あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無の闇-01


暖かな日差しが降り注ぐトリスティン魔法学校の魔法演習場で、本日2度目の大爆発が発生した。
地響きと共に青々とした草原の一部がえぐれて茶色い土があらわになり、遠目からでも一目で分かるほどの土煙が高々と上がっている。
煙幕のように充満するそれは桃色の長い髪をした女の子へと直撃し、清楚だった制服とマントをうっすらと茶色に染めた。

「やっぱりゼロのルイズだ!」
「なんでこんなこともできないのかしら?」
「しょうがないよ、だってルイズだし」

追い討ちをかけるように生徒たちは好き勝手に野次を飛ばし、いつもながらのルイズの失敗を笑っていた。中には腹を抱えているものまであった。
砂の被害を受けないように遠くから眺めている彼らは、とっくにサモン・サーヴァントの儀式を成功させており、その証拠は各々の隣に座していた。
中にはモンスターとしか思えないものたちも居るが、どれも子犬のような従順さを見せてくつろいでいる。

「なんで、私ばっかり成功しないのよ……っ!」

問題の生徒、ルイズの唇から苦々しげな呟きが漏れた。私はヴァリエールケの三女なのだから失敗など許される訳が無いと、脳裏に浮かぶ最悪の結末を必死に否定する。
二年生に進級する試験もかねている出来て当然のこの儀式だったが、唯一彼女だけは成功の兆しすらなかった。それどころかありとあらゆる種類の呪文が使えず、そのために"ゼロのルイズ"という非常にありがたくないあだ名までつけられているのだ。
しかし、失敗の原因は努力不足ではありえない。ルイズは寝る間も惜しんで鍛錬を続けていたし、今笑っている者達の誰よりも修練を重ねているはずだった。

「絶対、見返してやるんだから……」

ルイズは公然と投げかけられる無数の野次に耐え、心を埋めそうになる挫折感を蹴り飛ばし、精神を集中させて再び呪文を唱え始めた。
あんなにがんばったのだから、コモンマジックの一つぐらい成功してもいいはず! いや、成功するべきだ。もし神様が居るというなら。
鬼気迫る表情のまま地面を睨み付け、自分にふさわしい強大で美しい使い魔をイメージし、魂から叫ぶような呪文とともに杖を振り下ろす。

「……もう! なんで出てこないのよっ!」

しかし彼女の呪文は実を結ばない。結果はいつもどおり、地面には爆弾を爆発させたような穴を、他の生徒たちには笑いの渦を発生させるばかりだった。
半ば自暴自棄になりかけ、ルイズは杖をギリギリと握り締めた。ただでさえ白くて細い指先に杖が食い込み、指先は血の気を失って真っ白になる。
失敗、その二文字が津波のように押し寄せていた。普段は強い意思を湛えているその目には、砂埃のせいではない涙がうっすらと浮かんでいる。空元気が絶望に蝕まれ消えて行き、残ったのは胸を掻き毟りたくなるような暗さばかり。

「あんなに、がんばったのに、ダメなの……?」

たとえ魔法が少しばかり不出来でも、それを補うほどに強力な使い魔を召還すればよい。だからこの1週間、倒れそうになるほど頑張った。
教科書も擦り切れるぐらい見返したし、呪文だって完璧な発音だったはず。けれども結果はこの通り。
望むのは山のようなドラゴンだとか、燃え盛るサラマンダーだとか。
凄いのを呼べればこの非常に不名誉なあだ名も、馬鹿にされるばかりの現状も消えてなくなる。それが高望みだとしても、せめて自分の使い魔を見せることが出来れば、自分がゼロで無い証明にはなる。その証さえあればゼロと呼ばれても頑張っていける。
そう信じて必死に呪文をつむぐルイズだったが、出てくるものといえば爆発で掘り返された地面ばかりだった。それ以外には主に草の根っこ。

いい加減に飽きたのか、響いてくる笑い声はだいぶ収まっていたが、代わりに侮蔑が込められた"またか"という視線が強くなっていった。
折れそうになる心をプライドだけで補修し、砕けた意思の破片をかき集め、ルイズは鬼気迫る表情で何度と無く呪文を唱え続ける。呪文の一言一言に血を吐くような思いを込め続けた。
それなのに爆発、爆発、爆発。狼煙のように立ち上る土煙は何度目のものなのか、数えている物好きも居ないだろう。何しろルイズ本人も分からないのだから。

「あー、……ミス・ヴァリエール」

「っ! ミスタ・コルベール! おねがいします!」

「……言いたいことは、とてもよくわかっています。もう一度だけ許可しましょう。
しかし残念ですが、次の授業もありますので……。わかっていますね?」

いつの間にか近づいてきていたコルベールに、ルイズは慌てて反応した。
ここで終わる訳にはいかない、それだけは断じてダメだ。まだ、私は諦めたくない。
しかし彼の声には、努力家だが報われない生徒を見守ってあげたいという欲求と、教師として時には悲しい判断も必要だという決意が混じっている。
魔法においてはからっきしなルイズだが、その他の事は人並み以上にこなせた。今まで何度も感じ取ってきた事だけに、彼の言わんとすることが実によく理解できてしまった。
意味するのはルイズに対しては死刑宣告に等しい言葉。これが出来なければ留年、もしくは退学の処置もありえる。可哀想だが仕方がないと。

「そんなの、許せることではないわ……」

再び離れていくコルベールの背を見ながら、ルイズはか細く呟いた。杖を持つ右手が恐怖でガタガタと震え、背中に冷たい汗が流れるのを感じる。
ここで失敗すれば"ゼロのルイズ"というあだ名を撤回するどころか、学園史上類を見ない劣等生としてその名を刻み付けることになってしまうだろう。その後がどうなるか、考えたくも無い。
ヴァリエール家は笑い者になり、ルイズはこの後に続く長い人生を暗い影の中で過ごすしかなくなる。悪くすればヴァリエールを名乗る事すら不可能になるかもしれない。
プレッシャーは心の中で形を持ち、悪魔のような鉤爪をもってルイズの小さな胸をギリギリと締め上げた。
家を追い出されたら、自分には行くところが無い。魔法を使えず家名も無いメイジは平民でしかなく、世の中を貴族の視点からでしか知らない自分に、生きていく事が出来るとも思えなかった。
頭に浮かぶのは憎きツェルプストーの笑い顔。その顔に向かって深く頭を下げるしか無い自分。何もかも失くした、ただのルイズの哀れな末路……。

いや! そんなの、絶対に嫌! 私はヴァリエールなの! 私は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールなの!

口の中に溜まった嫌な唾をごくりと飲み込んで、ルイズの喉が小さく音を立てた。
それを防ぐためには、今ここで、とにかく凄い使い魔を召還するしかない。まさに自分の一生がこの一回にかかっている。
ルイズは大きく深呼吸し、飛び交う級友の野次を心から締め出すと、手に浮かんだ汗をマントのすそで強くぬぐった。ドキドキと五月蝿い鼓動を無理やり落ち着かせ、思いのすべてを込めて呪文を唱える。
来てくれれば何でもいい、だからお願い! ドラゴンやサラマンダーなんて贅沢は言わないから……。ネズミでもミミズでもカラスでも、神でも……悪魔でも!

「宇宙の果てのどこかに居る私の僕よ、 神聖で美しくそして強力な使い魔よ。
私は心より求め、訴えるわ……! 我が導きに、答えなさいっ!」



 *** ***

光すら飲み込むような闇の世界に、邪悪なオーラと死の気配が充満した祭壇があった。
そこにそびえているのは、死を前にしてもなお壮絶な気配を持った悪の化身。
すべてを飲み込み、絶望に染め上げようとした悪魔、大魔王ゾーマだった。
死闘によって激しく傷ついている肉体はすでに崩壊を始めており、もう体の7割以上が存在していない。

「だが光あるかぎり 闇もまたある……。」

最後の言葉を紡ぎ終えると、彼の城は地響きを立てながら傾いだ。
人の背丈ほどもある巨大なブロックがあちこちで落下し、荘厳だった城は主人とともに滅びていく。
自らを倒した4人の勇者たちの背中を眺めながら、ゾーマは消滅の時を迎えていた。
このまま混沌とした闇の中に溶け、その一部となる以外の道は無いだろう。より強大な悪となって生まれ変わり、次こそは野望を叶えるのだ。
肉体はすでに9割以上消え去ったが、強靭な魂は現世にしがみつくことを許されていた。
だが、それとて長くは持たない。すでに彼は力を失い始め、引きずられるようにして混沌へと飲み込まれようとしている。

しかし彼が完全に消滅する前に、鏡が現れた。
その向こうからは呼び声がする。力を渇望する者の声が。
彼は答えた。


 *** ***



ひときわ大きな爆発がおき、さらに深く地面を抉る。飛ばされた砂が周囲の生徒にまで影響するほどで、ルイズなどは土色に縞模様になっていた。
その薄汚れた姿は最後のチャンスをふいにしたように見え、またしても失敗か、さすがはゼロのルイズだ、と嘲笑する声が高くなる。
しかし数瞬後、彼らの顔から笑顔が消えた。

「みんな、離れろっ!」

コルベールの恐怖を伴った絶叫が響き渡ると同時に、恐慌状態を起こした使い魔たちが身をよじって暴れ始めた。突如として空が暗黒で覆われ、昼夜が逆転したかのようだ。
先ほどまではあれほど従順で大人しかった使い魔たちは、まるで天敵に発見されたかのように狂ったように吠え立て、辺りは地獄のような喧騒に包まれる。広場は一瞬にして混乱状態に陥った。

何かは分からない。しかし、余りにも強大なものが居る。コルベールの頭の中で警鐘が打ち鳴らされ、無意識のうちに2,3歩と後退った。本能からの声が逃げろと泣き叫んでいた。
杖を握る腕にじっとりと脂汗が浮き、両足は体を支えるという任務を今にも放棄してしまいそうだ。柔和な表情は消え去り、顔には深い皺が刻まれる。

「始祖ブリミルよ、子供らをお守りください……。皆、逃げるんだ!」

それでも教師として、その何かから生徒たちを守らねばならないとコルベールは思った。それが二十年前の罪の、せめてもの罪滅ぼしになろうから。
土ぼこりを避けるため、問題の生徒からかなり距離をとっていた事を後悔した。たとえ全身が砂に埋もれようと、彼女の隣に立つべきだったのだ。
コルベールは出来る限り迅速にフライの呪文を唱え、砂煙を引き裂きながら爆心地へと飛んだ。



「ふえぇっ!? な、なによっ!」

一方、呼び出した張本人といえば、ただ困惑しておたおたとうろたえるばかりだった。
ミスタ・コルベールがあんな声を出すとなれば、よほどの事態を引き起こしてしまったらしい。これは非常にまずい。
級友たちは使い魔に連れられてクモの子を散らすように逃げ出しているし、ミスタ・コルベールはなにやらものすごい勢いで突っ込んでくる。ハゲた頭が飛んでくるようで不気味だ。
何か凄いものを呼んだのならまだよかった。なのに、目の前には土煙しか見えない。山のようなドラゴンも、燃え盛るサラマンダーも居ない。

自分は結局、最後の最後までゼロだったわけだ。被っていた強い貴族という仮面にヒビが入り、浮かんだのは自嘲の笑みだった。
使い魔も呼べずじまいだった上に、自分はいったい何をしてしまったのだろうか? まさに踏んだり蹴ったり。戸棚の奥にあるアレを使う日が来たかも知れない。
試験をパスできなかった以上、留年は免れないだろう。こんな騒ぎを起こしては、本当に退学もありえる。
深い絶望と、不甲斐ない自分に対する怒りが湧き起こる。ああ、なんで自分にはこの程度の力も無いのか。いっそ平民に生まれていれば、どれほど気楽に生きられただろう。
そう肩を落としたとき、彼女はその存在にやっと気がついた。

‐力が欲しいのか?‐

頭の中に声が響く。暗い闇の中から響いてくるような声がルイズの小さな魂の中に木霊していた。その声を聞いただけでビリビリと痺れるような錯覚すら覚える。
前の前の空間が何か想像もつかない力で捻じ曲げられ、土埃の中に巨大な影が浮かび上がっていた。

「へっ? あっ……その……」

上手く声が出ない。透明な相手に見つめられただけで、自分が一枚の紙になったようだ。裏も、表も、すべて見透かされている。氷で出来た杭を心臓に打ち込まれたように寒い。
心を圧倒的な恐怖だけが埋め尽くし、肉体が内側から氷結してしまいそうでガタガタと震えた。太古の人間が自然に対し畏怖を抱いたように、ルイズはこの存在に恐怖を感じていた。
自分の心は決まっているのだから、答えなければならない。残っていた意思の力をかき集め、どうにか声を出そうとしたのに、ほんの少しだけ首を動かすのがやっとだった。
絶対なる問いに対する返答。私は力を欲する、と。
そこでルイズの精神力は限界を向かえ、意識が外へと弾き飛ばされる。世界から重力が消えて、続いて全ての色が消えて目の前が真っ黒になった。
ミスタ・コルベールの意外にがっしりとした腕を感じながら、精神の糸が切れたルイズは崩れ落ちる。



この異常事態から遠く、少しは冷静に観察する余裕があった少女たちがいた。

「なんなのよ、あれは」

「……分からない。でも、邪悪」

微熱の名を持つキュルケすら、召喚されたモノが発する圧倒的な存在感で凍りついていた。杖を持つ手の照準が定まらないぐらい震えている。
召喚したばかりのサラマンダーも、子供とはいえ風龍ですら怯えきっているのだから無理もない。秘密ではあるが幽霊が大嫌いなタバサが気絶せずに済んでいるのは、余裕がなさ過ぎて思考がそこまで回らないからだった。
オールド・オスマンですら使い魔にするどころか、追い払う事さえできるか怪しい。彼がここにいない今、暴れられれば殺戮以外にならないだろう。

「……消える?」

だが予想に反して、そのおぞましいものは倒れこむルイズに合わせるようにして消えていく。辺りを支配していた異常なほどの迫力も霧散して、先ほどまでの事がすべて夢だったような錯覚すら覚えるほどだ。
逃げ遅れた生徒や使い魔たちで地獄の予想を呈していた広場も、皆一様に呆けた表情をしている。その視線のほとんどが気絶しているルイズに注がれていることを考えると、中々にシュールな光景とすら思えた。

「は、は、は……。消えた! やっぱりゼロだ!」

我に帰った彼らがまずやったことは、無様にうろたえた自らの失態の責任を押し付けることだった。倒れているルイズに向って「なんだ、幻覚か! ゼロだしな!」などの言葉が投げつけられる。
ルイズの努力を知っているだけに気に食わなかった。思わず杖を向けたキュルケだが、罵倒の輪は波紋のように広がって、あっという間に手がつけられなくなった。
広場のあちこちから「ゼロ」「こけおどし」「失敗」と言いたい放題だ。"ゼロ"のルイズが自分よりすごいものを召喚した可能性など、信じたくもないらしい。

キュルケにもその考えが全くない訳ではないが、微熱である自分が恐怖で立ち竦んだ、という事を誰かに擦り付けるほど安いプライドは持っていなかった。出てきた瞬間は確実に負けたと思ったのだから。
ルイズを貶める声が本格的に耳障りになってきて、ファイアーボールを乱射して黙らせてやろうか真剣に悩んでいると、横から親友であるタバサにつつかれた。
キュルケは大きくため息を吐き、仕方なく杖を懐にしまう。この騒ぎを火の魔法で鎮めようとしたら、広場が丸焼けになってしまうだろう。
罵声は傍から聞いていても耳が腐りそうな物に発展しているが、納めるべき引率者であるコルベールはルイズの右手を調べまわしていて役に立たない。あの人ってそういうフェチだったのかしら?
キュルケはもう一度溜息を吐いて、二人へと近寄った。


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