あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Deep River 第二話


進級がかかった使い魔召喚の儀が無事終わったことで、学院の彼方此方にはほっとする者達、これから過ごす使い魔との日々に思いを馳せる者達の姿があった。
ただ、たった一人だけルイズは夕陽の射し込む自室で頭を抱えていた。昼間自分が召喚した亜人の少女は一体何なのだろう?角はあるが華奢な体躯と美しい容姿からして鬼ではない。かと言って人間でもない。
自室に帰ってから様々な絵図付き辞典で調べたものの、ヒントを得られる様な物は何も無かった。また発する言葉は意思疎通としては全く役に立たない「みゅう」の一言だけ。
それに召喚時、身に付けている物が何も無かった為に何処から来たのかもさっぱり不明だ。おまけに……コントラクト・サーヴァントの時に見た、少女の体から伸びる不気味な透明の手は何だったのだろうか?
一度目を覚ましはしたがまた直ぐに気絶したために、今は確か医務室で横になっている筈……そろそろ迎えに行くべきか?
解決の糸口が何一つ見えて来ない謎について考えていると、部屋の扉が軽くノックされた。誰だろうと思いながら扉を開けると、そこには召喚された少女を「レビテーション」で連れて来たキュルケが立っていた。
笑顔で隠そうとしているが、なんだか疲れきった様な表情をしている。

「はい。あなたの使い魔。本塔の医務室から連れてきてあげたのよ。感謝しなさいよねー。」

そう言いながらキュルケはずかずかと部屋に入り込み、少女をルイズのベッドに横たわらせる。それはとても安らかそうな寝顔だった。美しさも加味すれば古代の宗教絵画だって裸足で逃げ出すかもしれない。キュルケは続ける。

「ルイズ。この子は手がかかるかもしれないわよ。」
「な、何でよ?」
「ただの従順そうな獣じゃなくて亜人だし、何を言っても言葉は通じないし、おまけに……」
「おまけに、何?」

ルイズがそう言うと、キュルケは顔を少し赤らめながら、ルイズに小声で耳打ちした。
その内容にルイズも赤くなる。

「ベッドでやらかしたですって?!」
「シーッ!声が大きいじゃないの!……兎も角、言う事ややる事がまるっきり赤ん坊みたいなのよ。あなた、本気で面倒見れる?途中で癇癪起こさないでしょうね?」

キュルケの言にルイズの心の中で急速に不安が膨らんでいったが、彼女は直ぐに一つの可能性を見出した。この者が只の亜人ではなく、成長するにつれて物凄い力を発揮する亜人なのだとしたら。
この者の自我がまだ誰の手も加わっていない、それこそ赤子同然と変わらぬ物なら。
これほど育て甲斐のある使い魔はいないだろう。
分からない事が多いという事は、それが一体何なのか知りたいという好奇心を突き動かし、また知った時の驚きをも生むという事でもある。
ルイズはキュルケの方を向き、微かな笑みを浮かべながら口を開いた。

「安心しなさいよ、キュルケ。私にとって初めて魔法が成功した証しでもあるこの子にそんな事する訳無いでしょ。この子は私が責任を持って育てるわ。その内にあんたの使い魔よりも優秀になる時が来るわね。
その時に今までの非礼を詫びに来たって知らないわよ?」


ルイズの何とは無い余裕の態度にキュルケの口元が小さく弛む。
実は口にこそ出さなかったが、彼女は内心でルイズの事を心配していたのだ。
変な生き物を召喚したといって落ち込んでいないだろうか、卑屈になったり、自棄を起こしていないだろうか、と。
そうしていたなら、キュルケはどんな手を使ってでも彼女を叱咤激励するつもりだった。
だが、今の彼女の様子を見る限りどうやらそんな心配は杞憂に終わりそうだ。
いつもの調子を取り戻したルイズに、キュルケは流し目を送りながら澄ました声で言った。

「ふふっ、言うじゃない。まあ、いつになるか分からないけど楽しみにしてるわ。あ、あとまさかその子なんか幽霊が取り憑いている訳じゃないでしょうね?」
「そんな訳無いじゃない。どうしてそんな変な事訊くの?」
「私の友達がその子の体から変な手が伸びるのを見たって言うのよ。今は気分が悪いって部屋で横になってるんだけど……間違いだったら私がその子の所に行って説明してあげるからいつでも私の部屋に来てよ。それじゃあね。お休み~。」

パタン、という音を残してキュルケは部屋の外へ出て行った。ルイズは今に見てなさいよという雰囲気のまま、扉に向かってベーッと舌を出す。しかし……勢いでああは言ったものの、問題は未だ山積みのままだ。
育て方といい、少女の素性といい何一つとして解決の兆しがある物は無い。ルイズはベッドに歩み寄り使い魔の少女を見下ろした。
コルベール先生は魔法生物に詳しい先生と一緒に調べてくれるとは言っていたが、果たしてどんな回答が返ってくるだろうか?もしも調べた結果が、こんな成りをしていても人間では手に負えない生き物だとしたら向かう所は只一つ。
―殺処分―
考えただけで身の毛がよだつ。幾ら何でもそれは無いとは思うが、実際そうなったらルイズ自身許す事が出来ない。例え人間を見境無く殺す様な生き物でも、この子は自分が初めて魔法に成功したという証であり一生を共にする使い魔だ。
周りが何と言おうと絶対に御してみせる。そう固く心に誓った。すると程無くして少女はゆっくりと両の瞼を開く。

「目が覚めた?」
「みゅっ?!」

少女を不安にさせないよう、ルイズは出来るだけ優しい声で少女に声をかける。だが少女はルイズの姿を視認したと同時に後退り、酷く怯えた様子で彼方此方をキョロキョロと見回し始める。
まるでこの部屋の日用品を、何一つとして眼にした事が無い様な雰囲気だった。
ルイズは不思議に思う。この部屋の中には彼女を攻撃する要素など唯の一つもありはしない。何をそんなに怯える必要があるというのだろう。そしてこんな時は如何すれば良いのか。
その時ルイズは、実家にいるすぐ上の姉が森で怪我をした動物を見つけた時にどうしていたかを思い出した。まったく同じとはいかないが状況はそれによく似ている。
ルイズは震える少女の手をそっと握り、それから眼を見つめて話しかける。

「恐がらなくていいのよ。わたしはあなたの御主人様。そしてあなたは今日から私の使い魔になるの。いい?」

目立った反応は返って来ない。少女は相変わらず、目を固く閉じてぶるぶると震えているだけである。だがルイズはたった一度の挑戦でめげたりはしない。少女をそっと自分の方に引き寄せてから、左手で背中を撫で、右手で頭も撫でてやる。
すると少女は目を見開き、ルイズの方をまじまじと見つめた。まるで生まれてから親に一度もそうしてもらった事が無い様な反応だった。ルイズは少女に対して憐憫の感情を抱く。
自分だって実家にいた時、魔法の才能をどうのこうの言われる前は、親によく可愛がってもらったものである。余程この子は薄情な親の元に生まれたのだろう。
そう思いながらルイズは優しく少女を撫で続けていたが、ふと大事な事を忘れていたのに気付いた。


「そうだ、名前。あなたの名前何にしようかしら?」

物には全てきちんとした名前がある。いつまでもあなたあなたと言っていたのでは埒が開かない。かと言って、少女の鳴き声ともとれる「みゅう」というのを名前にするのも芸が無いものだ。
他の者達が使い魔に、もっと洒落の利いた名前を付けていたら名前負けするかもしれない。
どんな名前にしようかしら。あれこれ考えてルイズは一つの名前に決めた。

「そうねぇ……サフィー……サフィーが良いわ。それにしましょうっと!」

ルイズは少女の目を見つめながらしっかりと言う。

「あなたの名前を決めたわ。今日からあなたの名前はサフィー。サフィーよ。」

しかしやはり少女はルイズの意を得ていないのか、ずっと不思議そうな表情のまま「みゅう?」と言うだけである。こうなれば後はもう根気比べの世界だ。
ルイズはサフィーを指差して「サ・フィ・ー・」、自分を指差して「ル・イ・ズ」とするのを繰り返した。格闘すること凡そ二時間。夕食も忘れるほどに没頭したルイズの努力は遂にある程度実を結んだ。
少女は自分を指差し

「し…しゅぁ…しゅぁぁ…しゅぃぁ…ふゅっ…ふゅぅ……うぃ、うぃぃぃ……しゅぃぁ、ふゅぅ、うぃぃぃ……」

そしてルイズの方を指差して

「りゅっ……りゅぅぅ……うぃぃぃ……ち、ちぃゅぅぅ……りゅ、うぃぃ、ちゅ……」

と言った。
一先ずは大進歩である。
ルイズの喜びようといったらない。まるで子供の成長に一喜一憂する親の様であった。

「凄いじゃない、サフィー!この分ならそうかからずにもっと沢山色んな事を言える様になるわ!」

サフィーに微笑みながらもルイズは決心した。昔から子育ては「這えば立て、立てば歩め」の精神でやれば良いと言うではないか。ならばこの子にはもっと沢山色んな事を教えてあげよう。そしてどんな人の前に出しても恥ずかしくない使い魔に育て上げてみせようと。
その後、ルイズによるお勉強は、皆が寝静まるまで続いた。

サフィーが自分の名前とルイズの名前を微かに言えるようになっていた頃、コルベール氏は魔法生物学の講師、ミスタ・エラブルと共に図書館で調べ物をしていた。内容は勿論、ルイズが召喚した使い魔についてである。
しかし、教師しか閲覧を認められていない書棚の本を漁っても、成果は今の所何一つとして無かった。

「如何ですか?ミスタ・エラブル?何か手掛かりはありましたか?」
「ミスタ・コルベール。そう簡単に見つかったら真っ先にあなたに報告していますよ。」

話をふったミスタ・コルベールは、それもそうかと思いなおし調査に再び取りかかる。
だが、これだけ既存の資料を調べて見つからないという事は、あの生物は本当に新種の生物だというのだろうか?
それなら何故ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールがそれを召喚するのに成功したのだろうか?
考える暇も無く、下から司書の「閉館時間です」という声がかかった。
コルベール氏とエラブル氏は肩を落として図書室から退室する。
それから暫く廊下を進んでいると、反対の方向から学院長の秘書をしているミス・ロングビルが近付いて来た。
いい歳をした男二人が、夜の遅くに図書室で一体何をやっていたのだろうという表情をありありと顔に出しながらも、出て来た言葉はかなり友好的な物だった。


「今晩は。ミスタ・コルベール、ミスタ・エラブル。こんな時間まで調べ物ですか?大変ですね。」
「いやぁ、ちょっと生徒の使い魔の事で調べ物をしていまして……」

忽ちコルベール氏の顔が赤くなる。
ミス・ロングビルはその様子をさも愉快そうに見ながら続けた。

「使い魔とは……今日行われた使い魔召喚の儀で喚び出された鬼の姿をした生き物の事ですか?」
「はは、実を言いますとそうなんですよ。本当に、噂という物は広まる物なんですなあ。」
「その使い魔の正体……もしかしたら私知っているかもしれません……」
「はは……今、何て仰いました?!!」

正に思ってもいない所から答えが出て来た。
驚きのあまり目を見開いたコルベール氏とエラブル氏を尻目に、ミス・ロングビルは訥々と語り始める。

「実は二年程前に、ある用事を言い遣わされてロマリアの方へ向った時に妙な噂を聞いたんです。
現在、次期ロマリア教皇候補でもあるヴィットーリオ・セレヴァレという人物が、使い魔を召喚した際に多数の死者が出たという噂なんです。
召喚した本人は無事だったのですが聖堂騎士団が100人近く犠牲になったそうで……その後何とか事態は収束したそうなんですが、その時に召喚された使い魔が……」
「まさか……角の生えた少女?」

エラブル氏の質問にミス・ロングビルはゆっくりと頷いた。
まるでその場の空気が瞬間冷却されたかのように凍りついた。
ミス・ロングビルは二人の表情を見つめながら続ける。

「今回此処で噂になっている少女とは、身長や髪の色、着ている物等違う所は多々存在しているんですが、一か所だけ、頭部に一対の角がある点が共通しているんです。それに……」
「それに?」
「いえ、なんでもありません。忘れてください。……兎も角、その少女は、今はそうでなくてもいずれ私達の命を脅かす事になると思います。
私の意見としましては不謹慎ながらもミス・ヴァリエールの使い魔を……」

ミス・ロングビルは大きく一息吐き、はっきりした口調で言い切る。

「殺すべきだと思います。」



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