あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

零姫さまの使い魔 第一話



「あっしは【手の目】だ
 先見や千里眼で酒の席を取り持つ芸人だ

 と言っても 今回 この場に居るのは商売のためじゃねぇ
 我ながら ドジな話もあったもんさ
 山中で道に迷った挙句 足を踏み外して谷底に真っ逆さま
 気がついて辺りを見渡せば 頭上にゃ双つのお月さんと来たもんだ
 流石のあっしもぶったまげたよ

 見たところ…… どうやら地獄ってワケでもなさそうだが
 周りのガキどもの妙ちきりんなカッコと言い なんだかイヤな感じさ
 厄介な事にならなきゃいいがね……」 

「アンタ…… さっきから 何をブツブツ言ってんのよ」

辺りの沈黙に耐えかね、桃色髪の少女が口を開いた。
【手の目】がこの地、トリステイン魔法学院に降り立ったのは、彼女・ルイズ=フランソワーズの魔法によるものであった。
周囲は一言も発しない。ただその視線を、少女の一挙手一投足に向けて固まっている。

そもそも今回の使い魔召喚の儀式において、初歩的な魔法すら碌に使えない少女
【ゼロ】のルイズが何を呼び出すのかは、ちょっとした話題の種であった。
失敗したり、変なものを呼び出したりした時には、即座に笑い物にしてやろうと、野次馬根性を発揮していた彼らだったが
召喚に応じたソレは、軽く笑い飛ばすには、あまりにも奇抜な存在であった。
ルイズは一歩踏み出すと、改めて自らの使い魔を見定めた。

年の頃は13、4と思われる小柄な少女。
人間を召喚したというだけでも十分異例の事態なのだが、その外見が又ふるっていた。
東方の物と思しき民族衣装は、目のような不気味な模様で無数に彩られ、蝶結びにした太い帯でまとめられている。
クセの強い黒髪は、短剣のように無骨な髪飾りで結いあげられ、見る者に、あまりにサバけた印象を与えた。
加えて、背丈に対し大仰すぎる黒マント、手には風呂敷を結わえたオンボロ傘。
旅人と言うにも異形なナリであったが、同時に、その異形さこそ、今のルイズに残された唯一の希望でもあった。

やがて、意を決してルイズは彼女に尋ねた。

「あなたは…… あなたは メイジ なの?」
「めいじ・・・・・・?」

その言葉の意味を反芻するかのように、手の目が口を開く。
かざした右手の指の間から、猫のような大きな吊り目がルイズを捉える。
一体何の意味があるのか、掌には着物と同じ【目】をあしらった模様の刺青。
まるで、彼女の右手に値踏みされているかのような感覚に、思わずルイズが身震いする。

「ああ……」
やがて、得心がいったという面持ちで、手の目が言葉を紡ぎ始めた。

「いや…… そんな立派なもんじゃあないね
 あっしは手の目 先見や千里眼で酒の席を取り持つ芸人さ」

「芸人……」

一縷の望みを断ち切る響きに、ルイズが肩を落とす。
奇抜な衣装も人目を引く手段と考えれば、納得のいく答えであった。
程なく、哄笑が周囲に溢れはじめた。

「ルイズが平民を召喚したぞ!」
「おいおい なにやってんだ ゼロのルイズ」
「いくら魔法が使えないからって 芸人なんて雇うかね 普通」
「ルイズに幾ら貰ったんだい? お嬢ちゃん」


喧騒は一向に止む気配を見せない。
緊張が続いた分、ルイズへの当て擦りは酷くなる一方だった。
手の目はいかにも不機嫌そうに目を細め、無言で周囲を睨みつける。

ふるふると小刻みに震えていたルイズであったが、やがて、きっと顔を上げ、傍らにいた年配の男に何事が喚きだした。

「…直しを… コルベール… こんなの何かの間違い…!」
(こんな とは何だ)

途切れ気味に聞こえてくる声に、手の目が心中で毒付く。
どうやら必死の抗議も通じなかったらしい。大きく溜息をつくと、ルイズは手の目と向き合った。

「手の目って言ったわね?」
「……」
「感謝しなさいよね 貴族のあたしが平民にこんなことをするだなんて
 本来なら 絶対にありえない事なんだから……」

手の目は口を利かない。例の右手をかざす仕草で、只々ルイズを睨みつけている。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
 五つの力を司るペンタゴン
 この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

幾分緊張した面持ちで、ルイズは瞳を閉じ、顔を近づける。手の目は身じろき一つしない。

やがて、ルイズの唇が、手の目の口元にゆっくりと重ねられた。

「――ッ!」
すぐにルイズは違和感に気付いた。
即座に顔を上げ、眼前の少女に対し、怒気を露わにする。

「ア アンタ! 一体何のつも――」
「ぐっ!」

ルイズの抗議を遮り、手の目が呻き声をあげる。
痙攣する左手の甲が瞬き、何らかの印が刻まれていく。

「おお 間違いなく 使い魔の契約のルーン
 ……それにしても これは 見たことの無い紋様ですね」

コルベールと呼ばれていた男は素早くメモを取ると、コンタクト・サーヴァントが無事に終了した事を確認した。

「さあ これで使い魔召喚の儀式は終了です
 本日はここまで 各自 速やかに退散するように」

男の一言に、徐々に周囲の喧騒が収まっていく。
口々にルイズの悪態をつきながらも、やがて、全員が上空へと飛び立っていった。

――そして広場には、二人の少女だけが残された。

「……アンタは飛ばないのかい?」

使い魔になったばかりの少女は、主人になったばかりの少女に対し、本日一番の毒舌を浴びせた。


――夜

ルイズの部屋の中では、生まれたての主従による問答が繰り広げられていた。

「――すると手の目 アンタはここ
 ハルケギニアとは全く別の世界から来たって言うの?」

「その通りさ お嬢 そもそも手前の生国は……」

「どうでもいいわよ そんな事 下らないホラばっかり吹いて」

髪を掻き上げながら、ルイズがひとつ溜息をつく。
手の目の話は、彼女からしてみれば厄態のないホラ話ばかりに思えた。
そもそも、手の目は異世界から来たと言いながら
二つの月や空飛ぶ人間に対し、何の反応も示さないのだ。
魔法の無い世界から来たなどと言うからには、もうちょっと驚いて見せてもいいではないか。

「それで アンタは一体 何が出来るの?」

「何が? と言われても あっしはそもそも 何をすりゃあいいのか判らねえ
 お嬢 使い魔ってのは 一体何をするもんなんだい?」

「そうねえ……」

ルイズはしばし考え、使い魔の役目を挙げていく。

「例えば 主人と感覚を共有するとか……」
「ああ そりゃ無理だ
 あっしが言うまでも無く 自分で判ってるだろうがね」

「それじゃあ 秘薬を作るための材料を集めてくるとか」
「それも無理だね 材料がどうこう以前に あっしはこの世界自体がよく分からねえ」

「……あとは 主人の護衛とか」
「無理無理 この細腕にそんなモンを期待されても困るね」

「……」

暫く使い魔の少女を睨んでいたルイズだったが、やがて、大きくため息をついて言った。

「あんた 何か一つくらい取り柄はないの?
 まるっきり役立たずじゃないの」

その一言は、ルイズにとっては、先の暴言に対する意趣返しのつもりであった。
だが、手の目はまるで、その言葉を待っていたと言わんばかりに、不敵に笑った。

「あっしは芸人だ 宴席での余興ならお手のもんでさ たとえば……」

手の目はおもむろに左手を差し出すと、未だ淡い輝きを放つ甲に、右手の刺青をかざした。
直後、ルーン文字がビクンと痙攣し、その線の一本一本が、まるでミミズのようにのた打ち始めた。
やがて、輝きを失ったよれよれの線が、バラバラと崩れ出し・・・・・・、

「あッ!?」

と言う間に消え失せてしまった。


「ハイ拍手! 文字通り 影も形も御座いやせん」
「な! な な なんで? 使い魔の証が……」

「そりゃあ消せるさ あっしが自分で書いた文字だ 手前に消せない訳がない」
「自分で……書いた?」

ルイズの唇に、先の感触が蘇る。
契約の瞬間、手の目は自らの唇を口内に咥え込んで、ルイズの口づけを拒絶したのだ。

成程、コルベールが珍しがる筈である。
手の目のルーンは、彼女自身が適当に刻んだ代物だったのだから・・・・・・。
衝撃の大きさに耐えかね、ルイズは力無くその場にへたり込んだ。

「も もしかして 先住魔法・・・・・・な の? アンタは何者……人間ではないの?」

「先住? 何だいそりゃあ
 あっしのはあくまで芸だ 化け物扱いたァ失礼じゃねぇか」

「同じ事よ」

ルイズが憮然として言う。
大いなる始祖・ブリミルが残した遺産――魔法とは異なる力を行使する存在を
この世界に住まう人々が、同胞と認めることは無いだろう。
そのような者があれば、研究対象としてアカデミーに引き渡されるか、エルフの亜種として審問にかけられるのがオチだ――と。

「そいつはおっかねぇ話だねぇ
 で? それで お嬢はどうなさるんで?」

「へっ?」

「名門ヴァリエール家の令嬢が 使い魔召喚の儀式に失敗した上
 何処の者ともつかねえ あやかしの類に一杯喰わされたと・・・・・・ そう お上にチクるのかい?」

「・・・・・・私を脅すの?」

「脅すとは何でぇ! 人聞きの悪い
 大体 手前らの方こそ何だってんだ! 人様の事情も聞かずにかっ攫いやがった挙句 
 乙女の純潔を奪って 手篭めにしようとしやがったクセによぉ!」

「んなっ! 何ですって!?
 好き勝手言ってんじゃあないわよ! 私だってねぇ・・・・・・」

初めてだったんだから! と、思わず言い返しそうになり
その台詞の余りの恥ずかしさに、反論が止まる。

勿論、ルイズの方にも言い分はある、が、どうにも立場が悪い。
ここで騒ぎを大きくすれば、ヤケっぱちになった手の目は何をしでかすか分からない。
守るべき家族のいるルイズには、ハナから勝ち目のない喧嘩であった。

しばし、一触即発といった空気が続いていたが、
不意に手の目が、一目で営業用と分かる、愛嬌たっぷりの笑顔を見せた。


「へへ なんてな」

「何よ 急に・・・・・・」

「考えてみりゃ お嬢は命の恩人さ
 あっしもこんな 右も左も分からねぇ国でイキナリおっ死ぬってなぁ まっぴら御免だ
 当面のアテがつくまでは お嬢の使い魔の真似事をしたって構わないぜ」

「・・・・・・本当に」

「ちゃんと『真っ当な』扱いをしてくれるんならね」

ああ、とルイズは理解した。
これまで手の目が、騙し、脅し、怒鳴って見せたのは、
つまるところ、ちゃんと人として自分に向き合え、という、当たり前の事を言いたかっただけだったのだ。
ルイズは既に、手の目への疑惑を放棄していた。
その能力の得体の知れなさはともかく、ここまで手の込んだ事をしてまで小事に拘る少女が、人類の敵とは思えなかった。

「分かったわ アンタには当分 あたしの女中として働いて貰うわ
 その代わり 仕事に手抜きは許さないわよ」

「へぇ」

手の目は表情を改めると、真面目ぶった動きで三つ指を突き
やたら仰々しい前口上を述べ始めた。

「此度はあっしをお引き立て頂き 真に有難う御座いやす
 この手の目 ルイズお嬢様が使い魔の役目 出来る限り誠心誠意務めさせて頂きやす
 どうぞ 宜しく御贔屓の事を」

「・・・・・・出来る、限りィ?」

「へぇ」

手の目は右の掌をかざし、何事か考えているようだったが
やがて、心底意地の悪い笑みを浮かべて言った。

「まぁ 朝の着替えくらいは 出来れば一人でやって頂きたいところでは有りますがね・・・・・・」 




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