あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの赤ずきん-20


「貴様……!ルイズを裏切っているのか」

ワルドの言葉に対して、バレッタは鼻で笑って言った。

「よく言うよねぇっ、人様のこと言える立場じゃないでしょ?」

実質的に言えば、ワルドもまたルイズを裏切っていたからだった。

「そんなんだから、わたしに正体がバレんのよ、まあバレた要因としては、ヒメサマの行動もあるけどっ」
「アンリエッタ王女だと?」

ワルドの言葉からは、忠臣を装っていた時の、アンリエッタに向けていた敬意と礼は消え失せていた。

「そ、あのヒメサマが案外曲者なのよ」
バレッタはアンリエッタについて語り始めた。

「この任務の秘匿性の保持が如何に大切か、あのヒメサマはわかってた。
 なのにあんたを寄越したわけ。しかも、ヒメサマが自分の意図を阻むかもしれない軍人がねっ♪」

「一々鼻につく言い方をする……。その口ぶりだと、何もかも知ってるのか?貴様、どこまで知っている?」

「全ては、憶測に過ぎねぇーのよ?でも行動を定める要素になるには十分だったってワケっ。
 あぁっーと……!わたしも一つ聞きたいんだけど、問題のウェールズ皇太子に送ったヒメサマの手紙って、
 ラブレターでしょ?まあヒメサマの様子から見て丸わかりだったけど。
 結婚が破綻するぐらいだもの、よほど情熱的な文面なのかしらねぇ、
 それとも宗教的な意味合いを織り交ぜた、婚姻の誓いの言葉でも書いてあるのかしら?ねぇ?」

「……知らないな」

本当に知らないのかどうかわからないのような返答であった。
だが、バレッタは特に気にした様子も見せずに続けて言った。

「まあいいわ、それはぁ。とりあえずわたしが言いたいのは、
 なぜヒメサマがルイズおねぇちゃんにこの任務を与えたか、よ」

指を立ててバレッタは得意げに続けた。

「多分ヒメサマは、軍人を送りたくなかったのよ。信頼できる者が居なかったからっていうのもあながち間違いでもないけど、
 魔法学院の生徒に頼むよりは、安全だと思うのよ。実力的な意味合いでもねぇ。
 つか、あんたが信用できるなら、一人のほうが安全でしょ。
 じゃあ、なんで不確定要素いっぱいのルイズおねぇちゃんに頼んだのか?っつーのかね」

ワルドの顔には影が出来ている。ワルドはバレッタを威圧的に睨むようにしていた。
だが、そんなことはお構いなしのバレッタであった。

「……多分ー、愛しの彼に亡命して欲しかったから、じゃないのぉ?
 義務と責任を重んじるガチガチの貴族軍人が、
 滅亡の危機に瀕した国で奮闘している皇太子に亡命なんて勧めるわけがないしぃ、
 もちろん、ヒメサマとして、直接亡命を勧めるように命令することは立場上できない。
 だから、そーゆーこと自発的にやってくれるであろうルイズおねぇちゃんに任務を授けた。どーう?」

バレッタは立てた指をワルドに向けた。
「そこで問題。軍人を送りたくなかったはずなのに、なぜあんたが、この任務に参加したかっつー話よ」

バレッタは芝居ががった仕草で両手を広げた。そして観客に向って演技をするかのように語り始めた

――――ルイズおねぇちゃんの部屋にヒメサマがやってきた、あの晩。
 ヒメサマは、尾行されていた。一人はわたし、もうひとりはギーシュ、そして最後の一人はワルドさま、テメェよっ。

誰かに感づかれて、バレるのを恐れてたのか、ルイズおねぇちゃんの部屋までは来なかったのね。
まあ、おかげでわたしもあんたには気が付けなかったわけだけど。それはお互い様ってと・こ・ろ♪
で、あんたはヒメサマが部屋に戻る時に待ち伏せをしていた。
ヒメサマは夜の徘徊について慌てて弁明しようとしただろーね。そして、あんたは向かった先で何があったか探った。

そこであんたはヒメサマの行動について、ある程度の予測をつけた。
だけど、ヒメサマはなかなか本題については話したがらない。なにかあると判断したテメェは、
一人の女の名前を言った。そう、ヒメサマが向かった方角にある女子寮に居るであろうルイズおねぇちゃんの名前を、ね。
ルイズおねぇちゃんとは、昔からの付き合いなんでしょ?ヒメサマとルイズおねぇちゃんの繋がりを知っててもおかしくない。
で、自分がルイズおねぇちゃんの婚約者って言ったらヒメサマが任務のことからなにまで全部話したんでしょ?

あのヒメサマは情で動く。自分の立場と重ね合わせたのか知らないけど、せめてこの二人は引き裂かれないように、
危険な地に向かうルイズと共に行かせるのが、せめてもの救いになるのならばーって考えたじゃないのぉ?
つまり、実力とか信頼度とかじゃなくて、ルイズの婚約者だからあんたは選ばれた。
為政者としてどーとかって言うわけじゃないのよ?でもね、
そんな理由で、遣わされたあんたをどーして信用できるわけ?
情が行動決定の根源にあるなら、疑って然るべきだと思うけどぉ?

――――どう?こんな感じじゃない?

バレッタは一通り喋りたいことを喋りきると、細巻に火をつけ一服した。

……何かがおかしい。バレッタの話を聞いて、フーケは言い知れない違和感を感じた。
ワルドは困惑していた。

「貴様、いったい何者だ……。何をしようとしている?」

「アルビオン貴族派に売り込もうと思ってるわよ、勿論、手紙と皇太子をお土産にしてねっ♪
 まあ、この二つはあんたも狙ってるでしょうけど」

「なぜ、皇太子を捕まえる必要がある?」
「なーにぃ?……もしかして殺すことが目的だったりするわけぇ?」
「ならばどうだというのだ」

バレッタは信じられない、といった表情で首を横に振った。

「信じらんなーいっ。勿体ないと思わないのぉ?」
「勿体ないだと……」

「たとえば、無事に手紙を回収できてゲルマニア皇室に送りつけたとしてもさぁー。
 トリステインとゲルマニアの同盟を阻止できる『だけ』じゃない、やるならもっと効率よくやらないとー。
 ……わたしね、実はトリステインは眼中ないの。トリステインは見た限り弱国だしぃー、
 負けるような陣営に肩入れする価値もないわっ。つーかぁー、羽振りが悪そうなのよ、この国。
 それにぶっ潰すだけなら、いくらでもやりようがあるし、無論同盟を組まれてもね」
その言い草は、今まで身を寄せていた国に対して、なんら思い入れが存在しないのを物語っていた。
潰せるというのも、出来るかどうかはべつとして、決して無根拠ではなかった。

「まあ、そんな国でも、使いようによっては役に立つのよ。
 そう、ゲルマニアに影響を与えるのにね。
 つか普通に結婚破棄で同盟阻止したとしても、ゲルマニアにはそんなに痛みがないのよ、
 困るのはトリステインだけ、それじゃあ意味がないのっ」

「ゲルマニアをいったいどうすると言うんだ」

「モチロンぶっ潰すのよ。そのためには手紙と皇太子は働いてもらった方がいいんじゃないの。例えば……」

とても、少女が口にするような内容ではないの話をバレッタは実に楽しげに言った。

「結婚式の最中、『調教』した皇太子を手紙とセットにして送りつけるとかー、結婚初夜の寝室に放り込むとかぁ?
 あぁ、ヒメサマがゲルマニア皇帝の子供を身ごもった後に送りつけるのもありねっ。
 どれにせよ、あのヒメサマは色々とやらかしてくれるわよ。
 駆け落ちっ、心中っ、自殺っ、どれも可能性はあるわねぇ。アハハっ!
 こーゆーのはね、双方が後戻りできなくなった所を狙うのよっ。二進も三進も行かなくなるんだからっ」

事が起これば、同盟関係は否応なしに破棄されるであろう、それどころか、両国の関係は一気に冷え込む。
そして、元々婚姻について反対派であった者たちが鬼の首を取ったように騒ぎだすに違いない、
そうすれば、トリステインに限らず、ゲルマニア帝国の中枢も混乱に見舞われる。
加えて、こちらの息がかかった反国家組織を密かに配置させておけば、期を見て蜂起させることも効果的と言える。
そうバレッタは考えていた。

ワルドとフーケは絶句していた。
とてもではないが、その策が効果的であり、利にかなっている作戦とは言い難かった。

しかし、驚くべきは、その混じりけのないえげつなさであった。
裏切ったワルドでさえ、アンリエッタに同情の念を抱くような内容。

望まぬ政略結婚、そしてその場に現れた二度と会えないと思っていた最愛の恋人。
バレッタが言うような状況になれば、アンリエッタにとっては地獄でしかない。
それを平然と言ってのけたバレッタの神経を疑った。
額に汗を滲ませているフーケは言った。

「やっぱり、関わりたくないわね……あーもう、早く帰りたいわ」

「貴様の狙いはわかった。つまりお前はこちら側に味方するというわけだな?」
「そうよ、お給金いっっぱい弾んでねっ、そうすれば文句はないからっ♪」

「……」

ワルドは無言のまま、何か考えているようであった。
まるで、品定めをしているような眼をしている。

「……だめだ。貴様は我々の陣営にはいらない」

フーケはその言葉に驚愕した。同時にすぐさまその場から飛びのいた。
酒場が未曽有の戦場になると判断したからだった。しかし、その考えは外れた。
そこには奇妙な静けさがあった。
「貴様……!外道が……!」

ワルドは杖に手をかけようとした恰好のまま、身動きせずに固まっていた。
何があったのか確かめるために、フーケはバレッタを見た。

バレッタの手には手紙が握られていた。その手紙をまるで盾にするかのようにひらひらさせていた。
その手紙は、立派な花押が押されている。
まさしく、アンリエッタがルイズに渡した手紙であった。

「下手すると破れちゃうよーんっ♪い・い・の・かなっ?」

それはルイズを拘禁した時に拝借したものであった。
これがなければ、ウェールズ皇太子からアンリエッタの手紙を得ることができなくなる。
バレッタの狡猾な面がまた露わになった瞬間であった。

「爆弾がハッタリだっていうのに気がついたのは褒めてあげるっ。さすがにそこまで用意周到とはいかないもの。
 でも、この手紙には、ルイズおねぇちゃんが手紙を持ってくるって書かれてるはずだから、
 本人が持っていかないと意味がない。つまりは、ルイズおねぇちゃんを死なせるわけにはいかないし、
 手紙自体も失ってはいけない。攻撃を止めたのはせーかいよっ♪」

「……それは、貴様も同じことだろう」

片眉を上げ、嘲りの念が混じった口調でバレッタは言った。

「同じ?ちょっと違うよ。わたしはルイズおねえちゃんになり済ますことだってできちゃうんだよ?
 マントつけて、杖持って、タカびーな口調でキャンキャン騒げばルイズおねぇちゃんの一丁出来上がりっ!
 面倒事が片付けばそれでも構わないと思ってるわけっ?おーけー?」

面倒事というのは、ワルドのこと。
つまりは、ワルドが下手をうてば、拘禁してある場所に行ってルイズを殺すということであった。

「どう、ちょっとそちらさんのお偉いさんに話を通してくれればいいだけよっ」

「……やはりだめだ」

「やっぱり駄目かぁー、まぁ当たり前と言えば、当たり前よねー。
 テメェも祖国から寝返ってそっちの陣営に移ったんでしょ?
 だったら、裏切り者は、まず信用を得ないといけない、そのためには貢献と功績が必須っ。
 つまり、手柄を誰かと半分コする余裕なんかはないってことよね?野心家さんっ♪」

「たしかにそれも理由としてある。だがそんなことはどうでもいい、貴様と敵対するのは決定事項だ。
 だが、今争ってルイズの行動や任務に支障が起きてはことだ。……アルビオンにて勝負を決しよう。
 正面から実力で潰ししてやろう、そうしなければこちらの気がすまない。だから、それまでは手を出さない。
 無論、組織のほうにも貴様のことは伏せておいてやろう」

ワルドのその言葉は、必ずバレッタを殺せるという自信の表れとも言えた。

「あらあら、随分と気前がいーんじゃない?わたしもそのほうが都合がいいから、それで構わないわよ。
 あぁ゛ーそういえばぁ、ルイズおねぇちゃんはともかくとして、そうなると邪魔なのが数人いるわねぇ」

キュルケとタバサ、それにギーシュのことだった。

「あいつらに何ができるってわけじゃないけど。ルイズおねぇちゃんと結託して何かされたらメンドイことになるしぃー、
 今のうちに殺しちゃおうかしらっ?」

ワルドも賛成なのか、幾分か顔から殺伐とした雰囲気が晴れていた。
ワルドが同意の言葉を口にしようとした瞬間、フーケが遮った。

「ちょっと待ちなさいよ。殺す必要はないんじゃないかしら?
 それに殺したりなんかしたらヴァリエールのお嬢ちゃんが、最悪任務を止めちゃうかもしれないと思わない?
 分断させるのが一番穏当だと思うんだけど?」

フーケの言い分はもっともであった。ルイズの性格からして、仲間が失踪した、または死んだとなれば、
そちらの原因究明に走ってしまう危険性がある。

「相棒代理ー。口挟まないほうがいいんじゃねぇか?」

ちょっと今は黙ってなさいよ!デルフ!と心の中で叫んだフーケ。
フーケにはフーケなりに思惑があった。
無理をして、声高らかにフーケは提案を口にした。

「そこで、私の出番さ。私が傭兵かなにか引き連れて、あんた達がいる宿を襲う。
 そしたら、足止め役に邪魔なやつを残して分断させればいいってわけよ?どう、結構いい案でしょ?」

自分に計画において必要な役割を作ることによって、身の安全を確保することがフーケの一つの目的だった。
ワルドはしばらく沈黙した後に言った。

「……いいだろう。そうしろ」

言葉はなかったが、バレッタも異論なかったようであった。

「明日の夜、宿屋を正面から襲え、本来船が出るのは明後日だが、そこは私が何とかする。
 分断させても追いつかれたら意味がないからな。
 それと、貴様も『レコン・キスタ』の一員なのだ。それを名に恥じぬようにことにあたれ」

バレッタの眉がピクリと動いた。
どうやら『レコン・キスタ』というのがワルドが属する組織の名であるようだった。
肩で息をしているフーケは自分を奮い立たせて言った。

「……そのことなんだけどさ。私その『レコン・キスタ』から抜けさせてもらうわ」

「!?……そんなことが出来ると思っているのか、マチルダ」

ワルドはレイピア風の杖、剣で言うと柄にあたる部分に手を置いて言った。

「あんた達敵対するんだろ?だったら、私は意地でも抜けるわ。最初から乗り気じゃなかったし……それに、
 そこの赤ずきんの嬢ちゃんと約束したからね『敵にならない』って」

「貴様、裏切るつもりか」

「裏切る?いいじゃないさ、あんたも裏切り者なんだしさ。それに元々私は盗賊。キレイごととは無縁よ。
 でもね。……私は一度交わした約束を破るほどクズになった覚えはないわ」

詭弁としか、言いようがなかった。
『約束』を重んじるというのならば、フーケはワルドとも約束していたからだ。
だが、ワルドに関しても、バレッタに関しても、どちらも脅されて上での約束であった。
要は、とにかくこの状況から早く足抜けしたかっただけであった。

「それに、今私を殺すってんなら、持てる力全てで抵抗するよ」
撃たれた肩の方の腕を左手で支え、杖をワルドへ向けた。手は震えており、杖の狙いが定まっていない。
だが、目には異常なほどまでの力を感じさせる光があった。生への渇望が理由かもしれない。

「あいにく、私は赤ずきんの嬢ちゃんの敵だけにはなりたくないの。言っとくけど、クソずきんを敵に回すぐらいなら、
 あんたは勿論こと、神とかエルフとか国とかに玉砕覚悟で戦いを挑むほうが百倍マシなのよ。……そしてよく考えてみて?」

荒くなりかけた呼吸を一度整えてからフーケは言った。

「私を殺した時に生じる隙を、見過ごすはずがないヤツが傍にいるってことを理解してるかしら?」

ワルドは思わず目を見張った。
紛れもない強固な覚悟がフーケを突き動かしているのが解ったからだった。
バレッタがニヤニヤとした表情で二人のやり取りを見ていた。
渋っていたワルドは折れざるをえなかった。ここでフーケと争っても、うま味を得るのはバレッタである。

「いいだろう、好きにするがいい」

「はいはい、そうさせてもらうよ……アイタタタ」

カタカタと音をたてながら、良かったな!相棒代理っ!とデルフリンガーが言った。
ホッと溜息をつき、体の力を抜いた。体中の筋肉が緊張で強張っていた。
とりあえずは、命の危機は免れたのだった。それに加え面倒事からも足抜けできる。
上々の出来であった。

フーケはちらりとバレッタを見た。
バレッタは相変わらず、何事もなかったかのような表情をしている。
もはや、自分のことなんて関心外なのかと、思ってしまったフーケであった。

「まあこれで大体のことは決まったかしら?」
「そうだな……しかし、最後に貴様に言っておくことがある」

嫌悪感を露わにしたワルドは、低い声で、そして相手を威圧するように語った。

「我々は、ハルケギニアの将来を憂い、国境を越えてつながった貴族の連盟。
 我々に国境は存在せず、始祖ブリミルの降臨せし『聖地』を取り戻す者たち、名を『レコン・キスタ』。
 高尚なる大義を掲げる我等に、そしてルイズにも、貴様のような下衆は必要としない」

ワルドはマントを靡かせながら勢いよく右手を体の正面に突き出し、バレッタの目を見据えて言った。

「―――ここに宣言する」

「我が名はジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド、二つ名は『閃光』。この名にかけて、貴様を殺すと誓おう。
 アルビオンが貴様の墓場だ、心しておけ。必ず殺す。今まで働いた無礼を後悔しながら死ね」

バレッタは、まるでついでのようにワルドの真似をして、にこやかに言った。

「わたしの名前はバレッタ。またの名を『ラブリンハンター』。この名にかけなくても、
 とりあえず邪魔だから、ぶっ殺すって誓ってあげるっ。墓場なんて大層なもの用意してあげないから、
 要るなら自分で掘って用意してね?殺すのは決まってるけど、今までかいた恥を思い出しながら死ねっ♪」

張りつめた空気が辺りに充満している。
フーケは二人が発している威圧感に耐えれなかった。精神が押しつぶされそうな感覚を味わう。
二人とも化け物。フーケはそう断じた。
アルビオンでの死闘。そこですべてのケリがつくはずだとフーケは確信した。
ワルドは一瞬バレッタの言葉に眉を歪めたが、一度眼をきつく閉じ平静を保った。
そして、もう話すことはないと言わんばかりに、ワルドはその場を去ろうとマントを翻して背を向けた。
そのとき、陽気な声が辺りに響いた。

「やっぱりぃ、やーめたぁっ♪」

突然、赤い悪魔が牙を剥いた。
それは一瞬の出来事。刹那と言っても過言ではないほどであった。

バレッタが服の下かどこからか、サブマシンガンをワルドに向って抜き放った。
異変に気づき即座に振り返ったワルドであったが、
その体の正中線上にある全ての急所が、下から上へと、バレッタが放った銃弾によって打ち抜かれた。
フーケは驚きの声を上げた。

「あの話の流れで撃った!!!?それになんて速さっ……!!」

フーケですら眼で追うことが出来ないほどの神速技であった。
撃ち終えたサブマシンガンを天井に向けて高々と掲げているバレッタは愉快なそうな口調で言った。

「ゴメンねっ♪ワルドさま、いろいろ考えたんだけどーぉ、やっぱり今こ………!????」

言葉は途中で切れ、みるみるうちにバレッタの表情が変わっていった。
真剣で、それでいて驚きの感情が滲みでている。
原因はバレッタの目線の先にあった。

体をハチの巣にされ、倒れているはずのワルドが、
床に倒れる前にまるで煙草の煙が薄れてゆくかのように、その姿を消した。
そこには何も残っていない。血も、肉体も。

バレッタはまるで今にも爆発しそうな不発弾のような雰囲気を漂わせている。
そしてだだ一言呟くように言った。

「……何これ」

本当は半分以上理解していた。しかし、理解したくなかったのだ。
それしか言葉が出なかったのだった。

状況を察したフーケが答えた。

「結果的に面倒事から足抜けできることになったのは、あんたのおかげとも言えなくもないし、
 お礼として、教えるわ。……それはワルドっていう男が使った魔法『遍在』よ 」

「……」
バレッタは無言のまま、フーケの言葉の続きを待った。
何の感情もない、バレッタの冷え切った表情に、フーケは不気味さを感じていた。
フーケは言った。

「風系統の魔法『遍在』。簡単に言えば分身を作り出す魔法よ。その距離は術者の意思の力に比例する。
 しかも、実体があって、一つ一つ意思と、魔法まで唱える力を持っているっていうシロモノ。敵に使われたら厄介な魔法よ。
 それに、見たところあの男、『スクウェア』クラスのメイジだと思うわ。
 そうだとしたら、作れる遍在の数は1体や2体ってことはないでしょうね」

フーケは『遍在』について知りうる限りのことをバレッタに教えた。
何故、自分がこの娘の肩を持つようなことをしたのか、自分でもよく理解できていなかった。
だが、それでよかった。人間は自分が理性的に動いていると思っていても、振り返ってみればそうでないときもある。
フーケは無言のままのバレッタに視線を向けた。

バレッタは、天井に一度顔を向け、肺の中に入っている空気をすべて押しだすように大きく息を吐いた。

侮っていた。

バレッタの頭の中にあった言葉はその一言であった。
魔法なんて土系統の魔法以外は、単なる飛び道具程度にしか考えていなかった。
確かに、魔界で戦った『ダークストーカー』たちの中にも分身に似たようなことができる者もいた。
しかし、メイジとはいえ、所詮人間。高をくくっていたと言わざるをえない。
それに加えて、バレッタはルイズたちが受ける魔法の授業に一度も顔をだしたことがない。
魔法における基本的な原理も知らなかったのだった。もし授業を聞いていたならば、もし魔法全般に興味を抱いていれば、
このような結果にならなかったのかもしれなかった。だが全ては後の祭り。

「っっくそったれがっッッ!!!!」

まるで、暴発した銃のように、バレッタは激情を露わにした。
脇にあった金貨が詰まった袋が乗っているテーブルを、怒りをぶつけるように蹴り飛ばした。
宙に舞ったテーブルはカウンターまで飛んで行き、落下の衝撃でカウンターにめり込んだ。
カウンターの傍で蹲って震えていた店主は泡を吹いて気絶した。
バレッタの左手にあるガンダールヴの印は荒々しく光りを放っている。
そして、その手は震えていた。

その様子に意外さを憶えたデルフリンガーがカタカタと音をたてながら言った。

「お、おいおい……相棒は何であんなに腹を立ててんだ?」
「わからないの?デルフ?」
「おりゃあ、剣だぜ?むちゃ言うな」

髪の毛が逆立つのではないかというほど怒りを周囲に放出しているバレッタをフーケは見て言った。

「あの赤ずきんはね。最初っからワルドって男を殺すつもりだったのよ。
 だから、ペラペラと自分の目的やらを話したのよ。もちろん、油断させるためにね」

フーケがバレッタに違和感を感じていたのはそのせいであった。
デルフリンガーが言った。

「だが、失敗しちまった」

「そう、失敗したのよ。しかも最悪の形で。あいつは約束を反故してワルドに攻撃を加えた。
 つまり、ワルド側が約束をどう扱うかわからない。アルビオンに着く前に手を出してくるかもしれないし、
 それどころか『レコン・キスタ』にバレッタが危険因子であることを報告されたらもうどうにもならない。
 売り込む計画は台無し。ようするに、この戦いにおける主導権を完璧に握られたってわけよ」

「全部ひっくり返っちまったってわけか」

「そうね。もう赤ずきんの嬢ちゃんは後手に回るしかない。遍在のおかげで、数においても圧倒的に不利。
 そりゃあ荒れるのもわかる気がするわ」
フーケ達の言葉はバレッタの耳に届いていた。

確かに失敗した。しかし失敗は後で取り返せればそれでいい。
だが問題は相手だ。
バレッタはワルドに向って発砲した。ワルドはそれを避けることはできなかった。
しかし、完璧に不意をつき、ガンダールヴの力を用い、この世界には存在しない特殊な武器を使って、
なんとかぎりぎり避けられずに済んだのが実態であった。
不意を突かなければ当たっていなかったのかもしれない。そんな予感がバレッタの頭によぎる。
だが、それでよかったのだった。相手を確実に仕留められることが出来ていたならば。

……だがワルドは生きている。

本物を見極めて倒さなければ勝負はつかない。どうやって見分ける?見分ける方法があるのか?遍在の最大人数は?
傭兵を尋問していた時に監視してたのは別の仲間じゃなくて遍在だった?
そのまえに、今まで目にしてきたワルドは本物だったのか、それとも遍在だったのか……?
そして、今ワルドは……。

そこまで思考が及ぶと、はっとした表情変わり、バレッタは悔しそうに舌打ちをして、
無言で弾かれるように走り出し、風のような速さで店の外へ出て行った。
その姿を見送ったフーケは、遠い景色を見ているかのような面持ちをしていた。
デルフリンガーが言う。

「どっちが生き残るかね?相棒代理」

「……さあ、どっちだろうね。正直私はどっちでもいいよ。とりあえず私は私の役目を果たすだけよ。
 というかね、早く肩の治療をしないと不味いかも。……血が足りなくなってきて足もとがふらついてきたわよ」

「そうか……なら早く治癒の魔法をかけてもらわねぇとな」

銃で撃たれた方の肩を押さえてフーケは言った。

「……まあどっちが勝つかわからないけどさ、あいつは相当焦ってるみたいね」

そう言うとフーケは足元を指差した。
そこには、フーケがバレッタに渡すために持ってきた金貨が床にばら撒かれていた。
持ち主を失った金貨は、店に灯されたランプの光を受けてさびしく煌めいていた。


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