あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Deep River 第一話


―コツ、コツ、コツ―

―選定は終わったか?こいつか?―

―はい。……番が適任だと思います。性格もおとなしいですし……も未発達です。―

―……そうか…おれの好みだな。―

―は?―

―いや。それじゃ手術の前にちょっと遊んでいってもいい?―

一瞬の静寂。次に眩しい光と何かが滑り込む音。
そして……

―馬鹿な!……番が消えた?!―

―実験場内の生体反応が消えています!―

―まさかそんな……消えたというのか?!―

―施設内の全区域に非常警報を出せ!―

―警察と自衛隊に緊急出動要請を出すんだ!周辺区域を封鎖するんだよ!―

―緊急指令!緊急指令!実験中の……番が失踪した!発見次第射殺せよ!―

―これは訓練ではない!―

―繰り返す!実験中の……番が失踪した!発見次第射殺せよ!―

―あと一分で施設内部全区画の閉鎖が完了します!―

―チッ!お楽しみはお預けかよ……!―

しかしこれ以降それの存在はその世界で確認される事は無かった……

平和な日常が永遠に続く保証は何処にも無い。狂気は常に日常と紙一重の所に存在する。神がこの世に存在しないのなら誰もそれを予測する事など出来はしない。
ほんの少しの切っ掛けで互いの位置は簡単に逆転してしまう。問題はその狂気の中でどれ程の者達が正気を保っていられるかである。
少なくともルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールという少女の名前はその中に入っていなかった。


今、ハルケギニアにあるトリステイン魔法学院では進級がかかった使い魔召喚の儀が執り行われている。そんな中、ルイズは目にうっすら涙を浮かべながら使い魔を召喚する為の呪文を唱えていた。
杖を振り直後に爆発が起きる度に失敗だと笑い呆れる同級生達。
彼女は自身に問いかける。眩しいくらいに青い空の真下で私は一体何をしているというのだろうか?これでは体の良い見せ物ではないか。
今までゼロのルイズと散々馬鹿にされても己の矜持を砦とし必死に耐えてきた。
手の皮が剥け、声が枯れてしまうほどに魔法の実技も練習したし、坐学も連日の徹夜を繰り返して最高の成績を修めるほど賢明に励んだ。
しかし肝心の実績が何一つ無いのではどうにもならない。このまま使い魔を召喚出来なかったら、進級どころか最悪退学になってしまう。
それだけは絶対に避けたかった。ちょうど一年前、入学して直ぐの頃不安と恐怖に押し潰されてしまいそうだった自分をすんでの所で救ってくれたのは、両親や長姉ではなくすぐ上の姉であった。
使い魔召喚だけは失敗する訳にはいかない。次に失敗し学院を追い出されてすごすごと実家の玄関に戻るような事になれば、両親は何と言うだろう?
それにせっかく励ましてくれたすぐ上の姉に申し訳が立たなくなる。
成功した生徒達を見ると、ある者はサラマンダーを、またある者は風竜の幼生を召喚していた。
正直な所ルイズもそういった立派なのが欲しかったが、この際贅沢な事は言ってられない。
例え苦手な蛙が出て来ようが、恐ろしい鬼や吸血鬼が出て来ようが、何が何でも御する覚悟でいなければならない。
試験の監督をしているコルベール氏はルイズに次が最後の機会である事をそっと告げた。半ば自棄っぱちになってルイズは召喚の呪文を唱えて杖を振り下ろす。
だがやはりそれまでと同じ様に目の前の地面は爆発してしまい、真っ黒な煙が周囲に立ち込めた。
ただ敢えて言うなら、それまでの爆発と若干違っていたのはその威力が明らかに大きかったという事だった。
ルイズは愕然とする。
ついにやってしまった。張り詰めていた緊張の糸はぷっつりと途切れ、頭はもう何も考えられないほど真っ白になった。これから自分は周りの貴族達や果ては領民からも蔑まれる惨めな生涯を送るのだろう。
考えただけで内臓が押し潰される様な感覚に襲われた。それから直ぐに一陣の穏やかな風が煙を爆発した地点から移動させていく。
ルイズは始め何も召喚出来なかったと思っていたがそれは大きな間違いであった。周囲の笑いも次第に治まっていく。
煙が去ったその場には半球状に削られた様な穴が開いていた。そしてその穴の中には……一糸纏わぬ少女が一人仰向けに横たわっていた。
そのあまりの展開に男子生徒は何人かが前屈みになり、何人かが目を背け、残りの者達は凝視しようとして女子生徒達から問答無用の鉄拳制裁を喰らっていた。
ルイズは少女の元へ歩み寄り、頭の先から爪先まで観察して見る。
年の頃は顔の造詣からして人間で言うなれば20手前辺りといったところだろうか。
肌はまるで白磁の様にまっ白で肌理も細かい。ルイズのコンプレックスを刺激するかのように胸もそこそこの主張をしていた。
そして離れていると気づかなかったが、少女の頭にはヴァイオレットのロングヘヤーに隠れる様に一対の突起が存在していた。
突起が角だとするのならばまさかこれは鬼?いや確かに雌の鬼も存在するが鬼なら図体はもう一回り大きくなければならないし、ここまで人間と遜色無い外見をしている筈が無い。
となると、これは鬼の亜種なのだろうか。それとも新種の亜人なのだろうか?
眠っているようなのでルイズは先ず、近くに来たコルベール氏に質問してみる事にした。

「コルベール先生。私、これを使い魔にしないといけないんですよね?」
「勿論だとも、ミス・ヴァリエール。春の使い魔召喚の儀は神聖にして絶対の伝統儀式だ。やり直しや変更なんて認めたら儀式自体を侮辱する事になってしまう。
君がこの亜人を好むと好まざるとに拘わらず、君はこれを使い魔にしなくてはいけないのだよ。それに君は今のこの結果に至るまで何回も失敗してきた。やっと成功したというのにそれを帳消しにしてほしいのかい?
加えて、使い魔となる生き物は召喚者の元に自ら望んで現れるという。折角この亜人が君の元に現れたというのに君が受け入れないのではあまりに酷という物じゃないかね?」


万事休す。ルイズは何も言う事が出来ずに亜人と契約する事が決まったのである。さて、これから使い魔になる亜人は未だに起きる気配が見受けられない。仕方ないのでルイズは杖を振り呪文を唱える。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ。」

さああとは契約のキス、なのだがどうにも体が緊張してしょうがない。ファーストキスが同性とだなんて……これはノーカウントなのよ、私はノンケなのよー、と自分の心に言い聞かせをしても、心臓が早鐘の様に鼓動を打つのは止められなかった。
深呼吸を一つし、意を決してルイズは亜人と唇を重ねる。
嗚呼。一瞬の出来事の筈なのにこれだけ時間感覚の麻痺するものが他にあるだろうか?亜人の唇は暖かくて柔らかい。そして……なぜか塩っぱい味がした。

「終わりました。」
「うむ。『サモン・サーヴァント』は何回も失敗したが、『コントラクト・サーヴァント』は一回できちんと良く出来たね。」

コルベールは心底嬉しそうな表情を浮かべる。無理も無い。ルイズの事を彼女が入学して直ぐの頃から知っている彼は、いつか彼女の才能が開花して欲しいと願っていたからだ。
教師が特定の生徒に肩入れするなどあまり快く思われないかもしれないが、普段から失敗続きで成功した試しの皆無な彼女が何の魔法にせよ成功した事実は担任として喜ばしい事だった。
ルイズはルイズで口元を指でぼんやり触り、次いで服の袖で思い切り吹いている。そしてその段になって亜人が何も身に纏っていない事に気付く。
自分が身に付けているマントをかけてやりたかったが、貴族でもない、ましてや人間でもない者に貴族の証であるマントをかける事は出来ない。どうしようかとまごついていると亜人が眉を動かした。
見ると手の甲に使い魔のルーンが刻まれているところだった。その時ルイズは得体の知れない物を目にしギョッとする。
それは透明な手が、もっと正確に言えば型板ガラスで出来た手の様な何かが体の下から上へすうっと二本伸びていく様だった。
しかし何かの見間違いだったのか、50サントも行かない内にそれは空気の中に雲散霧消していってしまった。コルベール氏は興味深そうに亜人の手に刻まれたルーンを見ているので気づいた節は無さそうである。
同級生達を一通り見ても、反応したのは何事か呟いて気絶した青髪の少女くらいだ。
少ししてコルベール氏は生徒に亜人が身に纏える何かを持って来るように指示した。いくら『レビテーション』等の魔法で学院まで送る事が出来ても裸というのは不味いと判断しての事だ。
他の生徒達はルイズを嘲りながら学院まで戻って行った。
しかしルイズはそれらの言葉はただの一言も耳に入って来なかった。その場で共に留まったコルベール氏の方に向き直り恐る恐る質問をする。

「あの、先生。私が喚び出したこれって……一体何なんですか?」
「ミス・ヴァリエール。私は恐らく同じ質問を魔法生物学の講師の方にするよ。手に刻まれたルーンも気になるが、それ以上に私も君の使い魔が何なのかどうにもひっかかってね……」

そう言うとコルベール氏は亜人の元に屈み込み、自分の持てる範囲の全知識を使って調べ始めた。

「角はあるが体格は人間のそれとほぼ同じだし肌の色も違う。鬼などは大抵獣の皮を付けているが、彼女は何も身に纏ってはいないのも一考していて悪くはないだろう。だが体の成長具合に関してはバランス性に欠けている節が見られる。
特例を除き人間でも鬼でもこうはいかない。」

丁度自分の胸元と股座を交互に見ていたルイズにとってかなりグサッと来る言葉だったが、教師に手を上げる訳にもいかないのでぐっと我慢する。
それから一分と経たない内に生徒の一人、キュルケが簡素な作りの服を持ってやって来た。
彼女もやはりルイズの使い魔が気になるのか、何も言わずに服を着せつつも目に浮かぶ言葉は『奇異』の一言だけの様に見えた。そして着付けられた服を見てルイズは小さく苦言を呈する。


「ちょっとあんた。何でうちの学院で務めているメイドが来ている服を着せるのよ?」
「何でって……学院に戻った時あなたの部屋の近くにいたメイドに頼んで貸してもらったのよ。」
「頼んで貸してもらったって……あんた自分の服でも良かったじゃないの。」
「ごめんなさいね。私亜人に着せられるような服なんて持ち合わせていないのよ。あなたの部屋に入って服を失敬して来ても良かったけど、パッツンパッツンになっちゃうでしょ?」

痛烈な言葉にルイズは悔しそうにキーッと悔しそうな声を上げる。その様子を見てコルベール氏は溜め息を一つ吐いた。学年が変わってもこの二人は相変わらずであった。まあ、悪友同士という言葉が相応しいとも言えるが。
その時使い魔がぴくりと動き、閉じられていた瞼をゆっくりと開けた。垂れがちで円く、褐色を帯びた目はくりくりとよく動き、癖の無いサラサラの髪は軽やかに顔の周りを舞う。
ルイズ達を見て人間に酷く怯えている様にも見えたがルイズは一応質問してみた。

「あんた、誰?」

すると使い魔からは予想の遥か斜め上を行く答えが返って来た。

「みゅう?」



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