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毒の爪の使い魔-16b


出発から二日…
その後は何事も無く、ゆるゆると使い魔の空の旅と、ジャンガ以外の使い魔の主人の馬車の旅は続いた。
途中、ラグドリアン湖の近くを通りかかった。
水は引いているようではあったが、直ぐに元通りとはいかないようだ。
おそらくは増水にかけたのと同じ時間、二年をかけて戻していくのだろう。
ジャンガはそんなラグドリアン湖を見下ろしながら、フンッと軽く鼻を鳴らし、寝転んだ。

「ついたのね。早く起きるのね、きゅい!」
「ン?」
ジャンガはシルフィードの声に身体を起こすと、シルフィードから身体を乗り出し、見下ろす。
眼下には、立派なつくりの大名邸が見え、その入り口の前で馬車は停まっていた。
馬車からタバサとキュルケが降り、真っ白な髪に真っ白な髭を蓄えた一人の老僕が出迎えている。
ジャンガは三人が屋敷に入るのを見計らってシルフィードから飛び降りた。

地面に降りるや、ジャンガは直ぐに屋敷の中へと潜り込んだ。
外見から想像していた通り、邸内も隅々まで手入れが行き届いており、とても綺麗であった。
だが、静か過ぎる。注意しなければ靴音が響き渡るくらいの静寂だ。
モット伯の屋敷は人の声や靴音の他、様々な生活を感じさせる音が響き渡っていたが、
こっちは静寂に包まれ、まるで自分以外は誰も居ないかのような錯覚を起こしそうである。
(こんなに広い屋敷で、まるっきり人が居ないってのはどういう事だ?)
ジャンガは屋敷の様子に首を捻ったが、気にしない事にし、タバサ達を探す。
何度目かの角を曲がった時、先の方で扉が開いた。素早くジャンガは身を隠す。
出てきたのはタバサだった。扉を静かに閉めると、そのまま道の奥へと消えていく。
何処へ行く気だ?と、後を追おうとしたが、タバサが消えた方と反対側から別の気配がしたのを感じた。
素早く飛び上がり、天井へと張り付く。気配は先程の老僕だった。
老僕は紅茶の入ったティーカップのを持っており、タバサが出てきた扉を開け、中へと入っていった。
ジャンガは床に降り立つと、扉の前に移動し、音を立てぬように扉を少しだけ開け、中を覗き見る。
中ではキュルケと先程の老僕が話しをしているのが見えた。

「このオルレアン家の執事を務めておりまするペルスランと申します」
老僕=ペルスランはキュルケに恭しく礼をした。
キュルケも自分の名を告げる。
「私はゲルマニアのフォン・ツェルプストー、お世話になるわ」
「シャルロットお嬢様がお友達をお連れなされるなど思いもよりませんでした」
シャルロット…その名前にキュルケは尋ねた。
「シャルロットがあの娘の本名なのね?」
「は?」
ペルスランはキュルケの言葉に、一瞬唖然とした表情を浮かべた。

扉の外でジャンガは、なるほどと頷いていた。
(シャルロット……それがあいつの本名か…)
視線を戻すとキュルケからペルスランは何事かを聞いているようだった。

「そうですか……お嬢様は学院で『タバサ』と名乗っておいでなのですか…」
「どうして偽名を使って留学してきたの?あの子、何も話さないのよ」
「留学はお嬢様の伯父である国王の仰せです」
キュルケは驚きの表情を浮かべる。
「伯父?やっぱり…あの子は王族だったのね」
「シャルロット様のお父上…今は亡きオルレアン公は現国王の弟ぎみでした」
その話にキュルケは悲しそうに顔を伏せる。
「そうだったの…、お父様はお亡くなりに…」
キュルケの言葉にペルスランはせつなげな溜息を漏らした。
「…殺されたのです」
「え?」
顔を上げるキュルケ。
「お嬢様が心許す方なら構いますまい。ツェルプストー様を信用してお話ししましょう」
ペルスランは深く一礼し、語りだした。
「オルレアン公は王家の次男でありながら長男のジョゼフ様よりも魔法の才に秀で、何より人望と才能に溢れた方でした。
五年前…、先王が崩御された時に、どちらが王の座に相応しいか、という事で宮廷が真っ二つに分かれてしまったのです。
そんな醜い争いの中…オルレアン公は謀殺されました。狩猟会の最中に胸を下賎な毒矢で射抜かれて…。
しかも、ご不幸はそれに止まりませんでした」
ペルスランは胸をつまらせるような声で続ける。
「ジョゼフ様を王位につけた連中は将来の禍根を断とうと、今度はお嬢様を狙いました…。
ある晩の事…お嬢様と奥様は晩餐会に招かれました。そこでお嬢様はある貴族から飲み物を手渡されたのです。
しかし、それには心を狂わせる水魔法の毒が仕組まれておりました。
奥様はそれを知り、お嬢様の手からその飲み物を奪うと自ら口にされました。
…事は公になり、その貴族は断罪されました。奥様は自らを犠牲にしてお嬢様を庇ったのです。
以来…奥様は心を病んだままです、お嬢様の事もお嬢様と解りません…。
そして、奥様が心を病んだ日から、快活で明るかったシャルロット様は別人のようにおなりになりました。
…まるで、言葉と表情を自ら封印されてしまわれたような。しかし、それも無理からぬ事…。
父が殺され、更に目の前で母が狂えば、誰でもそのようになってしまうでしょう…」

話を盗み聞きしていたジャンガは鼻を鳴らす。
(殆ど喋らず無表情な人形のような言動…、親の事を馬鹿にした事であいつがあんなに怒った事…、
そして復讐を考えている事…、なるほどなァ…こう言うわけか)

ジャンガは思い返した。

――学院の最初の授業で、爆発から退避するべく教室を離れたタバサとの初めての接触。
人形のような無表情、必要な事意外は口にせず…人と関わろうとしない言動。

――召喚されて間もない頃にあった、ヴェストリの広場での決闘。
親を侮辱された事に対する、命乞いをする相手に容赦の無い魔法を繰り出すほどの殺気に近い怒り。

そして…その一見無表情な碧眼の奥に浮かぶ憎しみと復讐の感情。
それらの理由がこれでハッキリした。

ペルスランの話は続く。
「奥様の事があって、表立ってお嬢様を亡き者にしようという輩はいなくなりました。
その代わり…王家はお嬢様の魔法の力が強い事を理由に、困難な…生還不可能と言われる任務を
言いつけるようになったのです。ですが、お嬢様はこの理不尽な命令を全て完遂させました。
ご自分と奥様の身を守る為に…命がけで」
キュルケは言葉を失い、ただ呆然と老僕の話に耳を傾けるだけだった。
「…あの子がトリステインに留学した訳は?」
「思惑通りに行かぬ王家は本来なら領地を下賜されてしかるべき功績にもかかわらず、
シュヴァリエの称号のみを与え、厄介払いの如く…外国へと留学させたのです」
そこでペルスランは一旦言葉を切った。
「お嬢様は『タバサ』と名乗っておられる。そうおっしゃいましたね?」
「ええ」
「『タバサ』とはお嬢様が奥様にプレゼントされた人形に付けた名前なのです。
お忙しい身の上の奥様が、お嬢様が寂しがられないようにと…手ずからお選びになった人形でした。
お嬢様は、それはとても喜ばれまして…『タバサ』の名を付けて、妹の様に可愛がられておりました。
その人形は…今現在、奥様の手の中。心を病まれた奥様はその人形をお嬢様と思い込んでおられるのです」

そこまで話を聞いたジャンガは、扉を閉めるとタバサが消えた方へと向かった。

屋敷の一番奥の扉の前に立つや、中から女性の叫び声が聞こえてきた。
「王家の回し者め!私とシャルロットを亡き者にする気!?」
ジャンガは扉を慎重に開き、中を覗き込む。
大きく、殺風景な部屋だった。手前のベッドと奥の窓際に置かれたテーブルと椅子以外は何も無い。
その椅子には痩身の女性が座っていた。髪は伸ばし放題で、やつれた顔は実際よりも二十は年老いて見える。
その腕には人形が抱かれていた。…おそらく例の人形だろう。
その女性=母の前でタバサは跪き、頭を垂れていた。

母は怯えた子供のように人形を強く抱きしめ、目を爛々と光らせて実の娘を睨み付ける。
「おそろしや…、この子がいずれ王位を狙うなどと…、誰が申したのでありましょうか?
私達はただ静かに暮らしたいだけなのです…」
そこまで言うと、母はテーブルの上のスプーンを掴み、タバサに投げつけた。
タバサはそれを避けようとしない。スプーンが頭に当たり、床へと落ちる。
「この子は…シャルロットは私の大事な娘です…」
そう言って母は抱きしめた人形=『タバサ』に頬擦りをする。愛しい娘にするように、何度も何度も繰り返す。
今までも何度も何度も繰り返したのだろう…、『タバサ』の頬は擦り切れ、中の綿がはみ出していた。
タバサは頭を垂れたまま口を開く。
「貴方の夫を殺し、貴方をこのようにした者どもの首を、いずれここに並べに戻ってまいります。
その日まで、貴方が娘に与えた人形が仇どもを欺けるようお祈りください」
タバサは静かに立ち上がり、母を見ながら寂しげな笑みを浮かべた。
「また会いに参ります…母さま」

「”母さま”ねェ~?……キキキ、笑っちまうぜ」

唐突に聞こえてきた声に反射的に振り返る。
いつの間に入ってきたのか……扉の前に立つ人影にタバサの表情が僅かに強張った。

「ジャンガ…」

「最初に面合わせた時もそうやって俺の名前を呼んだっけな…?キキキ、懐かしいゼ」
ニヤニヤ笑いを顔に張り付かせたままジャンガはタバサを見据える。
「どうしてここに?」
「キキキ、なァに…お前が親友と何処かへお出かけのようだからな。ちょいとあの竜の背中を間借りしたのさ」
「何者!?王家の新たな回し者!?」
タバサの後ろで母が恐怖に駆られて騒ぐ。
それにジャンガは射抜くような視線を飛ばす。
「あ…、う…」
途端、母は静かになる。恐怖に震え、助けを求めるように…、すがり付くように…、『タバサ』を抱きしめる。
「……」
母を庇う様に、一歩前に出たタバサの身体から冷たいオーラのような物が滲み出る。
”今すぐ出て行け”…そんな意味が込められているようだ。
そのプレッシャーにも動じず、鼻で笑うジャンガ。
「おいおい…そんなに怖い顔するなよ?ちょっとした挨拶で来ただけなのによォ~」
「……」
「そう邪険にする事も無ェじゃねェか……なァ、シャルロット?」
自分の本名を呼ばれ、タバサの顔に動揺の色が浮かぶ。
「どうして?」
「さっきな…、お前の親友の雌牛と迎えのジジイが話をしてるのをちょいと盗み聞きしただけさ。
――名前以外にも色々聞いたがよ、…苦労してるみたいだなァ~?」
「……」
タバサは答えない。
「あの高慢ちきな小娘の命令にホイホイ従っているのも母ちゃんを守る為か…、健気だねェ~。
――そして、その一方で復讐の機会を窺っていると…」
話を続けながら、静かに一歩、一歩、歩み寄る。
「たった一人で復讐を成し遂げようと、任務をこなしながら魔法の腕を日々磨くか…、ご苦労な事だゼ。
…まァ、無理だろうけどな」
ジャンガのその言葉にタバサの眉が、ピクリと動く。
「何故、そう思うの?」
「キキキ。さて…どうしてだと思う?」
「言って」
「いいじゃねェかよ…そんな事はよ?」
ジャンガは顔から笑みを消す。

「――人形がご主人の母親に抱かれる事なんざ、無いんだからよ?」

ジャンガの言葉にタバサは僅かに怪訝な表情を浮かべる。
「どういう意味?」
「言ったまでの意味さ…。テメェは『タバサ』なんだろ?テメェの後ろにいる奴の娘は『シャルロット』なんだからよ」
「母さまは今、心を病んでいるから、私の人形を私と思っている。だから――」
「だから?親に自分を認めてもらえないから、元に戻るまで人形でいる事を選んだのか?
ハンッ!だったら、テメェは『タバサ』だ!ただの人形だ!テメェでそれを選んだからにはな!そして……」
そこで、ジャンガは母を爪で指し示す。
「そいつが握っている人形が『シャルロット』だ!」
ジャンガはタバサに視線を向ける。
「解ったか?そいつはもう娘を抱いているんだ。人形の…『タバサ』のテメェが入り込む余地は無ェんだよ。
テメェはただ…テメェのご主人、『シャルロット』の怒りと憎しみを晴らそうとする人形なんだよ」
タバサの表情が曇る。
「違う…」
タバサがようやく搾り出した言葉を聞き、ジャンガは「はァ?」と眉間に皺を寄せる。
「何が違うんだ?本来の『シャルロット』は明朗快活な少女だったと聞いたゼ。…なのに、テメェはどうだ?
人形みたいに無表情、必要な事以外は話さないし…人付き合いもしない、それで…いつも一人でいる。
まるで別人じゃねェか…?明朗快活って言葉が、暗い人間を指し示すんでもなければな。
だから、テメェは『タバサ』なんだよ。『シャルロット』じゃねェんだよ!何にも違わねェんだよ!!」
「違う!」
珍しくタバサが叫んだ。
しかし、ジャンガは止まらない。
「あの爺が言ってたゼ!『シャルロット』の母ちゃんは娘を庇って自ら毒を飲んだってな!
身を挺して娘を庇ったんだ、泣かせるじゃねェか!!娘を愛してる証拠だ!なのに……」
そこで言葉を切り、ジャンガは爪をタバサに突き付ける。
「テメェは…その母ちゃんの行動を無駄にしやがった!復讐なんて”バカらしいほどに無駄な”事を考えた為にな!」
「バカらしい…?」
タバサは唇を噛み締める。自分と母がどれほどの苦しみを味わったか知りもしないで、こいつは何を言うんだ?
そんなタバサを見てジャンガは目を見開き、嘲笑う。
「キーッ!キキキキーーーッ!!傑作だゼ…傑作!これほどまでに親の愛情を踏み躙った奴は始めて見るゼ!
……いや、二人目か?まァ、いいけどよ!…にしても、本当に良かったよな?」
「何が…?」
「テメェの親が狂っていてよ!?今のテメェを見ないでもらえて良かったじゃねェか。
母ちゃん狂わせてくれた貴族には、礼の一つでも言ってやったほうがいいんじゃねェか?
キーーーッ!キキキキキーーーッ!!!」

――もう限界だった……



――気が付けば、タバサは『ウィンディ・アイシクル』をジャンガ目掛けて放っていた。



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