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虚無と狂信者-22



ジュリオは昨晩の屋敷の庭に竜を降り立たせた。
キュルケはヒラリと飛び降り、屋敷に向かう。
ジュリオはやれやれと首を振り、後を追おうとする。
「ここで待ってて。すぐに退避できるように準備していて」
キュルケは一人で行くことに逡巡しないでもなかったが、竜に乗っていない竜騎士を
連れていくよりは一人の方が効率的と考え、代わりに退路を確保することを優先させた。
「わかった。気をつけるんだよ」
ジュリオもそれに反論することなく、彼女を見送った。

キュルケは慎重に屋敷を探索する。
そこでふと違和感に気づく。
「埃が積もっているわね」
生活感がまるでみられない。ならばあの男はこの屋敷の住人という訳ではなさそうだ。
聞き込みをしておけば、この屋敷を使っていた人間はとうにいないことを知っただろう。

壁を背にし、少しずつ少しずつ進んでいく。これは敵の奇襲に対し、最も危険な背面への
攻撃に対処する為だ。扉があれば、顔を出して一部屋一部屋確認する。念をいれ、
既にファイアーボールの途中までは詠唱している。ラ・ロジェールにて吸血鬼相手に後れを
とったことで、彼女はこうした工夫を自分で考えるようになった。
ふと、キュルケはある部屋の壁に不自然な線を見つけた。
みると、ここだけ埃が少ない。足跡も多い。
それを軽く叩いてみる。

空洞がある。

慎重に、その扉を開ける。
階段の下には倒れている人影が見える。
それは昨晩見た娘だった。
「ねえ! ちょっとあなた」



一方アーカード。
キュルケとは別のルートから地下を発見したアーカード。
といっても体を蝙蝠に変化させ、排気孔から入ったのだが。
彼はその部屋を見て心底愉快そうに、笑った。

様々な機械類と、ハルケギニアの文字では無い方陣。
それは、アーカードの良く知るものだ。アンデルセンがここに居たなら怒り狂っただろう。
「なあ? そこの! 中々面白いことをしているじゃないか」 


キュルケが倒れた娘に近づく。
「あ、あの。助けて」
娘がその顔を上げ、キュルケを見やる。
「何があったの?」
「と、突然、誰かに襲われて」
「ふーん」
キュルケは階段を、一段だけあがった。

「何でここに来たの?」
「そ、それは、ここの主人に」
キュルケはまた一段上がる。
「人の住んでいる気配は無いわ。それに、こんな不穏な時期にここまで来るほど惚れてる彼は?」
また一段あがり、ルーンを完成させる。
「ねえ、あなたは、あなた達は一体何をしていたの?」
娘がしばらく俯いていた後、不意にその顔をキュルケに向けた。彼女はその顔を見て驚愕する。

真赤な瞳、鋭い牙、滲み出る殺意と獣性。
その人では無い貌。それはもはや人では無い。
「何!?」
キュルケが身構えるのと、吸血鬼の身が躍るのは、同時だった。



アーカードは自分に対峙する男に笑い掛ける。男はアーカードに聞く。
「これが何かわかるのか?」
「わかるとも。懐かしい感じだ」
アーカードの言葉に男は怪訝な顔をする。
「懐かしい? まさか貴様も?」
「貴様らと一緒にするな……。しかしこんな方法とはな。
博士の作ったのはこれか? 全く愚かなものだ……。
人間であることがそんなに苦痛か? そんなに耐えがたいか?」
ハルケギニアでは考えにくい医療器械。旋術のための方陣。それは彼に因縁深いもの。
「永遠の命がそんなに欲しいか? 力がそんなに欲しいか?」
アーカードは侮蔑の、憤りとも言っていい、表情を浮かべ、続けた。

「吸血鬼にそんなになりたいか?」
それは吸血鬼を生み出す部屋だった。

「ああ、成りたいだろうとも! 成りたいさ! 貴様にはわかるまい。
老いることの恐怖が、死ぬことのおぞましさが、力の無いことへの怒りが」
その吸血鬼は銃をアーカードに向ける。ニヤリと笑い赤ずくめの男が銃を向けた。その時。
暗闇から躍り出た影が二つ。一つはアーカードを押さえこみ、一つはその喉元に食らいついた。
「だから彼達は力を得ることを望んだ、それだけだ」

バラバラになったアーカードを見下ろし、吸血鬼は口上を続ける。
「平民は貴族に、メイジにいつも搾取されている。この村もね、かつてはよくメイジ崩れの盗賊に襲われたものだ。
ヴァリエール公爵の所領でさえこうだ。ハルケギニアの全土でどれほどの人間が苦痛に耐えていると思う?」
二人の女性は男にすり寄る。
「吸血鬼は増える。もっと、もっとだ。そしてこれより、世界は変わる」
男は傍らの吸血鬼の首筋を優しく撫で上げた。


「愚かな連中だ……」



地獄の底から這い出るような、その声。バラバラの肉片となったそれは、
まるで時が巻き戻るように、その形を取り戻す。
「貴様らでは何も変わらん、たかが化け物に人の世の常が変えられるものか……。
化け物は打ち倒される。他でもない人間にだ。
そうでなくてはならんのだ……」

「こ、殺せ!!」
しかし吸血鬼達は、その不死身という言葉を超えた不死性に逡巡するばかりだ。
ばらばらになってなお死なぬそれが、一体どうやって死ぬというのか。
「ほらな。貴様らなどどれだけ増えた所で、あの男が、あの餓鬼にすら、打ち倒せぬものになどなれるものか。
奴らは人を惹きつけ、貴様らより強力な軍となる。なぜなら奴らは人間だからだ」
そう、あの、己の全ての命を捧げた陣を打ち破った彼なら、彼の仲間なら、あの人間達なら。

女吸血鬼の首筋に、その牙を突き立て、吸う。抵抗することすらできず、
アーカードが手を鬱陶しげに払い、それが、千切れた。
「足掻くこともせず」
残った2体は彼に背中を向ける。男の方に向かい、その身を躍らせる。
「逃げるだけか」
その足を、踏みつける。
おぞましい音と共に、それがあらぬ方へ曲がる。
引きつった声をあげ、至近距離でその額を撃つも、アーカードは動じない。
何もなかったのと同じだ。
先程までの威勢が消え、脅えるだけのそれに侮蔑の眼差しで告げる。
「さあ、洗いざらい話してもらうぞ。貴様の血に」
「ち、血に?」
「そんなこともできんか……。もはや吸血鬼ですらない。貴様はただの出来損ないだ」
首筋からその血を貪り喰う。くぐもった声を上げるも、それに構うこと無くアーカードは吸い続けた。
この時ばかりは、凶悪な笑みが溢れてしまう。
くぐもった声と、彼が喉を鳴らす音が響き続ける。
記憶が、なだれ込んでくる。



(アルビオン……。こいつがクロムウェルか……。傍らにいるのは女と……。シュレディンガー……!)
知っていることはそれだけだ。こうやって吸血鬼を増やし、奴らは何をするつもりか。
想像はつく、同じことをここでもやる気なのだ。戦争狂どもは。
(トバルカインの血を吸っておけばよかったな……。勿体無い)
今さら言ってもしょうがない。もう一人を追おうとした時、

屋敷に銃声が響いた。



キュルケがファイアーボールを放つ。しかし、吸血鬼は俊敏に天井にはりつきそれをかわし、
彼女に躍りかかる。そして、キュルケは吹き飛ばされ、向こう側の壁にまで叩きつけられた。
さらに首を締め上げられる。吸血鬼の腕力なら、彼女の首などたやすくへし折られるだろう。
「ねえ? メイジさま。どう? 何もできないでしょう? 平民相手に」
その問にも答えることはできない。息ができず、苦しく呻く。手を絞められ杖を落とした。
「私の婚約者はね。国境線の小競り合いで、メイジの炎に焼かれたわ。うふふ、
まああなたの知ったことじゃ無いだろうけど!」
そう叫び、キュルケの腹を殴りつける。胃液が込み上げてくる。
その姿は、もはや蹂躙されるだけのか弱い生娘と何ら変わらない。
普段の彼女の優雅で不遜な姿とはかけ離れて、無様だった。
キュルケの顔が苦痛に歪むほど、吸血鬼の笑みが凶悪になる。
厳然と現れる、明白な恐怖に体が動かない。
吸血鬼は勝ち誇ったように声をかける。
「うふふ。足掻かないで、諦めてくださいね。」

吸血鬼が言った一つの言葉によって、絶望に打ち震えた心に突然、何かが溢れだしてくる。
(諦める……?)
その言葉が酸素を止められた頭脳に魔法のように木霊する
そして首筋に歯が付き立てられようとした時。

銃声が響く



その言葉を聞いた瞬間、酸欠の頭を支配していた諦めと恐怖、死の実感が全て消え、
次に溢れだしたのは生への執着と、埃を蹂躙しようとした相手に対する敵意だった。
その感情は、彼女の体から茹った闘争心と陽炎のような魔力を纏わせる。

有体に言えば、キレた。

「きゃああああああああ」
吸血鬼が苦痛にのたうち回る。キュルケのポケットに入っていたリボルバーだ。
彼女は絞められた首筋よりも殴られた腹よりも銃の反動により肩に痛みを覚えた。
「ゴホッ!! いったああああ! こんなのよくあの人達簡単に使うわね!」
そう毒つくも、キュルケは杖を拾い上げ、間断なく呪文を唱える。
吸血鬼も立ち上がり、猫のように身を縮める。
(点ではとらえきれない。だったら!)
高速の物体を捉えるには、面で捉えるしかない。
ファイアー・ウォール
ルーンと共に地面から火が噴き出し、炎の、まさしく壁となる。
エア・ハンマー
そして風によりそれを推進させ、逃げ場無く吸血鬼は火を浴びた。
しかし、怪物を焼き殺すには少し足りない。
「往生際が悪い!」
火を払った吸血鬼の視界からは、キュルケの姿が消えていた。

(往生際が悪いですって? あっさりと人間であることを諦めた化け物らしいわ!)
負けるわけにはいかない。
あの、人間を何よりも信仰する彼の主たる、
人間たる自分が、
人間でいられなくなった化け物に負ける訳にはいかない。
絶対にいかない。



「逃げた? 逃げられないですよ? それに火は吸血鬼の弱点ですが、その程度の火力では。
そして本当に逃げられるとお思いですか? 吸血鬼から!」

二択ある。一つは戦う。一つは逃げる。
キュルケは前者を選んだ。ここで彼女を逃がす訳にはいかないから。
ノブレス・オブリージュを体現しようとしているのではない。
彼女を解き放てば誰かが死ぬ。それもある。
それよりも。

「ここまでコケにされて……黙ってられるもんですか!」


キュルケは吸血鬼に悟られぬようルーンを唱える。
自身の全力を込めたあの魔法なら、あるいは吸血鬼を倒せる。
しかし、それを当てるのはあの部屋では無い。キュルケは必死に逃げ、その場所を探した。
「何でわざわざ暗いところに逃げるんですか?そんなに食べられたいんですか?」
キュルケが逃げ込んだのは地上では無く地下。彼女を殺しうる場所があるとすればここだった。
そして見つけた、廊下。
「うふふ、どこへ行くんですか?」
吸血鬼が廊下を降りて来た時。
火球
それが天井にあたり、落石により退路を塞ぐ。
「逃げませんよ? 逃げてるのはあなたでしょう? 全く諦めの悪い。」

正しく怪物といえる化け物に、キュルケは杖を持ち、髪をかき上げ、
先程の様が嘘のような誇り高い姿で言いきった。
「ええ、諦め悪いのよ。私は貴族で……。
人間だから」



「ウル・カーノ……」
そしてルーンを唱える、“火”が一つ重なる。
「あはははは、まあ喰らってあげてもいいですけど。そんなにのんびりもしていられません」
そして走り込む、二つ目の“火”が重なる。
リボルバーを痛んでいない腕でしっかりと握り、いたんだ手で杖を握り、発砲。
といっても反動により全くといって良いほど当たらない。
「無駄。諦めなさい!」
そう叫び飛びかかった時、吸血鬼の視界が何かに覆われる。
それが絡まり、身動きが止まる。
「これ?」
それはメイジの誇りの象徴であるマントだった。
躊躇せぬでもないがこのまま喰われるよりは、彼女を逃がすよりは遥かに良い。
「あげるわ」

そして何より、マントよりも彼女の誇りを傷つけたそれを殺すことの方が重要だった。

バックステップで距離をとり、呪文を完成させる。
火の玉が杖の先に出来る。
「はは、そんな――」
その杖の先がさらに大きくなる。
火の2乗フレイムボール。
それにさらにもう一つ火を重ねる。

火の三乗。
「ブレイズボール!!」

その火の玉はさらに巨大になり、彼女らのいる廊下の大きさにまでなった。
吸血鬼から見ると、視線の先が全て炎に覆われたようにしか見えない。

避けられるなら、避けられないほど大きく、激しく。



そして、放たれる。
「いやあああああああ!!!」
吸血鬼の叫びが聞こえる。退こうとするも、退路は塞がれ、逃げられない。
業火の玉は尚も燻る。不浄なものを焼き払うように。
灼熱の玉が消滅せぬよう、キュルケは精神力を継ぎ込み続ける。

吸血鬼の絶叫が炎の轟音に途絶えるまで、
業火は太陽のように燃え続けた。

そしてそれが消えた時、全身が爛れたそれのみが残る。
精神力の切れたキュルケはふらつきながら、それでもよろよろと歩み寄る。
口では何か呟いている。口上だろうか。彼女にしか聞こえないほどか細い声だ。
それは、まだ蠢いていた。キュルケは彼女に告げる。
「マントはあげるわ。彼氏と同じ所へ行けるといいわね」
吸血鬼は首を振るも、生憎彼女も立ちくらんでみえない。
しかし、それでも銃口をそれにむけ、眉間に銀の弾丸を撃ち込んだ。

勝利した。しかし、

(あ、マズ……)
キュルケは仰向けに倒れ、頭から地面に落ちそうになる。

何者かがそっと、彼女を支えた。



揺られる馬車の上で、キュルケは目を覚ました。毛布が掛けられている。
「……アーカード?」
「何だ?」
自身の使い魔が説明する。
あの後自分は精神力が尽き、倒れたこと。
村人達は攫われたのでも殺されたのでも無く自分から吸血鬼になったこと。
消えた人間達は、吸血鬼になったとも言えないのであの男が殺したという風に村長に伝えたこと。
「……そう」
キュルケは体操座りをし、膝に顔を埋める。

「あなたはあんなのあっさり狩れるのに、私は……マントを失くして……、
銃を使って……精神力を使い果たして、やっと一人……。ねえ? 私は……」
涙で潤んだ瞳でアーカードに聞く。

しかしその問は、膝を付く彼の姿によって憚れる。
「マイマスター……。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
貴方こそが私の主だ。契約した時から、いつだって、この世界で最も相応しい私の主だ」

優雅で、奔放で、不遜で、気高い、決して諦めない、人間。

「……そう」
その言葉の後、キュルケはしばらく考えた後、いつもの彼女の笑みをとる。
アーカードはこれまでに無いほど優しい笑みをキュルケに向けた。

「それはそうと、あの子達、自分から吸血鬼になったのね」
「ああ。人を誰にも知られないように消すのは困難だが、誰にも知られないように
消えることは遥かに簡単だ。盲点だったな」
「あのレコンキスタって連中ね……」
まだ見ぬ敵の姿を想像する。もはや対岸の火事では済まない。



ふとキュルケが気付く。
「えーと、五人? だったわよね? あの男と娘も含めて七人。
私が一人、貴方がさっきの話だと……2人? あとの四人は?」
キュルケがアーカードに訊ねる。
「ああ、それなら大丈夫だ」
アーカードの言葉にキュルケは怪訝な顔をしたが、すぐに眠気が勝り、アーカードの肩にもたれた。
眠りに掻き消される意識の中で、(ああそういえばジュリオはどうしたのかしら)と思ったが、
もはやどうでもいいことだ。

アーカードは彼女に毛布をきちんと掛け、そのまま動かないでいた。





静かなる森の中、神官風の青年は木にもたれながら、ポケットから何かを取り出し、話かける。
「アローアロー教皇猊下。ええ、やはりトリステインの虚無の担い手はヴァリエール家の
三女で間違いないかと。はい。使い魔は……おそらく異世界の……厄介なことです。
ふん!」
鬱陶しげにその剣を払う。
「おっと失礼。ガリアの担い手はジョゼフ王で間違いなさそうですから……。
あとはアルビオンですね……。これは皆目見当もつきません。
ですがおそらくモード大公の……すいません、ちょっとお待ちを。
先客の女の子が、えー、えー、ははしょうがない子達で、ほんの少しです……」
そう言ってそれをポケットにいれ、歩き出す。顔には変わらぬ笑いを張りつけて。

そこに残されたのは、首を落とされた三つの死体だった。



女性はあり得ない速度で森を駆け抜ける。何かに怯えるように。
その眼の前に森の木々をへし折って何かが降り立つ、それは巨大な、竜。
不味いと女性が方向を変えた。
視界に何かが映る。
吸血鬼が凄まじい速度で飛び掛る
その月目はニコリと細くなり、次いで衝撃が吸血鬼の胸を貫く、銀の剣。
それが深深と刺さり、木の一本に磔になる。
さらにジュリオは洗練された回し蹴りで深く柄を押し込み、それを釘づけた。
じたばたと暴れる吸血鬼を置き、彼はポケットから再度人形を取り出し、話す。
吸血鬼相手とはいえ、これだけのことをしておいて、とても明るい口調である。
表情は先ほどと全く変わらない。あいかわらずキュルケを誘った時のようだ。
「それで、ええこれからアルビオンに……。トリステインに留まる? 
成程もうすぐ奴らが攻め入ると、わかりました。
ではこれから、そうですね……トリスタニアにでも……。ええ、良い店が。
はは、大丈夫。これでも相手を決めたら一途で。そう、ところでその人の使い魔なのですが……。
正統なる吸血鬼です。おそらくツェルプストー家の……。ええ、おって。まあ、担い手と
同じ学院ですから。……おそらく戦闘能力では何人集めても。僕? 遠慮します。
それでは。はっ、始祖ブリミルの加護を」
人形をポケットにねじ込み、吸血鬼に向き直る。
「お願い。助けて……。」
「ううん、美人のいうことはなるべく聞きたいんだが」
彼は腕組をする。やはり表情は能面のような笑顔のまま。
「人間限定でね」
絶望する吸血鬼を置いて、ジュリオは懐から何かを取り出す。白木の杭。吸血鬼を殺す最たる手段。
「やっぱりコレじゃないと、ね」
吸血鬼が首を振るも、ジュリオは笑顔のまま無視し、心臓に向けそれをさした。
断末魔の叫びが聞こえる。そして高々と拳を掲げる。



木がひときわ揺れ、吸血鬼の体が内包するエネルギーに耐えられぬよう破裂する。
ジュリオは頬に掛った血をそのままに、笑った。
その笑いはキュルケに向けた微笑みではない。
先程までの作り笑いでも無い。
そう、耐えきれないと言うような。彼が普段見せぬ本当の笑いを。
嗜虐と、狂喜を含んだ笑い声がしばし森に響く。
「フフフフフ! 全く! 面白いことになってきたなあ! ハハハハ! アーッハッハッハ!!」
しかし、それはほんの一時だった。彼はまたいつもの、ただの笑顔に戻り、
吸血鬼の死体を焼くために、広場に向かった。
「吸血鬼を狩る吸血鬼か……。味方になるものではないし、敵になるものでもない……だといいけどね」


それでも、その足取りは踊るようで、その口調は唄うようだった。




「ちーす。王様。あんたんとこの姫様本当どうにかしてくれー」
「おお、准尉。はは、あれも年頃の娘だ。勘弁してやってくれ」
「あんたもいい年してまた一人遊び? まあ、似たもの親子か……。
なんかねえ、吸血鬼を生み出させてた奴の一人、連絡が途絶えたよ。
多分アーカードがやったってさ。」
「ふむふむ。まあ、些細なことだ。どうせどうなろうとレコンキスタの問題だからな」
ぞんざいな口調に不審に思う。
「……ねえ、王様。僕らが言うのも何だけどあんた何がしたいの?
吸血鬼バラ捲いて、しかもそれを裏で糸引いてるとはいえ他人にやってさ」
その疑問に、ジョゼフはさも当然という風に返す。
「なあに、これでかの国の政府は吸血鬼に対抗する術を必死になって身につけようとするだろう?
そっちの方が楽しいじゃないか」

ゲームを楽しくするために難易度を上げる。ただそれだけのためにどれほど人を殺すのか。



准尉はそんな疑問が頭をよぎるも、自分達の言えたことかと苦笑する。
「まあ、あの赤髪に刺客でも仕掛けて、レコンキスタに敵対するように仕向ける手間が省けたわ」
ジョゼフの口からあっさりともたらされたその言葉に准尉は柄にもなく驚いた。
「でもさあ、これでアーカードもレコンキスタに敵対してくるよ?
そうなったら次は王様だよ?」
アーカードはジョゼフの望む対局とは全く関係の無い所に居る。
ゲルマニアは彼の眼中にはないのだから。
「ほら、君が言っていただろう? ラスボスの次は隠しボスと」
いかな神出鬼没で常に人を食った態度である彼も、目の前の狂王にはいささか分が悪かった。
「なあに、元はあの桃髪とだけのつもりだったが、あんな面白い奴がいるのだ。
相手にしない法はあるまい。それにどうせやるならいっぺんにだ。」

全く以って度し難い戦争狂。ああ、これでこそ。
僕らが協力する甲斐がある。

「で? どうやって倒す気? あいつは血を吸って、吸うほどに強くなるんだよ?」
アーカードの能力についてはジョゼフに説明してある。
「我々の前にレコンキスタと戦うだろう?」
「まあ」
「いいか? 准尉。敵を殲滅させる銃器を扱い、圧倒的なまでの再生能力を持ち、
おまけにいくら殺したとて、彼は血を吸えば全ておじゃんだ」
それは分かりきっている。
ゆえに存在自体が不定である己を同化させることで、何とか打倒できたのだ。
「そして彼はたった一人でもなお恐ろしい男だ。そうだな」
そう、アンデルセンでもウォルターでも、彼は倒せなかった。



「そんな彼は、今、慎重さと、狡猾さを持っている。
それはそうだ。一度取り込んだ数百万の命も今は消えている。
いかな無敵の吸血鬼とて、あと少しで、あともう少しで殺しきれるかもしれん。
その彼に、大軍を以って攻め入り最後のひと押しを決めるか?
否!
彼はそれでも殺しきれん。そして彼が倒れた兵の血を吸えば全て台無しだ。
彼が力と憶病さを兼ね備える怪物である内は。
完全無欠じゃないか、そんな化け物は。
ただでさえ人間を越えた化け物に、人間の奸智と憶病さまで持たれては。
ではどうすればいい……」
ジョゼフはチェス盤を取り出し、並べられた駒を全て払った。そして一つの駒を中央に置く。
「彼には暴君となってもらう。元の、そう元のだ。
横柄で不遜で傲慢で最強で最悪の吸血鬼に、
暴君に、狂王に、不死身の王に。
そしてそうなった時……」

「彼は私によって撃ち滅ぼされるのだ……」
彼の傍らのチェス盤には、キングが、ただ一人で佇んでいた。





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