あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無と狂信者-24



才人は中庭に出て一つ伸びをした。
何とかルイズが元気になったことは彼にとっても嬉しい。
アンデルセン不在の今、少女の面倒を見るのは自分の務めだ。
そこでふと見ると、中庭の中央で何やら騒ぎが起きている。
その中心にギーシュとシエスタ、そしてシルフィードの姿を見止め、才人もまたそこへ駆け出した。

才人は目の前の男と何やら言い争いをしているギーシュに声を掛ける。
「ああ、サイト実はだね……」
「はん! ギーシュ! やっぱりお前はそこの平民と親しいんだな」
ギーシュの前にいる、彼に突っかかっているらしい男を見る。
「……誰?」
「ああ、彼は……誰だっけ?」
「ロレーヌだ! まあいい……。貴様か? この竜の主人は?」
いきなり話を振られ、才人は考える。

(確かに俺とシルフィードとの関係って謎だよなあ……。
いちおうこいつが恩義に感じて俺に協力してるってことはこいつの完全な自由意志ってことで……。
だから俺が主人っていう関係とはあまりに……。)

などと考えているとシルフィードはきゅいきゅいと喚き始めた。
才人は近寄り、彼らに聞こえぬよう話す。
「……別にオッケーなのね……」
「了解」
才人はロレーヌに振り返り、頷いた。
「じゃあ貴様はメイジなのか?」
(ああ!そうなっちゃうのか!)
「ぼ、没落した貴族なんだよ。俺は」
*1
ギーシュとシエスタは二人揃って等しく突っ込む。
しかし、周りは驚いたように声を上げる。


はっきり言って才人の存在は生徒達の間では有名だった。
よくわからないという点で。
使い魔品評会の後に厨房で働き始めた珍しい顔立ちの少年。
夜な夜な鍛練に勤しんでいる。
何やらルイズやキュルケなど家柄で見れば最高級の子女と仲がいい。
変わり者のコルベール先生の悪魔のような(臭い的な意味で)研究室に度々出入りする。
キュルケの使い魔の吸血鬼とは知りあいのようだ。
そしてどうやらルイズの使い魔である異教の神官を慕っている。

よく分からない。

しばらくたって今度はタバサと仲好く本を読む姿が目撃されるようになり、
その後何やら見事な風竜を連れて来た。
しかもその餌代は学院が払ってくれる。
オールド・オスマン直々の口添えで。

全く分からない。

前後してタバサの使い魔が授業に出てくるようになった。
アンデルセンを避けていたのだが、もうバレたので仕方無いということらしい。
そのキュルケクラスの美女である女性や、中々イケメンな隻眼の男。
学院の恋愛事情を一変させた彼らは、やはりあの吸血鬼や神官と知り合いな異国風の人とされた。
そんな彼らともやはり仲がいい。

やっぱり分からない。


大体アーカードやアンデルセンの存在も謎である。
片や使い魔召喚の儀式で回りの生徒を失神せしめた、学院の野性味ない生徒達でも一目で
分かる化け物。そんな彼がトライアングルであるとはいえ、ただの学生であるキュルケの
使い魔で納まっているのがそもそも異常だ。
また、片や時たまその吸血鬼に遠慮なくこれまた裂帛の気合を発散し、かと思えば
それこそ学院の先生達よりはよっぽど教育者らしい態度をとる謎の神官。
その彼らと怯むこと無く気さくに話かける彼は一体何者となっても仕方ない。

そうこうする内に女王陛下来賓とその後の女子寮での騒ぎの後、件のルイズ、キュルケ、タバサ、
おまけにギーシュとその使い魔諸共数日学院から消えたことで、彼らの才人に対する評価は、
『オールド・オスマンに厚遇され、女王陛下直々の密命らしいことに参加し、風竜を操る、何だか凄そうな平民』
という何とも謎なポジションだった。

そこでおまけに没落貴族発言である。風竜を扱う点から鑑みればやはりとなって、
彼らは才人をどう扱うか測りかねてしまった。
(何かマズイな……)
鈍い才人とてこの状況は不味いことはわかる。オスマン老の庇護を得ているとはいえ、
それにはやはり自分は目立たないことが前提だ。でなくば、
「ふうん? 口から出まかせじゃないだろうな? もしそうならただでは置かないぞ!?」
と、このように快く思わない連中が出てくる。
「ああ、でも俺は魔法を使わないけどな」
「ほう、何故だ?」
才人は遠い空を見上げる。
「俺はあの頃から……あの事件から……二度と魔法は使わないと決めたんだ……」
*2
シエスタとギーシュはまたも二人揃って突っ込んだ。
だが誤魔化しきれたようだ。皆これ以上は追究できない雰囲気に包まれた。
いかな中二設定とはいえ、娯楽もあまりないこの世界では結構効くようだ。


間髪入れずに才人は話題を転換する。
「で? 俺がギーシュと仲がいいから何だってんだ? 確かそんな話だったよな?」
ギーシュは言いにくそうに薔薇で口元を隠し、シエスタはおろおろする。
「ふん! 貴族が平民に尻尾を振るなんて名誉を落とすからやめてくれと言ったんだ」
「は?」
才人は間抜けな声を上げ、ギーシュの耳に口を近づける。
「何? そういう考え方すんの?」
「いやあ……あんな極端なのはそうはいないんだけどな」
「頭の固い保守派って奴か?」
「まあ、そんなとこだ」
そういえばワルドもそんなようなことを言っていたな、と思いだす。
確かにこんなのばかりなら祖国を裏切ったとてそう責めきれない。
「全く貴族の誇りとやらが無いらしいな、ギーシュ・ド・グラモン。
そう言えば貴様そこのメイドと訓練まがいのことをしているらしいな。
はっはっは!お笑い草だ!」
才人達は申し訳なさそうにギーシュを見る。理不尽とて自分達のせいでそこまで馬鹿にされているのだ。
さらにいえばシルフィード云々の下りから、竜を駆る才人に対するやっかみも一因らしいから。
しかし、彼はそんなサイトとシエスタにウインクして見せた。普段の彼の間抜けな仕草と違いサマになっている。
「貴族の誇り……ね。確かに、僕は強くなりたかった。ゆえに彼女に師事した。それが
誇りの無い行為だというのなら、まあそう言えばいいさ。」
ギーシュの殊勝な言葉に一同は驚く、以前の彼なら顔を真赤にしているところだろう。
「まあ、何だ。君がミス・タバサにした行為を思えば、そしてその結果を思えば、
そんな君に貴族の誇り云々言われるのはとても悲しいが、謹んで受け入れようじゃないか」
その瞬間周りの生徒達の間に失笑が漏れ、ロレーヌの顔が本当に真赤になった。
「ギーシュ何があったんだよ?」
気になったサイトは急いで訊ねる。皆笑っているなかで自分がその原因を知らないのは居心地が悪い。
「漏らした」
「は?」
「ミス・タバサに彼が決闘を申し込み、それは無様に倒されたという訳さ」
「成程、そりゃそんな奴に貶されても、どうってことはないな」


そこにふらりと誰かが現れた。タバサだ。傍らにはベルナドットを伴っている。
「何の騒ぎ?」
彼女は極めて自然に中心にいる才人に近づいて来た。
タバサがキュルケ以外にそうした態度をとることが既に驚きに値する。
「ミ……ミス・タバサ……」
ロレーヌがゆらりと立ち上がり、怒りを押さえて聞く。
「き、君はそこの男と一緒にここ数日居なくなっていたが……それは何故かね。
まさかそこの男と何かあった訳ではないだろう? 貴族ともあろうものが」
タバサは顔だけそちらを向けて、じっと見つめた後、ポツリと言う。
「誰?」
ロレーヌは何か空気の塊を吐き出す。
「知らないのに親しげに話しかけるとか、ストーカーじゃねえか?」
ベルナドットが銃に手を掛ける。タバサはそんな彼の影に隠れようとしたが、
やはりその顔をじっと見て、才人の影に隠れた。
「だからそれはやめろよ~~」
自分を置いてコントを始める彼らに、虚仮にされたと感じたロレーヌは怒りで震えながら杖を振り上げ叫ぶ。
「決闘だ!!」

「誰と?」

互いに目を見合わせる長い沈黙のあとにそう問われ、ロレーヌは逡巡した。
タバサは無理、トライアングルであるし、敵わない。
その使い魔を相手にしても、彼女に恨まれるだろう。
ギーシュ相手なら勝てるだろうが、貴族同士の決闘は厳禁。となると。
「そこの没落貴族。貴様が相手だ!」
タバサがその言葉にズイッと前に出る。
「彼は私より強い」
「ちょ! タバサ!」
その言葉に驚きが辺りを支配する。学院でも数少ないトライアングルであり、
その戦闘力はロレーヌとの決闘で証明済み、その彼女が極めて当然という風に言ったのだ。


この場で最も蒼くなったのはロレーヌだ。もし彼が本当にメイジなら、竜を使い魔にするほど
才能あるメイジということになる。そうでないにしたってタバサより強いとなれば勝ち目は薄い。
まさかメイドと決闘する訳にもいかない。よって、
「ギーシュ! 決闘だ!」
となってしまう。しかし、ギーシュがしれっと言う。
「貴族同士の決闘は禁止されている」
勝ったとしてギーシュに旨みは全くないのだ。
さらにロレーヌは一応ラインであるから、それなりに危険な決闘だ。受ける義理は全く無い。
「は! 怖気づいたな! 所詮ドッドか!」
そんな批難をされたとて、もはや負け犬の遠吠えに近い彼には怒りよりむしろ憐みの感情
の方が大きくなってしまう。
それに彼はシエスタに言われたことがある。

「いいですかミスタ・グラモン。そもそも戦闘にあって戦うなどというのは下の下です」
「どういうことだい」
「真の護身というのは、危うきには近寄らず、本当に戦うべきときにのみ戦うことです
そうしないで、ただ振るいただ傷つけるのはただの暴力です」
ギーシュは感銘を受けた。そんなことを教えてくれた人はいなかった。
けれどそれはとても大事なことだ。力を得ようとするなら。
「成程……。大丈夫。僕は貴族だ。僕は僕の守るべきものの為にのみ君から教えられた力を振るおう」

ゆえにギーシュはさらりと流している。シエスタはそんな彼を見てしきりに頷いた。
才人もギーシュの纏う一種の余裕に感じ入っていた。

ロレーヌのその言葉が出るまでは。

「ふん! 大方! そのメイドに乗り換えようとしているのだろう!
モンモランシーに振られたからって!」

才人は何かが切れる音というのを初めて聞いた。
「貴様にゃ関係ねえだろおおぉおぉおお!!!!!! 決闘だあああ!!!!!!」


いきなり貴族らしからぬ声を上げ、目から液体をまき散らしながら薔薇の造花を振りまわす
ギーシュを才人とシエスタは慌てて止める。
「ちょっと待て! 一体何があったよお前!」
「うるさい黙れ! このモテ杉くんが!」
「誰だよ!」
「お、落ち着いて下さい! ミスタ・グラモン!」
「うぇえええええん! 離せ! こいつだけは許しておかねえ!」
ネズミを見つけた某青狸とそっくりなトチ狂いっぷりをみせる彼に、タバサの雪風が
が炸裂し、その頭を霜だらけにする。
「頭冷えた?」
「あ、ああ。ありがとう。ミス・タバサ……」
気を取り直してギーシュは杖を向ける
「おい! ええと……。ま、いいや何とか・ド・ロレーヌ! 腸をぶちまけろ!!」
決闘の作法も何もかもすっ飛ばそうとするギーシュに、タバサのやや本気めのエア・ハンマーが炸裂した。


「こら! 何の騒ぎです!」
もはや中庭は混乱の極地に至っている。当事者ももはや何をしたいか分からない。
そこにコルベール先生がやって来た。才人の視界には何やら後光が見える。
というとあまり褒めているとは思えない。彼の頭的な意味で。
事情を説明し、彼は重そうな溜息をつく。
「とにかく散りなさい。ミスタ・ロレーヌ! あなたに課題を渡します!」
正直あのまま決闘になったら勝とうが負けようが停学ものなので彼も納得した。

無様な姿のギーシュに駆け寄るのは才人とシエスタだけだった。
「サイトオォ~~~~……」
顔から色んな汁を垂らし胸元に抱きついてくる彼に肘を見舞おうと思ったが、
あまりにも哀れな姿なので突き飛ばすだけにした。
「あ、ま、まあどうだね? ミスタ・グラモン。少し話をしようじゃないか」
流石に哀れになったのかコルベール先生も肩を叩き、タバサも頷いた。



厨房の傍らのテーブルにて話を聞く。
ギーシュはモンモランシーに惚れている。これはもはや周知の事実であり、本人達もその気の筈だ。
しかし、どうもギーシュの軽薄さと、モンモランシーの嫉妬深さで事はややこしいらしい。
「ケティとはね……手を繋いだだけなんだよ? モンモランシーとは軽くキスしただけだ。
それで……軍曹とは本当に何もない。それは知っているだろ?」
「軍曹とは?」
コルベール先生とタバサが不思議そうに聞く。
「ああ。シエスタですよ。シエスタ・ハートマン軍曹」
「おはずかしながら……。あとハートマンって誰です?」
コルベール先生は不可解な顔をしたが、まずは続きを聞こうと思ったらしい。
「それでも……モンモランシーは信じてくれなくて……。僕が軍曹に手を出してるって……。」
「お前あんなに怖がってるのにな」
シエスタがムッとするも、まあ事実であろうし何も言わない。
「それで誤解を解こうと軍曹に引き合わせてみたけど話も聞いてくれなくて……。
あんたなんか知らないって……」
最後の方は言葉にならず、机に顔をつけ泣いていた。
「あ、でも。モンモランシーだって話せば……」
「会ってもくれないんだ~~」
「ひっつくんじゃねえ! 鼻水つくから! らめ~~!」
身を捩りつつシエスタを見る。
確かに軍曹モード時は怖いが普段は清楚で可愛い娘である。
貴族の中でも少し気に掛けている男はいるらしい。
成程、こんな娘と毎晩会っていたら邪推もするだろうか。
やっていることを見ればそんな風には思わないだろうに。
「どうせ僕は、ドッドだし、あの使い魔達には及ぶべくもないし……。駄目人間なんだ~~!」
どうもルイズのように、人間落ち込むとそれとは関係の無い所まで自分を卑下するようだ。
「あの使い魔達は……。いや、キュルケやタバサだって……。ルイズだって軍曹だって君だって……。
でも、僕は全然活躍できなくて……。だからもっと頑張ろうって思っただけなのに……」
そんなことを言われると才人も放っておけない。あの桃髪の少女に重なる。

頑張っているのに認められないのは、辛い。


「ああもう! お前ホントルイズに似てんな!」
才人の目からも何か変な汁が出て来た。何とか彼を元気づけられないだろうか。

とりあえず生徒が落ち込んでいるのだから、コルベール先生に聞くのが筋だろうと彼を見据える。
「ああ、そうだね……。つまり話を要約すると、ミスタ・グラモンは自分の周りの人々が凄すぎる、
けれど自分はそれに比べてあまりに情けないと思っているのだね?」
ギーシュはコクリと頷く。
「ああ、例えばだね。ライオンの群れがあるとする」
「はあ」

「そのライオンの群れの中で一匹だけ元気に生活しているウサギがいるとする。
だったらこのウサギは凄いウサギだと思わないか」

その言葉に厨房にいる全員が反応する。
「成程! 確かにそいつは凄いウサギだ!」
「つまりだ! 君の中にすむ悪魔を私に見せてくれ!」
「先生! 意味がわかんないよ!」
咄嗟に突っ込んだ後、ギーシュはあることに気づきポツリと言った。
「僕……ウサギ……?」


「控え目に言って」


一層濃い影をしょい込んだギーシュ。サイトは、今度はシエスタに話を振る。
「え、ええっと。それではダルフに伝わる闘魂注入法を」
一同は何か響き的に嫌なものを感じたが黙って見ている。
シエスタはギーシュを立たせ、その肩をポンと叩く。
「失礼」


シエスタが思いっきりその腕を振りかぶる。
彼女の口から「シイィィィィ」とか聞こえてくる。
ギーシュはヤバい予感を肌で感じとった。
「ちょっと待―――」
「チェエエエエエストオオオォォォォォォォオオオオーーーーーー!!!!!」

ギーシュはシエスタにビンタを喰らい、叩きつけられた。
壁に。
そのまま動かなくなるギーシュ。サイトはそんな彼を一瞥し、彼女の肩を叩く。
「シエスタ。今度からはそれはある程度元気な人に、死なない程度にやろうか
あと警察に行こう」
「え? まさか死……」
一応ギーシュは生きていた。顔も腫れていない。鼻血は凄い出ている。

「まあ、女の子だってよお。お前のことを本気で好きだから嫉妬してんだろ?
だったら焦らなくても大丈夫じゃないか?」
隊長が中々ポジティヴな意見を言ってくれた。流石はフランス人である。
ギーシュも少し自信ができたらしい。
「それはそうと何故か頭が痛いのだが」
皆視線を逸らした。

「……なあ、サイト」
「んだよ?」
「『君を愛してる』以上に愛を伝える言葉って一体何があるんだい?」
(控え目に言ってキモイ。いやもうマジキモイ!)
「無言じゃね?」
(隊長かっけええええええええ!)
目を輝かせる才人。しかし、タバサがポツリと呟く。
「伝わってるの?」
主人の鋭い指摘に、床に伏すベルナドットだった。
才人はそんな彼が余りに哀れ過ぎて何も言えなかった。



そこに久し振りに見る顔が現れる。数日振りの赤い髪に黒い肌の少女だ。
「タバサ。サイト。え~とギーシュ。何やってるの?」
「キュルケ……。え~と。って……。」
「なあにギーシュ。またモンモランシーと痴話喧嘩? 飽きないわね~」
「おお。キュルケ。久し振り」
「サイト久し振り! や~んタバサ! んも~また可愛くなっちゃって~!」
そう言って、タバサの顔が胸に埋まる。
(あ~。ちゃんと喜んでるんだな。あれ……)
タバサの表情が読めるようになった彼は感心する。隊長が唾を飲む音は聞かないことにした。
『今こそ感覚の共有を!』とかは本当に聞こえないことにする。
「それはそうとギーシュ! あんたこんなとこで管巻いてる暇あったら何かプレゼントするなりしたら?」
凄くタメになる解決策が出た。
「金がない」
全てを無にする節理だ。しかし、そんな哀れなギーシュにキュルケは人さし指を立てる。
「まっかせなさい! 今すぐってわけにはいかないけど、当てはあるのよ」
(タバサが何か嫌そうな顔したな)
「それはそうとタバサ~。魔法の練習に付き合って~」
キュルケの彼女とはあまりにかけ離れた言葉に、タバサは黙ってディテクトマジックをかける。
「失礼ね! 私だって……向学に燃えることもあるのよ」
「キュルケ! 病院行こう!」
「ギーシュ! どういう意味よ!」
「頭? 心?」
「タバサまで!」
「まあ……。そういうことなら皆でやろう……。ぶっちゃけ一人でいるのが辛いの……」
そう言ってギーシュはまた暗い影を背負った。
「ギーシュ。本当に参っているのね……。
でも、あなたが逞しくなって勲章の一つでも持ってくればモンモランシーも喜ぶんじゃない?」
その言葉にピクっと震えたギーシュは手を振り上げ叫んだ。
「やってやるぞ! 見返してやる!」
頭の出来がシンプルなのがこの男の良いところである。


「……夜に広場」
「そうね……。いいのよ! 男は逞しければいいんじゃない? とりあえず!」
どうも皆で訓練する方向に行った。ギーシュも時間さえ置けばいいだろう。
(でも何であのキュルケがこうもヤル気になったんだ?)

アーカードがさっきギーシュの出した鼻血を指で掬って舐め、噴き出した。
「マズ!!」
(それはそうでしょう……。てか、最強の吸血鬼が拾い喰いするなよ)
才人はそんな彼を微妙な目で見る。アーカードはそんな彼を見て言う。
「なかなか面白い面構えになったな」
「面白いって……」
「いや、いい意味だ……」
アーカードは一同をぐるりと見回す。
「素晴らしい。やはり人間は素晴らしい」

ふと思う。
人間とは何だろうかと。
今ならわかる気がする。

それは変わること。
諦めず変わろうとすること。

だからアーカードさんは……。
彼はもう死んでいて、
己の技を練り上げることはない。
だから、俺達が変わろうとすることを、
何より望んでいるのだ。





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