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未来の大魔女候補2人-09


「ほら、知ってる事をキリキリ話しなさい」
「そうは言ってもよぅ……
 昔のことは殆ど忘れてんだから、話しようがねぇんだわ。これが」
「忘れてんなら、思い出しなさいよ。早くしないと溶かしちゃうわよ」
「おお怖。娘っ子は怖いねえ。お嬢ちゃん助けてー」

 ルイズとジュディは学院へと帰っていた。場所はルイズの部屋、時は夜。
 部屋の真ん中にあるテーブルの上には、抜き身のデルフリンガーが置かれていた。
 本来ならばサイトが持ち主なのだが、尋問するべくルイズが借り受けてきたのである。
 無論、サイトは拒否したのだが、説得と言う名のコンビネーションパンチを受けると、快く差し出したのであった。
 そういうわけで、2人はデルフリンガーを前にして話し合っていた。
 デルフリンガーが尋問を受けている理由は、ジュディの発した言葉に反応した事に起因する。
 その単語とは、ハルケギニアでは用いられていない単語であり、それを知るデルフリンガーは、ジュディと同じ所から来たのではないかと考えたからである。
 学院長の考えが正しいならば、東方でもない未知の土地の情報を引き出せるかもしれない。
 そう期待していたルイズだが、ソレは瞬くうちに失望へと変わり、やがて苛立ちへと変化していった。
 なぜなら、デルフリンガーは外見のみならず、頭の中まで錆びついていたからだ。




未来の大魔女候補2人 ~Judy & Louise~

第9話 『魔剣とガントレットと魔女2人』




「デルフ君、本当に何も知らないの?」
「ホント、ホント。マジに憶えてないんだわ。この眼が嘘を吐いてるように見えるかい?」
「なに言ってんのよ、屑剣。アンタに眼なんかないでしょ」
「おお! そうだった。しっぱいしっぱい。
 んで、何の話だったっけ?」

 惚けた様子のデルフリンガーに、ルイズは苦虫を噛み潰したような表情を見せる。
 認知症の老人と対話するためには、根気が必要不可欠だと自分に言い聞かせ、ルイズは叫びたい衝動を何とか堪えた。
 夜風に吹かれた窓枠がカタカタと鳴る。それが笑われているように聞こえ、ルイズはどうにも落ち着かない。
 不機嫌な目で黙りこくっているルイズに代わって、ジュディが話を続ける。

「デルフ君は、魔生命体じゃないの?っていう話だよ」
「おう、そうだったそうだった。
 魔生命体ねぇ…… うーん。なーんか、聞き覚えがあるんだけどよぅ、どこで聞いたのか、サッパリ憶えてないんだわ。これが」

 その単語には、忘れた記憶を刺激されるものがあるらしく、デルフリンガーは唸る。
 しかし、全く思い出せないようで、『聞いた事があるかもしれない』という曖昧なものであった。

「私も魔生命体っていうのは、聞いた事がないわね。こういう喋る剣は、インテリジェンスソードって呼ばれてるけどね」
「インテリジェンスソード?」

 ジュディは聞いたことのない言葉に疑問符を浮かべ、ルイズの顔を見上げた。
 目と目が合うと、ルイズは頷き説明する。

「ええ、誰が何のために造ったのか知らないけど、そういうのがあるのよ。
 今じゃ、造り方は失伝していて、ごく少数しか現存してないわ。
 好事家の中じゃ高値で取引されてるらしいけど、剣を知性を持たせるなんて悪趣味も良いトコよね」
「ふーん。喋るだけなの? 自分で動いたりは出来ないの?」

 その疑問にルイズは答える。

「喋るだけよ。
 その、魔生命体だっけ? それは、勝手に動いたりするの?」
「うん、するよ。
 わたしは見た事ないけど、オジイチャンはそう言ってたよ」
「ふーん。大体、その魔生命体っていうのはなんなわけ? 生き物ってわけじゃないでしょ?」

 ジュディは目を瞑り、祖父から教えられた知識を思い起こす。そして、そのまま語り始める。

「えっとね……
 長い年月を経た器物に、魂や精霊、魔族などが宿って仮初めの命を得た存在を『魔生命体』って呼ぶの」
「魔族? 魂や精霊は何となくわかるけど、魔族って御伽噺にしかいないでしょ?
 それに、物に宿るっていうのが分からないわ。それじゃ、お化けじゃない」
「魔族はいるよ。
 図鑑で見たことあるし、オジイチャンもおかあさんもいるって言ってたもの。嘘の筈がないわ!」

 その言葉には、祖父への信頼と尊敬に溢れている。
 ルイズはある事に気がつき、ハッとした顔つきになった。
 その瞳に浮かぶモノを、ルイズ自身が良く知っている。それは、自分が姉(優しい方)に向けるモノと同じだ。
 ルイズには、2人の姉がいる。
 長女のエレオノールはルイズに輪をかけたキツイ性格をしてるのだが、次女のカトレアはたおやかで、何者からも好かれる性質の女性である。
 そんな彼女の様になるのが、ルイズにとって父母以上の目標であり、理想とする姿でもあった。
 今のジュディの姿は、ルイズを映す鏡だ。その無垢な瞳を通じ、ルイズは自分の中にあった理想を改めて見た気がする。
 熱い何かが胸一杯に広がる。が、それは一気に冷え込むこととなった。 

「それよりよぅ。そっちばっかり質問するのはフェアじゃねえんじゃねえかい?
 俺っちの頼みも聞いて欲しいんだがね」

 妙に媚びた声でデルフリンガーは割り込んできた。。
 それが鼻につき、ルイズはつっけんどっけんな態度でデルフリンガーを見下ろす。養豚場の豚を見るような目だ。

「……何なのよ?」
「なに、難しい事じゃねぇ。お嬢ちゃんに俺を持って貰いてぇんだよ」
「アンタ鉄の塊なんだから、ジュディが持ち上げられる訳ないでしょ。私でも重たかったんだから」
「うん。持ち上げるのは、ちょっとムリかな?」

 剣先から柄頭までの長さは、優にジュディの身長を超えており、ルイズと比べても殆ど変らない。
 そんなモノをジュディが持てるはずもなく、素気無く断られる。子供に大剣を持たせようとすること自体が、土台無理な話なのだ。
 しかし、デルフリンガーは諦めない。

「そんじゃ、柄を握ってくれるだけでいい。それなら出来るだろ?」
「うん。じゃあ握るよ」

 持ち上げる必要はないと聞くと、ジュディは即座に了承し、デルフリンガーの柄を握ろうと手を伸ばす。

「あっ! 待って!」

 ルイズは慌てて声をかけるが、時すでに遅く、ジュディの手はデルフリンガーの柄を握っていた。

「えっ? もう持っちゃったよ?」
「気をつけるよう言いたかったんだけど、遅かったようね……」

 柄を握ったままの姿勢で、ジュディはキョトンとした顔を返す。ルイズは肩を落として項垂れる。

「かっかっか!
 娘っ子は過保護だねぇ。危ねぇことなんか何にもねえよ」

 過保護だとからかわれ、ルイズはバツが悪い。再び窓が軋んだ音をたてた。
 それを無視して気丈に顔を上げると、デルフリンガーを問い詰める。これで下らない用件ならば、ただでは済まさない心積もりのルイズであった。

「それで、どうなのよ? 握ったからって何かが変わる訳じゃないでしょ」
「いやー 俺って剣だろ? だから、握ってくれたヤツの力量は大体分かるんだよぅ。
 鍛えりゃモノになるとか、全く剣の才能はないとかがな。そういう意味では、あの坊主は全く駄目だね。鈍臭いったらありゃしない」
「それがどうなるっていうのよ」

 ジュディは魔法使いであり、武器の扱いが上手くなろうがなるまいが関係がない。
 よしんば才能があるとしても、ソレに時間を費やすのはナンセンスだ。そんな時間があるならば、魔法の習熟に割り当てるのが正しいメイジの在り方というものだ。
 大体からして、無骨な武器を振り回すメイジは、軍人ぐらいしかいない。普通のメイジは、好き好んで武器など持たない。持ったとしても儀礼的なモノや、装飾品の様なモノだろう。
 ゆえに、ルイズはそんな才能などには、価値を見出すことは出来ない。
 だが、そんな一般的な見解など、デルフリンガーは考慮していないようだ。

「うん。お嬢ちゃんに俺を振り回すのは無理だね。短剣とか弓がお似合いだね」
「……それだけ? 確かめたかったことは、それだけなの?」

 確認するように、極めて丁寧にルイズは問うた。
 その顔には、表情というものが欠落しているのだが、全くの無表情というわけではなかった。見る者が見れば、その仮面の裏に隠されたモノが分かっただろう。
 まさしく、嵐の前の静けさといったモノである。
 今、ルイズの中では暗黒が渦を巻き、解放される時を、今か今かと待ち望んでいる。

「うん」
「怒るわよ?」

 ルイズの視線に、剣呑なモノが混じる。小動物ぐらいなら、ストレス死させることが出来るくらいの凄みが感じられる。
 それに気がついたデルフリンガーは、態度を改めると、粛々と説明をやり直す。

「えーとですね。もしかして、『使い手』かもしれないと思って握って貰いました。
 でも、どうやら違うようです。なんか違和感を感じるけど、たぶん『使い手』じゃありません」
「使い手? なにそれ?」
「忘れました」

 デルフリンガーは即答する。
 強風が吹いたのか、窓が激しく揺さぶられ、ガタガタと音を立てた。その音に驚いたジュディは、そちらに目をやる。
 それよりも、ルイズには告げなければならない事があり、そんな瑣末な出来事には注意を払わない。

「……ポッキリいくわよ?」
「忘れちゃったんだから、仕方あるめぇ。長生きしてたら忘れ事の2つや3つあるものだろ!?
 だから、デルフ悪くない! デルフ悪くないもん!
 って、こらっ、杖を取り出すんじゃない!」

 聞くに堪えないデルフリンガーの言葉には耳をかさず、ルイズは袖元から杖を取り出す。
 逃げようにも、自分では動くことが出来ないデルフリンガーは、鍔元の金具を激しく動かしながら抗議の声を上げる。
 金属の擦れる音に比例してか、窓が更なる悲鳴を上げる。それは、窓枠にはまったガラスを割らんばかりの激しさだ。

「ねえ」
「みっともない命乞いはやめて法の裁きに身を委ねなさい!」
「法って何の法だよ!?」
「ねえったら」
「私が正義よ!」

 ルイズは傲然と言い放つ。

「酷ぇ! 横暴にもほどがあらぁ!」
「問答無用! ヴァリエール流躾術を喰らいなさい!」
「もうっ! ねえってば!」
「キャッ!? な、なに?」

 右手を後ろに引っ張られ、ルイズは目を白黒させて驚く。
 振り向いた先には、両手を腰にあてたジュディがいた。眉を吊り上げ、少し怒った様子だ。
 ジュディは、カーテンの閉まった窓を指差して告げる。

「お客さんだよ」
「えっ?」

 奇妙なことを言うジュディに、ルイズは耳を疑う。
 なぜなら、ルイズの部屋は3階にあるのだ。一体誰が窓から訊ねてくるというのだろうか。ルイズに思い当たる人物はいない。
 しかし、ジュディが下らない嘘を吐くとも思えず、言われたとおり窓辺に寄ると、カーテンを少しずらして外を覗く。
 だが、窓からは夜の景色が見えるのみで、来訪者の姿はない。怪訝な面持でルイズは呟く。

「誰もいないじゃない……」
「下だよ、下」
「下?」

 その言葉に促され、目線を下にずらしていくと、真っ赤で小さな瞳と目が合った。
 それは、白い毛並みを持ち、長い髭と尻尾を持ったげっ歯類。毛が生えていないピンクの尻尾には、何かの文字が浮かんでいる。

「ちゅう」
「これは…… たしか、学院長の使い魔ね。なにしにきたのかしら?」

 来訪者はハツカネズミであった。どうやら、窓が揺さぶられていたのは風のせいではなく、このネズミの仕業だったようだ。
 ネズミが学院長からの使いだと判断したルイズは、窓を開けて迎え入れる。開け放たれた窓からは月光が差し込み、穏やかな夜風が吹きこむ。
 部屋に入ってきたネズミはテーブルの上に飛び乗った。その口には、手紙が咥えられており、それをジュディに向かって差し出す。

「手紙? わたしに?」
「ちゅうちゅう」
「なにかな?」

 ジュディは手紙を受け取ると、黙読を始めた。



 ◆◇◆



 朝食の時間が終わり、1限目の授業が始まろうとしている時間の学院長室に、3人の人影があった。
 老人と中年と女の子という組み合わせだ。老人とは、この部屋の主であるオスマンの事である。そして、当然、中年とはコルベールのことであり、女の子とはジュディの事だ。
 オスマンは、座り心地のよさそうな革張りの椅子に腰掛けていた。その眦は下がり、柔和な笑みを湛えている。
 セコイアの大机を挟んで、オスマンはジュディと対面していた。ジュディの格好は、学院の制服姿であり、何時も被っているとんがり帽子は、入り口付近にある帽子掛けに掛けられている。
 そして、ジュディの傍らには、直立不動の体勢でコルベールが立っていた。

「ジュディちゃん、よく来てくれたね」
「はい。学院長先生、コルベール先生、おはようございます」

 ペコリと頭を下げて挨拶をするジュディに、オスマンも笑顔で挨拶を返す。

「うむ、おはよう。ところで、ミス・ロングビルはどうしたんじゃろうな?
 今まで、遅刻なんぞしたことがないから心配じゃのう」
「はて?
 朝食の席でも見かけませんでしたし、案外、寝坊ではありませんか?」
「わたしも今朝はまだ会ってないから、わかりません」

 ジュディとコルベールは首を横に振る。
 ロングビルの居ないせいか、学院長室の空気が緩んでいる様な気がする。
 あの理知的な雰囲気の美人秘書がいないだけで、こんなにも場の空気が異なる事にオスマンは、一抹の寂しさと張り合いのなさを感じる。
 コルベールとは打てば響く間柄だが、やはり隣に置くならば女性、それも美人ならば言う事はない。
 オスマンは、残念そうな声でロングビルの不在を嘆く。

「うむむ…… そうか……
 まあ良い。時間も惜しいし、ロングビル抜きで始めるとするかのぅ。
 今日呼んだのは、他でもない。
 ジュディちゃんに見てほしいものがあるのじゃ」
「はい、何ですか?」

 昨晩受け取った手紙にも、見せたいものがあると書かれており、ジュディはその要件は知っていた。しかし、何を見てほしいのかは手紙には記されておらず、小首を傾げて質問する。
 返事を聞いたオスマンはひとつ頷くと、大机の引き出しから、布に包まれたモノを取り出した。
 それをジュディの前に置くと、開けてみるよう目配せをする。
 ジュディは、その視線に促されて布に手を掛けた。布は巻きつけてあるだけで、あっさりと中の品が白日の下にさらされた。
 ジュディはそれを見ると、瞳をまん丸にする。

「これって……!?」
「どうじゃろうか?」

 ジュディの発した声には、軽い驚きが含まれていた。
 布に包まれていたモノは、指輪と石板であった。指輪の台座には真っ白な石がはめ込まれていた。しかもその石は、綺麗な球体に磨き抜かれていて傷一つ付いていない。
 石板は、横に長く、所々が欠けて幾つかの細かい罅が走っているが、大きな破損は見られず、記されている文字列と図形を読み取ることが出来た。
 ジュディはそれが何かを瞬時に把握した。同時に、何故オスマンが、コレを持っていたのか疑問に思う。

「魔道、板? でも、どうして?」
「やはりか……
 ジュディちゃんが魔道板を見せてくれた時、ティンときたんじゃ。見せて正解だったの」

 オスマンは軽く笑ってみせる。
 予想もしていなかった出来事にジュディは困惑を隠せず、ただ呆然と手元の魔道板を見つめるのみだ。
 頭の中に疑問が渦を巻き、動きを止めているジュディに代わり、コルベールがオスマンに問いただす。

「オールド・オスマン、何故そんなモノを持っていたのですか?」
「まあ、その疑問は当然じゃな。
 ふむ? では少し、昔話をしようか……」

 一口水を含んで唇を湿らせると、遠い眼をして厳かな声で語り始める。

「そう、あれはもう何年前になるかのう……
 たしか、80年ほど前の事じゃな。おそらく。
 当時のワシはの、武者修行と称してこのハルケギニア中を旅しておった。
 まあ、今思えばどうしようもない愚か者じゃった。自分の力を過信して、何でも出来ると思っておった」
「オールド・オスマン、貴方が? とても信じられませんな」

 コルベールは、軽い驚きの表情を浮かべた。それを見て、オスマンは苦笑いを浮かべる。

「そうかね?
 まあ、もう昔の話じゃ。魔法の腕で自分に敵う者など居ないと自惚れておる井の中の蛙じゃったよ。
 おっと、こんな事を言ってもどうしようもないの」

 話が逸れている事に気がつくと、仕切り直しとばかりに、オスマンは咳払いをした。

「ある日、ワシは山賊が出没するという村があると聞いて、森の中に入っていった。
 あらかじめ言っておくが、山賊を懲らしめてやろうとかを考えておったわけではないぞ。理由は忘れたが、ただ単に魔法を使いたかっただけじゃろうな」

 オスマンは自嘲する。改めて過去を思い出し、かつての自分に呆れているようだ。
 誰しも思い出したくない過去の1つや2つは有るという事だろう。
 2人は、無言で続きを促す。

「たしか、夕方じゃったかな? 夜にはなっていなかったはずだが、山賊共のアジトを見つけて正面から乗り込んだんじゃ。
 アジトは、天然の洞窟に手を加えたものじゃった。
 妙な事に、そのアジトはシンと静まり返っておって、猫の子一匹いなかった。留守なのかと思ったが、そうではなかった。
 山賊達は殺されておったのじゃ。しかも、そのどれもが炭化する程に焼き焦げておった。
 ワシはそれを見て、手練の火メイジの仕業だと思った。じゃが、それは間違いだと後で分かった。
 慎重に奥へと進んで行くと、アジトの奥で怪物と出会ったのじゃ」
「怪物、ですか……?」

 怪物という単語を聞き、コルベールは言葉を失う。
 このハルケギニアには、怪物と呼ばれる生物はいない。そんな言葉は、比喩や形容的に用いられるモノであり、単体で用いるモノではない。
 平民ならば、幻獣や亜人を見て怪物だと言ったりはするだろう。
 しかし、いまその単語を口にしたのは他でもない、齢300を数えるとさえ言われるオールド・オスマンなのだ。彼の持つ知識は半端ではなく、並みのメイジでは足元にも及ばないだろう。
 そんな老メイジが、怪物などという単語を使わねばならなかったのだ。身構えぬ方がおかしいだろう。
 オスマンは重々しい口調で続ける。

「そうじゃ。それは、火を吹く巨大なトカゲじゃった。
 おっと、サラマンダーではないぞ? サラマンダーとは似ても似つかぬ姿じゃったし、何よりも物凄くタフじゃった。その正体は未だに分からん……
 でだ、やっとの思いでその怪物を倒したたあと、近くに転がっておったのが、その魔道板と指輪じゃ」

 オスマンはジュディの抱えている魔道板を指差すと、最後に締めくくる。

「ワシはどうにかそれを解読しようと試みたのじゃが、結局、解読できず、長い間倉庫にほったらかしにしておったのじゃよ。
 曰く付きの代物じゃが、それを使える者が持っている方が良いじゃろう。その2つはジュディちゃんにあげよう」
「わたしに?」
「そうじゃ。ぜひ解読してみてほしい。その時は、ワシにも教えてくれい」
「…………」

 朗らかに笑うオスマンに対し、ジュディは無言で魔道板を見つめている。
 何時もの元気良さは鳴りを潜め、そのの瞳には、脅えが浮かんでいた。

「ど、どうしたんじゃ!?
 もしかして、昔話で怖がらせてしもうたか?」

 焦るオスマンに、ジュディは頭を振って応える。そして、大机の上に魔道板を戻す。

「心配させてごめんなさい」
「何を言うんじゃ。悪かったのはワシの方じゃよ。あんな話、せんほうが良かったのぅ」
「ううん、違うの。話が怖かったんじゃないの」

 ジュディは両肩を抱いて震えを止めると、脅えを僅かに残した顔を上げる。

「良く分からないけど、その魔道板から嫌な感じがするの。
 五行の力も感じるんだけど、それとは違う嫌な気を感じたの」
「ふむ? もうちっと、詳しく聞かせてくれんかね?」

 オスマンはジュディの顔を覗きこみ、詳しい話を聞こうと大机に身を乗り出す。
 その時、学院長室の扉が勢いよく開かれた。空気が破裂した様な音が響く。
 慌ててそちらを見やると、肩で荒い息を吐くロングビルの姿があった。
 ロングビルはオスマンの姿を確認すると、ツカツカと詰め寄り、両手を大机に叩きつけて叫ぶ。どうやら、オスマン以外の姿は目に入っていないようだ。

「どういう事ですかっ!」
「な、なんじゃね? いきなり?」

 いきなり殺人的な視線に晒されたオスマンは、目を白黒させてうろたえる。
 コルベールは、見た事のないロングビルの剣幕に唖然とし、ジュディは呆然と見上げる。

「どうしたもこうしたもありません!
 何なのですか、このガントレットは!?」

 ロングビルはそう言うと、右腕にピッタリとはまったガントレットをオスマンの鼻先に突き付けた。

「そ、それは……っ!?
 ……なんじゃったかのぅ?」
「知るかーーっ!」

 それを見て、一度は目を見開くオスマンであったが、どうにも思い出せず首を捻る。
 その惚けた様な態度を見たロングビルは、一気に感情の沸点まで達し、大声を張り上げる。

「何なのですか、これは!?
 いきなり暗い場所に引きずり込まれるは、怪物に襲われるはで散々だったのですよ!」
「っ! 怪物ですと?」

 意図せずして、本日2度目の単語を聞いたコルベールは目を見張る。
 しかし、オスマンはそれどころではなく、どうにか宥めようと四苦八苦している。

「まあまあ、落ち着くんじゃ。
 一体それをどこで手に入れたのか聞かせてくれい」
「ああっ!?」

 剣呑な視線に射竦められ、オスマンは石像のように固まる。
 あまりの迫力に、コルベールも口を挟むことが出来ない。
 それほどに、ロングビルは頭に血が上っていた。
 下手に声をかけては、とばっちりを受けかねない。コルベールは心の中で謝り、遠巻きに見守る事に決めた。

「宝物庫ですよ、宝物庫!
 全く! 整理さえされていたなら、こんな事にはならなかったんですよ!? どうしてくれるのですか!
 前触れなく不思議空間に引きずり込まれたかと思えば、怪物と戦わされ……!」
「ごめんなさい。ごめんなさ…… どうしたんじゃ?」

 唐突に言葉が止んだ事を不思議に思い、平謝りに謝っていたオスマンはロングビルの顔を覗きこむ。
 ロングビルは、先ほどとは打って変わって憔悴しており、同時に戸惑いの表情を浮かべていた。周りを見渡し3人の姿を確かめると、ホッと安堵の溜息を吐く。
 余りの態度の変わりように、オスマンは心配になり、労わるように言葉をかける。

「どうしたんじゃ? 急に黙ってしもうて。具合でも悪いのか?」
「……どのくらい経ちましたか?」
「へっ? そうさの……
 ほんの数秒じゃよ。憶えておらぬのか?」

 オスマンは、質問の意味を測りかねて怪訝な顔をするが、素直に答えた。
 その言葉を聞くと、ロングビルは愕然とした表情を浮かべて呆然と呟く。

「そんな……?
 だって…… さっきまで亜人と戦っていたのに……
 数秒のわけがない。一体、どういう事なの……?」
「一体どうしたというんじゃ。しっかりしなさい、何時もの君らしくないぞい」

 元気づけようとするオスマンだが、ロングビルの耳には届いていないようだ。
 どうしたものかと手を拱くオスマンに先んじて、ジュディがロングビルに近づく。
 そして、ロングビルの右腕を持ち上げ、ガントレットをまじまじと観察すると、ポツリと呟いた。

「これ、一緒だ」
「えっ?」

 オスマンには全く反応を示さなかったロングビルが、ジュディを見つめる。それは、酷く頼りなく、何かに縋ろうとする瞳であった。

「うん。このガントレットから、変な気の流れを感じるの。
 うまく言えないけど、光と闇がごちゃ混ぜになっている様な感じ。魔道板とも似ているけど、一番似ているのはこの魔道板よ」

 大机の上に置いてある魔道板を再び手に取り、ロングビルに見せる。
 ロングビルは、力なくその魔道板を見つめる。だが、その瞳には僅かに生気が戻ってきていた。

「魔道板……
 なら、これを外すことが出来ますか?」
「……ゴメンナサイ。
 そのガントレットは、ロングビル先生の気と複雑に混じり合ってるみたいだから、無理に外すことは出来ないみたい」
「そうですか……」
「でも安心して。きっとわたしが何とかしてあげるから!」

 落胆するロングビルを見て、ジュディが元気づける。
 それを受けて、ロングビルは今更ながら自分の行動を把握し、自嘲気味に笑う。

「ふふ…… そうですか。頼みますよ」
「ダイジョウブ! わたしにまっかせて!」
「さて、落ち込んでばかりもいられませんね。今日も厳しくいきますよ」
「はーい。お手柔らかに」

 2人は互いに微笑みあう。どうやらロングビルは完全に立ち直ったようだ。
 彼女がジュディを見る目は優しく、知らない者が見れば、姉妹か親子に見えたかも知れない。

「うむうむ。一時はどうなるかと思うたが、なんとか解決の目処が立って何よりじゃな!」
「まったくそうですね。これで一安心ですな!」

 オスマンとコルベールは、互いに乾いた声で笑いあう。心底安堵した様子である。
 しかし、ロングビルは、のほほんと笑うオスマンを鋭い眼で見据えると、酷薄な笑みを浮かべる。まだ終わったわけではない。と、その眼は告げていた。

「何を言っているのですか?
 まだ許したわけではありませんよ。どうして、あんなになるまで放って置いたかを聞かせてもらいますからね!
 あと、今すぐの宝物庫の大掃除を上申します」
「ひええ…… 勘弁してくれい」

 オスマンは縮みあがり、コルベールは難を逃れて胸を撫で下ろす。
 部屋に何時もの空気が戻ってきた。
 ジュディはクスリと笑う。

「ロングビル先生って、お母さんにちょっと感じが似てるかも」

 それを聞いてロングビル23歳は、少し切なくなった。結婚の適齢期から外れる瀬戸際の、微妙な女心である。



 ◆◇◆



 学院に鐘が5回響き渡り、本日の授業が終了したことを告げた。
 陽は西に傾いてはいるが、未だに陰りを見せず、空には鮮やかな青が広がっている。
 講義室から出てくる生徒達の波は、途絶える事を知らない。しかし、それも出口までであり、塔から出ると、生徒達は思い思いに散っていく。
 さっさと寮へと戻る者もいれば、中庭で使い魔と戯れる者もいる。講義という重い枷から解き放たれた者達は、存分に自由を満喫していた。
 幾つもの人波の中の1つに、キュルケとタバサの姿があった。
 2人は談笑しながら、周りの速さに合わせて歩を進めている。とは言っても、一方的にキュルケが喋っているようなもので、タバサは時々頷きを返すだけだ。

「それでね、そいつったら未練がましく言うのよ『君だけが僕の全てなんだ!』てね」
「…………」
「冗談じゃないわよね、軽々しく全てなんて使わないでほしいわ。私は誰かを縛ったり、縛られたりするのって好きじゃないのよね」
「…………」
「モノの試しに付き合ってみたけど、案外面白味のない奴でガッカリしちゃったわ」
「…………」

 大仰な手振りを交えて喋るキュルケとは対照的に、タバサは沈黙を保っている。
 しかし、それは無関心からではなく、親友の言葉を一語一句しっかりと聞いているためだ。
 その事をよく理解しているキュルケは、気にせず話を続けている。噛み合っていないようでも、2人にはこれ位の距離感が丁度いいのだ。
 不意に言葉を切り、キュルケが立ち止まった。何かを見つけたらしく、遠くを見やっている。
 タバサもそれに倣い立ち止まると、キュルケの視線を追う。その先には、特徴的な紫のとんがり帽子が風で揺られていた。

「あれは、ジュディね。と、いう事はルイズも一緒よね。
 ふふっ…… 行きましょうか」
「…………」

 キュルケは、大好きなおもちゃを見つけたように眼を細めて笑うと、軽い足取りで近づいていく。
 タバサは、小脇に抱えている大きな本を持ち直すと、キュルケの後を追う。
 ジュディは木陰に座り込んでいた。鍔広の帽子から覗く顔は、安らかに目を閉じている。どうやら、眠っているらしい。
 突如、突風が吹いた。樹は枝をざわめかせて多数の葉を散らせ、小鳥は飛び立つ。
 ジュディの頭の上でユラユラと揺れていたとんがり帽子は、その風で為す術なく舞い上げられた。
 キュルケは素早く杖を振ると、飛んでいく帽子を魔法で手繰り寄せた。そのまま横まで歩いていくと、ジュディに帽子を被せてから肩を揺すって呼びかける。

「ジュディ、ジュディ? こんな所で寝てたら、風邪引いちゃうわよ?」
「……っんぅ?」

 短く声を発して、ジュディは目を覚ました。
 眼を軽く擦ってから、周りを見回す。そして、2人に気が付くと、軽々と立ち上がった。
 お尻についた草を軽く払ってから、2人を大きな瞳で見上げる。

「こんにちは。キュルケさん、タバサさん」
「お目覚め?」
「うん。おはようございます。えへへ……」

 眠っていたのを見られていたのに気が付いたジュディは、照れくさそうに笑う。
 その笑みを見て、キュルケの顔も自然と綻ぶ。
 不意に頭上が陰った。
 俊敏な動作でタバサが見上げると、赤い鱗を持つ竜が視界に飛び込んできた。その竜は、体に対して翼が小さく、鼻先には角が付いている。
 竜はジュディの傍らに舞い降りた。そして次の瞬間、絵具が水に溶けるようにして輪郭がぼやけ、一瞬にして掻き消えてしまった。
 一陣の熱風が吹きぬける。
 2人は目を見張り、ジュディを凝視する。

「それもジュディのファミリア?」
「そうよ。名前はイアぺトスよ」
「ふーん。本当に何体も持ってるのね…… 他にもいるの?」
「アストライオスは見せたよね? ポセイドンがいなくなっちゃったから、この2体だけだよ」

 ジュディは素直に答える。
 キュルケは感心した様に頷くと、先日の出来事を思い出し訊ねる。

「へー。そういえば、ポセイドンは小さくなってたみたいだけど、大きさって変えられるものなの?」
「ある程度は自由に変えられるよ」
「なかなか便利そうね……
 んっ? どうしたのタバサ?」

 成程と頷くキュルケは、タバサが何かを言おうとしている事に気が付いた。
 それは、ほんの微かな目の動きであった。他の人間であったなら、なにも気が付かなかっただろう。
 しかも、それだけに止まらず、気配の静から動への僅かな移り変わりすら、キュルケは敏感に察知してみせた。

「……迂闊。もう少し、気をつけるべき」
「……? ああ、そう言えば秘密なんだっけ? 忘れてたわ」
「あっ!」

 簡素に紡がれたその言葉の示すところを、しばし考え込む。程なくして、その言葉の意味に辿り着いた。
 キュルケはのんびりとした声を発し、ジュディは焦った声をあげて辺りをキョロキョロと見回す。
 既に人波は引いていたが、それでも中庭には、多くの生徒が屯していた。だが、幸いなことに、3人に注意を払っている者はおらず、それぞれのお喋りに夢中になっているようだ。ジュディは、ホッと胸をなでおろす。

「どうやら、誰も見てなかったようね」
「よかったぁ。注意してくれてアリガトウ」
「……次からは、気をつける事」

 ジュディにお礼を言われるタバサであったが、その表情はピクリとも動かなかった。
 怒っているともとれるが、そうではない。タバサの纏う雰囲気は、どこまでも静かで捉えようがなく、それは、氷のようであり、風のようでもあった。

「そうそう、ルイズは一緒じゃないの?」
「ルイズさん? お昼に会ったきりで、知らないよ」

 思い出したかのように訊ねるキュルケに、ジュディは首を横に振る。
 キュルケは残念そうな素振りも見せず、しょうがないと肩を竦めて続ける。

「そう…… まあいいわ。
 これから食堂でお茶するつもりなんだけど、どう? ジュディも?」
「うん。一緒に行く」
「…………」
「それじゃ、行きましょうか」

 ジュディが快諾すると、キュルケは踵を返し、先導するように先を行く。ジュディは小走りでキュルケの横に近づくと肩を並べて歩き出す。反対側には、タバサが肩を並べている。
 3人は連れ立って、本塔の方へと歩いて行った。
 雲が早くに流れていく空では、蒼い鱗を持つ幼風竜が踊るように自在に空を翔けている。
 夕方に傾いていくこの時間、風はその勢いを増し、白い綿帽子を空へと舞い上げた。



 ◆◇◆



 草原に一際強い風が吹いた。夕方前の風は少し冷たく、ルイズは思わずマントで身を包む。
 その格好のまま、風が止むのを待つ。その間に体温を取り戻したルイズは、再び目的地に向かって歩き始めた。
 午後の授業が終わった後、ルイズは真っ先に学院の外に出ていた。
 学院の周辺の草は、歩くのに邪魔にならない程度に短く刈られている。
 春の陽光を存分に浴びた草は、青々とした緑の匂いを薫らせ、落ち着いた気持ちにさせてくれる。
 柔らかい草と土を踏みしめて、ルイズは進む。
 学院の縁沿いを半周ほど行ったところで、歩みを止めた。 
 その場所は、先週末にコルベールの実験が行われた場所であった。
 デフォルメされたヘビの石像が幾つも立ち並び、周囲よりも雑草が長く伸びている。
 コルベールにより『耐えるヘビ君』と命名された石像は、無傷なモノが2体、焼き焦げた黒い跡が残っているモノが1体、そして、バラバラなったモノが3体存在していた。
 ルイズは無傷な石像の前に立ち、杖を取り出した。
 口元を引き締め、鳶色の双眸で石像を睨みつけるように見据える。

「ここなら、誰にも見られないわね……」

 ルイズは、誰に聞かせるでもなく独り言を呟く。

「特訓なんて人に見られたら恥ずかしいし、ここなら的もあるしね」

 どうやら、魔法の練習をするために、わざわざここまで足を運んだらしい。
 誰にも努力する姿を見られたくないと思うのは、自尊心が人一倍強いせいか。それとも、失敗を見られることを恐れているからか。おそらく、そのどちらかではなく、両方が入り混じっているのだろう。
 もしかしたら、ジュディに見られたくないと思ったからかもしれない。しかし、それを指摘したならば、彼女は全力で否定することだろう。

「さあ、いくわよ!」

 凛とした声で自分に気合を入れる。
 ルイズは右足を前に出して、半身に構えた。
 眼を閉じて呼吸を整える。
 深呼吸を繰り返し、体中を魔力が駆け巡るイメージを思い浮かべる。
 瞼をゆっくりと開き、石像に意識を集中させた。視界が狭まり、石像を中心とした半径数メイルの範囲しか見えなくなる。
 指揮棒の様な杖を持った右腕を振り上げ、小さく可憐な唇でルーンを紡ぐ。
 杖の先をクルクルと回しリズムを取る。そのリズムに合わせて、ルーンを一語一句確実に詠唱していく。
 その行為に意識の大半を割くが、その瞳は石像を捉えたまま外れる事はない。
 必要以上の力を込めず、かといって力を抜きすぎもしない。それは、先日『赤土』のシュヴルーズが褒め称えた通り、理想的なスタイルであった。
 詠唱しているのは『コンデンセイション』
 それは水系統の初歩魔法であり、その効果は大気中の水を掻き集める事だ。
 詠唱を続けたまま、頭の片隅で漠然と考える。

『考えてみればおかしいわよね。どうして、火系統を使おうなんて思ってたのかしら?』

 ルイズが魔法の特訓をするのは、今日が初めての事ではない。
 そしてその度に、ルイズは決まって火系統の魔法を使おうとしていた。他の系統を試すこともあったが、火系統が圧倒的にその割合を占めていた。

『いま思えば、あの女と同じ系統を使おうとしてたなんて、ゾッとしないわ。
 でも、今日からは違う。水系統に力を入れていこう。
 ……ポセイドンが使い魔だし』

 召喚した当初より、ポセイドンに対する恐怖は薄らいでいた。全く平気というわけでもないが、無闇矢鱈に怖がることはしなくなった。
 それは、ポセイドンのサイズが小さくなったのが原因だろうか。もしかしたら、他の理由もあるのかもしれない。ただ、恐怖が麻痺しただけだとは、考えたくないものだ。
 理由はともかく、ルイズはポセイドンを使い魔だと思える様には成っていた。

『そうよ。アレが使い魔なんだから、水が私には合ってるのかもね。そういえば、姫様も水……
 おっと、いけない。集中しなきゃ』

 脇に逸れていく意識を引き締め、改めて魔法に集中する。それでも詠唱が中断しなかったことは、いままで彼女がしてきた努力の賜物であろう。
 間もなくして、詠唱は完了した。 
 石像に意識を極限まで集中させ、ルイズは叫んだ。

「コンデンセイション!」
『コンデンセイション!』

 声帯を震わせる肉声と、魔力を飛ばす意識の声。それが同時に迸る。
 ルイズは確かな手ごたえを感じ、会心の出来だと確信した。
 しかし、その感覚は幻であった。
 閃光が網膜を焼き、轟音が耳朶を打つ。
 光と音が消え去った後には、爆発に耐え切れず粉々に砕け散った『耐えるヘビ君』が無残な姿を晒していた。
 地面に膝を着き、四つん這いの格好で項垂れるルイズの頭に、ポセイドンが降ってきた。
 ルイズはわなわなと震え、憤然と立ち上がる。
 そして、頭にしがみ付くポセイドンを鷲掴みにすると、見事な投球フォームで放り投げ、叫んだ。

「カエル、な・ん・て! 大っ嫌いよぉ~!!」

 悔し涙で震える声が、見渡す限りの草原に響き渡った。



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 今回の成長。

  ルイズは、恐怖症L4(カエル)が恐怖症L2(カエル)にランクダウンしました。
  ジュディは、ナチュラルL2を破棄して魔道板L3(禁)のスキルパネルを手に入れました。
  魔道板を読み解き、『デテクトアンデッド』『デテクトブラッド』を習得しました。聖石の指輪を手に入れました。


 第9話 -了-



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