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ゼロ 青い雪と赤い雨-06



―――――――ギーシュの勝ちだ。



ヴェストリの広場の誰もがそう確信した。
剣を突き立てんとするギーシュは、アトリに対して完全に死角に入っており、
回避行動も恐らく間に合わないだろう事が予測された。
万が一間に合ったとしても軽傷では済まないだろう。
女生徒の中にはこれから起こりうる凄惨たる光景が脳裏に過ぎり、早々と顔を覆う者さえいた。
しかし、ギーシュのその蒼い瞳に映ったのは、振り向き様に蛇の様に笑う標的の姿だった。

読まれていたのか、という不安がギーシュの脳裏を過ぎるが、
前述の通りもはや回避行動は間に合わないであろう事、
そして自分は相手の頭上、つまり空中に居るため回避行動が取りづらく、
『攻撃は最大の防御』を証明する立場に回る方が結果的に安全である、と踏んだ。

結果から言うならば避ける素振りを全く見せないアトリに対し、ギーシュの攻撃は「予定通り」行われた。
ギーシュの全体重を乗せた剣の切っ先は、アトリが振り返ってしまった為
頸椎には至らなかったが、頭蓋に深々と突き刺さった。
誰もがアトリの死を予感した。
しかし、ギーシュの表情には人を殺めてしまった罪悪感や、強大な相手を倒した優越感は見当たらず、
その蒼い瞳は苛烈な光を湛えたままであった。

「“それ”は突き刺したというより、沈んでいったという方が正しかった」と後にギーシュは友人に語る。
なぜなら、剣が突き刺さった部位は、水面に小石を投じたかのように波紋が広がっていたのだ。
そして、ギーシュの手には手ごたえと言う物が全く感じられず、むしろその水面に引きずり込まれる様な感覚すらあった。
なによりもアトリの表情には、苦悶の色は存在しなかった、むしろ何も無かったかの様に笑い続けている。

ハルケギニアの住人である彼等は、強靭な生命力を持つ生命体にはある程度慣れているはずだった、が
その情景は恐怖心を煽るには充分だった。
彼等は箍が外れたように口々に叫んだ、「化け物だ」「幽霊だ」と。



恐怖に駆られた観衆の中には、気絶する者や、杖を取る者さえ居たが、
ギーシュが現状において、生命の危機に陥ってる訳でも無い為、
決闘に横槍を入れる事を、『死に値する不名誉』とする、トリステイン貴族の子弟達には手出し出来ようも無かった。



一方のアトリはその時、頭蓋に剣を残したまま、その身を震わせながらただ笑っていた。
攻撃その物はアトリにとって拙く、欠伸が出る程鈍い物だったが
その気概はアトリを満足させうるに充分だった。
そしてその狂喜を、一分も余す事も無く表情に映し出しアトリは言った。

「痛ぇな、殺す気かよ」

その言葉と共に赤藤色の瞳を、円形と見まごう程に見開きギーシュを見やる。
そしてその手を、ギーシュに向かってゆっくりと伸ばす。
ギーシュはそれを回避する為に、アトリの頭蓋より剣を引き抜こうとしたが、その必要は認められなかった。
剣は可視部分以外既に存在しなかった為である。
鋭利な刃で切断されたかの様な断面と共に、深々と刺さっていたはずの剣先は消え失せてしまっていたのだ。

引き抜こうと力んだ為にその勢いで体制を崩した物の、体を捻りアトリを蹴る事でその手を寸での所でかわし、距離を取る事に成功した。

脳天に剣を深々と突き刺しても死なない相手、死なない所かダメージを受けた気配すら無い。
脳、もしくは弱点が全く別の所にあるのか、又は物理攻撃が全く効かないのか。
前者であればまだ手のうち様があるが、後者であれば土のメイジであるギーシュに勝ちの目は無い。
決闘が始まって以降、初めて彼の蒼い瞳に、焦燥感が募り始めていた。

(とにかく、今は時間を稼がなくては・・・)

造花を振り先程突進させた“ワルキューレ”を反転させ、アトリに向かって突進させる。
それに対してアトリは不敵な笑みを浮かべ、両手を前に出す。

――――次の瞬間、轟音と共に光の塊がアトリから放たれた。
一瞬にしてギーシュの“ワルキューレ”は光に飲み込まれてしまった。
“ワルキューレ”を飲み込んだ光はそこで止まる事は無く、その背にあった宝物庫の壁にその身をぶつけ、轟音を再び学院内に響かせた。

もはや観衆は騒ぎ立てる事すら出来なかった。

その足で歩みを進めるアトリに対し、ギーシュに残された戦力は盾兵一騎のみ。
しかしそれすらも、苦し紛れに繰り出す拳をアトリにその手で軽く止められ、
やがてチョコレートの様に溶けて生まれ故郷に還っていく。


「もう終わりかよ」


掠れた独特の声とアクセントで、対戦者は問う。
それに対しギーシュは鋭く睨み返しはした物の、誰の目にも余力がある様には見えなかった。

犠牲となった“ワルキューレ”達は作戦を練る時間はおろか、
精神力をわずかにすら回復する時間をも与えてはくれなかった。
通常よりも大きく、重厚な“ワルキューレ”を無理に錬成した上に、更に青銅剣の錬成。
多くの観衆の予測は正しく、ギーシュにこれ以上錬成を行う精神力はもう殆ど残っては居なかった。

『敗北』の2文字が、動かし難い現実となってギーシュの背に圧し掛かる。

圧し掛かる精神的重圧を感じながらも、ギーシュの瞳はまだ闘志を失ってはいなかった。
普段のギーシュならば、ここで早々に敗北を認めていただろう。
いや、彼は本来の気質を考えれば、本来なら急所である部位に剣を突き立てる事すら無かっただろう。
だが、敗北を甘受する訳にいかない理由がギーシュにはあった。
理由はただ1つ、『モンモランシーを泣かせた』事。
“貴族”という目線から見れば他にも多々あるのだろうが、ギーシュにはそれだけで充分だった。

真っ直ぐにその瞳でアトリを見据える。
杖を強く握りしめ、僅かに残るありったけの精神を研ぎ澄ます。
そしてしなやかに造花を振り、花弁を散らせる。

幾度目かの“錬金”
勝利の女神が貴族的、あるいは騎士的ロマンチシズムそれのみで、勝利の帰結が決まる事を是とする精神的糖尿病患者であれば、
この苦境を打破する事が可能である、と思わせる様な素晴らしい物を彼は“錬金”せしめただろう。

しかし、現実という物はそう甘くは無かった。
勝利の女神とは、人が願うより遥かにしたたかで、現実主義者である。
地面より生まれ出でたのは2体のみ。
それも“ワルキューレ”と呼べる物では無い、青銅の“何か”だった。
地中から生まれ出でた“それ”は、アトリの方へ数歩踏み出すと崩れ去った。

―――主人であるギーシュと共に。



精神力を使い果したギーシュは、意識をその手から放したのだった。
体全体で倒れこむギーシュに対し、地面はしたたかな逆撃を加えようと待ち構えていた。
しかし、それは未然に終わる事となる。
地面に舌打をさせたのは、対戦者であるアトリであった。
アトリは瞬時にギーシュの元へ移動すると、その腕で受け止めたのだ。
そしてゆっくりとその場に寝かせる。

「ギーシュ!!!」

それとほぼ同時に悲鳴とも似た声と共に、事の発端となった少女、モンモンランシーがギーシュが気絶したのを見て駆け寄ってくる。
恐怖の対象であったはずのアトリが傍に立っているのだが、そんな事を気にする様子も無く、
何らかの魔法を唱えながら、ギーシュの容体を確認している。
気にする余裕がないというべきなのだろうか、アトリ等見えてはいないかの様であった。
アトリはそんな二人を見てため息とも取れると笑みをふっと浮かべると、彼等に背を向け、
独特の不思議な足音を響かせながら自らの主人の元へ向かうのだった。

その際、

「仲良くしろよ」

と最も近くに居たモンモランシーでさえ、気付くか気付かないかという程度の声量で呟いたのが彼女の耳に届いた。
ハッとして後ろを振り向くと、ルイズが荒れ狂う大波の様な形相で、アトリを大声で呼びつけていた。
今まで大勢の人を圧倒し続けた者が、遥かに小柄なルイズに成す術も無く怒られている。


そんな光景を見てモンモランシーは呆気に取られたのちに、不意にその表情に微笑みを取り戻すのだった。



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