あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無と金の卵-06


 ミス・ロングビルの顔――学長のセクハラに耐える美人秘書。
 一般的に見て美人で清楚。学園という閉鎖的な空間においては、まさに男性教師陣の薔薇と言えた。
 もう一つの顔――王立銀行の金庫/貴族屋敷の宝物庫/大商人の蔵/種類を問わず神出鬼没、
 トリステイン中の金持ちを震え上がらせる謎の怪盗『土くれのフーケ』。
 魔法学院本塔に垂直に立つ女性の姿を、二つの月の光が浮かび上がらせる。

「ふう……ここまで堅牢とはねぇ」

 土系統のエキスパートであるフーケは、その自身の魔法を駆使して宝物庫にあたる場所の壁に垂直に立ち、
 そして足の裏から伝わる感触で壁の厚さを図っていた。
 舌打ちし、忌々しげに足元の宝物庫の壁を見つめる。

「あのコッパゲから話を引き出したは良いものの……いくら物理的な力に弱いったってね……。
 こんな堅い壁、ちょっとやそっとじゃ手出しできないじゃないか」

 フーケの狙い、それはこの宝物庫の中にある『破壊の杖』。
 詳細は知らずとも、フーケ好みのマジックアイテムであった。
 そして、謎の多い骨董品である。例え見掛け倒しの道具だったとしても、好事家には高く売れる一品には違いない。
 フーケはオスマンの秘書に身をやつしてセクハラに耐えつつ、この宝物庫を開ける機会を虎視眈々と狙っていた。

「『固定化』以外の魔法はかかってないみたいだけど……これじゃあ私のゴーレムじゃ壊せそうにないわね」

 フーケは悩む――か細い突破口を求めて。




 ウフコックの顔――元軍属の実験動物であり、マルドゥック市における09法案の執行者。
 ウフコックの顔――変身能力と読心能力を持つ、ルイズの使い魔。
 そしてもう一つ――学園に溢れる使い魔と、アルヴィース食堂の間を取り持つ、頼れる交渉人。


”ちびちび、頼んだのね! ベアなのね! 食糧事情改善なのね!”
”……あー、シルフィードの要求は流していいから。頼んだぜ”
”ヴェルダンデはミミズ食ってきたから要らないってよ。自分が言えっての。あいつ主人が負けてスネてるんだぜ”
「うーむ……要らぬ軋轢を生んでしまったな」
”なぁに、気にすんなよ。主人だってピンピンしてんだ。あいつもすぐ元気出すさ”

 トリステイン魔法学院の使い魔の朝は早い。
 朝もやすら出ていない夜明け前。
 大勢の使い魔の賑やかな応援を受け、ウフコックは学院の中庭からアルヴィーズ食堂の厨房へ繋がる裏口を開いた。
 きぃ、と木の扉特有の音が鳴る。
 使い魔たち以上に、厨房で働く人間の朝は早い。料理人や使用人達は既に朝食の準備で慌しく働いていた。
 ウフコックは鼠らしからぬ鈍重な動きで扉の側の木机をよじ登って息を整える。
 そして、遠慮がちに呼び鈴を鳴らした。

「ん? ……おお! 我らの<交渉人>が来たぞ!」

 呼び鈴に気付いたマルトーが大声を張り上げた。

「忙しいところ邪魔してすまない」
「なに、お前さんがいると助かるぜ。エサが残されなくなってきたし、腹減らして暴れる使い魔もずいぶん減ったもんだ。
 ……して、今日の注文は?」
「20匹ほどは、自前で飯は済ませているから要らないとのことだ。
 シルフィードとフレイムは肉を多めにしてあげてほしいと言っていた。あとはだな……」

 厨房で働く者がネズミを好意的に扱うなど、まず有り得ない。
 ウフコックも召喚された当初は同様――使い魔といえど、厨房を荒らす泥棒が敷居を跨ぐことはできない。
 一度など、箒を持ったメイドに追い回されたこともあった。
 だがウフコックは、調理前の材料を齧り回るような野生動物とは一線を画す。
 下手な平民や貴族よりも余程理性的であり、そして他の使い魔――どちらかといえば野生動物に近い部類とも会話することが出来る。
 そして何より重要な点――この学院のメイドを庇い貴族と戦った鼠。
 マルトーも一目置かざるをえず、今や対等の口を聞くまでになっている。
 また助けられたメイドのシエスタも、ウフコックの正義感に痛く感激し、食堂のアルヴィーが並んでる一角にウフコック用の席と木皿、
 昼寝用のベッドさえ作ってしまうほど可愛がっていた。ただ、目立つことこの上ないのでアルヴィーの横は勘弁してほしい、とウフコック自身頼み込み、ウフコック専用席はしぶしぶ厨房の一角に移されている。
 厨房で準備を働いていた当のシエスタも、ウフコックに気付いてそそくさとやってきた。

「ウフコックさん、今日は何になさいます?」
「いや、そう気を遣わなくても良いんだ。十分に餌は貰っているし」
「……そうですか。でも何か要りようでしたら、いつでも言ってくださいね!」
「おお、我らが交渉人は何と慎ましいんだろう!
 シエスタ! こいつにアルビオンの古いのを出してやれ!」
「はい!」
「その……いや、ブルーチーズなんて特に駄目なんだが。頼む、普通ので良いんだ……」


 このように、ウフコックは学園の様々な人間/使い魔に重宝された。
 だが、その中には当然、良からぬ使用法を思いつく者も居る。
 ある虚無の曜日の昼下がり、ルイズが一人で勉強や訓練をしている間、邪魔しないぬようヴェストリ広場にでも出かけるか――。そうウフコックが考えて寮の廊下を歩いていたそのとき、フレイムが呼び止めた。

「おや、どうしたフレイム?」
”よう。ご主人がお前に相談があるそうなんだが、来てもらえるか?”
「確か、フレイムの主人はキュルケだったな」

 ウフコックは、ルイズがキュルケに対抗心を覚えていたのを漠然と思い出した。
 まあ、話を聞く程度ならばどうということもあるまい――ウフコックはフレイムの申し出に首肯する。

「まあ、俺は構わないが」
「きゅる(助かる。部屋はこちらだ。乗っていけ)」

 フレイムは自分の首に乗るよう、ウフコックを促す。
 ウフコックはルイズの部屋に書置きだけを残し、フレイムに乗ってキュルケの部屋を目指した。



「あら、いらっしゃい。よく来てくれたわ!
 ウフコックはフレイムに乗れるのね、二人とも様になってるわよ」

 金色のネズミがサラマンダーに騎乗する姿は、まるで動物を擬人化した絵本の如くである。

「……褒められてるのか?」
「きゅる(ま、ご主人はいつもこんな調子だぜ)」

 ともあれ、喜ぶキュルケに水を指すほどでも無い。そして落ち着いて招かれた部屋を見回す。
 部屋の主人のキュルケがベッドに座っているのはともかく、見慣れない女性のメイジが椅子に腰掛け、本を読んでいた。

「ああ、この子と話すのは初めて?」
「……タバサ。よろしく」

 タバサと名乗る青髪の小柄な少女は、読みかけの本を閉じて簡素な挨拶を述べた。

「初めまして。俺はウフコック。ルイズに召喚された使い魔だ。
 ここに招いてくれたのはキュルケだろうか? 君だろうか?」

 キュルケとは大分異なる性格のようだ。
 良く言えば楽天家で前向き、悪く言えば享楽的なキュルケに比べ、禁欲的で純粋、そして悩みがちな空気が漂う。
 まるで正反対な二人、だが二人のお互いを信頼する匂い――まさにパートナーとでも言うべき関係――をウフコックは感じていた。
 また、それと別に感じ取った匂い――キュルケからは何かを企む匂い/タバサからは、つき合わされている匂い。

「呼んだのはキュルケ。私も招かれた」
「そういうわけよ。来てくれてありがとね」
「ふむ……?」
「ま、そんな大した話じゃないわ。……ねぇ、二人とも」

 キュルケは、手にした紙箱からカードの束を取り出した。
 しゃらり、と滑らかな手つきでシャッフルしつつ一人と一匹に尋ねる。

「カードゲームって、好き?」


 『サンク』――平民、貴族を問わず広く行われる、ごく一般的なカードゲーム。
 トリステインや近隣の国のカジノにおける華とされるゲームの一つ。
 4大属性、土水火風の4種のスーツ/スーツ毎に1から13までの番号が描かれたカードから5枚の手札を選び、
 その組合せで勝負を決するゲームである。
 キュルケがタバサ、ウフコックを誘ったゲームこそ、サンクであった。

「……ルールはさておき、単純に貴方の体じゃ難しいかしら?」

 カード1枚の大きさ=ウフコックの体長とほぼ同じ程度。

「いや、カードをひっくり返す程度ならば問題は無い。それに、表面が下に隠れていても、手札くらいなら覚えておける。
 しかし、クローズドポーカーのようなルールだな……」
「ん? なあにそれ?」
「ああ、召喚される前、周囲の人間がよくやっていたゲームだ。
 似たようなカードを使ったゲームだから、ルールもすぐ理解できると思う」
「へぇ、それじゃあもしかしてウフコックは、東方から来たの?」
「東方? ……よくは知らないが、君達にとっては東方と言うのかもしれないな。
 ただ、ハルケギニアとの正確な地理関係もわからないから何処とも言い難い。
 恐らく、君らにはまったく知られていない地名だろうし」
「ふーん……? 随分遠いところから来たみたいなのね、貴方」

 好奇心に満ちたキュルケの甘い囁き。
 だが人間の男ならともかく、ウフコックは当たり前の如くネズミであり、惑わされることもない。

「そんなところかな」
「ま、いいわ。ゲームを始めましょう。今日はお金賭けるのは無しね。賭け金の代わりに玩具のコインで済ませるわ。良いかしら?」

 キュルケの言葉を皮切りにゲームが開始された。

 初回プレイ――ウフコックにルールを教えるための、チュートリアルを兼ねたゲーム。
 敢えて手札を晒して手役の強さなどを解説しつつ、なだらかにゲームは進む。
 ある程度の役を説明したところでチュートリアルは終了、本来のゲームの流れに突き進む。
 ――結果的にはタバサの圧勝。
 運勢に左右されてキュルケやウフコックが勝ちを拾うことはあったが、当然、巡る運勢だけでゲームを支配することはできない。
 序盤戦の終了後、ウフコックが漏らした一言/概ねルールは理解した。
 この手のゲームの初歩。ルールから導き出される確率を把握すること。
 元々ウフコックは数字に明るい。
 十分な知性を持って誕生した生体兵器であり、ウフコック自身が反転変身する道具には電算機器や記録媒体も含まれる。
 ウフコックの反撃。タバサとの差を徐々に埋め始める。
 タバサの余裕――そうこなくては面白くない。



「さて、ディーラーは交代ね。次はタバサ、よろしくね」

 タバサは小さく頷く。
 キュルケ以上に手馴れた手つきでシャッフル――ゲーム再開。
 一進一退。時折、狙ったかのごときタイミングでチップを上乗せし、無謀な手役で挑んでくるウフコック。
 タバサやキュルケの手札に同じ役があっても、カードのナンバーや属性などの僅差で大きな勝ちを拾う。
 ――中盤戦も終わりに差し掛かった頃の、ウフコックの一言/概ねパターンが理解できた。

「なら、ここからが本番」

 珍しくタバサが重い口を開く――お手並み拝見という余裕の姿勢を見せつつも、ウフコックがやり手であることを感じている。
 サンクとは資金に応じた戦略を立て、緻密な戦略を立てる知略戦である。
 だが単純な1ゲームだけに限れば、駆け引き、即ち心理戦の比重も小さくは無い。

「お手柔らかに頼む」

 ただ、カードの擦れる音が響く。
 キュルケ達の間に、普段の軽妙な掛け合いは無い――レイズ、フォールド、そして手札の役名だけを淡々と呟く。
 中盤戦に入ってからのなだらかな変化。初回から終始、堅実なゲーム運びを見せていたタバサの手が乱れる。
 いや、乱された、というべきであった。
 僅差でのレイズ、フォールド――タバサの一歩も二歩も先も想定したウフコックの戦術。
 タバサは気付く――ゲームを覚えたてのネズミに、赤子の如くあしらわれている。
 タバサの知る良しも無いウフコックの嗅覚、それは心理戦を行う上で絶大な優位をもたらす。
 完璧なイカサマでも無い限り、プレイヤーの心理を読み切った時点でウフコックの勝利は揺るがない。
 タバサの表情こそ平静そのもの。だが混乱と、徐々に高まる戦意の匂いを隠せていない。
 対してウフコック自身は何にも惑わされない。混乱に乗じて貪欲に機械的に、キュルケとタバサのコインを貪る。


「……まるで、読み切られている」

 ぽつり、とタバサが呟く。
 堪えるタイミング、賭けに出るタイミング、全てがタバサの手の裏目を付くウフコックの判断。
 タバサにしては珍しく、声色に苦々しい感情が灯っていた。

「タバサに苦い顔させるなんて流石ねー。見込んだ通りだわ」

 ちなみに、キュルケはほぼ勝負から降りている。
 ゲームの勝ち負け以前に、ウフコックとタバサを巻き込んだ時点で既に満足していたようだ。

「何故わかるの?」
「……さて。まあ人間観察、といったところだろうか。俺は人間と比べれば感覚が鋭い。
 例え表情に出さなくとも、誰であれ視線、指先、チップを出すタイミングや並べ方、ふとした些細な瞬間に感情が外に現れる。
 例えばタバサ、君ならば、特定のカードが揃った瞬間――『風』のカードが集まるとき、ほんの少しだけ『安心』を感じている」
「そう……。それじゃあ、私がまだまだ甘い、ということ……」
「上には上が居るものねー。でも十二分にタバサは勝負強いのよ? ウフコックが強すぎるのよ」
「……うーむ、鼠に生まれた俺自身の感覚が強さの理由だろう。だから、あまり自慢にできないんだ」
「……次は勝つ」

 珍しく素の感情を表すタバサ。キュルケは頑張れ、と応援するかのようにタバサの頭を撫でる。

「まあ、ウフコックも、生まれ持った才能ならそれを活かすべきよ。タバサも次の機会に挑んで見なさいな。
 ……さて、みんなゲームで親交を深めたことだし、次が本番ね」

 にやり、とキュルケが微笑む。利益を嗅ぎつける人間の匂い――ウフコックは懐かしさすら感じた。

「ああ……その、もしかしてキュルケ……」
「私ね、良いカジノを知ってるのよ」
「他人の使い魔連れ込んで何教えてるのよっ!」

 大声と共に、どかんと大きな音を立て、キュルケの部屋の扉が開いた。


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