あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ラスボスだった使い魔-06


(石で構成された、大学の講堂……というところか)
 魔法学院の教室を見た、ユーゼスの感想はそれだった。
 このような空間は、やはり自分に馴染みがある。
 銀河連邦政府の科学アカデミーにいた頃は、必死になって講師の話を聞いたり、研究室にこもって大気浄化の研究に打ち込んだものだった。
 こちらにチラチラと向けられてくる視線や、クスクスと聞こえてくる笑い声を無視しながら教室をざっと見回すと、ルイズやキュルケと同じく黒いマントを身に付けた生徒の横にさまざまな動物たちが見える。
 六本足の爬虫類、宙に浮かぶ眼球、……あとは形容し難いが、魚類に触手が付随したようなモノ。
 これらはおそらく、ハルケギニア独特の生物なのだろう。惑星や世界の違いによって、生態系や動植物の差異があるのは当然だ。
 ユーゼスが注目したのは、フクロウ、ヘビ、カラス、猫などの地球と同じ生物である。
(……やはり地球との類似点が多いな)
 などと考えながら、ルイズが座る机の横の通路に座る。どうせ今回も『平民が貴族と同じ場所に座るんじゃないの』とか言われるに違いない。……事実、通路に座ったことに関してはルイズから何も言われなかった。
 少し時間が経つと、扉が開き、紫色のローブと帽子を身に付けた中年の女性が入ってくる。
(あれが教師か?)
 明らかに生徒と年齢層や服装が違うので、おそらくそうなのだろう。
 中年の女性は教卓の前に立つと、教室をぐるりと見回して微笑む。
「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ。
 ……おや?」
 と、そこでシュヴルーズと名乗った女性はルイズとその横の床に座り込むユーゼスを見て、とぼけた声を上げた。
「変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」
 次の瞬間、教室中がどっと笑いに包まれる。
「ゼロのルイズ! 召喚出来ないからって、その辺歩いてた平民を連れてくるなよ!」
「違うわ! きちんと召喚したもの! コイツが来ちゃっただけよ!」
「嘘つくな! 『サモン・サーヴァント』が出来なかったんだろう?」
「……っ、ミセス・シュヴルーズ! 侮辱されました! 『かぜっぴき』のマリコルヌがわたしを侮辱したわ!」
「『かぜっぴき』だと? 俺は『風上』のマリコルヌだ! 風邪なんか引いてないぞ!」
「アンタのガラガラ声は、まるで風邪でも引いたみたいなのよ!」
 立ち上がって睨み合う、ルイズとマリコルヌと呼ばれた男子生徒。
(……私も人のことは言えないが、感情的になりやすいな、『御主人様』は)
 それだけ若いということか、と精神年齢70歳近くの使い魔は思う。
 シュヴルーズはそんな二人の様子を見て、スッと小ぶりな杖を振ると、
 ストンッ
 「!」「!」
 立っていたルイズとマリコルヌは、糸の切れた操り人形のようにいきなり席に座り込む。
(……何だ、今の現象は?)
 普通に考えれば魔法の一種だろうが、どの系統のどのような魔法なのだろう。
 身体の力が一瞬で抜けたように見えたが、身体に作用するのは―――確か『水』系統だったはずである。いや、もしかしたら自分の知らないコモンマジックなのか。
 未知の物に接すると知的好奇心が湧いてくるユーゼスだったが、思考している内に、今度はルイズを笑う生徒の口に赤土の粘土が押し付けられる。
(……何もない空間から粘土を出したのか)
 もはや、いちいち驚くのも面倒になってきた。

「では、授業を始めますよ」
 シュヴルーズが杖を振ると、教卓の上に小さな石が数個ほど出現する。
 そして『土』系統の重要さとして、重要な金属の生成・加工、建築物の建造、農作物の収穫などに役立っていることを説明した。
(つまりこの世界の社会は、大前提として魔法ありきということだな)
 ルイズの部屋にあった本には、『魔法そのもの』についての詳細な説明や精神集中の方法などは書いてあったが、それがどのように活用されているのかは記述されていなかった。
「今から皆さんには『土』系統の魔法の基本である『錬金』の魔法をかけてもらいます。一年生のときに出来るようになった人もいるでしょうが、基本は大事です。もう一度、おさらいすることに致します」
 教卓の上の石に向かってシュヴルーズが杖を振り上げ、何やら短くブツブツと唱えると、その石が光りだす。
 その光がおさまると、小さな石のはずだった物は、光る金属へと変貌していた。
「ゴゴ、ゴールドですか? ミセス・シュヴルーズ!」
「違います。ただの真鍮です。……私はただの、トライアングルですから」
 ユーゼスは頭を抱えた。
 そんな使い魔の様子を見たルイズは、ブツブツと『炭をダイヤに変えるならともかく』とか『胴と亜鉛の合金』とか『単純な混合物ではなく化合反応』とか『元素そのものの変化』とか『そもそも石の構成物質は』とか―――とにかく、よく分からないことを言うユーゼスに対して、
(……変なヤツね)
 と、感想を抱く。
「それでは、皆さんの実力を見る意味も含めて『錬金』を実際にやってもらいましょう」
 生徒たちの顔を見渡すシュヴルーズ。
「ではミス・ヴァリエール。先程の名誉挽回の機会ということで、あなたにお願いします」
「え? わたし?」
「そうです。ここにある石ころを、望む金属に変えてごらんなさい」
 それを聞いた周囲の生徒たちに、ざわ、と警戒が広まった。
「ミセス・シュヴルーズ、危険です。やめといた方がいいと思います」
「どうしてですか?」
「……ミセス・シュヴルーズは、ルイズを教えるのは初めてですよね?」
「ええ。でも、彼女が努力家ということは聞いています」
 キュルケの警告をさらりと受け流し、シュヴルーズはルイズに『錬金』の実演を促す。
「さあ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。失敗を恐れていては、何も出来ませんよ?」
 ルイズは頷くと、立ち上がって教卓の前へと歩いていった。
「ルイズ、やめて!」
 キュルケの静止も聞かず、ずんずんと進むルイズ。
 そしてシュヴルーズの隣に到着すると、彼女と同じように杖を振り上げる。
 そんなルイズの使い魔はと言うと、
(失敗するのだろうな)
 主人の失敗を確信していた。

 魔法の成功例がゼロだから『ゼロのルイズ』と呼ばれているということは、召喚されて間もなくの時点で悟っている。
 しかし『錬金』に失敗すると、どのような結果になるのだろうか。
 おそらく反応が中途半端な尻すぼみで終わるか、意図していたものとは全く別の物質が生成されるか、反応自体が起きないと推測されるのだが。
「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」
 頷くルイズ。
 そして杖を振り上げ、呪文を唱え、同時に前の席の生徒は机の下に伏せ、
 ドガァアアアアーーーーーーーーーーンンン!!!!
 爆発が起きた。
 爆風を受けて黒板に叩きつけられるルイズとシュヴルーズ。あがる悲鳴。散乱する破片。暴れだす使い魔たち。生徒たちから上がる非難の声。ちょっとしたパニックである。
 そんなパニックの中心であるルイズは、ボロボロの格好で煤を払いつつ、
「ちょっと失敗したみたいね」
 と言い放った。
「『ちょっと』じゃないだろ! ゼロのルイズ!」
「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないかよ!」
 即座に飛んでくる反撃の声。
 ルイズはフン、とそっぽを向くと、元いた席に戻っていく。
 『シュヴルーズ先生、気絶してるぞ…』、『おい、誰か他の先生呼んでこいよ』などとざわつく教室の中、ユーゼスは今の現象について考えていた。
(……『爆発』?)
 爆発、と一口に言っても色々ある。
 単純に急激な勢いで炎が発生することも爆発であるし、ニトログリセリンなどの爆発性物質が反応することも爆発、ガス爆発、水蒸気爆発、粉塵爆発、核爆発など、原因も種類も様々だ。
 ではあの爆発はどれに類するのだろう、と思考を巡らせるが、
(……詳細が分からない)
 至近距離、かつ超スローモーションでじっくり観察すればヒントくらいは得られるかも知れないが、そんな設備はハルケギニアにはない。
 さすがに核爆発の可能性は薄いだろうから、おそらく『火』系統の要素が関係しているのでは……とユーゼスは取りあえず当たりをつけてみるが、それだって確証はほとんどない。状況による推測だけだ。
(…………不明な点が多すぎるな、この世界の『魔法』は)

 無言で教室の後片付けをしたルイズとユーゼス。
 しかし新品の窓ガラスの運搬、机の移動、教室の雑巾がけなど、実際はほとんどの労働をユーゼスが担当していた。ルイズは軽く机を拭いただけである。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
「体力も腕力もないのねー、アンタ」
「……元々はお前の責任だろう、御主人様。それに私の専門は肉体労働ではなく、頭脳労働だ」
 それでなくとも、徹夜明けなのである。疲れるなと言う方に無理があった。
「はいはい。それじゃ食堂に行くわよ」
 気が付けば、昼食の時間になっていた。
 食堂に着くと、ルイズが座る椅子を引き、床に置かれたパンとスープを胃に入れる。
(何なのだ、この過酷な労働条件は……。……あるいは私への罰なのか、これは?)
 確かに、自分は世界の因果律を束ね、人を超えた神の領域に踏み込もうとした。
 そのために敵も味方も含めて、多くの人間の運命や人生を狂わせた。
 災厄の種を過去に送り込み、世界の歴史を滅茶苦茶にもした。
 部下を無理矢理に操って、自分の敵と戦わせたこともあった。
 協力者を散々に利用してウルトラ族のデータの取得や、部下の強引な引き抜きを行い、用済みになったから見捨てたりもした。
 良かれと思って大気浄化弾を独断で使い、その結果、レーダー網を全滅させてしまって地球壊滅の危機を起こしたりもした。
 自分の複製を作り出し、その複製の人格を無視して、単なる道具や操り人形にしようともした。
(………………)
 改めて自分のやってきた事をかえりみて、この程度で済んでいるのなら、むしろ楽なような気がしてくる。
 と言うか、この程度のことが贖罪になるのなら『甘い』と言わざるを得ない。
 それこそ世界を救う、くらいのことをしなければ釣り合いが取れないのではないか。
 ……いや、仮に世界を救ったとしても、それで罪が消えるわけではない。
 そもそも、『贖罪をしよう』という考え自体がおこがましいような気もする。
(考えても仕方がない、か)
 食事を終え、外の広場の片隅でポツンと座り込みながら、ユーゼスはボンヤリとそんなことを思う。

 そうしてボンヤリすること、しばし。
「も、申し訳ありませんっ!!」
「?」
 聞き覚えのある声がしたので、そちらに目を向ける。
 見ると、フリルのついたシャツを着た金髪の生徒に向かって、自分の洗濯を手伝ってくれたメイドの少女が何かを謝っている。
「いいかい? メイド君。僕は君が香水のビンをテーブルに置いたとき、知らないフリをしたじゃないか。話を合わせるぐらいの機転があってもよいだろう?」
「お、お許しください……!」
(……階級社会の悪い面だな)
 とは言え、階級社会にもメリットはある。民主社会とは違って、責任の所在が明確なのだ。
 民主社会では、議会や集団合議によって政策や物事への対応が決まるため、失敗しても『みんなが悪かった』で済ませることが多々ある。
 逆にトップが明確な階級社会では、明確であるが故に、責任は全てトップの人間が取る。処刑や幽閉など、処罰の方法は様々だが。
 だが支配階級と被支配階級の間には、当然のことながら意識の差が生まれ、『自分は支配する側で特別』、『自分は支配される側で価値がない』と刷り込みに近い思い込みが起きる。
 このハルケギニアでは、『魔法が使える貴族』と『魔法が使えない平民』とで更にクッキリと線引きが行われているため、その傾向はより顕著なのだろう。
 自分の主人があそこまで傲慢と言うか高飛車なのも、ある意味では仕方のないことと言える。何せそのような社会で生まれ、育ってきたのだから。
(社会構造がイビツではあるが、一応安定はしているようだし、このままでも良いのかも知れないがな)
 『安定』と言うよりも『停滞』に近いが、別の世界の人間であるユーゼスにとっては重要視する部分ではない。
 何よりも、貴族は元より、平民もそれで納得して……諦めている。
 この世界はそういうものなのだ、とメイドを叱責する金髪貴族を見ながらユーゼスが得心していると、
「これだから平民は…………ん?」
「む?」
 ふと視線を逸らしたその金髪貴族と、ユーゼスの視線が合った。
 バッチリと。これ以上ないほど。運命的とも言える視線の合致率で。
「っ、何かね、君は!? こちらをジロジロと見て!!」
「…………」
 厄介なことになった、とユーゼスは思った。
「貴族の話を座りながら聞くとは何事だ! こちらに来たまえ!!」
 言われるがままに、金髪貴族の近くへと歩くユーゼス。こういう場合は、とりあえず従っておくことが正解と判断したのだ。
「まったく……! 平民というのは、どいつもこいつも無礼で短慮な奴らばかりだな!!」
 えらい言われようである。しかし短慮という言葉が、自分にとって的を射ている気もするのが痛い。
 取りあえず、一言詫びておこう。
「済まない、以後気をつける」
「……何だ、その言葉遣いは!? 君は貴族への礼儀や敬意も知らないのか!?」
 ……逆に神経を逆撫でしてしまった。
 そう言えば、最後に敬語を使ったのはいつだっただろうか。
 仮面を被ってからは基本的に敬語など使った覚えはないが……。地球に来た時の挨拶に使ったような、使っていないような。
「ん? ……ああ、君は確か、あのゼロのルイズが呼び出した、平民だったな。…平民に貴族の機転を期待した僕が間違っていた。行きたまえ」
「……………」
 ―――さすがに、今の言動は聞き逃せまい。
「……私への侮辱はともかく、主人への侮辱は取り消してもらいたいのだが」
「フン、平民が侮辱うんぬんを口にするとはな。それに、僕が忠告したにもかかわらず、その物言い…。やはり君は、貴族に対する『礼』を知らないようだな」
「?」
 雲行きが怪しくなってきた。
「よかろう、君に礼儀を教えてやる。ちょうどいい腹ごなしだ」
 立ち上がる金髪貴族。
「ヴェストリの広場で待っている。覚悟を決めたら、来たまえ」

「………」
 立ち尽くすユーゼス。
 一体、何が悪かったのだろうか。
「あ、あなた、殺されちゃう……」
 そばにいたメイドは、震えながらユーゼスに向けてそんなことを言った。
「貴族を本気で怒らせたら……!」
 ダッと駆けて逃げていくメイド。
 意外と薄情だな、などとユーゼスは思ったが、先程の『貴族と平民の関係』の推察からするに、あれが正しい反応なのだろう。
 ……さて、どうやら戦いになるようだが、メイジ相手にどう対処するべきだろうか……と考え込もうとすると、いつの間にか後ろにルイズがいた。
「アンタ! 何してんのよ! 見てたわよ!」
 先程の金髪貴族に散々言われたので、貴族に対する『礼』とやらを実践してみることにする。
「これは御主人様、昼食はお済みで?」
「……なんか気持ち悪いから、口調は元に戻しなさい。
 とにかく、なに勝手に決闘なんか約束してんのよ!?」
「決闘? いつの間にそんな話になっていたのだ?」
 少なくとも、先程の話に『決闘』など一言も出ていなかったが。
「貴族にとって、一対一で戦うことは『決闘』になるの!
 ……とにかく、謝っちゃいなさいよ。今なら許してくれるかもしれないわ」
「断わる」
 ルイズの提案を、ユーゼスは即座に突っぱねた。
 そんな使い魔に対し、ルイズはこめかみに指を当てながら、
「……あのね? 絶対に勝てないし、アンタは怪我するわ。いや、怪我で済んだら運が良いわよ!」
「だろうな」
 あの金髪貴族が何系統のメイジかは知らないが、少なくとも生身で勝てる相手ではないだろう。
 火系統のメイジだった場合は、身体の一部、あるいは全部が丸ごと炭化するかもしれない。
 水系統のメイジだった場合は、身体の中―――心臓や脳など―――の『水』の流れを操作されれば即死である。
 風系統のメイジだった場合は、出来るかどうかは分からないが、自分の周囲を真空状態にでもされれば、終わる。
 土系統のメイジだった場合は、シュヴルーズがやったことの拡大発展型として、窒息させられる危険がある。
 その他、自分が知らない魔法を使われる可能性も高い。
 …平民がメイジに勝てない理由が、よく分かるというものである。
「だったら、何でそんなに意地を張るのよ!」
「挑戦する価値があるからだ」
「は?」
 そう、自分はいつだって挑戦してきた。
 大気の浄化。
 ウルトラマンの力。
 時空間の突破。
 因果律の掌握。
 そして、イングラム・プリスケンとガイアセイバーズ。
 それは成功した時もあれば、失敗した時もある。
 だから、自分は。
「私はこの世界に―――『魔法』に挑戦しよう」
「……っ、この、バカ!!」
 主人の叫びに『もっともな意見だ』と呟きながら、ユーゼスはヴェストリの広場の場所を尋ねるのだった。

「諸君! 決闘だ!」
 薔薇の造花をかかげる金髪貴族。それに呼応して、歓声が湧き上がる。
「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの平民だ!」
 腕を振って応える金髪貴族―――ギーシュという名前であることを、ユーゼスは今更ながら知った。
 そして、広場の中央で対峙するユーゼスとギーシュ。
「とりあえず、逃げずに来たことは、褒めてやろうじゃないか」
「……性分なものでね」
「さてと、では始めるか」
 ギーシュが開始の宣言を告げ、その手に持った薔薇の造花を振り、
「待ってもらおう」
 振り切る前に、ユーゼスが制止の声をかけた。
「……何かね? 今更、命乞いは聞かんよ?」
「違う。メイジ相手に丸腰では、こちらが不利すぎる。武器を貰いたい」
 ギーシュはその言葉に、ふむ、と頷く。
「確かに、僕と君の間には絶望的なまでの差があるだろうからな。それを武器で埋めようというわけか」
 そしてあらためて薔薇の造花を振り、一枚の花びらが一本の剣に変化する。ギーシュはそれを掴むと、ユーゼスに無造作に投げてよこした。
「僕も無慈悲というわけではない。それは領民を預かる貴族にあるまじき行いだし、第一、一方的になぶるなど『決闘』とは言わないからな。……まあ、せいぜいそれで抵抗したまえ」
 勝てるかどうかは別問題だが、と付け加えるギーシュ。
 ユーゼスは地面に突き立った青銅の剣を抜くと、
「感謝する、貴族殿」
 一言だけ礼を言い、じっと剣を見つめる。
(……あのシュヴルーズという教師が何もない空間から小石を出したのと、原理的には同じか)
 ということは、このギーシュという貴族は『土』系統と推測される。
(『真空』と『体内の水分操作』と『全身炭化』に比べれば、『窒息』はまだやりようがあるな)
 剣を扱うにあたって『最適な身体の動かし方』が頭に浮かぶ。左手のルーンが光ることを確認し、剣の体感重量が軽くなったことを実感する。
 ギーシュは再び薔薇を振るい、宙に舞った花びらが一枚、光り輝くと―――
「……何?」
 女性をかたどった、直立する鎧となった。
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」
「無い」
「けっこう。……おっと、言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュ・ド・グラモンだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」
(モビルドールのようなものか?)
 あれも無人で動くという点では同じである。
 時間があればじっくり話を聞くなり研究したりしてみたいものだが、などとユーゼスが考えていると。
 ビュッ!
「!」
 青い鎧が、ユーゼスに殴りかかってくる。
 ユーゼスは、それを割とギリギリで回避した。
「ほう、避けたか。口だけというわけでもないようだ!」
 ブンブンと振るわれるワルキューレの拳。
 危なっかしくも一つ一つそれを避け、ユーゼスはその拳に合わせてカウンター気味に斬りつける。
 ガキャッ!! ギャリッ!!
 首と右肩の関節部を狙った攻撃は、目論見どおりに成功した。ワルキューレの頭と腕がドサリと地面に落ち、続いて残った胴体も崩れる。
「―――!!」
 驚愕するギーシュ。彼はギリ、と歯ぎしりすると、また薔薇を振るった。そして、今度は3体ワルキューレが現れる。
「…………」
 対するユーゼスもまた、顔をしかめていた。
(……一体倒せば終わり、と考えていたのだが……)
 そう甘くはないらしい。
 加えて、手に持つ剣は盛大に刃こぼれしている。青銅の剣で青銅の鎧を切ったのだから、当然ではあるが。
(……長引きそうだな)

 繰り返すが、ユーゼス・ゴッツォは元々、肉体を行使して戦う人間ではない。
 加えて、昨夜の徹夜や、昼食前の教室の片付けなどで、かなり体力を消耗している。
 ルーンの効力で肉体能力と反応速度が上昇してはいるが、元々の基本値が低いのである。
 加えてギーシュのワルキューレの特徴や動きをいちいち分析しながら戦って―――感情よりも理性を優先しているため、今ひとつ感情の振れ幅が増大しない。
 ……実を言うと、簡単に解決する方法はある。
 方法その一。クロスゲート・パラダイム・システムを使い、因果律を操作して敵の存在を抹消する。
 ―――却下。そこまでする必要はないし、そもそも自分は、そんな下らないことのためにコレを開発したのではない。
 方法その二。超神形態に変身する。
 ―――論外。ロウソクの火を消すのに、ダムを開放するようなものである。
 よって、自分の肉体と、自分に与えられたルーン、そして自分の頭脳で何とかするしかない。
 だが、この状況では頭脳はあまり当てにならないだろう。そもそも自分は『研究者』であって、戦術や戦略、ついでに権謀術数などはからっきしだ。もしそれらが使えたら、トレーズ・クシュリナーダを誘ったりはしなかった。彼には勧誘を断わられたが。
 ギーシュ・ド・グラモンの方も、少し引きつってはいても笑みすら浮かべているが、内心では焦りを感じていた。
 自分の予定では、ワルキューレを一体出して、適当にこの生意気な平民を痛めつけた後、『心からの謝罪の言葉』を引き出し、貴族の威光を知らしめる―――と、このようになっていたのだが、実際はかなり手こずっている。
 それにワルキューレの複数同時操作は、正直言って難しいのである。
 これが単純な『全て突撃せよ』とか、『散らばれ』とかであれば簡単なのだが、一体一体バラバラに攻撃を加えたり、単一の敵に対して連携をとらせるなどの操作は、かなりの高等テクニックなのだ。
 ……実を言うと、簡単に解決する方法はある。
 自分の能力の限界である、残り3体のワルキューレも総動員して、6体であの平民を攻撃するのだ。
(……ふざけるな)
 あれが自分のワルキューレを一瞬で倒すほどの達人であるとか、怪力の持ち主、亜人などの類ならばともかく、ただの平民にそこまでするのは貴族としてのプライドと、何よりもギーシュ・ド・グラモンとしてのプライドが許さない。
 よって、ワルキューレを状況に応じて小出しに繰り出すしかない。
 だが、それでこの相手に勝てるかどうか―――となると、また怪しくなってくるのだが。

 決闘開始より、十分経過。
 ガキィン!! ギンッ!!
「そこだ、やれー、ギーシュ!」
「なに平民を相手にチンタラやってるんだー!?」

 決闘開始より、二十分経過。
「……フッ、まさかここまでやるとは思わなかったよ、平民くん……!」
「っ、更に3体繰り出してきただと……」
「………」
「あれ、タバサ、どこに行くの?」
「授業」
「……ギーシュの決闘がまだ続いてるけど……」
「遅れる」
「あ、ちょっと、タバサ! ……ま、いっか。あたしも飽きてきたし」
「俺たちも行こうぜ」
「そうだな」
「……行かないの、モンモランシー?」
「…………あなただって残ってるじゃないの、ルイズ」

 決闘開始より、三十分経過。
「はぁ、はぁ……。ま、まずは……、誉め、よう。はぁ、ここまでメイジに、楯突く平民が、はぁ、いることに、素直に感激、しよう、はぁ」
 息も絶え絶えに、ギーシュがユーゼスに賞賛の言葉を送る。
 既にワルキューレは7体全てが全滅しており、精神力も限界に近い。
「ゼェ、ゼェ……。……光栄だな、ゼェ、貴族殿」
 激しく乱れた呼吸で、それに応えるユーゼス。
 体力は既に限界ギリギリであり、その手に持つ剣は中ほどから折れている。
 ちなみに周囲にいたギャラリーは既に、ルイズと、この決闘の原因の一つとなった(ユーゼスはそのことを全く知らないが)モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシの二人しかいない。
「だが、勝つのは……僕だ!」
 ビュッ
 薔薇が振るわれ、花びらが舞う。
 そして青銅の戦乙女が現れ、主人の敵へと突撃していった。
「……っ、が……!!」
 ギーシュの精神力が、完全に底をつく。
 一瞬でも気を抜けばすぐに気絶することは間違いないが、ハッキリ言って、ギーシュはプライドだけで辛うじて意識を保っていた。
「どうかな……!?」
 目の前の敵より与えられた青銅の剣は、折れてはいるが『剣』としての機能はまだ生きている。
 自分の体力の消耗具合、上昇した身体能力などを考えるに、おそらく渾身の攻撃を一度放てば、それで限界だろう。
 どうやら向こうも相当に辛い様子であるし、今自分に向かっている一体を倒せば、それで終わる可能性が高い。
 ユーゼスは一歩を踏み出し、主に忠実なゴーレムを迎え撃つ。
 そして、
 ガキャァアアアアアアアアアンン!!
 青銅同士が、激しくぶつかり合う音が響く。
 ユーゼスの剣は、柄から綺麗に折れた。
 ワルキューレは、肩口から腰まで折れた剣を食い込ませていた。
「……………」
「―――――」
 この騒動の発端時と同じように、視線を交差させる二人。
「……名前を、聞いておこう……平民、くん」
「ユーゼス・ゴッツォ……だ。ギーシュ……ド、グラ……モン」
「お、おぼえて……おこ……」
 ドシャアッ! ズシャンッ!
 ユーゼスはうつ伏せに、ギーシュは仰向けにその場に倒れ込む。
 その様子を見た二人の少女は、それぞれ自分が向かうべき者へと向かって駆け出していくのだった。

「……なんか、『伝説の使い魔』にしては、あんまりパッとせんのう」
「……そうですな」
 トリステイン魔法学院の学院長であるオールド・オスマンと、教師であるジャン・コルベールは、落胆に近い感想を漏らす。
 学院一の劣等生、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが召喚した平民の使い魔が、始祖ブリミルの使い魔である『ガンダールヴ』かも知れない……という情報が入ったところに、実にタイミングよくその平民の男と、一番レベルの低い『ドット』クラスではあるがれっきとしたメイジが戦うという報告が入った。
 見極める良い機会だ、ということで『遠見の鏡』を使ってその戦いの様子を見ていたのだが、その結果は引き分けである。
「……どう判断したものでしょうか」
「う~む……。ミスタ・コルベール、あの男は、本当にただの人間だったのかね?」
「はい。どこからどう見ても、ただの平民の男でした。ミス・ヴァリエールが呼び出した際に、念のため『ディテクト・マジック』で確かめたのですが、正真正銘、ただの平民の男でした」
 着ている服は我々のものとは違いますが、これは文化性の違いでしょうな―――と付け加えるコルベール。
「……あの程度のメイジなら、一瞬で倒せるであろう平民を知っておるがなぁ、私は」
「確かに、優秀な兵士ならば可能でしょうな」
 オスマンは『うむ』と頷くと、あらためてコルベールに向き直る。
「で、どうしようかの?」
「仮にあの男が伝説の使い魔『ガンダールヴ』だとして、それほど驚異的な力を持っているわけではないようですからなぁ」
「伝説というものは、大抵が誇張されるもんじゃしの。
 ……それに、その『伝説』をミス・ヴァリエールという、おせじにも有能とは言えないメイジが召喚した……というのも引っ掛かる。
 ……王室に相談して、指示を仰ぐという君のアイディアは、とりあえず見送ることにしようか」
「……そうですな。不明なものを不明なまま丸投げするというのは、私としても不本意ですし」
 二人はふう、と息をつく。
「そう言えばこの学院の卒業生でもあるんじゃが、そのミス・ヴァリエールの姉上は、アカデミーに勤めとるんじゃったか」
「おお、忘れておりました。しかし姉のコネを使えるとは言え、いくら何でも自分の使い魔をいきなりアカデミーに連れていくような真似はしないでしょう、さすがに」
「実験動物のような扱いをされるのは目に見えとるしのう、ハッハッハ」
「せっかく苦労して召喚した使い魔に、いきなりそんなそんなことをするわけがありませんよねぇ、ハッハッハ」
 彼らは、ユーゼスがルイズに語った『希少価値のある実験動物の扱い方』を、知らなかった。






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