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ジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア-23


23,烈風

ワルドがのんきに笑っている間、カリーヌ・デジレと現マンティコア隊の訓練は熾烈さを増していた。
一人、また一人と風にあおられ、マンティコアと共に空高く吹き飛ばされる。

「どうしたというのか!それで終わりか?」

烈風の風は止む気配が全くない。先ほど吹き飛ばされた現隊長、
ド・ゼッサールが勇敢にも突撃した。瞬間、彼は風に舞う。
今回の終了条件は、カリーヌに一撃でも攻撃を浴びせること。

「遅い!」

また200メイル上空まで吹き飛ばされる。ちゃんと死なないように、
カリーヌは地面に当たる瞬間、彼を魔法で少し浮かせてから落とす。

「…きょ、教官殿。も、もう動けません」

マンティコアと共に倒れている誰かが悲痛そうに訴えた。まだ新人の様である。

「甘えるな!王家に危機が迫っていても、その様な事を言えると思っているのか!!」

泣く子も黙る王宮衛士隊。グリフォン隊の様な華やかさは無いが、
マンティコア隊は規律だった連携による多重攻撃が売りである。
全て見切られ、全員がマンティコアごと吹き飛ばされるなんて。
烈風の伝説は本当だったのか。新人はそう思い、
また風に吹き飛ばされて気絶した。


伝説。それは語られていく内に微妙に変わっていき、
尾ひれ背びれが付いて、最終的にまるで違う話になるのが常である。
もちろん、彼女は王宮勤めであるから公式な記録が残ってはいる。
たった一人で火竜山脈のドラゴンを鎮圧したとか、
エスターシュの反乱を正規軍が来る前に鎮圧したとかがそれだ。

しかし、それらは一般平民からしてみたら酒の肴に話す、
ちょっとした笑い話である。
いくら貴族といえども流石にそれは誇大過ぎる。
宣伝の為に王家が作ったお話だろう。というのが彼らの言い分だ。

実際には尾ひれどころか、皮がはがれ身が落ち、
骨だけでスイスイ泳ぐ伝説であるとも知らず。

実は武芸にも秀でていて、1個中隊から魔法を使うという話があるが、
非メイジの2個中隊までなら魔法を使わなくてもどうにかなるらしい。
弓矢や鉄砲、そして大砲の弾を剣で弾いたり切ったりしながら、
突撃して兵士をなぎ倒していく様を、武器屋の親父は見たそうだ。
何故彼が引き分けに持っていけたか?
埋もれてしまった伝説は、いつか明らかになるだろう。

火竜鎮圧の際、たった一人で向かったと言うが、
珍味である極楽鳥の卵を一度食べてみたかったから、
休暇の折りに行ってみただけである。
勿論、鎧なんて装備しないラフなスタイルで。


季節がたまたま火竜の繁殖期であった為、
そこら辺の火竜が暴れて死なないように、
ドットスペルで気絶させながら極楽鳥の巣まで行った。
途中、季節の関係上ガイドを雇えなかった為に迷ってしまったが、
なんとか卵を取って宿泊している町に帰ってみると、
何故か付近の町や村の人々に感謝された。

王宮に戻ってみれば、王直々に竜殺しの二つ名に改名させられそうになった。
しかし彼女は今の二つ名が気に入っていたので、

「いえ、今の烈風で十二分にございます」

と訳の分からぬまま前王にキッパリと言い、
それでこそ貴族の鑑よ!と言わしめさせたのだ。

ちなみに、時期が悪かったのか卵はあまり美味しくなかったそうな。

王宮は、ガリアに恩を売ったことにする為、
この件を火竜鎮圧の任により、火竜山脈に向かわせた事にしたのだ。
ガリアからしてみれば、示威行為である為どうにかしたかったものの、
火竜達が人里に寄りつかなくなった事と、
たった一人で火竜山脈を制覇した烈風に恐れを抱き、
ただ感謝する他なかったという。

トリステイン王は、その気になればハルケギニア全土を手にする事も出来ただろうが、
持ちすぎる事による弊害を良く理解していた。
それ故、彼女を使って上手い具合に外交を進めて、
トリステインを今の地位に置いたのである。
ただ一言「最近、『烈風』がな…」と言えば、大抵他国は条件をのむものだった。

娘はアルビオンの皇太子とでも結婚させるつもりだったのだ。
結ばれるだろう二国間の同盟を、破砕出来るほど強大な戦力を投入する戦争は滅多にない。
聖戦でもあれば別だが、いくらロマリアでも王家にそんな事はしないだろう。
そう考えて、あまりアンリエッタには政治について学ばせなかった。

ガリアによると、烈風一人を沈黙させる為に、
10年分の国家予算を軍事費にする必要がある。
という結果が出たこともあるらしい。嘘か誠かは分からないが、
それほどのメイジであることだけは間違いない話である。

カリーヌ本人からしてみれば王家に忠誠を誓っているのだから、
それらを誇らしげに思っていた。彼女は戦えなくなるまでマンティコア隊にいようと思い、
尚更日々鍛錬に励んだという。

そんな彼女が何故結婚したのか?現ヴァリエール公爵の、
熱烈すぎるアプローチに仕方なく折れたからだ。


立とうとする者が、いや、息をするので精一杯なマンティコア隊を見て、
カリーヌは訓練の終わりを言い渡した。父上の訓練はもっと凄かったけれど、
死なれると困りますからね。そんな事を思いながら、
自分の使い魔と共に訓練場を去ろうとした時だった。

誰かの悲鳴がかすかに聞こえた。マンティコアと共にそこへ急ぎ駆けつける。
衛士隊の宿舎、グリフォン隊の隊長室の窓下。
グリフォンに乗ったワルドが、気絶したアンリエッタ姫殿下を連れて、
どこかに飛び去ろうとしていた。


何故だ。ワルドは自身の計画を確認して実行に移した。
瞬間的な当て身による気絶。姫殿下は女官の死体に気付く前に倒れた。
か細く悲鳴をもらされたが、こんな声を聞かれるはずがない。
退散するか。と杖を手放したアンリエッタを抱えて、
外に待たせてあるグリフォンに乗って飛ぼうとした時、

「何をしているか!ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド!!」

振り向けば烈風がいた。怒りに燃える彼女と、
共に修羅場をくぐり抜けたのだろう、使い魔のマンティコアが吠える。
グリフォンは恐れおののいた。ワルドはどうにか耐えようともがいた。

「は、ハハハ…」

そういえば、最近マンティコア隊の訓練の後が凄まじい事になっていたな。
この人ならそれくらいするだろうな。ああ、始祖は私に死ねというのか。

伝説を前にどう立ち向かうか。今、ワルドは崖っぷちにいた。


「これがリコールか。いや、初めて見たよ」

タムリエル中央、シロディールより外に出た事が無かったマーティンは、
東部地域のモロウウインドで、実際に行われているという転移魔法を初めて体験した。
転移とはどのような物かをある程度理解できたが、
しかしそう簡単に使える様になったりはしない。
ちゃんと魔法構成を教えてもらわなければ習得なんて出来ないし、
転移の魔法はとても複雑で、『神秘』系統の熟練者でなければ使えないのだ。

この系統はかなり謎が多い。これに属する魔法は、
訳が分からないからこれにしておこう。といった風に置かれた物もある系統で、
未だに魔法の結果が何故そうなるのか、あまり分かっていないのだ。
そして根気強く新魔法の実験をしても、瞬間的に結果内容が変わる事すらある。
最近、いくつかの魔法が別系統へと移行した事からもその複雑さが分かるだろう。

そんな理由で、神秘はほとんどのメイジが研究を嫌がる魔術系統であり、
現在の政策と文化的な理由から魔法への理解が浅いシロディール地方では、
それらについての専門的な学習が出来ない。

その為、モロウウインドではアイテムに付呪されるくらいよく使われる、
マークとリコール(Mark and Recall)の使用が一般には未だ禁止となっている。
機密と治安はもちろんのこと、市民が納得する安全性の実証が無い限り、
帝国議会はシロディールでの使用を認めるつもりはない、と表向きには表明している。
別の場所に姿を現したときに、果たしてちゃんとした状態で現れるのか。
それが帝国議会と魔術師ギルドの論争の焦点となっている

確たる証拠の提示を求める帝国議会側と、統計的にモロウウインドで保証を得ているから大丈夫。
とする魔術師ギルド側。帝国は最初から採用する気が無いため、まだまだこの論争は続くだろう。

『神秘論』という本に神秘系統について詳しく書いてあったけれど、
さて、どんな内容だったかな。メイジとして、
良く使われる神秘系統の魔法以外はほとんど覚えていないし、
それの研究なんてマーティンは一切やった事がなかった。

「ええ。私が使える訳ではありませんが、ノクターナルの付呪の効果を発動させるくらいなら、問題なく扱えます」

フォックスは跪いて答え、それにならい他の乗組員達も跪く。


タムリエルに住み、一般的な読み書きを行える知能を持つ種族なら、
誰でもスクロール(巻物)に書かれた魔法や、アイテムに付呪された魔法を使うことが出来る。
それを使える程の魔法力が無くても、品物に込められた魔法力が肩代わりしてくれるのだ。

「い、いや、まぁとりあえず立ってくれるかい?」

やはり慣れない。皇帝としてより、一般市民として過ごした時間の方が、
遙かに長いマーティンは跪かれたりした事などほとんどないのだ。
緊急事態だったあの時はともかくとして、
今みたいな時にやられるとどうにもむず痒くて仕方がない。

「ははっ!」

曇王の神殿を思い出す。ブレイズとの温度差の違いで苦労したな。
やっぱり私なんかが皇帝になってはだめだ。と思いながら背筋をピンと張って立つ、
グレイ・フォックスとその一同を見た。何故かルイズまでしている。
後の方に彼女たちが見えた。無事で良かったと思いながらマーティンは言った。

「ルイズ。君までしなくていいから。というより皆さん。普通に立ってくださって構いませんから」

空気的にやるべきかと思って。と真顔でルイズは言った。
他の連中もいつものだらけた雰囲気に戻る。
グレイ・フォックスが号令を発して、彼らは荷物を運び始めた。
彼が一礼をして去った後、マーティンの後から声が聞こえた。

『有名人はつらいな。竜の子よ』

いつの間にか起きたらしいノクターナルが言った。
どうにも、マーティンはデイドラ達の間でも名が知れているらしい。
デイドラ王子の一神、メエルーンズ・デイゴンを撃退したのだから当たり前だろうか。

「ええ、全くです…ところで、その、プリンス・ノクターナル?」

あなたがここにいると言うことは、ここはあなたの領域ですか?
そうマーティンは聞いてみる。ノクターナルは首を横に振った。

『否。ここはエセリウスとオブリビオンの狭間。いつ出来たのか、どこの誰が創ったのか我は知らぬ』
「そのような世界があるのですか?」
『我が知る限りではこの地のみ。されど、殆どのデイドラは自身の力ではこの地に来ることすら叶わぬ』

竜神アカトシュがタムリエルに施した物よりは弱いが、
それに似た制約がここにもあるらしい。

『故に、ここで己の力によって来ることが出来るデイドラは、
シシスが生み出した純正な存在のみ。
その上で、この地での信仰か、何らかの影響を持っておらねば入る事が許されぬ。
この地の誰かに呼び出されるのであれば別であろうがな。
我は頭巾を奪いし者が信仰を集める事によって、この地にいる事を許されている。
入ってしまえばある程度好きに出来る。まこと不可思議な制約よ』

どこかで灰色頭巾の男がため息をついた。テファに服を渡さなければ良かったと何度後悔したのだろうか。


『されどこの地は面妖なり。この地の定命の者達を殺せば、
「マラキャス」が造ったメイスの如く、我らは力を無くし、
オブリビオンの最下層にまで送られてしまうのだ。
それ故、ここにデイドラの主が現れる事は滅多に無い』

「あの時、思いっきり殺ろうとしていなかったかい?」

影の中に、イザベラを入れようとしたのをフーケは思い出して言った。

『我が領域に飲み込んでからな。それならばおそらく問題は無かろう。
不可思議なのはこの地の制約。我こそが法である我が領域内ならばあの程度、どうという事はない』

「んじゃ、何であんな事言ったのさ」
『決まっているであろう。格好良いからだ』

やっぱりこいつぶん殴りたい。そう思いながら頭を抱えるフーケを余所に、
そろりと、ルイズはノクターナルに向かって手を上げた。

『何用か?竜の子を使役する者よ』
「えーと…色々教えて欲しいのですけれど…その、ノクターナル様?」

全くルイズはついて行けない。プリンス、女じゃない。
ていうより誰よシシスって。マラキャスって何。それのメイス?
純正って事はそれ以外もいるのかしら?ていうより、狭間ってなに。
それじゃ私たちってなによ一体。いえ、それよりこんなのが本当に王族なのかしら?

置いてけぼりをされている彼女からすれば、至極当然な考えであった。

「まず、何故王子なのでしょうか」

『我らの性など、定命の者達からすれば特に意味はないのであろう。
常闇の父より生まれし我らは、皆かの方の子。
故にシシスを王として考え、我らを王子とする定命の者の呼び名よ。
実のところは、王子と呼ぶべきでない者も、
同じように扱われているのだ。嘆かわしいことにな』

それがさっき言ってた純正とは違う存在なのかしら。ルイズは質問を続けた。

「ええと、そのシシスとは一体?」

『我や多くのデイドラを創りし存在。常闇の父とも言われるお方。アヌイ=エルの対となりし混沌その物。
定命の者には、蛇の形をして無秩序を示す何かとしても知られているな』

シシスってデイドラ…なの?ていうより何なのアヌイ=エルって。
ルイズは、聞けば聞くほど墓穴を掘っているような気分になった。

「アヌイ=エルとは、アヌの事でしょうか?プリンス・ノクターナル」

マーティンからしても、色々と発見があるらしかった。
そういえば、デイドラの王と話す機会なんて滅多にないとか言ってたわね。
ルイズはそう思いながら、ノクターナルの口が開くのを待った。

『お前達やいくらかのデイドラはそう呼ぶ。だが、我はアヌイ=エルと呼んでいる』

マーティン曰く、アヌは最初に存在した二神の内の一神らしい。
詳しくは後で話すと言った。


「そしてパドメイはシシス、か…」

いや、何なのパドメイって。ルイズは少々怒りながらマーティンに言った。
さっきから話がごちゃごちゃし過ぎているのだ。少しずつ解説して欲しいものである。

「私たちからしてみれば世界が生まれる前に、アヌと争ったと言われる存在さ。
デイドラの生みの親だけど、デイドラではないと言われている存在なんだ。後で昔から伝わる伝記を教えるよ。
それが正しい物ではないのだけれど、知っておかないと何がなんだか分からないんだ」

彼はルイズに自国の神話を教えてはいない。そもそも賢い彼女に教えたらどうなるか。
神話だからつじつまが合わないのだが、それをそういうものだと理解してくれるか疑問だった。
こっちの創造神話は知らないが、タムリエルのそれは色々と解釈し難い部分が多い。

マーティンは神学者ではない。一介のメイジから、色々あって街の司祭になった人物である。
その為、神々については一般人よりも詳しいが、神々の生まれはそこまで詳しくはない。
メイジだった若い頃はそんなことより力を求めていたし、
それを恥じて九大神教団に入信した後は、一般的に知られる神話を近所の子供達に教えたり、
教会にやって来る人々に説法を説いたりして過ごしていた。
神の力を恐れ、踏み込んで学ぶ事をやめたのである。

そんな訳で自分がいたシロディールの事や、友と行った数々の洞穴や遺跡についての事、
それとこっちの魔法について食事時や寝る前等に彼女と話して過ごしていた。

「ほんっとうにややこしいのね」

頭を抱えてルイズは言った。ハルケギニアの神話に慣れ親しんできた彼女は、
全く違う世界の全く違う神話について言われても、頭の中での整理がつかない。
むしろ今まで聞いてきた物と混じって余計に頭がこんがらがってしまう。
そもそも、神話が全て真実だとは思っていない。ルイズは別段何も無ければ頭の良い子である。
神の存在に関する疑問は当然持っていた。魔法の恩恵が無いのだから尚更である。

だが、ここに生き証人らしき存在がいる。少なくともマーティンはそれだと言っている。
ならばさっきからの話は真実なわけで。神話なのに全部本当って…と頭を抱え込みねじらせながらルイズは考え込む。

「ああ、神話だからね。本当かどうかすら分からないよ。
デイドラやエイドラがいる以上、それに似た事があったのは間違い無いのだけれどね」

マーティンはそう言ってデイドラについて、
解釈の仕方で分かりやすくするために嘘を言ってすまなかった。
と悩むルイズに謝った。

後で話すのは『子供向けアヌの伝記』
神々の関係性を考える時に、最も分かりやすい物語である。
その内容が、本当かどうかを別にして考える必要性を除けばだが。

古い伝説を語る定命の種族はいない。もう昔過ぎて、皆死んでしまったからだ。
タムリエルに点在する、墓場の幽霊達に聞くのも悪い選択では無いが、
先史以前の神話期等の話は期待できないだろう。
そんなに長く留まっているのは稀で、特に世界が生まれる以前の話というのは、
定命の存在自体がいなかったのだ。


語ってくれるだろうエイドラにせよデイドラにせよ、
その内容は主観が多分に入る上に、アカトシュの造った障壁によって、
どちらとも生半可な技術では呼び出すことが出来ない。

帝国はエイドラである九大神を国教としているが、
デイドラを信仰している帝国領の国も多数ある。
どちらが真実かは、確かめようがないのだ。
ハルケギニアが生まれるよりも昔の事だから、
語る事が出来る存在達も多くを忘れているだろう。
出番が欲しそうにカタカタと鳴っている剣の様に。


グレイ・フォックスの号令の下、盗賊達は順調に荷物を運んでいる。

頭の中で今の話を整理しようとするルイズだったが、
どうにも上手くいかない。当たり前な話だが、
上手く整理させる材料が少なすぎるのだ。マーティンはノクターナルと話を続けている。
帰る事が出来るかどうかについて聞いているらしい。

邪魔するのも悪いわよね。そう彼女は考えて、
後でマーティンから伝記とやらを教えてもらってからと思い直し、
タルブの村を見回してみる。見知った二人が船の近くで寝そべっている風竜に乗っていた。
そういえば、さっきもこの竜が物を運んでいたわね。
そんな事を思いながら難しい話はひとまず置いて、船を降り竜の方に向かう。
疲れて眠っているらしい竜の上から声が聞こえた。

「あら、生きてたの?」

そう言ってキュルケは笑う。タバサはルイズからしてみればいつも通りの表情に見える。
何も言わず、彼女はキュルケに抱きしめられていた。ルイズは竜を上ってキュルケへ近づき、
ふん、と意地悪そうに笑った。

「おあいにく様。そう簡単にヴァリエールの女は死なないのよ」
「へぇ。悪運強いのね」

優しい笑みを浮かべられながら、ルイズは頭を撫でられた。悪い気はしない。

「これから依頼成功の宴をするんですって。アルビオンの王子様とかもいるから、あんたも参加しなさいな」
「へ?今、何て」

少し間を空けてルイズは聞き返す。口をあんぐり開け、いかにも驚いているといった表情で。

「知らないの?この人達が来た理由って、それらしいわよ。お姫様に頼まれたんですって」

姫さま…と、ルイズは思った。私には何も言いませんでしたよね。
アンリエッタの事を思い、信用されていなかったのねと悲しくなるルイズであった。


「ノクターナル様。お話が」
『何用か?我の頭巾を奪いし者よ』

一通り運び終えたグレイ・フォックスは、ノクターナルに話しかけた。
話の終わったマーティンはルイズの方へと歩いて行った。
おそらく、ルイズに伝記を教えにいくのだろう。

「最後の一つを忘れておられます」
『本当に、返すのだろうな?』


彼女が返して欲しがっているのは灰色頭巾。
シエスタの祈りよりも、打算的にノクターナルは動いていたのだ。
神様といっても祈れば動く訳ではない。デイドラ王子というのは、
それ相応の報酬か、必要に迫られたしたくもない雑務か、
楽しい暇つぶしにならないと動きはしないのだ。

「ええ、必ず返しますとも」

グレイ・フォックスは笑って言った。手にはいつから持っていたのだろうか。
変わったピックを携えている。ノクターナルはローブのポケットを漁り始めた。

『いつとった』
「さて、何の事でしょうか?」
『話が違うぞ!我を謀るというのなら…』

いくらお前と言えども、と言おうとして邪魔が入った。
いつのまにかそこにいた、麗しき影の君である。

「落ち着いて下さい。ノクターナル様」

営業用の黒いローブとフードに身を包んだ彼女は、穏やかにそう言った。
運ばれてきた王家の二人を見て、ただならぬ雰囲気を感じ取り、
急ぎ彼女は船へと行ったのだ。ちなみに、誰にもバレてはいない。
美麗ながら気配を消す才能がある。夜の女王に影認定を受けるのは、
伊達ではないといったところか。

『我が影よ!この者は契約を違えたのだぞ?他のデイドラにそれをすれば魂を抜き取られても文句は言えぬ』

荒々しいままに言うノクターナルを、ティファニアは優しく受け流す。
この姿で行う王都での様々な活動は、彼女を熟達の弁舌家に仕立て上げた。
いつもの姿ではほぼ発揮できないのが残念な点である。

「麗しき我らが守護者である夜の女王ノクターナル様。あなたはとても優しく慈愛に満ちていらっしゃいます」

ぐ、とノクターナルは黒一色のテファを見た。案外、ほめられるのに弱いらしい。

「ですから、定命の存在のちょっとした『悪戯』を笑ってお許しになられます」
『し、しかしだな我が影よ。これには領域を持つデイドラの面子というものが…』

ノクターナルは後の方を口ごもりながら言った。テファが優勢の様だ。
グレイ・フォックスはそこに割って入った。

「偉大なるデイドラ王子ノクターナル。確かに私は返すと言いましたが、
何を返すかまでは言っておりませぬ。ですから、この『不壊のピック』(Skeleton key)
をあなた様に返したとしても、契約の不履行とはなりませぬが…」

そこまで聞いて、ようやくノクターナルははめられた事に気が付いた。

『…やはりお前は口が上手いな。我の頭巾を奪いし者よ』
「お褒めいただきまことにありがたく思います」
「さぁ、ノクターナル様。最後の一仕事が終われば宴ですから頑張って下さい!」

ため息をついて、ノクターナルは影に消えた。それを見て、ふぅ。とティファニアは息を吐いた。
そして冷たい目で灰色頭巾の男を見る。怒りの視線をフォックスに投げかけつつ口を開いた。


「あの方を騙すのはあまり良い事とは思えません。コルヴァスさん」
「とはいえ、お姫様の要求がそれだからな。仕方ないだろう?テファ」

連れて来たら出来る限り早く会わせて下さい。そうアンリエッタは涙ながらに叫んだ。
その気迫は間違いなく王家のそれであった。もっと違う所で発揮してくれれば言う事はないのだが。

「それでも、私たちを守ってくださる方を騙すのは良くない事です」
「ああ、そうだな。だが、この頭巾を取って俺が誰かを分かるのは君だけだ。そうだろ?」

おそらくはルーンの効果なのだろう。彼女だけは彼を「コルヴァス・アンブラノクス」として、
常に認識できる。

「なくなればどうなるか。分かるか?妻や友人、その他多くの顔なじみに声をかけて無視される気持ち」
「それはそうですけど、ちゃんと頼んで誰も傷つかずに済む方法もあったはずです」

テファの強い口調に、コルヴァスは押され気味に言った。

「まぁ、それはそうなんだが。アレを動かすとなるとな…」

それを聞いてティファニアがかっと口を開く。元々正義感が強い方なのか、
ローブを纏った彼女は義賊的な美徳は許しても、不義を許す気は一切無い。

「アレって何ですかアレって。崇拝すべきお方だって言ったのはあなたですよ?
だいたいコルヴァスさん。スキルニルは別にしても最近お金の使い方が荒っぽいです。
皆に配る分まで使ったりしていませんよね?それに…」

お説教とも言えるテファのお話は、彼女に気付いた盗賊達が、
自分たちの戦果を報告に来てからようやく終わった。
間違いなくそこに佇む灰色の変な頭巾をかぶった親父より慕われている。
やっぱり、盗賊ギルドの長は彼女なのかもしれない。

俺、何で怒られたんだろう。ちゃんと運んで来たってのに。
若かりし頃の妻を思い出す。手癖が悪いことをよく諫められたな。
はぁ、とため息を付く。今日はヤケだ。飲むぞ。たくさん飲むぞ。
影の君の後をトボトボ歩くグレイ・フォックスの背中は、
一仕事を終えたにしては哀愁が漂いすぎていた。


その頃、アンリエッタ。

「は、離しなさい!もう足掻いてもどうにもならない事は分かっているのでしょう!?」

気絶から覚め、彼女はグリフォンから逃げようと必死である。
ワルドは、落ちた時を考えて高度を上げる事も出来ず、微速前進で進むしかなかった。

「嫌だ!今離したら僕が終わる!終わってしまう!!」

ワルドはワルドで、そんな姫殿下を降ろすまいと必死である。
至近距離からの烈風とその使い魔の咆哮があるのだ。
必死にならない人間はいない。

変則的な動きでグリフォンを翻弄するマンティコアが一体。
それに乗る人も一人。魔法はまだ使われない。
強力過ぎる為に、どう狙っても姫殿下を巻き込んでしまうからだ。

「今ならまだ間にあう!早々に姫殿下を離し、投降せよ!!」


嘘だ。絶対嘘だ。その目は離したと同時にスクウェアスペルを叩き込む気の目だ。
彼女の「しつけ」なら見たことがある。ずっと昔ルイズを訪ねた時に見た。
何で子供を空高く吹き飛ばす必要があるんだ!
あれでもまだ加減していると公爵は言っていた。本気なら確実に消される。間違いなく。

だが、どうする。ええいままよ!とワルドはグリフォンを加速させて高度を上げ、
アンリエッタを投げ飛ばし、出来うる限りの最高速度で逃げ去った。
種族的に、マンティコアよりグリフォンの方が速いはずである。
それに賭けてワルドは逃げ出した。

「姫殿下!」

ワルドを追いかけたかったが、姫殿下の命が最優先である為、
空から落ちるアンリエッタへと急いだ。当然、彼に魔法を放ってから。
先に遍在でも仕掛けておけば良かったのだが、
刺激して自暴自棄になられるともっと危険だと判断したのだ。

レビテーションの魔法をかけ、ゆっくりと落ちるアンリエッタを掴もうと近づき、
後少しで手が触れるというところだった。
カリーヌは、突然現れた影にアンリエッタが飲み込まれるのを見た。
そして影が消えると、そこには何も残っていなかった。

ワルドは奇跡的に魔法から逃れられたらしい。もう視界から消えていた。
自身の腕が鈍った事をカリーヌは痛感しつつ、後からやってきた衛兵達に状況を説明し始めた。



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