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魔導書が使い魔-02


ペラ――
そこは砂と風と熱と寒と太陽と月が苛む砂漠という地上の地獄。
小さな小屋、月も差さぬ夜の帳、頼りにもならぬランプの灯火、這い拠る寒気、
薄く壁にもならない壁に守られ。誰にもはばかれぬことなく、誰にも気にかけ
ることなく、その老人は筆を進める。
ペラ――
1枚、また1枚。まるで誰かに急かされるように、まるで誰かを急かすように、
書は止まらず、ペンは止まらず、指は止まらず、老人は止まらない。
顔は凝り固まり、目は血走り、唇はひび割れ、肌は垢にまみれ、ぼさぼさとな
った髪がその異様さを浮き出させる。
老人は急かされている、老人は急かしている。
それは誰か、誰か、誰か、誰か?
ペラ――
そう、老人は老人を急かし、老人は老人に急かされている。
1枚、また1枚。書は空白を埋められていく。
なにが老人をこうも急き立てるのか。
なにが老人に書を書かせるのか。
ペラ――
ペンを走らせるその姿から漏れ出すもの。
意地、鬼気、執念、恐怖、焦燥、使命、義務、憤慨。
おそらくはこのどれかであり、このどれもであり、このどれでもないのだろう。
そう、もしこれらを総称して言うならば――『狂気』。その一言につきる。
狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂
気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気
狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂
気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気
狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気――
老人は指でペンを走らせるたびに狂い、手で書を捲るたびに狂い、息を吸うた
びに狂い、息を吐くたびに狂い、乾いた唇を舌で濡らすたびに狂い、目で字を
追うたびに狂い、蝋燭の火が揺らめくたびに狂い、火が書を照らすたびに狂い、
隙間から風が吹きかけるたびに狂い、物音が聞こえるたびに狂い、書が進むた
びに狂い、脳内にある“アレ”を書>言葉>単語>文字に変換するたびに狂い
直している!
ペラ――
狂気に犯されてもなお老人を急き立てるもの、それは――

――オオォォォーーーーォォオンッ!

どこからともなく獣の咆哮が響いた。



「――っ!?」
目を開けて、飛び込んできた景色は馴染みのある天井だった。
どこだろうとルイズは視線をさまよわせる。
見覚えのあるクローゼットに机に本棚。それで自分の部屋だとわかった。
ゆっくりと体を起こすと、冷や汗が首筋を流れる。
軽く頭を振る。あまり気分は冴えない。
(なんなのあの夢……)
今しがた見た夢。人を寄せ付けぬ環境、砂漠のただ中にある小屋、絶対的孤独
に晒されながら書に向き合う老人。
その老人を侵した狂気……いや、狂気を貪る老人の鬼気迫る迫力は、ルイズの
たった16の年月では理解できない。
意思を、力を、知恵を、意味を、存在を、自身の命までも削るように書を綴る
その姿を思い出し、ルイズの背筋に冷たいものが通る。
得体も知れぬ恐怖ともつかぬ感情に流されそうになったとき、ふとルイズは自
分がなぜここにいるのかと現実に帰る。
周囲には誰もおらず、なぜここいるのかわからない。なにかすごいことがあっ
たような。
とりあえず、枕元の呼び鈴を手に取ろうとして――左手の甲にあるそのルーン
に気がついた。
「――えっ」
その瞬間、ルイズの脳内に朝の出来事が駆け巡る。

2年生進級の使い魔召喚の儀式。

何度とない失敗。

確かにつかんだ手応え、その直後の轟音と魔方陣。

召喚された巨大な、かつ傷だらけなゴーレム。

そのゴーレムの持ち主だと思われる少女。

落胆しながらも交わそうとした契約。

儀式の途中で突如起き上がる少女、確かに契約を交わ(キス)し。

だけど、その瞬間に左手に痛みが……

改めて左手の甲を見た。
そこには見知らぬルーンがある。
もちろんルイズはルーンがなんなのかは知っている。だけど大抵ルーンという
ものは本や剣といったマジックアイテム、または契約した使い魔に現れるもの
である。わざわざ自分の肌に書くような人物は酔狂である。当然ルイズはそん
なものを自分に書いたことはないし、書かれた記憶もない。
ではなぜ左手にルーンが?
思い出すは契約の後、左手に奔った痛み。
(……まさか、コントラクト・サーヴァントの失敗……っ!?)
そのことを深く考えるごとに段々と顔が青くなっていくルイズ。
(つ、つつつ使い魔との契約に失敗したとなるとっ……り、りりり留年……さ、
ささささ最悪退学もっ!!)
そして更に考えが悪い方向へと転がりそうになった時。
コンコンという控えめなノックの後、間を空けてドアが開かれる。
「ミス・ヴァリエール。よかった、気が付いたのですね」
「み、ミスタ・コルベールっ!」
ドアからコルベールが顔をのぞかせ、ルイズを見てほっと息をつく。
「あれから大変でしたよ。気絶したあなたと――」
「み、みみみみミスタ・コルベールっ! 契約の儀式はっ!!」
優しげに話しかけるコルベールに、ベッドから飛びださん限りに詰め寄ろうと
するルイズ。
「け、契約の後すぐ痛みが走ってっ、そ、そそそそそれで気が付いたら手にル
ーンがっ!」
その顔は真っ青で今にも倒れそうなほどだ。
それにコルベールは真剣な顔になるとルイズの肩をしっかりつかみ。
「落ち着きなさい」
と、どこかしら迫力のある声で言い放つ。
「――あ。す、すみません……取り乱しました」
その声に、まるで水をかけられたように心は落ち着く。
それを確認したコルベールは、静かに言う。
「それについて話し合わねばならないことがあります。少し付いてきてくださ
い」
「そ、それはどうしてっ」
思わず聞くルイズにコルベールはにべもなかった。
「説明は後です」
さあ、とまたルイズの顔から血の気が引く。
(ま、ままままさかっ。ほ、ほほほほほんとに退学っ!!??)
よく見るとコルベールの横顔はなにか興奮を抑えるような、教師としてではな
くなにか命題を出された研究者のようなそれである。少なくとも一人の生徒を
留年、ましてや退学させようという顔ではないのだが。すでにマイナス思考ま
っしぐらの彼女にそれをよく観察する余裕などこれっぽちもない。
(ああっ!! 始祖ブリミル様っ! ちいねえさまっ! 姫様っ! どうかお
助けくださいませっ!!)
ルイズの脳内ではまるで菩薩のように光り輝く3人が出てくるが。黒い黒い煙
が3人を覆いつくし、その後にマンティコアに跨り無表情で睨む母カリーヌと
ギラギラと目を光らせる長女エレオノールが現れる。
2人はただ無言で腕を組みルイズを見下ろしているが、その迫力はもう熊や虎
といった猛獣、いや竜や吸血鬼といったものの比ではない。
(ゆ、許してっ! 許して母さまっ! 姉さまっ!)
「……ミス・ヴァリエール?」
先に進もうとしていたコルベールが振り返り、動かず震えているルイズに声を
かける。
「は、はははははいっ!」
飛び上がるような反応に少しコルベールは怪訝に思うが、多少のことは気にし
ないことにした。
「早くついてきなさい」
どこかギクシャクと立ち上がるルイズを連れて、コルベールはドアをくぐる。
「どうしようどうしようどうしようどうしよう……」
その後ろに付いていきながらブツブツと呟くルイズの顔色は真っ白であった。

「ここですミス・ヴァリエール」
そう言ってコルベールが止まったのはドアの前だった。
想像の中で追われ吹き飛ばされ捻られ抉られ千切られ潰され斬られ刺され砕か
れ剥がされ押し潰され捩じ切られ切り刻まれ終わることなき死を極限の断罪場
を彷徨っていたルイズは、そこでようやく現実へと帰る。
「……来賓室?」
あまり縁はないが、ルイズの記憶ではそこは来賓室であるはずだ。
先ほど言ったように、コルベールの顔をよく見れば、留年や退学といった出来
事を話すような表情ではないことはわかるのだが、先ほどからのマイナス思考
によりそこまでルイズは気が回らない。
(なんでこんな場所に? 留年や退学を言い渡すのにわざわざこんな場所で……)
そう思うルイズを時間も展開もコルベール(禿げ茶瓶)も待ってくれることは
なく。
「さあ、中へ」
軽くノックをした後、コルベールはドアを開けルイズを促した。
緊張により凝り固まっていたルイズは、一目で質が良いとわかる調度品が配置
された部屋の中、高級なソファーに傲慢不適に座る少女を見つけた。
「……え?」
銀の髪にフリルのついた服、その容姿は未発達であるが完成していると言う矛
盾を孕み、その横顔は微笑めば儚い花を咲かせるだろう。
だが、まさに偉そうに足と腕を組み、見るからに不機嫌そうに座りイライラと
指で組んだ腕を叩くその姿は、容姿を完全に裏切っている。
ルイズはその姿に見覚えがあった。
それもごく最近のことだ。
そう、自分が気を失う直前に……。
気を取られるルイズに気がつかず、コルベールは少女をルイズへ紹介する。
「彼女はミス・アル・アジフ。先ほどあなたが召喚した方です」
召喚……? ということは、あの時のことは……っ。
「ミス・ヴァリエール。ミス・アル・アジフに挨拶を」
一瞬思考の渦に入りそうになったルイズをコルベールが促す。
「は、はい。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ ド・ラ・ヴァリエール
と申します。その、ミス・アル・アジフ」
少女――アルはルイズにジロリと刺すような視線を向けると、ふんと鼻をなら
し言い放った。
「汝か。妾を無理やり呼び出した下郎は」
「――だっ」
余りにも見下したようなアル・アジフの言葉にルイズは。
「誰が下郎ですってっ!!」
当然のごとく憤慨した。
それを見てアルはこれもまた苛立たし気に言う。
「汝だ汝。汝以外にどこにいる小娘」
「こ、今度は言うに事欠いて小娘ですって! ちょっと訂正しなさいよ!」
「ええい。囀るな小娘、鬱陶しい」
「また言った! それをいうならあんただって十分小娘じゃない!」
「ふん、妾を汝のようなものと一緒にするな」
「なんですってぇ!」
「本当にこの小娘は五月蝿いな」
「わ、わたしより貧相な体付きしてるくせに小娘なんて言われたくないわよ!」
「なにぃ!」
「ふん、どうせその体を見て興奮して愛してくれる人なんて最低の下衆野郎
(ペドフィリア)だけでしょうねっ!」
その言葉にアルは立ち上がると、烈火のごとく怒りをあらわにする。
「な、汝ぇ! 少し(大いに)事実だがそこまで言うか! 起伏のない平地の
ような体の癖に!」
「あ、あんたよりは胸はあるわよっ!」
「ふぎぎぎぎっ!」
「むぐぐぐぐっ!」
そうして双方とも己のウィークポイントを抉りながらも牽制し攻撃し合ってい
く中。
「あー、こほんっ」
「なによカルデラのような胸のくせに!」
「だからそれは汝も同じであろう! 桃色頭脳め!」
「えー、ミス・ヴァリエール。ミス・アル・アジフ」
「桃色頭脳ですってぇっ! 他の暴言は許せても、今のは許せないわっ!!」
「なにかと人の体つきを指摘するような輩には十分だ!」
「ミス・ヴァリエール。ミス・アル・アジフ」
「この程度のことも許容できんとは所詮は浅き器よ!」
「言わせておけばっ!!」
2人の闘気は極限まで熱し反発し交じり合い高め合い。
「「こ、この――っ!」」
「――2人とも落ち着きなさいっ!!」
そんな空気をコルベールが断ち切った。
「なにをそんなに言い争いますか! 会話とは知性ある我々が操る高度なコミ
ュニケーションです! 少なくともそんな不毛かつ低レベルな言い争いをする
ために発達したものではありません!」
そう言い、たじろぐルイズへ向き直り。
「ミス・ヴァリエール!」
「は、はい!」
「あなたも貴族であるのならば容易く挑発に乗ってはいけません。今はわから
ないかもしれませんが、本来あなたの肩には領民の命が乗っているのです。貴
族であるあなたの一言一言はその命を左右することとなりましょう。一時の感
情に振り回されるのはいけません」
「……はい、ミスタ・コルベール」
ずーんと肩を落とすルイズ。
「あなたもですミス・アル・アジフ」
「なぬっ」
そしてルイズの様子を得意気に見ていたアルにもコルベールの説教は続く。
「なぜ、妾が攻められねばならぬ」
「そもあなたがミス・ヴァリエールを不用意に挑発しなければ言い争いに発展
しなかったのですから」
「ぐむっ」
「先ほども言いましたように、会話は知性ある我々が操る高度なコミュニケー
ション。知性あるからこそ我々は多くのことを伝え合い、共感し合い、感受し
合うことができるのです。会話とは相互理解、コミュニケーションとは歩み寄
り、それを怠ることはなりません。我々は争いを言葉によって解決できるです!」
そうして沈黙した2人にコルベールは一転して優しく言い放つ。
「さて、2人とも座ってください。我々は知性あるものとして話し合いをした
いと思います。彼女も、あなたについて聞きたいことが多々あると思いますから」
アルは、ふんと鼻を鳴らすとドカリとソファーに座り直し、それに続くように
コルベールが向かい側に座り、隣にルイズを誘い。
「ではまず、こちらの状況からお話しましょう」
静かに口を開いた。

コルベールは春の使い魔の儀式、それによりアルが呼び出されたこと、あれほ
ど巨大かつ精緻なゴーレムを所有していることはそれ相応のメイジであること
はわかるが、契約の儀式は神聖であり、なによりもそれを優先しなければなら
ないことであった。そして同じ魔法使いならその重要性も理解してほしい、と
順序だてて説明した。
話を聞き終わると。
「それで、その使い魔の契約とやらはうまくいったのか」
結果がわかっているとばかりに聞くアル。
ルイズもそれが気になるのかコルベールと自身の左手の間を視線が行き来する。
コルベールは薄くなっている頭を掻くと。
「ミス・ヴァリエール。少々失礼します」
躊躇なくその左手を取る。
「このように、なぜか使い魔に刻まれるはずのルーンが、なぜか彼女に刻まれ
てしまったのです」
晒されたルイズの左手の甲。そこには図形と文字が入り混じったかのような痣
があった。
「どうしてこうなったのかは、わから――」
「――当然の結果だな」
言葉を続けようとするコルベールに被せるようにアルは言い放つ。
「……当然の結果とは?」
怪訝になるルイズとコルベール。
それにアルはあっさりと言う。
「なんの準備もなく二重契約なんぞしようとして、弱い方が押し流されてしま
っただけだろう。まあ、実際はもっと複雑なのだがな」
ぽかんとあっけに取られるルイズとコルベール。
いち早くそれを脱したコルベールはアルへ問い詰める。
「そ、それではなにかの偶然か。契約を試みようとしていたあなたをミス・ヴ
ァリエールが呼び出してしまい、さらにミス・ヴァリエールがあなたに契約を
しようとしたことで二重の契約になってしまった、と?」
そうだとしたらなんたる偶然かつ悲劇。あまりの不運さに顔に指す影が濃くな
るルイズを他所に。
「それは違う。妾は使い魔なんぞ欲しない」
だがそれをアルは切って捨てる。
「そもお前たちの話の前提が間違っている」
「……なにが間違っているんですか?」
「妾は魔法使い(メイジ)などではない」
その言葉に沈黙する2人。だがルイズは耐え切れないというように立ち上がり。
「メイジじゃないんだったらなんでこんなことになったのよ!」
ルーンの掘り込まれた左手を掲げるが。
「落ち着け小娘。そもそも妾は人間ではない」
ルイズは目の前の少女の言葉で大いに混乱した。
この子はなんと言ったのだろう。メイジじゃない? 人間じゃない? なにを
言っている。メイジじゃなければこんな二重契約なんて話題にはならないだろ
うし。どう見ても目の前の少女は人間である。たしかに韻竜のような幻獣には
人に化けれる物もいるらしいが、先住魔法に契約なんて概念があるのかも怪し
い。
脳内でグルグル回る思考はルイズを苛立たせ、その苛立ちは言葉にでる。
「じゃあ、あんたはなんなのよ!」
その言葉にアルは薄く笑い。
「よく聞け人間」
扉を閉めた密室に、どこからともなく風が吹いた。
「我は書にして外道、外道にして知識」
風は湿り冷たい空気を孕み、渦を巻く。
「我は外道の知識にしてその集大成」
その風の中心、アル・アジフの右半身が光り――バラけた。
「――っ!?」
バラけた部分は本のページとなって部屋中を駆け回り。
「我が名はアル・アジフ。外道の知識を持って外道を駆逐する最強の魔導書也!」
驚愕する2人を傲岸不適な笑みを浮かべながらアルは言い放った。

その後のコルベールの興奮のしようは凄まじかった。持ち前の研究魂や知的好
奇心などを大いに刺激されたのかまるで機関銃のごとく数々の質問を浴びせア
ルとルイズを辟易させた。
しばらくは質問と自問と自己解釈のサイクルを繰り返していたコルベールだっ
たが、時間も立ち返答もない状態が続くと次第に冷静になったのか、2組の冷
たい視線に気がつくと取り繕うように咳をした。
「こほん……それでミス・アル・アジフ。あなたがメイジでも人間ではないこ
とはわかりました。それで、二重契約とはどういったことですか」
そう、問題の焦点はそこにあるのだが。
「本来なら我を所有するための契約がある。それは聖約と共に口付けを交わす
ことにより、我が知識と力を刻印するものなのだが」
アルは気難しそうな顔を浮かべ。
「そこに聖約も告げず無理矢理に契約を結ぼうとしたうえ、さらに流れる力に
抗って従僕の契約を流し込もうとした結果。そこの小娘はそのような状態にな
ったわけだ」
その言葉にコルベールはゆっくりと情報を整理して。
「つまりは、本来なら交わされるはずの使い魔の契約は、あなたの契約の力に
負け。ミス・ヴァリエールに跳ね返ってしまったということですか?」
恐る恐る言うコルベールにアルは偉そうに頷き。
「うむ、付け加えるなら。その使い魔の契約の力のせいで、妾の契約も不完全
となっているな」
「それは……契約を再びやり直すことはできないのですか? 先ほど言ったよ
うに、使い魔の儀式は我々メイジにとって神聖なものなので」
これを逃せばルイズの留年が決定する。コルベールは教師である。教師は公平
なものであるが、やはりその公平さも発揮するのは生徒だけである。
だが。
「契約をやり直すといってもな。このまま契約を上書きすればなにが起こるか
わからん」
ちらりとルイズのルーンを見ると。
「それに一見だが。我の契約と使い魔の契約は絡まり合い縺れ合っておる。こ
れを解すのは骨どころではない」
「――っ!」
それはルイズにとってやり直しの機会さえも与えられず、ほぼその先の未来を
閉ざすのと同じであった。
「じゃあどうすんのよ! 契約が交わされてないなら、わたしは……わたしは
っ」
ルイズは行き場のない怒りと悲しみと共に立ち上がるが。
「騒ぐな小娘。契約は不完全だとは言ったが、誰も失敗だとは言っておらん」
「……へっ?」
アルは非常に不快そうに苦々しく顔を歪め。
「不意打ちであり、不用意ではあり、不本意ではあり、不完全ではあったもの
の――契約はなされた」
「そ、それじゃあ……っ」
まるで我が事が信じられないと、ほうけたように聞くルイズ。
「ああ、汝は我が所有者だ」
それにアルははっきりと答えた。



「ふぎぎぎぎぎっ!!」
ルイズは上機嫌だった。
「むぐぐぐぐぐっ!!」
それはもう上機嫌だった。
「きしゃーーっ!!」
使い魔の召喚で巨大なゴーレムを呼び出し、それに乗っていた少女と契約をし
なぜか自分にルーンが刻まれて気絶。そして失敗したと思っていた契約は実は
(不完全だが)成功しており、契約した少女は意思があり人の姿を取れる1000
年の時を過ごした高位の魔導書であったのである。
「ふぅーーーっ!!」
そうルイズは、それはもうとても上機嫌“だった”のだ。
「ちょっとは言うこと聞きなさいよ! このバカい……バカ猫っ!」
威嚇しあっている2人。その1人、ルイズは怒りを顕に怒鳴った。
「なぜ妾がそのようなことを聞かねばならん小娘!」
それに打てば響くように言い返すアル。
「使い魔はご主人様に絶対服従ってもんでしょうが!」
「だーれーがっ! 汝に絶対服従などしたか! 戯言もほどほどにしろ小娘!」
「なによ! わたしはあなたのご主人様よ!」
「妾は汝を完全に主とは認めてはおらぬわ!」
「なんですってー!」

時は遡ること数十分前。

あれからコルベールの配慮により詳しい話はまた後日ということでルイズはア
ルを連れて部屋に戻っていた。かなりの時間を気絶していたのか、話が終わっ
た時にはすでに日は落ちていた。
朝の召喚のせいか体はくたくたであったが、ルイズの心は高揚し眠気はあまり
ない。
ベッドに腰掛けたルイズは改めて目の前に立つアルを見る。
長くまるで銀で織られたような髪、白く純白という言葉をそのまま表したよう
な肌、まるで人の魅入る美を神の采配で組み立てたような容姿。
たしかにそれは人ではないと言われると、納得するしかない美しさではあった。
それが、自分の使い魔となったのだ。
胸を占める興奮を隠し。物珍しいのか、ただたんにこれからの寝床を探してい
るのかキョロキョロと部屋を観察しているアルにルイズは話しかける。
「さて、これからあなたに使い魔としてやってもらうことを言うわ」
「妾は厳密には使い魔ではないのだが。まあよい」
偉そうに胸を張るその姿はそこはかとなくムカつくが、それを一々気にしてい
てはしかたがない。ここは聞き流すことにした。
ルイズは少し成長した自分の大人な態度に満足しながら言う。
「まず使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ」
「感覚の共有というやつか」
「そういうこと」
そう言うと何度かルイズが集中するように、うんうん唸るが。
「ふむ、妾には見えんし聞こえんし。どうせ汝も同じであろう」
「そのようね……」
そこは契約が不完全ということで予想はしていた。だが、それぐらいでは諦め
ない。
「それから、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば秘薬とかね」
アルは少し考えるようにし。
「ふむ、秘薬か。それなら見つけることは出来ずとも多少の製薬法なら妾の記
述にあるが」
ルイズはそれに早々に興味を持った。
「へえ……例えばどんなの」
「例を挙げるならば――」
語られること数十秒後、ルイズは聞いたことを後悔する。
「ひ、秘薬のほうはいいわ」
勤めて平静を装い言うが、内心は秘薬の原材料に対して大いに引いていた。
(200年以上前の遺体とか一匙で100人を死に至らしめる草なんて触りたくない
わよ!)
材料はどうかと思うが、決して手に入らない物でもない。作りたい……という
か触りたくはないがそこらへんは中々優秀と言える。
そして一番重要なことをルイズは語る。
「それで、これが一番なんだけど。使い魔は、主人を護る存在であるのよ!
その能力で、主人を敵から護るのが一番の役目!」
そう、多少小憎たらしいが目の前の少女は1000年の時を経た魔導書なのだ。自
分を護るぐらいの力は十分すぎるほど備えているのだろう。
そう思い、言ったルイズだが。アルの反応は思いのほか冷淡であった。
「汝、なにか忘れておらぬか?」
「な、なによ」
「妾の本質は書にして、外道魔導の知識。所有者がいるからこそその力を発揮
する」
突然始まった講義にわけがわからず困惑する。
「そ、それがどうしたのよ!」
戸惑うルイズにアルは深くため息をつき。
「世界のどこに書を戦わせる所有者がいるのだ」
「あ」
「いいか小娘。妾たち魔導書は所有者に人外の力と魔術を、戦う力を“与える”
ものなるぞ。そこら辺を履き違えておらぬか?」
アルがジト目でルイズに送り。
「う、うるさいわね!」
ルイズはそっぽを向いた
向いた先には窓から覗く二つの月。
もうかなり高い位置にあるそれは、自然とルイズの眠気を誘った。
後ろでアルが呟く。
「いい月だ。このような夜は怪異さえも寝静まろう」
実際アルは二つの月には関心したが、様々な――それこそ人知の想像を軽く超
越した宇宙の数々を知っているゆえ、二つ月があるぐらいでは驚くに値しない。
「まあ、いい月ね」
ルイズは怪異とはなにかわからないが気にしないことにした。
そしてままベッドに横になる前に、ルイズはしなければいけないことを思い出
す。
ベッドの上でゴソゴソと動き出すルイズに、アルがなにかと目を向けたとき。
「これ、明日洗濯しておいて」
パサ……、と頭上になにか布が複数かけられた。
「なっ!?」
頭にかけられた物を手にとってみる。白いパンティとフリルのついたキャミソ
ール、ただそれだけである。
「な、なななななな……なっ」
頬が、顔が高揚する。無論それは羞恥や性的興奮などではなく、屈辱と怒りを
絶妙にブレンドしたものであった。
声は自然と低く重くなっていく。
「汝……一つ聞くが。この下着を妾にどうさせたいと申した?」
それにルイズは気がつかず。
「言ったでしょう、明日洗濯しておいてって」
「――ふっ」
あっさりと言われる言葉に。
「そんな戯言を申すかこの小娘ぇっ!!」
最強の魔導書アル・アジフはパンティとキャミソールを床に叩きつけて吼えた。

「はぁ……っはぁ……っはぁ……っ」
「ぜは……っぜは……っぜは……っ」
そうして今に至る。
数十分の間、互いの罵詈雑言を駆使して言い争ってきたが、さすがに2人とも
疲れていた。
「い、いいから。明日……それを洗濯……しときなさい……よ」
最後にそう言うと、ルイズはベッドに倒れるようにして寝転がった。
体には朝の召喚や晩の驚きをはるかに凌ぐ疲れが溜まっている。
そうして疲れに身を任すルイズの背後から。
「ふっふっふ……この小娘よくまあ、妾を侮辱してくれよる。下々の世話など
……こやつで十分だ!」
そんな声の後、不気味な呟きとなぜか粘着質の音が聞こえたが。それ以上争う
気力もなく、ルイズは目を閉じる。
眠りにつく間際、アルの寝床をどうするか決めてないことに気がついたが、
ルイズは夢の淵へあっけなく落ちた。


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