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虚無と金の卵-08


 優秀なメイジ揃いの魔法学院の宝物庫が破られる――前代未聞。
 だが崩れ去った宝物庫の壁/刻まれた犯行声明を見て、誰もがその事実を認めざるを得なかった。
 ここまで強引な手段と、それが実行可能な実力の持ち主が居るとは、誰も想像すらしていなかった。
 結局、教師陣の誰もが責任問題の議論に終始し、同じく誰もが責任回避するための論理を考えあぐねていた。
 特に風の属性の教師、ギトーが前日の当直担当のシュヴルーズを責め立て、シュヴルーズが弁償すべしとの意見で纏めようと画策し誘導していた。
 オスマンが現場に入ってくるまでは。
 現場に集まった教職員を見回し、オスマンは、落ち着いた声で問いかけた。

「さて、この中でまともに当直をしたことのある教師は何人おられるかな?」

 オスマンの視線を受け止めるもの――皆無。

「これが現実じゃ。
 もし責任があるとしたら我々全員じゃ。勿論儂も含めて。誰もが、賊が入るなどとは夢にも思っておらんかった。
 何せメイジ揃いのこの場所、虎穴に入るようなものじゃからな。しかし……」

 オスマンは壁の穴を見つめる。

「この通り、大胆にも賊は忍び込み、『眠りの鐘』は盗まれてしまった。
 大分荒らされているようじゃから、他の被害状況もはっきりと確認せにゃあならんが……。
 ともあれ、この通り全員が油断していたのじゃ」

 責任を覚悟していたシュヴルーズは感涙も隠さずにオスマンを見つめる。
 照れくさくなったのか、オスマンは二、三度咳払いし、話を再会した。

「さて、犯行現場を見ていたのは誰だね?」
「この三人です」

 コルベールが、後ろに控えていたルイズ、キュルケ、タバサ達に前へ出るよう促す。
 ウフコックがルイズの肩に乗り、また上空をシルフィードが飛んでいたが、当然数には入っていない。

「ふむ……君達か」

 ちらり、とオスマンはウフコックを見据える。
 だが、自嘲気味にすぐに視線を外した。

「では、状況を説明してくれたまえ」

 最も状況を冷静に見ていたのはタバサだった。
 タバサの説明は的確かつ端的で、ところどころキュルケが具体的な補足を入れつつ説明をしていた。

「ふむ……では、ゴーレムの魔法を解いた後の足取りはわからない、と?」
「そうです、オールド・オスマン。深い森の中を進んでいったようで、風竜から追いかけるのは限度がありました」
「……ふむ、他に手がかりは無し、か」

 オスマンは己の白い髭を撫でつつ思案な表情をとる。

「そういえば、ミス・ロングビルは何処じゃね?」
「朝から姿を見かけておりませんな……」

 コルベールに何気なく尋ねた頃、この現場へ駆けて来る女性の姿があった。噂に上っていた、ロングビルであった。

「申し訳ありません。朝からフーケの件で、調査をしておりましたので」
「おお! 流石、仕事が早いのう。……して、結果は?」
「はい。フーケの居所がわかりました」
「何ですと!」

 コルベールが頓狂な声を上げる。

「近所の農民が、森の廃屋に入る黒いローブ姿の男を見かけたそうです。恐らく、フーケの隠れ家かと」
「それは近いのかね?」
「徒歩で半日、馬車で4時間といったところでしょうか」
「うむ、これはすぐ王室から応援を呼んで、兵隊を差し向けて貰わねば」
「馬鹿者!」

 オスマンの鋭い叱責――魔法学院を統べる者の威厳に満ちた声。

「応援を呼んでいる間に逃げられてしまうわい。降りかかった火の粉は自分で払うのが貴族じゃ!
 この件は儂らの手で解決する!」

 高らかなオスマンの宣言に教師はどよめく。
 誰しも魔法学院の建物の堅牢さを知っていた。それを力任せに破壊するフーケの手並み――まさに想像の埒外。

「では、フーケ捜索隊を編成しよう。我こそと思う者は杖を掲げよ」

 誰もが見合わせ、沈黙する中、さっと一振りの杖が上がる。
 ルイズの鳶色の瞳――普段以上に真剣で、固い意思に満ち溢れている。

「ミス・ヴァリエール! あなたは生徒ではありませんか! ここは教師に任せて……」
「誰も掲げないじゃないですか」

 誰もが、無理だ、と思った。
 だが、止めておけと身を案じる声、生意気と侮る声、ただ痛ましげに見る視線――あらゆる意思をはねのけ、ルイズは屈さない。

「ふん、ヴァリエールには負けていられませんわ」

 キュルケが続いて杖を掲げる。
 そして物言わずにタバサが続く。

「タバサ、貴方は良いのよ? 関係はないんだから」
「心配」

 タバサの偽り無い淡々とした答えにキュルケは感動し、ルイズも、唇をかみ締めて感謝した。

「ありがとう、タバサ……」

 その光景を微笑ましげに見ていたオスマンが口を開いた。

「うむ、ではこの三人にお願いするとしよう」
「オールド・オスマン!」

 危険すぎる、とシュヴルーズが中心に抗議の声を上げる。だがオスマンはそれを制した。

「彼女らは敵を見ている。それにミス・タバサは若くしてシュバリエの称号を持つほどの者じゃ」

 シュバリエとは、決して金では買うことのできない、明白な実績に対して贈られる称号。
 タバサは、メイジの実力を裏付けるに十分な爵位であるシュバリエのの持ち主である。
 その事実に、キュルケ、ルイズ、そして事情を知らぬ教師陣が驚いていた。

「ミス・ツェルプストーはゲルマニアにて優秀な軍人を輩出する家系じゃ。
 ミス・ヴァリエールは……ああ、その、優秀なメイジを多く排出する公爵家の生まれで、将来有望じゃろう。
 それに」

 オスマンは、ちらりとルイズの肩に乗るウフコックに視線を移す。

「彼女の使い魔は、その小さき体で、グラモン家のギーシュ・ド・グラモンを圧倒するほどの剛の者であるとの噂じゃ」
「そうですぞ! 何せかれはミョズ」

 コルベールの軽い口を、オスマンは慌てて押さえる。

「おほん……さて、この三人に勝てると言う者は居るまい。
 ……ミス・ヴァリエール、ミス・シュヴルーズ、ミス、タバサ…。儂からお願いしよう。
 魔法学院のために、フーケを探し、捕縛してくれるか?」
「杖に賭けて!」

 オスマンの真剣な視線を受け止め、三人の少女は力強く唱和した。

「ミス・ロングビル。彼女らが出立するための馬車などを準備してやってくれんか?」

「ええ。畏まりました」

「ギトー君、宝物庫の被害状況を調査してくれたまえ。
ミセス・シュヴルーズ、君は本日の授業はすべて臨時休講とする旨を伝えて、またできる限り外出せぬよう生徒と使用人達に周知してくれるかの?」
「ええ、了解です」

 ギトー、シュヴルーズが前に出て首肯する。

「……しかし、ちと不謹慎かもしれませんが……『破壊の杖』が盗まれなかったのは不幸中の幸いでしたな」

 話がまとまり、コルベールがやや安堵した声で言葉を漏らす。
 ロングビルが密やかに耳をそばだてた。

「全くじゃ。コルベール君も悪運が強いのう。君に貸しておいて本当に良かったわい。
 眠りの鐘は、そこそこに強力なマジックアイテムではあるが、破壊の杖ほどの希少な財産というわけでも無し。
 怪盗などと世間は噂しておるが、フーケの審美眼も案外大したこと無いのう」

 ざらついた空気を払拭するため、敢えてフーケを皮肉るオスマン。
 ほとんどの教師がオスマン同様、この不祥事による重い空気を払拭したかった。
 皆、緊張が解き解れ、オスマンにつられて笑っている。
 ぴくり、ぴくりとロングビルの耳が何故か動く――残念ながら目撃した人間はゼロ。

「はっはっは、全くです。まあ破壊の杖は自分の研究に役立てるつもりでしたが、こんな形で学院に役立っているならば光栄ですとも。
 それに私の研究室で鍵付きの金庫に入れ、さらに固定化して保管しておりますから、ご安心くださいませ」

「うむ。……さて、本題に戻ろう。
 今、我々が直面しているのは、まさにトリステイン魔法学院の危機である。各々が結束してこの危機を乗り切ろう。
 まず、現場の検証に当たる者以外は解散じゃ。諸君らの努力と、貴族の義務に期待する!」

 誰かの静かな怒りの気配、そして喜びに転じる気配――気付いた人間、当然の如く無し。
 現場を取り纏める者/討伐隊となり、心の内の戦意を高めている者/そして、己の職業意識に燃える者――皆、それぞれの行動を開始した。





 まだ学生の身分ながら、威風堂々たるルイズ達の姿がフーケ/ロングビルの網膜から離れない。
 決して他人には明かさぬ過去。
 彼女にも、貴族らしく振る舞い、家のため、国のために誇り高く生きた頃があった。
 羨望すら感じるほどの青さ。輝かしいほど潔く掲げられたルイズ達の杖――自分の中に一つも残っていないもの。
 遥か過去に人の手によって捨てられたものであり、そして己の手で捨てたもの。
 複雑な胸の内を抱きつつ、彼女は自分の仕事をこなす。
 残る仕事を無事終えれば、魔法学院秘書としての生活はそこで終わりであった。
 悪くない職場であった。嫌いではない人間も多かったし、嫌いな人間には吠え面をかかせることもできそうだった。
 この生活も、自分で捨てるとはいえ惜しいものだった。
 結局、何かを盗むたびに、何かを捨てていることには違いなく、今更その性分を変えられるはずもなかった。
 これから先、この学院に踏み入れることはあるまい――彼女はそんなこと感慨を込めて最後の仕事へと取り組んでいた。
 そして馬車や食料など諸々の準備を整え、フーケの捜索隊との待ち合わせ場所へ馬車を寄越した。
 そしてロングビルは、フーケとしての準備を整える。





 ――待ち合わせ場所の光景。
 醜い罵りあいがロングビルの耳を突き刺す。三人の女性の甲高いわめき声が響く、刺々しい空気が待ち合わせ場所を覆っている。
 ――3人の子供の喧嘩が繰り広げられていた。

「私は行くっていったら行くのよ! 私に遅れて杖を掲げたくせにでかい口を叩かないでほしいわね!」
「……身の程知らず」
「魔法が使えない癖に、何を生意気言ってるんだか。あんたなんかフーケの指一本で死んじゃうのよ!?」
「うるさいわねっ、ここまで来て後に退けるワケないでしょう! こっちこそ面白半分で首を突っ込まれちゃ迷惑なのよ!
 あんたは街に言って男でも引っ掛けてれば良いじゃない!」
「口が減らないわねっ……! そんなんだからアンタの先祖は寝取られるのよ!」
「なによ、泥棒猫のツェルプストーの癖に!」
「何ですって! この寝取られヴァリエール!」
「……ボキャブラリーが貧弱」
「タバサは黙ってなさいよ!」
「そうよ、ヴァリエールなんかと話してたら下品な口調が移るわ。タバサは話しちゃ駄目よ」

 ルイズとキュルケ、ついでにタバサは、互いに一歩も譲らずに罵り合っていた。
 貴族としての威厳――無し。
 オールド・オスマンの面目――無し。
 フーケと対峙するという緊張感――何処にも無し。
 誇り高く杖を掲げた生徒の醜態――理解不能。
 大人の威厳を見せて生徒を叱る――至難。
 だが、このままでは互いに杖を向けかねない。
 ロングビルはこんな喧嘩と係わり合いになるなど避けたかったが、流石に止めないのは不自然だと気付く。

「あー、そ、その、皆さん……落ち着きましょ? ね?」

 ロングビルは、何とも嫌そうな表情を何とか隠しつつ宥めようとして近づく。

「なによ横から煩いわね! ……って、ミス・ロングビル、来てましたの」

 言い争いに業を煮やしたキュルケがそれに気付き、ぱっと表情を輝かせた。

「丁度いいところに来たわ。ほら、タバサ、馬車に乗って」
「え、え?」

 驚くロングビルを尻目に、キュルケとタバサは無理矢理馬車へ乗り込む。

「ちょっと、私も……!」
「てやっ」

 キュルケは杖を振るって威嚇程度の小さい火を放つ。
 避けるのは造作も無い速度だったが、血が登ったルイズを驚かせ、時間を稼ぐには十分であったらしい。
 ルイズがのけぞった隙に、タバサとキュルケは馬車に飛び乗る――間髪居れずの、タバサの風によるめくらまし。
 砂塵を巻き上げ、馬車とルイズの距離をさらに引き離す。

「ミス・ロングビル! 早く馬車を出して!」
「え、ええ!? 良いんですか?」
「ちょ、何するのよ、待ちなさいよっ!」
「ホラ早く!」

 キュルケは急かしておきながら、ロングビルの握っていた手綱を奪う。
 急な手綱捌きに驚いた馬は、驚いて走り出す。
 ルイズだけをその場に残しつつ、馬車は去っていく。

「帰ったら土産話くらいは話してあげるわよー! じゃっあねー!」

 凱歌を上げるような勝利宣言。キュルケは、地団駄を踏むルイズを満足げに眺めていた。
 はっと気付くように、ロングビルはキュルケから手綱を取り戻す。

「……あのう、私知りませんよ……?」
「大丈夫ですわ、ミス・ロングビル。私もタバサも、こう見えてもトライアングルなんですから。
 大船に乗った気でいてほしいですわ」

 何処までも楽しげなキュルケに、ロングビルは疑わしげな視線を向ける。

「でもですね……オールド・オスマンに選ばれた以上、足りないというのは問題と思うのですが……?」
「ミス・ロングビルはご存知無いかもしれませんが、ミス・ヴァリエールは魔法が使えないんです。
 この場は無理にでも止めてあげるべきなんです。全く、あのフーケと戦うなんて」

 優しさと冷徹さ。からかいと思いやり――それらのない交ぜになったキュルケの表情に、ロングビルは思わず感心するように頷いた。

「友達思いなんですね……。でも恨まれますよ?」
「芝居するのは得意ですから。それに、あのくらいの悪態だって日常茶飯事ですの。全然気にしまわせんわ。
 それに……」
「それに?」
「貸しを作っておくには、悪くない相手ですから」

 キュルケはそう呟き、意味ありげに微笑む。
 ロングビルは、つられて微笑む。





 キュルケ達を乗せた馬車は魔法学院近辺の草原を抜け、昨日フーケが消えた森に差し掛かっていた。
 道中は何事も無かった。フーケどころか、人も獣も、全くキュルケ一行に姿を見せない。
 ただただ、平和で閑静な森が広がるばかり。
 馬の足音、馬車の車輪の軋み、そして何処かの鳥の囀りだけが響き渡る。
 タバサは時折注意深く耳をそばだて辺りをうかがっていたが、異常が無いとわかると、本を開いて読書に勤しんでいる。
 キュルケなどは暢気に欠伸しながら、のどかな空気を味わっていた。
 緊張感の無さそうな二人に物言いたげに、ロングビルは馬を御しながらちらちらと振り返る。
 だが視線を感じてもキュルケもタバサも全く動じない。
 それどころか、暇つぶしを求めるように、キュルケはロングビルに向かって雑談をもちかけた。

「何とも平和ですわねぇ。フーケ捕縛なんてお堅い目的じゃなくて、殿方と遊びに来たいところですわ」
「あの……だいじょうぶですか? あと一時間くらいでフーケの隠れ家に着きますよ?」
「大丈夫、幽霊の正体見たり……って言うじゃありませんの。警戒ばかりして消耗していたら、勝てるものも勝てませんわ」

 キュルケは何とも暇な様子で、爪にやすりをかけ始めた。
 爪先が滑らかな曲線を描くのを見て取り、満足げに微笑む。

「ねえタバサー、今はどう? 周囲に何かありそう?」
「異常なし」

 タバサは呼ばれた瞬間のみ、ふと顔を上げる――端的に返事し、また読書に没頭する。

「まあ、良いならば構いませんけど……」
「ええ。全然問題ありませんわ……あふぅ」

 また一つ、キュルケは欠伸をかみ殺す。

「しかし、ミス・ロングビルも今朝からお忙しかったのに、御者なんてやらせて申し訳ないですわね」
「いえ。これも秘書の仕事ですから」
「オールド・オスマンも良い人材に恵まれてますわ」

 衒いの無い賛辞に、ロングビルは微笑だけを返す。

「でもあれだけの助兵衛ジジイの相手も大変でしょう?」
「…そうなんですよ! 全く、この学院の男性陣は本当、ロクでも無い連中ばっかりで……」
「コルベール先生は何か変ですし……ギドー先生も実力はあるんでしょうけど、ちょっと……ですわね」
「本当、そうなのよ!」

 ロングビルとキュルケは口々にこの場に居ない男性教師の愚痴を吐き出しつつ、暢気な馬車の旅は続く。
 タバサは興味なさそうに読書したままだが、ロングビルは随分と不満を溜め込んでいたようだ。
 しばらく話していただろうか。辛辣かつ気楽な愚痴もあらかた出尽くした後で、キュルケはフーケの話に戻した。

「ところで、ミス・ロングビル。フーケってどんな人なんでしょうね。世間を騒がす怪盗の素顔、なんて凄く気になりません?
 しかもその怪盗をこれから捕まえようっていうんですから」
「さあ……噂は聞きますが、容姿など全く話に昇りませんからね」
「怪盗と言うくらいですから、きっと渋いオジサマじゃないかしら、って思いません?」
「はぁ……」
「意外と若かったり、あるいは私たちと同じくらいの年だったりしたら驚きよね。タバサはどう?」
「……メイジの実力は、年齢や見かけで判断してはいけない。
 同い年の可能性も、老人の可能性もある……」
「おじいちゃんやおばあちゃんだったらガッカリよねぇ」
「年下よりは良い」

 タバサの冷静な指摘――のように聞こえるが、実際はキュルケと息の合った会話。
 やれやれ、とロングビルは肩をすくめる。だがキュルケは悪びれもせず楽しげに話す。

「じゃあ当たったら金貨1枚なんてどうかしら?」
「私は賭け事はちょっと……」 と、ロングビルは撤退。
「構わない」 タバサは頷く。
「あら、ミス・ロングビル、残念ですわ。じゃあ私とタバサ二人で勝負よ」
「了解」
「私は、そうね……フーケの人相は……」

 キュルケは親しげにロングビルに近づいた。

「貴女みたいな人だと思うのよ」

 そして同時に、炎を放ってロングビルの杖を燃やす。

「タバサ!」

 タバサの行動――呼ばれるまでもなく、ロングビルの腕を極めて杖を首元に突きつける。

「動くな」
「い、一体なにを……!」
「残念でした。もうバレてるのよ。土くれのフーケさん?」

 キュルケは距離を取り、油断なくロングビル/フーケを見据える。
 長閑な森の空気が凍ったように張り詰める。異常を感じた馬が嘶き馬車を揺らす。誰も動揺を見せない。

「この通り、杖は燃やしたわ。
 もし他に隠し持っていたとしても、ここで下手な動きをしたら魔法の撃ち合いになるわね。
 タバサは風のトライアングル。錬金の魔法なんかでタバサに不意打ちなんてできるかしら?」

 キュルケによる、牽制と誘導を込めたフーケへの説明。反撃の意思を奪うために、キュルケは敢えて攻撃的な物言いをする。

「それにこの場から逃げても、今頃はルイズが教師達を説得してここに引き連れて来るはずよ。
 残念だけど、泥棒稼業は今日で畳んでもらうことになるわね」

 楽しげな口調――視線は真剣そのもの。
 唇をかみ締めるフーケを油断なく見据える。怪盗として巷を騒がせた彼女が、どんな魔法、どんな技を隠し持っているか――。

「……何故私を?」
「鼻の効く仲間が居たのよ。ゴーレムの上に居た貴方は見えなかったでしょうけど。
 ああ、『破壊の杖』も諦めてくださいます?」
「くっ……!」


 キュルケの視線を受け止めていたフーケ――不意に、怒りに満ちたその表情が緩む。
 はあ、と溜息を一つ吐く。

「ふふ、ふふふ……全く、一本取られちゃったわ。まあでも……私の役割は大体果たしたから。
 私の首なら貴女達にあげるわよ?」

「……何ですって?」

 キュルケの警戒――そしてフーケの驚きの敗北宣言。

「ずいぶん物分かりが良いのね……でも油断させる気なら無駄よ」
「いいえ、本当よ。……人形で良いなら、だけどね!」

 ぽん、と音を立てて、ロングビルの体が煙と消える――馬鹿な。
 何処へ消えたのか、キュルケは周囲を見渡す。フーケの姿は何処にも無い。めくらましと移動――違う。

「なんでっ? 何処へ行ったの!?」
「……違う、そうじゃない」

 タバサが、足元の何かを拾う。
 それは手に乗る程度の大きさのアルヴィーであった。

「私たちは騙された」 タバサの声に焦燥が篭もる。
「……それは何?」
「……スキルニル。ガーゴイルの一種。血を吸った人間に変身して行動する、古代のマジックアイテム」

 ぎゅ、と力を込めてタバサはアルヴィーを握り締めた。



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