あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

THE GUN OF ZERO-13


「きゃあああぁぁぁぁ!?」
 初めて乗ったアストラナガン。そこは足下いっぱいに学院の光が見えました(はぁと)。
 おもいっくそ全天周型モニターのディス・アストラナガンは、しっかり足下にも外の風景が見えているので、モニター画面という概念すら持っていないルイズにとっては、そのまま落下するような錯覚に囚われていた。
「お、おおおおお、落ち!落ちるっ……!」
「おーい娘ッ子、大丈夫かぁ?」
「落ち着け、ルイズ」
 四肢を四方に伸ばして不可視のコンソールを握っているクォヴレーが、必死に自分にしがみついてくるルイズに静かに告げる。
「おおおおお落ち着ける訳ないでしょぉぉぉっぉおおおお!」
 半泣きになっているルイズが責め立ててくる。
「よく足の感触を確かめてみろ」
「あ……足?」
 おそるおそる下を見る。
 そこでふと気づく。自分の腕はしっかりとクォヴレーを掴んでいるが、足は不可視の床をしっかりと踏みしめている。
 とんとんと足を踏み直す。
「何、これ……」
「簡単に言えば、透ける床だ。こういったものを動かす際に、視界は広いほど良いからな。足下に誰か人がいたとしても踏まずに済む」
「そ、そう……け、結構考えてるのね……」
 引きつりながらも笑みを浮かべ、必死に余裕を見せようとする。それでも抱きついているクォヴレーを離そうとはしなかったため、露骨に失敗していたが。
「行き先はアルビオンだったな」
 クンッと翼を翻し、トリステイン上空で西に向く。
「ええ、王党派はレコン・キスタに押されて、追い立てられて今はニューカッスル城に立てこもっているらしいわ」
 悔しそうに唇を噛むルイズ。
「敗戦の末の後退か……戦場跡を追っていけばその城も見えてくるか。ところで、レコン・キスタという組織、聖地奪還を謳っていると言っていたが、聖地とは何だ?いや、どこだと問うべきか」
「私たちメイジの始祖であるブリミルがやってきて、そして最終的に目指した場所よ。ここからずっと東。今はエルフ達が邪魔をして、行けないんだけど……」
「東……ああ、砂漠の中に集落が一つあったな」
 思い出すようにクォヴレーが呟く。
「あ、アンタ行ったことあるの!?」
「そりゃそうだろ。娘ッ子、今自分が何に乗ってるか、判ってんのかい?」
 デルフリンガーの言葉にハッとし、
「――見えた。アルビオンだ」
「へ?」
 クォヴレーの言葉に前を見ると、月明かりに照らされる浮遊大陸がルイズにも見えた。
「ウソ……ホントにもう着いちゃった」
「流石に暗いな……視界が悪い」
 手元のコンソールを操作し、モニターの明度を上げつつ、アルビオン上空に到達。
 上空一万メイル付近より広域でアルビオンの地表を捜査。発見したいくつかの戦場跡を線で結ぶように辿っていくと、アルビオンの端にまで続いていた。そちらへと飛ぶ。
「確認出来る最後の戦場は……あれか?いや……」
 アルビオンの地表から300メイルほどの高さに降下しつつ、望遠して下を見る。
「こいつぁ陣地だな……戦勝祝いってとこか」
 どんちゃん騒ぎの様子に、呆れ気味にデルフリンガーが呟く。
「どっち?王軍?それともレコン・キスタ?」
「……死体も片づいてない真新しい戦場跡があちら側にある。陣地を挟んで反対側の、こちら側にも比較的新しい戦場跡が見える。王軍が劣勢だという話が本当なら、こちらはレコン・キスタだろうな」
 ディス・アストラナガンの目を遠くへ向けながら返す。
「こいつら……」
 若干目尻をつり上げるルイズ。
 一方のクォヴレーは、愛機の異変に眉を顰める。

「これは……」
 ディス・レヴが反応している……?
「? どうかしたの?」
「いや……今は、いい」
 首を振るクォヴレー。
「今は王女の任務が優先だろう」
「? そう」
 不可解な答えではあったが、とりあえず任務の方を優先しているらしいと解り、頷く。
「こちらがレコン・キスタとやらの陣なのならばウェールズ皇太子が居るのは反対側か」
 暗闇の中、浮遊大陸の端に立つ城が、確認出来た。他に王党軍が居るとおぼしき場所も見あたらない。
 深夜の城に、翼を羽ばたかせつつディス・アストラナガンが降り立つ。
 軽い地響きを産みながらの着地に、わらわらと人々が出てきた。
「ちょ、ちょっとどうすんのよ!?大事になってるじゃない!」
「ルイズ、少し名前を借りるぞ」
「え?」
 返事は待たずに、外部音声のスイッチを入れる。
「俺の名は、クォヴレー・ゴードン。トリステイン魔法学院に在籍するルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔だ」
 暗闇の中にクォヴレーの声が響く。
「俺の主が、トリステインの王女、アンリエッタ殿下より、この国の皇太子へ言づての密命を受けた。皇太子に主と会って貰いたい」
 そこでカチリと外部スピーカーへの出力を切る。
 本来なら言づてではなく密書の筈なのだが、当のアンリエッタが手紙を渡す前に気絶してしまったため、書状がなかった。
「外に出るぞ、ルイズ」
「ちょ、ちょっと……!」
 ハッチが開くと、ディス・アストラナガンの掌がすぐそこまで来ていた。
 ルイズはクォヴレーに抱えられながら掌に飛び移り、手が下ろされて地面へ、そこでクォヴレーからも下ろされる。
「ちょっと!どうするのよ、明らかに不審者に見られてるわよ……!?」
 居心地悪そうにルイズは使い魔に小声で尋ねる。明らかにこの場の全員がこちらを注視していた。武器や杖を持つ者も居るなか、今現在何もしてこないのは、ひとえに後ろにいるディス・アストラナガンの威圧感故だろう。
「ひとまず注目は集めた。これだけやれば皇太子にも聞こえていただろう」
「……それで?」
「曲がりなりにも友好国の公爵の家柄を名乗ったのだから、下手に手荒なまねは出来まい。
そして俺たち自身が信じてもらえなくとも、きちんと物の考えられる人物が聞けば、トリステインの王女が手紙を返してもらいたいという理由は理解してもらえる。そうすれば件の手紙は燃やすなり何なり処分を下すだろう」
 確かにアンリエッタは手紙を持って帰って欲しいと言っていたが、それだけでも用件は事足りる。それは判ったが……
「もし、こんな状況で私たちが信じてもらえなかったらどうするのよ!?」
 不安そうにルイズは尋ねる。
「最悪、使い魔として主人の身だけは守るつもりだ」
「まぁ、相棒なら問題なく守れるだろうなぁ」
「……そうだったわ」
 後ろにいるのは悪魔王である。
 ざわざわと遠巻きに囲む人の中から、若く精悍な顔立ちの少年が歩み出てきた。
「で、殿下!危険ですぞ!?あの悪魔!罠かも知れませぬ!」
「将軍、戦況は理解しているだろう。ここでわざわざこんな手の込んだ罠を連中がしてくるはずはないし、あの悪魔で直接城を破壊する方が手っ取り早い筈だ」
 止めようとする初老の男性をかわして、ルイズ達に近づいてくる。
「殿下って、もしかして……」
 近づいてくる青年がにこやかに答えた。
「いかにも。私がアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ。そして君が、先程言っていたミス・ヴァリエールだね」
 暗いながらも、近づいて来るに従ってその顔もよく見えてくる。金髪の整った顔立ちだ。
 まさか、こんなにも早く当人が現れるとは!
「はい!ウェールズ様、お目通りが適い、光栄に存じます!」

 制服のスカートの端を掴んで、ルイズが礼をする。クォヴレーもそれに倣って会釈した。
「トリステインの……アンリエッタの命と言っていたな。済まないが、それを証明する物は無いか?」
「証明、ですか?」
 どうしようと頭をひねる。確かに最悪、先程クォヴレーの言っていた案でも問題ないのだが、信じて貰って、手紙をきちんとアンリエッタにまで届けられればそれに越したことはない。
「ルイズ、先程貰った指輪はどうだ。王家に伝わっていたと言っていたが」
 クォヴレーに言われて自分の手を見る。余りにも急な展開に、指輪は着けられる暇もなく、ルイズの握りしめた手の中にあった。
「あ!?」
 パッと開かれたルイズの手から、虹色の光が立ち上り、それがウェールズの指に填めていた指輪から出た光と繋がった。
「おお!それはまさに、トリステイン王家に伝わるという水のルビー!」
 ウェールズの目が感動に彩られる。
「大した物だな。魔法というのは」
「俺からしてみりゃ、相棒のアストラナガンの方が凄いんだがね」
 使い魔とその相方がルイズの後ろでのんびりとぼやく。
「皆の者、この者達はトリステインよりの大使殿だ!丁重に持て成せ!」
 おお!と周りで見守っていた人たちからどよめきが上がった。
「いや、疑ってしまって申し訳ない。先程はああ言って見せたが、やはり私一人を狙っての暗殺の可能性も捨てきれなかった上に、アレを見てはね」
 ウェールズは詫びを入れながらディス・アストラナガンを見上げて苦笑した。
 ウェールズは降り立つところを見ていなかったとはいえ、何もなかったはずの城壁の裡に全長20メイルを越えるディス・アストラナガンが居れば、悪魔が現れたとしか思えないだろう。
「いえ、こちらこそ申し訳ありません。その、私の使い魔のゴーレムなんですけど、見た目が……その……」
「使い魔の?ゴーレム?あれがゴーレムなのかね?」
 ウェールズは驚いて目を見開いた。
「言葉を話すゴーレムか。私は初めて見るよ」
「いえ、先程話していたのは私の使い魔なんです」
 とルイズが手でクォヴレーを示す。
「使い魔?……その、彼は人間に見えるんだが」
「人間です。でも私の使い魔なんです……」
 しゅーんと恥ずかしそうにルイズは身を縮めた。
「ああ、いや、済まない。あまり聞いたことがなかったのでね」
 何故かルイズばかりが恥ずかしがり、クォヴレーが顔色一つ変えないという奇妙な状況が出来上がっていた。
(あんたのせいなんだから、少しは動揺も見せなさいよね!?)
 いつもの通りに泰然と構えるクォヴレーが小憎たらしい。
「ともかく、城内に案内しよう。さぁ、こちらへ」
 ウェールズに先導され、二人は城の内部に入る。護衛らしきメイジが付く。
「本日の敗戦で、ついに我が方の戦闘員は500を割った。戦える者は300名ほどだろう」
 城内の廊下には、負傷した兵やメイジが至るところにいた。それぞれ看護兵や水メイジによる治療を受けている。
「流石に今日再び来ることや、明日に再度の襲撃があるとは思えないが……この一週間で戦いは終わるだろう」
 アルビオンの負けとは明言していないが、つまりはそういうことだ。ただし、後述するがこの予想は外れることとなる。
「だが、ただやられてやるつもりもない。最近は空族船に偽装した軍艦で敵の補給路への攻撃も行っている……今日も、これから出るつもりだったんだが、大使殿が来られたからな。中止だ」
 穏やかに笑みを浮かべながら、行き着いた部屋の扉を開ける。
「応接室でなくて申し訳ないが、他の部屋はあいにく一杯でね。こちらで話すことになる」
 そこは作戦室だった。


 現在置かれているトリステインの状況、そして政略結婚の事実、それに伴う手紙の返還請求。
 それらを話した後、流石にウェールズはショックを隠せないようだった。
「姫は、結婚するのか?あの愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……従妹は」
 呆然と呟く皇太子に、申し訳なさそうにルイズは目を伏せる。消極的な肯定だ。
「……いや、仕方がない。我々の不甲斐なさが、トリステインを危機に陥らせ、結果としてアンリエッタも……」
 首を振りながら、自分に言い聞かせるようにウェールズは呟いた。
「件の手紙だが、ここまで持ってきている。私の大切な宝物でね」
 顔を上げて、努めて明るく振る舞おうとしているのがよくわかった。
「だが、こういう事情ならば仕方あるまい。燃やすよりも、彼女の思い出の品として、仕舞っておいて貰うことにしよう。少々待っていてくれ」
 作戦室を出て行く姿を目で追い、ルイズはため息をついた。
「ウェールズ様もアンリエッタ様も……お労しい」
 ソファに座っているルイズの斜め後方。クォヴレーは微妙な心境だった。
 現在この国に迫っている危機。そんなものは実際クォヴレーにとってみれば一撃で済む事象だった。ここまで使い魔として肩入れしている以上、やはり心情的には味方をしてやりたいが、自分の力は些か強力すぎる。
 ハルケギニアにはハルケギニアの道理があるのだから、部外者の自分が口を挟むのも躊躇われた。
 まぁ、もしレコン・キスタの征服の行き着く先が、エルフとの血塗られた戦いであるとクォヴレーが知っていたのならば、容赦なく首脳部をデッド・エンド・シュートしていただろうが、生憎クォヴレーはルイズよりそこまでの説明を受けていなかった。
 ただ……とクォヴレーの目が鋭くなる。
(先程のディス・レヴの反応……もう一度あの陣に行く必要が有りそうだな)
「ねぇ、クォヴレー!」
 ルイズが振り返りながら見上げた。
「アストラナガン、まだ人が乗る余裕があるわよね?」
「あ、ああ。操作を考えれば窮屈だが、俺以外にコクピットに3人ほど乗るのは可能だし、座りは悪いだろうが、掌に乗せることも可能だ」
 返事をしながら、ルイズの意図が読めたので後半を付け足す。
「それなら……!」
 ルイズがぎゅっと小さく握り拳を作る。
(……この戦局にあって、今更脱出を計るとも思えんがな)
 口には出さずにそう思っていると、作戦室の扉が開いた。
「待たせたね。これが、その手紙だ」
 立ち上がってウェールズからそれを受け取りながら、ルイズは申し入れを行った。
「ウェールズ様。どうか、このまま我々と共にトリステインへ落ち延び下さい!アンリエッタ様もきっとそれを望んでおられるはずです!」
「ミス・ヴァリエール、申し出はありがたいが、それは出来ない相談だ。私には、この窮地にあって今まで共に付いてきてくれた臣民を、見捨てることは出来ない」
 寂しそうに微笑みながら、ウェールズは首を振った。
「先程おっしゃったフネを使っては?」
「……足りないな。全員を乗せるには足りない。それでも最終的には非戦闘員の脱出に使うつもりだ」
「非戦闘員……」
 王族であるウェールズはもちろん軍を指揮する立場にあり、戦闘員である。
「それにだ、ミス・ヴァリエール。何よりも、私が亡命する訳にはいかないのは、アンリエッタの為なのだよ」
「アンリエッタ様の……?」
「私がトリステインに逃げ込めば、アルビオンを制圧するであろうレコン・キスタにトリステインへ侵略する絶好の口実を与えることになる。
 いや、口実がなくともいずれは彼らが侵攻すると考えているから、トリステインとゲルマニアが同盟を結ぶのだろう。それは私も同じ考えだ。だが、そこに私が居ては、尚のこと侵攻を促し、防戦の準備が整う間すら無くなってしまう。
 アンリエッタの安全のためにも、私はここで戦い続けるしか無いのだよ」
「そんな……!」
 ルイズは何か反論しようと声を上げたが、すぐに押し黙った。今の言葉に、反論する論拠が見つからなかった。だが、まだ出来ることはある!
「……ウェールズ様、今日明日に、再度の襲撃は無いという事でしたね」
「ああ、そうだ。だから大使殿もその隙に……」
「それでは今から、明日の夜明けまでの時間を、私に下さい!」
 ルイズの突然の申し込みに、ウェールズは目をぱちくりさせた。


 トリステイン魔法学院学院長は、頭を抱えていた。
 すっかり夜のとばりが支配する時間、異形の声が学院中に響き渡った。
 一体何が起きたのかと調べてみると、魔法衛士隊の隊長ワルド子爵からの証言で、あの使い魔のディス・アストラナガンが吠えた物であるらしいことが判明した。
(自重しろと言っておいたというのに……!)
 さらに訳の分からないことに、アンリエッタ王女が仮設された寝所におらず、なぜか件の使い魔の主、すなわちミス・ヴァリエールの部屋で寝ていて、部屋の主とその使い魔は居なくなっていた。
 それについても、ワルド子爵よりの証言があった。現れた悪魔にルイズと使い魔が喰われ、そのまま悪魔が飛び去ったとのことで、おおよその見当は付いた。つまり、アレに乗ってどこかに出かけているらしい。
 その実体がゴーレムであろうと何であろうと、外見は誰がどう見ても悪魔のディス・アストラナガン。あれが学院にあったとなっては、学院の存続そのものの危機である。
(ああ……どうすればいいんじゃ……)
 オスマンは別に権力や地位に固執する人間ではないが、学院の機構には重要性を見出している。教育の大切さを理解しているオスマンにとって、学院が無くなるのは重大な事態だった。
「オールド・オスマン!」
 学院長室にコルベールが駆け込んできた。
「帰ってきました!」

「……明かりが消えているな。誰も居ないようだ」
 水の塔、窓から一室を覗き込み、クォヴレーは呟く。
「信じられない……」
 コクピットの中、行きよりも人数が増えていた。
「1時間、いや、30分も経たずに……ここは、本当に……」
「ええ、トリステインですわ、ウェールズ様」
 惚けた表情のウェールズに、ルイズが自信たっぷりに頷いて見せた。
 朝までの時間を差し出してくれたウェールズと共に、ディス・アストラナガンに乗り込み、最高速度でここまで帰ってきていた。行く時は到着先を探しながらだったが、帰りは目的地が判っている分更に早い。
「でも、アンリエッタ様はどこに行ったのかしら……」
「あれから1時間以上経っている。侍女が居なくなったのに気づいて、探し出したのかも知れない」
「お、相棒。知ってそうな連中が来たぜ」
 デルフリンガーの言葉に振り向くと、未だに暗い闇の中、オスマン達がかけてくるのが見えた。いや、それだけではない。他にも学院の面々が何人も見える。生徒も混じっているようだ。
 ディス・アストラナガンの掌を経由して、地面に降りるルイズとウェールズ。
「く、クォヴレー……儂はあれほど自重せよと……」
 怒り心頭の様子だが、それでも圧倒的な力を持っているクォヴレーを怒らせないように自制し、頭ごなしに叱りつけはせず、呼びかけるオスマン。大した物である。
「すみません、学院長。急ぎの用事があったもので」
 そんな心境は露知らず、コクピットで素直に頭を下げるクォヴレー。ついでにディス・アストラナガンの頭も下げさせる。
「学院長!姫様は、アンリエッタ様はどちらに!?」
「う、うむ、御寝所の方じゃが……」
「ありがとうございます!ウェールズ様、さあ!」
「ああ」
「お待ちなさい!ミス・ヴァリエール!今回の件はあなたの使い魔への監督不行きと……」
「すみません、ミスタ・コルベール。おしかりは後ほど受けますので!」
 ウェールズを伴い、仮設された寝所の方へ向かうルイズ。その背へ呼びかける。
「ルイズ!約束通り……」
「ええ!これから自由時間!ただし、朝にはちゃんとウェールズ様をお送りするのよ!」
「了解だ。行くぞ、アストラナガン!」
 再び愛機を立ち上がらせるクォヴレー。
「ま、待ちなさい!クォヴレーくん!」
「すみません、ミスタ・コルベール。生憎と俺の方はまだ急ぎの用事が残って居るんです。皇太子を王女の元に送り届ければ、ルイズの手が空きます。そちらから説明は受けて下さい」

「こ、皇太子じゃと?まさか、今の若者は……」
 オスマンのつぶやきを尻目にクォヴレーはアストラナガンを飛ばした。
「相棒よ、何をそんなに慌ててるんだ?」
「先程気になることがあった。それを確かめる」
 たどり着いた先は、先程目印代わりに使ったレコン・キスタの陣だった。
 そこで不意に、クォヴレーの目が鋭くなる。
「この感覚……やはり輪廻の輪を外れている、いや外されている魂があるな」
「輪廻、ってなんだ?」
「魂の通る道筋だ。寿命を終えた魂は、のちに、また別の生命に転成する」
 レコン・キスタの陣は、先程と変わらずに戦勝の騒ぎが続いていた。
 だがそこへ、上空から突然降って湧いた超巨大ゴーレムに場は騒然となった。
 酔った足で逃げ出す者、武器を取ろうとする者、上司へと伝えようとする者……
 そこでゴーレムから、レコン・キスタの陣全てに聞こえるほどの声が響き渡った。
『ディス・レヴ、フルドライブ!まつろわぬ霊達よ、今再び、正しき輪廻の輪の中に戻れ!』
 と同時に、陣にいる人間の内いくらかよりぼぅっと光が抜けて、その光は巨大ゴーレムの中に吸い込まれていった。一方、光の抜けた方の人々は次々に倒れていった。
「おい、相棒……何なんだ?この光」
「人の魂だ」
「魂?そりゃ、つまり……こいつらを殺してるのか!?」
「違う。彼らは本来ならば死んでいる者達だ。それが、何かによって操られ、無理矢理に生かされている。アストラナガンに搭載されているディス・レヴは、それを正常な流れ、先程言った輪廻の中に戻す働きがある」
 レコン・キスタ陣内を動き回るアストラナガン。
「歪みの元凶は……そこか」
 野営のテントの中でも一際豪奢な作りをしているものを、支柱から引っ張り抜いて放る。
 自分たちの頭の上を覆っていたものが取り払われ、テントの下にいた人々は慌てて空を見上げ、そこに悪魔を見て、先程から騒がしかった外の理由を知ったようだった。
「あいつか」
 あわてて逃げ出そうとする人々の一人をむんずと掴み上げる。
「身につけているその指輪をこちらに渡して貰おう」
 がたがたと震えながら、その司祭のような身なりの男は、アストラナガンのもう片方の手にその指輪を放った。
「確かに」
 小さく頷き、男を地面に下ろすと、指輪を手の中で粉々に砕いた。
「これで良し」
 一つ頷くと、アストラナガンの翼を開き、そのまま東の方へと飛ぶ。
「何だったんだ?今のは」
「輪廻の輪を歪めていた元凶だ。あの指輪の力が、正常な魂の流れを阻害していた。これでもうあんな事は起きないだろう」

 興奮状態から覚めてきたのか、眠たい目をこすりつつ、寮に向かうルイズ。
 いい加減疲労困憊だったが、精神的にはかなり充実していた。
 御寝所の周りを固める侍女達を説得するのは骨だったが、宰相であるマザリーニが騒ぎに気づいて起きてきてくれたので、むしろすんなりとウェールズの事を信じてもらえた。指輪同士のあの光を見せたからだ。王室に近しい者には結構有名であるらしい。
 その後部屋に入って、アンリエッタを起こし、ウェールズと対面させたところで、オスマン達が入り口付近に到着。
 説明の必要ありと判断したアンリエッタ、ウェールズ両名の補足説明による側面援護を受けつつ、此度のアンリエッタから受けた任務、自身の使い魔の知られざる速度、そしてウェールズを連れてきた経緯などを話した。
 宰相や学院長達は最初目を見開いて驚いたが、現実としてどう考えてもウェールズであろうこの若者が居ることで、受け入れざるを得なかった。
『ルイズ、ありがとうございます!手紙のことを話した時には、まさかこのような事になるだなんて、思ってもみませんでしたが……』
 満面の笑みで深々と頭を下げるアンリエッタに恐縮しつつも、ルイズもまた、うれしさで溢れていた。
 朝には戻らねばならないというウェールズとアンリエッタのため、二人をそっとしておこうと、それ以外の面々は御寝所から離れた。

 教師連中はあまりの事態に、騒ぎを起こしたことについて叱るのも忘れて惚けていたので、これ幸いと素早く離れて、今に至る。
「ルイズ!」
 つい今日の昼間――いや、もう昨日か。聞いた声が自分を呼び止めた。
「ワルド!」
「ああ、僕のルイズ!生きていたんだね!?」
 近づいてきてぎゅっと抱きしめてくる婚約者。
「わわわわわワルド!?いいいい生きてるって何が!?」
 半ば恐慌状態に陥り、わたわたと両手を動かしながら尋ねる。
「先程、夜の見回りをしていたら、君と君の使い魔が、悪魔に食べられてしまったように見えたんだ!だが、ああ!生きていてくれて良かった!」
 きっと彼の企み的な意味で。
「あ、あの、ワルド、その悪魔って、多分私の使い魔のゴーレムだと思うんだけど……」
 腕の中、申し訳なさそうにルイズは言う。
「……ゴーレム?あれが?」
 腕を緩めて顔を見合わせながら尋ねる。
 今日何度目のフレーズだろうか。確か起きた後説明している途中アンリエッタも言っていたが。
「ええ、アストラナガンって言って、人が中に入れるのよ」
「そう、なのか……いや、空を飛ぶゴーレムなんて見たことがなかったのでね、取り乱してしまったよ」
 はははと恥ずかしげに後ろ頭を掻くワルドに、私も最初は吃驚したわ、とルイズも笑いかけた。
「……ところで、ルイズ、アンリエッタ様から重要な任務を受けたようだね」
「ええ、そうよ!だから、私とクォヴレーであのアストラナガンでひとっ飛びして、すぐに任務達成してきたんだから!」
 自慢げに胸を張るルイズ。だが、ワルドは話の展開について行けない。
「……何だって?」
「それだけじゃないのよ!ウェールズ様も、一時だけ時間を下さって、今はアンリエッタ様と二人きりでいらっしゃるわ」
 うっとりしたように目を瞑るルイズ。
「は、ハハハ……ルイズ、それではまるで、この学院に今、ウェールズ皇太子が来ているようじゃないか」
 渇いた笑いをあげながら、引きつった顔でワルドが言う。
「だから、来てるのよ!……ウェールズ様は亡命なさらない。でも!二度とお二人が会えないなんて、悲しすぎるでしょう?」
 少し切なそうな顔をするルイズ。
「る、ルイズ……婚約者をからかうのは良くないな。アルビオンのウェールズ皇太子が、こんな、何千リーグも離れた場所に来れる訳が無いじゃないか」
「あら、ウソじゃないわ。明日、枢機卿に聞いてみれば判るわよ」
 にっこり微笑むルイズ。婚約者の顔が引きつっているのに気づきもしない。
「でも、流石にあっちこっち飛び回りすぎて、もう疲れちゃったわ。ワルド子爵、明日御出立の際に、またお会いしましょう」
 優雅に一礼して、ルイズは寮の中に入っていった。
「まっ……」
 混乱したワルドを一人残して。

 朝焼けに染まりつつある空。
「使い魔さん、いえ、クォヴレー・ゴードン。今日のこと、感謝をしてもし足りません」
 学院の一角、たたずむディス・アストラナガンの前。ウェールズを送る直前、アンリエッタがクォヴレーに深く頭を下げた。
「ひゅーっ、相棒はすげぇなあ。王族にここまで感謝されるだなんて」
 デルフリンガーが感心したように呟く。
「此度のことで、ルイズには、シュヴァリエの称号を授与しようと思うのですが、残念ながら、貴族でないあなたは、賜ることが出来ません」
「そうですか」
 特に気落ちした風でもなく、頷く。元より、世俗の地位に興味も執着もない、次元の旅人だ。
「ですが、もし何か、お困りのことがございましたら、遠慮無く申し入れて下さい。このトリステインの王女、アンリエッタが、助力は惜しみません」

「ありがとうございます」
 クォヴレーがにっこり微笑み返した。
「ウェールズ様……」
 そこで、二人の男女が見つめ合い、やがて抱擁を交わした。
 後ろで控えているマザリーニ枢機卿は、輿入り前の姫が何を……といい顔をしなかったが、止めるような無粋な真似はしなかった。
「アンリエッタ……私は最後まで、王族としての勤めを果たす。だから君も……」
「はい……この体……血の一滴までをトリステインのため、捧げます。ですが、私の心だけは、あなたに……」
 小さく呟きあって、そっと再びその体は離れた。
「ミスタ・ゴードン、私の戦場へ、頼む」
 ウェールズを乗せ、ディス・アストラナガンが大空へと飛び立った。
「……初めてみた時はとても恐ろしい悪魔かと思いましたけど、あれは、天使だったのですね……」
 緑色のフレアを引きつつ、西の空へ消えていく悪魔王を、切ないながら何かを決意した目で追いつつ、アンリエッタは呟いた。
 ……なお、気持ちよさそうに寝ていたからと気を使われたためにウェールズへの別れの挨拶が出来なかったルイズから、クォヴレーは後ほどしこたま怒られることとなる。

 ニューカッスル城。
 突然大使殿と共に飛んで行ってしまった皇太子に、不安で一杯だった城が、朝焼けを供とする皇太子の帰還に一気に活気を戻しつつあった。
「ありがとう、ミスタ・ゴードン。君の主にも私が礼を言っていたと、伝えてくれ。決戦を目前とした、夢のような一夜だった。そう、まさに夢のような……」
 ウェールズもまた、深々と頭を下げ、そしてクォヴレーが背にする朝焼けのまぶしさに目を細めた。
「では、夢から覚めるに当たって、俺から一つ贈り物があります」
 いたずらっぽく笑いながら、クォヴレーが言った。
「敵陣を偵察してみて下さい。俺からの贈り物です」
「贈り物……?」
「それでは……」
 一礼して、ディス・アストラナガンに戻り、クォヴレーは日の昇る方向へ飛んでいく。
「……動くか……?」
「あん?相棒、何か言ったか?」
「今回俺はかなり派手に動いた。もし、俺の『敵』がこの大陸、砂漠よりも西の地にいるのなら何らかのリアクションがあるはずだ」
 いや、あって貰わなくては困る。
「ははぁ……おでれーた。相棒は大人しく娘ッ子の命令に従ってるだけだと思ってたが……まさかそこまで考えてたたぁな」
「焦って尻尾を出してくれればいいんだがな」
 すっと目を鋭くしながら、クォヴレーは呟いた。



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