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鋼の使い魔-29



 パッカパッカ、のんびりとした歩調で馬車が坂道を進んでいく。馬車と言っても小さなものだ。荷馬車に毛の生えたような粗末な馬車が
林をわずかに切り開いて作った道を進んでいる。
 その馬車の上に、ギュスターヴ始め学院からの一行が乗り込んでいた。御者はシエスタである。
「いやぁ、わくわくするなぁ。切り出したばかりの原石や、石をどうやって切り出してるのか早く見てみたいよ」
 年の割に幾分かはしゃぎすぎの感が出るギーシュに対してキュルケは冷ややかに言った。
「そこで焦ってもしょうがないわよ。山までの道はシエスタしか知らないんだし。シルフィードで乗り込んだりしたらエドさんのせっかくの好意を無駄にするし。
…でも、シルフィード置いていってよかったの?タバサ」
 言われたタバサは馬車の一角で本を広げていた。それは以前手に入れたイーヴァルディ異伝本。盗み見るに『異界に追放された七人の勇者』と題名が振ってある。
「少し疲れていたから、大丈夫。水を飲ませて、静かに寝かせておいた」
「寝かせておくって…」
 シルフィードはタバサの言うとおり、シエスタの実家に併設されている厩舎を間借りして運動後のお昼寝に興じている最中である。
「本当は食事をさせたいけど、出先では無理」
「それもそうね…」
 さて、ギュスターヴは手綱取るシエスタの隣に座り、ぼんやりと空を見ていた。
(果たして、エド氏の母親はサンダイルと関係がありそうではあるが…)
 よく晴れた空を見ているのに、心はどこか曇りがちだった。
 そんなギュスターヴを見かねたのか、シエスタが声をかける。
「ギュスターヴさん。父と何を話してたんですか?」
「え?…いや、そんな大したことじゃないよ」
「そうですか?」
 怪訝に思いながらも、馬車は休まず進んでいた。



 『老獪とふたつの遺物』



 馬車は山道を縫うように進み、やがて斜面を拓いて作ったらしい開けた場所に止まった。
「皆さん、石切場に入る前にこれをつけてください」
 そう言ってシエスタが手渡したのは皮で出来た髪留めのようなものだった。両端に皮でできた袋のようなものがあり、それを弓のように曲げられた木で繋いである。
「こうやってつけるんです」
 実演してみせるシエスタ。皮の袋の部分で耳を覆い、木の部分が頭に掛かる。
 渡された一同も真似して着けてみると、外部からの音がまるきり遮断されるのがわかった。
 全員、うまく装着できたのを確認すると、シエスタの手招きを先導に一同は斜面を登った。
 石切場はあちらこちらに木材が並べられ、今切り出している斜面まで木材が敷かれているのだという。一方視界を広げると、まだ切り出したばかりで表面がごつごつした石、表面が均されてつるつるとした石が、板木を噛ませて大小、さまざまな形で並べられていた。
 ギュスターヴ達は珍しげに、並ぶ石を眺めながら歩いていた。話をしようにも耳に当てられた物で音が聞き取り辛い…。
 その時、足向かう先から爆音が飛び込んでくる。
「「「「っ!」」」」
 あて物越しにも聞こえる巨大な爆音は空気を震わせて肺腑を響かせた。驚く一同は、シエスタに案内されてさらに現場の奥へと歩いていった。


 ギーシュの目に見えた光景は、一流の美術品に劣らぬ美しさを持っていた。
 一面、石が切り出され、削り取られたような白い岩壁。岩壁に添う様に木で組んだ足場が張られ、そこを子供達が歩き回っている。
 子供達はノミやハンマーを取り、炭で線の引かれた岩壁に穴を開けたり、溝を切ったりしている。
「注文に見合う大きさに合わせて岩に溝と穴を開けて、そこに火薬玉を差し込むんです」
 見上げる一同の傍でシエスタが語る。
「穴を繋げるように溝を切って、穴で火薬を爆発させると、溝の線に沿って石が切り出せるんです」
「…驚いた。普通、石切は欲しい石の周囲を錬金【アルケミー】で削り落とすものなんだ。此処じゃ全部、こうやっているのかい?」
「はい。貴族の…いえ、メイジの方の力は殆ど借りません。切り出した石はコロに載せて運び出して、表面の凹凸は手作業で均すんです。だから山一つ持ってても、
年に取引が終わるのは精々2,3件くらいなんです。外の石はそろそろ出荷ですけど、この辺りの石はあと3年くらい先にならないと出荷できないんです」
「…しかし、よく御領主は君の一家にここを渡したものだね」
「……えと、政の方はよく知りませんけど、お父さんの話だとここは領主様から『貸してもらっている』のだそうです。
ですから、毎年度『賃貸料』という形で税金を払って使わせてもらってるんです」
 トリステインでは原則、平民は領地と官位を手にすることは出来ない。耕作地であっても、それは全て領主の貴族の持ち物であり、
そこに住む平民は土地を『借りて』営んでいる、という体裁である。この石切山も、そういった体裁に組み込まれた形なのだろう。
 一同はただただ、驚いていた。


 シエスタの声がかかり、石切り場で働いている家族達が集まってくる。ギュスターヴ達はそれぞれに挨拶をし、シエスタも家族一人ひとりを紹介してくれた。
母親に、父の弟夫婦、甥っ子に、妹や弟達。シエスタは8人兄弟の年長なのだという。

 現場の脇に建てられた休憩小屋ではシエスタの母親が菓子を振舞ってくれた。香草と乾し葡萄が混ぜられた焼き物や、森で執れるという杏のジャム、
粒が大きめの豆が混ぜてあるパンなどに、ここでも実家の方で出された甘苦い薬湯が出される。
 キュルケとギュスターヴが椅子に腰掛け、タバサは薬湯を飲んでいた。ギーシュはと言うと、現場を仕切るシエスタの叔父に色々と質問をしていた。
 しかしシエスタは、家族の中をきょろきょろと見渡し、さらに石切の現場も出歩いて何かを探しているようだった。
「……大爺ちゃんは?」
 どうやら、シエスタはまだ紹介していない家族がいるらしい。タバサに薬湯のおかわりを注いでいたシエスタの母が答える。
「大爺ならまたお墓だよ」
 墓、と聞いてギュスターヴの挙動が止まった。隣のキュルケは部屋に飾られた石に目が行っている。
 タバサに薬湯を渡していたシエスタの母が続ける。
「もう大爺様も年だからね。仕事場には来るんだけど、危ないから現場には立たせないでるんだよ」
「そうっか…」
「あの…」
 すっ、と手を挙げて二人の会話に挿し込んだギュスターヴは、らしくなく神妙な雰囲気で言った。
「済みませんが、そのお墓を見せていただけますか」
「……あの人に話はされましたか?」
 シエスタの母は少し顔を逸らして聞く。そこにもやはり、どこか常ではない空気が混じっている。
「はい」
「……そうですか。ヴィ……『シエスタ』や。この人を案内しておやり」
「あ、はい。こっちですよ」



 シエスタに案内されて、ギュスターヴは石切り場から離れ、林の中に入っていった。
 暫く歩くと、林を切り開いて作られたらしい小規模な墓苑に出る。
「私の一家のお墓なんです。祖父と祖母が此処にお墓を作ってから、皆此処にお墓を作るようになって…」
 墓苑と言っても精々、4,5ほどの墓標が区切りの中に並んでいるだけだ。そして一番奥の墓石の前で、一人の老人が屈みこんでいる。
「大爺ちゃん!やっぱりここにいたのね」
 彼がシエスタの一家が言う、「大爺さん」だった。すっかり腰が曲がり、肌は垂れて皺が寄りあがっている。大爺さんは石の一つに腰掛け、屈みこんでいるものの、
死者へ祈っているようでもなく、静かにたたずんでいた。
「大爺ちゃん?」
 少し声を張ったシエスタに、彼は今始めて気が付いたらしく振り向いた。
「……おお、私を呼ぶお嬢さんは、誰かな」
「私だよ、…『シエスタ』」
「『シエスタ』か。随分、久しぶりだ。いつ帰ったのだい」
「さっき帰ったばっかりよ。大爺ちゃんは最近、いつもここに居るって」
「ははは。もう仕事場に立てないからな。お前のお祖母さんとお話でもしようと思ってな……」
 朗らかだが、それなりに矍鑠としている大爺さんは杖を突いて立ち上がる。
「さて、休憩所で少し休んで、私は帰るとするよ」
「あ、待って。こっちの人を紹介するわ。ギュスターヴさん。奉公先で親しくしてくれてるの」
「はっはっは、大人をからかっちゃいかんよ。此処に一家以外のものを入れるなんぞ……んん?」
 大爺さんはその衰えた目で、シエスタの傍に立つギュスターヴを見た。
「ぉぉ……おおぉ!」
 いきなり大爺さんは声を震わせると、おぼつかない足取りでギュスターヴに駆け寄る。
「お、大爺ちゃん?」
「お前…グスタフじゃねーか!」
 叫ぶや大爺は曲がった腰を精一杯伸ばしてギュスターヴの腕にしがみついた。
「も、もし…」
 突然の事に動揺するギュスターヴに、大爺は構わず皺枯れた声でまくし立てた。
「俺だよ、ロベルトだよぉ!もう随分会ってないから忘れちまったのかぁ?そうだよなぁ。もう70年、80年も昔になるからな。そうか、お前が来たって言うことは、
そろそろ俺もお迎えってことなんだろう?」
 震える大爺ことロベルト氏は、涙を細くなった瞼から流しながら、うん、うん、と頷きながらギュスターヴの腕を握り締め続ける。
「お前が先に逝っちまって、俺は凄い淋しかったんだぞ。しかもお前の大事なあれをここで盗まれないようにずうっと護ってやったんだ。感謝しろよこの野郎…」
 呆然とするシエスタと、そしてギュスターヴの前で、ロベルト老人は一人、友人との再会に涙していた。



 「『シエスタ』の家で待つ」
 そう言ったきりロベルト老人は、一人で墓苑を後にして帰っていった。大爺の始めて見る様にシエスタは何を言っていいか判らず、ギュスターヴもまた、
エド氏に感じたものよりも濃い、良く知った何かを感じて動揺が口を硬くしていた。
「……シエスタ」
 風が流れ、木々を揺らす中でギュスターヴはようやく口を開くことができた。
「ぁ、はい」
「君のお祖母さんのお墓はどれだい」
「一番、奥です」
 聞くとギュスターヴは墓苑を進み、奥まった場所に作られた一つの墓石の前に立った。
 何気ない、何処にでもある墓石に見えた。そこには墓石らしく、字が刻んである。
「……これはっ……」
 それを見た瞬間、ギュスターヴの声は再び、封印された。目の前に綴られた文字が、ひとたび彼の言葉を引き止めさせるほどの衝撃を与えた。
「…祖母のお墓は、祖母が生前に自分で作ったものなんです」
 硬直していたギュスターヴの傍にシエスタが寄った。
「誰にも読めない謎の文字を刻んだもので、村の人たちは亜人の文字だと騒いだんです。だから祖母は、村から離れた此処に墓を…」
「…『る』……」
 動揺に震えきったギュスターヴの表情が、わずかに崩れた。
「え?」
「……『ヴァージニア・ナイツ。異界に渡り、此処に眠る。私と我らのアニマがふるさとへ帰れることを願って』」
「読めるん…ですか?」
 疑いながらシエスタがギュスターヴに聞くが、ギュスターヴの目は墓石の銘に釘付けになって離れない。
「…シエスタ。君のお祖母さんは……」
「はい?」
「君のお祖母さんは……何処の生まれだい?」
「祖母はタルブの生まれじゃないんです。なんでもずっと遠くから旅してきたって…」
「……そうか。そう…なのか……」
 波の様に揺れる木漏れ日の中、ギュスターヴは暫くの間立ち尽くしていた。


 休憩所に戻ると、キュルケとギーシュがげんなりとしてうな垂れていた。どうやら、先に戻ってきたグスタフ老人となにやらあったらしい。
 ため息をついていたキュルケ曰く、
「あのおじいさん、休憩所に入ってきたと思ったら『なんで此処に貴族の娘や餓鬼がいるんだ!』って怒鳴り始めて。
それをシエスタのお母さんや親戚の人たちが止めて、説得するまでにこりともしないんだもの」
 で、いろいろ騒いだ挙句さっさとシエスタの家に行ってしまったのだという。
 さらに老人は一枚の手紙を置き残していった。キュルケにはそれがさっぱり読めないらしく、手の上でくるくると遊ばせている。
 ギュスターヴはそれを受け取って目を通した。
『渡すものがある』
 そう書かれていた。



「来たなぁ、グスタフ~」
 カッカッカ、と笑いたげなグスタフ老人は、シエスタの実家の出入り口で一行を待ち構えていた。
 どうやらキュルケ達の説明でギュスターヴが知り合いとは別人であると理解したらしい。
先ほどとは一転、ひょうきんな身のこなしをしている。
 それを見た瞬間ギーシュとキュルケの顔が白むのが見える。
一方、当のロベルト老人はニカリを笑うと突っ立っていたギュスターヴに近寄ってくる。
「待っとったぞ。…その様子だと、ジニーの墓碑も読めたと見える」
「えぇ…『ヴァージニア・ナイツ。異界に渡り、此処に眠る』と……」
「ほぅ。合格だな、エドや」
「はい」
 老人とエド氏が何やら目配せしているのをキュルケが捉える。
「話が見えないんだけど…説明してもらえる?」
「さて、どうすべきかな…?」
 白髭を撫でながら老人はキュルケ達学院生徒三人を観察していると、ギーシュが胸を張って前に出た。
「ご老人。僕たちは人に怪しまれるところは何もない。不肖このギーシュ・ド・グラモン。父と祖父と家名に誓って――」
「それよ」
「は?」
 ギーシュの言葉に割って入ったロベルト老人は、不敵な半目でギーシュを見ている。
「『こっちの』貴族という連中は、どうもそうやって家名だのなんだのと立てる。私はそういうのが胡散臭いと思っているのさ」
「『こっちの』…?」
 それはギュスターヴの勘に引っかかる物言いであった。
「で、では、どうすればいいのだね?始祖に誓えと?」
「誰に誓おうと同じよ。そうやっているうちはな」
「か、からかわないで頂きたい!」
 飄々と言葉をはぐらかすロベルト老人に、ギーシュはだんだんと顔を赤くしてむきになって声を張り上げる。
「…ふむ。ではそこの若いの…ギュスターヴ、だったな」
「えぇ」
 ニッと笑う老人。健康的な白い歯が見える。
「お主とヴィ…あ~『シエスタ』は私についてきてもらおう。そこで話した事をどうするのかはお主に任せるよ」
 そういうとロベルト老人はつっ、と家を出てしまった。
「はよこい」
 と言われて、ギュスターヴはシエスタと一緒にロベルト老人の後を追って外に駆け出した。


 「私とジニー…シエスタの祖母はサンダイルという場所からここにやってきた」
「……やはり」
 疑問は確信に変わった。目の前の老人はサンダイルの住人だったのだ。
「こう見えても昔はブイブイ言わせてな、ヴィジランツもやっとった。…お前さんは何処の生まれだい?」
「……テルム」
「ほぉ。あそこはいいところだ。ハン・ノヴァが出来てから活気が減ったっても、上玉の娘が多くてよかった」
 獣道無き茂みの中をロベルト老人の後を歩くギュスターヴとシエスタ。
「大爺ちゃん。お話がよくわからないんだけど…」
 付いてきてはいるものの、話の意味が判らずシエスタは困惑している。
「んー、つまりな。この若いのと私は同じ生まれだということよ」
「大爺ちゃんとギュスターヴさんが?」
 不思議そうにギュスターヴを見るシエスタ。
「どうやらそうらしい」
「お祖母ちゃんとギュスターヴさんが……」
「そうだな。あいつはヴェスティアというところの生まれだが、同じものよ」
 色々と得心が行くギュスターヴだった。シエスタの祖母がサンダイルの人間なら、その息子であるエド氏が自分のアニマゼロに違和感を持つのは当然だった。

 …もっとも、真実は少し違う。良質の、高いアニマ感知力を持つナイツの血統だからこそ、ギュスターヴのアニマゼロに対して違和感を感じ取る事ができるのである。


 薮路を歩く中、ギュスターヴは聞いた。
「……ヴァージニア・ナイツとはどんな方だったんだ?」
「あいつは代々続くディガーの生まれだよ。こっちに来ても山歩いたりしてた。あいつの祖父はタイクーンなんて呼ばれてた凄い人だったよ」
(タイクーン…ナイツ……)
 ギュスターヴの脳裏に浮かぶ人物は一人。黒髪に真摯な瞳を持った青年ディガー。
「その人はウィリアム・ナイツと言わなかったか」
「ああそう。ウィリアム・ナイツさ。伝説のディガー『タイクーンウィル』その人よ」
 つまり、ここにいるシエスタはタイクーンの5代目の孫でもあるのだ。しかしシエスタは二人の会話がまるでわからない。
「ディガーってなんですか?」
「ディガーというのは…なんていえばいいのかな……」
 問われたギュスターヴも困った。グヴェルやツールが無い以上、ディガーという職業を説明するのは難しい。
 その様を見て笑いながらロベルト老人が歩く。
 困惑しながらもギュスターヴははたと気付いた。
「でも奇妙だ…俺がこっちに来たのは1269年だ。ウィリアム・ナイツはまだ老人というほどの年嵩じゃなかった」
「ほぉ…妙だな。私らが来たの時、世間じゃ1310年だったよ。まぁ、そんなことはどうでもいい」
 やがて視界に一つの祠が見える。
「遠い異界で出会えたお主に、渡すものがある。本当は持つべき人物がいたんだが、もうそいつも死んだ。…お前さんに会った時に言った『グスタフ』って奴さ」
 祠に掛けられた鉛色の鍵に老人が手をかける。
「よいしょ…っと…」


 祠はそれほど大きくない。天井が低く、まるで物置だった。戸棚があり、そこには石で出来た剣や、朱色をした槍、弓、指輪等、さまざまなモノが置かれいてる。
ギュスターヴには一目で、それがサンダイルに普及する『ツール』や『グヴェル』だと判った。恐らくロベルト老人が若かりし頃、ヴィジランツとして使っていたものだろう。
「大爺ちゃん…ここ…なんだか不思議」
「『シエスタ』。お主は時々、物言わぬ木や石から何かを感じたりはしないかな」
「ぇ……うん。あるよ」
「それはアニマという。世界に普く染み渡る、命の力だ」
「精霊みたいなもの?」
「さてな。私は精霊など見たことがない。さて…」
 祠の一番奥に置かれているのは、分厚い鉛で出来た箱だ。老人はそれをぐっと開く。
「ふー…」
 中には色々な大きさの袋が入っていた。そのうちの二つを取り、ギュスターヴに手渡す。
「明けてみるといい」
 ギュスターヴは一方の袋を開けた。そこにはボッキリと二つに折れた大剣が入っていた。
「かのギュスターヴ『鋼の13世』その人が使ったと言われる鋼鉄の剣だ。…色々あって折れちまってるがな」
 ギュスターヴは信じられないと言わん目で、恐る恐る袋に手を入れ、柄を握って取り出した。忘れるはずもない、手に馴染んだ感触が甦ってくる……。
(あの日、あの砦の最後の日。炎の中、意識の途切れる最後まで握り締めていた、俺の剣がここに……)
「…間違いなく本物だな」
「当然だ」
 ギュスターヴは自分の剣を静かに袋に戻すと、もう一方の袋に手をかける。
「……で、こっちの袋はなんなんだ?」
「あ、そっちはな」
 老人が説明するまもなく、ギュスターヴが袋を開ける。
「っ!!!」
 瞬間、ギュスターヴは手の袋を投げ落とした。
「これ!何をする」
 口が開いて中身が覗く袋をロベルトが拾う。
「……こいつはな。お主の故郷テルムを治めるフィニー王国伝来の炎のグヴェルよ」
「グヴェル…?」
 聞きなれないシエスタは意味がわからず困惑している。
 ロベルト老人が拾い上げたものを袋から出した。灰を練り固めたような、白い剣。陽炎がうねった様な鍔が広がり、やがて握りで一つになる形をとる。
「『ファイアブランド』…じゃったかな」
「……知ってるさ」
 ギュスターヴは動揺を鎮めて老人の手を見た。絶対に忘れたりしない。己の運命を決めたその石剣を……。


 そこでふと、ギュスターヴに疑問が浮かぶ。
「…待て。何であんたがファイアブランドを持てるんだ」
 ロベルト老人は火の消えた灰のようなファイアブランドを難なく持っている。
「ファイアブランドはフィニー王家の人間しか持てないはずだ」
「うむ。そのとおり。しかし現に私はこれを持っている」
 ロベルト老人は袋にファイアブランドを戻し、ギュスターヴに渡した。
「此処には他にもツールやグヴェルが保管してある。しかしそのどれをとっても、今は私であっても術を使うことは出来ん」
「何…」
「此処は私達サンダイルの住人が操る事の出来るアニマが殆どない。しかし私らはこの世界に広がるアニマを感じる事ができる」
 ギュスターヴは一応、頷いて見せた。
「なぜかは知らん。しかしサンダイルの人間はこちらのアニマで術を使うことが出来んのだ。グヴェルを使えば多少は出来る。
しかしそのグヴェルとて今は殆ど力を失っておる。だから私でもファイアブランドを持つことが出来る」
「よく…分からないんだが……」
「つまりだ」
 箱から一本の杖を取り出すロベルト老人。取り出した杖をいとおしげに指先で撫でた。
「私達はこのハルケギニアでは『異物』なのだよ。だから世界に根ざすアニマを引き寄せることが出来ない。だから術が使えない。
…此処で死んでも私達のアニマは世界に還ることが出来ない。ハルケギニアが私達が宿すアニマを拒む。
…グスタフも、プルミエールも、そしてジニーも、そのアニマは今もこのハルケギニアのどこかを漂っておる…」
 淋しげに杖を撫でて、箱に戻した。
「…グスタフ。ギュスターヴ15世。正真正銘のフィニー王家の血を引く男。同時に鋼の13世の鉄剣を任された傑物だったよ」
 友人のことを話すロベルト老人は、どこか嬉しそうで、やはりどこか淋しげだった。



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