あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの少女と紅い獅子-08


 「騎馬の経験は?」
「問題ありませんよ」
 ゲンが跨りながら応える。
「ルイズはこちらに」
 ワルドに促されてルイズがグリフォンの背に収まりワルドがそれに続く。
「ルイズ、一応確認しておくが……」
「別にいいわよ。ササッとコソ泥を捕まえて、ササッと帰って来ればいいだけの話でしょう?
 それ程大したことじゃないわ」
 行き先がアルビオンでなければ、コソ泥が強力な魔法使いでなければ。
 色々とただして置きたい事はあったが、ルイズはそれらを全て飲み込んだ。
 一々気にしても仕方ない、そう結論した。正確に言うなら無理やりそうした。
 それでもとり合えず納得したことを確認したワルドは軽く頷く。
「では出発だ、急ぐぞ。ルイズ、しっかり捕まってるんだ」
 そういい終わると同時に「ハァ!」と二つの掛声が被さった。
 途端に駿馬とグリフォンは一目散に駆け出し学院を後にした。

「ふうん……」
 走り出してから暫らくして、後ろをチラッと見やったワルドは感心したように呟く。
「どうしたの?」
「イヤ、存外にやると思ってね」
「ゲンのこと?」
 首肯してワルドは続ける。その顔はどこか楽しげでもある。
「大したものだ。身のこなし一つとっても見事だが、あの騎乗ぶり。確かにグリフォンは全力ではないが
あれ程の速さで馬を御する事は中々出来ない」
 ワルドに倣ってルイズも後ろに目をやる。
 成る程、確かにゲンと駿馬はグリフォンに付かず離れずの一定の距離を保ってついて来ている。そして決して
暴走している風でもない。
「良い使い魔でしょ?」
 色々と問題は多くてもやはり自分が召喚したのには違いない。
 フフン、とばかりに鼻を鳴らす。
「使い魔は主を写すと言うな。まったく興味深い事だよ。君も、君の使い魔も」
 意味深な笑みを浮かべて、ワルドはグリフォンに拍車をかけた。
「それは私の力だけなの?」
「ハッハッハッ君の魅力はそれとは比べようがないな。無論良い意味で」

 馬がバテてしまわないギリギリの速さで走った結果その日の夕刻にはラ・ロシェールに到着した。
「今日は宿を取ろう。明日の朝、早々に出ることになるだろうから二人ともゆっくり休んでくれ
……どうした、オオトリ君?」
 ラ・ロシェールに着いてからキョロキョロ辺りを見回すゲンをワルドが見止めてたずねる。
「いえ、港と聞いていた割りに随分内陸に来た気がしましてね」
「あれ、言わなかった?」
 ルイズは意外なといった風にワルドと顔を見合わせた。
「まぁ、明日になればわかる。そう気にすることではない」
 首をひねるゲンであったが二人の様子からそう心配する必要はないと判断するのだった。


 「トゥアァァッ!」
 気合とともにデルフリンガーが正眼で振り下ろされる。見よう見まねの素振りであったが
それなりに様になっていた。
 マグマ星人の足取りがおぼろげながらも掴めた今、機を逃す事はできなかった。何よりマグマ星人の
足取り以上にブラックスターの欠片をどうするのかが気になった。あの夜のマグマ星人の口ぶりは
欠片の使い方――それも邪な考えのもと――を明らかに知っていた。
 マグマ星人がブラックスターを以前から知っていたのか、あるいはこちらに来てから知ったのか。
 だがそうなれば、マグマ星人単独ではなく別の勢力が知っていることになる。しかしこの世界の人間が知って
いるとは考えにくい。
『また別に俺たちの宇宙からこの世界に来た物がいるのか』
 可能性がなくはなかったが、それはすなわちそれなりの力と知能をもった物が何らかの形でゲンの知らぬところで
うごめいている事の証左であった。
 まだ見えぬ敵を見立てて彼はデルフリンガーを振り下ろした。


「精が出るな」
 振り向くとワルドが佇んでいた。かれは微笑を浮かべつつゲンに近づいてくる。
「どうも……どうか、しましたか?」
「イヤ、少し君と話をしたくなっただけだ」
 やや大げさに両手を広げて見せワルドはゲンの傍で止まった。
 ゲンは初めて会った時から感じていたワルドに対する違和感がいよいよ強まるのを感じていた。誰もが
自分に興味を持つのはある点では仕方がないのかもしれない。しかし、この男はゲンの事を別段意識していない様な
そぶりを見せつつ常に彼に対して注意を向けていた。

「ルイズの前ではああ言ったが、私も少なからず君に興味を持っている」
 乾いた靴音を立てながらゲンの周りをゆっくり回りだすワルド。口元にはうっすらと笑みを浮かべたままだ。
「人間の使い魔と言うだけでも珍しいが、君の戦闘のセンスは非常に非凡だ。単純にその能力だけでも
稀有なものだと言えるよ」
 腰にぶら下げた杖に手をやり弄びながら、ワルドはゲンの正面に回ると正面から彼を見据えた。
「だが今の状態なら到底ブラックスターは止まらんな。そうだろう? ウルトラマンレオ」
 驚き、そして心の底の疑念が一気に爆発した。ゲンは一気にデルフリンガーを引き抜こうとし――それは
刃が数サント程出た所で停止した。ワルドの杖が彼の大剣の鍔の部分に止まっている。
「フム、5サントと言ったところだな。完全に止めたと思ったが中々だ。しかしだ……」
 言葉が途切れると同時に、ワルドの杖に風が渦を巻いて集まりだす。
「貴方は一体何を知っているんだ……!」
「力ずくで聞き出してみたらどうかね?」
 にやりと笑うワルド。集中した風が鋭い唸りを上げている。その風塊を爆裂、ゲンに叩き込まんとワルドは
一気に杖を引き抜き振りかぶった。
 同時にデルフリンガーが抜刀される。身をそらしてその一撃を交わすワルド。そして、
「エアハンマー」
 腹のど真ん中を杖をで穿たれる直前に辛うじてデルフリンガーを引き付けることに成功したゲン。しかし
風塊はそのままゲンの前で爆ぜた。
「うおおっ!」
「このヤロ!」
 何とか両足で踏ん張り吹き飛ぶ事こそ免れる。芝生をえぐりながら後退したゲンはまとわりつく風を
振り払うと正眼に大剣をかまえてワルドに対した。
「中々やる、ってレベルじゃねーぜ?」
「分かっている」
 ブラリと杖を突き出したままのワルド。隙だらけにしか見えないが、身体は微動だにせず視線はキチッっとゲンを
見据えて動かない。
「舐められっ放しはよくねーぜ」
 けしかける大剣に頷いて見せゲンは、チラッと左手の甲に目をやった。が、そこにはいつもの模様が見えるだけだった。ゲンは小さく
舌打ちする。
(これに頼ろうとしてしまうなんてな)
「へっへ、左手はだんまりかい」
「もとから期待しちゃいないさ」
 ワルドを睨みながらゲンが応じる。
(期待しちゃいない、か。オイ、ブリミルよ随分頼りねえもんだな)
 表情が確認できるならばその時のデルフリンガーは何とも言えない苦笑を浮かべていたことだろう。

「ハアァッ!」
 大剣を振りかぶりワルドにとびかかるゲンに対し、彼は手首の運びだけで対応する。その動きは決して緩慢ではない。
 繰り出される一撃一撃を紙一重で受け流しながら再び詠唱を始める。
「させはしない!」
 ここぞとばかりに烈風のごとき回し蹴りがワルドに襲いかかる。幾分単調気味であった剣撃から繰り出された鋭い一撃に
やむを得ず杖でしっかりと防ぐ形になったワルド。そこにもう一つの刃が叩き込まれる。
「テェェイ!!」
 ゲンの手刀が唸りをあげて繰り出され、ワルドの胸元を襲う。これをワルドは大きく後ろに跳躍して辛うじてかわした。
 初めて両者の間に広い間合いが出来上がる。双方共にジリとも動かず相対する。
「……ハハハ、まあそう本気になるな」
 そう言ってワルドは杖をおさめた。もうやる気はないと両手を掲げて見せる。
 釈然としないながらも最早ワルドから殺気は感じられないので、ゲンもデルフリンガーを鞘に戻す。
 今度は若干刃をのぞかせておいた。
「怪獣の炎と違って切り結びながら撃ってくるから気をつけることだ。詠唱は隠そうと思えばいくらでも隠せる」


そう言いながらワルドはゲンの横を通り過ぎようとして、足を止める。
「今のままではブラックスターを追う事はおろか、ルイズを危険から守ってやれんかもしれんぞ」
「あなたは一体何を知っているんだ。本当にこの世界の人間なのか?」
「無論だ。私はトリステインの、ハルキゲニアの人間に間違いないよ」
 そう言って静かに立ち去ろうとするワルド。その背中にゲンが声を上げた。
「いったい、俺をどうしたいんだ!」
 その問いにワルドは歩みを止めたがすぐに高笑いをあげた。
「それは私にはわからんよ」
 そして今度こそその場を離れたのだった。

「食えねえ奴だ。ゲン、ありゃあまだ手加減してやがったぜ」
「……そうだろうな」
 そう言ってパシッとデルフリンガーを完全に鞘におさめる。
 最後に距離をとられた時にわずかに出来た時間にワルドが呪文を完成させるのは十分可能だった。
 実際完成していたかもしれない。
 しかしその事も然ることながら。
 先ほど喰らった風塊はフーケを取り逃がす原因となった件の魔法使いの物と似ていた。戦闘スタイルも酷似している。
 だからと言って決めつけるには根拠が薄すぎるし、それはゲンも分かっている。だが、いざ正体がそうであったとき、自分はともかく
ルイズに危害が及びそうになるならばそれは絶対に阻止しなければならないとゲンは思った。
 巻き込んでしまったと言う負い目もさることながら、自分が彼女に助けてもらっている現実を彼は少々情けなく感じていた。

 ゲンと別れたワルドは港に向かっていた。そして暇な船員が溜まり場にしていそうな酒場に目を付けた。
 店内に入ると同時に中にいた客が不躾な視線を寄越してくる。もっともワルドはそんな事は微塵も気にせず奥のほうでくだを巻いている
船員の集団に声をかけた。
「中々暇そうにしているな。どうだ仕事はいらんか?」
 唐突に声をかけられた船員たちは互いに顔を見合せ後胡散臭げにワルドに顔を向けた。
「貴族様とお見受けしやすが……状況はご存じでしょう?」
「イヤ、待て。知らせが入ったのは昼ごろだ。もしかしたら知らねえかもしれん。貴族様、この町に入られたのはいつ頃で?」
 口々に勝手なことを言う船員たち。不審に思いワルドは再び口を開く。
「……夕刻に入ったが。何かあったのか? アルビオンに出立するには日時は問題ないはずだが」
「ニューカッスルが陥落したんでさ。だもんでスカボローは王党派についていた傭兵や落ち延びようとしている
貴族様、難民なんぞでごった返してるって話で、へえ」
「ニューカッスルが陥落? 本当か」
「昼に戻った定期船の船員が言ってまさあ。まあ、アルビオンに行くこと自体は問題ありやせんが、停泊したら
最悪襲われるかもしれませんで」
「急用だ。腕利きが二人いる送り届けるだけでいい。謝礼ははずむぞ」
 ワルドの台詞に船員たちが再び相談を始めた。それを横目に見ながらワルドは黙考する。
『ニューカッスルが落ちただと? 予定よりずいぶん早いな』
『どうでもいいことだ。むこうに行くことには変わりない』
『知らせるすべはいくらでもあった。オレを軽んじているというのなら……』
『下らんプライドだな、犬にでも食わせてしまえ。早死にのもとだぞ』
 頭に響くもう一つの意思に投げやりに宥められワルドは完全に沈黙した。そして何気なく見まわした店内の片隅に
ある人物をみ止めた。

 フードをスッポリ被った後姿。細い身体から女性であることが見て取れる。思うところがあったか、ワルドはいまだ喧しく議論を続ける
一同をから離れその女に近づいた。
「こんな所をウロウロしていては早晩囚われてしまうぞ。王国はお前が考えているよりは必死だ」
 彼女にだけ聞こえるほどの声でそう囁いた。女はほんの少し動揺した風に体を強張らせたが、冷静を装ってフードに隠れていた顔を
ワルドに向けた。
「利用し終わったらついでに捕まえて手柄にするかい? だとしたら意外とセコイねえ」
 疲れ気味に顔を歪ませるフーケであった。

 学園での騒動の後ゲルマニアやガリアに逃亡を図った彼女であったが、国境は各国の異様に素早い連携によってアリの通る隙もないほどに
封鎖され、比較的緩かったラ・ロシェールに行くことになった。しかしここでもトリスタニアから直々に派遣された兵たちが出入りする
船員や貨物のチェックをピリピリと行っていた。


進退極ったかに見えたフーケであったが、どうも連中は自分を探している風ではない。とは言え手配書が出回っているのは確実であり、わざわざ
姿を現すことは極力避けねばならなかった。画してほとぼりが冷めるまでこの町で潜伏を始めたのだった。

「安心しろ。お前をとらえたところで私には何の得にもならん。むしろお前が捕まって尋問されされることのほうが厄介だ」
 その言葉にフーケの目がすっと細められた。
 彼女のマントの内側で何かに力がこもるのを感じ取ったワルドは薄く笑みを浮かべて続ける。
「安心しろ、私はそんなに短気ではない。ここに居るという事はいつかはアルビオンに向かうつもりだったのだろう? 付き合え。
今度は報酬は出んがな」
「相変わらず訳のわからん男だね。アルビオンが今どうなってるか知ってるだろう? 一体何をしにいくってんだい」
「何、大したことではない」
 胡散臭げに問うフーケに対し、ワルドは懐に手を伸ばしながら続ける。
「仮面の怪人がアルビオンに逃れたそうなのでな」
 そう言って取り出した白い仮面を装着する。それだけで口元のうすら笑いがひどく冷たい笑みに変わったようにフーケは感じた。
 仮面の怪人が続ける。
「さて、どうする?」


 時間が少し前後する。

「大いなる意思が騒いでいる」
 長身の男がつぶやいた。荘厳な装飾のこの部屋には男が二人、何をするでもなく黙していた。
「余に与するなとでも言っているのか」
 部屋の装飾に負けない豪奢な出で立ちの男が口だけで応じる。
「そんな事ではない。……異端だ。この世にとってのな。ここからは随分遠いようだが」
「クククッ、この世界に余や貴殿以上の異端がいるというのか?」
「異端が更なる異端を呼んだのなら、たいして不思議なことではない」
 その答えに豪奢な男は身を折って笑いだした。一方長身のほうは鉄面皮を崩さない。
「フフフハハハハッ、そうかそうか。この世界の成り行きを決める意思が何処かにあるなら、そいつは随分気まぐれなのだな。
虚無を揃えるだけでは飽き足らぬか」
 その高笑いに長身の男が初めて表情を浮かべる。困惑、蔑み、怒りの入り混じった複雑な表情だが。
「あまり愉快なことばかりではないかもしれぬぞ? 大いなる意思は明らかにこの異端を警戒している」
 それを聞くなり豪奢な男は手近にあった机に手を叩きつけていよいよ笑いの度を強めた。
 格好が違えば発狂したとしか見えなかっただろう。
 長身の男の相変わらずの視線も意に介さず男は笑い続ける。
「最高ではないか! 余や貴殿ですら測りかねる駒が舞い込んだのだぞ? これ以上の好機があるか。喜劇! 悲劇! 惨劇!
なんでもござれだ! アルビオンの仕掛けと動かせばハルキゲニアに舞い降りるのは聖地奪還成功も吹き飛ぶ上を下への大混乱よ!
これを愉快と呼ばずに何をもって喜ぶのかね?」
「その混乱に乗じて何を求めるというのだ」
 今度は明らかに侮蔑をこめて尋ねる。
 一しきり笑った息を整えた男は表情を浮かべた。一目では判別しがたい奇妙な笑みであったが。
「余にとって混乱は手段ではない」
 真意を測りかねる――と言うよりこれが真意であってはならないという願望――答えに三度表情を変えた長身の男は居住まいを正した。
「興を削ぐようで悪いが、彼の物、と言っても何者かもわからぬが。今の時点ではおらぬようだ。顕現に条件があるのやも知れぬ」
「構わぬ、もとよりいるはずのない道化が本当に道化かあるいは獅子であったとしても大して変わらぬ。道化なら道化の、
獅子なら獅子の働きをしてもらう。余の大道芸の駒であることに変わりはない」
 そう言っておもむろに使役しているフクロウを呼び寄せる。手早く文を書くとフクロウに持たせながら彼は続ける。
「とは言え、道化か獅子の区別くらいは付けて置かぬとな」
 そう言って窓を開けふと思い出したように振り返った。
「ところでそいつはどこに現れたのだ」
「北だ、海は越えぬ」
 気のない回答に男は満足げにうなずく。
「成程、ならばうってつけの計量機があったわ」
 そう言ってフクロウ放った。舞い上がった翼は北を目指した。
 トリステインを目指した。





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