あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

零姫さまの使い魔 第三話


「あっしは手の目だ
 先見や千里眼で酒の席を取り持つ芸人だ

 そう…… あっし芸はあくまで余興 探偵の真似事はやってねぇ
 探偵の助手の 医者の真似事もね
 一体 何が言いたいのかって? 怪盗探しは本職に頼めってぇ事さ!

 フン 怪盗 怪盗ねぇ……
 あんまり古風な響きなもんで こっちも思わず吹き出しちまうってぇもんだが
 そいつが馬鹿デカイ土人形の繰り手と聞けば 流石に笑えた話じゃない
 ましてや そんな怪物 捕えてこいと言われた日にゃァ 益々もって笑えねぇ
 全く…… ウチのお嬢は 何考えてやがるんだ?
 蟇蛙みたいにペシャンコになってくたばるのは こっちは絶対御免だぜ」





「なあ お嬢 あっしにゃどうにも分からねぇ」

荷馬車の上で揺られながら、手の目が何度目かの愚痴を零す。
話を振られたルイズの方は、ただ、先に見える深い森を見つめ続けていた。

「学院の大事なお宝が 巷を騒がす大怪盗【土くれのフーケ】に盗まれた
 早いうちに取り返さなきゃあ 伝統ある魔法学院の面子に関わる……と ここまでは分かる
 だがなんだって その捕り物に お嬢が名乗りを挙げるかねぇ?
 下手打ったのは教師共だ あいつらに任せときゃいいだろうに」

「これは個人の責任問題ではないわ 手の目」

敢然と、ルイズが言い放つ。

「世の貴族は ただ単に魔法が使えると言うだけで 平民の上に君臨しているわけではないわ
 始祖から継いだ魔法の力で 弱者を保護し 世界の秩序を守っているからこそ 
 様々な特権を受ける資格を持つのよ
 その秩序の担い手達が 世を乱すメイジ崩れの力を恐れて野放しにしているなんて 
 本来 絶対にあってはならない事なのよ
 ここで誰かが杖を掲げなければ 私達貴族に 繁栄を謳歌する資格は無いわ」

見事な正論であった。
これで彼女に相応の実力が伴っていれば、なお良かったのだが。

更に反論しようとしていた手の目であったが、ふと、何事か思い出して口調を変えた。


「ときにお嬢 フーケの犯行を目撃したって言ってたが
 あんた等なんで あんな時間に中庭なんかに居たんだい?」

「え?」

「そういや昨夜 ものッ凄ぇ爆発音を耳にしたが 
 今にして思えば あれもフーケの仕業だったって事なのかい?」

「――プッ!」

手の目のとぼけた台詞に耐えかね、傍らにいたキュルケが盛大に吹き出した。
反射的にルイズが睨みつけるが、キュルケは耐えられないといった風で、口元を抑え小刻みに痙攣していた。
そんな友人の様子に、隣のタバサは少し顔を上げたが、すぐに手元の書物に視線を戻した。

(なんだ……)
手の目がため息をつく。
昨夜、何があったのかまでは分からないが、頑丈な宝物庫の外壁を破られ、
賊の侵入を許したそもそもの原因は、ルイズの魔法の暴発にあった、というわけだ。
それを、貴族の使命まで持ち出して取り繕っては、キュルケが悶絶するのも無理からぬところである。

(それにしても 高慢チキのキュルケに鉄面皮のタバサ ね
 妙な取り合わせだとは思っていたが……
 何でぇ お嬢も意外と 友人に恵まれているじゃあねぇか)

手の目が三人を見回す。
勿論、彼女達にもそれぞれに動機があり、相応の自負があって、秘宝の奪還に参加したのであろう。
が、そもそもルイズが志願しなければ、二人も行動に移ることはなかったはずだ。
留学生である二人にとって、今回の怪盗騒ぎは、対岸の火事のようなものなのだから、

「……なによ手の目 妙にニヤニヤして
 主人の決めた事に不服でもあるの?」

「ン いやぁ……
 魔法学院の至宝ってのは 一体どんなお宝かと思ってね」

問答にも飽きたのか、手の目は心にもない言葉を口にした。


「ここが 件の怪盗がらしき人物が目撃された小屋ですわ」

鬱蒼と生い茂る森林地帯をしばらく進んだところで、先導役のロングビルが指さした。
確かに森の奥には、いかにもな雰囲気を出している小屋が見えた。

「フム 見たところ 人の気配は無さそうだね」
「あなた…… そう言う台詞は せめて中を見てから言いなさいよ」

やる気無さ気に右手をひらひらさせる手の目の仕草に、思わずキュルケが苦笑する。 
しばしの作戦会議の後、手の目、キュルケ、タバサが中に進入、
ルイズは入り口の見張り、ロングビルは周辺の偵察と役割を決めた。

「……たく なんで私が見張りなんか」

「そりゃあ メイジは重要な戦力だからね 
 魔法が使え無ぇので前後を固めて 不意打ちから守るためさ」

「なっ!」

ルイズの抗議を避けるように、手の目がそそくさと入り口のドアをくぐる。
その後ろを、慌てて二人が続く。

「はいはい どうせ留守だろ? 勝手に失礼しやすぜ
 しっかし こりゃまた 酷い有様だねぇ」

「ちょ ちょっと…… もっと慎重に動きなさいな」

「と言っても どうせこちとら罠の知識も無ぇんだ 余計な詮索するだけ無駄さ」

我が物顔で室内を物色する手の目に、キュルケもタバサも、驚きを通り越して呆れ顔を見せる。
これ程までに大胆な犯行は、それこそ件の、土くれのフーケですら行わないであろう。
尤も、狭い室内である。罠を仕掛ける場所もおのずと限られてくる。つまり――、

「……やっぱり この宝箱よね」
「あからさま過ぎる 迂闊に手を出すのは危険」
「ああそうだね でも もう開けちまったよ」
「あ…… あなたねぇ……」

――気を取り直し、三人が宝箱の中を覗き見る。
  箱の中には、つばの広い、上等そうな山高帽が一つ。

「間違いない 学院の至宝【破壊の帽子】」

「それにしても 何度見ても理解に苦しむわね
 そんな何の変哲もない帽子が 強力な力を秘めたマジックアイテムだなんて」

「これが……? いや…… 何となく あっしには事情が飲み込めてきたような……」

その時である。

「きゃあああああああああ!」
という悲鳴と共に、轟音が三人の頭上を通過し、部屋の屋根が丸ごと持っていかれた。
崩れ落ちてくる瓦礫の間に、やがて、ゆうに30メイルはあろうかというゴーレムが顔を見せた。

「土くれのフーケ!」
「ヤバいわね ゴーレムを使うとは聞いてたけど まさかこれ程のサイズとはね」
「借りるよ」

手の目は短く言い放つと、件の帽子を素早くひったくり、まっしぐらに走り出した。


眼前の巨体目掛け、ルイズがしっちゃかめっちゃかに杖を振るう。
小規模な閃光がゴーレムの胸元で弾け、土ぼこりが舞う。無論、効果は薄い。
やや煩わしそうに、ゴーレムがルイズ目掛け、左足を上げる。

「お嬢ッ!」

間一髪、横っ跳びで飛び込んできた手の目が、ルイズを抱きとめる。
直後、大地に爆音が響き、先刻までのルイズの立ち位置が、見る影も無いクレーターと化した。

「手の目! アンタ 何 その帽子?」
「そんな事ァどうでもいい! ズラかるよ!」
「だ だめよ…… 手の目」
「……何だって?」

ルイズはすっくと立ち上がると、震える両手で杖を構えなおした。

「私は貴族よ! ここで敵に後ろを見せるわけにはいかないわ!」

チッ、と、手の目が舌打ちをする。
魔法が使えないというコンプレックスゆえに、ルイズが貴族の在り方にこだわり過ぎるきらいがある事は
彼女が前々から危惧していた事であった。
ここまではっきりと言い切ってしまった以上、もはやルイズは梃子でも動かないだろう。

「ああ! そりゃァ確かに立派な事だ! だがね――!」

手の目は一歩前に出ると、やけくそ気味に声を張り上げた。

「こんな奴 お嬢が直接手を下すまでも無ぇ! 使い魔のあっし一人で十分だ!」
「え?」

気力を奮い立たすべく、手の目が両手で、自らの頬をはたく。
少女の異常な殺気に気付いたか、ゴーレムが少女に向き直り、その巨体を静止させる。

一瞬の静寂。


先を取って手の目が動く。
驚くべき事に 彼女は着物の裾を両手で捲し上げると、素早く踵を返し
その小柄な体からは思いもよらない程の速度で、一目散に駆け出したのだ。

「こういう時ャ逃げるが勝ちだ! ついて来な デカブツ!」

「……へっ?
 え? ええ! えええええっ!?」

去り去る少女と立ちすくむ土人形を、半ば呆然と眺めていたルイズであったが
彼女もすぐに正気に返り、脱兎の如く逃走を始めた。

「ア! ア ア ア アンタッ! バカじゃないのッ!?
 何処の世界に 主人を置いて逃げ出す使い魔がいるのよ!」

「五月蝿ぇ! そっちこそ貴族の誇りはどうした!?
 とっととペシャンコに潰されちまえ!」

「絶対イヤ!」

しかし、悲しいかな、ゴーレムと人間では歩幅が違いすぎた。
怒り心頭のゴーレムはたちまち二人に追いつき、小賢しい少女達目掛け右足を振り上げた。

直後、火球と疾風がゴーレムを襲う。
致命傷には程遠いものの、突然の奇襲に大きくバランスを崩し、ゴーレムがたたらを踏む。
何事かと振り返ったルイズの瞳に、宙を舞う竜の姿が映った。

「あれは タバサのシルフィード」
「ルイズ~! 今の内に逃げなさい」

地上の二人を退却させるべく、風竜がゴーレムの周囲を飛び回る。
いかにも五月蝿そうに、ゴーレムが両腕を振るう。
動きこそ鈍重に見えるものの、直撃すれば命は無い。

「さ 手の目 二人が時間を稼いでくれているうちに……」
「いや……」

暫く肩で大きく息をしていた手の目だったが、キョロキョロと周囲を見回した後、断言した。

「もう逃げる必要は無いね ここでフーケを討つ」


「さァて さて さて お立会い!
 是なるは 彼のとりすていん魔法学院が至宝
 【破壊の帽子】なる代物!
 見た目は単なる帽子だが、恐るべきはこの窪み!
 中は虚穴 魔界に通じ
 彼の地の異形 当地に自在に呼び出せると言う
 悪魔の如き道具に候!

 ここから先は 論より証拠 行うが易し!
 目の前にある泥人形を
 気合一閃! 屠って御覧に入れましょう!」

澄み切った少女の声が戦場に響く。
突然の手の目の豹変に、傍らのルイズも、頭上のタバサ達も、
敵であるゴーレムまでもが動きを止め、事態の行く末を見守る。
客を惹きつけるおどけた調子、それでいて、他の者が立ち入ることを許さない凛とした気配。
一同は紛う事無く、手の目の芸の世界に居た。

「盛者必衰 変幻自在 画竜点睛 えい! はァ! とァおぅッ!」

いい加減な呪文を捲くし立て、手の目が山高帽を放り投げる。
突風を受けた帽子は勢い良く上空へと舞い上がり、
あたかも蝶の如くひらりひらりと宙を待った後、力尽きたように、ぱさりと地面に落ちた。



――最初に現れたのは血溜りであった。

様子を探っていたフーケが、思わず息を呑む。
ひっくり返った帽子の中に、ゆっくりと真紅の液体が満ちていくのが遠目にも判った。
やがて液体は、容積を超えて滴り落ち、地面を徐々に紅く染め始める。
熟れ過ぎた果実のような、むせ返るほどの甘い香りが鼻腔を突く。
血溜りは既に、手の目の踝まで届いていたが、少女は魅入られたように笑みを浮かべるのみである。

やがて、血河の中からあぶくが生じ、なにやらぬらぬらとした泥の塊が浮かんできた。
塊は外気に触れた途端に脆くも崩れ、それらの中から、乳白色の骸骨が、
或いは昆虫のようなブヨブヨとした腹が、海月のような触手がと、思い思いに形を成し始めた。

同時に、先刻よりも更に強烈な腐臭が鼻を付き、フーケの視界がぐらりと揺らぐ。
血溜まりから飛び出した異形たちは、あたかも一つの生命のように群体を形成し
尚も増殖せんと、うぞうぞと全身をくねらせる。


「うわああああッ! 行けッ! ゴーレム!」

フーケが叫ぶ。
異形の正体が何であるのかを詮索している余裕は、今の彼女には無い。

ぐちゃり
ぐちゃり
ぐちゃり
ぐちゃり
ぐちゃり

恐慌を来たした巨体の連打が、痙攣する異形の群れを蹴散らし
大地を大きく抉り、少女の姿を挽肉へと変える。
どすん、と、最後に残った血溜まりを叩きつけた所で、ようやくゴーレムは動きを止めた。

ぜぇぜぇと、暫くの間、大きく肩で息をしていたフーケだったが、やがて異変に気付いた。
ゴーレムが動かない。
腕一本、指の一つも操ることが出来ないばかりか、元の土くれに戻す事すらままならない。
そんなフーケをあざ笑うかのように、徐々にゴーレムの右拳が、血溜まりの中へと引き込まれていく。
染み込んだ血液が土塊の腕を赤く染め、触手が根のように巨体に絡みつき、おぞましいばかりの肉の花を咲かせ始める。
フーケの眼前で、ゴーレムは巨大な異形と化して、やがて、血溜まりの中へと沈んで消えた。

「無駄な努力さ いかに土人形が大きかろうが 地獄の釜の底までは潰せやしねぇ」
「ヒッ!」

背後から聞こえた手の目の声に、フーケが咄嗟にナイフを振るう。
振り向きざまの一撃は、少女の首筋をばっくりと断ち切り、半壊した頭部が宙を舞う。

同時にフーケの右手首が引き裂かれ、鮮血が噴水の如く噴き出す。
茫然自失するフーケの眼前で、血液が少女の形を成していく。

「ヒデェ事をしなさる あっしらは既に一心同体
 気付きやせんか? 手前もとっくに異形の仲間入りをしている事に……」

少女に促され、フーケが俯く。
気が付いた時には、血溜まりは巨大な池となって、フーケの腰元まで浸していた。
じゅぶり、と何者かがフーケの両足を捉え、異様な力で池の底へと引きずり込む。

「あれなるは その名の通り【破壊の帽子】
 此方を魔界と繋いだ以上 もはや 世界の全てを破壊し尽くすまでは止まりませんぜ」

「ヒイィイイイイイイィィィ!」

――とぷん、という水音と共に、
  フーケは赤一色の世界へと沈んで行った……。


「茂みの奥で 確かにメイジが一人 気を失っていたわ
 ――手の目の言った通り 腰まで泥沼に嵌った状態でね……」

「まさか ミス・ロングビルが……」

キュルケからの報告を事も無げに聞きながら、手の目は山高帽を拾い直した。
勿論、帽子は血に濡れてなどいないし、彼女も生首ではない。
現実に起こった事を、順に並べるならば、手の目が帽子を放った途端、
ゴーレムが発狂したかのように暴れ出し、やがて勝手に崩れ落ちた――と、ただそれだけの事であった。

「ねぇ 手の目…… アンタはフーケの正体がロングビルだと 初めから知っていたの?」

「まさか ハナっからそいつが分かっていれば 他にもっと 手の打ちようもあったさ
 ――ただ先刻から 常に視線だけは感じていたよ
 眼前の土人形からではなく どこか後方の物陰からね
 彼女はメイジとしては凄腕だったが 黒子としちゃァ三流だったってわけだ」

「それでアンタ 帽子を前方ではなく 後ろに向って投げたのね」

ルイズが嘆息する。
先程の退却も、フーケの居場所を特定するための布石だったという事であろう。
この位置取りで身を隠しつつ、ゴーレムを操れる場所と言えば、後方の草影しか無かった。

「……それで あなたは一体 何をしたの?」

やや緊張した面持ちで、タバサが口を開いた。

「この 土くれのフーケを気絶させた力……
 これがその【破壊の帽子】の能力だと言うの?」

「いいや こいつは本当に 何の変哲も無い山高帽さ
 あっしが使ったのは まあ ちょっとした催眠術みたいなもんだよ
 もっとも ここまで綺麗に決まってくれたのは 帽子のおかげと言えるだろうがね」

「? なにそれ 手の目 どう言う事よ?」

「名物の『箔』が与えた心理効果さ
 なにせこいつは 国一番の識者であるオスマン老が 手ずから封印した学院の至宝だ
 ましてやフーケは 盗み出した張本人
 強力な力を秘めたマジックアイテムである事を期待する余り
 あっしが見せた幻を 何一つ疑うこと無く 帽子の力と決め付けちまったのさ」

手の目はそこまで話すと、両手を三度叩き、高らかと言った。

「さぁ 解決編も終わりだ! 日が落ちる前に 学院に戻りやしょうぜ」

「……でも それもおかしな話じゃない?」

小首を傾げるキュルケの動作に、皆の視線が集まる。

「それが本当に 何の変哲も無い帽子だって言うなら
 どうしてオールド・オスマンは 厳重に宝物庫に封印したりしたのかしら……?」

「……ここから先は 単なるあっしの推測だがね」

手の目はそう前置きをすると、帽子を目深に被り直し、妙に誇らしげな口調で言った。

「おそらくは 彼のオスマン老も 一杯喰わされたんだと思うよ
 そこに転がってる 土くれのフーケと同じようにね……
 本当に凄かったのは帽子じゃない 帽子の持ち主だったってぇ事さ」



新着情報

取得中です。