あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

最終話 無惨の宴本番直前


 ヒビの入った窓ガラスあり、外れかけた窓枠あり、煤けた絨毯あり。周辺に漂うは新鮮な
生ゴミの悪臭。美の体現と謳われたプチ・トロワが見事な廃墟に変身していた。元が美しか
っただけに、今のプチ・トロワは化け物小屋もかくやの無惨な雰囲気を醸し出している。三
度の飯より度胸試しが好きな向こう見ずの若者でもなければ、ここに踏み込もうとは思うまい。

「この辺で壷が割れてるってのもいいね」
 廊下の調度品を叩き落して砕き割る。
「あとはそこに蜘蛛の巣を張っときな」
「蜘蛛の大きさはどうする?」
「親指くらいの胴体があればいい。シャルロットがきたらにっこり笑ってやれ」
「オッケー」

 今日のプチ・トロワは慌しくも小うるさい。ただしイザベラ以外の人間は締め出され、小
さな生き物達でごった返している。衣装や小道具を運ぶもの、舞台作りのために金槌を振る
うもの、発声練習をするものから台本を読み直すものまで皆がバラバラに動いていた。
 そんな中を通り抜けながらイザベラは指示を与えていく。

「不測の事態が起きなきゃいいけど。大丈夫かなあ」
「全部が全部台本通りにやる必要はないからね。空気読んでアドリブ入れたっていいんだ。
意味ありげな恐ろしさを含ませていて、やたらと考えさせるようなセリフならそれでいい」
「俺、騎士の真似なんてできるかな……」
「騎士じゃないやつが騎士の真似してるなんて、それだけで相手が不信がる。そうなりゃし
めたもんさ」
「このシャンデリア、落ちたりしないだろうな」
「ここの建設にいくらかけたと思ってるんだい。お前の一匹や二匹で落ちるほどやわなシャ
ンデリアじゃない。せいぜい上で暴れてやりな」
「あのさ……」
 絨毯の表面におうとつが浮かび、よじれ、変形し、ぼんやりと使い魔の顔を形成した。

「これ言うと怒られそうだけど、でも今言わなきゃもっと怒られそうだから言うけど」
「なんだい回りくどい言い方して」
「俺の上をシャルロットが通るんだよな?」
「そう、お前は他の連中のフォローをするんだ。言葉に詰まったりとちったりするやつがい
たらシャルロットの足でも引っかけてやれ」
「それが問題なんだよ……」
 その表情は不安でゆがみ、ため息は海溝の底よりも深く、心なしか絨毯全体が縮んでいる。
ゆがんだ表情に引きずられたか、総責任者であるイザベラも眉をひそめた。

「何が問題だ。修正がきくことなんだろうね?」
「それはとてもデリケートな問題というか……シャルロットって女の子なんだよな?」
「一応は」
「かわいいって聞いたけど」
「わたしほどじゃない」
「スカートをはいてるんだって?」
「あんまり意識したことはなかったけど大抵そうかな」

 深く深く、まだ深く、海溝の底を抜けて三十リーグは掘り進めたほどのため息をつき、
「イザベラほどじゃないにしてもかわいい女の子がスカートはいて俺の上を通ると」
「それの何が問題だ」
「大問題だ! そんなことされてフォローすべき事態が起きるまで動くなとか……どんな生
殺しだよ!? ああ、いざ本番になったら絶対目玉作って上を見るね! だって見たいもん!」

 今度はイザベラがため息をつく番だった。他の使い魔は絨毯の言い分に深く首肯し、
「もっともだ。全力でもっともだ」
「すんげー説得力だな。俺だってそう思うよ」
「スカートはいてる女の子が上通ったら見るのが礼儀ってもんだよな」
「いや、踏まれるだけでもけっこうなご褒美だと思うんだが」
「ていうか俺が絨毯役やるべきじゃないか?」
「いやいや、ここは俺が」
 などと好きなことを言っている。


「お前らいつまでくっちゃべってる! さっさと持ち場に戻れ!」
 プチ・トロワの青い稲光と恐れられた、ぐずった赤ん坊も息をのむ恐怖の大喝、使い魔達
は蜘蛛の子云々で例えられる態で散っていく。あとには一枚の絨毯のみが残された。
 イザベラは絨毯の胸倉(?)を掴み、ドスのきいた声色を一言一言搾り出す。

「小汚いスカートの中身を見たいがために任務を放棄する?」
「い、いや、スカートの中身ってのは神秘のヴェールに彩られたファンタジー的な……」
「黙れ」
「う……はい」

 衝動を押さえ切れなかった絨毯が計画外の行動を起こし、本部で監視していたイザベラが
ぶち切れ、それをなだめるため本部詰めの使い魔達が右往左往し大混乱になる。
 こんな未来図を思い描き、即座に振り払った。予定外、予想外、計画外、想定外、外がつ
くものはなるだけ排除する。いっそ絨毯の配役を変えるか。しかし誰を絨毯役にしても人格
というか個性は変わらない。ならば絨毯を廃してしまうか。だがいざという時フォローでき
るものを用意しておきたい。

「お前には期待してる……間違ってもわたしの信頼を裏切ったりしないように。仕事中はず
っと監視しているから気ぃ抜いたりするんじゃないよ」
「ははは……もちろん頑張るよ……」
 脅しをかけるだけでは不十分かもしれない。いざという時のため、さらなるフォロー役と
して、案内の騎士あたりに含ませておくべきだろう。絨毯の問題についてはそれで充分だと
考え、イザベラは先を急いだ。足を止めている時間はない。

 各所に指示を出し、廊下を進み、おかしい箇所はないか最終確認をしながら本部の前を通
り、居室に出向く。今回の作戦本部は物置であり、居室は舞台の一部となる。不自由でもそ
んなことで文句を言う軟弱者はイザベラ含め誰もいなかった。

「お前ら、セリフはちゃんと覚えただろうね?」
「もちろん。そう数は多くないからこのババでも大丈夫さぁ」
「がんばるよ!」
「ふひひ……オレっちに不可能はねえってな」
「あたしらにかかっちゃさすがのシャルロットも形無しさ」
「ほっほっほっほ。楽しみじゃのう」

 老婆、少女、詐欺師に踊り子、老魔法使い。皆すでに役割に入っていた。付け焼刃の演技は
たかが知れている。かろうじて棒読みではないというレベルで、玄人と比べなくとも立派な大
根だ。だがイザベラはあえてそこを活かそうと考えた。「人間ではない何者かが人間を演じて
いる」という状況は考えるだに恐ろしい。

「我ら皆殿下に剣を捧げた身。この魂尽き果てるまで忠誠を誓いましょうぞ」
 知らない人間しかいないよりも、一人だけ知人が混ざっている方が不気味に思える。しか
もその知人がまるで別人のような言動をとったらなおのことだ。そんな理由から、騎士団長
本人のあずかり知らぬところでカステルモールを混ぜてみた。

「俺の出番まだこないの?」
 白布の下にはイザベラの首が待機している。自分の首を作るという体験は気色のいいもの
ではなかったが、気色悪い思いをするのはシャルロットも同じことだと我慢し、本番のため
毎日少しずつ溜め、保存してきた自分の血液を振りまいた。
 相手は荒事の専門家、牛馬や豚の血でお茶を濁し、ドッキリを見抜かれては全てが水の泡
だ。多少の痛みや面倒や貧血はぐっとこらえ、あらゆる面をあらゆる意味でを徹底させる。
「なに、もうちょっと待ってな。すぐに出番がくる」
 冠を脱ぎ、部屋の中央に突き立てられている藁人形の頭に被せた。これで誰がどう見ても
イザベラを模した案山子の出来上がり。


 開き直りにも似た……むしろ開き直りそのものの決意とともに作戦を練り直した。今回の
コンセプトは「かつてのイザベラならやりそうにないこと」だ。イザベラが何をしたいかは
極力考えず、シャルロットを引っかけることのみに全てを傾注した。荒れ果てたプチ・トロ
ワ、漂う生ゴミの匂い、みっともない騎士もどき、そして仕上げはこの案山子。暗君、道化
であることを自ら認めるような真似を、プライドに凝り固まったイザベラがやるだろうか。
絶対にしない。
 シャルロットにそう思わせればイザベラの勝ちだ。まず勝つこと。形は問わず、とにかく
勝つこと。勝たなければ何も始まらない。卑屈でなく、傲慢でなく、純粋に勝利を求める。

「よし、こっちも準備できたぜ。この二つがなきゃ始まらないからな」
「ああ……それか。それは別にどうでもいいような……」
「違う! これが! これこそが大事なんだよ! ドッキリといえばヘルメットにプラカー
ド! これが無いドッキリはぜぇーったいに認めん!」
「これが大事ねぇ……」

 鉄製のつるりとした巨大な兜。使い魔曰くヘルメットという作業用の防具だそうだ。
 そして同じく巨大な棒杭にくくりつけられた板切れ。こちらはプラカードと呼ばれ、宣伝
や入場行進で使われるらしい。
 どちらもドッキリとは関係ないように思えるが、伝統的な意味合いがあるという。

「ヘルメットをかぶり、プラカードを見せつけて、これでようやくドッキリが完成するんだよ」
「そんなもんかね……ところでそのプラカード……だっけか。この模様、呪いか何かか? ど
ういう意味があるんだい? 妙におどろおどろしいが……呪詛の文句とか?」
「どう見ても『イザベラちゃんのマル秘ドッキリ計画大成功! 笑って許してシャルロット
ちゃん』だろ。なんだよイザベラ、ニホン語読めないなんて言わないだろうな」
「……」

 みっともいい内容とは言いがたいが、使い魔の言語をシャルロットが解読できるとは思え
ない。本人も妙なこだわりがあるようだし、放っておいた方がよさそうだ。

「……それはともかく。ドッキリで怯えきったシャルロットが逃げ出すってこともあるだろ
う。そんなことになれば……当然なるだろうけど、そうなればプラカード見せることなんて
できないじゃないか」
「ふん、そんなアクシデントにめげる俺じゃないね。追いかけてってドッキリだと伝えるよ」
「あいつの使い魔風竜だぞ。追いつけないだろ」
「竜だった俺と一緒にすんなよ。今の大きさならマッハでビュンと跳んでいくさ。流星だって
食っちまうトップスピードを教えてやるぜ」
「ふうん。ま、追いかけるんならせいぜい笑顔でいくことだね。トドメ刺しに跳んできたな
んて思われたら一層逃げられるから」
「ヘルメットかぶってプラカード持ったやつが何をトドメ刺すってんだよ。ありえねーだろ」
「ありえないことがありえるから困るんじゃないか。よしお前ら、最後のリハーサルだ!
本番同様気合入れてやるんだよ!」
「おおおおおおおおおおっ!」

 使い魔達があげたときの声はプチ・トロワだけでなく、グラン・トロワ、リュティス全体
を大きく鳴動させた。プチ・トロワから追い出され、グラン・トロワの洗濯場で山と積まれ
た洗濯物の相手をしていた召使いの少女は、プチ・トロワの方に目をやり、納得した様子で
何度も頷いた。 

「やっぱり仲良しよね、殿下と使い魔さん」






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