あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ラスボスだった使い魔-03


 少女が立ち去って一人残された部屋で、ユーゼスは思案にふける。
 この部屋の主である少女―――草原での会話からするに、おそらく彼女が自分を呼んだのだろう。
 あくまで彼女の召喚は『きっかけ』であり、実際に自分を必要としているのは彼女ではなく『この世界』そのものであるという線もあるが、自分が呼ばれた意味についてはひとまず保留しておく。
(さて……)
 クロスゲート・パラダイム・システムを起動させ、先程自分に施されたルーンとやらの詳細な調査を開始する。
 ……既に自分の身体に張り付いたと言うか、組み込まれたと言うか、刻み込まれてしまっているため、今更消去したり改変するのはかなり困難だと言える。不可能ではないが。
 理屈としては、物を造っている最中ならば、設計図の変更や製作自体の取りやめが容易であるが、完成してしまってから細部を変更したりその物自体を完全に破壊するのには多大な労力がかかるのと同じことである。
(……ふむ)
 精神操作以外にも何らかの仕掛けが施されているのは、先程の改変で気付いている。だが、着々と進行する精神への侵食を防ぐのに精一杯で、他の仕掛けを確認する余裕がなかった。
 今はとりあえず時間も余裕もあるので、その仕掛けとやらを確認しているのだが……。
(……何だ、これは?)
 仕掛け―――いや、このルーンの『機能』はいくつかあった。
 精神制御……と言うほど悪辣なものではない。完全に自我を奪って操り人形にするような類ではなく、思考の方向を『この世界を重視する』、『自分の主人を重視する』ように誘導する機能。
 『武器』や『兵器』を手にする、操作するという条件によって発動する、その武器の使用方法、および効率的な身体の動かし方などの読み取り機能。
 読み取り機能に連動して、感情の振れ幅……テンションの上下によって反応速度や身体能力を向上させる機能。
 この世界限定ではあるが、言葉や文字……正確にはそれに込められた『意味』を、一度学習すれば簡単に習得させ、また、その『意味』を要約・翻訳させて脳内に出力させる機能。
 主人が危機的状況に見舞われた際、その主人の視覚で捉えたものを『使役される者』の視覚に投影する機能。
 主人が要求した場合に限定されるが、口腔粘膜などを通して身体的に深く接触した場合、『使役される者』が持つ情報を主人に与える機能。
 また、このルーンは刻まれた人間の心臓が停止した場合、『死んだ』と判断して消去されるようにプログラムされている。
(……一つ一つ検証してみるか)
 まず精神制御であるが、これは自分のように異世界から召喚された―――自分のような存在が他にもいるのかどうかは不明だが―――者に対しての枷のようなものだろう。
(せっかく呼び出した存在が、勝手に自分の手を離れてしまっては意味がないからな……)
 ……自分もイングラムにこういう仕掛けを施しておけば良かったかも知れない、などと考えながら、ユーゼスは考察を続ける。
 次に、テンションの上下によって反応速度や身体能力を向上させる機能。
(……随分と非効率的なことをするものだな)
 シャイニングガンダムやゴッドガンダムに搭載されていた、感情フィードバックシステムのようなものだろうが、あれの不安定さは知っている。
 確かにかなりのエネルギーを得ることは出来る。しかし下手に感情を高ぶらせれば、周囲の状況が目に入らなくなり、判断を誤る危険性が高い。
 現に『怒りのスーパーモード』を発動させた状態のドモン・カッシュは、東方不敗マスターアジアにとって敵ではなく(そもそも東方不敗の『敵』となりえる存在はかなり希少なのだが)、逆に倒すべきデビルガンダムにエネルギーを提供してしまったのである。
 デビルガンダム―――DG細胞の制御にも人間の精神力を必要としたが、ウルベ・イシカワなど、どう見ても制御に失敗していた。独力でDG細胞を完全に制御下に置いたのは、後にも先にも東方不敗だけだ。
 自分とて、ウルトラマンの力を使ってDG細胞を制御していたのだから。
 ……そして何より、自分自身が感情に任せて暴走に近い行動を起こした経験がある。
 そもそも『人間の感情や精神』などという時間経過や状況、何気ない他者の一言など、多種多様な要因に多大な影響を受けるものに起点を置く、という発想にユーゼスは疑問を抱く。
(……精神制御もこの機能に関連させているのか)
 思考や感情の方向を操作して、その感情を原動力に力を発揮させる。しかし完全に精神を操っているわけではないから、感情の振れ幅が小さければ発揮できる力も少ない。
 イングラムやキカイダー、ドモン・カッシュなどを見れば人間の精神に限界はないと信じられもする―――だが、あのような存在がそうそう現れるわけがない。
 ならば感情に関わらず、一定の力の発揮が出来るようにした方が効率が良いのではないか、と考えてしまう。……もっとも、その場合は発揮できる力が減りもしないが増えもしないのだが。
(……製作者との見解の相違だな)
 あらゆる『武器』や『兵器』の使用方法、および効率的な身体の動かし方などの読み取り機能。……これもまた、意図がつかみにくい。
 反応速度や身体能力の向上も『武器』を持たなければ発動しないようだが、これは『人間の感情』以上に曖昧な条件である。
 そもそも『兵器』はともかくとして、『武器』とは何だろうか?
 剣やナイフや銃は『武器』である。
 しかし世界にある大抵のものは、『武器』として使おうと思えばいくらでも使えるものばかりだ。
 道端に落ちている小石、小枝、少し長めの布、ペンの金属部、部屋に並べられている本、食事に使う皿、メガネのツルの部分―――極端な話、防御に使う盾や鎧であっても武器に出来る。
 しかもこの機能、武器の使用方法・効率的な身体の動かし方が分かる『だけ』なのである。
 仮に自分がモビルスーツやパーソナルトルーパー、ジェットビートルやウルトラホークなどに搭乗した場合、それをスムーズに動かすことが出来るだろう。
 だが、それで例えばライディース・F・ブランシュタインやヒイロ・ユイ、アラシ隊員やソガ隊員を上回れるとは思えない。
 ……極端な話、剣や弓を持っても、同じ条件の早川健には絶対に敵わないと確信している。
 戦いは身体能力や反応速度だけではなく、経験や勘から来る先読み、駆け引き、戦術の組み立て、一瞬の判断力や決断力など、数え切れないほどの要因が複雑に絡み合うものである。
 宇宙刑事と数々の犯罪者との死闘や、部下や協力者として接してきた者たちの戦いからユーゼスはそれを学んでいたし、何よりも自分自身、ガイアセイバーズというこれ以上ないほどの強敵と命がけの戦いを行ったから理解が出来る。
 ……要するに武器の『使い方』が分かっても、それを利用した『戦い方』が分からないのだ。
(それに加えて、だ……)
 身体能力と反応速度の向上は、この機能に連動している。
 つまり、武器を持たないと、いくら感情を高ぶらせようが能力が向上しない。
 緊急事態―――突然の襲撃を受けるなどの状況に陥った時、手元に武器がない場合は『ただの人間』のままで対処しなくてはならない。
 ……第一、自分は戦う人間ではないのである。
(一体、何だと言うのだ……)
 言語や文字の習得機能、これは分かる。いちいち考察するまでもない。
 召喚された時点で言葉が通じるのも、おそらくはこれと類似した機能なのだろう。
 試しに少女の部屋の本棚に並べられている本を一冊手に取り、読んでみる。
(……まったく読めないな)
 どうやら一から学習する必要があるらしい。まあ、習得スピードは尋常ではないはずなので、後で少女に頼んで教えてもらえば良い。
 続いて視覚の投影機能と、『使役されるもの』の情報の読み取り機能。……当然と言えば当然の機能である。これは少し細工すれば、逆にこちらの情報を主人に送れる目算が高い。
 粘膜同士の接触ではなく、念やテレパシーを通じて繋げた上でこの機能をイングラムに付け、イングラムの情報を逐一確認していれば、あるいは自分の目論みは成功していたかもしれない。
(……未練だな)
 つくづく自分は人間だな、などと自嘲しつつ、考察を続けるユーゼス。
 とは言え、最後の一つ―――『心臓の停止に合わせたルーンの消失』は、そう深く考えることでもない。
 心臓が停止する、イコール死ぬという図式は絶対ではない。
 プロフェッサー・ギルはガイアセイバーズとの戦闘において心臓が停止するまで傷付けられたが、脳死には至っていなかったためにギルハカイダーとして復活した。
 だが、建築物から推察するこの世界の文明レベルからするに『心臓の停止』はこの世界にとって絶対の死なのだろう。
 死んだ者にいつまでもルーンを貼り付けておく必要もあるまい。
(……理に適っている部分と、そうでない部分が明確に分かれているな)
 ぜひ製作者に製作理念や意図を問い質したいところである。
 ……最初はあの少女がこのルーンを製作したのか、とも考えたが、『平民を使い魔にするなど聞いたことがない』、『珍しいルーン』などの言動からすると、このルーンの機能や存在はほとんど把握されていないようだ。
 ほどこす処置の全容くらいは把握しておいて欲しいものだが、どうも自分の召喚やこのルーンはイレギュラーなものであるらしい。
 とすると、少女自身もこのルーンについての知識はないと考えられる。
(………)
 とりあえず、自分の現在の状態は分かった。
 では次に、この世界についての情報を収集する必要があるのだが―――
 ガチャッ
「……言われた通りに大人しくしてたみたいね」
 自分の当面の主人と目される、桃色がかったブロンドの少女が部屋に戻ってきた。
「アイツの前に置いといて」
 少女は後ろに控えていた黒髪のメイドに指示を出す。言われた黒髪のメイドは部屋の中に入り、パンが乗った皿と水の入ったコップを自分の前に置いた。
「どうぞ」
「……ああ」
 どうやら自分のために用意してくれたらしい。
「食べ終わったら部屋の外に出しておくから」
「はい」
 メイドを部屋から退出させる。バタン、とドアが閉まった時点で、少女はジーッとユーゼスを見つめてきた。
「……はあぁ~」
 ため息をつく少女。その顔には落胆や失望、諦観が見て取れる。
「なんで、こんなハズレを引いちゃったのかしら……。いくら使い魔になる生き物は自分じゃ選べないとは言え……」
「……私に言われても困る」
 『使い魔になる生き物は自分では選べない』……聞き逃せない言葉である。加えてこの態度からすると、この少女は自分を呼び出すつもりは毛頭なかったようだ。
「……一応聞いておくけど、アンタ、平民なのよね」
「その『平民』とやらの定義を教えてもらおう」
「……定義って……」
 何だか小難しい物言いをする奴ね、などと呟きながら、少女はユーゼスに問いかけていく。
「アンタ、どこかの国に領地を持ってる?」
「無い」
「……じゃあ、魔法は使える?」
「先程見た空を飛ぶ能力が『魔法』だとするなら、『私には』使えない」
 ユーゼス単体の特殊能力としては、バード星人特有のテレパシーが少々と、軽い透視能力がある程度使えるくらいである。
 大体、それにしても宇宙刑事ギャバンのパートナーであるミミーに劣るものであるし。
 クロスゲート・パラダイム・システムを使って効果を増幅することもできるが、それは『自分の能力』とは言えないだろう。
「じゃあ、やっぱり平民じゃない」
「……ふむ、成程な」
「何が『なるほど』なのよ?」
「……領地を持っていて、かつ『魔法』を行使できれば『貴族』なのだろう、ここでは。それに納得しただけだ」
「はぁ……。貴族を知らないって、どんな田舎から来たのよ、アンタ」
「説明すると長くなる上に、話がややこしくなるので詳細は省くが、『遠くから』と言っておこう」
「………」
 何かうんざりしたような表情でユーゼスを見る少女。
「……魔法を知らないってことは、使い魔のことも知らないのよね」
「ツカイマ?」
「アンタみたいにメイジに召喚されて、そのメイジと契約した動物や幻獣のことよ。
 ……普通はドラゴンとか、グリフォンとか、マンティコアとか、ワシとか、フクロウとか、そういうのが使い魔になるんだけど、人間が召喚されるなんて初めて見たわ」
 少女は『しかもよりによって平民だし』と、再びため息をつく。
「ふむ」
 やはり自分はイレギュラーな存在だったか。
(もしや……)
 脳内のクロスゲート・パラダイム・システムを使用し、この世界における時空間を大まかにではあるが観測してみる。
 すると、無数の地点で簡易的な、あるいは擬似的なゲートが開いた形跡が見つかった。
 と言うか、現在もごく少数ではあるがゲートが開いてる反応があるが―――すぐ消えてしまう。
「その召喚とやらは、ここでは普通に行われることなのか?」
「? ええ、メイジと使い魔は切っても切り離せない関係だし、ある程度の年齢になったら私たちみたいに召喚するわよ」
「……ふむ」
「なんでそんなこと聞くのよ?」
(……別に隠すことでもないか)
「私にはその召喚時に発生するゲートを感知する能力があるからな。やたらとゲートが開いたり閉じたりしているようなので、疑問に思ったまでだ」
「……何なのよ、そのムダで役立たずの能力は……」
「私もそう思う」
 これほど頻繁にゲートが出現するのであれば、ゲートを開くことはともかくとして、少なくともゲートの感知をする必要はないだろう。
 加えて、ゲートの種類や発生した時期程度なら分かるが、そこから『何』が出て来たのかは実際に確かめてみないと分からないのである。
(まあ一応、ゲートの検知機能はオンにしておくが)
 ユーゼスはパンをかじりつつ、そんなことを考える。
 ……そう言えば、まともに食物を摂取するのも随分と久し振りだ。
「そのゲートを開く魔法で呼び出すのは、この周辺の生物に限定されているのか?」
「ええ、召喚の魔法、つまり『サモン・サーヴァント』は、ハルケギニアの生き物を呼び出すのよ」
「……この周辺はハルケギニアという名称なのか」
 例えば地球の『極東地区』であるとか『ヨーロッパ地区』のような地方一帯を指す言葉なのか、それとも『世界』そのものを指すのかは不明だが。
「……まあいいわ、それで、使い魔の仕事を説明するけど」
「頼む」
 何しろ、自分が呼び出された取りあえずの目的なのだから、これは注意して聞かねばならない。
「まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力が与えられるわ」
「………」
 向こうが見た物をこちらに投影する機能しかなかったが、それを説明すると『何でそんなことを知っているのか』を説明しなくてはならなくなり、続いて『何でルーンの分析などが出来るのか』、『クロスゲート・パラダイム・システムとは何か』―――と、かなり面倒な事態になりかねないので、あえて沈黙しておく。
「でも、アンタじゃ無理みたいね。わたし、何も見えないもん!」
「そうか」
「………っ」
 何の感情も込めずにただ頷くだけの使い魔に、主人である少女のフラストレーションが地味に蓄積されていく。
「……それから、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば秘薬とかね」
「秘薬?」
「特定の魔法を使うときに使用する触媒よ。硫黄とか、コケとか……」
「ほう……」
 『触媒』という化学的な単語が出て来たことに、ユーゼスは興味をそそられる。
「アンタ、そんなの見つけてこれないでしょ? 秘薬の存在すら知らないのに!」
「確かにな」
 生息している地点や、採取する対象の特徴など、詳細なデータを得られれば可能だろうが。
 ……と言うか、むしろ個人的に採取して色々と観察してみたい。
「そして、これが一番なんだけど……」
 『わたし、イライラしています』という態度を顔と声ににじませながら、少女は言葉を続ける。
「使い魔は、主人を守る存在であるのよ! その能力で、主人を敵から守るのが一番の役目!」
(……そういうことか)
 だとすると、あの妙な付随機能にもある程度の納得がいく。
 『武器の使用』など、ほとんど人間を使役することを前提にしているとしか思えない。
 つまり、このルーンは確実に『人間を使い魔にすること』を前提に製作され、用意されたものと結論づけられる。
 問題は、ただ『守る』だけならば、それこそ少女の言うように人間以外の動物でも十分可能であるという点だ。
(……『製作者』の使い魔が人間でなければならない必然性があったのか?)
 例えば、自分がゼットンやパンドンなどの強力な怪獣を操るか、メフィラス星人やミリアルド・ピースクラフトなどの優秀な知的生命体を操るかを選択するとして。……いや、知的生命体に関しては『協力』と表現するべきか。
 ともかく、単純に使役するのならば怪獣だろう。ウルトラセブンだってカプセル怪獣を使っていた。
 しかし意見を求めたり、臨機応変な対応を期待するのであれば、やはり知的生命体である。
 もしくは、その個人を強化するための方法として『使い魔とする』という方法を取ったのだろうか……。
(……そうか、万一の可能性として、反抗してきた場合の弱体化を狙ったのか?)
 武器があれば身体能力が強化される。つまり武器がなければ、ただの人間である。
 魔法とやらを詳しく知らないため、どの程度のことが可能なのかは不明だが、その魔法を使って武器を取り上げてしまえば簡単に弱体化も可能だ。
(……しかし)
 目の前の少女は、このルーンの機能の重要な部分を知らないようだ。
 自分が使い魔に与える能力―――見方を変えれば自分の能力も碌に知らないなど、そんなことがあるだろうか。イングラムのように記憶喪失でもあるまいし。
 偶発的に発現したのか、とも考えたが、こんな複雑な条件付けが人為的でなくて何だと言うのか。
 『このルーンを与える』という能力がどの時点でこの少女に発現、あるいは何者かから与えられたのかは分からないが、それにしても、もう少しやりようがあるようにユーゼスは思う。
「……でも、アンタは弱そうだし、無理ね……」
 そんな内心の思考の回転など露知らず、少女は『こいつに戦闘は無理』と断ずる。
「……私の専門は頭脳労働だからな」
 ユーゼスとしても、出来れば荒事は回避したいし、可能な限り自分の手は下さない主義である。
「? アンタ、学者か何かなの?」
「そうだな、研究者だ」
 研究対象は汚染された大気の浄化であったり、光の巨人であったり、因果律であったりと、一定しないが。
「……平民の学者なんか、いてもいなくても大して変わらないでしょうが。
 だから、アンタに出来そうなことをやらせてあげる。洗濯。掃除。その他雑用」
「………」
 酷くプライドが傷付けられる内容だが、かつてのように独房に投獄されたりするよりはマシだ、と考えることにした。
 それに、せっかく因果地平の彼方から再び顕現が出来たのだ。
 何をすれば良いのか、それ以前に何かをする必要があるのかどうかも不明なのである。ならばここでこの少女の世話をしながら、ゆっくりと暮らしてみるのも悪くはないかもしれない。
「それにしても……」
「何だ?」
「うん。考えれば考えるほど、人間が使い魔ってのは変だなって。だって、人間を使い魔にするなんて、古今東西、そんな例はないのよ?」
「………」
 聞けば聞くほど、この少女が本当に自分を使い魔にするつもりがなかったことが分かる。
「いっそのこと、トリステインのアカデミーにでも問い合わせてみようかしら」
「『トリステイン』? 『アカデミー』?」
 いきなり不明な単語が二つも出て来た。……しかし、『アカデミー』とは懐かしい響きだ。
「……ああもう、そこから説明しないとダメなのね……。
 トリステインって言うのは、今わたしたちがいるこの国。ちなみに隣にはゲルマニアとかガリアって国があるわ」
「ふむ」
「で、アカデミーって言うのは王室直属の、魔法ばっかり研究している機関よ」
「……………」
 ここに来て、少女の前では初めてユーゼスの表情が動いた。
「ああ、アンタ研究者だったわね。興味でもそそられた?」
「その通りだ。……そうだな。可能であれば、ぜひ連絡して欲しい」
 そのユーゼスの言葉を聞き、少女は意地悪そうに笑うと、
「いいの? 多分アンタ、色んな実験されるわよ。身体をバラバラにされたりとか」
 常に超然とした雰囲気を持つ、この使い魔を少し脅してやろうとオーバーな表現を持ち出した。
 しかし。
「いや、それはまず無い」
「え?」
 即座に自分の脅しは否定される。
「『人間の使い魔』のサンプルは、今の所は私一人だけなのだろう? ならばいきなり解剖などはせず、徹底的に観察するはずだ。貴重なサンプルを即座に使い潰すわけがないからな。まずは体組織や髪の毛、血液などを調査したり、使い魔になったことで得た機能・能力などを分析するだろう」
「は、はあ……」
「そうだな……。解剖するのならば、もっとサンプルの数が揃ってからだな。泳がせるなどして観察するサンプル、解剖するサンプル、念のために手元に置いておくサンプル、そして万が一の時のための予備。最低でも4体は必要だ。
 ……少なくとも、私ならそうする」
「………」
 いきなり饒舌になった研究者の使い魔を見て、少女は呆気に取られる。
「無論、サンプルの数は多ければ多いほど良いのだが、そうすると希少価値が薄れるからな。『多ければ良い』という発想も良し悪しだ。
 ……? どうした?」
「いや、アンタ、今まで口数が少なかったのに、いきなりペラペラ喋りだすから……」
「……どうも私は興奮すると口数が増える傾向にあるらしい。悪い癖だ」
 ガイアセイバーズとの最終決戦の際にも、自分の動機、取った手段、その経緯に至るまでかなり細かく、自分で説明した覚えがある。……ハッキリ言って、わざわざ説明する必要や意味などほとんど無かったにも関わらず。
 ―――今後は自重せねばならんな、などと自分を戒めるユーゼスであった。
「とにかく、そのアカデミーに連絡を取ってくれ。魔法の研究機関とやらは、私にとっても興味深い」
「……ああ、まあ、いいけど。アカデミーにはエレオノール姉さまもいるし」
 知的好奇心が刺激されるのを自覚しつつ、ユーゼスはもう一つ頼みを申し出た。
「それと、非常に重要な用件があるのだが」
「な、何?」
「……ここの文字を教えてもらいたい」
 アカデミーに行ったところで、自分がその研究内容を閲覧できる可能性はかなり低い、とユーゼスは踏んでいる。
 何しろ先程から少女は自分のことを『平民』、『平民』と繰り返し呼んでおり、このことからこの世界において、貴族と平民の間には身分的にかなりの隔たりがあると推測される。
 魔法が使えるのは貴族のみ。
 アカデミーは魔法の研究機関。
 ならば、おそらくではあるがアカデミーにいるのは、ほとんど貴族だけ。
 よって、自分が『研究内容を閲覧したい』と申し出たところで、大して話も聞かずに断わられる可能性が極めて高い。
 だが、何かの拍子で閲覧できる可能性はゼロではない。
 何しろ自分は因果律を操る存在、『確率』や『可能性』の専門家である。
 さすがに因果律を操作してまで閲覧したいとは思わないが、ゼロではないならそれに賭けるのもありだろう。
 そもそも研究内容の閲覧以前に、字が読めなければ日常生活で苦労することは必至である。
 バード星から地球に赴任する際にも、地球の文字を猛勉強したものだ(言葉自体は翻訳機があった)。
 幸いにして、今の自分にはルーンの効果による言語の習得を可能にしている。驚異的なスピードでハルケギニアの文字の習得が出来るだろう。
「……もう夜なんだけど、今じゃなきゃダメ?」
「早ければ早いほど良い」
「……そうね、使い魔の面倒を見るのもメイジの務めだものね……」
 少女はまず、文字を紙に一つずつ書きだした。
「これがアー、これがベー、これがセー」
 一つ一つの文字を指しながら、その発音を教えていく。
 発音が地球のドイツ語に似ているな、などと思いながら、ユーゼスは少女から文字の授業を受ける。
 そして一時間後。
「……アンタ、物覚えがいいのね」
「……私自身も少し驚いているがな」
 ユーゼスは既に、簡単な文章程度なら読めるようになっていた。
(これがルーンの効力か……)
 やはり自分で実感するなり直接見るなりしてみなければ、効果という物はよく分からない。
 机上の空論や理論だけでは、限界があるものだ―――などとユーゼスが研究者独特の思考をしていると、
「……とっかかりは覚えたみたいだから、あとはもう自分で出来るわね?」
 そう言って、少女はユーゼスに分厚い本を2冊ほど渡す。
「そっちが普通の単語とかが書いてある辞書で、そっちがルーン文字の解説とかが書いてある本。じゃあ、あとは頑張って」
「分かった」
 取りあえず基本さえ覚えてしまえば、そこを起点にした応用は十分に可能である。応用にも技術は必要だが。
「……この本棚にある本は読んで良いのか?」
「別に良いけど、それほとんど魔法についての本よ? 平民のアンタが読んでも、あんまり意味が無いと思うけど」
「……ならば一石二鳥だ」
 文章を学べて、魔法についての知識も得られる。実に効率が良い。
「ふわぁ……。……それじゃ、わたしはもう寝るから。アンタは本を読み終わったら、そこのワラ束で寝てなさい」
「分かった」
 ワラ束、というのが多少気に入らないが、ともかくユーゼスは早速、本棚にある本を一冊手に取り、辞書を片手に読もうとすると、
「…………ふく」
「?」
「服、脱がせて」
「………そう言えばそうだったな」
 雑用とは、こういうこともするのか―――などと考えながら、ユーゼスは少女の服を脱がせていく。
 時折、手が少女の胸やヒップに触れたりするが、別にそんなことで興奮を覚えるほど、精神的に若くもない。
 年齢を数えることなど止めてしまって久しいが、地球に赴任したのが27歳か28歳ほどのこと。そこから40年かけてクロスゲート・パラダイム・システムを開発したので、単純な精神年齢は70歳近くになっているはずである。
 今は、肉体の方は地球赴任時と同程度の年齢になっているようだが。
「じゃあ、これ、明日になったら洗濯しといて」
「……分かった」
 寝具のネグリジェを着せると、少女は脱ぎ終わった肌着や下着を指差してそう告げる。
 更に少女がベッドに潜ってパチンと指を弾くと、ランプの明かりが消えた。
 それを目にして、ユーゼスの表情がピクリと動く。この現象に興味を覚えたらしい。
「……本を読むときは、そこの小さいランプを使いなさい。それじゃおやすみ、……えーと……」
「?」
「……そう言えば、アンタの名前をまだ聞いてなかったわ」
「私もそちらの名前を聞いていなかったな」
 何しろ色々とありすぎ、状況把握や説明などで手一杯で、自己紹介などしている精神的余裕や暇がなかったのだ。
「わたしはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。……呼ぶ時は『御主人様』って呼ぶこと。いいわね?」
「承知した、御主人様。……私の名前はユーゼス・ゴッツォ。呼ぶ時はユーゼスで構わん」
「ああそう、それじゃ……おやすみ……、ユー…ゼス……」
 精神的な疲労や、自分に文字を教えてくれた疲労が溜まっていたのだろう。すぐに、くうくうと少女―――ルイズの寝息が聞こえ始める。
「……さて」
 洗濯はかなり困難な任務だが、ともあれ今は何よりも知識欲が勝る。
 ユーゼスは魔法の学術書と辞書とで何度も視線を切り替えながら、知識を吸収していくのだった。


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