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虚無の闇-05


トリスティン魔法学院の図書室は30メイルにも及ぶ本棚が乱立しており、質、量共にこの国でも1,2を争う蔵書量を誇っている。
その内訳は強力な魔法が込められている魔導書から、高度な論理を展開する専門的な技術書、ただ単に暇をつぶすための娯楽小説までと多岐に渡っており、まさに選ばれた貴族のための施設と言っても過言ではなかった。
完璧に近いこの施設の唯一にして絶対の泣き所と言えば、利用者が絶望的に少ないことだろう。
一日の平均入室者の数は限りなくゼロに近く、最大の利用者である青い髪の少女以外には殆ど役に立っていない。

この日タバサは机の端に座り、誰にも邪魔されずに趣味である読書を満喫していた。例の任務のため、余裕をもって休暇を申請しておいたお陰だった。
前のように夜通しシルフィードに乗って帰るという羽目にもならずに済んだ。内容自体はオーク鬼の討伐という比較的容易な物だったが、命がけであることには変わりない。
少々騒々しいが大切な友人であるキュルケは授業があり、彼女を呼び止める者は誰もいなかったので、思う存分読書に励める。
朝早く向こうを出発したけれども朝食はしっかり食べたし、昼食はフィルフィードの背中の上で済ませてある。読書をする条件としてはほぼパーフェクトだった。

今タバサが読んでいるのは、彼女の最もお気に入りであるイーヴァルディの勇者という一冊だ。
この本を読んでいる間だけはタバサでは無くシャルロットだった頃に戻れるような気がして、いつか私のもとにも勇者イーヴァルディがやってきてくれるような気分になり、短いながらも幸福な時を過ごせるのだ。
原典が存在しないために無数のストーリーやキャラクターを持ち、同じ本だというのに何度でも楽しむことができるのも、タバサがこの物語が好きな要因の一つである。

本の中でタバサは時に勇者イーヴァルディであり、時に魔物に攫われた女の子であり、時に道化を演じて人々を笑わせるピエロでもあった。
闇に閉ざされた世界を切り開きながら勇者は進み続け、何百という魔物を倒し、長かった冒険も終わりに差し掛かっている。
3人の仲間を得た勇者イーヴァルディは不死鳥に乗せられて竜の女王の城へとたどり着き、魔王を倒すために必要なアイテム"光の玉"を託されていた。
これを使えば無敵とさえ思えた大魔王のバリアを剥ぎ取り、大幅に弱体化させる事が出来るのだという。魔を払う希望の象徴のようなアイテムだった。
醜悪で強大な魔物が跋扈し、恐ろしいトラップが張り巡らされた魔王の居城を不屈の精神で攻略していく勇者たち。ついに最奥にたどり着いた彼らは光の玉を掲げ、苦しい戦いの果てに大魔王を打ち破り、長かった冒険の旅に終止符を打った。
崩れ去る悪の城と、闇を払われて光を取り戻す世界。短いエピローグを挟み、作者のあとがきを読み終わっても、タバサは長い間物語の余韻に浸っていた。

ゆっくりと本を閉じ、飲み込んだ物語を反芻しつつ噛み砕く。想像力の翼を得て、タバサは空想の大空を自由に飛び回る。
勇者イーヴァルディがいれば、きっと自分を助けてくれるだろう。今までは誰にも洩らすことさえできなかったこの胸の内を打ち明ければ、必ず力になってくれるはずだ。
あの男の妄執に囚われていた私は居なくなり、代わりに彼の御姫様になる。仲間となって数々の困難や敵を倒し、お母さまを救い出し、幸せだったあの頃を取り返す。
それが叶わずとも、タバサも光の玉のようなアイテムがほしかった。幾重にも張り巡らされた警護さえ打ち払えれば、無能王として知られる憎き敵を倒すことができるだろう。
自らの杖を心臓に突き立てる瞬間を想像する。だが、それではお母さまは……。

「……っ!」

唐突に現実に引き戻され、タバサは胸を押さえながら荒い呼吸を整えた。一瞬で吹き飛んでしまった余韻を思い、少し悲しくなる。もう幸せな物語の中には居られない。
気持ちを切り替えるために軽く頭を振ると、珍しいながらも比較的によく見かける人物が目に入る。特徴的な桃色の髪はゼロの、いや、ミス・ヴァリエールだ。
彼女の努力は知っているが実りはしていないようで、最近は塞ぎ込んでいるとキュルケが心配していたが、今の彼女を見る限り大丈夫のように思える。
何か進展があったのかもしれないが、自分にはどうでもいい。けれども命令もあるし、この本を返すついでに様子をみてみよう。彼女には取れないであろう上段の本を探すぐらいはしてもいし。

「……あ、こんにちは、タバサ。悪いけれど、魔法陣関係の棚はどこか知らないかしら?」

「こっち」

「ん、ありがとう」

タバサは谷の隙間を先導して歩き、"魔方陣"と書かれた棚の前までルイズを誘導した。何か特定の目的があった訳ではないようで、ぎっしりと敷き詰められた本の背表紙に目を走らせている。
長くなりそうなのを察し、タバサは音もなく踵を返した。見つかるまで待っているほどお人よしではないし、まだ読みたい本が残っている。暇なときに頼まれれば手伝ってもいいが、自分から動くことはしない。
そういえば、ここの隣は魔法薬関係の物だったはずだ。月に1度は例の薬に関する本が無いかとチェックしているけれど、ここまで来たならついでに調べてもいいだろう。

角まで来たタバサはふとルイズのほうを見やり……危うく杖を落とすところだった。
ルイズの周囲に黒い霧のような物が纏わりつき、意志を持っているかのように蠢いているのだ。大嫌いな幽霊ですら(足があれば)裸足で逃げだすような、怨霊とか亡霊では説明がつかないほどの不気味さだった。
人間が持つ負の感情が形をもったようで、見ているだけで吐き気を催す。幸いな事にそれほど長く見ていたわけではなく、瞬きした次の瞬間には消え去っていたが、見間違いで片付けられるほど尋常な物ではない。
一刻もこの場から立ち去りたいのに、ガチガチに硬直してしまった体は言う事を聞いてくれず、両足は震えるばかりで体を支えるのが精一杯だった。結果的にルイズを見つめ続ける形になる。

「大丈夫? タバサ、顔色が悪いけど」

こちらの視線に気づいたのかルイズが振り向いたのを見て、思わず失神しそうになった。仕事では闇に乗じて行うような事もこなしてきたが、幽霊の類だけはどうしてもダメなのだ。洗濯物を見間違えて悲鳴を上げた事もあるぐらいに。
そういえば今のは、サモン・サーヴァントの儀式で感じたあの邪悪さに似ているような気がする。秘密だが風韻竜である使い魔、シルフィードすらあれには怯えていた。報告した際にもっと調べろと言われ、仕方なくこうやって近づいたが、やはり彼女は危険だった。
優しげな笑みの後ろに何を隠しているのか、タバサには全く読めない。鳶色の彼女の瞳は吸い込まれそうな輝きを持っていて、目が離せなかった。
見つめていると安心するような、眠気を誘うようなきがする。タバサはルイズの瞳を正面から覗き込んでしまった。

「何も、問題、無いわ」

そんなわけが無い、彼女は危険だ。出来る限り近寄らないようにしないと。フィルフィードやキュルケにも言い聞かせなければならない。
思考速度を上げようとするタバサだったが、何かの粘液を頭の中に注がれたようで、頭の回転が急激に鈍っていく。視界すら侵食されて滲み、蜘蛛の糸に絡め取られる。
浮かび上がっていたはずの対応策が次々に塗りつぶされ、変わりに不思議な幸福感が心を満たしていた。拒絶しようと殻に篭っても、鎧の隙間から染み出してタバサを埋め尽くす。
実力行使に移ろうと杖を持つ右腕に力を込めようとしたが、杖を振り回すどころか指先すら動かず、それどころか五感の全てが消えようとしていた。まだ杖を握っているのか、いないのか、それすら分からない。呪文を唱えようにも口が開かない。

「何も、問題、無い」

ルイズの言葉が耳を通さずとも響いてくる。聖母の胸に抱きしめられたような、お母様の子守唄を聞いているような不思議な感覚で、意識が蕩けていくような気がする。
彼女とは友達になれそう、あのキュルケのような大切な友達に。こんな素晴らしい感覚を与えてくれる人物が危険な訳が無い。先ほどまでの焦燥感は愚かな錯覚、ただの勘違いだった。
そうとも、幽霊なんてどこにもいない。だから怖がる事なんて無いし、もしいたって彼女が居れば安心だ。何も心配する必要はない。
タバサはキュルケにも見せた事が無いような微笑を浮かべ、熱に浮かされた意識のままにフラフラとルイズに歩み寄った。

「タバサ、大丈夫?」

「……え? きゃっ」

幸せな夢の中から引きずり出されたタバサは、唐突過ぎる重力の復活に対応できなかった。
安眠していたベッドから図書室へテレポートしてしまったようで、自分の体重すらまともに支える事が出来ず、小さく悲鳴を上げながら体勢を崩す。目の前の人物に思い切り倒れ掛かる形になってしまった。
持っていた杖も手放してしまい、自分の身長より長いそれは床の上をカラカラと転がっていく。幸いな事にタバサは誰かの腕に抱きとめられ、固い床に顔から突っ込むという醜態を晒さずに済んだ。
感じたのは男性とは明らかに違う柔らかさで、イザベラがまだ優しかった頃を思い出す。少なくともキュルケの胸はこんなに薄くない。

「あー、大丈夫、かしら?」

ほんの少しだけ眉を持ち上げながら顔を上げれば、目と鼻の先の距離にルイズの顔があり、お互いに気まずい苦笑を浮かべることになった。
二人はそのまま10秒ほど見詰め合っていたが、ルイズの苦笑と共に自分が今どのような状態か気づき、慌てて彼女の腕の中から離れる。人の温かさに惹かれてしまった自分を叱咤した。
キュルケが似たような行為をやってくることはあるが、彼女は親友でルイズは単なるクラスメイトだ、こういうことをするような仲ではない。
他人の顔をこんな近距離でジロジロ見るのは著しく礼儀を逸しているし、自分から他人に関わるような行為という点でも、自ら決めたルールから外れている。

「……ごめん」

「気にしないでいいわ」

少しだけ頬を赤く染めたタバサはそう言うと、ルイズの手から先ほど落としてしまった杖を受け取り、軽く頭を下げてから別れる。
今度は振り返らずに隣の棚へと歩いたから、狂人の呟きは聞こえなかった。

「あの子、いいわね……」

その後は特に変わったこともなく、新しい魔法薬の本も入荷されておらず、タバサは適当に読書をして過ごした。
何かを忘れているような引っ掛かりは感じたものの、本の世界に再び入り込むと気にならなくなる。
同じく閉館時間まで粘っていたルイズには何度か視線を送ったが、彼女も自分なりの本を読み漁っていたので声はかけなかった。








ルイズは半日以上を費やした捜索が空振りに終わり、現状では発展が望めないという事実に行き当たってしまったため、少なからず不機嫌だった。
乱暴にドアを叩きつけ、きっちりとカギをかける。未だ機械式の錠というのが癪だが、開ける魔法はあっても閉じる魔法はないので諦めるしかない。もっとも開ける方すらまだ使えないが。
生徒には閲覧を許されていない"フェニアのライブラリー"ならば最低でも手がかり程度は見つかるはず。しかし魔法によるトラップや監視が作動している可能性もある以上、無策に侵入するのは愚の骨頂だ。
盗人のように闇に乗じるのは、最後の手段として残しておくべき。発見されれば長い謹慎と山のような課題を押し付けられるだろうし、今は目を付けられる訳には行かない。
そもそも獲物を定める事も出来ないのでは、成功の可能性はゼロといっていいだろう。未来をベットするにはあまりにリスクが大きく、得られるリターンが少なかった。

「……もうっ!」

乱暴にマントや服を脱ぎ捨て、苛立ちのままに地面に叩きつける。もっともっと強くならなければ、あいつらに……それが誰の事なのかは分からないが……勝てないではないか。こんな所で足止めされている時間は1秒だって無い。
しかしこれ以上無理をすれば明日に響くのは明白で、今でさえ関節が錆びついているような気がすのだから、最低限の労わりを見せなければならなかった。
舌打ちしながら指を振ると、衣装棚からネグリジェが飛んできてルイズの手の中に納まる。同時に床の上に散らかっていた衣服も宙を舞い、下着まで残らず洗濯かごの中に放り込まれた。

「ふふん……」

それはメイジならば何でもない行為、けれどもルイズには特別だった。
つい昨日までは自分の体を動かさなければならなかった面倒な行為が、魔法で行えるというだけで遊びに早変わりする。
着替え終えたルイズはベッドの上に体を投げ、スプリングの反動によって上下しながら笑顔を浮かべた。大きく深呼吸しながら今日一日を振り返る。
図書室で出会った少女はタバサと言ったか。前々から珍妙な名前だとは思っていたが、まさか彼に気づくとは思わなかった。彼女が心に深い絶望を抱えていなかったら、誤魔化す事は難しかっただろう。
彼女の心は凍りついたように冷たく、それでいて灼熱の怒りが燻っている。どこの誰かまでは分からなかったが、復讐したい対象がいるようだ。

「彼女なら友達になれそう……」

そういえばタバサはツェルプストーの親友だったはず。ヴァリエールが代々やられたように、彼女からタバサを奪い取ってやれば愉快だろう。
あのツェルプストーが抱く絶望はどんな味がするのだろうか。かつての自分が味わい続けていた嘲笑の渦へ貶めてやる事を想像しただけで小躍りしたくなる。

そのためには兎にも角にも、タバサのお眼鏡に適うほどの力を身に付けなくてはならない。
現在ルイズが扱えるのはヒャド系の、それも下位呪文であるヒャドとヒャダルコのみ。こちらのスペルと比較すれば決して弱い呪文ではないが、圧倒的に手札が不足していた。
例えエースを2枚持っていても、3や4のスリーカードに呆気なく負けてしまう。5枚のカード全てを活用されたら、2枚しか持たないルイズに勝ち目は薄い。
数を増やすには専用の魔法陣を描いて呪文と契約しなければならないが、その魔方陣が分からなかった。今の自分の実力ならば扱える呪文がいくつもあるはずなのに、契約できないのだ。

「まったく、強いのはいいけど……不便過ぎよ」

ルイズが興味を持って手に取った本だけでも200冊以上、ほとんどは無関係だったため実際に読み進めたのは20冊程度だが、求めていた内容とは掠りもしなかった。
替わりに手に入れたのは酷使されて赤く充血した目と、熱く腫れぼったい違和感を訴える目蓋だけだ。これでは誰だって不機嫌になる。
頭の奥の方からは心を落ち着けろという声が響いてくる。冷静な部分がその通りだと思っても、ゼロと呼ばれ続けた16年がルイズを駆り立てていた。
明日も授業を自主休講して、もう一度図書室を洗いなおさなければ。明後日は虚無の曜日だし、王都の書店を片っ端から回ってみよう。ヴァリエール家にも手紙を送って協力を要請しなければならない。

「はぁ……、ベッド、気持ちいい……」

今すぐにでも部屋を飛び出したい半面、ベッドという名前の底なし沼にズブズブと体を沈めたくもあった。
図書室が閉館してからは食堂で適当な余り物を貰い、近くの森でひたすら使い続けたヒャドとヒャダルコによって、マジックパワーのほとんどを消耗している。
残りカスがこびりつく程度にはあったが、さきほどの無駄遣いで打ち止め。今は正真正銘空っぽだ。
そんな状態のルイズにとって、ふわふわのシーツは耐えがたい魔力を持っている。

縦横無尽に空を飛びまわり強力な呪文を連発するあの夢を、今日も見ることができるだろうか……。夢と現実の境目で、ルイズはそんなことを考える。
暴力の対象が村や町を守ろうと立ち上がった兵士たちであったり、子供の盾になろうと立ちふさがる母親であったり、泣く以外に能の無い赤子であったりして少々倫理に欠けるが、そこ以外は実に楽しかった。
ゼロと笑われ続けた私が誰よりも早く空を翔け、名うての魔法使いたちを次々と倒し、忠実な下僕である数万の魔物を腕の一振りで指揮する。これ以上愉快な事はお目にかかったことがない。
自分の中の貴族と折り合いをつけようと頭を捻っていると、ちょっとした妙案が浮かんだ。

ああ、そうだ、単に視点が違うだけなんだ。
物語の中では勇者が正義で、倒されるのは悪人だけど、逆からみれば勇者が悪になる。
いつだったか忘れたけど、山賊のリーダーが主人公の冒険小説を読んだことがあった。
追ってきた憲兵を仲間とやっつける展開は楽しかったな、明日読もう……じゃなくて、あれだって視点が山賊だから、なんだ。
私の夢だって、きっと、魔物から見れば……、なんにも、へんじゃ、ない……。

ルイズは笑顔を浮かべたまま、夢の世界へと沈んでいく。






またあの暗い夢の中で、ルイズは影に剣を渡されていた。
前の自分ならば持ち上げることも不可能に思えた巨大な長剣が、今となっては羽毛程の重さも感じない。
それを揮う相手は、かつてルイズを哂った者たちだ。

「貴族ノクセニ、魔法ガ使エナイナンテ」

クラスメイトの形をした人形の脳天へ振り下ろし、股下まで一刀のもとに切り裂いた。
見た目はマリオネットのような木の人形だというのに、刃から伝わる感触では柔らかい肉と硬い骨がある。
おそらく人間を切ったらこういう感じなのだろうなと思いながら、しかし鞘に収める気は微塵もなかった。

「ヴァリエールノ名ニ縋ル、哀レナピエロ」

今度は社交場で言葉を投げつけてきた女だ。まず首を切り飛ばし、返す刃を心臓へ突き立てながら、落下した頭部を踏みつぶす。
グシャリと音をたてたそれはすぐに消え去る。引き抜くことなく剣振ると、残った体は真っ二つになりながら闇に溶けた。

「ゼロノ……」

現れた次の人形めがけ、ルイズは笑いながら突撃した。果たしてこれが何体目の人形なのか、数えることはとうの昔に止めている。
敵を全部倒したら、あいつは新たな力をくれるといった。まとめて現れた人形へ無数の氷を炸裂させ、破片の雨を浴びながら生き残りを破壊する。
くだらない雑用なら嫌だったが、こんな楽しいことならば進んでやりたいほどだ。呪文が唱え放題というのも良かった。楽しくて楽しくて人形を壊し続ける。

「ルイズ?! や、止めてくれっ!」

マリコルヌの形をした人形は魔法で手足を吹き飛ばし、その後で薪みたいに真っ二つにしてやった。私をゼロと呼んだ罰だ。
その後ろには他の奴等もひしめいており、ルイズは笑いながら剣を振りまくった。とても、とっても楽しい。

「ちょ、る、ルイズ?!」

集団を倒しきると、次に出てきたのはツェルプストーだった。困惑した表情を浮かべるソレの両足を氷で固定し、逃げようともがく姿を楽しみつつ、体を少しずつ凍らせていく。
私ごときに命乞いする姿は、あの高慢さと余裕が吹き飛んでいて実に痛快だ。凍らせた右腕に蹴りを入れて粉砕、更に必死さと哀れさを増した恨みの句を嘲笑した。
凍っていない部分を剣で少しずつ切り傷をつけて悲鳴を楽しんでいたが、いい加減に飽きたので首から下を氷結させる。ひときわ高い歌声がこの上ない愉悦を与えてくれる。
唯一まともに残っている顔に目を向け、「まさか……やめっ」以降の声が聞こえる前に、軽く肩を押しやった。きっかり2秒後に地面とぶつかって、立体のジグソーパズルになる。

「ルイズ! 止めなさい!」

お母さまが出てきて、生意気にも杖を持った腕を振り上げながらルーンを唱え始めた。
しかし呪文により光の盾を纏った私に魔法など、全く意味がないどころか逆効果だ。無知は怖いものですわね。
竜巻のようなカッタートルネードは勢いそのままに反射し、お母さまは私が手を下すまでもなくバラバラになってしまった。汚らしい音を立てながら破片が落下する。


次は! と周囲を見回したが新たな人形はなく、どうやら終わりらしい。1分ほど経ってから警戒を解き、息は切れていないが大きく深呼吸した。
やりとげたという達成感が気持ちよく、思わず胸を張りたくなる。私はもうゼロじゃない、ゼロならこんな凄い事はできない。
手持無沙汰になったので、夢の中ながら良い汗をかいたなと額をぬぐう。

「あれ……?」

袖は真っ赤に染まっていた。どこか怪我をしたのかと自分の体を確かめるが、痛みは感じないし攻撃を食らった覚えはない。
ならば、と背中に付けていたマントを外して血を拭き取ろうとしたが、貴族の証たるそれは、湿って重くなるほど血を吸った後だった。

「……終わったみたいね」

今の自分の恰好が、血を満たしたお風呂に服を着たまま入ったような惨状だと気づく。これにはさすがにルイズも首をかしげた。
一度意識すると濡れた洋服は肌に張り付いてひどく不快だし、血の匂いは鉄を舐めまわしているみたいにきつい。
もう!と悪態をついていると、どこからか私ではない私が出てきた。まあ、この空間の支配者らしい彼女なのだから、文字通り"どこからか"出てきたのだろう。

「ほら、見てよ」

彼女が指さした先にを眼で追えば、地平線の彼方まで続く真っ赤な道があった。言うまでもなくルイズが進んできた道だ。
果たしてこれを築くためには何人の犠牲が必要なのか、数えることさえ馬鹿らしいと思えるほどの、殺戮の証だった。

「それで? ……まさか、あれを片づけろとか、言わないでしょうね」

だがそれを見ても、心底どうでもいいとさえ言いたげなルイズは小さな溜息を吐いた。続いて血が滴る自らの制服を指差し

「べちゃべちゃして気持ち悪いから、新しいのちょうだい」

と言い放つ。
ここは夢の中なのだから、転がってるあれも人間ではない。見た目が気持ち悪いぐらいで、気にするまでもない。だからどうでもいい。
その言葉を聞いて、もう一人のルイズは楽しげに笑う。


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