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竜が堕ちゆく先は-1

「アレを止めねば“大いなる時間”は元には戻らぬ。だが我はアレを倒せるか、お主とならあるいは……」
 自らの背にまたがる黒髪の戦士にドラゴンは話しかけた。
 カイムと呼ばれた戦士は何も答えない、ただ一度うなずく。
「そうか、ならば共に行こうぞ」
 空気を震わす轟音が響く。レッドドラゴンは自らの存在を示すかのように咆哮を上げた。
 血に濡れた翼に力を込め動かす。浮力をともなう羽ばたきはすぐに竜の体を飛翔させる。
 竜の瞳にうつるのは仰向けになった巨大な灰色の女、もはや球体と言える程に膨らんだ腹。周りには無数の透明な羽根を持った赤子が浮いている。
 それらはゆっくりと霞がかかるように、おぼろげになってゆく。
 何体かの赤子はこちらに気付いたのか、ゆっくりと動き出す。
 竜の火球と赤子の光弾、どちらも当たる距離ではなくまだ遠い。
 ふとレッドドラゴンはたった今思いついたかのように口を開いた。
「ひとつだけお主に教えておきたいことがある……我の名は、アンヘルと言う」
名前を告げる、ただそれだけのこと。
「……」
 答える声はない。
けれどカイムは竜の名を呼びたかった。愛しき竜の名を声に出して呼びたかった。
しかし彼の口は言葉をつむぐことはない。彼は契約の代償として声を失っているのだから。
 人間と異種族が心臓を交換する契約。
大きな代償を払いと大きな力を得ることが出来る契約において声、すなわち話せなくなることは代償として安いと戦士は思っていた。
その時は声が自分にとってどれ程大切か戦士は知るはずもなかった。
この先へ進めば激しい戦いが待っている。竜を、アンヘルの名を呼び勇気付けてやれるならどんなに良いことか。
契約によって声を介さず意志は伝わるとしても、自らの声でカイムは竜の名を呼びたかった。
叶わぬ思いを抱きつつカイムは二・三度竜の頭を優しくなでた。
「案ずるな、お主の意志はいつも我に届いておる。我は……お主が暖めてくれるだけで十分よ」
言葉を告げ終わるとアンヘルは翼をはばたかせ、加速した。
ぐんぐん赤子の群れとの距離がつまる。アンヘルは一声雄雄しく鳴くと大量の火球を吐き出した。
 火球は一つ一つが別の赤子を曲がりながら追尾する。元々赤子はあまり早くは動かない。
赤子のいくらかは火球が当たり、炎に包まれ落ちていく。
 その様子を未だ大量に残る赤子が眺めている。何が面白いのかキャッキャと無邪気に笑いながら。
 笑顔のまま赤子の群れは一斉にアンヘルの方を向いた。
 赤子の周囲の空間がゆらぐ、紫色をした光弾が二筋打ち出された。
 一人の赤子が打ち出す数は二つ、多くはない。しかし赤子の数は膨大であり、空を埋め尽くす程の数。
それらが一斉に光弾を放つ。たちまち無数の光弾が竜へと襲い掛かる。
 アンヘルは更に加速した。母体にたどり着かなければ意味がない。赤子の相手をしている暇はない。
 上下左右あらゆる方向に動きながらアンヘルは飛ぶ。それでも光弾の全てを避けることは出来ない。
一発二発と竜の体に光弾が当たり紫の光がはしる。
 苦痛に顔を歪ませながらアンヘルは進む。前へ前へ。
その姿をカイムはただ見ていることしか出来ない、この局面でカイムがアンヘルにしてやれることはない。
 一瞬、無数の赤子と一匹の竜が交差した。赤子の群れを竜が抜け出る。
 新たな傷を全身に刻みながらアンヘルは赤子の群れを突破し、霞みゆく灰色の母体と相対した。
「神が使わしたもの、赤子の天使の母、さしずめ母天使か」
 母天使は竜に対して何の反応も示さない。
 竜は口を開く、顔の前に薄く赤い魔法陣が形成される。
 次の瞬間魔方陣からは二十以上もの文字が描かれた光線が射出された。
 それらは空中に広がり弧を描いて母天使へと殺到する。
 しかし光線がまさに母天使に当たる瞬間、母天使は更に霞み周囲の空間が眼に見えて歪み始めた。
「何が始まるというのだ! 我にしっかりつかまっておれ、カイム」
アンヘルの悲鳴にも似た叫びが響く。
歪みは瞬く間に広がりアンヘルとカイムが飲み込まれる寸前、後方から飛来した幾筋もの光弾が竜の体を貫いた。
竜は悲鳴を上げながら、戦士は竜へ手を伸ばしながら歪みに飲まれていった。

トリステイン魔法学院本塔最上階、学院内で最も高い場所に学院長室は造られている。
長く白い髪・白い口ひげを持つ老人、トリステインの学院長であるオスマン氏は椅子に座り、重厚な机に積まれた書類の束を見て溜息をついた。
秘書だったミス・ロングビル、本当は土くれのフーケだったのだが、彼女が牢獄の送られ二週間が経とうとしていた。
それからである、次第に仕事がたまり始めたのは。
ミス・ロングビル、彼女は優秀だった。仕事がたまらない様にきっちりしたスケジュールを組み、それを実行させた。
 時おり眼を盗んでサボりもしたが、そのことすらも彼女には計算づくだった。
本当に彼女、ミス・ロングビルは優秀な秘書だった。
「私も若い頃はこんな書類すぐにでも片付けられたのじゃ、年を取るのは嫌じゃのう」
 けれど、愚痴を言っても始まらない。
 しぶしぶオスマン氏は一番上の書類を手に取る。さてやるかと気合を入れ羽根ペンを手に取った瞬間、
彼の背筋に突然一筋の悪寒が走った。
 彼はこう言った感覚を大事にしている。そして老練なメイジの感覚は正しかった。
 学院全体に悲鳴のような鳴き声がこだましたのだ。
 音からしてヴェストリ広場。そう当たりをつけオスマン氏が杖を手に取とったところで、
 ドアが勢い良く開き中年の禿頭の男が駆け込んできた。
「ミスタ・コルベールどうしたのかね、そんなに急いで」
 オスマン氏は重々しく声をかけた。学院長たる者常に威厳を持たねばならない。
「オールド・オスマン! 何を悠長に、あの音を聞いていらっしゃらなかったのですか!?」
「聞こえておったとも、これから調べに行くところじゃ」
「ならば早く来てください!」
 一刻を争うようにコルベールはまくし立てた。
「ヴェストリ広場に竜が、火竜が落ちてきたんです!」

 ヴェストリ広場に植えられている木の幹にもたれ掛かり分厚い本を読んでいた青い髪の少女タバサは、
おもむろに本を閉じ顔を上げると自身の真上、空を眺め杖を構えた。
 空を飛んでいたタバサの使い魔、風竜シルフィードの眼に写ったものは彼女も見ることができる。
 彼女の使い魔が見たもの、それは一直線に落下する竜だった。
 全身に大きな傷を幾つも負っている。赤い色をした竜は意識がないのか、その体は落ちるに任せている。
 このまま落ちればいかに竜とは言え、命を繋ぎ止めるのは難しい。更に竜はここトリステインの真上、
タバサのすぐ近くに落ちてくると思われた。
 だからタバサは落ちてくる竜を受け止めようと思った。
 それに韻竜と普通の竜と言う違いはあるが、シルフィードと同じ種族を見殺しにするのはしのびない。
 少女は呪文を詠唱し風を無数に重ね風のクッションを編み始める。空では竜の姿が瞬く間に大きくなっていく。
かなりの速さで落下しているようだ。
 この時点で他の生徒たちも竜の存在に気付いたのか空を見上げている。
 タバサは呪文を何度も唱えた。一体どれ程の負荷がかかるか分からない。出来る限り風のクッションを厚く編む。
 タバサが上を向き風のクッションを微調整した瞬間、竜は風のクッションに突っ込んだ。
 竜の血が周りへと飛び散る。
 負荷が大きい、少女の顔が小さく歪む。
 そのまま数秒が過ぎた。次第に落下した竜の勢いは削がれていき、遂に竜は空中で静止した。
 もう大丈夫と思ったタバサは魔法を解き、竜を地面に降ろす。
 表情は変えず、しかし心の内で彼女は安堵した。後は竜の傷を癒すだけである。
しかし風のトライアングルであるタバサは本格的な治癒の魔法が使えない。
ひとまず教師でも呼んでこようかと、タバサは歩き出そうとした。
 だが少女の安堵は咆哮によってかき消された。
 竜の意識が戻っていた。空に向かって咆哮を一つ上げると、傷だらけの翼を広げる。
 竜は飛び立とうとしていた。周囲には羽ばたきによって更に大量の血が飛散する。
 とっさにタバサは風で竜を上から抑え付ける。竜を飛ばさないために。
 彼女の眼にはハッキリと見えていた。竜の傷が裂け、新たな血が噴き出すのを。
 今この竜を飛ばせたら死んでしまう。だからタバサは竜を飛ばさない。
「娘、何故我の邪魔をするか!?」
 タバサの耳に人間の言葉が響いた。人間の声とは思えない異質な声。憤る声。
「カイム……」
 誰かの名を呼ぶ悲痛な竜声。
 血を失いすぎたのか、竜は再び意識を失い地面に倒れこんだ。
 タバサは頬に付いた竜の血を手でぬぐう。
 そして少女は竜が人間の言葉を話したことを思い返した。

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