あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

アクマがこんにちわ-13


「まあ、それでは人修羅さんは異国から来られたの?ハルケギニアの地図にない国だなんて、とても遠いところからいらしたのね」
「遠いですよ。そりゃもういろんな意味で遠いです」

ヴァリエール公爵のの屋敷で、人修羅はカトレアの部屋に呼ばれ、他愛もない話をしていた。

噂でしか聞いたことのない東方の話ということで、カトレアの質問が続く。

二人を見守っているのが、カトレアの部屋に集まった大蛇や犬や猫や小型のバグベアーやら……とにかく沢山の動物達。
彼らはカトレアのお友達らしい、馬車で領内を移動する時は、馬車の中にお友達も沢山乗り込むのだとか、その様はまるで移動動物園だろうか。

それにしても、蛇の上にカエルが乗っていたり、ワシやフクロウがネズミを背に乗せて飛んでいる。
「お前ら動物の本能はどうした」と言いたかったが言っても意味がないので笑うことにした。

「トリステインとゲルマニアでも様式が違うのに、もっと遠いところから召喚されたのでしょう?生活にも混乱があったでしょう、大変でしたわね」
「いやあそこら辺はルイズさんが良くしてくれますし、オスマン先生も気遣ってくれましたんで、不便ではないです」
「あらあら、それじゃあルイズにもずいぶん気に入られたのね」
「そうなんですかね?」

ははは、と人修羅が笑う。
カトレアという人物は、髪の毛の色や顔立ちこそルイズに似ているが、胸が……じゃなくて物腰や態度がまるで違う。
子供の頃から体が弱く、家族に守られていたせいか、刺々しいところや貴族の気負いが感じられない。
会話しているだけでも癒される気がした。

ふと、もう一人の姉、エレオノールの姿を思い出す。
きっと彼女は、病弱な妹や、魔法が使えない妹の前に立ち続けていたのだろう、貴族にしか解らない重責や、妹を庇うために、ずっと気を悩ましていたのに違いない。

そんな事を考えていると、扉の向こうから”ドタドタドタドタ”と足音が聞こえてきた。
気のせいか「お姉様待って!」とか「カトレアが毒牙に!」などと聞こえてくる。

ドン!とぶち破らんばかりの勢いで扉が開かれる。
「こ、こ、この悪魔め!ルイズばかりでなくカトレアを毒牙にぃッ!!」
「お姉様ー!違うんです、違うんですってば!」

そこに居たのは、ものすっごい形相で人修羅に杖を向けるエレオノールと、その足にしがみついて引きずられてきたルイズの二人だった。

「まあ姉様ったら、そんなに慌てなくても人修羅さんは逃げませんよ」
「カトレアッ!だまされちゃダメよ、私は見たのよ!そいつは何か良く解らないけど変な黒い影を沢山連れてる怪しい危なそうな奴よ!」
「エレオノールお姉様、それはオールド・オスマンも確認して」
「だまらっしゃい!ええい、成敗してやるわーーッ!」
「お姉様ってば~!」

昨晩の厳粛な食事風景が夢だったのかと思わせるほど、エレオノールは取り乱していた。
「あらあら、にぎやかで楽しいわね」

そう言って微笑むカトレアは、姉妹の仲で一番大物なのかもしれない。



◆◆◆

ルイズの必死の説得により、一応の落ち着きを取り戻したエレオノールだが、相変わらず人修羅に厳しい視線を向けていた。

ベッドに腰掛けるカトレア、その直ぐ手前に立つ人修羅、更に人修羅の脇で心配そうにカトレアを見つめるルイズ。

そしてそれらを睨んでいるのが、エレオノールである。

「話を聞かずにディティクトマジックを使った私にも非はあります。精霊を従えているという事で納得しましょう。ですが…もしルイズに、カトレアに害を与えたら、絶対に許しませんよ…?」
そう言いつつも、手には昨日人修羅から預かった治癒魔法の結晶体を握っている。
研究する気はマンマンのようだ。

人修羅は思わず苦笑いを浮かべた、隣ではルイズも苦笑いで人修羅を見ていた。
「ええと、ミス・エレオノール。オールド・オスマンは、系統の違う治癒の力がカトレアさんの治療に役立つのではないかと期待して、帰省許可を出したんです」
「ええ、それはルイズからも聞いたわ」
「ですが治癒を約束できる訳じゃないんです。決して害は与えませんが、何の成果も得られなくとも、怒らないでくださいよ」
「それも理解しているわ。とにかく貴方がどんな魔法を使うのか解らないと意味がないの。そうね……とりあえず、カトレアのペットに魔法を」

エレオノールが、部屋の隅でこちらを見ている数匹の動物を指さす、するとカトレアはハッキリとした声で異を唱えた。
「お姉様、ここにいる皆は、お友達ですわ」
「……カトレアのお友達で試しなさい」

お友達と言い直したが、人修羅の魔法を試させることに躊躇いはないようで。聞いている方は思わず冷や汗を流した。
「いいんですか?」
「ルイズの使い魔をしてくれる貴方が、悪い人のはずがありませんわ」
にっこりと微笑むカトレア、それに合わせて猫や犬や鳥やウサギが合唱のように鳴いた。

ぽりぽりと後頭部をかきつつ、人修羅が動物たちに目を向け、小声で呟く。
「…『アナライズ』」

すると人修羅の視界に、もう一つの視界が重なった。
動物たちの持つ個別の生命力や特技が、時にはそのまま、時には比喩的なイメージで頭の中に浮かんでくる。

「あのバグベアーはコロって名前で、水や氷に強そうですね。あと精神力が強くて『眠りの霧』にはかかりにくそうですね」
「こっちの小鳥は、まだ名付けられてないのか…あ、怪我をしていたんですか?ちょっと生命力の器がハッキリしているけど身が少ない…全快時より1/10程体力が減ってますね」
「一番大きい蛇さんは、鱗に隠れて見えないけど、かなり怪我が多いかな…あれ?意外と寒さに強い。なるほどミズチの眷属なのか…この子に嘗められると怪我の治りが早くなりそうですね」

ボルテクス界では敵の弱点を分析する時しか使わなかったが、こうして使ってみると意外なことまで解る。
病気の原因が解るかは微妙だが、集中して何度も行えば、かなり細かいところまで解析できそうだった。

一通りの解析が終わると、カトレアは嬉しそうに微笑んだ。
「凄いわ。まだ教えてないことまで解ってしまうのね。ねえエレオノール姉様。私は人修羅さんに診察して頂きたいと思うわ。だから人修羅さんに怖い顔をしないであげて」

「……解ったわよ」
エレオノールは、ちょっと拗ねたように唇をとがらせて呟いた。



◆◆◆


「………………」

人修羅は『アナライズ』による診察の途中、ルイズとエレオノールに協力を願った。
二人の体と比べて、カトレアの体にどのような違いがあるか、またそれによってどんな影響があるのかを具体的に知るためであった。
しかし「胸を比べる気か」と誤解したエレオノールとルイズに睨まれ、冷や汗を流す羽目になる。

ボルテクス界では、敵の弱点を知るために用いていた『アナライズ』だが、意外にも病気の診察にも効果的らしい。
そもそも『アナライズ』を使わずとも、自分と仲魔の状態異常は理解できていたのだから、『アナライズ』を併用すれば人体の診断も難しくない。
人修羅は直接カトレアの背中に手を当てて、そこから感じられる微細な違和感を探った。


三十分ほど経過したところで人修羅による診察が終わる。


「まず確認したいことがあるんですけど…カトレアさんは、体のあちこちに水の淀み…つまり病が起きるんですよね?」
人修羅はこぢんまりとしたテーブルを挟み、エレオノールと向かい合って座っていた。
「ええ。そのたびに水系統のメイジに頼んで、治癒を施させているわ」

「つい最近、下腹部のあたりが弱まりませんでした?なんかつい最近治療を受けたような気がするんですけど…」
人修羅が自分の体の部位を指で示しながら、カトレアの体から違和感を感じた箇所を伝えた。
「他には?」
エレオノールは人修羅を試すような言い方をする。
その隣からルイズの熱い視線。
まるで「恥かかせんじゃないわよ!」と聞こえてきそうな程の気迫がこもっている。

人修羅は二人の妖気を身に受けつつ、カトレアの状態をエレオノール達と比較して説明した。
それにしてもエレオノールの視線は厳しい、妹を思うあまりなのか、それとも学者肌なのか、食い入るように、殺気が混じってるんじゃないかと錯覚するほどの視線を向けてくる。

人修羅も医学に詳しいわけではない。
人間の生命そのものと言えるマガツヒを食らい、魔力を行使して魔法を行使し、生命力を燃やして様々な種類の技を操ってきた。
生前には医者や鍼灸師だったという思念体から習ったり、崩れ落ちた本屋で拾った『よくわかる家庭の医学』やら『奇病・難病スペシャル』を読んで得た、いわば付け焼き刃の知識しかない。

一通り説明し終える頃にはと、人修羅のおでこに緊張の汗が浮かんでいた。


「つまりカトレアの体は窒息寸前の状態だと言いたいのね?」
説明を受けたエレオノールが、腕を組んだまま呟いた。

「はい。お二人と比べると、カトレアさんの呼吸動作には差違が無いんですが、一回の呼吸で得られる活力が少し低いんです」
人修羅が肺の輪郭をなぞるように、虚空で手を動かす。
それを見てエレオノールは、あごに手を当てて俯き、うぅんと唸った。

「続けますね。人間の血液中には呼吸で得た酸素を運ぶ”赤血球”ってのがあるんですけど、それを作り出す骨の内側が、ルイズさんと比べて流れが速いんです。何と言うか、未成熟なまま血が流れていく感じで…」

「それはつまり、カトレアは血がその役割を果たしきっていない…という事かしら」
「ええ。これは血の病というか、血を作り出す器官の病、そんな風に感じました」


エレオノールは無言で、また考え込んでしまった。
今度はエレオノールに代わり、カトレアと人修羅を見守っていたルイズが口を開く。

「ねえ人修羅、貴方の魔法で治せないの?」
「うーん…俺の知っている魔法は怪我を治すのには抜群なんだけど、この手の病気にどれぐらい効果があるか怪しいんだよな……たとえばさ、そこにティーカップがあるだろ」
人修羅がティーカップを指さす。
「人間の残存生命が紅茶だとする。怪我や疲労でどんどん消費され、0になると人間は死んでしまう。俺の魔法は器に紅茶をつぎ足すようなものなんだ」
ルイズがティーカップをちらりと見て、頷く。
「けれども人間の生命力には、個人差がある。それが器の大きさだ、カトレアさんの場合器がルイズさんより小さい、継ぎ足しても容量を超えると零れてしまう」

カトレアの生命を入れた器は、ルイズの半分以下にしか感じられなかった。
それを正直に言って不安を募らせてはいけないと思い、人修羅は慎重に言葉を選んだ。

「そうなの……」
ルイズが残念そうに肩を落とす、と今度はエレオノールが口を開く。
「それは、カトレアの体は、私たちより弱くできている、しかもその状態が正常だと言いたいの?」
あまりにも直球な発言に驚き、人修羅は口ごもった。

「人修羅さん、貴方の思うように言ってくださいな、私に遠慮はいりません」
人修羅のとまどいを察したカトレアが呟く。

「……じゃあ、言わせて貰います。カトレアさんの体が弱いのは、自然なことなんですです。
だから水系統の『治癒』だけでは根治にならない。
エレオノールさんと、ルイズさんの間で毛の色が違うように、人間は両親から少しずつ特徴を貰って生まれてきます。
祖父母や曾祖父母、もっと前の人たちから少しずつ受け継いでいます。
カトレアさんの場合は、偶然、血を作る力が弱いという特徴を受け継いでしまったのかもしれないです。
根治を目指すには『治癒』ではなく『強化』の考え方も必要だと思います」

エレオノールは人修羅の言いたことが解ったのか、静かに口を開いた。
「カトレアの体は、『弱い状態が正常』だと言いたいのね?それなら『治癒』だけでは原因解明ができなかった理由として一応の説明が付くわ」

隣では、ルイズが膝の上で両拳を握りしめ、俯いていた。
「ねえ人修羅…貴方の魔法で、カトレア姉様を治すことはできないの?」

「俺の魔法じゃ無理だ。でも、手段が無いわけじゃない。俺が使っていたアイテムの中に、『ソーマ』という霊薬がある。
『アミターパ』『アムリタ』『無量寿光』『甘露』『生命』『エリクサー』って別称でも呼ばれるんだけど、それなら遺伝病だろうが先天性のものだろうがお構いなしだ」

はっ、とエレオノールが顔を上げた。
「貴方の国では、その薬で血の病が治る前例があるの?」

相変わらず厳しい目を向けるエレオノールに、人修羅は執念と呼べる物を感じた。
「そこら辺は大丈夫、人間が用いれば、先天的な病や欠損も治してしまう究極の薬だからな。仲魔達のお墨付きだよ」

強力な敵と戦いで幾度となく命を落としかけた人修羅だが、その危機をソーマによって救われていた。
アクマにとってのソーマは『最良の薬』とされているが、人間にとっては『不老不死の妙薬』だという。
もし入手できれば、ならばカトレアの体にも効果があるのではないだろうか。

「でも、人修羅は元の世界に帰れないんでしょう?」
ルイズがそう呟いて、カトレアを見た。
カトレアは相変わらずにこにこと笑顔を浮かべているが、いつの間にか膝の上に猫を乗せていた。

「…ソーマが無ければ根治は難しい。だから、別の方法で治癒を続ける」
「その方法とは?」
エレオノールが身を乗り出した。
「昨日、エレオノールさんに渡した、あの結晶です」

◆◆◆


エレオノールは呼び鈴で侍女を呼び、結晶をカトレアの部屋に持ってくるよう言いつけた。
すぐさま、赤く塗られた木箱が運ばれてくる。
ちょっと大きめの重箱に見えるそれは、内側が絹製のクッションになっており、傷の付きやすいものを保管するのに使われているようだった。

人修羅は、昨晩のことを思い出してまたもや微妙な気持ちになる。
自分の感覚では、ズボンのポケットに無造作に放り込んでも良い物だと思っていたが、ハルケギニアのメイジから見れば非情に重要なアイテムになりうるらしい。

「この結晶をどう使うというのかしら」
純白の、これまた絹製の手袋を着けて、結晶を摘むエレオノール。
「適当に枠を付けて、ネックレスにすれば大丈夫です」
「これをネックレスにするの…まあ、大きさは問題無さそうだけど、どういった原理でこれがカトレアの治癒に役立つのかしら」

「それはオールド・オスマンと、ミスタ・コルベールの協力を得て作成したんですが、一度傷を付けると少しずつ魔力が溶け出してしまうんです」
「溶け出す?」
「ええ、結晶に込めた治癒の力が少しずつ溶けて、身につけている人へと生命力を補充し続けるはずです」
「…そうか、これは風石と同じように、消費することでその力が一定の範囲に拡散するのね?」
「その認識で良いと思います」
「もう一つ聞くわ、安定性はどの程度?これにはかなりの力が込められているみたいだけど」
「魔法学院の外壁に叩きつけても壊れないので、かなり安定していると思いますよ」

その時外壁を貫通したことまでは喋らない事にした。


エレオノールは結晶を箱にしまうと、席を立って人修羅に向き直った。
「解りました。貴方の診察にはある程度の体系付けがなされているようです。また着眼点もアカデミーの研究内容に通じる物がありますわ。
我々の研究では証明されぬ部分があるので、その点は仮説と判断させて頂きますが、それでも治癒術としてはかなりのレベルにあると認識しました。貴方の考案を受け付けましょう」

そう言って、エレオノールは微笑みを浮かべた。
厳しそうな目つきは相変わらずだが、ほんの少し嬉しそうな口元が、新たな発見と考察による満足感を表している気がする。
ルイズもそうだ、先ほどとは違い、目を輝かせている……
年が離れてても姉妹なんだなあ、目元なんか本当にそっくりだ。

「そう言って頂けるとありがたいです。一応魔法でカトレアさんの体力を回復しておこうと思うんですけど、どうしましょう」
そんな人修羅の言葉に三人が賛成した。
「ええ、是非お願いするわ」
「お願いしますね、人修羅さん」
「人修羅、お願い」

「んじゃあ早速……『ディア』!」
人修羅の手から放たれた光がカトレアを包む、緑色に光るそれはカトレアの体に浸透し、疲労を取り除き、傷を再生させ、活力を与えた。

「あっ…」
水系統の治癒とは違う、体の芯から活力がわき出すような感覚に驚き、カトレアは思わず声を上げた。
「カトレア?大丈夫?」
心配したエレオノールは『ディティクト・マジック』を使いカトレアの体を調べた。
水の系統を得意としている訳ではないが、それでもカトレアの治癒のため必死に鍛錬し、ある程度は検査できる。

「ううん……なんか、体が熱くなるみたい。どう言ったらいいのかしら……体の内側から暖まるような気がするわ」
そう言ってカトレアが笑顔を見せた、エレオノールはカトレアの体に生命力が満ちていると分かり、杖を下げる。
「大丈夫みたいね」
「ええ。でも不思議ね、水系統の治癒と違って、体が軽くなったような気がするわ」

「それじゃ、しばらく様子を見ましょう」

エレオノールの言葉で、この場はお開きとなった。

◆◆◆



診察の後、人修羅は侍女に先導されゲストルームへと通された。
テーブルの上には、デルフリンガーが寝かされ、そのほかの私物は机の側にまとめられている。

昨日はルイズの使い魔ということで、平民の従者が泊まる部屋に案内されたのだが、この部屋はどう見ても貴族向けの一級品の部屋だ。

人修羅は適当な椅子に座ると、顔を天井に向け、口を開けた。
「あ゛~~~~」
『おおう、どうしたんだそんな声出して』
「デルフよ聞いてくれ、最初は『解析』だけをするつもりだったんだ。オールド・オスマンとの話でもそうだった。
でも実際にはどうよ、夕べは賓客という寄り使い魔扱いで、この部屋よりもっと小さかったろ?
それが診察を始めたらエレオノールさんは根掘り葉掘り聞いてくるし…って当たり前だよな、妹の命がかかってるんだし、俺って自分で言うのも何だけど怪しいし。
とにかくアナライズを何度も何度も使って今までロクに見てこなかった部分まで注視したよ、どうせなら仲魔を召喚して診察して貰おうかと思ったけど今の俺は召喚できないだろ!?
もう俺の知識だって限界はあるしさあある意味アクマと会話するより緊張するっての!
それはともかくさあ、俺はちょっとショックなんだ」

『何が?』
「死者蘇生の魔法を持っていても、先天性の病気を完治できない」
『相棒よ、それは高望みしすぎだぜ』
「やっぱりそう思う?」
『たりめーよ、何でもかんでも出来たら、ブリミルみたいに引っ張りだこだぜ。そしたら助けを求めて人が集まってくる、んで、その中にゃ相棒の力を利用する奴が出てくるぜ絶対に』

人修羅は椅子に座り直し、テーブル中央に置かれたデルフリンガーを手前に引き寄せた。
「なんだ、力を利用されるとか、そんな話がデルフから聞けるとは思わなかった」
『それがさあ、ちょっと思い出したんだよなあ、ブリミルを慕ってた弟子が居るんだけどよ、そのうち一人がこれがまたいけすかない奴で……』

デルフの話に興味を引かれ、人修羅がへぇと呟いたところで、コンコンとノックの音が響いた。



「ミスタ・人修羅。ヴァリエール公爵が、間もなくこちらにお見えになるそうです」
侍女はそう告げると、すぐに扉を閉じた。

『んじゃ俺黙ってるから』
「おい、デルフ!」

人修羅は慌てて服装をチェックし、デルフリンガーを壁に立てかけ、失礼がないよう心がけた。

数分後、白髪交じりの金髪を丁寧に整えたヴァリエール公爵がゲストルームへと姿見せる。


「ミスタ・人修羅。君には感謝しても足りない、ヴァリエール家に古くから仕えている水系統のメイジが、カトレアの体調を見て驚いていたよ、とても健康だとね」
「あ、ありがとうございます」

ゲストの元に足を運ぶ、つまり、ヴァリエール公爵は人修羅を賓客扱いしているのだろう、それに気づいたせいか人修羅の緊張もピークに達していた。
「しかし、それほどの力を持ちながら、君はルイズに仕えている、それが不思議でならん」
「そうですか?」
「ルイズに聞いたが、君はサモン・サーヴァントで呼び出されたそうではないか。召喚される前の生活に不満があったらしいが…」
「まあ、そんなところです」
「そうか。ではルイズの使い魔を続けてくれると考えても、良いのかな」
「たぶん、ルイズさんの寿命が尽きるまで、僕は生きていられると思います。それまでは……」

ヴァリエール公爵はうんうんとうなずき、満足そうに自分のあごを撫でた。
「ところで、君の国にはトリステインとは違う学問が発達しているそうだな、ルイズが言うには、ブシドーだとか、カガクだとか」

何か嫌な予感がして、人修羅の背中に冷や汗が流れた。
「は、はい」
「こう言ってルイズを励ましてくれたそうではないか、『失敗を経験した者を登用すべし』」

「ああ『葉隠』の一説ですね、そういえばそんな話したな」

「うむ。それだ、それを聞いたとき私は君を、ひいては君の国の文化性に驚かされたよ。
魔法の優劣にこだわり、貴族として最も肝心な治世を忘れた者にも聞かせてやりたい。
君の国の、サムライという…ハルケギニアで言えは聖堂騎士に近いのだろうかな、戒律を尊ぶ戦士だとか。
そういった話を聞いてみたい。ルイズに接している君が持つ文化性というか、ハルケギニア外に体系づけられた文化にも学ぶことがあるやもしれん」

「は、はあ、じゃあ何から話しましょうか……」

人修羅は冷や汗をだらだらと流しながら、顔を引きつらせぬよう気合いを入れた。


過剰な期待はしないでくれ!
俺は一般人なんだ!
俺は聞きかじりの知識しか無いんだーーーー!


…と叫びたくても叫べない。
人修羅の長い長い一日は始まったばかりである。



◆◆◆

公爵の質問攻めで、人修羅が精神的に疲れはじめたころ。
ルイズはカトレアの部屋で、二人きりで話をしていた。
二人並んでベッドに座り、ルイズがカトレアの髪の毛をすいている。

「ちい姉さま、体の調子は悪くない?」
「大丈夫よルイズ、貴方は心配性ね」
「人修羅、怖くなかった?」
「怖いはずないじゃない、貴方が召喚したんでしょう?」

ルイズは、後ろからカトレアに抱きつき、髪の毛に顔をうずめた。
「ごめんなさい…私、何もしてない、人修羅に魔法を教えて貰って、今度はカトレア姉様まで見て貰っちゃった…」

嗚咽が聞こえてくる。
カトレアはルイズの手を取って、優しく自分の手で包み込んだ。
「ルイズ、貴方の努力を知っているわ。私のためにどれだけ貴方が悲しんだか、私はいくら感謝しても足りないと思ってるの」
「で、でも、私まだ、魔法もほとんど仕えなくて、人修羅にばかり、使わせて」
「貴方がそうやって悩むのは、貴方が優しいからよ。その優しさを人修羅さんにも向けてあげなさい、あの人は貴方を必要としているの。だから召喚に応じたって、私に言ってくれたわ」
「…………」
「少しだけ、素直になってあげなさい、ね?」



◆◆◆ ◆◆◆

数時間前。

ガリアの北花壇騎士団を統率する、イザベラの私室。
「うぅ~ん……」
「ヒホー」

豪華な天蓋付きのベッドで寝ているイザベラは、額に汗を浮かべてうなされていた。
「うう…」
腹を枕代わりにされたヒーホーは、イザベラ程度の重さなど気にならないのか、寝息を立てて熟睡しているようだった。
「ヒホー」

さて、イザベラがうなされている理由は………

「何だこれはーーーっ!?」
霧深い森林の中で、イザベラはナイトドレスのまま両拳を握りしめ、雄叫びを上げた。
「ヒホ! イザベラちゃんも来たホー?」
「ああっ、ヒーホー!こ、ここは、何だいこれは!」

イザベラは、ぴょこぴょこと足音を立てるヒーホーを見つけ、飛び込むように抱きついた。
「おかしいホね、呼ばれたのはヒーホーだけのはずだホ」
「呼ばれた?呼ばれたってどういう事だい、ここは何なんだ?」
「ここはピクシーの住んでる泉の森だホね。この近くにスカアハの影の国があるホー」
「ピクシー?それって、妖精のことかい?影の国?いったい何なのさ、これは」

ヒーホーに抱きついたまま、きょろきょろと辺りを見回す。
霧の濃さはすさまじく、1メイル離れた樹木すら少し霞んで見えるほど、今ヒーホーから離れたら二度と会えない気がして、イザベラはよりいっそう強く抱きしめた。

「あら、ヒーホーったらこっちに来ちゃったの?」
ふと頭上から声がした、イザベラが顔を上げると、そこには蝶が…いや、蝶のような羽の生えた、小人が飛んでいた。

「なっ、ななななな、何!?」
「モー・ショボーだホ!久しぶりホねー」
ヒーホーが手を振って挨拶をすると、モー・ショボーと呼ばれた子人が二人の前に着地した。

「スカアハに呼ばれてるんだホね、影の城に行きたいんだホー。どうにかならないホ?」
ちょこん、と首をかしげるヒーホー。もちろんイザベラは抱きついたまま。

「それは知ってるけど……でも、その子はスカアハに呼ばれてないんでしょ? 私が影の城に案内しちゃまずいわよ」

「うーん、でもイザベラちゃんを一人で置いていくのは不安だホー」
「おおお置いて行くって!?やめてくれよ!あああ、あたしはこんなところで死にたくないよ!」

取り乱すイザベラを見て、モー・ショボーがくすりと笑った。
「大丈夫!ここで死んでも魂はピクシーになるだけよ。お友達が増えたら私も嬉しいんだけどなあ」
「ひー!」
イザベラは怖がってしまい、ヒーホーの体に顔を押しつけた。


モー・ショボーはイザベラの怖がる様子を見て、クスクスと笑っていたが、ざわりと森の気配が変わったのを感じ取り表情を変えた。

「あっ……」
「ヒホっ」

ヒーホーとモー・ショボーが、二人同時に同じ方向を向いた。

「ねえ人間さん!凄い事よ、貴方はこの世界に入る許可がないけれど、ヒーホーをお世話してくれたから、特別にスカアハが姿を見せてくれるって!」
「ヒーホー、助かったホー。イザベラちゃんもう安心だホ。泣きやむといいホー」
イザベラがヒーホーの体から顔を離す、微妙に目と鼻頭を赤く貼らして、ぐずっ、と鼻を鳴らした。
「本当に大丈夫なのかい、それにスカアハっていったい何なんだい」
「とっても強い女神様だホー」

ヒーホーの言葉が、不自然なまでに森に響く。
するとあたりを立ちこめていた霧がみるみるうちに晴れていき、周囲に立ち並ぶ木々がはっきりと見えるようになった。

そこでふと気づく、木々の隙間からは、木漏れ日一つ無い。
それどころか太陽らしきものが無いのに、あたりは昼間のように明るい。

自分が置かれている環境が、あまりにも不可思議なものだと気づいたイザベラは、ガバッと顔を上げて辺りを見回した。

いつの間にか、周囲の木々が見あたらなかった。
森の中に作られた直径30メイルほどの広場、その中心で、イザベラとヒーホーが立ちつくしていた。



ゆらりと、前方の景色が歪む。
歪みは景色をレンズのように押し広げていき、その中心から一人の女性が現れた。
黒色のマントと帽子を纏い、宙に浮かんだ状態で座している、神秘的と言うよりは破滅的な気配のする女性だった。

「あ………」
死ぬ。
イザベラは直感的にそう思った、自分は死ぬ、いやもう死んでいるのかもしれない、いやむしろ自分は死ななくてはいけない。
そう思わせるだけの圧倒的な、死の気配が漂っていたのだ。

「ヒーホー!スカアハ、元気だったホー?」
「貴方こそ元気そうで何より…この少女にずいぶんと気に入られたようですね」
「そうだホー、イザベラちゃんは優しいホー」
「ところでヒーホー、貴方の居る世界のことですが…」

立ちつくしているイザベラをよそに、ヒーホーとスカアハの話が進められる。

「その世界は既に受胎しています。受胎したまま肥大化した世界…まれにあるのです」
「貴方以外のアクマを、そちらの世界に送ることは出来ません、世界が許容量を超えて崩壊してしまうかもしれないのです」
「その世界に人修羅がいるはず、どうにかして人修羅に会うのです、彼もアクマを召喚できず難儀していると思いますから」
「アイテムは幾つか貴方に渡しておきます、役立ててください」

等々…

「解ったホ!ちゃんと人修羅に会って伝えるホー」
「お願いしますよ」
ヒーホーが右手を挙げて、大丈夫だと宣言した。
と、そこでヒーホーは、すぐ横で固まったままのイザベラに気が付いた。

「スカアハ!イザベラちゃんは魔法を上手になりたいんだホ! イザベラちゃんもお願いするといいホね!きっと強くなれるホ!」
ヒーホーがイザベラの袖を引っ張るが、反応がない。
それを見たスカアハは右手を胸の高さまで上げて、パチンと指を鳴らした。

「あっ」
意識を取り戻したイザベラは、自分がまだ生きていることに違和感を感じた。
自分はもう死んだはずでは無かったのか?では今目の前にいる人は何だ?

「落ち着きなさい。イザベラ。貴方はヒーホーをそちらの世界に誘い、不可能に近い召喚を無理のない形で実現してくれたのです。
貴方が召喚してくれなければ、我々もどれほど時間をかけたことでしょうか。それほどこの世界は遠く、そして世界は脆いのですから」

「は、はい」
イザベラは徐々に落ち着きを取り戻し、スカアハの言葉を租借して、必死に理解しようとする。

「その礼として……貴方に力を授けましょう。影の国に入る資格までは授けられませんが、この力を使って、いつか影の国にたどり着けることを期待していますよ」

スカアハはマントの内側、闇色の空間から一本の棒を取り出す、それは樫の木を削って作られた、長さ2メイルほどの杖であった。
無骨で飾りのないそれに、スカアハは指先で何かの文字を書いていく。

「え、力って、あ……」


イザベラの夢は、そこで終わった。





「………あぁぁぁぁああああああ!!???」
「ヒホッ!?」

叫び声を上げながら、がばっ、と跳ね起きたイザベラ。
枕代わりのヒーホーが急な衝撃に驚いて、体を揺らした。
「あ、イザベラちゃん、おはよーだホ」
「ああ……ヒーホー、ごめんね驚かせて、なんか嫌な夢を見た気がするよ」
「夢だホ?」
聞き返すヒーホーを抱き寄せて、イザベラが話を続ける。

「ああそうさ、霧深い森の中で変な奴が現れて…変な棒をあたしに渡したんだ」
「それ、夢じゃないホ!」
そう言ってヒーホーがベッドの片隅を指さす。
「え?」

ヒーホーが指さした先には、夢の中で渡された、長さ2メイルほどの杖が寝かされていた。



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