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ゼロの氷竜-10


ゼロの氷竜 十話

トリステイン魔法学院のとある場所に、四人の男女が集っていた。
困り顔で沈黙しているのは、薄い頭を持つ教師、コルベール。
微笑みながら少女の頭をなぜるのは、銀髪の女、ブラムド。
困ったような、照れたような表情で頭をなぜられているのは、金髪を縦に巻いた少女、モンモランシー。
憮然とした表情を浮かべ、ブラムドへ鋭い視線を投げかける少年、ギーシュ。
正確にいえば、その視線は彼の愛しいモンモランシーの頭をなぜる、ブラムドの右手へと注がれていた。
常であればその視線に気づいたであろうブラムドだったが、先刻生じた疑問に思考の大半を割かれ、右手は意識せずに動かしているだけでしかない。
ただ、ギーシュがそれを知る術はない。
彼にとっては目の前の事実だけが存在する。
つまり愛しいモンモランシーが、自分以外の誰かに触れられているという事実が。
とはいえ、朝食の際にオスマンにいわれたことを、そう簡単に破るわけにもいかない。
しかし、そこで踏みとどまれないのがギーシュという人間だった。
それは若者故の血気にはやる一面か、もしくはモンモランシーへの愛情か、はたまた彼のそこはかとない頭の悪さか、あるいはその全てか。
何にせよ、ギーシュは行動することを決めた。
それでも直接的な手段に出ない程度の分別はある。
頭を働かせたギーシュはブラムドの言葉に思い至り、少し口をゆがませた。
「ブラムド様、よければあなたの知る破壊の力を、私たちに見せていただけませんか?」
「ミスタ・グラモン!?」
「コルベール先生、先刻ブラムド様はただの客人でおられるつもりはないと仰いました。魔法学院でのメイジの仕事といえば、魔法を教えることではありませんか?」
建前としてみれば、ギーシュはそれほどおかしなことを言ってはいない。
コルベールには、とっさに反論の言葉を思いつくことはできなかった。
そのやりとりを、ブラムドはどこか楽しそうに眺め始める。
「魔法を教えるのであれば、まず手本を見せて導くことからはじめるのが常道ではありませんか?」
困り果てるコルベールと対照的に、ブラムドは存分に稚気を刺激されていた。
「よかろう」
「ブラムド殿!?」
空いた手でコルベールをとどめるブラムドだが、その右手は未だにモンモランシーの頭の上にある。
当然ギーシュの視線はその右手に注がれ、ブラムドは少年の若々しい嫉妬に気付かされた。
「教師として働くかどうかはわからぬが、手本を一つ見せる程度のことはしてもよい」
ブラムドが自分の言葉に乗るかどうか、ギーシュは一つ目の賭けに勝利する。
「我の知るのは破壊の魔法ばかりだ。故になにか的がいるが」
ブラムドの言葉に、ギーシュが手を挙げる。
「それはわたくしが。……ワルキューレ!!」
ギーシュの高らかな声とともに振るわれる造花の杖、バラを模したそれから七枚の花びらが落ち、みるみるうちにそれらが人型を成す。
「一度に七体も!?」
モンモランシーの小さな驚きの声に、ギーシュは満足げな表情を浮かべていた。
だがギーシュはワルキューレを出したその後のことを、特に考えているわけではない。
彼がそのそこはかとない頭の悪さを見せつける瞬間である。
「ほぉ、これがこちらのゴーレムか」
さすがにモンモランシーの頭から手を離し、ブラムドはつぶやきながら手の甲で軽くゴーレムを叩く。
内部で反響する音を確かめ、その中が空洞であることを看破する。





さて、とブラムドは考える。
ルイズを始め、シュヴルーズもモンモランシーもギーシュも、魔法を使うときには杖を持っていた。
ルイズの味方と呼べるかわからないものたちの前で、あまり手の内をさらすのは得策ではないだろう。
「コルベール、杖を貸してくれ」
「は? いや、しかしこの杖は私が契約したものですので、ブラムド殿には……」
……面倒なものだ。
と思いはしたものの、ブラムドはさらに言葉を重ねた。
「魔力が通る杖であれば、大した問題はない」
その強い語調に、コルベールも反論することなく杖を手渡す。
「それではグラモン、少しゴーレムたちを離れさせてもらおう」
そういいながらブラムドは、密かに『魔力感知』を使う。
ギーシュから伸びるマナの線が、ゴーレムたちにつながっていた。
ゴーレムたちが動こうとする直前、その線が太さを変える。
……作りだし、それを保ち、命令を下す、そのそれぞれにマナを使い続けるのか。
……あまり効率的とは思えぬが、不意の戦にも対処できると考えれば利点もあるか。
フォーセリアのゴーレムとの違いに、ブラムドは強い興味を感じていた。
「しかし金属か……」
そのつぶやきを弱気の現れとみたギーシュは、口をゆがませながらブラムドへ問いかける。
「青銅ではありますが、ブラムド様の知る破壊の魔法では打ち壊せませんか?」
後先を考えずにブラムドを挑発したギーシュだったが、勝算もなしにワルキューレたちを出したわけではない。
元の姿が巨大なドラゴンであれば、人間へ化けるのにそれなりの魔力を使っているだろう。
であれば、破壊の魔法といってもそう大したことはできないに違いない、と。
だが、ギーシュにとっては大きな誤算が存在する。
ブラムドが人の姿へ変えた『変化』の魔法は、人間へ化けるための魔法ではなく、人間になるための魔法であり、人間で居続けることに魔力を消費しない。
つまり、人間の魔術師ブラムドは、その破壊の力を存分に発揮することができた。
人間である以上、竜としての能力は一部しか使えず、しかも発揮するためには竜語魔法を使うという形をとらざるを得なかったが。
「いや、折角なので我の知る水に関する魔法を見せようと思ったのだが、凍らせる魔法はゴーレム相手では効果が薄いのでな」
いまだ自らの誤算を知らないギーシュは、ブラムドの言葉が強がりにすぎないと思い、その頬はゆるんだままだった。
「ひとまずは、もっとも弱い魔法を見せよう」
ギーシュの視線の先で、ワルキューレたちは防御のために腕を十字に構える。
『光の矢(エネルギーボルト)』
モンモランシーとコルベールの視線の先で、ブラムドの持つ杖の先端が光を放った。
ブラムドの視線の先で、『光の矢』は十字に組んだワルキューレの腕とその胴体を貫き、その背後にいたワルキューレの肩口を吹き飛ばす。
腰から上を粉砕されたワルキューレの下半身が、頼りなく膝から崩れ落ちた。
四人は一様に驚きの表情を隠せない。
ただ、三人のメイジと一人の魔術師の驚きは、同一のものではなかった。
……威力が強すぎる。
ブラムドの知る『光の矢』は、ブラムドの魔術としての技量が高いとはいっても、青銅のゴーレムを貫通し、その背後にまで影響を与えるほど強いものではない。
全力で放ったのなら話は変わるだろうが、そうでなければ十字に組んだ両腕を砕けるかどうかという程度のはずだ。
しかし目前で起こった破壊の結果は、ブラムドの予想を遙かに上回る。
だがその驚愕は、その人となりを知らないメイジたちの手前、ひとまず誤魔化す必要があった。





ギーシュの視線の先を、ワルキューレの腕が飛んでいた。
肩口を吹き飛ばされた衝撃のせいで、腕はゆっくりと回転しながら飛んでいる。
……もっとも弱い? もっとも弱い魔法が僕のワルキューレを一撃で粉砕する?
ギーシュの思考に合わせるように、重苦しい音を立ててワルキューレの腕が落ちた。
それを合図に、ギーシュの視線がブラムドへと向けられ、その驚きの表情をみる。
……何を驚いている?
……予想外の結果?
……じゃぁこの威力は偶然か?
……そう偶然に違いない。
……運良くすごい威力が出ただけだ。
ギーシュの考えは、一部正鵠を射ていた。
メイジの魔法のように精神状態で威力が変わるというものではないが、確かにブラムドにとってこの結果は予想外に違いない。
しかしブラムドのつぶやきで、ギーシュはその答えを捨てさせられる。
「……もろいな」
それは自らの力へ自信を持っていたギーシュにとって、心の平静を崩しかねない言葉だ。
心の崩壊を招かないために、ギーシュは虚勢を張るほかない。
「で、ですが一斉にかかられては、今の魔法では対処できないでしょう?」
その力に敬意を表し、矛を収めれば傷は浅かった。
だがギーシュは、ブラムドをけしかけるという下策をとってしまう。
『光の矢』の予想外の威力で心を乱していたブラムドに、その挑発を受け流すことはできなかった。
「魔法の理を知っていれば、こういったことも可能だ」
視線をワルキューレたちに向け、ブラムドは魔法の効果を拡大した『光の矢』を放つ。
そしてワルキューレの隊列に、三つの穴が穿たれる。
『光の矢』の道筋に重なっていた二つの頭が砕かれ、片腕のワルキューレは胸を貫かれ、腰を砕かれたワルキューレはその上体を大地に投げ出す。
メイジ同士の戦いを知らない二人の生徒と違い、かつて軍人として生きていたコルベールにとっても、その威力には戦慄を禁じ得ない。
さらにはこれがもっとも弱い魔法だという。
では他の下位に属する魔法や、中位、上位の魔法はどれだけの威力があるのか。
コルベールは朝のオスマンの言葉が、決してブラムドやルイズのためだけではなく、学院に所属する全ての人間のためでもあったことを知った。
その巨大な体に由来するドラゴンの力だけでなく、これほど強力な魔法まで操るその能力は、学院のみならずトリステインという国そのものへの驚異となりかねない。
……オールド・オスマンに、確かめる必要がありますね。
背中に冷たい汗をにじませるコルベールを尻目に、ブラムドの講義は続いた。
「それでも止まらぬのであれば、別の魔法を使わざるを得まい」
頭上に掲げた杖の先に、拳大の赤い玉が回り始めた。
メイジたちが知る火の魔法、ファイヤーボールはその威力に伴って大きさを変える。
中位のラインクラスであれば大人が抱えられる程度、トライアングルクラスともなれば、放つ前から人を飲み込むほどの大きさだ。
普段の冷静さをもっていれば、先刻の魔法の威力に比して強力なものだと予想がついただろう。
だが心理的に大きな衝撃を受けていたギーシュは、この程度のものならばと口元に笑みを浮かべていた。
無論、放たれた『火球(ファイヤーボール)』はトライアングルクラスであるコルベールのそれと同等の威力を発揮する。
しかしコルベールは予想よりも低い威力に、ブラムドが加減をしたのではないかと疑問を浮かべる。
そしてコルベールの感じた通り、ブラムドは最低限に威力を加減していた。
ただの一撃でワルキューレたちを全滅させられたギーシュは、心神喪失状態に陥っていた。
呆然としてワルキューレたちのいた場所へ視線を送るギーシュの様子をみたブラムドは、やり過ぎたようだと苦笑を浮かべる。
ひとまずコルベールへ杖を返し、モンモランシーへささやきかける。
「少しやり過ぎてしまったようだ。手間をかけさせてすまんが、慰めてやってくれぬか」
その申し訳なさそうなブラムドの態度に、モンモランシーもまた苦笑を浮かべてうなずいた。





再びブラムドをオスマンの部屋へ案内しながら、コルベールは思考の羽を広げていた。
何事かをつぶやきながらも、壁に当たることもなく階段につまずくこともない。
器用なものだと感心するブラムドと対照的に、コルベールの心は深刻そのものだった。
……あのファイヤーボールはおそらく加減したものに間違いない。
……光の矢という魔法は一度にいくつも放つことができる。
……であればファイヤーボールもいくつも出せるのか?
……全力で放ったとすればどれだけの威力になるのか……。
……いや、それより重要な問題がある。
……光の矢という魔法はもっとも弱いものだといった。
……あのファイヤーボールはどの程度の魔法なのか。
……上位のものであれば良いが、中位や下位のものであったなら?
……軍隊を相手にすることもできるのではないか?
……人の姿で軍隊を相手にできるのであれば、ドラゴンの姿に戻ったときには?
戦慄を覚えたコルベールが、血の気を失ってブラムドへ振り返ろうとした瞬間、横合いから誰かにぶつかってしまう。
ばさばさと本や紙束が落ち、ブラムドの足下へ眼鏡が滑る。
「あ、や、も、申し訳ない!!」
「いえ、こちらこそ」
本を拾いながら声の主をみたコルベールは、その頬に先刻失った以上の血の気を取り戻す。
「ミ、ミス・ロングビル!!」
「これはコルベール先生、申し訳ありませんでした」
声を裏返すコルベールと対照的に、ミス・ロングビルと呼ばれた女性は冷静なものだった。
足下の眼鏡を拾い上げながら、ブラムドは見覚えのある顔と聞き覚えのある名前の女性へと話しかける。
「これはお前のものか?」
二人の視線が絡まり、ロングビルの瞳に鋭い光が一瞬浮かぶ。
「ええ、ありがとうございます」
だがその光が浮かんだのはほんの一瞬に過ぎなかった。
当然、ブラムドはその探るような光を見逃していない。
幾多の冒険者たちと戦い、そのことごとくに勝利した竜は、その態度に盗賊かそれに近しいものの気配を感じていた。
昨晩の様子からも推察し、ブラムドはロングビルがおそらく盗賊であろうと見抜く。
ただし盗賊としての気配を消し切れてない以上、盗賊ギルドなどの組織に属し、特殊な訓練を経たものではないことも感じ取れる。
つまり、組織だって魔法学院を探っているわけではない、ということだろう。
二人の協力で本と紙束を再び抱えたロングビルは、コルベールへと話しかける。
「ありがとうございました。まとめて用事を申しつけられると大変ですわ」
「もしやこれから学院長のところへ行かれるのですか?」
「ええ。ひょっとしてコルベール先生も?」
たったそれだけの短いやりとりで、なぜか頬をさらに染めたコルベールは、焦った挙げ句についそれを否定してしまう。
「いえ!! 私はこれから調べ物がありますので!!」
言い放ってしまった瞬間、コルベールは視線を突き刺すブラムドの案内に思い至り、困り顔でロングビルへ依頼する。
「申し訳ないが、ブラムド殿を学院長のところへ連れてもらえないだろうか」
「ブラムド様、とおっしゃいますの? 初めまして、私はロングビルと申します」
ブラムドを知らないようなその言葉に、コルベールはロングビルへ問いかける。
「やや? ミス・ロングビル、朝食の際、食堂におられなかったのですか?」
「私は貴族の名をなくした身ですので、貴族用の食堂では食べられませんわ」
目を伏せるロングビルに、コルベールは悲しげな表情を浮かべる。
「学院長の許可は出ているのではありませんか?」
その言葉にも、ロングビルは首を振るだけだった。
沈滞する空気を振り払うように、ブラムドがロングビルへ声をかける。
「我が名はブラムド。ロングビル、これからよろしく頼む」
「あ、はい。ではコルベール先生」
「え、ええ、よろしくお願いします」
そういって寂しげ笑顔で二人の女性を見送ったコルベールだったが、無論のことその胸中には血涙を流さんばかりの後悔を浮かべる。
だがひとまずは、と頭を切り換え、ブラムドに刻まれていた珍しいルーンの正体を確かめるため、図書室へとその足を向けた。





「召喚された!?」
あまりのことに荷物を取り落としそうになり、ロングビルはあわてて体勢を整える。
「それほど驚くことなのか?」
ブラムドはそれと対照的に、静かに問いを口にした。
「え、ええ。そんなことは生まれてから一度も、噂すら耳にしたことはありませんわ」
そういいながら、ロングビルははたと気付く。
「いえ、でも始祖ブリミルは人間を使い魔にしたと聞いています。ブリミルはご存じですか?」
「軽くはな。だがロングビル、お前は一つ勘違いをしている」
「勘違い?」
訝しげに眉をひそめるロングビルに、ブラムドはことさら真剣な表情で答えを返す。
「我は人ではなく竜だ。雲を貫くような、な」
「え?」
思いもよらない言葉に、ロングビルは目をしばたたかせる。
その様子に、ブラムドは笑い声を上げた。
「ふっ、ははははは……」
笑い声にあわせ、ロングビルもまた笑顔を浮かべるが、その内心は穏やかなものではない。
からかっているのか、探りを入れているのか、油断のできない相手と心の中で身構える。
ブラムドもまた、表情や態度ほど気を抜いているわけではない。
虚偽というものは押し隠そうとすればするほど、その存在を悟られやすくなる。
ブラムドは自らが竜であるという事実を織り交ぜることによって、その全てが冗談であるかのような錯覚をロングビルにもたらした。
「おからかいにならないでくださいまし」
「すまぬな。だが召喚されたことは事実だぞ」
そして会話に含まれた二つの真実、召喚されたこと、巨大な竜であること、その一方をあえて明かすことで、今一方の真実を押し隠す。
「本当ですか?」
苦笑いを浮かべながらただすロングビルに、ブラムドは真顔で応じる。
「うむ。オスマンは事故といっていたがな」
「珍しいことがあるものですのね」
感心するように返事をしたロングビルだが、とらえどころのない人物だと警戒を強める。
先刻ブラムドがその正体を見透かしたように、ロングビルは盗賊だった。
しかも貴族を専門に狙う、土くれのフーケ、と称される盗賊。
当然ロングビルという名前もまた偽りのもので、学院でその本名を知るものはいない。
トリステインのみならず、近隣諸国に名の知られたトリステイン魔法学院。
その宝物庫に眠る宝は、さぞかし貴重なものだろう。
それでいて学院という性質上、王宮や王立魔法研究所などよりも遙かに警戒が緩い。
魔法の教育機関である以上メイジも多いが、実戦経験はほとんどないというのが一般的な評価で、また全てではないにしろ真実をとらえていた。
つまりロングビルこと土くれのフーケにとっては、危険の少ないおいしい獲物といえる。
「では、ブラムド様は韻竜でございますのね」
含み笑いを漏らしながら、ロングビルが問いかける。
「ここではしゃべる竜はそういうそうだな。それほど珍しいものなのか?」
「ええ、遙か昔は多少いたようですけれど。ブラムド様の故郷では多いのですか?」
「多いというほどはおらぬが、どこの山には竜が住む、という噂程度はよくあった。お前の故郷ではどうだ? 近隣の生まれか?」
故郷、と問われたロングビルの目に、郷愁が香った。
「アルビオンです。といってもご存じないでしょうね」
「知らぬな。父や母はアルビオンなのか?」
家族、という言葉に、ロングビルの瞳には先刻と違う光が一瞬浮かぶ。
「両親は、亡くなりました」
それは、悲しみと、怒り。
「許せ、すまぬことを聞いた」
陳謝するブラムドに、ロングビルは努めて明るく返す。
「昔の話です」
「では今は天涯孤独の身の上、という訳か?」
「いえ、妹が、故郷におります」
妹、とつぶやいたロングビルの顔には、先刻と同じ郷愁と、おそらくは会うことのできない寂しさが、多分に含まれていた。


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