あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Bullet Servants-08




「――――そこで何をしているの」



唐突に投げかけられた言葉。
振り向いた先にいたのは、油断なく杖を握り締めながら、硬質の視線でこちらを見据える、眼鏡をかけた青髪の少女。

「きゅい! きゅいきゅい!」

新たな闖入者に、鳴き声をあげる蒼い竜。
一瞬の出来事に気を取られるも――いつまでもこうしているわけにも行くまい。
正体のわからない(とはいえ学院の生徒であろうことはほぼ確実だろうが)少女に、問いかける。

「……貴女は?」
「先に質問しているのはわたし。あなたは……一体?」
「……失礼、申し遅れました。
 フォルテンマイヤー家執事――リック・アロースミスと申します」

眼鏡のずれと服の襟元を正し、腰を折って一礼する。

「フォルテンマイヤー家?
 ……執事? エルフが……?」

私の自己紹介に、その緊張した表情に疑問の色を混ぜ込み、怪訝そうな表情を浮かべる少女。
半ばこの反応も予想通りではあったのだが――ここだけは私の譲れぬ一線なので仕方がない。
故に私も、あえて細かい事情を省いた、先刻から通しての簡素な返答で応じる。

「……今は故あって、先日の使い魔召喚で呼び出されたルイズ・ヴァリエール様の使い魔をさせていただいております」
「――――!

 ……そう、あなたが彼女の。 わたしはタバサ、この子はシルフィード」
「ありがとうございます。タバサ様と――シルフィード様、ですね」
「…………?
 エルフが、ドラゴンに様づけ……?」

一瞬、その硬質の貌に驚きと疑問符を浮かべるものの、すぐに平静を取り戻す少女。
返礼程度の軽い自己紹介の後に、改めて私に問い直す。

「あなたの“とりあえずの”身分はわかった……でも、まだ質問は終わっていない。
 いったいエルフが、わたしの使い魔に何の用?」

――『わたしの使い魔』。
脳内で立てていたふたつの仮説に、この言葉で確信を得る。
ひとつは、目の前の蒼い竜が、この学院の魔法使いの使い魔だということ。
そして――


「――そこです、タバサ様。
 お会いして早々不躾ながら――私もその辺りについて、貴女に一つお伺いしたい事がございます」
「……なに?」
「私もあいにくと、召喚されて間もない身の上。 この地の流儀は、寡聞にしてよく存じておりませんが――」

彼女の言葉にかぶせるように、こちらからも問う。
意外な返答に、相変わらず警戒と疑問の混在した表情で反応する少女。

――そして、私の質問に先ほどから答えられないまま、“その六モールの巨躯のままで”。
“無言で”少女の傍に佇んでいるドラゴン――シルフィードといったか。
使い魔とはいえ、この竜に“そのような待遇を強いている”契約主の魔法使いが、目の前のこの青髪の少女だということ。
かねてからの疑問に、ごく微量の――この使い魔の境遇に感じた義憤を混入させながら、告げる。


「このトリステインにおける魔法使いと使い魔の契約は、“使い魔に奴隷同然の待遇を強いる”のが当たり前なのですか?
 たとえそれが――“己と同等の知性を持つ存在であっても”」
「――――ッ!?」


硬い表情を崩さなかった少女の貌に、ごく一瞬ながら、明らかな動揺の色が走る。

「…………あなたが、何のことを言っているかわからない」

即座に先の硬質な表情を取り戻しつつ、それでもどこか苦しげに、少女が言葉を返す。

――本当にわかっていないのか、それとも実際は“わかっている”のか。
未だに貴族制度が現存していると思しき、このハルケギニアのこと。
前者なら、この国の貴族趣味に大いに嘆くべき話だが――――それでもいまの一瞬の動揺が、少し引っかかる。
少女の瞳の揺らぎに畳み掛けるように、こちらも声を硬くして言葉を継ぐ。

「……なら、貴女の使い魔だと仰る、そちらの方は一体どういうことなのですか?
 たとえ戦う必要のない時であっても、“竜の姿のままで在り続け”――
 あまつさえ“人の言葉を話すことさえ許されていない”。

 人間とドラゴニュート……人種の違いこそあれど、同じ人類への扱いとは到底思えないのですが」




――見抜かれている。
目の前の執事姿の――異装のエルフと出くわしてからの短い問答で、半ば確信する。

そう長くない期間ではあったが、わたしがこの竜――シルフィードを召喚してから今日までの間。
騒ぎになられても困るので、わたしとこの子は、その正体をひた隠しにしてきた。
その甲斐あってか、わたしの使い魔の“本当の素性”に感づく者は、学院にも本国にもいなかった――――正面に立つ、この男を除いては。

さらにこちらの問いをかわすばかりか、この子を使い魔にしたことをなじる様な口調で、矢継ぎ早に問うエルフ。
この男はあの“ゼロのルイズ”――ヴァリエール公爵家の三女の使い魔だと名乗っていた。
高い洞察力(エルフゆえか)と、名乗った肩書き――そして目的の見えない、詰問じみた奇妙な問いかけ。
ところどころ不明瞭な言語もあり、まるで気が抜けない。
刹那の沈思黙考を経て、目の前の恐るべき存在に意識を戻し――――


「人間とドラゴニュート……人種の違いこそあれど、同じ人類への扱いとは到底思えないのですが」


…………え?


「『ドラゴニュート』? 同じ…………人類?
 いったいあなたは……何を言っているの?」

……思わず口に出る言葉。
この瞬間初めて、わたしの中で純粋な疑問と困惑が、さっきまで張り詰めていた警戒心を上回った。




先刻までとはまるで違う、文字通りに素朴な、少女の疑問の声。
そのいきなり警戒色が薄れた彼女の言葉にやや調子を狂わせつつも―― 同時に抱いた失望とともに、言葉を搾り出す。

「…………わからないのですか!?」
「あなたの言いたいことが……理解できない。

 そもそも――――――――“ドラゴニュートって、何”?」


「……………………………え?」


――またしても予想の遥か範疇外からの返答に、思考が一瞬停止する。
彼女はいま『わからない』と言ったが――正直、こちらも同じ台詞を返したい。
召喚し、契約までしておきながら、ドラゴニュートを知らない…………?

「失礼ですが……ドラゴニュートをご存知ないと言う今の言葉、冗談ではありませんよね?」
「……知らない。エルフの先住言語?」
「あなたの使い魔になったそちらの――シルフィード様でしたか。
 私はそこの方がそうではないかと、申し上げているのですが」
「本当に……知らない。なにより――どういうこと?
 “そもそも普通ドラゴンは、竜以外の姿になったりなんかしないし、人の言葉をしゃべったりもしない”」
「………………え?」

またしても反射的に、腰のホルスターに手が伸びる。

「!?」

目の前の少女――タバサ嬢が身をびくつかせ、杖を構えようとする。
我ながら不用意だとは思ったが、それよりなにより私の呆けた頭のなかで、疑問への回答欲しさがそれを上回った。

「……ルダ?」
「リック……いい加減私を嘘発見器代わりにするの、やめてくれる?
 あいにくだけど――――この娘のいまの言葉には、ブラフの要素は感じ取れなかったわ」
「……そう、なのですか……?」
「―――ッッ!!!?」

まるで尻尾を踏まれた猫のように、タバサ嬢がその身を大きく竦ませる。
いったい何に反応したのか気になるところではあるが――それはさておき、新たな大問題が、私の中で鎌首をもたげていた。


「この方が使い魔と仰っている、そちらの青い竜。
 本当に、そこの方は――ドラゴニュートではないというのですか……っ!?」


……もしかして、私の『あの懸念』はただの勘違いだったのではないか?

そもそも我々の世界の竜人種(ドラゴニュート)からして、『その身に竜の魔力を宿し、竜に変身できる』という人種だ。
なればこそ、ゴルトロックでは『竜=ドラゴニュートの変身した姿』というのが世界の常識だったのだ。だが――

ゴルトロックでは五百年前に絶滅したバジリスクも、このハルケギニアでは、大幅に魔力と毒性を希釈された種が生息していた。
またこの世界では人間とエルフはどういうわけか、伝説の段階で完全に反目しあっている。
――では、この世界での“竜”は?
そもそもの属性の大本――ヒトにその力を宿す以前の、モンスターとしての竜――
我々の常識とは別の意味での“古の竜”も、この世界に存在しているのではないか?


――どどどどどどどどど。


魔銃からの返答で半ばわかっていることだが……それでも。
もはや薄すぎる希望的観測でしかないが――手掛かりは、あるに越したことはない。
ドドドドド……と、緊張感から、先刻から地鳴りのような大気の震えを錯覚しつつ、問いかける。



「では質問を変えます、タバサ様」

どどどどどどどどど。


「あなたの使い魔……シルフィード様は召喚されたとき、」


どどどどどどどどどどどどど。


「人の姿を――」



「見ぃぃつぅぅけぇぇたぁぁわぁよぉぉぉおおおおおおおおおおぉぉぉッ!」
「――――ぐふぉっ!!?」



(……さ、錯覚じゃなかったぁ――――ッ!!?)

衝撃に宙を舞う私。
後背五時方向から飛んできたピンク色の流星に、背中にドロップキックを叩き込まれたと知ったのは、一瞬後の事だった。




「…………………ふぅ」

そして、嵐が去り。
ようやく誰もいなくなった学園敷地内の木立。
あの執事姿のエルフが、“ゼロのルイズ”に蹴り飛ばされ、連れ去られるのを見送って数分後。
ようやく、(いろんな意味で)息の詰まるような時間が終了し、ため息をつくタバサ。

――魔法は失敗ばかりと言うことだが……
エルフに飛び蹴りをかませる時点で、胆力だけならスクウェア・メイジ以上の大物になるのではなかろうか、彼女。

などと益体もないことを考えていると――


――どどどどどどどど。


自分にとっては慣れ親しんだ、六メイルの巨体が駆け寄ってくる音。
再度ため息をつきなおし、手に馴染んだ、己の背丈より長い杖を握り締める。


「お、お……お姉さま~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」
「…………」

ごつっ。
眼の端から涙をぼろぼろこぼしつつ、凄まじい勢いで、
“人の言葉で”主の事を呼びながら、擦り寄ってくるシルフィード。
そんな使い魔の竜を出迎えたのは、主の抱擁ではなく、額に正確に突き出される杖であった。

「ひぎゅっ!? い、いたいよう……!」
「うるさい」
「……お、おねえさまひどいのね。 すっごく怖い目にあったシルフィを慰めてもくれないのね?」
「落ち着いて。何があった?」

興奮した己の使い魔を一打して落ち着かせると、話の先を促す。

「う、うう……! シルフィ、シルフィすっごく恐ろしい目にあったのね!
 わたしあのエルフ、ほんとに怖かったの! きゅいきゅい!」

……何を今更と思いつつも。
先刻のエルフとのあの奇妙な問答と、その精神的疲労を思い出し、竜の首筋をぽんと叩く。

「……エルフが怖いのは当たり前」
「ち、違うのね! そんなんじゃないのね!
 あのエルフ、シルフィ見つけるなりいきなり近寄ってきて……きゅい……!」
「それから?」
「……そ、それからなんか凄い剣幕で、シルフィのことドラゴなんとかでしょとか、
 『喋ってもかまわない』とか、『人の姿に戻っても大丈夫』とか、恐ろしい勢いでまくしたてるのね!
 ひょっとしたらシルフィが韻竜なのがバレてたかもしれないのね!?」
「………………しゃべった?」

タバサの疑惑の視線に、ぶんぶんぶんと、凄い勢いで首を横に振るシルフィード。

「そ、そんな恐ろしいことしてないのね!
 それにシルフィとあのエルフは、ほんとにさっき初めて会ったばかりなの! きゅい!」
「ドラゴなんとか?」
「わかんない……でも少なくとも、『ドラゴン』とは言ってないみたいだったのね。
 でもシルフィのこと、ぜったいただの竜だなんて思ってなかったのね、あいつ……!」
「ドラゴなんとか……
 『ドラゴ……ニュート』?」
「そう! さっきも言ってた! たしかそれなのね!」

“ゼロのルイズ”の呼び出した、執事姿のエルフが落胆した様子で言っていた事を、いま一度脳内で反芻する。


――この方が使い魔と仰っている、そちらの青い竜。
――本当に、そこの方は――ドラゴニュートではないというのですか……っ!?


『ドラゴニュート』――全く聞いた事のない言葉だ。
韻竜の事を指す、エルフの先住言語の一つだろうか?
だが、先刻はなんとかシラを切り通したものの……
あの男は初対面のはずのシルフィードが“言葉を操り、人の姿になれる事を、半ば確信していた”節がある。


「……何こんなところで油売ってるのよ!? それにいくらエルフだからって、他人の使い魔に……!」
「も、申し訳ありません。ですが、彼女のあの竜は……!」


色々おかしな面はあるものの、やはり人間には知りえぬ知識を持った、油断できぬ存在。
主の少女に手をひかれて去っていく、執事服を着た、使い魔のエルフの背中を見つつ――
タバサは彼のことをそう、脳内のノートに書きとめた。




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