あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第1話 約束は次元を超えて


 これで、全て終わりだ。
 あの時から続いてきたアイツとの因縁も、異世界同士が食い合うこの異常も。そして、仲間たちと過ごしてきたこの旅も。
 赤色灯とアラートの鳴り響く中、万感の叫びとともにジェネレーターの起爆スイッチに拳を叩き付けた。
 つい先ほど地上に帰した、大切な家族である少女のことが頭をよぎる。
 嘘つきになんかさせない―――――
 その誓いを守ることは、恐らくできないだろう。
 もちろん約束は守れるものなら守りたい。死にたくもないし、仲間達とももっと一緒に過ごしたい。なにより彼女と旅を続け、豊穣の地を見つけるというその夢を叶える手伝いをしたい。
 とは言え、この直後に起こる爆発から生還する術など、一つとして思いつきもしなかった。

 だが。

 ―――――お願い……ッ―――――

 こんな時に、こんな場所で、見知らぬ少女の声が聞こえた。
 泣きたい気持ちを隠しただ必死に呼びかける声。
 その呼び声と爆発の衝撃とともに、視界が輝きに包まれた。


   ◇◆◇


「えぇ~、これで全員ですかな?」
「いいえ、ミス・ヴァリエールがまだですわ。ミスタ・コルベール」
 ぐっ、ツェルプストーめ。何もあんな馬鹿にしたような言い方しなくてもいいじゃない。
 あぁ、勢いに任せてあんな啖呵切るんじゃなかったわ。昨夜も同じ後悔をしたけど。
 でも召喚の儀式を成功させなければ退学。どっちにしてもやらざるを得ないのには変わりは無いわ。どうせなら気合が入っていた方が、いい使い魔を召喚できるでしょ。
 人の輪の中に立つ。
 周囲から「何度やってもできるわけない」とか「また爆発するだけだ」とヒソヒソ声が聞こえる……がいつものことだ。
 もうそれにも少し慣れてしまったのが、自分でも嫌になる。

 ―――――お願い……ッ―――――

 知らず、杖を握る手に力が入る。
 一呼吸置いて気を落ち着け、そして詠うように語りかけるように詠唱する。
「世界の果てのどこかにいる、わたしの僕よ!神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ!」
 周りが馬鹿にしている気がするが、集中集中!
「わたしは心より求め、訴えるわ!我が導きに、答えなさいッ!」
 言葉とともに、杖を振り下ろす。

 一瞬の静寂。

 これは!と思った直後、いつものように爆発が起きてしまった。ううん、いつもより心なしか爆発が大きい気がする。
 周りからは「またかよ!?」とか「やっぱり爆発するのか!」と非難轟々。
 しかし、舞い上がった土煙の中に何かがいるのが見えた。
 土煙が段々と晴れていく。そこには……



 ゼロの使い魔 × Wild Arms XF
  約束は次元を超えて
   第1章「終わりから始まる、新たな物語」



「今の光は……?」
 爆発の物とは違う突然の輝きに思わず閉じた目を開いて見えた風景は、コックピットではなく抜けるような青空。
 少し体を起こし辺りを見渡すと、ファルガイアではめったに見られないほどに緑豊かな平原や森や山々、そして古めかしい建物。
 それと杖を持った少年少女。大人の姿も見えるがその姿はみな少し風変わりだ。
 統一感のある服装は何かしらの制服を思い起こさせるが、それと同時にどことなくスペルキャスターのクラスも彷彿とさせる。
「あんた誰?」
 問いかける声がする。彼らの中でも一番俺の近くにいる、ピンクがかったブロンドの少女からのようだ。整った風貌と少しだけきつく吊り上った瞳。年はクラリッサと同じくらいか、少し下か。
「俺は、フィアース。フィアース・アウィル」
「ふぅん、平民にしては気の利いた名前じゃない」
「ここはどこだ?俺はどうして生きている?」
 俺はロンバルディアの爆発に巻き込まれたはずだ。奇跡的に死ななかったにしても、無傷というのはおかしい。
 ふと見ると、目の前の少女が俺の言葉にイライラしているのが見て取れる。
「ルイズ!『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするんだ!」
 誰かの声とともに、笑いが巻き起こる。
「ちょ、ちょっと間違えただけよ!」
「間違えたってなんだよ!流石はゼロのルイズだ!」
 少女の慌てた反論にも、すぐに反論が飛んでくる。と同時に周囲の人々の笑いが爆笑に変わる。
「ミスタ・コルベール!」
 少女―――先ほどの野次からすると、ルイズ、というのが彼女の名か?―――が声をかけると、人ごみの中から少し年を取った男性が進み出てきた。
 大きな木の杖、長めの黒いローブ。こちらは宮廷魔術師のような格好だ。
「なんだね?ミス・ヴァリエール」
「あの!もう一度召喚をさせてください!」
 召喚、ということは、俺はこの少女に召喚されたのか。
 あの爆発の瞬間に辺りが輝いたのは、この少女の魔法の影響だったということだろうか。
 思考に沈む俺を余所に、二人の会話は続いていく。
「それはダメだ、ミス・ヴァリエール」
「どうしてですか!」
「それが決まりであり、伝統だからだ。召喚の儀で呼び出された『使い魔』によって属性を固定し、専門課程へと進む。これは神聖な儀式であり、例外は認められない」
 ふと辺りを見回してみると、少年少女は火トカゲやらカエルやらといった、なるほど使い魔という言葉にふさわしい生物とともにいるのが見て取れる。
「でも!平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」
 その言葉に、またも周囲で笑いが起こる。
「ミス・ヴァリエール、もう一度いいます。例外は認められない、やり直しは無しです」
 強い口調に、少女は肩を落とす。
「ですが」
 だが、彼の話はまだ終わっていないようだった。
「確かに前例のない事態ではあります。どうやら意思疎通には問題が無いようですし、一度彼と話し合うのもいいでしょう。この後の授業は免除としますが、コントラクト・サーヴァントが成功したら私のところまで来るように」
「……はい」
 不満そうな声ではあったが、少女は承諾の返事を返す。
「それでは、皆さんは教室に戻りましょう。ミス・ヴァリエールは、この後は自由行動とします」
 その声で周囲の人だかりが動き始める。中には嘲笑や悪口を隠さない輩もいたが。
 浮き上がり、空を飛んで建物へと戻っていく集団には驚いた。これがここの魔法の一端か。暴走後のカティナも宙に浮いた状態でいたが、人が浮くのを見ることなどめったにない。
 それを、悔しさを堪えながら唇を噛んだままうつむいてやり過ごす少女。
 その姿に、あの瞬間の必死な声が思い出される。
 間違いない、やはり俺は彼女によってこの世界に召喚されたようだ。
「あぁもう!なんであんたみたいな平民が呼び出されるのよ!?」
 周囲の目も無くなり、苛立ちが限界に達したか。こらえきれなくなった様子で声を荒げる。
「まぁ仕方ないわ。先生もああ言ってることだし。付いてきなさい。部屋に戻るわ」
 そういうと、少女は背を向けて勝手に歩き出した。
 手元には愛用のポールアームは見当たらない、もちろんロンバルディアも無い。
 あの瞬間、俺は身一つで呼び寄せられたらしい。装備していたガントレットといくつかのアイテムはちゃんと付いてきていたが。
 見知らぬ世界で武器もなく一人きりというこの状況は正直心もとない。俺はおとなしく彼女の後について行くことにした。

「で、あんた何?どこの平民?」
 部屋に着き椅子に腰を下ろしすなり、彼女は唐突に訊いてきた。
「その前に、お前の名前はルイズでいいのか?」
「平民が貴族にお前なんて言うもんじゃないわ。ホントに一体どこの田舎者よ!?でも、そうよ。ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール」
 貴族に平民か。どうやら社会的には、貴族が平民を統治する形式であるらしい。その二つにも明確な線引きがあるようだ。
「分かった、すまない」
「で?」
 三度目の問いかけ。いい加減イライラしているのがよく分かる。
「名前はさっき言ったな。俺はここではない別の世界……ファルガイアという世界からルイズに召喚されてきた」
「は?どこそれ?」
 む、異世界という概念が無いのか?
「世界というのは、一つだけではない。世界は並列的複数に存在し、通常であればそれぞれが独立した形を保って形成され、完結している。信じられないかもしれないが、俺はここではない世界の住人だった」
「証拠は?嘘を吐いているようには見えないけど、信用できる根拠が無いわね。そもそもサモン・サーヴァントはハルケギニアのどこかから動物を呼び寄せて使い魔にする魔法よ?」
 なるほど、確かに証拠無しでは信じられないか。何か証拠になりそうなものは。
 そうだ、ARMを見せるのが丁度いいだろう。
 俺は懐から、円盤のような形をしたソレを取り出し、見せる。
「何これ?」
「これはArtificial Reincarnate Medallion、通称ARM<アーム>という機械だ」
「機械?これが?」
 どうやらこの世界は、機械文明はほとんど発達していないようだ。ルイズの反応もそうだが、機械らしいものがほとんど見当たらなかったことからも推測できる。
「これにクラスを記録し、それを所有者に展開することでさまざまな戦闘方法を身につけることができる、一種の武器のようなものだ」
「てことは、何?それさえあればどんな武器でも使いこなせるようになるってこと?」
「勿論、所有していないクラスには対応しかねるが、まぁ大体はそういうことだ。剣や手斧での近接戦闘であればウォーヘッド、魔法戦ならスペルキャスターといった……」
「ちょっと待って!魔法!?あなた魔法が使えるの!?」
 今までのルイズからは少し違う、焦ったような声が紡がれる。
「魔法が使えるってことは、あなた貴族なの!?」
「ここでは、魔法が使える人間が貴族なのか?」
「そうよ。貴族は魔法をもってその精神となす。魔法によって平民にはできない仕事をこなし、また統治することが貴族の仕事よ」
 なるほど、機械文明が発達していないのはその辺に鍵がありそうだ。できることできないことがある限り、平民が貴族を脅かすことはできないだろう。
 だが、スペルキャスターのクラスというのは少し違う。
「ARMに記録されているのはあくまで戦闘方法でありその技術だけだ。それに、俺はこの世界の出身ではないからその貴族には当てはまらないのではないか?貴族とは血によって受け継がれるものだろう?」
「そう……そうよ、ね。ちょっと動転しちゃったわ。でも、まだ信用したわけじゃないからね」
「何故だ?」
「だってそれ、ARMだっけ?それ使って見せてもらってないもの。効果が実証できなければ、できの悪い作り話と変わらないわよ。そうじゃない?」
 確かに、もっともだ。
「ではARMを使うところを見せればいいのか」
「そうね。そうすればさっきあなたが言ったこと、とりあえず信じてあげる」
 さて、どうしたものか。クラスチェンジしても外見が変わるわけでもなし、使いましただけでは信じてくれないだろう。
「そうだな、ではどこか証明のできる場所へ移動したいのだが」
「何で?」
「クラスチェンジでは外見は変わらない。能力の変化を見せるには実演して見せるのが一番だろうが、エレメントを室内で使うのはよくないだろう」
「なるほどね。わかったわ、ついてきなさい」
 そういうと、ルイズは部屋を出る。
「とりあえず、その魔法を見せてみなさい。見た感じは平民のあなたが魔法を使えれば信じてあげるわ。武器なんかは使い慣れてそうだから判断できないし」
 そう言いながら、歩いてきたのは最初に俺が召喚された、召喚の儀式を行っていた平原だ。
「ここならいいでしょう」
「あぁ。では……アクセス!」
 ARMを握り締め、スペルキャスターのクラスを展開する。瞬間、周囲から光が集まり俺の体を覆う。見慣れたクラスチェンジの瞬間だ。
「何!?急に光が」
「これがクラスチェンジ、スペルキャスターのクラスを展開したところだ」
「ふ、ふぅん、本当に外見は変わらないのね。で、魔法は?」
「ではあの石に。ファイア!」
 術式を展開。と同時に、小石を中心として炎が勢いよく燃え上がる。
「ほ、他にも使えるの?」
「では、フリーズ!」
 今度は氷柱が立ち上がる。
「他にも土属性のクラッシュ、風属性のヴォルテックがあるが」
「わかった、わかったわ。なによそれ、杖も無しに、しかも四属性全て使えるなんて反則じゃない!」
 憤慨している様子のルイズに、どうしたものかと考える。
「だが多様性は無い。今見せた通り、攻撃にしか使えない術式だからな」
 納得はしてないだろうが、効果は実証して見せた。これでARMのことは信じてもらえるだろう。
「ね。もしかしてそのARMを使えば、誰でもそんなことができるの?」
「個人の脳波への調整が必要だから、これ自体を誰か別の人が使うことはできない。だがファルガイアではARMを購入さえすれば誰でも使用は可能だ。
 あとはクラスさえシェアリングしていれば……もっとも、今のスペルキャスターは基本クラスだから、ARMに初期状態で登録されてあるのだが」
 その説明に、なぜか落胆の色を隠せないルイズ。
「……?どうかしたのか?」
「な、何でも無いわよ。とりあえずそのARMの能力と、あなたが別の世界から来たって話、信じてあげるとするわ」
 あからさまに何かを隠しているのが分かる。が、詮索するのもよくないだろう。人には言えないことだってある。
「あと、その魔法は他の人には見せないようにしなさい」
「何故だ?」
「杖も使わずに魔法を使うなんて、メイジには不可能だからよ。魔物とか、ヘタをすればエルフと間違えられたり、そうじゃなくてもアカデミーでモルモットにされかねないわよ」
 それは流石に困るな。
「わかった、気をつける」
「じゃ、とりあえずわたしの部屋へ戻るわよ」

「では、今度はこちらから質問させて欲しい」
 部屋についてルイズが腰を下ろしたところで、今度は俺が切り出す。
「何?」
「この世界のことと、使い魔の仕事についてだ」
「わかったわ」
 ルイズは、ここがハルケギニア大陸のトリステイン王国であること、貴族と平民がいて魔法を扱い平民を統治するのが貴族であること。
 そしてここがその貴族の子女が集まって魔法とともに貴族としての振る舞いを勉強するトリステイン魔法学院であることを語った。
「他には国は無いのか?」
「もちろんあるわよ。始祖を祀る教会を司るロマリア、空に浮かぶ白の国アルビオン、軍事力も強い魔法大国ガリア、それに隣国の帝政ゲルマニア」
 ふむ。表情から見るに、最後のゲルマニアという国への言及に躊躇いがあったのは、個人的な感情か?
 それに、空に浮かぶ国というのは一体どういうことだ?まさか国土ごと浮いているわけではあるまい。大方、空軍が強い国といったところか。
「とりあえずこの国の周辺ではそのくらいね。他にも細々とした国もあるし、はるか東方にはロバ・アル・カリイエなんてのもあるって聞くけど」
「わかった。次は」
「使い魔の仕事ね」
 そう言って、ルイズは使い魔の役割について話し出した。
 曰く、主人の目や耳となり主人を助けること。曰く、主人に代わって秘薬やその材料を見つけてくること。曰く、その力を以って主人を守ること。
「まだ契約してないから、感覚の共有とかについては何も言えないから置いておくとして。秘薬とかのことって分かる?」
「む……そうだな、ここでどんなものが薬の原料となるのか知らないが、あまり期待しないでくれ。多少の知識はあっても、実際に採取できるかどうかについては疑問だ」
「でしょうね」
 はぁ、とため息一つ。
「まぁいいわ。人間の使い魔なんだから、それはあまり期待してなかったし……それに、護衛なら大して問題はなさそうだし。幻獣相手になるとさすがに心もとないけど」
「そうだな、確かに会った事の無いような相手ならどうなるかは分からないが、全力を尽くそう。ところで、もう一つだけ質問を付け加えさせてくれないか?」
「まだあるの?何よ?」
 ふと浮かんだ疑問。それは、
「使い魔の契約とは、いつからいつまでの効果なんだ?」
「契約してから、主人か使い魔が死ぬまでよ」
 死ぬまで?
「途中で契約を破棄することは?」
「不可能よ。前例も無いわ」
 それは困る。俺はクラリッサに、必ず戻ると約束をした。死んでしまったならともかく、生きている限りはその約束を果たすべく行動したい。
 難しいかもしれないが、説得してみるしかないか。
「ルイズ」
「何よ?」
 呼びかけに何かを感じたのか、不機嫌な受け答えが返ってくる。
「少し、話を聞いてくれないか」
「……言ってみなさい」
「まず、最初に礼を言っておく。俺はルイズに召喚されなければ間違いなく死ぬところだった。だから俺を召喚してくれたこと、生き長らえさせてくれたことには、本当に感謝してる。
 使い魔をやることだって引き受けるのも問題はない。俺のできる限りで、ルイズを守ろう」
 その言葉に、先ほどまでの不機嫌を吹き飛ばすような勢いで驚きの表情を浮かべるルイズ。
 だが、まだ続きがある。
「でもファルガイアには俺の帰りを信じて待っている家族がいるんだ。ファルガイアは自然が減少し荒野の広がる荒れた世界だが、そこに緑を取り戻す方法を探して今も旅を続けている、俺の大切な家族がいる。だから、いつかはファルガイアに帰りたい」
 その言葉に、複雑な表情を浮かべるルイズ。
「もちろん方法だって分からない。探したって見つかるかどうかも分からない。でも、彼女を嘘吐きにさせたくないんだ。だから、頼む」
 言葉とともに、頭を下げる。
 そのまま、一体どれだけ時間が過ぎただろう。
 沈黙は、ルイズのため息で破られた。
「はぁ、分かったわ、それでいい。わたしだって家族と死ぬまで離れ離れなんて嫌だもの。でも、使い魔の間はしっかりと仕事をこなしなさいよ?」
「あぁ、分かった」
 よかった、分かってくれたようだ。
「前例の無いことだし、帰る方法が見つかるかどうかも分からないわよ?」
「構わない。死なない限り、方法は探してみるつもりだ」
 その言葉に、俺の決意の固さを感じ取ったようだ。
 またため息を一つ。
「ほんとに、何でこんなやつがわたしの使い魔に召喚されちゃったのかしら。まぁ仕方ないわ。その代わり、しっかり働かないと承知しないんだから」
 そう言いながら、椅子から腰を上げ、俺の前まで歩いてくる。
 そして、立ち止まり、
「何だ?」
「ちょっと屈みなさい」
 屈む?まぁ、それくらいなら構わないが。
「こ、光栄に思いなさいよね。普通は貴族が平民にこんなことするなんて、絶対にありえないんだから」
 そう前置きして、杖を取り出して呪文を唱える。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
 そのまま、屈んだ俺に口づけをした。
 突然のことに硬直する。
 しばらくの後、ルイズが離れる。
 と、その時、左手に熱と激痛を感じた。
「ぐッ……ああああッ!こ、これはッ!?」
「使い魔のルーンが刻まれてるんだわ。少し我慢して」
 あまりの痛みと熱に、左手のガントレットを外す。
 そうしてしばらく、と思ったがそれほど時間は経っていなかったかもしれない。その痛みに耐えていると、スッと痛みが引いていくのを感じるとともに、見たことも無い紋様が左手の甲に刻まれているのが見えた。
「成功、のようね。期待はしてなかったけど、感覚の共有はやっぱりでてきないみたいだわ」
「……あぁ、そのようだな」
 これで、俺はルイズの使い魔になった、というわけか。
「さて、コルベール先生に報告と、あとは夕食ね。話し込んじゃったから、報告に行ったら丁度いい時間になりそうだわ」
 その言葉に窓を見ると、日が傾いた空が茜色に染まっていた。


   ◇◆◇


「コントラクト・サーヴァントは無事に成功したようですね、ミス・ヴァリエール」
 研究室に着き、契約の成功を告げフィアースの左手を見せると、コルベール先生は満足そうな笑顔でそう言った。
「しかしこれは珍しいルーンですね。少しメモを取ってもよいですかな?」
 訊かれたフィアースはわたしに視線を向ける。
 頷き返すと、彼はどうぞ、と左手を差し出した。
「ふむ……あいや、どうも」
 フィアースの左手のルーンをスケッチしながら、コルベール先生がわたしに話しかける。
「よい使い魔に恵まれましたな、ミス・ヴァリエール」
「どういうことですか?」
 その言葉の意味が分からず、私は思わず先生に訊ねた。
「おや、分かっていて返事をしたのでは無いようですね。彼は」
「フィアースです。フィアース・アウィル」
「それが彼の名前ですか。ではミスタ・アウィルは、私のルーンをスケッチさせて欲しいという依頼に対して、主人であるあなたに確認を求めたのですよ。そのあたりの機微はさすが人間といったところですか。違いますかな?」
 話を振られたフィアースは、目を閉じて答えない。が、その沈黙が肯定を示しているようにも見えた。
 もし先生の話が間違いでないなら、彼はわたしをちゃんと主人として立ててくれている。
 それは主従としての信頼の証。
 使い魔と主の関係としては当然のことではあるが、彼は普通の使い魔ではなく意思を持った人間である。その彼が契約して間もないわたしをちゃんと主人として見てくれたことに、ひとりでに頬が熱くなった。
「あ、ありがとうございます先生」
「なんのなんの。これから大変かもしれませんが頑張るのですよ、ミス・ヴァリエール」
「はい」
 思わず返事も少し元気なものになる。
「それでは、そろそろ夕食の時間ですね。食堂へ向かうといいでしょう」
「失礼します」
 そうして、わたしたちはコルベール先生の研究室を出た。

「そういえば、あんたの世界ではメイジが貴族ってわけじゃないのよね?」
 食堂へと向かう道すがら、ふと思いついた疑問をフィアースに投げかける。
「あぁ。だが貴族や王族が平民を統治しているのは同じだ」
 へぇ、そうなんだ。
「それってどうやって統治してるの?何か特別な力でもあるわけ?」
「そうだな。俺が召喚される前まで仲間と行動していた国では、代々の王女が姫巫女としての資質を持っていたらしい。守護獣……獣の形をした神様みたいなものか。それらと交感し、その能力を以って国を治めていたとか。
 他の国にはそういう話は無かったが、王家の血筋というもの自体が重要視されていたんだろうな」
「ふぅん。じゃぁ貴族は?」
「貴族も血筋によって受け継がれていた。ハルケギニアの様に魔法が使える、使えないと言った大きな違いがあるわけではないが、その代わりに権力によって自らを守り、あるいは民を統治していた」
「じゃぁ、叛乱なんて起こった時には大変ね。平民と大差がないんじゃ」
「そうだな。だがそのための権力ではあったのだろう。まぁ、俺も旅をする身だったし、もともとはファルガイアの人間でもないから詳しくは分からないが」
 ちょっと待って、今何か聞こえた。
「ファルガイアの人間じゃないって、それじゃあんたは何なのよ」
「俺はファルガイアではなくまた別の、エルゥボレアという世界で生まれたんだ。それからいろいろあってファルガイアに流れ着き、そこで家族を得た」
「ふぅん。まぁいいわ」
 あんまり聞いてるとこんがらがってきそうだわ。それに、今私の使い魔をやっていることとは関係の無い話でもあるし。
 と、話しながら歩いていると、アルヴィーズの食堂に着いてしまった。
「あ、忘れてた」
 フィアースの食事なんて、いきなり行っても準備されてないわよねぇ。
「どうした?」
「あんたの食事のこと。ここは貴族の食堂だから……そうね、メイドにでも言って準備してもらうわ」
 そう言ってから、手近にいたメイドに声をかける。
「はい、なんでしょうか」
 この辺りでは珍しい、黒髪と黒い瞳を持ったメイドだ。
「あなた、名前は?」
「はい、シエスタと申します」
「じゃ、シエスタ。彼に食事を出してあげて。わたしの使い魔なの」
「あ、は、はい。分かりました」
 一瞬の戸惑いの後に、了解の返事が返ってきた。
「じゃ、食事が終わったらここで落ち合いましょ」
「分かった」
「そ、それではミスタ、こちらへどうぞ」
 そういうと、シエスタはフィアースを案内していった。
 彼と別れたわたしはいつもの席に着き、いつも通りにお祈りを済ませ、食事を摂る。
 と、近くにツェルプストーが居た。またヤなやつが……
 案の定ちょっかいを出してくる。
「あらルイズ、使い魔はどうしたの?」
 ヤな笑みだ。
「突然で食事の準備が間に合わなくてね、メイドに別で準備してもらってるの。残念ね」
「何がよ?」
「男と見れば見境無しのあなたが、誘惑するチャンスが無くて」
「あら酷いわね。ちゃんと相手は選んでるわ」
 あれだけとっかえひっかえしといて、どこが選んでるですって?
「それに今後チャンスが無いわけでもないし。でもまぁ、あたしたちの幻覚じゃなかったのね。あなたもちゃんと使い魔を召喚できたんだ?」
「ふ、ふん。当たり前じゃない。わたしだってメイジだもの」
「ゼロ、だけどね」
 むかッ。
 で、でも抑えろわたし。今日はちゃんと魔法が成功したんだ。それも、二回連続!快挙よ快挙!!
 ちょっと虚しくなった。
「もうゼロじゃないわよ。ちゃんとサモン・サーヴァントもコントラクト・サーヴァントも成功したもの」
「あら、じゃあもうゼロじゃないわね。おめでとう、ほぼゼロのルイズ」
 むかむかッ。
「ッ……い、いや、いいわ。そうやって吠えてなさい。今日は見逃してあげるわ」
「あら?」
 今日のわたしは機嫌がいいの。いつもは食って掛かるツェルプストーのちょっかいも華麗に回避よ。
「んもう、面白くないわね。いいわ、いつまで続くか見ててあげるわその意地っぱり」
 そう言うと、ツェルプストーは自分の食事に専念しだした。
 色々と思うところはあるけど、まぁいいわ。よくないけど。
 とりあえず、食事を済ませてしまおう。


   ◇◆◇


 シエスタと名乗った少女について行った先は、厨房だった。
「おう、どうしたシエスタ。ん、彼は?」
 恰幅のいい中年の男性が、シエスタに俺のことを尋ねている。
「彼はミス・ヴァリエールの使い魔だそうです。事前の準備を伝えていなかったので、彼に何か食事を、と」
「フィアースだ。すまないがよろしく頼む」
「おぉ、あんたが。分かった、ちょっと待ってな」
 そう言うと、彼は手早く賄い食を作ってくれた。
「マルトーさんはここのコック長なんですよ。貴族の皆さんにお出ししてる料理も、全部コック長の監督の下で作られてるんですから!」
「ほらよ、簡単なもので悪いが、まぁ我慢してくれや。あとシエスタ、あんまりおだてるとこそばゆくなるからやめてくれ」
 がははと豪快に笑いながら、出来上がった食事を出してくれた。
「恩に着る」
 そうしていただいた食事は、驚いたことにかなりの美味だった。
「これは……美味い」
「そう言ってもらえりゃ作り甲斐があるってもんだ!どんどん食ってくれよ!」
「ご馳走様」
「あいよ、こんなんでよければまた来てくれや。なんのかんの言ってせっかく作った料理を残しやがる貴族たちと違って、こっちまで嬉しくなるような食べっぷりだったしな」
 そう、召喚される前から考えてかなりの時間食事を取っていなかった俺は、空腹に任せてお代わりまでしてしまった。
 せっかくの料理を残すのは勿体無いかと思ったのだが、どうもそれが逆に好印象だったらしい。
「すまない、また何かあったら世話になる」
「おう、遠慮なくきてくれ!」
「シエスタもありがとう。それでは、ルイズと待ち合わせしているので」
「はい、何かあったら声をかけてくださいね」
 ここの人々は、平民ということもあってか親切な人が多いようだ。
 それに、ルイズが平民を召喚したというニュースは、既にここにまで広まっていた。
 親切にされたのは、同じ平民のよしみというのもあるのかもしれないな。
 そんなことを考えながら、ルイズと分かれたアルヴィーズの食堂の入り口まで戻ると、どうやら先に食事を終えたらしいルイズが待っていた。
「遅いわ。主人を待たせるなんて一体どういうつもりかしら?」
「時間の指定が無かったからな。待たせて悪かった」
「ふ、ふん。部屋に戻るわよ」
 さて、この短時間に何があったのか、幾分かルイズの機嫌は傾いてしまったようだ。
 その場に居なかった俺としてはどうしようもないのではあるが、まぁ仕方無いことか。
 そんなことを考えながら何気なく夜空を見上げた俺は、心底驚いた。
「月が、二つある」
「そりゃあるわよ、月だもの。ファルガイアでは違うの?」
「あぁ。ファルガイアでもエルゥボレアでも、月は一つで色は白だった。光の関係で黄や赤に見えるときもあったが」
 こうして二つの月を見ていると、また違う世界に来たのだと実感する。
「ふぅん、白くて一つだけの月ねぇ。ぜんぜん想像もできないけど」
 やはりこちらでは、赤と青の二つの月が普通なのだろう。

 部屋に戻ると、ルイズは読書を始めた。
 俺はやることも無かったので壁を背にして床に座っていたのだが、ある程度時間が経ったところで可愛らしい欠伸が聞こえた。
「そろそろ寝ようかしら」
 そう言うと、俺がここに居るのを気にも留めずに着替え始める。
 流石にそのまま見ているのも悪い気がしたので、背を向けていた。
 と、一つ疑問が。
「ルイズ、俺はどこで寝たらいいんだ?」
「ベッドは一つしか無いから、床で寝て。明日には干草くらいは用意してあげるわ」
 ふむ。
 まぁ旅の途中では野宿が当たり前だったことを考えれば、建物の中で寝れるだけありがたいとは思うが。
「分かった」
「それと」
 先ほどまで着ていた下着と毛布をこちらに放ると、続けて
「それの洗濯よろしく。毛布は使っていいわ。あと朝起こして」
 言うだけ言って、ベッドにもぐりこんでしまった。
「……分かった」
 少々腑に落ちない部分はあったが、初日ではまぁ仕方の無いことか。
 俺が床に横になると、ルイズが指を鳴らす。
 それを合図に、ランプの火が落ちる。
 窓から射す二つの月の明かりに照らされながら、俺のハルケギニアでの一日目はこうして終わった。


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