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未来の大魔女候補2人-11



 きらびやかに彩られた会場に、華やかな音楽が流れる。
 時刻は既に夜。夜空には、赤と青の2つの月が昇り、学院を煌々と照らしていた。
 本塔の2階、アルヴィーズの食堂の上は大きなホールとなっており、そこで舞踏会は開かれていた。
 ダンスフロアでは、華やかな衣装に身を包んだ男女が優雅にステップを踏み、曲調合わせてゆったりと踊っている。
 豪華な料理が盛られたテーブルの周りで歓談に興じている者もいる。
 2階の天井は吹き抜けになっており、3階の貴賓席からはホールが一望できる造りになっていた。
 高い天井では、幾つものシャンデリアが眩いばかりに光を放ち、まさしく光の世界である。
 しかし、光があれば闇があるように、光が当たらない場所も当然ある。そして光が強ければ強い程、闇もまた濃くなるのが道理である。
 つまり、この舞踏会を待ち望んでいなかった者、いや、その存在自体をうとんでいる者も多分に存在していた。
 『踊った相手と結ばれる』そういった噂があるように、この舞踏会は、恋人やその予備軍のためにあるようなものだ。
 当然、その尻馬に乗り遅れた者、乗れなかった者は、非常に肩身の狭い思いをすることになる。
 そういうわけで、この舞踏会の存在を心から呪っている一団が、ホールの一角に陣取っていた。
 太っちょな少年を筆頭とした集団だ。それは、今夜の舞踏会の下準備に失敗してしまった者達である。
 彼らの周りの空気は重く澱み、近寄りがたい雰囲気をかもしている。
 それこそ、王女が来校してさえいなければ、あらゆる手段を用いて舞踏会を台無しにしようとしただろう。
 血走った眼で何かを力説している少年のそばでは、黒いパーティードレスのタバサが一心不乱に料理を相手取っていた。そばで行われている集会には、全くの興味がないようである。
 そこから少し離れたホールの片隅。カーテンの裏にも闇の住人がまた一人。

「ちくしょー! いっつもこんな旨いモン食いやがって! ブリミルなんてクソくらえだ!」




未来の大魔女候補2人 ~Judy & Louise~

第11話 『舞踏会と魔女2人』




 カーテンの裏に隠れて、パンを齧りながら悪態をついているのはサイトであった。
 その顔にはやさぐれた表情を浮かべ、背中を丸めて屈み込んでいる。足は踵を床に密着させて膝を広げ、その上には腕を乗せている。いわゆる不良座りだ。
 その姿勢のままパンを咥え、口の動きだけで頬張り、咀嚼する。

「ああ、軟らけぇなぁ。いっつも食ってるパンなんてカチンコチンなのに、こんなに美味いなんて詐欺くせぇ。
 でも、テリヤキバーガーが無いなんて、寂しいトコだよな。あの甘辛いソースとマヨネーズのコラボが、たまんねぇんだよなぁ……」

 死んだ魚のような眼で呟きながらカーテンの陰からホールを覗き見る。
 目に映るのは、別世界ともいえる豪華絢爛な空間であった。
 それに比べて、カーテンの裏は冷気と湿気の溜まり場所でヒンヤリジメジメとしている。
 現在の状況を再認識したサイトは、まるで自分が鼠か何かになった様な気がして、幾度目かの深いため息を吐いた。

「テリヤキバッカってのは、なんなんだよ坊主?」

 話しかけるのは、サイトに背負われた大剣、デルフリンガーである。
 デルフリンガーは完全に鞘には収まってはおらず、僅かに鈍色の刀身を覗かせていた。言葉を発する度に鍔元の金具が動いていて、まるで口のようだ。

「故郷の料理だよ。パンとパンの間に野菜と肉を挟んだヤツだよ。
 ああ、もう随分と食ってねぇなぁ……
 俺、何してんだろ?」
「故郷には、帰れねぇのかい?」

 おどけた様な声でデルフリンガーは訊ねる。そんなに故郷に帰りたいのなら、帰ればいいと言いたげな口調だ。
 その問いに、サイトは力なく首を横に振る。そして、頬杖をつくと幾分投げやりな口調で話し始めた。


「無理。一体全体どうやって帰っていいのか分かんないね。
 とりあえず、今は金貯めてんの」
「金を貯めれば帰れるのかい?」
「さあ? わかんね。
 でも今は、どうやって帰りゃいいのかいいのか分かんねぇし、借りを返さなくちゃならないのも2人いるしな」
「借り? 1人は貴族の娘っ子だとして、もう1人は誰だい?」

 デルフリンガーが思い浮かべるのは、何かにつけて短気なピンク髪の少女である。
 彼女に借金をしているとデルフリンガーは聞いているが、もう1人には心当たりがない。
 目も合わさず、床を見つめながらサイトは答える。

「ロングビルの姐御だよ。
 こっちに来て暫く面倒みてくれてたし、この仕事を紹介してくれたのも姐御だからな。何か恩返しをしたいんだよ」
「へぇ、義理堅いこって。そういう奴、嫌いじゃないぜ」

 見直したというように、デルフリンガーは感心した声でサイトに共感する。
 率直な意見を受けて、サイトはむず痒く感じる。
 ドジだのノロマだのと常日頃から叱責されるのサイトにとって、褒められる事など随分と久しぶりであり、返答に窮してしまう。
 暫くの無言の後、ちょろまかしてきたパンを懐から取り出すと、一息に頬張る。どうやら照れ隠しのようだ。
 その一連の行動を見たデルフリンガーは、音も立てずに小さく鍔元の金具を震わせた。

「で、何時までこんな所に隠れてる気だい?」
「…………」

 モゴモゴと口を動かしながら逡巡する。
 咀嚼し、嚥下するまでどちらも言葉を発さなかった。談笑の声と優美なメロディーがその空白を埋める。
 そして、漸くパンを全て飲み込んだサイトが口を開いた。

「とりあえず、あそこにあるご馳走をどうやったら手に入れられるかを考えるのが先決だと思わないか?」
「思わんねぇ。まだサボリを続けんのかい?」

 サイトはふざけているわけではなく、いたって真面目な顔だ。
 が、デルフリンガーは呆れたと言わんばかりに落胆した声で返す。先程の言葉を撤回したいような口調であった。
 流石にバツが悪いと感じたらしく、サイトは不貞腐れた顔を背けて吐き捨てる様に呟く。

「……警備なんて、ちゃんちゃらおかしくてやってらんねぇよ」
「まあ、お城の腕っこきが警備についてるし、坊主に出番があるようには思えねぇな」
「だろ? だったら、とことんサボってやるさ」

 学院の内外には、城から来た兵士が警備についていた。
 特に、舞踏会が行われている本塔には魔法衛士隊が直々に警備についており、本来の警備員達は隅に追いやられている。
 いつもより強固な警備態勢が敷かれている場所に賊が入り込むと思えず、よしんば入り込んだとしても、すぐに取り押さえられるのは目に見えていた。
 そんなわけだから、やる気が起きるわけもなく、サイトは与えられた役割をサボタージュしたのであった。
 そして、職務を放棄したのがばれるといけないのと、舞踏会で振る舞われるご馳走を目当てにしてこんな場所に隠れているのであった。
 しかし、ただの下働きが堂々と会場に入れるはずもなく、手に入れられたのは、ホールに運び込まれる寸前のパンが2つ3つだけである。
 それでも、普段の彼が口に出来る物とは雲泥の差があった。
 ならば、テーブルに並べられている料理の数々を味わいたいと考えるのも、むべなるかなといったところだ。
 だが、料理を取るにはテーブルまで近づかなければならない。テーブルまで近づくには、カーテンから姿を現さなければならず、それは、あまりにも危険な試みである。
 頭を捻って考えても、サイトには姿を隠したままご馳走にありつけるアイデアは閃かなかった。

「こんな所で何してるの?」

 不意に、頭の上から声をかけられ、サイトは顔を挙げる。
 カーテンの隙間から差し込んでいた僅かな光は、小さな影で遮られていた。目を細めて光量を調節する。
 カーテンを引いて覗きこんで来ている人影は、ジュディであった。
 フリルがふんだんにあしらわれた淡いピンクのドレスに身を包み、金の髪は小奇麗に梳かされている。
 そして、珍しい物を見つけた様な色を宿したハシバミ色の大きな瞳で、サイトを覗きこんでいた。

「サイト君もデルフ君もこんな所でどうしたの? かくれんぼ?」
「か、かくれんぼじゃないよ」


 無邪気な顔で訊ねてくるジュディに、サイトはどうやって言い訳をしようか迷い、口ごもり忙しなく辺りを見回す。
 それは、忍び込んでいるのがばれるのを恐れているがためであった。
 だが、そんな事情など知らないジュディは、構わずに話し掛ける。

「どうしたの、キョロキョロして? やっぱり、かくれんぼ?」
「えーと、違うんだけど…… まあ、それで良いや。
 だから、少し離れて。んでもって、あまりこっち見ないでくれたら嬉しい」
「うん分かった。
 それよりもどう?」

 ジュディは少し離れると、笑顔で訊ねてくる。
 だが、サイトは質問の意味が理解できずに、頭の中を疑問符だらけにして聞き返す。

「? なにが?」
「もうっ、鈍感ね! そんなんじゃ、レディにもてないよ!」

 サイトは本当に何も分かっていないらしく、ただただ聞き返す。
 その態度にジュディはプリプリと怒るが、サイトは首を捻るばかりだ。

「??」
「お嬢ちゃんは、ドレスが似合ってるかどうか訊いてるんじゃあないかい?」
「あっ! そっか」

 未だに疑問符を浮かべているサイトに、デルフリンガーが助け船を出す。その言葉にジュディは深く頷き、スカートの裾をつまんで持ち上げてみせる。
 漸く合点がいったサイトは、ポンと両手を打ち合わせた。その仕草を見て、デルフリンガーは小さく嘆息した。人よりも機微に長けた剣である。
 気を取り直し、ジュディは先程のやり取りをやり直す。

「どう? 似合ってる?」
「う、うん。似合ってる。可愛いよ」

 軽やかにその場で一回転してポーズをきめてみせるジュディに、サイトは慌てて頷いて褒め言葉をかける。
 それで機嫌を直したらしく、ジュディは満面の笑顔を浮かべた。 

「でしょ? 学院長先生が用意してくれたんだ。あと、髪とかはロングビル先生が整えてくれたの」
「へぇ、姐御がねぇ…… そういや、子供の世話は慣れたものなのかな?」

 一瞬、想像がつかないとも思ったが、サイトはロングビルと出会った時の事を思い出し、なるほどと納得する。
 ああ見えて義理や人情に厚い所もあり、家族を、特に妹を大事に想っている事をサイトは思い出した。
 それを知っていれば、ジュディに対する態度も、そうあり得ない事ではないと思える。

「それで、どうしてこんな所に隠れてるの?」
「別に好きで隠れてるわけじゃないけどね……」
「でも、此処にデルフ君を持ちこんで大丈夫なの? 怒られなかった?」

 ジュディは、サイトがデルフリンガーを背負っているのを見咎める。
 そんな事を聞かれるとは思ってもいなかったサイトは驚き、慌てて経緯の説明をする。

「えっ? いや、今日は警備員なんだ。
 ほら、王女様が来るからってんで警備を強化するために駆り出されたんだよ。剣を持ってるからってね」
「警備員? こんな所にいて大丈夫なの?」
「ホントは大丈夫じゃないんだけど大丈夫だろ。
 警備なんて、城の奴らに任せといた方が安全で確実だって。魔法衛士隊とか言うのに任せときゃいいの。
 あの髭、なぁーにが『本塔の警備は我らが受け持つ、せいぜい足を引っ張らないでくれたまえよ。はっはっは』だ。けっ!」

 サイトは厭味ったらしい声で誰かの物真似をする。恐らくは、件の魔法衛士隊の誰かの真似なのだろう。
 憎々しげな顔のまま、サイトは陰口をたたくが、デルフリンガーがそれを遮る


「それで拗ねちまってこんな所に隠れてんだよ、坊主は。情けねぇよなぁ?」
「拗ねてなんかねぇ!」
「それが拗ねてるってぇいうんだよ。まったく……」

 サイトはむきになって否定するが、デルフリンガーにあっさりと切り捨てられる。こういう切れ味だけは抜群だ。
 ぐうの音も出ないサイトは、これはいけないと思い、話題をそらすためにジュディに訊ね返す。

「っと。それはともかく、ジュディはなにしてんの? 舞踏会なんだから、誰かと踊ったりはしねぇの?」
「ううん、見てるだけだよ。それに、なんだか圧倒されて、ココにいていいのかなって思っちゃって居づらいの」
「ああ、なんだか分かるなぁ。綺麗で豪華過ぎて、なんだか場違いな気になるんだよね」
「うん、そうなの。だから一緒にお話ししましょ?」

 場の空気に馴染めないというジュディにサイトは親近感を覚える。
 いままで身構えていたのが馬鹿馬鹿しくなり、体から無駄な力が抜けていく。

『ぐぅううぅ~…ぅぅっ……』

 気持ちが軽くなったせいか、空気が押しつぶされるような音がサイトの腹部から響いた。
 サイトは赤くなって眼を逸らし、ジュディは声を上げずにクスクスと笑う。

「お腹空いてるの?」
「いや…… うん、まあ……」
「何か取って来てあげようか?」
「マジで!?」
「坊主…… 俺ぁ恥ずかしいよ……」

 願ってもない申し出に、サイトはすぐさま飛びつく。
 それを見ていたデルフリンガーは、忸怩たる思いを禁じえなかった。恥ずかしいやら情けないやらで、それっきり黙り込んでしまう。

「じゃあ、何がいい?」
「んじゃあ、肉がいいな。肉汁が滴ったヤツ。

 ……ぅん?」

 恥も外聞も気にしていないサイトであったが、ホールの雰囲気が変わったことに気がつき、カーテンから顔を出す。
 ホールに満ちていた穏やかな演奏は何時の間にか止んでいた。
 人々の視線は入口、開け放たれた壮麗な扉の奥に集まっていた。小さなざわめきが走り、歓談の声が一時止む。

「ヴァリエール公爵家が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおなーりぃーーっ!」

 門番を務めている衛士が声を張り上げると、ルイズが姿を現した。
 その姿を見て、サイトは息を飲む。
 バレッタで纏められた薄桃の髪、ホワイトのパーティードレスに包まれた慎ましやかな肢体と純白の長手袋に覆われた白魚のような腕。
 ドレスの胸元は大胆に開き、小さな顔には薄く化粧が施されている。
 それらの要素と持前の高貴な美貌が相まって、ルイズは熟練の職人の手によって磨き上げられた宝石のような輝きを湛えていた。
 そのルイズの姿からは、普段の尖がった雰囲気は鳴りを潜めており、まさに清楚な淑女のそれであった。
 ジュディは感嘆のため息を漏らし、大きな瞳をさらに大きくして、憧れの眼差しで見つめている。

「わぁ…… 綺麗だね」
「あ、あぁ…… 馬子にも衣装ってやつ、だな……」

 見とれていた事に気がついたサイトは、顔を振って自分の内に生じた感情を否定する。
 ルイズの登場を皮切りに、楽士たちは流麗な音楽を奏で始めた。
 いままでルイズの魅力に気がついていなかった男たちは、こぞってダンスに誘おうと彼女の周囲に群がっている。その中には、暗黒集会を開いていた太めの少年の姿もある。
 ルイズは群がる男どもを振り切りると、踊る男女の間を流れるようにすり抜け、階段を上っていった。


「それってどういう意味?」
「……よく似合ってるっていう意味だよ」
「素直じゃないねぇ……」

 でたらめを教えるサイトにデルフリンガーは嘆息する。

「そっかぁ。
 言ってあげたら喜んでくれるかなぁ?」
「やめときな、お嬢ちゃん」

 でたらめを真に受けるジュディをデルフリンガーは引き留めるのであった。



 ◆◇◆



 夜は深まり、華やかな舞踏会も既に終わりを告げた。
 学院は舞踏会があった事など嘘だったかの様に静かである。静かに吹く夜風は冷たく、舞踏会の余韻である熱を吹き飛ばしていく様だ。
 2つの月は陰り、穏やかな闇に包まれた魔法学院の女子寮に、ルイズとジュディは帰っていた。
 2人はベッドの上に座りこんでいる。
 クッションを両手で抱きかかえたジュディは、興奮したように舞踏会での出来事を余すことなく話している。
 それに対し、ルイズは頷いてはいるものの、時折、思考の空白が生まれている様子だ。

「でね、サイト君たら結局見つかっちゃって、窓から飛び降りたの。
 しかも、2階から飛び降りたのにピンピンしてて、わたしビックリしちゃったぁ」
「そう……」
「もぅ~ さっきから『うん』とか『そう』ばっかりじゃない!」
「……そう」

 どんなに一生懸命、楽しそうに話してもルイズは生返事を返すばかりで、張り合いというモノが感じられず、ジュディは嘆息を漏らす。
 そして、壁に預けていた背中を起こすと、ルイズの隣に移動する。

「どうしたの? 昼も何だかボーッとしてたみたいだけど、何かあったの?」
「えっ? うん…… 何でも無いのよ。だから、心配しなくても大丈夫よ!」

 ルイズは慌てて顔をあげると、両手と顔をプルプルと左右に振って否定する。

「はぁ……」
「ほら! また溜息」

 否定するのだが、また少し経つと再び溜息が洩れる。

「嘘っ! してないわよ」
「してたよ。自分じゃ気がついてないだけだよぉ。
 本当に今日は変だよ? なにか悩み事でもあるの?」

 それを見咎めたジュディに注意されるが、ルイズは頑なに否定する。
 しかし、ジュディも譲らず問い詰める。

「はぁ…… 駄目ね私。ジュディを心配させるなんて」

 ルイズはガックリと肩を落とすと、自己嫌悪を始める。


「ううん。気にしてないよ。悩み事があるなら聞いてあげるよ?」
「……そうね。1人で思い悩んでてもどうにもならないわよね。
 誰かに聞いてもらった方がいいのかしら?」
「わたしなら、いくらでも聞いてあげるよ?」
「ふふ…… ありがとう。
 じゃあ、話すわね。そうね、何処から話したものかしら……?」

 ジュディに解きほぐされ、ルイズは意地を張るのを諦めて素直に相談しようと決心した。
 ルイズは腕組みをして頭の中を整理し、ジュディはルイズが話し始めるのを正座をして待っている。
 不意に、静かになった部屋に乾いた音が響いた。誰かがルイズの部屋の扉を叩いているようだ。
 ノックの音は規則正しく、間を開けて2回、続けて短く3回叩かれる。

「お客さん?」
「このノックの仕方……
 まってジュディ、私が出るわ」

 ジュディが腰を上げようとするが、ルイズはそれを制止した。
 足を縺れさせながら扉に駆け寄ると、ドアノブを引いて訪問者の姿を確かめる。
 扉の先、薄暗い廊下に立っていたのは、黒いフードをすっぽりと被った人物であった。
 フードからは細い顎が覗き、体つきはふっくらとしている。それらの事から、少女だという事が見て取れる。
 ルイズは目を見開き、探るような仕草で少女をつぶさに観察した後、呆然と呟く。

「貴女は、もしかして……」

 少女はその先を片手で制する。そして、辺りの様子を窺った後、流れるような足取りで部屋へと侵入し、後ろ手で扉を閉めた。
 一息吐いた後、少女はフードと同じ色のマントの裾から杖を取り出すと、短くルーンを紡いで一振りした。
 振られた杖からは、輝く粒子が生まれ出て部屋中に広がり行く。

「デティクトマジック?」
「壁に耳あり私メアリーと言いますし、用心に越したことはありませんわ」

 使われた魔法を言い当てたルイズに、安全を確認した少女は悪戯っぽく微笑む。
 少女の声を聞いたルイズは、はっとした顔になった。
 慌ててジュディへと向き直る。そして、ベッドから枕を引っ掴むと、ジュディの両手にそれを押し付けた。

「ジュディ、悪いんだけど席を外してくれない?
 そうね…… 今夜はキュルケの部屋にでも泊まってほしいの」
「どうして?」
「今は理由を聞かないで。2人にさせて、お願い」
「むー…… しょうがないなぁ。後で説明してよね」

 渋々とジュディは承諾すると、枕を抱えたまま部屋の外へと出て行った。
 ルイズと少女は暫くの間見つめ合い、静寂が訪れる。
 その沈黙を破ったのは、少女の方であった。黒いフードを脱ぎ捨て、素顔を露わにする。
 少女が誰か確認したルイズは、慌てて膝をつくと、首を垂れた。

「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ」
「姫殿下!」

 フードの奥から現れた顔は、トリステイン王国王女アンリエッタ。その人であった。 



 ◆◇◆


 ジュディは階段をのぼっていた。
 壁には等間隔にランプが掛っており、揺らめく緋色の炎がボンヤリと廊下を照らしている。
 だが、その光は頼りなく、足元を照らすには十全ではない。
 ジュディは躓かないように、薄暗い階段を一歩一歩確かめながらゆっくりと上がっていく。
 向かう先はタバサの部屋だ。
 キュルケの部屋にも行ったのだが、何か理由があるらしく断られたのであった。
 ジュディは、キュルケとのやり取りを思い出しながら階段を上っていく。

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「ごめんね。今ちょっと立て込んでて、泊めてあげれないの。
 そうだわ。タバサに頼んでみたらどう? あの子なら、きっと泊めてくれるんじゃないかしら?」

 キュルケは顔だけをドアの隙間から出し、マントで体を隠すようにマントをピッタリと前で閉じている。
 言葉もそこそこにキュルケは部屋に引っ込んでしまった。
 閉じられた扉の向こう側から話し声が聞こえてくる。

「待たせたわねぇ…… ほら! ご褒美だよっ!」
「ひぃぅっ! ぁ、ありがとうございます……」

 何かが空を切る鋭い音とくぐもった男の声が僅かに耳に届いた。
 それの意味するところを完全に理解出来なかったジュディであったが、あれが大人の世界なのだろうかと漠然と思った。

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 大したトラブルもなく、ジュディは5階に辿り着いた。
 廊下の両脇には幾つもの扉が並び、それぞれにネームプレートが掛っている。
 ジュディは、ネームプレートのひとつひとつを確かめながら廊下を進んでいき、タバサの部屋を探し当てた。
 つま先立ちになり、少し背伸びをしてドアをノックをする。だが、いくら待っても反応が返ってこない。
 ジュディは首を傾げるが、再びノックをして呼びかける。

「タバサさん、居ないの?」

 やはり返事はない。
 ここがダメなのならば、あとはコルベールの研究室くらいしか、ジュディには思いつかない。ロングビルを頼ろうにも、教職員用の寮には行ったことがないのであった。
 どうしたものかと途方に暮れていると、唐突に扉が開かれた。片手に本を携えたタバサが姿を現す。どうやら、読書中だったようだ。
 読書の邪魔をされて不機嫌な様子もなく、何時もの調子で簡潔に問うてくる。

「……何か、用?」
「あっ、こんばんは、タバサさん。
 えっとね、ルイズさんのお部屋にお客さんが来てるから、今晩泊めてほしいの」
「…………」

 タバサは無言で頷き、部屋の奥へと引っ込んでいった。扉は開いたままだ。
 ジュディは、置いてけぼりにされて暫く立ち尽くす。
 やがて、部屋の奥からタバサが目配せをしたのに気がつくと、部屋に足を踏み入れ、静かに扉を閉めた。

「ありがとう、タバサさん。あと、突然お邪魔しちゃってゴメンナサイ」
「……問題、ない」

 一言だけ返すと、タバサは顔を覆い隠すように本を開いた。



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 今回の成長。

  ルイズは、肉の鎧L2を破棄してマハラジャL3のスキルパネルを習得しました。
  ジュディは、聞き耳L2を破棄しておしゃれL2のスキルパネルを習得しました。
  魔道板を読み解き、『ビルドアップ』を習得しました。


 第11話 -了-



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