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マジシャン ザ ルイズ 3章 (50)

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マジシャン ザ ルイズ 3章 (50)炎首のハイドラ

先に仕掛けたのはワルド。

魔力的な飽和状態に伴う強烈な発光現象。
放電及び発熱現象をも引き起こし、今や大空洞の内部は昼間のそれよりなお明るい。
いや、あふれ出す光は大空洞だけに止まらない。今やアルビオンそのものが光源となって輝きを放っているのだ。
ハルケギニアから半歩ずれた位相の闇の中、アルビオンは限界まで魔力を漲らせる。

はじける寸前の風船、膨らみ過ぎた魔力が、空間の許容量を遙かに超えて蓄積し、それがあわや暴発するという間際、膨大な力が一点に収縮した。
爆縮。
ワルドの右腕が、マナの塊と化す。
暴れ狂う魔力を拳大の大きさに圧縮させて、ワルドは力を溜めるようにその腕を体ごと振りかぶった。

「灰は灰に……、塵は塵に……、貴様は、虚無に帰れ!」

――投擲。

音速すらも軽く追い越し、神を罰する灼光が放たれた。

ワルドが放った魔法、それ自体は驚くに値しない、ごく有り触れたものだ。
火のメイジならば誰でも知っている、ラインのスペル「ファイアーボール」。
原理の上ではそれと何ら変わるところがない。
ただ一点大きく異なる部分があるとすれば、それはメイジが己の内面を拠り所に求める力を、ワルドは自身のみならず他者にも求めたところにある。
魔力の貯蓄先を自分自身に限定することなく、周囲の空間にまで広げ、アルビオンという大陸すらもマナのプールに利用して、ワルドは世界の創世に匹敵する力を扱って見せたのである。
それだけの力を注がれた「ファイアーボール」。
既にそれは似て非なるものと成っていた。


炎は、何もかもをねじ伏せて目標へ向かう。

空間の跳躍、敵を焼き尽くす火である神速の槍は音の壁をものともせずに、空間すらも貫いて外へ。
次元の断徹、何者も阻むことを許さぬ業火の剣は、アルビオンを隔てている捻れた時空の渦を断ち切って、あるべき次元へ。
神意の体現、偉大なる存在の意志を実現する為に放たれた一条の矢の如き火は、標的めがけて一直線に。

黙示録――天空を覆い尽した巨人の猛槌たる炎は、見上げた人間達の網膜に、終末の光景を焼き付けた。


恐るべき魔力、恐るべき火力。
いかな強力なプレインズウォーカーであっても、それを受けてはひとたまりもない。
いや、その威力はウルザの肉体を砕くに止まらない。
それだけの力が炸裂すれば、トリステインどころか、ハルケギニアに尋常ならざる傷痕を残すこととなるだろう。
明らかな、過ぎたる力。

故に、それが過信に繋がった。


「貴様の負けだ子爵」

アカデミーの深部。
そこでウルザは小さく呟いて、引き絞った魔力を解き放つ為、最後の式の一欠片を完成させた。
すると、術の完成に伴い、周囲に配されていたアーティファクト達が数回強く瞬いた。
同時、トリスタニア周辺に渦巻き展開していた時空現象が収縮し、そのエネルギーを別のベクトルに置換する。
そうしてアカデミー上空から音もなく放たれたのは、一筋の青い光。
常人のそれとははるかにかけ離れた、ウルザの精神波。
ワルドの放ったものとは対極的な青い光が、空間を駆ける。

次の瞬間、
 空間、時間すらも無視した反物理法則的な一撃が、ワルドの火の玉が開いた繭の隙間を突いて、次元の裏側に潜むアルビオンの巨体に直撃した。

ワルドの敗因。
それは一言で表すと経験の差。

後の先。
後から出でて、先に征す。

確かにワルドの術式は先に成立し、先に発動した。
ウルザの魔法は、後追いで発動したに過ぎない。
だがプレインズウォーカー達が行う、頂上の魔法戦において、時間などと言う些細な概念は容易に覆るものなのだ。
先に動くことは不用意に手の内を晒すことに繋がりかねない。ワルドはそれを識ってはいても実感として知らなかった。
故の、落ち度であった。





「繋がった!」
大きな声を上げてマチルダが振り返る。
彼女がいる場所は、戦場からは遠く離れた地、ガリア、ヴェルサルテイル宮殿グラントロワの一角。
ガラクタや調度品が無数に散乱し、積み上げられている薄暗い一室。有り体に言えばただの物置部屋であった。
最初から物置部屋として用意された部屋でもないのだろう、広さはかなりある。
その場所に、マチルダの他、数名からなる武装した一団がいた。
そして、彼らの眼前には白く輝く光の扉、ポータルがあった。
「この扉が、本当にアルビオン内部に繋がっているのね」
そうマチルダに聞いたのは、かつては長く流していた燃えるような髪を、今はセミロングにしている少女
「ええ、そうよ。私がアルビオンから脱出する際にここに繋げておいた扉だもの」
「じゃあ、いよいよ……」
言葉の途中、一度深呼吸をして落ち着ける。
「作戦開始ね」
そのようにキュルケが言葉を続けると背後の一団が一斉に頷いた。
マチルダを先導にして、ゲルマニア・ガリアのえり抜きで部隊で構成された突入部隊、それが彼らだった。
その目的は、アルビオン中枢の破壊。
「……生き残るわよ。まずは、それが前提。……いいわね?」
戦いを前に、静かに目を閉じる。
黙祷の気配を読み取って彼女の部下二人も目を閉じる。
鼓動三つ分ほどの祈りを捧げ、キュルケは目を開いて懐から杖を取り出した。
そして鋭い声を上げる。
「突入!」
その合図で、作戦が開始された。

ポータル抜けると、金属の質感を持った岩がごろごろと転がっているのが目に付く、洞窟らしき場所に出た。
辺りは暗い。しかし周囲に散乱する岩がぼんやりと光を発しており、近くにいる人間の顔を見分けられる程度には光量が確保されている。
「こっちよ!」
そう言って一点を指さして、暗がりの中を走り出すマチルダ。
彼女に続いて、その背を追いかけキュルケが走る。更に兵士達が後ろに続く。

アルビオンに進入した彼らの人員は、騎士で構成されたガリア勢九名、キュルケとその二人の部下からなるゲルマニア勢三名、道先案内人であるアルビオン貴族マチルダ、合計十三名。
彼らの一応の責任者は、キュルケということになっている。
裏にあるのはゲルマニア解放に関わる大事の重要な役割をゲルマニアの特使である彼女に割り当てて、少なくとも表立っての面子を立てたということにしておこうという各国の思惑である。
だが実際にはガリア騎士の中にはキュルケ以上に経験を重ねた、キュルケ以上の魔法の使い手も少なくない。
ガリア東薔薇騎士団団長、スクウェアクラスの風メイジ、カステルモールもそんな一人である。
その彼が、今、心中で舌を巻いていた。
(参ったな……思った以上に、早い、それに隙がない)
カステルモールが驚嘆の意を示したのはキュルケの後ろに寄り添うように走っている二人の背中にである。

キーナンとヘンドリック、そう紹介された二人の傭兵の名に、カステルモールは覚えがあった。
『伝説の傭兵』と呼ばれる「〝白炎〟のメンヌヴィル」ほど抜群の知名度は無いが、両者とも一昔前に戦場で活躍していた一流の傭兵だったと記憶している。
しかし、それもカステルモールが騎士として取り立てられた頃の話である。
ここ十年ほどはどちらも名を聞かなかったため、既に故人となっているとばかり思っていた名でもあった。
その為、部隊編成の際の自己紹介で二人の名を聞いたときも激しく驚いたものだった。
同時に、二人のロートルに不安も抱いた。
『本当に使い物になるのか?』
という疑問が頭をよぎったのだ。

だが、彼の疑問は驚きと共に解消された。
筋肉質の傭兵ヘンドリックは忙しなく周囲を警戒しながら走っている。
甲冑姿の傭兵キーナンは、重そうな年代物の甲冑を身につけながらも、全くと言って良いほど動きを鈍らせずに走っている。
どちらの動作も合理的で、隙がない。
その姿は、十年間も戦場から姿を消していたブランクを、微塵も感じさせないほどの自信に満ちあふれていた。
骨の髄まで戦闘者、カステルモールの目に二人の姿はそう映った。

ポータルの位置から、アルビオンの浮遊を司っている中枢部までは数リーグほどの距離があると、マチルダは事前のミーティングで説明していた。
何故彼女が、このような危険を伴う使命に同伴することを良しとしたか、その真実は誰にも分からなかったが、確かなことはそこまでの道順は彼女しか知らないということだった。
いくつもの枝分かれした道を数回選択し、開けた鍾乳洞のような場所に出たとき、誰かが叫んだ。
「吸血コウモリだ!」
その警告に全員が先を見る。
すると向かう先、鍾乳洞の暗がりの中を、びっしりと無数の赤い点が覆い尽くしているのが見えた。
それに気づいて、先頭を走るマチルダが躊躇って、足を緩めかける。
「駄目! そのまま走って!」
後ろを走るキュルケから叱咤が飛ぶ。
その声を聞いて覚悟を決めたのか、マチルダは体勢を低くして逆にその足を速めた。
大急ぎで駆け抜けて、どう猛な吸血生物たちにたかられるのを防ごうという魂胆だ。
だが、それをあざ笑うように無数のキィキィという鳴き声と、バサバサと羽ばたく音が壁に反響する。
比喩ではなく、文字通り視界を埋め尽くすコウモリの群れ。
あわやマチルダがその餌食になろうかと言うところで、キュルケの呪文が完成した。
「フレイム・ボール!」
マチルダの頭上を越えて、炎の塊が放たれる。
ごうっという音。コウモリの群れの中に投げ込まれた炎球がはじけて周囲に火をまき散らした音が響いた。
無数のコウモリが松明となって鍾乳洞を照らす。
残ったコウモリも仲間を焼かれて驚き散っていく。
そのタイミングを逃さず、一団はその中を駆けていった。



キュルケ達がアルビオンに潜入を果たしたのと同時刻、決戦の地ウィンドボナの上空に変事があった。
まず最初に世界を赤く染める炎が出現し、西の方角、トリステインへと向けて流れ始め、暫くすると今度は周囲を青い光が照らしたのである。
そして次に目を開けたとき、戦場にいる多くの者が、ウィンドボナ上空に突如として出現した大質量の存在に声を失った。
およそ高度五千メイルの上空に現れた、浮遊大陸アルビオン。
それが太陽の光を遮って、地上に巨大な影を落とす。


準備に準備を重ねた術式は破られた。
宿敵を焼き尽くすはずの火の玉は、ウルザの放った精神波によって霧散させられた。
のみならず、覆っていた次元の繭をはぎ取られて、居城であるアルビオンはハルケギニアに引きずり出されてしまった。
状況は傾いた、自分にとって悪い方向へと。

ワルドは自問する。
 〝これは決定的な敗北であるのか?〟
その疑問に対する回答として、ワルドは確固とした意志で立ち上がった。
表情に、敗者特有の負の情念は一切見受けられない。
「いいや。負けてなどいない」
そう、負けてなどいない。
ウルザは倒せなかった。アルビオンは不可侵の領域ではなくなった。

だが、 『ただそれだけ』である。

アルビオンは未だ健在。自分自身もここに健在。
であるならば、何をもって負けだと言うのか。
むしろ必殺だったはずの一撃を受けてこの被害。これはウルザとしても本来想定していた戦果からはほど遠いはず。
ならば互いに失敗しただけではないか。
アルビオンがハルケギニアから遊離した状態であったのを元の次元に引き戻されたのは痛手だが、それにしたところでラ・ロシェールでの貸しを返されたに過ぎない。
付け加えるなら、地を這う蟻のような存在に、アルビオンをどうこうできるはずがない。
よって条件はまだ五分と五分、戦いは始まったばかり。
ワルドの思考はそのように帰結した。



空間を転移すると、そこには既にウルザがいた。
上空八千メイル。
地上はもとより、連合軍、アルビオン軍の交戦空域、アルビオンの浮遊空域よりも更に更に高い空。
そこで二人のプレインズウォーカーは対峙した。

「加減はどうかな、ウルザ。私の方は万全だけれども」
強い風に髭をたなびかせ、帽子を押さえて軽い調子で話しかけるワルド。
着ている服は白一色に染め上げた、魔法衛士隊の制服。
堂々とした佇まい。
一方ウルザは強風に煽られながらも髭一つとして動いていない、まるで風の方が彼を避けているように。
その服は古めかしいローブ、手には滑らかなつやを見せる金属製の杖。
威厳を感じさせる静かな佇まい。
「悪くはない。君を捻るには十分すぎるほどだ」
抑揚を押さえてウルザは言った。

最初に仕掛けたのはまたしてもワルド。
空間跳躍でウルザの後方へと回り込み、杖から丸太ほどの太さの熱線を迸らせて背中を狙う。
大気を焼きながら迫る熱線に対し、ウルザは熟練の船頭によるオールを捌きのような淀みない動作で、杖を手の中で一回転。
その動作を鍵として、杖に封じされた防御の魔法が発動し、ワルドの熱線はベクトルを狂わされ、上空へ昇っていった。

ウルザ――転化してから四千年を過ごした超大なる経験と力を有するプレインズウォーカー。
一方ワルド――転化して間もない、歩き出したばかりの赤ん坊のようなプレインズウォーカー。
両者の経験の差は歴然としており、それは子供が大人に挑むよりも無謀である。
だが、その差を埋めてなおあまりある存在がワルドの左手には埋め込まれていた。

最初の呪文が不発に終わったことに特別に反応を示すこともなく、ワルドはウルザの周囲で、頻繁に空間跳躍を繰り返す。
そうやってウルザの補足を逃れながら、その手の中にあるモノを操作した。
『接続』
口にした単語に反応して、ワルドの左手にあった球体から小さく光が零れた。
神経を繋げたコアが、演算を開始する。

ワルドを補うのは、暗黒の次元ファイレクシアの叡智。
ウルザが生まれる遙か以前、古代スラン文明に紀元を見ることのできるファイレクシアの蓄積された知識が、ワルドの盾であり矛であった。

演算一瞬、それを理解できる形に変換してコアはワルドに情報を伝達する。
そうしてコアから最適な魔法構造が、ワルドの内へと流れ込む。
完璧な構造体から導かれた完全な術式。
ワルドは己の計略の成功を確信して、ニヤリと笑った。
「まだまだ宴はこれからだ!」
声を大にして叫ぶと、ワルドは手にサーベルを模した杖を呼び出すと、それをくるくると回し、宙で舞を躍るようにして周囲の空間にマナを刻みつけて魔法を編み始めた。
大型の魔法儀式の兆候。
無論、そのような動作が隙でないはずがない。

ウルザが動いた。
これまで動くことのなかったウルザが疾風の速度で飛翔し、軽やかにワルドとの距離を詰める。
一方ワルドにとってもその行動は織り込み済み。
宙を滑ってアクセルスピン、描いていた『陣』の一部を利用して、炎で形作られた九頭の蛇を迎撃として呼び出すと、ウルザとの距離を離すべく後退する。
全長にして百メイルはあろうかという巨体が、ウルザとワルドの中間に姿を現す。
一つの胴体に九つの蛇の頭、その全てが炎で形作られている魔獣。
それがウルザに襲いかかる。

九つの猛火が伸びて次々迫るが、ウルザはそれらを巧みにかわしながらワルドを追う。
ウルザの目的は術の妨害、魔獣を相手にする必要はない。
しかし、振り切ったはずの炎は、向きを変えて追いすがるようにしてウルザを追尾する。
かわしても、かわしても追いかけてくる。
ここに至って『意志を持った炎』を相手に振り切れないと判断したウルザは一転、杖を掲げて迎え撃つ姿勢を取った。
炎が迫り、熱波が周囲を焼く中、ウルザは口早に呪文を唱えて、次元の向こう側から予め準備していた武装を召喚した。
喚び出されたのは片手剣・大剣・槍・矛・斧・矢・杖、それら七つの機械武器と、鎧一組。
そしてウルザが両手を顔の前で交差させると、七つの武具が目にも留まらぬ早さで飛び出した。
一つ、二つ、三つ四つ五つ六つ七つ。
宙空に光の軌跡を描いた武具が、次々に蛇の頭に突き刺さって炎を四散させていく。
けれど、放たれた武具は七つ、迫る炎は九つ。打ち消されなかった二つの炎蛇が左右からウルザを飲み込もうと肉薄する。
その牙が己の肉体を捉える直前、ウルザは左手で背中にあった大剣を抜剣。
「待ちくたびれたぜ相棒!」
歓喜の声を上げながら振るわれたデルフリンガーが、蛇頭の中心に突き刺さった。
デルフリンガーが膨大な火をものすごい勢いで吸い込んでいく――が、間に合わない。
魔剣が炎を食い尽くすより早く、残った一尾の奔流がウルザの体を丸呑みにした。

意外な展開にワルドも片眉を上げる。
ウルザがいた空間には何も残っていない。炭も残さず消滅したのか?
時間稼ぎにと召喚した炎のエレメンタルが思った以上の働きをしたのだろうか。

 いいや、そんなはずがない。

ワルドの確信じみた直感。
その正しさを証明するように、次の瞬間炎の蛇が膨れ上がり、内部から破裂した。

火の粉が舞い散る中心にいたのは、機械でできた鎧を装着したプレインズウォーカー・ウルザだった。



さて、突如として上空に巨大な浮遊大陸が姿を見せ、プレインズウォーカー達が激闘を開始したとはいえ、それが地上及び空中の戦闘に大きな影響を与えることはなかった。
地上では相変わらず連合軍が亜人や死人達と戦い、対空戦力の無力化を図っている。
空中では連合軍の空軍戦力がアルビオン側の空軍戦力を押しており、ゆっくりだが着実に歩を進めている。
だが、それも全体的にみた場合のこと。
戦場の一画に、たった一騎の驚異的な活躍により、連合軍の進軍が抑えこまれている空域があった。

「ふんっ!」
筋肉に包まれた太い腕の中で、ゴキリッという音がした。
その『一騎』であるところの男、メンヌヴィルが新たなる戦果を生み出したところであった。
首をあり得ない方向に曲げた騎士を放り出して、メンヌヴィルは跳ぶ。
竜から竜へ、その背を伝わって移動しては、直接騎乗している騎士を葬る。
そんなことを繰り返して、周囲に展開していた竜騎士達を一掃してしまったメンヌヴィルは、一息をつくべく竜を操って進路を自陣に向けた。
確かにメンヌヴィルの働きで連合軍はその歩みを鈍らせた。
だが、それでどうなるという訳でもないということを分からぬほどに、メンヌヴィルも若くは無かった。

『メンヌヴィル……メンヌヴィルよ……』
と、突如として転進するメンヌヴィルの耳元で大音響。さしもの伝説の傭兵も、これには思わず耳を押さえた。
正確には彼の頭の中に直接話しかけてきているため、そのようなことに意味はないのだが、そんな細かな理屈は彼にとってはどうでも良い。
「竜殿かっ!? 相も変わらずやかましい魔法だなこれはっ! もう少し静かに話していただきたいっ!」
つられて応えたメンヌヴィルの声も大きくなる。
その魔法がどういった類のものか分からなかったが、こうして離れた場所にいる赤青の韻竜と話すことができる魔法なのだと彼も理解していた。彼からすればそれで十分。彼は、物事はシンプルであればあるほど良いと思っている類の人間なのだ

『メンヌヴィルよ。お前にアルビオン内に侵入した鼠の駆除を頼みたい』
抗議の声を無視しての大音声に顔をしかめながら、メンヌヴィルが問いかけた。
「……駆除だと? 中にいる亜人や機械どもにもそのくらいできるだろう」
『念には念を入れる、という言葉がお前達にもあるのだろう? 要はそれだ』
ガンガンと頭に響く大声に、メンヌヴィルは無駄に言葉を重ねる愚を悟り、早々にこの会話を切り上げることにした。
「俺は一兵卒だ。頭を使うのは人に任せる。以上だ!」
そう言って強引に会話を打ち切った。

メンヌヴィルは言った、『自分は一兵卒』であると。
だが、彼はそう言いながらも、ただ人に従っているだけでは生き残れないということを知っている。
従順なだけの『犬』は、戦場では長生きできないのだ。

指示に従うべく、竜の手綱を引いて進路を変更する。
視界が上へと持ち上がっていく。
その途端、正面に捕らえていた大型戦艦が火の手を上げた。
そして、あれよあれよという間に黒煙を上げ、最後には爆発四散してしまう。
その船は、先ほどの通話が無ければ補給を受けるために立ち寄る予定だったフネだった。

「……どうやらまだ運は俺を見放してはいないようだな」

言って、メンヌヴィルは犬歯をむき出しにして笑った。


                        頭が九つもあるというのは厄介極まりない。かかる手間が九倍だ。
                                     ――伝説の傭兵 メンヌヴィル

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