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ZERO A EVIL-14


アルビオンがオディオと名乗る魔王に占領されてしばらくたったある日、一匹の風竜がアルビオンに向かっていた。
その風竜の背には青い髪の小柄な少女が乗っている。本を読んでいるその姿は、これから魔王のいる国に向かうとはとても思えない。
その時、どこからともなく少女に話しかける声が聞こえてくる。だが、風竜の背には少女以外の姿は見当たらない。
それもそのはず、少女に話しかけていたのは人間ではなく、少女が乗っている風竜だったのだから。

「お姉さまは魔王が怖くないの?」
「……別に」
「シルフィは怖いのね。国を一つ占領しちゃうんだもん、きっと恐ろしい姿の怪物なのだわ」

怖がる風竜の頭を少女は優しくなでる。そして、そっと呟いた。

「大丈夫」

この言葉で風竜は少し落ち着いたようだ。今は今晩のご飯はお肉がいいと少女にねだっている。
だが、少女の心から不安が消えることはない。先程の言葉は、出発してからずっと自分に言い聞かせていた言葉なのだから。


青い髪の少女、タバサがアルビオンに向かうのは、彼女のもう一つの顔である北花壇騎士・七号に任務が下されたからだ。
任務の内容はアルビオンにいる魔王の偵察。だが、この任務を言い渡した北花壇騎士団団長、ガリア王女イザベラの様子はどこかおかしかった。
いつもならタバサに対して、嫌がらせや皮肉たっぷりの言葉をぶつけるイザベラが、今回はどこかばつの悪い顔でただ任務を言い渡すだけだったのだ。
そのイザベラの態度でタバサには、この任務を自分に与えたのがイザベラではなく、別の人物であることがわかってしまう。
王女であるイザベラよりも権力を持ち、北花壇騎士に自由に命令を下せる人物。そう、ガリア王ジョゼフだ。

いち早く魔王に対して不可侵を決めたトリステインに続き、他の国々も次々と中立を宣言していく中、ガリアだけは魔王に対する方針を定めていなかった。
魔王からはガリアに侵攻する気はないと書状が送られてきていたが、ガリア王ジョゼフはそれをまったく信じていない。
ガリアの多くの国民が他の国のように中立を宣言してほしいと願っているのに対し、ジョゼフは中立を宣言するどころか魔王と戦う気さえ見せ始めている。
ガリアでは王が裏で秘密兵器を開発し、魔王と戦うつもりだという噂で持ちきりであった。

そんな中、タバサに命じられた魔王への偵察任務。タバサが成功しようが、失敗しようがジョゼフに損はない。
タバサの本当の名前は、シャルロット・エレーヌ・オルレアン。ジョゼフの弟、シャルルの一人娘だ。
すでにシャルルが暗殺されている今、ジョゼフに対して不満を抱く人間が旗頭にするのはシャルロットしかいない。
魔王がシャルロットを始末してくれれば、ジョゼフは後顧の憂いを絶つことができ、魔王との戦いに専念できる。

そんなジョゼフの思惑がわかっていても、タバサは任務を断ることはできない。
彼女には毒で心を狂わされた母親がいる。任務を断ったり、逃げ出したりすれば母がどんな目に遭うかわからないのだ。

断るという選択肢がないタバサは、憮然とした表情のイザベラから任務の内容が書かれた紙を受け取り、その場を退出しようとする。
その時、イザベラからタバサに声がかけられた。

「そんな任務、さっさと終わらせてきな。あんたにはあたしの用意した任務がたっぷり残ってるんだからね」

タバサにはイザベラの言葉の真意はわからなかった。彼女のことだから、自分が用意していた任務をふいにされたのが気に食わないだけかもしれない。
それでも、嫌がらせや皮肉を受けずに出発できたことは、タバサの心をほんの少しだけ軽くしてくれたのだった。


「お姉さま、アルビオンが見えてきたのね」

シルフィードの声でタバサは我に返った。前方には空に浮かぶ大陸の姿が確認できる。
いよいよ魔王のいるアルビオンに潜入する時がきたのだ。

「雲に紛れて上陸、その後は合図があるまで隠れてて」
「了解なのね。でも、危なくなったらすぐにシルフィを呼ぶのね」
「わかってる」
「絶対なのね! お姉さまは一人で無茶をするから、シルフィはいつも心配なの。きゅいきゅい!!」

そのシルフィードの心遣いにタバサは感謝していた。もし、自分一人だけだったなら不安に押し潰されていただろう。

「無茶はしない、心配しないで」

そう言って、タバサは再びシルフィードの頭をなでた。頭をなでられたシルフィードは、目を細めてきゅいきゅいと嬉しそうに鳴いている。

使い魔召喚の儀式で風韻竜を召喚した時は、面倒なことになったと考えたこともあった。
絶滅したといわれている韻竜を召喚したことがばれれば、厄介ごとに巻き込まれるのが目に見えていたからだ。
だが、今ではシルフィードに感謝している。つらい任務も彼女と一緒なら失敗することはなかったし、一人で任務をこなしていた時より随分楽になった。
今回の任務もシルフィードと一緒ならきっとうまくいく。例え相手が恐ろしい魔王だったとしても。

その後、特に問題なくアルビオンに到着したタバサは、情報収集のためにかつて王都と呼ばれていたロンディニウムに向かった。

しばらくして、ロンディニウムに到着したタバサの目に飛び込んできたのは、魔王の国にあるとは思えない平和な街の姿だった。
談笑しながら歩いている人の姿も見えるし、開けた所にある広場では子供達の遊んでいる姿が確認できる。
大通りでは露店が開かれており、多くの客で賑わっていた。表情は皆明るく、買い物を楽しんでいるのが見ているだけでも伝わってくる。

タバサはアルビオンの街がここまで平和だとは思ってもいなかった。
てっきり、魔王に占領された国のことを悲しみ、毎日を怯えながら過ごしているとばかり考えていたのだ。
だが、タバサがそう考えていたのも無理はない。圧倒的な力を持ち、人々から恐れられている魔王が、平和な街を作るという想像ができる人間がいるだろうか。

その時、困惑しているタバサに声がかけられた。

「そこのかた、今日は新鮮な果物が揃ってるよ。一つどうだい?」

どうやら話しかけてきたのは露店の店主のようだ。確かに、店には色とりどりの果物が並んでいる。
思わず果物に目が行ってしまうが、今は買い物をしている場合ではない。

「いらない。それより聞きたいことが……」
「こんにちは、おじさん」

タバサが店主に話を聞こうとしたちょうどその時、後ろから店主に話しかける声が聞こえてきた。
おそらく買い物客だろうと思い、何気なく振り向いたタバサはその人物を見て固まってしまう。

「いらっしゃい、ティファニアちゃん。今日もおいしい果物が揃ってるよ」
「本当、おいしそう!」

タバサは目の前の光景が理解できなかった。ティファニアと呼ばれた人物の耳は細長く、一目でエルフだとわかる。
エルフは強力な先住魔法の使い手であり、このハルケギニアで一番恐れられている存在だ。
だが、店主は目の前のエルフをまったく恐れていない。それどころか、エルフと親しそうに話している。

「ん? お客さん、もしかして旅の人かい?」

固まってしまったタバサに気付いた店主が声をかけてくる。タバサは黙って頷くことしかできなかった。

「まさかこの魔王の国にやってくる人がいるとは……あ、この娘はあなたに危害を加えることはないから、警戒しなくても大丈夫だよ」

店主と親しそうに話していたエルフは、今は不安そうな顔でタバサのことを見ている。
その姿からは、タバサのことを攻撃しようという意思はまったく感じられない。どうやら、店主が言っていることは本当のようだ。

「エルフが怖くないの?」
「そりゃあ最初は怖かったよ。でもね、あの恐ろしい魔王に比べたら、大人しくて優しいティファニアちゃんは天使に見えるってもんさ」

確かに、今この国は魔王という正体不明の存在に占領されている。
恐ろしい力を持ち、姿形がまったくわからない魔王に比べたら、この大人しそうなエルフの方がましだといえるだろう。
それに、このエルフは十分に美少女といえる顔立ちをしているし、なにより胸が大きい。これなら、男性に人気が出るのもわかるというものだ。

「それに、ティファニアちゃんはマチルダさんの家族だからね。この街の恩人の家族を邪険にはできないよ」
「マチルダさん?」
「ああ、あの人のおかげでこの街の人間は安心して暮らしていられるんだ」

そして、店主は魔王がアルビオンに現れてから起こった出来事をタバサに話してくれた。

店主の話では、最初は魔王を倒すために多くの人間が魔王の城に向かっていったという。だが、ほとんどの人間がその日のうちに逃げ帰り、それ以来魔王の城に向かう者はいなくなってしまった。
魔王が街に危害を加えることはなかったが、いつまでも魔王が何もしてこないとは限らない。不安に駆られた住人達は、この街から次々と逃げ出していった。
残った住人達は、これ以上この街から人がいなくなるのを防ぐために魔王と話し合うことを決意する。だが、ここで問題が発生した。
残っている住人のほとんどが魔法の使えない平民だったのだ。力をまったく持っていない平民相手に魔王が話し合いに応じてくれるとは思えない。
その時、困り果てていた街の住人達の前に現れたのがマチルダだった。土のトライアングルのメイジである彼女は、住人達の代わりに魔王との話し合いに臨んでくれるというのだ。
マチルダに全てを託すことにした住人達は、祈るような気持ちで彼女の帰りを待つことにした。

次の日、住人達は街に戻ってきたマチルダから話し合いが成功したという報告を受ける。
彼女の話では、魔王はこの街の住人に危害を加えないことを約束してくれたらしい。さらに、それを証明するために、今日の夜住人達の前に魔王が姿を見せるというのだ。
そしてその日の夜、鳥の顔をした巨大なゴーレムに乗って約束どおり魔王は街に現れた。

「魔王はどんな姿をしていたの?」

謎に包まれていた魔王の姿がわかるとあって、普段は無口なタバサも思わず店主に質問をしてしまう。

「体格は大柄で、真っ黒なローブに鎧と兜を身に着けてたよ。顔は暗くてよく見えなかったな」

魔王は住人達に姿を見せてからすぐに立ち去ってしまったため、魔王の顔を見た者は誰もいなかったらしい。
その後、この街から住人が逃げ出すことはなくなり、王党派と貴族派が争っていた時よりも平穏な暮らしができるようになった。
街の恩人であるマチルダは、住人達の願いでこの街に住むことになり、現在は家族と一緒にこの街で暮らしている。
ティファニアはマチルダの家族のハーフエルフで、最初は住人達も対応に戸惑ったが、今では誰も彼女を怖がる者はいない。
それどころか、その愛らしい容姿と優しい性格ですっかり街の人気者になっているとのことだった。

「これで俺の話はおしまいさ。他に何か聞きたいことはあるかい?」
「魔王のこと、本当に信じてるの?」
「魔王を完全に信じてるわけじゃないよ。ただね、魔王に怯えて暮らすよりも、魔王なんか気にしないで笑って暮らした方がいいって、みんな吹っ切れたんだろうね」

だからそのきっかけを与えてくれたマチルダにみんな感謝している、最後にそう付け加えて店主の話は終わった。
タバサは話を聞かせてくれた店主にお礼を言うと、最後に一つ質問をする。一番重要な魔王の居場所についてだ。

「魔王はニューカッスル城にいるよ、もっとも今はみんな魔王城って呼んでるけどね」

それを聞いたタバサは再度店主にお礼を言い、足早にその場を去ろうとする。
だが、店から少し離れた場所である人物に呼び止められてしまう。タバサを呼び止めたのは、先程の露店にいたハーフエルフのティファニアだった。

「ま、待って。もしかしてお城に行くの?」

タバサはいつものように無表情で何も答えなかった。この後、夜になってから魔王の城に行くつもりだったが、それをこの少女に言う必要はない。
ティファニアは何か言いたいことがあったようだが、何も答えないタバサに戸惑っているようだ。
しばらく二人の間で無言の時間が続いたが、やがて意を決したティファニアがタバサに話しかけた。

「あ、あのね、魔王は本当はとても優しい人なの。だから、お城に行っても魔王を退治しようだなんて思わないで」

そのティファニアの言葉でタバサはある噂話を思い出していた。魔王の正体はエルフではないかという噂だ。
もし魔王がエルフなら、同属であるこの少女に酷いことはしないだろう。そう考えたタバサは、ティファニアに何も答えずその場を去っていった。
夜までに色々準備をすることもある、こんな所でぐずぐずしている時間はタバサにはないのだ。

そんなタバサの背中をティファニアは悲しそうな顔で見つめていた。


そして、辺りがすっかり暗くなった頃、タバサは魔王の城の近くまでやってきた。
今回の任務はあくまで偵察だ。ハーフエルフの少女に返答はしなかったが、魔王を倒す気など最初から頭にない。
あとは、魔王の居場所が本当にこの城で間違いないのかを確かめれば、偵察としての任務はこなせたといえるだろう。
もし魔王に見つかって戦闘になるようなことになれば、すぐにシルフィードを呼んで脱出するつもりだ。
シルフィードは近くの森で待機している。タバサの合図があればすぐにでも駆けつけてくれるだろう。

すべての準備を整えたタバサは、魔王の城へと目を向ける。
明かりはほとんど点いておらず、城門前には門番らしき者もいない。だが、中庭には鳥の顔をしたゴーレムの姿が確認できる。
おそらくあれが見張り番なのだろう。城に侵入するには、あのゴーレムを避けて通らなければならない。
タバサは一つ息を吐くと、ゴーレムに見つからないように魔王の城へと向かっていった。

運良くゴーレムに見つからずに、タバサは城に侵入することができた。
あとは魔王を探すだけだが、この広い城内で魔王を見つけるのは容易なことではない。それに、城内に魔王の手下がいないとも限らないのだ。
タバサは気合を入れなおすと、静まり返っている城内を歩き始めた。

しばらく歩いていると、薄暗い城内の中で明かりが灯っているのが目に飛び込んでくる。
素早くその場所に向かったタバサだったが、そこは魔王の部屋ではなかった。
明かりが灯っていた部屋はこの城の厨房のようで、中ではメイド服姿の少女が一人で料理を作っている。
後ろから見た少女の耳は細長くはなく、少女がエルフではないことがすぐにわかった。魔王が人間の少女に食事を作らせているのは驚いたが、今は少女を気にしている場合ではない。
タバサはすぐにこの場所を離れようとしたが、あることに気付き途中で足を止めた。少女の後姿をどこかで見たような気がしたのだ。
だが、すぐに気のせいだと思い、その場を離れる。いつまでもここで無駄な時間を使うわけにはいかなかった。

次にタバサが訪れた場所は城のホールと思わしき場所だった。魔王が現れる前は、ここで華やかなパーティーが開かれていたのであろう。
タバサが薄暗いホールを進んでいくと、中央に何かあるのに気が付いた。近付いて見てみると、それが台座に乗った石像であることがわかる。
石像は剣を手に持ち、鎧を身に纏った男の姿をしていた。なぜこんな物が城のホールにあるのか、タバサには検討もつかない。
その時、ふと辺りを見回したタバサは、他にも石像があることに気付いた。中央にある男の石像を囲むように、全部で七体の石像がホールに置かれている。
石像の姿はすべてばらばらで、普通の人間から翼のないドラゴンのような生物まで実に様々だ。中庭にいたゴーレムの姿と同じ物もある。
嫌な予感がしたタバサは、この場からすぐに立ち去ろうとしたが、どうやら少し遅かったようだ。
すでに魔王はタバサの前にその姿を現していたのだから……

「我が名は……魔王オディオ……」

魔王の姿は街で聞いた話と同じだった。大柄で黒のローブに鎧と兜を身に着けている。
だが、魔王の声はその姿とは裏腹に甲高く、まるで少女のようだ。

(早く逃げないと……)

魔王の正体は気になるが、今はそんなことを考えている場合ではない。見つかってしまった以上、この城から脱出するのが先決だ。
すぐさまタバサはシルフィードを呼ぶために口笛を吹こうとする。

「逃げられないわよ……この私からは……」

次の瞬間、まるで地震が起こったかのようにホールが揺れ、辺りが暗闇に包まれる。
何も見えない暗闇の世界が晴れた時、タバサの前には常識では考えられない異様な光景が広がっていた。

「どうなってるの?」

タバサがいたはずの城は跡形も無くなり、外は夜のはずなのに夕焼けのような赤い空が広がっている。
辺りを見渡しても、前方に大きな穴が開いている以外はでこぼこした地面が広がっているのみで、城どころか木の一本すら生えていない。
シルフィードを呼びたくてもこれではどうしようもない、この場所は先程いた場所とは明らかに異なっている。

突然変な場所に飛ばされてしまったタバサが戸惑っていると、目の前に恐ろしいものが姿を現した。
現れたのは巨大な目と大きな口、そして鳥の羽のようなものに包まれた奇妙な物体である。目は二つあり、タバサのことをじっと見つめていた。
あまりの恐怖と驚きで、その場に尻餅をついてしまったタバサの目にさらに恐ろしいものが飛び込んでくる。それは地面から伸びている人間の手だった。
今まででこぼこした地面だと思っていたものは、石になってしまった人間が折り重なってできたものだったのだ。

恐怖で固まってしまったタバサの前に巨大な目が迫ってくる。
それに気付いたタバサは魔法を詠唱しようとするが、巨大な目に見つめられた瞬間、急に眠気が襲ってきた。
それが巨大な目の攻撃だとわかっていても、耐えられない強烈な眠気の前に、タバサはあっけなく意識を手放してしまう。
タバサの目に最後に映ったのは、鋭い歯と光る目を持つ魔王と呼ぶに相応しい怪物が空に浮かんでいる姿だった。


「いつまでもそんなところで寝てると風邪ひくわよ」

その声を聞いた瞬間、タバサは跳ねるように飛び起きた。目の前には、黒いローブを着た小柄な人物が立っている。
声で女性だとわかるが、ローブのフードのせいで顔はよく見えない。

「ここは……」

タバサが立っていたのは魔王の城のホールだった。周りを見渡しても、巨大な目や人間でできた地面は確認できない。
唖然としていたタバサだったが、すぐに足元に落ちている杖を拾い上げ、目の前にいる人物と距離をとる。

「あなたは誰?」
「さっき名乗ったでしょ」
「……魔王」
「そうよ。あの世界に戻りたくなかったら、今すぐここから立ち去りなさい」

この人物が本当に魔王なのかはわからない。だが、今は魔王の正体より、この城から脱出するほうが先である。
罠の可能性もあるが、もし本当に見逃してもらえるのならば素直に従ったほうがいいだろう。
それに、ここで逆らって命を落とすわけにはいかない。やらなければいけないことはまだたくさん残っている。
そう考えたタバサは、辺りを警戒しながらホールの出口に向かっていく。

その時、魔王を名乗る黒いローブの人物がタバサに話しかけてきた。

「一つ忠告しといてあげるわ」

黒いローブの人物がその言葉を発した瞬間、今まで静寂に包まれていたホールに異変が起こる。
ホールに置いてある石像の目が一斉に光りだしたのだ。その異様な光景にタバサは思わず身構えてしまう。
だが、黒いローブの人物はそんなタバサの様子を気にもせずに、ある言葉を告げる。
それは、全てに裏切られ魔王となってしまった青年が英雄達に語った最後の言葉と同じものだった。

「憎しみがある限り、誰でも魔王になる可能性がある。あなたも魔王にならないように気をつけることね」


ルイズはタバサが城から出た後もホールに残っていた。その手にはデルフリンガーが握られている。

「相棒。さっきはなんであんなこと言ったんだ?」
「別に深い意味はないわ。ただ、あの子も憎しみを抱いているようだから、少し助言してあげただけよ」

デルフリンガーの問いかけにそう答えると、ルイズは目深に被っていたローブのフードを脱いだ。

「あの娘っ子も魔王退治に来たのかね?」
「そうは思えないわ。最初から戦う素振りは見せなかったし、おそらくは偵察でしょうね」
「ガリアの王様の命令でやってきたって訳か」
「たぶんね。やっぱりガリアの動向には注意しないといけないようね」

他の国と違い、ガリアだけは書状を送っても魔王と戦う姿勢を見せている。
なんとか戦いを避けようとしていたルイズだったが、ガリアとの戦いは避けられそうになかった。

「しばらくはトリステインに帰れそうにないな」
「そうね。ガリアの件もあるし、テファが女王になってアルビオンが落ち着くまでは帰れないわ」

ルイズはティファニアにアルビオンの女王になってもらおうと考えていた。
マチルダから、ティファニアは前アルビオン国王ジェームズ一世の弟の娘であると聞いているので、血筋的にも王家を継ぐには申し分ない。
すでにロンディニウムでは人気者なっているようなので、これからアルビオン中にティファニアのいい評判を流していくつもりだ。

ちなみにマチルダは土くれのフーケの本名である。
マチルダの父親がティファニアの家に仕えていたらしく、ティファニアとエルフである彼女の母親を匿っていたらしい。
だが、そのせいでアルビオン王家により家名を取り潰されてしまう。
その後、マチルダは盗賊になり、両親を殺されたティファニアは森の中の小さな村に隠れ住んでいたとのことだった。

しばらくルイズとデルフリンガーが話していると、誰かがホールに入ってきた。
といってもタバサが去った今、この城にいるルイズ以外の人間は一人しかいない。

「ルイズ様、食事の用意ができましたよ」
「今、行くわ」

ルイズが魔王になった後も、シエスタは今まで通りルイズの世話をしている。変わった事といえば食事を一緒にするようになった事ぐらいだ。
もうルイズにはシエスタがいない生活は考えられない。魔王となってしまったルイズの心の支えがシエスタだった。
もし、シエスタがいなかったら間違いなくハルケギニアを滅ぼす魔王になっていただろう。

「今日はルイズ様の好きなクックベリーパイもご用意してますよ」
「本当! シエスタのクックベリーパイはおいしいから楽しみだわ!」
「普段はクールに振舞ってるけど、まだまだ相棒は子供だな」
「う、うるさいわね!」

シエスタはルイズとデルフリンガーが騒ぎ出したのを微笑みながら見守っている。
その時、ふと視線を感じたシエスタが振り向いてみると、中央にある石像が目に映った。ルイズがよく眺めている剣士の石像だ。
このホールにある石像は恐ろしい姿をしているものが多い。だから、シエスタは普段はあまり石像を見ないようにしている。
だが、剣士の石像は想像していた恐ろしい表情ではなく、どこか薄く微笑んでいるような優しい表情をしているようにシエスタには見えた。


これから先、ルイズには様々な困難が待ち受けている。
いずれは再び力を使い、魔王オディオとなる時が来るかもしれない。
だが、ルイズが本当の魔王になることはないだろう。
彼女のことを信じてくれる人が一人でもいる限り……


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