あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ご立派な使い魔-11


ルイズは夢を見る。
いつしか見慣れた夢だ。
幼い頃からの思い出。辛いとき、悲しいときに逃げ込んでいた、あの中庭の船の中で。
ルイズがここにいると、あの方はきっと手を差し伸べに来てくれる。
霧を越えて、船の中へ。羽根付き帽子を被った、あの人が。

「ルイズ。また泣いているのかい」
「子爵さま、いらしてたの?」

いつものように、羽根付き帽子と、それから……
それから?
どうした……ことだろう。
今日の子爵様の服装は、なんだかおかしい気がする。

「子爵さま? ……どうして、そんな暑苦しいコートを着ていらっしゃるの?」

真冬にまとうような厚手のコートを着用している。
コートにすっぽりと覆われた子爵の姿は、なんだか場違いに思えた。

「それはね、ルイズ」

子爵がコートの前を開き始める。

「……し、子爵さま?」
「これを君に見てもらいたくてね」

コートの下は。
……ああ。
なんでそうなるんだろう。

「ところで僕の(ルイズ聞き取れず)を見てくれ。こいつをどう思う?」
「凄く……ご立派です……」

コートの下から出てきたものは、つまり、その、なんというか


「ぶわあああああああああ!?」

ルイズは物凄い勢いで目を覚ました。
悪夢にも程がある。

「な、なんてこと……なんてことなの……」

とうとう夢にまで侵食してきたのだ。この、またしても部屋の中で震えているアレが。

「ど、どうした娘ッ子?」
「今……酷い夢を見ちゃったの」

部屋の傍らにあるデルフリンガーを見て、ルイズは辛うじて心を落ち着けた。
本当に、この唯一の理解者がいなければとっくに狂ってしまっていたのではないか。
元凶はその近くにある、緑色のアレのせいだが。

「もう一刻の猶予もないわ。これを滅ぼさない限り未来はない……」
「けど……よぉ。娘ッ子。一体、何をぶつけりゃいいんだよ?」
「それなのよ……」

剣では届かない。ゼロの自分も及ばない。ドットのギーシュも役に立たない。
そしてトライアングルのフーケですら……勝てなかったのだ。

「トライアングルでも駄目なら、それ以上しかねーけど……」
「スクウェアクラスをぶつけないと駄目ね」
「って言ってもなぁ。誰か、助けてくれそうな知り合いはいるのか?」
「……それは……」

スクウェアクラスのメイジなどそうそういるものではない。
ましてや自分の為に命を賭けて戦ってくれるなどと、そんな物好きなメイジなど。

「……いたわ。一人だけ」
「おお! 意外と人脈広いな、娘ッ子!」
「ええ。あの方なら、きっと……」

そう。
今しがた夢の中でえっらい目にあった子爵さまだ。

「ワルド。あの人なら、マーラだって倒してくれるはずだわ」
「そいつは期待できるのかい?」
「もちろん。本当に、頼りになるお方なんだから」

問題はどうやって依頼するかということだが、それはまあ、後で考えればいいことだ。
今この絶望的な状況の中で見えてきた希望。ルイズには、それにすがるしか手段はない。

「見てなさいよ、マーラ……今度こそ人類の意地を見せてやるんだから」
「頼める奴ならいいんだけどな。俺も期待するしかねーな……」

その時こそ、あの悪夢から解放されるはずだ。
もう夢の中まであんなモノに埋め尽くされる人生は、心底勘弁してほしい。
ルイズの偽らざる心情であった。


その頃、フーケはチェルノボーグの監獄の中で神妙にしていた。
近いうちに裁判云々というが、まあ、それはそれとして。

「まったく……やってくれたわね、あの使い魔」

あの時を思い出すと、屈辱と怒り、恥ずかしさとあとその、アレで非常に複雑な気分になる。

「同意がないならそれは犯罪なのに……ああ、まったく……」

思い出しているだけでも顔が赤くなってくる。
どうにも口にしがたい記憶となってしまったのだ。

「あー……やだやだ。寝よ」

そうして横になろうとしたら、こつこつと足音が聞こえてきた。
すわ、刺客かと思って体を起こすと、格子の向こうに仮面をつけたらしい男が立っている。

「こんな夜更けに……まさかとは思うけど。私はそう安い女じゃないわよ」
「何を勘違いしているのか知らないが。そこから出る気はないかね」
「出ようって思って出られるんならそんな簡単なことはないでしょ」
「確かに。だがお前がそう望むなら出すことは簡単だ、マチルダ・オブ・サウスゴータ」

捨てなければならなかった名前を呼び起こされる。
フーケは、にわかに警戒心をあらわにした。

「あんた、何者?」
「それについては追々話すがね。いずれにせよ我々にはお前の力が必要だ」
「私の力? どうしてまた」
「お前のゴーレムの大きさが必要なのだよ」

男は、ふう、とため息をついた。

「あのご立派に対抗するには、ね」


最近の学院はあからさまにおかしい。
食堂ではやたらに精の付くメニューばかり出てくるし、学院長はセクハラし放題だ。
いや、それは元々か……
いずれにせよ、ルイズにとっては不愉快極まりなかった。

「本当にもう、どいつもこいつも……」

率先して取り締まるべき大人の、その学院長が暴走してどうする。
貴族たるべきものの義務がどうにかなってるんじゃないか、と、実に不機嫌だ。

「またイライラしてるのね、ルイズ?」
「何よぅ」

キュルケの言葉にも、不貞腐れて返す始末。
ルイズの荒れっぷりは尋常ではない。

「わかるわ。欲求不満なんでしょう?」
「……はあ?」
「あんなご立派なモノと一緒にいながら、手も足も出せない状態……
 ずっとそれが続いているのだものね。欲求不満になってもおかしくないわ」
「何を……バカでしょ、あんた」
「いいえ。とうとうあのルイズにも大人への目覚めが始まった! って、喜んでいるところよ」
「こ……こここ、この、いいい色ボケツェルプストー!
 わたしを、あんたなんかと一緒にするんじゃないわよ!」

きーきーとやりあっていると、教室の扉が開いた。
そして入ってくる教師は、何故か非常に疲れた様子をしている。

「では授業を始める。……知っての通り。本当に……知っての通りのはずだが……
 私は『疾風』のギトー、だ。ギ、だぞ。ギ。濁るのは絶対に忘れてはならない」

自分の名前を紹介するだけなのに、随分と念の入ったことだと、生徒達は思う。
ただ同時に、ちょっとアレなことも想像した。

「……疾風の亀」
「誰だ! 濁音を抜いたのは!」

そういいかけたマリコルヌに突風が飛び、吹き飛ばされる。
ギトーはまたしても疲れた様子を見せた。

「濁音を抜くな。絶対に抜くな。それだけは忘れるなよ、生徒諸君」

荒い息をついている。
よっぽどそう呼ばれるのが嫌なのだろう。

「そんなことより! 授業だ授業。私の名前なんぞどうでもよろしい。
 では……そうだな、ミス・ツェルプストー。最強の系統と言えば何かね」

キュルケはその疲れた様子のギトーに若干の哀れみを覚えつつ、軽く考えてから言う。

「アレじゃありませんの?」

指差して見せる。
その方向はルイズの、その隣だ。
今日も今日とて滾っている、あの使い魔である。

「……そんな系統はない。エロの系統なんてない! ないんだ!
 そういう話よりも真面目にだな……」
「じゃあ、虚無でしょう」
「伝説の話でもない! もう答えを言うがそれは風だ。風最強なのだ」
「でも……」

キュルケは妖艶に笑ってみせる。
到底、ルイズには不可能な仕草だった。

「最強というのなら、アレよりも先生はご立派なんですの?」
「……だから! 違うんだ! 私はキト……なんかじゃない!
 オールド・オスマンやらシュヴルーズやら……どうしてみんな私にセクハラばかりするんだぁ!」

ギトーが泣き出してしまった。
どうも職場の気まずい状況を垣間見た気がして、教室は静まり返る。

「あの先生まともな人かも……」

ルイズはちょっぴり嬉しくなっていた。
やっぱり、世の中そうじゃないといけないと思う。
こういう人が大多数をしめてなければいけない。
しかしこのままアレを放置していれば、世界の比率はおかしくなってしまうだろう。

「わたしが何とかしなくちゃいけないのね」

改めて、気合を入れるルイズである。

さめざめと泣いているギトーを放置もできず、教室が気まずい空気に包まれていると、そこに闖入者があった。
妙なカツラをつけたコルベールだが、その姿に生徒達はほっと安心する。
ギトーの姿がなんだか切なくて、息が詰まる思いだったから。

「ミスタ・ギトー! 失礼しますぞ!」
「ああ……私をまともな名前で呼んでくれる数少ない恩人。ミスタ・コルベール。何事でしょう」
「今日の授業は全て中止です!」

コルベールは勢いあまってカツラを飛ばしたが、その勢いは留まるところを知らない。

「なんと、あのアンリエッタ姫殿下が、このトリステイン魔法学院にご行幸なされるのです!」

おお、と一同がざわめくが、それより先にギトーが反応した。

「なんですと! それは……それは問題ではありませんか!」
「その通り! 先日以来、学院長をはじめとして非常にその……破廉恥な振る舞いが多くなっているというのに!
 こんなところを視察されては、学院は破滅です!」

ルイズはまったくだと思ってうんうんと頷いた。
キュルケは、大げさなことをと思って呆れている。
どちらが正しいのかというとその判断は、とりあえず難しい。

「従って、こんな大事な状況なのですから、皆自重しなければなりませんぞ!」
「まったくです。ああ、まったくですミスタ・コルベール……」
「そして!」

コルベールが、ルイズをびしりと指差した。

「ミス・ヴァリエール。貴方とその使い魔は、決して姫殿下に姿を見せてはなりません」
「ええ!?」

これにはルイズも慌てて立ち上がった。
確かに、マーラをあの姫さまに見せるのはマズいだろう。それくらいは、ルイズにもわかっていることだ。
……見せられない使い魔を召喚したのが自分だという事実にまたしても気が重くなる。それは、いいけれども。

「あんなモノを姫殿下に見せたら、たちまち軍が学院を包囲するでしょう」

セクハラにも程があるのは確かだ。

「ですが、ミスタ・コルベール。それなら使い魔だけ謹慎させていれば」
「使い魔とは一心同体。別々という訳にはいかないよ」

コルベールはそう言うと、躊躇いながら続ける。

「……君に罪がないのは知っている。しかし最早この学院は……
 責任を取れ、というつもりはない。だが……すまない、ミス・ヴァリエール」
「そんな……」

よろよろと、ルイズは席にもたれかかった。
もう本当に深刻だ、これは。

「ふん。まったくもって、モノの小さい話よのう」
「本当にそうですわね、殿方」

マーラとキュルケが話しているのを聞いても、ルイズはため息をつくばかり。
右も左も地獄ばかりだ。どうしてくれようか。

「ワルド……もう、貴方だけが頼みの綱よ……」

遠い空にいるはずの、婚約者を思うことだけが、今のルイズに可能なことだった。


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