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虚無と狂信者-25


ハルケギニアにはオーク鬼という亜人が広範囲に生息する。
 二メイル以上の体躯に厚い脂肪。戦闘能力は手練れの平民の剣士五人に相当する。
「そいつらが学院にほど近い教会に生息し始めたのじゃが、
だれか退治にいってくれんかの……報酬は弾むぞ?」
 打ち捨てられた寺院。こういうことが起きぬよう取り潰しておくべきだったが、
今さら言ってもしょうがない。しかしオーク鬼というのはメイジであれども相当に危険な
相手であり、教師陣は誰も手を挙げない。そこで手を挙げたのはミス・ロングビルである。
 周りはざわつくが彼女の正体を知るオスマンは、問題無いとみた。
 相性の問題で彼女、土くれのフーケの作る巨大ゴーレムはオーク鬼であろうと安全に狩ることができるからだ。
 オークの攻撃は三十メイル級のゴーレムに乗る彼女に届くことは決してない。
 退陣する教師達、残されたのはオスマンとフーケだけとなった。
「……報酬の額は200エキューでどうじゃ」
「私には帰りを待つ二十人の兄弟達が……」
「………250」
「ありがとうございます」
 退出しようとする彼女を見送り、オスマンは使い魔であるネズミを呼び寄せる。
「……何?! ズボンじゃと! カーッ!! けしからん! けしからん!」

 報酬の額を弾んでもらったもののフーケの表情は冴えない。
 仕事の報酬は悪くないが、育ち盛りの孤児達を養うには少々役不足だ。
(せめて住宅費が安くなればねえ)
 問題なのは彼女の妹、ティファニアの所在が不明なこと。
 定期船に軍艦が接触し、事故。その後消息不明。
 八方手を尽くすもいまだ情報は掴めない。
 子どもたちが全員健在なのはいいことだが。
(ひょっとしたらもう……)
 頭を振ってその考えを否定する。
 とにかく今やるべきことは彼女の帰る場所を残しておくことだ。
 愛しい妹のために。


 それよりも目先のことである。寺院の場所は分かっているが、準備は万全でなくてはならない。
(誰かしら仲間が欲しいところだね)
 そう強力で無くても、相手の注意を分散させることができる仲間。ふらふらと中庭を歩くと彼が居た。
 黒い髪と黄色い肌の、異邦の少年。熱心に本を読んでいる。平賀才人。しかし思い直す。
 彼は自分の正体に気づいていない。自分が彼を襲ったことを。またあの時その場にいた彼らとはなるべく
コンタクトをとらないことにしていた。自分の正体、元盗賊の顔は知られてはならないのだ。
 そう思い、心当たりもないので一人でいこうとする。そのフーケと誰かがぶつかった。
「あ、すいませ……」
 目の前に居たのは、赤ずくめの吸血鬼、アーカード。

 思い起こされるのはラ・ロジェールでの一件。
 髪の毛を引っ張られ、銃口を突き付けられた。
 撃ち抜かれた足の痛みがフラッシュバックする。

 世間を騒がせた土くれのフーケとて、怖いものの一つくらいある。
 ましてや眼前にあるは恐怖の象徴とも呼べる存在。
 圧倒的な戦力差。
 アーカードは彼女の全てを知っているかのように、

 その口元を歪めた。

 途端に腰を抜かすフーケ。微動だにしないアーカード。何事かと駆け寄るサイト。
「ひ、ひい、ひいいい」
 平賀才人がこれまで見て来た彼の行動から、一つの結論にどうしても収束してしまう。
「ちょ、今度は何したんすか! アーカードさん!」
「いや、別に何も」
 主に女性の混乱によりもはや収拾がつかない。サイトの足に縋りつき、泣きながら首を振るのみだ。
 目の前にいる相手がアーカードならばそれもいたし方ないことであろう。
「あの、アーカードさん、ちょっとどっか行ってくれます?」
「わかったわかった」


 すがりつく女性をあやしながら、去っていくアーカードの背中を見送る。悪い気がしたが、まあ最強の吸血鬼がこの程度で傷付くわけないか、と思い直した。
「あ、あいつ行ったかい?」
「え、ええ行きましたよ」
 大きく息を吐く女性を見て、サイトがピンと来る。
「……もしかして……港町の?」
 その言葉に今度は驚愕するフーケ。
「い、いや、これは、あの」
 しかしサイトはポリポリと頭を掻きながらあっけらかんと口にする。
「……まあでも改心したんですよね?ここで働いてるってことは。じゃあいいですよ。
あとアーカードさんは戦闘時以外では話が分かる人ですからそんなに怖がらなくても大丈夫ですよ?それじゃ」
 そう言って去っていこうとする少年を呆けて見送りそうになる。
「ちょ、ちょっと待ってください」

 厨房でお茶をもらい、話を始める。サイトは戸惑いながら言う。
「別に言いふらしたりしませんよ?」
「いえ、そういうことでなく……」
 流石にこの少年を口封じで殺せばオスマンも黙っていないし、命の恩人を殺そうとは思わない。
 ただこの少年をマジマジと観察する。全くフーケに対して警戒していない。
 一応は戦ったフーケにである。己の力に自信があるという訳でもなさそうだ。
(こりゃ、甘ちゃんだね……)
 おそらくフーケが攻撃するなど本気で微塵も思っていないのだろう。
 しかし、それは置いておいてもこの少年の不死身の再生能力は十分戦力になる。
 そこで、己が言い渡された任務を説明する。
「オーク鬼というのは?」
 ハルケギニアでは割と知られているそれを知らないのは不審だったが説明する。
 その一体が手練の剣士五人に匹敵する戦力とあってその顔が険しくなる。
 やはり駄目かとフーケは退こうとした。しかし、才人は表情とは裏腹の言葉を口にする。
「良いですよ、手伝っても」
 あまりにあっ気なく了承され、またもズッコケそうになる。今度は間抜けな風に。
「いや、ほら、学院には世話になってるし……。あのゴーレムだったら楽勝でしょ?」
 どうもこの少年の価値基準は自分とはかけ離れているな、とフーケは逆に彼を心配してしまった。


「はあ、妹さんを人質に……」
 シルフィードに乗りながら互いのことを話す。時折、フーケは木々の少ない、
ゴーレムの作れそうな場所を確認しつつ。
 フーケが訳あって少女と孤児達の世話をしていたこと。
 彼女らの存在をチラつかされ、脅迫されたこと。
 そんなことを話している。
「ええ、すいません…………」
「良いですよ!そんなことされたら仕方ないじゃないですか!」
 その少年のあっさりとした許しに驚きながらも、彼ならそれもありうるだろうと苦笑する。
「優しいですね。あなた」
 ふと自分の妹を思い出す。この少年もあの娘も似たようなもの。
 周りを不安にさせるほど優しくて、真っ直ぐな人なのだ。

 件の教会まであと少しという所で、フーケは異変に気がついた。
 途中で確認した平地にフライで降り立ち、ゴーレムが足元から沸き起こり始める。
「敵?!」
 シルフィードを下降させ、地面に降り立つ。銃弾を装填し、サイトは拳銃を構える。
 彼の前に現れたのはオークの群れ。
 真っ直ぐ突撃する彼らの急所を無理やり冷静にした頭脳で撃ち抜いて行く。
 この大陸ではありえない射程と威力の拳銃の攻撃はオーク鬼の想定の外の虐殺を行った。
 だが、打ちもらした数匹がサイトに迫る。
 その巨体からなる圧力は吸血鬼に勝るとも劣らない。
 まして彼は再生能力以外の能力は年頃の少年とさして変わらない。
 それでもこれまでの戦いで身につけた胆力でオーク鬼の喉元に銃剣を突く。
 しかし、人間など遥かに超えた生命力でオーク鬼は踏みとどまり、棍棒での必殺の打撃をお見舞いする。
 脳天に食らえばいかな再生者とて死に至るだろう衝撃を、サイトは転がって交わす。
 不安定な態勢となった少年に、続けざまの追撃が迫る。かわせない。

「マズ…」
 視界に棍棒が迫る。サイトはそれでも、例え防げないとしても銃剣を握りしめ、それを弾こうとした。


 突然、視界から棍棒が消えうせた。
 その衝撃はもたらされることはなく、オーク鬼は宙に浮いた。
 フーケの創りだした全長三十メイルのゴーレムは冗談のようにオーク鬼の巨体を片手で持つ。
 そしてその手の中で短い断末魔が聞こえたと思うと、赤い液体が染み出した。
 辺りを見ると残りのオーク鬼も残らず圧死していた。あまりの凄惨さに目を背けそうになるが、
 それでも彼は目を逸らさずに十字をきった。

 これが己の選んだ結果だから。

 フーケのゴーレムの上にサイトものせてもらった。すぐ近くなのと、これを一旦解除し、
再構成するよりも持って行ったほうが消費する精神力は少なくてすむからだ。
「あのオーク鬼、何か変だったねえ。」
 まるで何かに追われているようだった。どういうことかと思案に暮れる。
 しかしそれより、何故かバツが悪そうな少年の方が心配だった。
「どうしたい、沈み込んで」
 少年は溜息を吐きながら答える。
「いや、だって……敵とはいえ、殺したんだから、ちょっと気分が悪くなってるだけですよ」
 フーケは嘆息する。この少年はまだ殺すことに慣れていないのだろう。当たり前だ。
 ただの少年なのだから。この齢で死に慣れるなどあってはならない。
 そんな子どもは悲しすぎる。
 そしてふと思う。この少年はそういう普通の少年なのにあの化け物から私を助けてくれたのだ。
 そう考えると、一層有り難く思える。そして同時に気になりもした。
「……あんた、どうしてあの時あたしを助けたんだい?」
 その言葉にサイトはうーんと唸る。
「いや、だって目の前で人が殺されそうだったら助けるでしょう。そりゃ。」
「……敵でもかい? 私はあんた達を殺そうとしたんだよ?」
「いや、だってあの時はあれで勝負はついていた訳で……それに脅迫されて……」
 フーケは口をもごもごさせる彼を見て一瞬呆けた後、大笑いした。


 突然笑われたことに、サイトは顔を赤くする。
「な、なんで笑うんですか!?」
「あ、はっはっは悪い悪い」
 フーケはサイトの肩を何度も叩いた。目をこすってしみじみと言う。
「あんた……ほんとイイ奴だね」
「………だから何なんですか?ソレ………」
 そしてサイトはふと気づく。
「それが素なんですか?ミス・ロングビル」
「……」
 彼女はしまった、と心の中で呟いた。まあこの少年ならいいだろう。
「……ああ、素だよ?ネコでも被んなきゃ盗賊何てやってらんないよ」
 そしてサイトの頭を撫でてやる。やはりどこか、自分の妹に似ている。
「マチルダ」
「?」
「私の本名さ、誰もいないときはそう言いな」
「へえ、マチルダ姉さま!」
「ん? 何か言ったかい?」
「いえ! 何も!」
 才人はシルフィードに向け人差し指を立て、口を抑えた。

 才人は先ほどの戦闘を思い起こし、頭を悩ませる。
 オーク鬼に対し、自分は間違いなく死にかけた。
 オーク鬼は確かに強力な亜人である。しかし、例えばメイジからすれば決して強敵ではない。
 おそらくドッドメイジであれど数体程度なら倒せるはずだ。
 しかし、ドッドどころかトライアングルクラスであれ倒せる程の自分でも倒せなかった。
 これが相性というものだろう。
 才人の持つ武器はあくまで対人のもの。そして彼の不死性も相まって、メイジや人間との戦闘で
あれば相当クラスの使い手でも何とか倒せる。
 ただし、そのメイジが倒せるであろう人外の敵を、自身が倒せるかと言えば答えは違う。
 例えばドラゴンを倒せるかと聞かれれば、首を横に振るしかない。
(その辺りのことも神父に聞くか)
 最近めっきり姿を見せぬ彼を思った。


 教会に着き、見えたもの。首を刎ねられたオーク鬼たちの死体の山。
 才人とマチルダは警戒する。明らかに何かがいる。
 ゴーレムは塀を踏み越え、教会の敷地の中に入って行く。そこで繰り広げられていた光景。
 オーク鬼の群れが、コートを着た男の放つ弾幕のような銃剣の群れによって押しやられる。
 肉の塊の持つ質量よりも勝る銃剣の群れの衝撃が、生命を生命だったものに容赦なく変えていく。
 それでも突進してくる亜人に、男はその首を順番に落とすことで対処していく。
 後ろから棍棒が振りかぶられる。
 その必殺の衝撃を、今居た所より一歩踏み出すだけで受けきり、そのまま逆手で銃剣を脳天に突き立てる。
 その隙を窺っていた一際大きいオーク鬼が唐竹にその男に棍棒を叩きこもうとする。

 しかし、それよりも速く、男は二本の銃剣を両手に持ち、全く同じ動作で上から叩き斬った。

 肩から足元まで、オークの胴体が三つの肉片に分けられた。
 3メートル近い豚の怪物をである。
 呆気にとられるマチルダ。しかし、サイトはその人物を知っている。
 手を振ってその名を叫ぶ。
「アンデルセン神父―! 何やってるんですかー?」
 男はゴーレムの上に立つ少年に気づいた。
「サイト。どうしたんだ? お前」
 先程までの命のやり取りがまるで感じられない程の穏やかな受け答えだ。
 そして自身と彼を比べ、彼との差は一朝一夕では埋まらないものだと改めて理解した。


 アンデルセンの話では、教会の建造をしようとした彼はちょうどいい土地を探していたが、丁度打ち捨てられた教会が学院の近くにあったため、ここに建てようとしたのだ。
 ルイズの使い魔もせねばならない彼には、この土地は打って付けだった。
「後は改築するだけですね」
 法に則ってキリスト教の教会へと改築せねばならない。
「それでは私も手伝いますわ。土メイジですから、お役に立てますわ」
 ロングビルの申し出にアンデルセンも笑顔で答える。
「それはありがたい……あなたに神の加護を」
「いえいえ、あなたとこの少年には手伝ってもらいましたから」
 サイトは恥ずかしげに頭を掻く。その頭をアンデルセンはぶっきら棒に撫でてやった。
「子供扱いしないでください!」
「ああ、悪い悪い」
 その姿は傍から見ると父親と小学生である。アンデルセンが大きすぎるからだが。

 一方その頃。
 キュルケが授業から戻ると、見知らぬ髭の男が居てびっくりした。しかしすぐにその正体に気づく。
「アーカード!?どうしたのその格好?」
 その姿に違わぬ野太い声で答える。
「どうも怖がられるようだからイメチェンをな……」
「……はあ?」
「アーカードか髭カードかロリカードかショタカードかどれがいいだろうか?」
 この吸血鬼、存外に傷つき安かった。

 数日後。
 オーク鬼の死肉と血で溢れ返った敷地はきれいに片付けられ、埃は全て掃除された。
 そして壊れた壁と割れたガラスはマチルダの手でしっかりとした石壁とステンドグラスに変えられた。
 まさに劇的ビフォーアフターである。
 サイトは感動の面持ちで辺りを見回す。
 心が洗われる感じがする。


ふと誰かがやって来る。キュルケにタバサ、そしてその使い魔達。
「一体どうしたんすか?隊長」
「ん?お届物だよ。」
そして何かの束を取り出す。見憶えがある。
「…………銃剣?」
それにしても多い、五十本以上あるのではないか。
神父はそれを十字架の下に運び何事かする。すると、そこに印が刻まれる。
「これでよし」
「んじゃ、俺らのも頼むぜ。」
持ち込まれたのは、弾薬の束。
「ふん………異教徒でも約束は守る」
「いや、神父!俺はカトリックだよ!」
「う、裏切りものー!」
「裏切ったんじゃねえ! 表切ったんだよー!」
媚びへつらうベルナドットにセラスが教会の外で文句を言う。
「まあいい、頼むぞ宿敵」
「ふん」
険悪な雰囲気だが、それでも淡々と彼らの持ち込んだ弾薬に祝福が施されていく。
「パーフェクトだ、宿敵」
弾薬を運び出すアーカード、教会に普通に入ってこれる吸血鬼に二人は改めて戦慄する。
「ワルサー用の銀弾頼む」
「私の爆裂徹鋼焼夷弾も」
「待て待て、まずはシエスタさんの日本刀をせねば」
その和気藹々と殺す用の道具を弄ぶ彼らを見ながらマチルダはサイトに訊ねる。
「………あんたらの宗派の教会ってどこもこんな血生臭いの?」
「あの人達だけです!!」


アンデルセンはサイトの持つピストルの弾薬を投げて渡す。
「それで……吸血鬼と戦うのか?」
サイトははにかんだ笑みを浮かべる。申し訳なさそうな、しかし目に譲れないという光を込めて。
「その時が来たら」
「そうか」
アンデルセンはコートを翻し外に出る。サイトは笑ってその後ろを付いて行く。
「あれ? 神父。サイト。あの銃剣はどこやったんだよ?」
「? しまったが」
「ええ」
もはや何も言うまいとベルナドットは思った。

その時、キュルケが彼達を呼び止めた。
「ちょっと! あなた自分で頼んどいて忘れるんじゃないわよ!」
そう言うと彼女は鞄からケースを取り出した。
「いつあいつらが襲って来るかわからないからなるべく早くって言ったのあなたでしょ!」
アンデルセンが頭を掻く。平時の彼には結構鈍重な所がある。
「おお。できたのですか?」
「ええ! 今朝方うちの竜騎士が持って来てくれたわ。それよりどうぞ」

開かれたケースに入っていたのは四本の銃剣。
しかし、それは普段彼の用いる黒く輝く無骨なそれとは違い、白くきれいに輝いていた。
「これ……銀か?」
「ええ! そうよ! といってもただ銀で出来てるってだけじゃないわ。
何てったって家のお抱えの中でも最高の鍛冶師に鍛えさせ、おまけにスクウェアメイジによる
固定化をかけ、アーカードのカズールでも傷一つつかない逸品よ!
……高いんだから投げ捨てたりしないでよね!」
アンデルセンは自身の銃剣と比べてみる。
「素晴らしい……。馴染みますね……。
パーフェクトです。ミス・ツェルプストー」


 彼はその銃剣で殺しうる敵を想像する。
「これならば大尉ですら殺してのけるでしょう」
 人狼にはただの祝福済みの銃剣では役不足。
 銀を心臓に打ち込まねば、彼らは死なないのだ。

「それはそうと神父とキュルケって見ない間に仲好く……。
というか神父が殺気を当て無くなりましたけど何かあったんですか」
 その言葉に二人の表情が凍り、アーカードがにやつき始めた。
「いや、意外にもしっかりした人だというか……」
「ええそうよね? ア ン デ ル セ ン ?」
 何故かアーカードが笑いを堪えるように口元を抑え、ファイアーボールが宙を舞った。
「ま、まあともかくとして……ほら、サイト」
「え? 俺にも……」
 四本の内、二本を手渡される。
 それを彼はじっと見つめる。

これを渡されたということはどういうことか。
才人は理解した。
己を戦力として認識してくれた。

その重みは今まで貰ったどんな物より、名誉より、
彼にとっては嬉しかった。

「なあ、アンデルセン。約束通り、ここに子ども達を住ましてもいいかい?」
「ああ、別に構いませんよ?」
事情を話し、すっかり打ち解けたマチルダは砕けた口調で彼に頼む。
ここならばただで子ども達を養えるし、何より、ティファニアが帰って来た時やりやすいからだ。
なお、言うまでも無いことだが、彼らにマッドに布教する神父と、
それを阻止せんとするマチルダ及び才人の壮絶な戦いが日夜繰り広げられることになる。


 アルビオン空軍工廠の町ロサイスにて、黙々と艦隊の整備が行われていた。
「なあ、あの砲台は凄いな」
「ああ、トリステインの砲台の一・五倍の射程があるそうだ」
「うん、でもさ」
「うん?」
「ありゃ何だ?」
 確かに奇妙な物だった。ハルケギニア最強と言えるレキシントン号。
 その船底にぶら下げられた、なんの変哲も無い、箱。
「ありゃあ、何に使うんだ?」
「それは私が乗り込むのですわ」
 後ろからいきなり声をかけられ、士官達は驚き仰け反る。
 そこにいたのは珍しい黒く長く美しい髪、愛らしいソバカス、丸眼鏡、そして巨大な
マスケット銃を担いだ女性だった。その妖艶な、しかし不気味な笑みに、彼らは思わず道をあける。
「さあ、いきますよ、地下水さん」
「子爵って言いな。魔弾さんよ」
 その隣には明らかに身分の高い貴族。
 さらにその後ろには見る者を凍て付かせる目をした大男が立っていた。

「何故吸血鬼になさらないの?」
「ああ、どうも吸血鬼になると魔法が使いにくくなるんだよな……死んでるからかな?」
「そう? まあ、やりやすいようにやるといいですわ」
 ワルドの体を乗っ取っている地下水は頭を掻く。
 確かに吸血鬼の身体能力は魅力的だが、今度の戦はおそらく竜に乗ることになる。
 ならば必要なのは純粋なパワー、魔力だ。
 それならばこれで充分だ。なにより、
(勝手に体を操って吸血鬼にします。ってのもなあ……)
 そこまでの悪逆はしないという点で、おそらくこの中の誰よりも人間に近いナイフである。

さらに言えば、ワルドの持つ魔力は今まで地下水が操ったどんな体よりも大きい魔力を備えている。
おそらく今の彼は大陸でも最強に近いメイジだろう。
しかし、そんな彼でも、マスケット銃を片手に揚々と歌いながら、
まるでピクニックに行くように楽しげに鉄火に赴く彼女。
そして、無表情な、しかし、闘志と殺意を完全に抑えきれていない大尉との間では霞んでいた。
「そうそう、ゾーリン・ブリッツ中尉もこちらに向かっているそうですよ」
まだ増えるのかと、地下水はありもしない胃を痛めるのだった。

「戦争だな」
「ええ、大戦争ですわ」
彼女は少女のように笑う、それはあどけない、ゆえに狂気であった。
対して地下水は事務的な、無感動なものだった。ゆえに酷薄であった。
そして大尉は、ただ喉を鳴らしただけだった。





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