで3人目だ。
あいつと、奴と……このルイズ。ほとんど突然湧いてきたような自分に何故ここまで?
メイドは、銀のトレイに乗ったスープを置くと、 「簡単な私たちに使う飲み薬を持ってきますね」と言って部屋を出て行った。
また、部屋の中は静寂に戻り、ルイズと二人になる。
なんとなくルイズの手に、自分の手を伸ばす。掴んで見てみれば、相変わらずボロボロの手だった。
目新しい傷も目立っている。この3日間も、そうとう魔法の練習をしたのだろう。加えて、自分の看病までしていたのだ。
……おそらくわざわざ睡眠時間を削って。あれほど辛辣な態度をとった自分を看病しながら。
決して自分の魔法の練習も放り出さずに。 頭を左手でこめかみを叩く。
ちらりと目に入ったのは、手に刻まれた使い魔のルーン。
ルイズのことは、メイジの中でも特異な部類らしく、噂も容易に聞けたので知っていた。

曰く、『ゼロのルイズ』。

一度も、魔法に成功したこともない、それでも決して学校を辞めず、諦めることもない生徒。
スープを一気に飲み干し、またベッドへと倒れこむ。 無駄に、としか思えないほど豪奢な天幕が見えた。
ふと、読んだ本に書いてあったことを思い出した。
『現れた使い魔は、召喚者の性質、属性、気質、秘めた才能などを総合して呼び出す。
故に呼び出された使い魔によって、どんな専門課程に進むのかを決定する』
たとえば、風の魔法使いなら風に関したものだったり、陽気なものなら明るい使い魔だったりするらしい。
決して、適当に呼び出されるわけではないということだ。
自分がどんな人間か考える。昔ならいざ知らず、今なら少しは落ち着いて外から自分も見られるようになった。
結論としては……つまり、こういうことか?
こいつには、他人に対する劣等感やそれに反発する心や誇りがあって、そんな力への渇望が自分を使い魔に選んだと。
それとも別の答えがあるのだろうか。使い魔の証らしい左手のルーンをさするが、当然答えはない。
「起きたの!?あんた」
騒がしい声が足元から聞こえた。ルイズが起きたようだ。
「ついさっきだけどな」
肩を軽く回しながら答える。砕けた骨はどうやらくっついているようだ。
無理ができるかは分からないが、当面は大丈夫だろうと、楽観する。ルイズは立ち上がって、ベッドの端――彼の顔の横に座った。
「悪かったな。 ……借りができた」
どんな思惑があろうと、治癒のために手を尽くしてくれたことは確かだ。
はっきりと正面から礼を言うのは、慣れていない。これが、彼なりの精一杯だ。
「別にいいわ。この3日間、色々考えさせてもらったしね」
そういってルイズは妙に晴れやかな顔でうなずいた。
「使い魔の世話をするのは、貴族として当然の義務だもの。当然のことよ」
「……そんな理由でここまでしたのか? 寝首をかいてもよかったんだぞ?」
言葉に彼は眉をひそめてそう言い返したが、ルイズは彼の言葉を無視して言った。
「私は貴族よ。魔法を使えるものを貴族というんじゃないわ。決して敵に後ろを見せない……あきらめないものを貴族というのよ!
今は魔法が使えないかもしれない。でも、必ずつかえるようになってあんたに勝って、きちんと従わせてみせるわ」
はっきりと宣言するように、腕を組んでルイズが言う。そして、ルイズは笑った。
まぶしいほど輝いていて、それでいて獰猛で、どこまでも不敵な笑顔だった。
頭の中でリフレインする言葉。

―――現れた使い魔は、召喚者の性質、属性、気質、秘めた才能などを総合して呼び出す。
     故に呼び出された使い魔によって、どんな専門課程に進むのかを決定する。

やはり自分を呼び出すその前から、根幹としてルイズの望みは自分と同質の――――
「…………開き直りだな」
「そう受け取ってもらっても今はいいわ。なんと言おうと私は貴族。あんたは召喚された使い魔。
 いうこときく、きかないは関係ない。もう一度言わせるの? 使い魔の世話をするのは、貴族として当然の義務よ」
人差し指を立て、念を押すようにルイズはさらにそう付け加える。
「勝手にしろ」
彼は、ルイズを背に向け寝なおした。
―――口元が少し、ではあるが緩んでいるのを見られたくなかったからだった。

結局、これ以上ルイズとその日話すことはなかった。彼女は満足げに「魔法の練習をしてくる」と部屋を出て行った。
相変わらずの態度だったが、彼は、使い魔としてはともかく、もう少しルイズを見ているのも悪くないと思った。
ルイズは使い魔が彼であることを決して悪いことでないと思い始めていた。


………左手のルーンに隠された力は、確かに発揮されていた。



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