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竜が堕ちゆく先は-2

オスマン氏は見事な白ひげに手をやりながら倒れている竜を眺めた。
燃えるように赤い皮膚、立派な火竜である。
竜が落ちてきたと聞いた時はどうなることかと内心ヒヤヒヤしたオスマン氏だったが、
たまたま居合わせたタバサが竜を受け止めたと知り、思わずホッと安堵の息を吐いた。
タバサの正体を知っているオスマン氏はこのことを大して驚かなかった。
ただ真実が露見すると困るので目立って欲しくはなかったが。
ともかく大事にはならなかった。問題はこれからのことである。
竜をどうするか。
どこかのメイジの使い魔か、はたまた竜騎士の騎竜か。そもそも何故ここまでも傷を負っているのか。
疑問は尽きない。
「私に任せて欲しい」
 思考の海に沈んでいたオスマン氏は急に浮上した。
「うん?……そう言えば君の使い魔は風竜だったか。学園内に竜を従える者は他にはおらぬ。
ならばミス・タバサ、君にこの竜の世話を頼むとしようかの、学院の召使は自由に使っても良いぞ」
 何も言わずコクリと一度だけタバサはうなずく。
 彼らの横では学院の医者が秘薬を用いながら、治癒の魔法をかけている。
 それらを尻目にオスマン氏は王宮への対処方法に頭を悩ませていた。

「あの鳴き声が聞こえたときは何事かと思ったわよ」
 燃える様な赤い髪の少女がベッドに腰掛けている。
ブラウスのボタンを上から二つ外し大きな胸の谷間を覗かせている。
背が高く豊満な肉体と褐色の肌が醸し出す色気は、大人の女性顔負けであり少女のものとは思えない。
トリステイン魔法学院の男子生徒に、学院の女子生徒の中で
誰を恋人に欲しいかと問うのなら大部分が彼女の名を答えるだろう。
恋多き性格と美貌が学院内にその名を轟かせている少女キュルケ・フォン・ツェルプストー、二つ名は微熱。
「それにしてもあなたがあの竜の世話役を命じられるなんてね、貴族のやることじゃないわ」
「いい、私の希望」
 キュルケの話す内容に時折短く返事をする少女が一人。
大きな本棚のそばに置かれた椅子に座り、黙々と本を読んでいる。
本の表紙に記されている題名は『ハルケギニアの竜族』。
 キュルケとは正反対の子供の様な体、低い背、肌はまるで新雪の如く透ける様に白い。
常に本を携帯しており、学院一の読書家として皆からは認識されている。
名はタバサ、二つ名は雪風。
キュルケとタバサ、全くタイプの違う友人二人はタバサの部屋にいた。
「そうなの、なら良いけど。嫌ならはっきりと言った方が良いわよ」
「ありがとう、でも大丈夫」
 そう答えるとタバサは再び本の文字に眼を走らせた。
 あの竜はシルフィードと同じ韻竜かも知れない、そのことをタバサは確かめたかった。
その為に竜の世話役もわざわざ買って出たのである。
「ハルケギニアの竜族? あの竜のことを調べているの? 火竜でしょうあの竜は」
 珍しくタバサの読んでいる本に興味を持ったのかキュルケは立ち上がり、タバサの背後からページを覗き込む。
「竜が目覚めない」
「そう言えばそうね、もう三日になるのにまだ起きないなんてね、たしかに竜の生命力じゃおかしいわね」
ふとキュルケは、冗談めかして言う。
「火竜だから炎が消えているのかもね、ツェルプストーの炎なら
どんなものにも火を付けるわ、付けるだけじゃ収まらないけどね」
 その時である、部屋の扉がバタンと大きな音をたてて開いた。
「何バカなこと言ってるのよ、いくら火竜でも火で目覚めるわけないでしょ!」
 扉を開けたのは桃色の長い髪をした少女、何故か怒りで肩を震わせている。
 彼女の名はルイズ・ド・ラ・ヴァリエール、二つ名は……まだない。あえて言うのならゼロ。
「冗談に決まってるでしょルイズ、これだからトリステイン人は」
やれやれと言った風に肩をすくめるキュルケ。
「何ですって~!!」
馬鹿にされたと思い、更に怒りに震えるルイズ。
「……」
我関せずな調子で文字を追うタバサ。
三者三様な様子である。
やがてルイズは落ち着いたのか、一度深呼吸して尋ねた。
「サイトを知らない?」
「さあ、あなたに愛想を尽かしたんじゃないの、ダーリンも出て行くのなら私も元に来てくれれば良いのに」
 わざとルイズを挑発するかのような言動を続けるキュルケ、またしてもルイズの全身が怒りで震える。
「そんなわけないじゃない! まったくゲルマニア女の好色には呆れるわ」
 互いに罵声を飛ばし合いながら睨み合う少女二人。
だからこそルイズとキュルケは気が付かなかった。三人目の少女がそっと部屋を出たことに。
「行く」
 小さく告げるとタバサは開いたままの扉から外に出て行く。
 背後から響く、ありとあらゆる種類の罵声からタバサの耳は遠ざかっていった。

「でけえ……」
 平賀才人は素直に見たものに驚いていた。現在彼はルイズの使い魔であり
魔法学院での生活をそこそこに満喫している。
 彼は見ているもの、それは先日学院に落下してきた火竜であった。
学院内で広まった竜の噂を聞いた時才人は一目竜を見てみたくなったのだ。
 才人とてハルケギニアに来る前は普通の高校生。人前にゲームをして本を読み、
その中で暴れまわる竜をカッコイイと思ったものである。よって才人は竜をこの眼で見たかった。
ちなみにタバサの使い魔、風竜のシルフィードはカッコイイというよりカワイイ。
「何だ相棒、竜の成体を見たことなかったのか」
「ああシルフィードはタバサがいうには幼生らしいからな」
 ごつごつとした竜の体を眺めながら才人は想像する。自分が竜の背に乗りハルケギニアの空を
自在に翔る光景を。ついでに後ろにルイズも乗せちゃったりなんかして。
 けれど才人の妄想は突然響いた声にかき消された。
「小僧、ここはどこだ?」
 驚いて途端にキョロキョロと挙動不振に陥る才人。
「こいつはおでれーた。お前韻竜か」
「……剣が喋るか。魔剣の匂いを感じて起きてみたが馬鹿者の剣ではないらしい」
 竜が起きたのは言葉通り魔剣の匂いを感じたがため。竜の契約者は常に魔剣をその身に帯びていた。
しかし魔剣を身の付けていても眼の前の少年は自身の契約者とは雰囲気が違いすぎた。共通点は髪の色だけと言っても過言ではない。
 それにしても、ここに落ちてから互いの声が全く届かない。
念話には距離など無意味に等しいはず。だが、あまり竜は気に留めてはいない。
 あの馬鹿者のことだ、いつか無傷で現れよう。
「デデデ、デルフ、竜がおお起きたぞ」
「心配すんな相棒。韻竜ってのは総じて賢いもんだ。理由もなしに人を襲わねーよ」
「小僧、もう一度聞こう。ここはどこだ?」
 竜は首を才人の顔ぐらいにまで挙げ、最初の問いを再度尋ねる。
「えっとここはトリステイン魔法学院、ちなみに俺は平賀才人」
「トリステインだと、そんな名がミッドガルドに存在したか……帝都はどうなったのだ?」
「そ、そんなこと聞かれても、俺あんまり詳しくないし」
突然声を荒げた竜に反応して再び狼狽する才人。実際あまり学院の外に出ない
才人はハルケギニアのことをほとんど知らない。
 会話が途切れたところでタイミング良く何者かが、才人の背をつついた。
「わ! な、何?」
「呼んでる」
 少年の背後に立っていたのはタバサである。短い言葉から才人は意味を推測する。
「もしかして、ルイズが俺を探してるのか」
「そう」
 いっけね、とつぶやき才人は走り出す。何故呼んでいるのかは分からないが早く行こう。
またお仕置きでもされたらたまったものじゃない。
 残されたのは赤い体の竜と青い髪の少女。
「気が付いて良かった、あなたの傷を見る」
 タバサは杖を地面に置き、ゆっくりと近づく。
竜を警戒させないように、最初に怒らせてしまったろうから。
「娘、去れ。我は竜族。この程度の傷など……」
 後ろ足に力を込め起き上がろうとする。しかしどうにも力が入らない。
「く……何故だ」
「あなたの傷は深い、人間の私から見ても。それに血を流しすぎ」
 タバサは竜のそばにより傷の具合を確認する。多くは裂傷と火傷。体が大きいので包帯などは巻いていない。
ただうっすらと治療用の秘薬が塗られている。血は止まっているが動けば直ぐに傷が開いてしまう。
事実先程無理やり動いた時に開いた傷があった。
「背の傷も確認する。乗ってもいい?」
「好きにするがいい」
 ごつごつした竜の体に足と手をかけ、タバサは背に乗る。シルフィードとはまた違う感触。
「当分動いてはダメ」
 竜にここまでの傷を与える存在がいるだろうか。それも普通の竜より強力な韻竜に。
 そんなことを内心思いながらタバサは竜の背から降りた。
「ここは……どこなのだ?」
「ここはトリステイン王国。あなたはどこから?」
「さっきの小僧もトリステインと言っていたな」
 アレはやはり世界を越えたのか、とつぶやく。
 おぼろげな確証を竜は持ち始めていた。竜の元いた世界ミッドガルドの『封印』という
仕組みを作った神はどこかから来た。
それまでミッドガルドに君臨していた神竜族は神との戦に負け、ただの竜族へと堕とされた。
 帝都に降りたアレが神の遣わしたものだとしたら、世界を越えたのかも知れない。
「あなたは韻竜?」
「韻竜? それは何だ」
 肯定されると思い込んでいたタバサは竜の答えに面食らった。韻竜を知らない。
けれどこの竜は今まで人と会ったことが無いのかもしれない。韻竜という名は所詮人が付けた名前なのだから。
「人と話せて魔法が使える竜のこと」
「ならば我は韻竜と言えるかも知れんな」
 やはり、とタバサは思う。韻竜という言葉を知らなかった。
今まで人間に会ったことがなかったのだ。
ふと、タバサは空に眼をやる。日が沈みかけていた。地面に置いた杖を拾う。
「寮に戻る。安心して、あなたを傷つけるものはここにはいない」
「……感謝しよう、娘」
「それと喋らない方がいい。ここには人と話せる竜はあまりいない」
 暗くなりかけた学院の中を、自分の部屋を目指しタバサは駆けて行く。
 やがて日は消え空には月が昇る。双子の月が。
「月が二つ、やはりここは…… あの馬鹿者もどこかで双月を眺めておるのか」
 あの者が月を眺めるなど、有り得ぬことか。すぐに自分の言葉を打ち消して、竜は静かに体を横たえた。

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