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蒼い使い魔-30


「あれ…?」
ルイズは見知らぬ場所で一人ぽつりと佇んでいた、
ここはどこだろうか? ヴァリエール家の秘密の場所?
いや…違う、まるで見覚えのない場所、
辺りには板状に切りだされた不気味な石のオブジェが不規則にいくつもいくつも並んでいる。
「なにここ…なんだか不気味…」
そう言いながらとぼとぼと歩きだす。辺りは薄暗いが空には血のように紅い月が不気味に輝き
足元を照らしているため転ばずに済んだ。
周囲は静寂に包まれており、ルイズの足音だけがさみしく響き渡る。
「誰かいないの? ねぇ? バージル!? いたら返事してよ!」
孤独感に耐えられなくなり大声で己が使い魔の名前を叫ぶ、
だがその声は闇の中に吸い込まれ誰も返事をする者はいなかった。
「もう…なんで誰もいないの…? バージル…どこにいっちゃったのよ…」
ルイズはさみしさに押しつぶされそうになりながら、また歩き出す、だが歩けど歩けど一向に周囲の景色が変わることはなかった。
「なんなのよ! ここは!」
ついに我慢しきれなくなり大声を上げる、そして地面にへたり込むとあたりを見渡した。
「それにしても…なんなのかしら、この石のオブジェは…まさか墓石だったりとか…」
ルイズはそう呟きながらふらふらと立ち上がりオブジェへと近づいて行く、
調べてみると何やら馴染みのない異国の文字が書いてある。
そこになんと書いてあるのかはルイズには読むことができなかった。
「やだ…これってやっぱり墓石…」
だがそれだけでも墓石と判断するには十分だった、ルイズは呻くように後ずさると再び地面にへたり込む。
「じゃ…じゃあ…こ…これ全部…?」
ルイズはとたんに恐ろしくなり周囲を見渡す、そこにはまるでルイズをぐるりと取り囲むように墓石が並んでいた。
「あ…あぁ…こ…これは夢よ…! そう…夢…! だ…だからすぐ醒める…こんなっ…!」
ルイズは恐怖心にかられながら、頭を抱えうずくまる。
そうだ、昔ちいねぇさまに教えてもらったことがある、怖い夢を見た時は楽しい事を考えるんだ、
そうすれば自然に怖い夢が楽しい夢に変わる。
思い出したルイズは必死に楽しい事を考えようと努力する。だが…
―ボコッ…ボコボコッ…
何かが、地面から這い出る音がする。
ルイズが思わずその方向へ顔を向けると…
手に大鎌や槍、大剣などを持った悪魔の群れが、墓石の下から這い出てくるのが見えてしまった。
「ひっ…!!」
恐怖に身体がすくみあがる。周囲に存在するすべての墓石から悪魔達が這い出てくる。
見渡す限り悪魔、悪魔、悪魔、その全てがルイズへとにじり寄ってくる。
「こ…こないで! こないで!」
ルイズが杖を抜こうとすると。いつも杖があるべき場所に杖がない。
「う…嘘っ!? そんな…い…いや…た…助けて…バージル…」
ルイズの体を絶望と恐怖が支配する、このまま悪魔に殺されてしまうのだろうか? 
にじり寄る悪魔の一体がルイズに向け剣を振り上げる、ルイズは恐怖で目をつむった。
「ッ…!」
―ガキィンッ! と言う剣と剣がカチ合う音が響く。
ルイズが恐る恐る目をあけると…
目の前にはルイズよりも小さい銀髪の少年が悪魔の振り下ろした剣を刀で受け止めていた。
「逃げろ! ×××!」
少年は振り向くとルイズに向け叫ぶ、誰かの名前を呼んだ気がしたがよく聞き取れなかった。
「え…だ…だれ…?」
ルイズは驚き少年を見るが髪の毛が目元を隠しており誰だか識別することはできない。
腰を抜かしたルイズはそのまま少年を見守るしかできなかった。
十歳くらいの少年が、自分の背丈よりも遥かに長い刀を振りまわし必死に悪魔を斬り倒している。
その刀にルイズは見覚えがある、閻魔刀だ、ではあの少年は…?
「バー…ジル…?」
悪魔達はすでにルイズのことは視えていないらしく次々少年へ襲いかかる。
斬り飛ばされた悪魔の首が少年の腕にガブリと噛みつく、
―ベキッ…! ベギッバキッ! という骨が噛み砕かれる嫌な音、
「がっ…!」
短い悲鳴をあげ、右手から閻魔刀を取りこぼす、が、すぐさま左手で受け止めると
柄頭で腕に噛みついた悪魔の頭を叩き潰す。
「ハァッ…! ハァッ…! ハァッ…!」
少年の息は荒い、すでに満身創痍だ。
―ボコッ…
少年の足もとの土が盛り上がる。
「っ!?」
少年が気がついた時には遅く、地面から生えた槍が深々と少年の胸部を貫いた。
「ぐあっ…!」
短い悲鳴をあげながら少年は地面に倒れ伏す、
―ヒューッ…ヒュッ…ヒューッ…
肺から空気が漏れる音がする、少年は墓石に背中を預けながらも地面に突き刺さった閻魔刀へと必死に手を伸ばそうとする…
だがその少年の眼に映ったものは閻魔刀ではなかった、手を伸ばした閻魔刀のさらに先にあるもの…
小高い丘の上に建つ一軒の家屋、それが勢いよく炎を上げ燃え盛っている様子が目に入った…
少年の眼が絶望で染まる、おそらくは彼の家なのだろう、
「ぁ…ぁ…か…ぁ…さん…」
彼が消え入りそうな声で母を呼ぶ。
悪魔達が彼を取り囲む、その中の一体が地面に突き刺さった閻魔刀を引き抜くと…
彼の心臓目がけ突き刺す、それを合図とするように次々と悪魔達は彼の体に武器を突き刺していった。
その様子をみながらルイズは声にならない悲鳴を上げることしかできない…
墓石にはりつけられた少年の指がピクリと動く…
「か……かあ…さん…××…×…」
少年はゴブッと大量の血を吐き出しながら燃え盛る家屋に向け弱弱しく手を伸ばすと…ガクリと崩れ落ちる。
奇しくもルイズは彼が寄り掛かる墓石に刻まれた文字を読むことができた…
そこに刻まれていたのは



                   ‐ VERGIL ‐






「いやぁああああああ!!!!!」
ルイズはあらん限りの声をあげて涙を流す。今すぐにでも倒れ伏した少年のもとへと走っていきたい…!
だがルイズの足は動かない、動かす事が出来ない、まるで過去の映像を見るかのように
場面が切り替わるのをただただ見ているしかできないのだ。
「もうヤダ! やめて! おねがいやめて! こんなの見たくない!」
ルイズは涙を流しながら頭を振りまわす、しかし夢は一向にさめることはなかった
「う…うぅ…う…もうヤダぁ…ヤダよぉ…こんなの…バージル…助けて…」
目の前で起きたことにルイズは蹲った。

―クッ…ククッ…クククククク…ハッ…ハハッ…ハハハハハハハ!!!
突如墓石にはりつけられ息絶えたかに見えた少年が声をあげて笑いだす。
ルイズが驚いて顔を上げると、少年が自身の体に刺さった武器など意に介さないように立ち上がり、
一本一本抜き取っていく、少年の眼はまるで血のように紅く染まり、口元を大きく歪め…笑っていた…
そして最後に心臓に突き刺さった閻魔刀を引き抜と、自分に襲い掛かった悪魔の群れに猛然と走りだした。
悪魔の群れを斬り倒し、薙ぎ払い、殺しつくす、目の前で行われているのはただただ一方的な殺戮。
悪魔達は抵抗らしい抵抗もできず少年に斬り殺されていく。その中で少年は、楽しそうに笑っていた、
ルイズはそれを、『恐ろしい』と感じる。やがて全ての悪魔を殺し終えた少年がふらふらと歩きだした。
そして不意に立ち止まると…燃え落ちた民家の方向を見て、場面はそこで停止した。
呆然と紅い月をバックに立ち尽くす少年を見ていたルイズの頭に突然声が響く。


―力は素晴らしい

―どんな悪魔もスパーダの力の前にはひれ伏す

―凡百の悪魔などスパーダの力の前では赤子と同じ

―無残に母を殺し、残酷に弟を害した悪魔に死を

―憤怒、後悔、哀惜、絶望、疑問、戸惑い

―その『痛み』が快感であり、その『痛み』こそが力となる

―全てを守るために選んだ道

―暴虐に終止符を打たせる力

―父の名に誓い、俺はそれを求めている

―俺の決意も力も、決して壊せはしない

『更なる力を望むや否や?』


「失せろ」

―ガシャァン!! というまるでガラスが砕け散るような音が響きわたる。
見るとあたりの風景がその音とともに崩れ落ち漆黒の闇に閉ざされる。
ルイズが驚いて周囲を見回す、すると闇の中に誰かが立っている。
そこには閻魔刀を抜き放ったバージルが立っていた。
「バージル!!」
ようやく見つけた、この悪夢から救い出してくれる己が使い魔
ルイズは使い魔の名前を叫びながら駆けだす、
そしてバージルにおもいっきり抱きついた。
「どこに行ってたのよ! 呼んだらすぐに来なさいよ! このばかぁ!」
ルイズは泣き叫びながらバージルの胸板を叩く。
バージルは微動だにせず、ただ自分の胸で泣くルイズを見下ろし…静かに口を開いた、
「ルイズ…お前も…俺の邪魔をするのか?」
「えっ…?」
その言葉にルイズが顔を上げる、言葉の意味が分からない。
バージルの髪は垂れ下がり目元を隠しているためその表情をうかがうことはできなかった。
「邪魔だなんてそんな…。私はただ…」
そこまで言うとルイズの頭の中に再び声が響く。

―あの日、『人間の』俺は死んだ

―俺の決意はなにも変わってはいない、俺は俺の道を征くだけだ

―邪魔をする者は、誰だろうと斬る

「な…なに…? なんなの…これ…」
ルイズがバージルから離れるようにふらふらと後ずさる、すると…目の前で何かが光った、
―ポタッ…ポタッ… となにかが滴り落ちる音が聞こえる
「え…?」
ルイズが恐る恐る視線を下へ向ける…そこにあったのは…
バージルの手に握られた閻魔刀が自分の腹を深々と刺し貫いていた。
あぁ、さっきの音は血の音か…ルイズはまるで他人事のように考える、
夢だからだろうか? 不思議と痛みは感じない、だが、閻魔刀の冷たい感触が体を貫いているのだけは感じることができた。
「な…なん…で…バージル…」
ルイズが何が起こったかわからないといった表情でバージルを見る、
二つの視線が交錯した。
ルイズの瞳は起こったことが信じられないと言いたげに時折歪み、バージルはルイズをただ冷たく見下ろしている。
一拍置いた後、ルイズの腹から情け容赦なく刃を引き抜いた、
ルイズは一瞬大きく身体を泳がせて、後はそれきり硬直し…膝をつき前のめりに倒れこんだ。
バージルはそれを見た後、暫し額に片手の指先を這わせ…
何やらもの思わしげな風情だったが、すぐにその考えを振り払うようにそのまま前髪を掻きあげる。
そうすることにより現れた彼の顔は、表情などカケラも無い冷たい空気を纏っていた。
「ど…どうして…? バー…ジル…」
ルイズが振り絞るように声を出す、
「ルイズ…警告だ、俺の邪魔をしないでくれ」
彼には珍しく―それこそ一度も聞いたことがないほど静かな口調でそう言うと、閻魔刀に付着した血を振りはらう。
そして後ろを振り返ると右手の閻魔刀を強く握りしめ、強い歩調で歩きだす。
彼の視線の先には紅く輝く三つの眼、そして視界を埋め尽くすほどの悪魔の軍勢があった。
「だめ…行っちゃ…だめ…お願い…行かないで!」
ルイズはバージルに腹部を貫かれながらも必死に這いつくばりバージルを追おうと足掻いた、
だが彼の背中はどんどん遠くなる。眼が霞む、瞼が…重い…、闇が…降りてくる…。



「バージルッ!!」
―ガバッ、とルイズが勢いよくベッドから跳ね起きる。
「ハァッ…ハァッ…ハァッ…ハァッ…!」
心臓がうるさいほど高鳴っている。息が苦しい…
全身は汗でぐっしょり濡れており、眼がしょぼしょぼする、夢を見ながら泣いていたらしい
「夢…」
ルイズは呟きながら部屋の中を眺めまわす、そこはいつもと同じ、自分の部屋。
少し離れたところにあるソファにはバージルが横になっている。
「(あの夢って…バージルの…過去…?)」
とにかく落ち着こう、そう思いテーブルの上の水差しからコップに水を注ぎ、飲みほす。
今まで見たことがないほどの、過去最悪の悪夢だ。今でも鮮烈に思い出せる、あの恐怖。腹部を貫いた閻魔刀の冷たさ。
ルイズは自分のお腹をさする、夢の中とはいえ、バージルに刺されたのはかなりショックだった。
「…バージル?」
ルイズはソファで横になっている自分の使い魔に声をかけてみる
するとバージルは静かに目を開いた。
「どうした?」
「あ…う…その…夢…そう…夢を見たの…そのなかでね…わたし…あんたに殺されちゃった…」
ルイズは絞り出すように今見た悪夢の内容をバージルに話す。
普段なら「夢の中でご主人さまを殺すなんてどういうつもりよ!」と癇癪を起こすところだが
あまりにも悲惨で壮絶な彼の過去と覚悟を目の当たりにしたせいかそんな気力は消え去っていた。
「これも…ルーンの効果か? くだらんことを…ますます気に入らん…」
それを聞いたバージルは眉間に深い皺を寄せ左手のルーンを睨みつける。
バージルはルーンによって過去を心を勝手に覗き見られたことに強い不快感を示す。当然だ。
彼にとっては最も触れてほしくない記憶…
かといってルイズも自ら望んでそれを見たわけではないので責めるわけにもいかない。
自傷防止の効果がなければ即座に閻魔刀でルーンを左手の肉ごと削ぎ落としているだろう。
「その…ごめんね…」
険しい表情のバージルにルイズが恐る恐る謝る。
「なぜお前が謝る必要がある。すべてはこのルーンが原因だ。
…元をたどればお前にも責任はあるが、そこまで責める気は無い。
夢の中で俺に殺されたのなら、それでチャラにしておいてやる」
「もう…人が謝れば調子にのって…すごく怖かったんだから…」
ルイズはそう呟くとベッドの中へと戻る、
そしてシーツをかぶると再びバージルを見る。
「ねぇ、ちょっとこっち来なさい」
「なんだ…」
「あ…あんたのせいで怖くて寝れなくなっちゃったのよ! だから…その…そ…そばにいてほしいの!」
「殺された相手にか? 変わった女だ」
バージルは呆れたようにソファから立ち上がるとベッドに寄りかかるようにドカッと腰を下ろす。
「朝までここにいてやる」
「…ありがと」
「世話が焼ける…」
ルイズはバージルの背中に身体を寄せると、静かに寝息を立て始めた。

翌日
トリステインの王宮でアンリエッタは客を待っていた。
女王へ位を上げたとはいえ、のんびり玉座に腰をかけているわけではない
王の仕事は主に接待である。戴冠式を終え女王となってからは国内外の客と会うことが多くなった。
内容は何かしらの訴えや要求、ただのご機嫌うかがい、
アンリエッタは朝から晩まで誰かと会わなければならない羽目になっていた
しかも不幸なことに今は戦時中のため普段より客が多い、
どのような相手であれ威厳を見せねばならないため大変に気疲れしていた。
マザリーニの補佐がなければとっくにダウンしているだろう。
しかし、次に自分の目の前に現れる客は違う。先のような対応をしなくてもいい、だけどとても大事な客。
部屋の外で待機している呼び出しの声が聞こえた。客がこの場に到着したのである。
アンリエッタは溢れる嬉しさを少しばかし我慢した。もう少しだけ女王の態度をとらなければ。
無理矢理作った口調で、「通して」と告げる。すると、固く閉ざされていた扉がゆっくりと開いた。
ルイズが立って恭しく頭を下げる、その隣には彼女の使い魔、バージルの姿が―見えなかった。

「ルイズ! あぁルイズ! 会えて嬉しいわ!」
ルイズは頭を下げたまま、応える。
「姫さま……、いえ、陛下とお呼びせねばいけませんね」
「そのような他人行儀を申したら承知しませんよ。ルイズ・フランソワーズ。
あなたはわたくしから最愛のお友達を取り上げてしまうつもりなの?」
「ならば…、いつものように姫さまとお呼びいたしますわ」
「そうしてちょうだい。ねえルイズ、ホント女王になんてなるんじゃなかったわ。退屈は二倍。窮屈は三倍。そして気苦労は十倍よ…」
アンリエッタは疲れ切った表情を浮かべながらため息を吐く。
「そういえば…ルイズ、あなたの使い魔の方は?」
「あ…えと…バージルは別室で待機させています、その…そう! た…体調が悪いとかで…!」
その問いかけにルイズは目をすごい勢いで泳がせながら答える。
「そう…一言お礼を申し上げたかったのだけれど…」
無論ルイズは嘘をついている、まさかバージルがアンリエッタとの謁見を拒否した、とは言えない。
「あの女に膝をつくのは死んでも御免だ」
とバッサリ言われあきらめることにした。アンリエッタの前で空気を読まない発言を連発されるよりは遥かにいい。
バージルがアンリエッタをあまりよく思ってないのは確かだ、そもそもあの男に気に入られる人間がいるかどうかは甚だ疑問だが…。
「あの…姫様? お礼…と仰いましたが…?」
ルイズは先のアンリエッタの言葉を聞き返す。
そもそもここに呼ばれた理由はなんだろうか? 
今朝がた急にアンリエッタからの使者が魔法学院にやってきたのである、
二人は授業を休みこうしてアンリエッタが用意した馬車に乗りここまでやってきたのだった。
やはり呼ばれた理由は『虚無』のことなのだろうか?
するとアンリエッタはルイズの手を握る、
「先のタルブでの勝利は、あなたと彼のおかげだもの、お礼をしなくちゃ」
ルイズはアンリエッタの表情をはっとした表情で見つめる。
「わたくしに隠し事はしなくて結構よ。ルイズ」
「わたし…なんのことだか……」
それでもとぼけようとするルイズにアンリエッタはほほ笑むと羊皮紙の報告書をルイズに手渡した。
その報告書をかいつまむとこう書いてあった。
『所属不明の風竜から飛び出した蒼い衣を纏った銀髪の騎士が次々と敵竜騎士隊を撃墜、駆逐』
「(あれだけムチャクチャやればそりゃ目立つわよね…)」
それを読んでルイズは大きくため息を吐く
「ここまでお調べなんですね…といっても、この蒼い衣の剣士って時点でバレバレですよね…」
「あれだけ派手な戦果をあげておいて隠し通せるわけがないじゃないの。
兵たちの間では黙示録の騎士とも呼ばれていますが、わたくしにはすぐにわかりましたわ。
だから彼にもお礼と恩賞を与えたかったのですけれど…」
アンリエッタはそこでクスクスと笑うと、もう一度ルイズの目を見て言った。
「多大な…本当に大きな戦果ですわ、ルイズ・フランソワーズ。あなたとその使い魔が成し遂げた戦果は、
このトリステインはおろか、ハルケギニアの歴史の中でも類を見ないほどのものです。
本来ならあなたに領地どころか小国を与えて大公の位をあたえてもよいくらい。
そして使い魔さんにも特例で爵位を与えることもできましょう」
「わ…わたしはなにも…手柄を立てたのはあいつ…使い魔で…」
ルイズはぼそぼそと言いづらそうに呟く。
「あの光はあなたなのでしょう? ルイズ、城下では奇跡の光だと噂されていますが
私は奇跡を信じません。あの光が膨れ上がった場所にあなたたちが乗った風竜がいた、
あれはあなたなのでしょう?」
ルイズはアンリエッタに見つめられこれ以上は隠せないと判断し、
「実は…」と始祖の祈祷書のことを話し始めた。

「では…間違いなく私は『虚無』の担い手なのですか?」
「そう考えるのが正しいようね」
ルイズは溜息をついた。
「これであなたに、勲章や恩賞を授けることができなくなった理由はわかるわね? ルイズ」
「はい」
「だからルイズ、誰にもその力のことは話してはなりません。これはわたしと、あなたとの秘密よ」
すると、考え込んでいたルイズが何か決心したかのように、アンリエッタを見つめ口を開く。
「おそれながら姫さまに、わたしの『虚無』を捧げたいと思います」
「いえ…、いいのです。あなたはその力のことを一刻も早く忘れなさい。二度と使ってはなりませぬ」
「神は…、姫さまを…トリステインをお助けするためにこの力を授けたはずなのです!」
しかし、アンリエッタは首を振る。
「母が申しておしました。過ぎたる力は人を狂わせると。『虚無』の協力を手にしたわたくしがそうならぬと、誰が言いきれるのでしょうか?」
ルイズは昂然と顔を上げる、自分の使命に気がついたような、そんな顔であった。しかしその顔はどこか危うい。
「わたしは、姫さまと祖国のためにこの力と体を捧げなさいとしつけられ、信じて育って参りました。
しかし、わたしの魔法は常に失敗しておりました、ついた二つ名は『ゼロ』。嘲りと侮蔑の中、いつも口惜しさに体を震わせておりました」
ルイズはきっぱりと言い切る、
「しかし、そんなわたしに神は力を与えてくださいました。わたしは自分の信じるものに、この力を使いとう存じます。
それでも陛下がいらぬとおっしゃるなら杖を陛下にお返しせねばなりません」
そんなルイズの口上にアンリエッタは心を打たれた。
「わかったわ…ルイズ、あなたは今でもわたくしの一番のお友達、
あなたがわたくしを信じてくれている限り、わたくしもあなたを信じ決して裏切らないことを始祖に誓いますわ…」
「姫様…」
ルイズとアンリエッタはひしと抱き合った。

謁見を終えたルイズがバージルを迎えに別室へと向かう。
ルイズがドアをあけると、部屋の中に『体調不良』で休んでいるはずの男が
優雅にティーカップ片手に足を組みながら本を読んでいる光景が目に入った。
「バージル、終わったわ、帰るわよ」
バージルはその言葉を聞くとテーブルにティーカップを置き、部屋を出た。
王城の廊下を二人で歩いているとルイズがバージルの横腹を肘でつつく。
「姫様があんたに『お体にお気をつけてくださいね』ですってよ」
「……ふん」
バージルはつまらなそうに鼻を鳴らすと横目でルイズを見ながら話しかける、
「ルイズ、なにか下らんことを言ったのではないだろうな?」
「何よ下らないことって、ただこれからも変わらず姫様に忠誠と『虚無』をささげるって誓っただけよ」
「それが下らんと言うのだ…」
呆れたように吐き捨てるバージルにルイズはキッとなって睨みつける。
「貴族が陛下に忠誠を誓うのは当然のことよ! 姫様も私が信じている限り決して裏切らないと始祖に誓ってくれたわ!」
ツンと胸を張って答えるルイズはなにやら書面を取り出した
「何だそれは」
「許可証よ、女王陛下公認のね、簡単にいえば女王の権利を行使する権利書ってところね、
あぁ…姫様はそれほど私を信頼してくださってるんだわ…私もそれに答える、姫様のためにね」
そう言いながら悦に入るルイズを見ると、バージルは小さくため息を吐いた。
「あ、そうそう、忘れるところだったわ、はいこれ」
ブルドンネ街に入ったところでルイズは思い出したかのようにバージルに何やら皮袋を手渡す、掌に収まる大きさだがなかなかに重量がある。
「…これは?」
「姫様からあんたにだって、タルブでの恩賞、ありがたく受け取っておきなさい」
「金と…宝石か、まぁいいだろう」
バージルが袋の中を確認するとコートのなかにしまい込む、彼にとっては地位よりも価値のあるものだ。
「あんたも姫様のご期待にちゃんと答えるのよ! 私の使い魔なんだから!」
「断る、俺はお前とは違ってあの女に忠誠を誓う気など毛頭ない。今回はたまたま利害が一致しただけだ」
やっぱりこいつをアンリエッタに合わせなくて正解だった、その言葉を聞きルイズは心底そう思った。
「何言ってるの!? ご主人様が生涯忠誠を誓う相手には使い魔も忠誠を誓うのは当然でしょ?」
「知らんな、俺は魔界に行く。いつまでもここに留まる気はない」
「口を開けば魔界魔界! 勝手に行けばいいじゃない!だれも残ってほしいなんて頼んでないわ」
ルイズはぷいっと顔をそらすとバージルより歩調を速めて歩き出した
「そうか、ではそうさせてもらおう」
バージルは事もなげに言う、まるでその言葉を待っていた、と言わんばかりだ。
「えっ!?」
その言葉が聞こえたのかルイズが立ち止まり振り返る、あまりにあっさりバージルがその言葉を受け入れたからだ。
「なっ…て…手がかりはあるの!? ないんでしょ? 
行けないかもしれないじゃない…! そんな場所にどうやって行こうっていうのよ!?」
「手がかりならある」
バージルはそう言うとコートから一冊の本を取り出す、それは昨晩読んでいた本だ。
「な…なんの本?」
「『魔剣文書』。スパーダが封じた魔界への道が書かれている。この世界にもあるとは思わなかったが、
つい先日見つけた、この世界にも魔界への道が存在するのは確かだ」
「う…そ…」
「解読が終わればすぐにでもここを発つつもりだ、路銀もこの通りだ」
バージルはにべもなくそう言うと呆然と立ちすくむルイズの横を通り過ぎ、人込みをかき分け消えていった。
バージルは歩調を緩ませることなく人込みをかき分け歩いて行く。
城下は戦勝祝いで未だにお祭り騒ぎ、酔っぱらった一団がワインやエールの入った盃を掲げ
口々に乾杯! と叫んではカラにしている。
ルイズはバージルの口から出た言葉にしばし立ち尽くしていたが、バージルの姿がないことに気がつく、
長身で銀髪にロングコートという割と目立つ格好とは言え人ごみに紛れてしまい、まるで姿が見えない。
ルイズは慌てて駆けだした。
「いてぇな!」
勢いあまって、ルイズは男にぶつかってしまった。
どうやら傭兵崩れらしい、手には酒の壜をもって、それをぐびぐびラッパ飲みしている、
相当出来上がっているようだ。
ルイズはそれを無視し男の脇を通り抜けようとしたが、腕を掴まれた。
「待ちなよ、お嬢さん、人にぶつかって謝りもしねぇで通り抜けるって法はねぇ」
傍らの傭兵仲間らしき男が、ルイズの羽織ったマントに気がつき
「貴族じゃねぇか」と呟いた。
だが男は動じず、まだルイズの腕を強く握っている。
「今日はタルブの戦勝祝いのお祭りさ、無礼講だ! 貴族も兵隊も町人もねぇよ。
ほれ、貴族のお嬢さん、ぶつかったわびに俺に一杯ついでくれ」
男はそう言うとワインの壜を突き出した。
「離しなさい! 無礼者!」
ルイズが叫ぶと男の顔が凶悪に歪んだ
「なんでぇ、俺にはつげねぇってか。おい! 誰がタルブでアルビオン軍をやっつけたとおもってるんでぇ!
『聖女』でもてめぇら貴族でもねぇ! 俺達兵隊さ!」
男はそういうとルイズの髪をがしりと掴もうとしたその時
男の頭の上からワインがどぼどぼと浴びせられる。
いつの間にか男の後ろに立っていたバージルがワインの壜を奪い男の頭の上から浴びせかけていたのだった。
「ぶっ…なっ…なんだテメェ! なにしやがっ―」
男がそこまで言い切る間もなくバージルの手が男の首をガシリと掴み上へと持ち上げる。
首を掴まれ立つべき地面を失った男がジタバタともがく、がバージルの手はまるで万力のように男の首を締めあげた。
「あ…がっ…ごっ…」
「お…おい! てめぇ! 何しやがる! は…離しやがれ!」
締め上げられた男が顔を蒼白にしながら泡を吹き始め、それを見て慌てた傭兵仲間達がバージルを取り囲む。
バージルは首を掴んでいた手をパッと離し、男を地面に放り出す。
地面に放り出された男はビクビクと痙攣し口から泡を吐いている。
「お…おい…コイツはやばい…」
バージルの眼をみた傭兵の一人が顔を蒼くして呟く、
長年戦場を生き抜いてきた長年の勘が、いや、生命の本能部分が告げる。
―この闇と戦ってはならない。
今まで味わったことのない濃厚な死の気配、この男は数多の死を振りまいてきた魔人だと直感する。
その恐怖は周囲を取り囲んだ傭兵達に伝染したのかじりじりと後ずさる。
「ひっ…ひぃいい…」
その中の一人が逃げ出すと傭兵達は気絶した男を無視し蜘蛛の子を散らすように逃げだした。
「………」
それを見送ったバージルは無言のままルイズの横を通り過ぎて行ってしまった。
ルイズはハッと我にかえるとバージルを追いかけコートの袖をぎゅっと握る、
離したら今度こそどこかに消えてしまいそうで不安になったからだ。
「その…ごめん…」
「何故謝る」
「………」
怒ってるのかな? そう考えたルイズはバージルの顔を覗き込む
その横顔は、やはりというべきか、氷のように無表情だった。
引きずられるようにルイズは歩く。助けに来てくれたことはこれが初めてではない。
けれど来てくれたときは本当にうれしかった。冷たくされた分だけ気持ちは弾んだが、
それを悟られたくないと思ってしまうルイズだった。
気がつけばルイズはバージルの手を握っていた。バージル自身が握り返してくることはなかったが、
振り払いはしなかった。
ルイズはそんなバージルと歩くうちにだんだんと楽しくなり始めた。
街はお祭り騒ぎで華やかだし、楽しそうな見世物や珍しい品々を取りそろえた屋台や露店が通りを埋めている。
その中をバージルとルイズが手をつないで歩いて行く。バージルは相変わらず前のみを見て歩いているが、
ルイズは物珍しそうにあたりを見回していた。
もしこの場に彼の弟―ダンテがいたらなんと言うだろうか?
『オイオイ…俺は夢でも見てんのか? あのバージルが女と手をつないで歩いてるよ!
どうりで妙な天気なわけだ…こりゃ空から女の子が降ってきそうだな!』
その言葉を皮切りに壮絶な兄弟喧嘩が幕を開けるだろう。
…それは置いておいて、辺りを見回していたルイズが「わぁっ」と叫んで立ち止まる
「……?」
バージルがルイズの見ている方向を見ると、そこには宝石商の露店があった。
建てられた羅紗の布に指輪やネックレスなんかが並べられている。
バージルが視線を感じ下を見るとルイズが頬を染め上目遣いでみつめていた。
「ねぇ…見てもいい?」
「好きにしろ」
ルイズは顔をぱぁっと輝かせるとバージルの手を引き露天へと近づく。
すると商人が客だと判断たのか、声をかける。
「おや! いらっしゃい! 見てください貴族のお嬢さん!
珍しい石を取り揃えましたよ。『錬金』なんかで作られたまがい物じゃございません!」
並んだ宝石は貴族がつけるにしては少々派手すぎて、お世辞にも趣味がいいとはいえないものだった。
ルイズはペンダントを手に取る、貝殻を彫って作られた真っ白なペンダント、
周りには大きな宝石がたくさん埋め込まれている。
しかしよく見ると少々ちゃちな作りである、宝石もあまり上質なものは使っていない、安物の水晶だろう。
でもルイズはそのペンダントが気に入ってしまったようだ。
バージルが目ざとくそのペンダントに張られている値札を見る、そこには小さく4エキューと書かれていた。
スッとバージルがルイズの横に出る、ルイズが少し驚いたようにバージルを見る。
するとバージルは一つのペンダントを手に取った。
それは珊瑚色の細長い石を包み込むように絡んだ一対の金の羽、そしてその上にもう一対、
広げた金の羽があしらわれたペンダント。
ルイズが手に取ったペンダントと比べると幾分おとなしめな装飾だがその分上品で洗練されている。
値札を見ると1エキューと小さく書かれていた。それを素早く外すと店主に1エキューを指ではじき飛ばす。
「これをくれ、金はこれでいいな?」
「へぇ、まいど」
「くれてやる、それで我慢しろ」
「えっ…えっ…? あ…」
バージルは突然の出来事に呆然とするルイズにポイとペンダントを放り投げると
人込みをかき分けさっさと歩いていってしまった。
ルイズはしばし呆気にとられていたが、思わず頬が緩んだ。
"あの"バージルが自分のために買ってくれた、それがとてもうれしかった、
ペンダントを愛おしそうになでると、ウキウキ気分で首に巻いた。
「お似合いですよ」と商人が愛想を言った。
バージルに見てもらいたい、そう思い人ごみの中のバージルの背中を追いかける、今度は見失わない。
一方そのころ、歩き去るバージルに一部始終を見ていた背中のデルフが声をかける。
「相棒…お前意外とケチだな…」
「………あの空気だと支払わせられるのは俺だ。出費と時間は最小限に抑えるに限る」
バージルの本音は人ごみの喧騒にまぎれ、消えていった。


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