あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ナイトメイジ-23


見えはするが見えていることすらわからない。
聞こえはするが何が聞こえていことすらわからない。
ならばそれはなにも見えず、聞こえずとなんの変わりがあるのだろうか。
ありはしない。
色と音のある闇の中でただそこにいるだけ。
その闇の中にどれほどルイズはいたか。
時間すらも無意味なら、どれほどという言い方もまた無意味。
ではあるが、他に言い方もない。
いつ頃からかルイズの耳に響く音があった。
その音に闇に溶けていたルイズの心が次第に集まっていく。
どんな音も色も、ただ溶けた心の中を通り過ぎていくだけだった。
だが、この音は違う。
溶けた心を集め、意味を成していく。

   神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右につかんだ長槍で、導きし我を守りきる。

それは音ではなく言葉。

   神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。

それは言葉ではなく歌。

   神の頭脳はミュズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知恵をため込みて、導きし我に助言を呈す。

そして歌と共に耳の届き、心に刻まれるものがある。

   そして最後にもう1人……。記すことさえはばかれる……。

心に刻まれた一編のルーンは口に上り、言葉となる。

   四人の僕を従えて、我はこの地にやってきた……。

そしてルイズは零れるように呪文を唱える。
「ディスペル・マジック」


窓のない真っ暗な部屋にただ一つ作られた扉を開いたときはこんなふうなのだろうか。
目に映るもの全てが意味を持ってくる。
壁は壁、椅子は椅子、アンリエッタ姫はアンリエッタ姫であり、ベルはベル。
目に見えるものに意味が戻るにつれ、ルイズの意識も再び動き出し、釣られるように口を動かすのではなく、はっきりと自分の意志で言葉を紡いだ。
「ベル……」
「あら、ルイズ。やっと起きたの」
ベルが何かを足蹴にしていたが、そんなものには目もくれずルイズはぽつりぽつりと寝ぼけた頭を起こすよう頭を振る。
「わたし……魔法が使えた」
何かを蹴り飛ばすのをやめたベルが少し離れたところに転がっているクロムウェルの手に光る指輪にちらりと視線を走らせた。
「ならここにもう用はないわね。さっさと帰りましょ」
ベルはこんなところに興味は失せたとばかりに駆け出そうとするが、そんな使い魔を追いかけようとしたルイズは極めて重大なことを思い出した。
「ちょっと待って。姫様!姫様を連れて行かないと!!」
すっかり忘れていたとでも言いたげにベルがパンと両手が高らかに音を立てて打ち鳴らした。


「けっこう重いわねアンリエッタって」
「あーっ!ベル。姫様の足、引きずってる、引きずってる」

3人の少女が廊下を駆け抜けた直後、ワルドとクロムウェルが倒れている部屋に足音も立てずに入ってきた女性がいた。
クロムウェルの秘書、シェフィールドである。
シェフィールドは部屋の中を軽く見渡すと、気を失っている2人の男をそのままにおいて隅に落ちていた小さな木箱の元に足を運んだ。
木箱の中では回転する金属の筒につけられた小さいとげが、これも金属の櫛の歯を弾いている。
そう、これはオルゴールである。
だが、このオルゴールは誰が見ても壊れている以外の感想をもたないだろう。
見た目はどこも不都合なく動いているものの、どんなに櫛が弾かれていてもかすかな音すらたてないのだ。
オルゴールとしての機能を果たしているとはとても言い難い。
それなのにシェフィールドはまるで万の黄金よりも価値があるかのようにそれを拾い上げた。
「こんなところにあったのね」
指先でオルゴールを回しながら見るシェフィールドはほっと一息ついた後、歯車の振動を感じていた指を口元にそっと添えて細い眉を少しゆがめた。
「あの娘」
桃色がかったブロンドの小さい学生、ルイズといったはずだ。
虚ろな瞳ではあったが、その視線は間違いなくこのオルゴールに向けられていた。
どのような音も奏でることのないこのオルゴールに。
「まさか……」
もし、このオルゴールの音を耳にしていたとしたら可能性は一つしかない。
「いえ、そうかも知れないわ」
人間の使い魔をも従えていた事。
それは彼女の考える可能性をさらに補強する。
「それなら」
何事かを心に決めたシェフィールドは部屋を出るとまずは部屋に倒れる2人のために水のメイジを呼ぶ声をあげた。


ニューカッスル城の地下──と言うのも少しおかしな言い方かも知れない。アルビオンは浮遊大陸なのだから──には大きな鍾乳洞がある。
大きな、というよりは巨大なと言った方がいいかもしれない。
この鍾乳洞はニューカッスル城の秘密の港として使われていたほどなのだ。
事実ルイズ達がアルビオンに来たときには、ここに2隻のフネが停泊していたが今は一隻のフネもない。
レコン・キスタ空軍の操船技術ではここに入れないのだ。
──王立空軍の航海士にとっては造作もないことだがね
先日、そう自らが率いる空軍の実力を誇っていたウェールズ王子も既に虚無の魔法で敵となった。
そのことを悲しんでいるのか閑散とした洞窟の中で風が泣き声を上げていた。
「おかしいわね。まだ来てないのかしら」
ぐるりと視線を巡らすベルの後をついてルイズも辺りを見回してみたが、見えるのはごつごつした岩肌と車輪のついたタラップ、それにほったらかしにされた舫縄に大量の木箱くらいのものだ。
「どうしたの?」
「ちょっとね……んー、行ってみるか。ちょっと待っててね」
いつものことだが止める暇などありはしない。
ルイズの止める声も聞かずにベルは濡れて滑りやすい床に構うことなく走り出し、あっという間に洞窟の出口に向けて走るベルの背中はすぐに岩影に隠れた。


「待っててって……」
取り残されたルイズはベルの肩をつかもうとしてできなかった手を少しの間泳がせていた。
ベルの事は気になるが、待っててと言っていたから戻ってくるだろう。たぶん。
それなら、とルイズは目を洞窟の奥から後ろの壁と床の間に移す。
目をつぶったままのアンリエッタ姫がそこに寝かされていた。
一瞬、死んでしまったのかとも思ったが規則的に上下する胸がそうではないことを教えてくれる。
「姫様。お願いです。もう少し、あと少しだけそのままにしててください」
杖を片手に持ち目をつむる。
今は眠っているがアンリエッタ姫は未だクロムウェルの虚無の魔法により心を操られているはずだ。
心を縛られていたルイズのように。
──だけど
虚無の魔法で心を操られているのならルイズにはそれを解く方法がある。
少し前のルイズにはなかった魔法が今のルイズにはある。
──でも
その魔法、ディスペル・マジックが解いたのはあくまで不完全な心を操る魔法。
だったら完全な心を操る魔法にディスペル・マジックは通用するのか?
しかも虚無の魔法に。
それにたった一回成功しただけの魔法なのだ。
また、再び使えるのか?
──それでも
ルイズは心にたまり、積み重なりそうになる不安を押し殺した。
それでもやらなくちゃいけない。
心を縛られていたとき、ルイズは限りない恐怖を感じていた。
なにも感じられないはずなのにそれだけは感じていた。
なら、心を操られている姫様はどうなのだろう。
「ディスペル……」
背中だけでなく全身にのしかかる不安を覚えたルイズは杖を振り上げ、そして覚えたオルゴールの音に合わせ、指揮者のように杖を振った。
「マジック」



「ディスペル・マジック、か。エリスのアイン・ソフ・オウルくらいに派手なのを期待してたんだけど……。
 具体的に言えばいつも使ってる爆発のバージョンアップ。
 それでも、入り口に来たことには変わりないわ。
 ……あら?誰か来たみたいね。
 それならルイズにはもうちょっと頑張ってもらいましょ」


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